★阿修羅♪ > 経世済民80 > 607.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
緩和出口めぐるFRB当局者発言、市場の不安定化招く可能性=IMF:投機活動へのチェックなのだから狙い通り
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/607.html
投稿者 あっしら 日時 2013 年 6 月 25 日 23:54:12: Mo7ApAlflbQ6s
 


緩和出口めぐるFRB当局者発言、市場の不安定化招く可能性=IMF
2013年 06月 25日 21:10 JST

[パリ 25日 ロイター] - 国際通貨基金(IMF)の首席エコノミスト、オリビエ・ブランシャール氏は25日、米連邦準備理事会(FRB)当局者による緩和縮小に関する発言が世界の金融市場を不安定化させる可能性があるとの見解を示した。その上で、最近の市場の動きは誇張されていると指摘した。
国際金融協会(IIF)の会合で述べた。

バーナンキFRB議長は前週、米経済が予想通り改善すれば年内に債券買い入れを縮小し、来年半ば頃までに終了するとの見通しを示した。これを受け、各国で株価や債券価格、商品(コモディティー)相場が軒並み急落した。

ブランシャール氏は「(世界)経済は回復途上にあり、量的緩和(QE)の出口のスピードが肝心だ」とし、「概念上は基本的にそれほど難しくないが、どのように進めるかをめぐる意思疎通の問題があり、それがボラティリティを生じさせる。ただ、ここ1週間に見られたボラティリティは行き過ぎだ」と述べた。
また「FRBは資産売却を開始した場合に何が起きるか見当がつかないため、(緩和の)量についてコミットすることはできない」とも指摘した。

IMFは今月公表した米国に対する年次審査報告で、FRBは少なくとも年内は継続する必要があるとの見方を示している。

© Thomson Reuters 2013 All rights reserved.

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE95O00820130625


 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
01. 2013年6月26日 01:05:56 : 7uhtIH2Ztw
出口戦略を言い出したのは、景気回復したからではない
これ以上FRBが負債を持つのを回避するためだ
FRBはすでに天文学的な負債を抱えており、常識的に言って
返済は不可能で人知を超えてた問題だ。

それを景気回復だのと絡めて解決したかのように言うのは
詐欺的まちがい


02. 2013年6月26日 01:07:45 : e9xeV93vFQ

自然実験によって明らかになるQEの事実
以下は、 David Beckworth “What the Great Natural Experiment Reveals About QE“(10 June, 2013)の訳です。誤訳等ありましたら御指摘頂けると幸いです。
なお、元記事コメント欄で記事本文のグラフと異なるグラフ(参照先はセントルイス連銀)をコメントしている人がいましたので、記事を読み終わった後に二つのグラフを比べてみるのもいいかと思います。
6月11日追記:山形浩生氏、optical_frog氏のコメントに基づき、最終パラグラフを修正
とある自然経済実験が明らかになりつつある。これは僕なんかがこれまで話してきたようなQE3対アメリカ財政緊縮の論争ではない。これはアメリカ対ユーロ圏における、それぞれの経済で行われている異なった政策「対応」に関するものだ。Jim Pethokoukisはこう書いている。
私たちは非常に興味深い自然経済実験を目撃している。二つの大きな先進国経済が歳出削減と増税による財政緊縮下にある。しかし、片方はゆっくりとではあるが先の沈滞期からは回復しつつあり中で、もう片方は悪化し続けている。
これをうまく説明しそうな(訳注;両国の)違いは、金融政策だ。FEDは2008年に短期金利をゼロ近傍まで引き下げるだけでなく、量的緩和として知られる大量の資産買い入れプログラムに乗り出した。欧州中央銀行(ECB)はしかし、つい先月0.5%に金利を下げたが、フェデラルファンドレートより依然として高い。そしてECBの「非伝統的」金融政策は遥かに控えめで、FEDの1/10も債券を購入していない。その目標すら(訳注;FEDと比べて)さらに限定されたものだ。すなわち、南ヨーロッパの債券市場を安定化させ、金融危機を防ぐというものだ。ドイツ・フランクフルトにおける最近のスピーチで、セントルイス連銀のJames Bullard総裁は、ヨーロッパは積極的な資産買い入れプログラムを採用しない限り、1980年代からの日本が経験したように低成長とデフレを長引かせるリスクを負うことになると述べた。

次の図にある二つの異なるNGDPパスは、この政策対応によって理解できる。

不思議に思うのは、どうすればこの実験の結果を見てFEDの大量資産買い入れプログラム(large scale asset programs:LSAP)が役立たずだと主張することができるんだろうかということだ。ある人たちは、LSAPsは良くてお金持ちを助けるだけで、デフレ的な可能性すらあると主張する。しかし、FEDのQEプログラムがなければ、今よりもどれだけ失業が多かったかを想像するのは難くない。Pethokoukisが書いているように、ヨーロッパの失業率を見るだけで十分だ。そう、LSAPは理想的なものからは程遠いけれども、アメリカの国民をヨーロッパのような失業に晒すことを防いでいる。換言すれば、QEはアメリカにおける普通の労働者の生活を助けている。そして、ECBがもっとFEDの行動をもっとしっかりと真似していれば、その生活が守られていただろう普通のヨーロッパ人労働者がたくさんいる。
この自然実験による結果をみれば 批判者たちは立ち止まるしかないだろう。そして安全資産の供給の下支えに貢献している事実についても同様だ。遅い回復をFEDのLSAPsのせいにする批判者たちはどう考えても正しい(そんなものがあればの話だが)反事実的な推論[1]を行ってはいない。
1. 訳注;起こらなかったことの仮定。いわゆるたられば。ここではFEDの緩和がなかったとしたらどうなっていたかの意 [↩]
http://econdays.net/?p=8442


 

http://econdays.net/?p=8476
「FEDの職務怠慢」 BY DAVID BECKWORTH
以下は、David Beckworth, “A Dereliction of Duty”(Macro and Other Market Musings, May 17, 2012)の訳。
マーケット・マネタリストは長らくこう主張してきた。「名目GDP水準目標(NGDP level target)は名目所得の期待成長経路(名目所得の期待伸び率)に対する確固たるアンカーを提供する(将来の名目所得の伸びに関する安定的な見通しを与える)」、と。そして、家計や企業は将来を見据えて(フォワードルッキングに)意思決定を行うので、名目所得の期待成長経路に対する確固たるアンカーが提供されることになれば足許の(現時点の)名目支出も安定することになるだろう、とも語ってきた。例えば、富の水準を一定として考えると、将来の名目所得が減少すると予想される場合には、家計は新車の購入や住宅の改修を控えることになるだろう。反対に、将来の名目所得が増加すると予想される場合には、家計は新車の購入や住宅の改修を積極的に進めるだろう。スコット・サムナー(Scott Sumner)が好んで「金融政策は長くて可変的な(ラグではなく)リード(long and variable leads)を伴って働く」と語る理由もまさにここにある。このようなマーケット・マネタリストの理解に基づくと、現在名目支出が危機以前のトレンドを下回り続けている理由は、Fedが期待名目所得を危機以前の経路に戻すことに失敗したからだ、との示唆が得られることになる。言い換えると、Fedによる受動的な金融引き締め(拙訳はこちら)がその理由だ、ということになろう。
かつて私はこのマーケット・マネタリストの見解に支持を与えると思われる証拠を提示するためにSPF(Survey of Professional Forecaster;経済学者によるマクロ経済予測のサーベイ)のデータを利用したことがある。しかし、Evan Soltasが紹介しているように、名目所得の期待成長経路を測定する別の指標が存在しており、この指標もまたマーケット・マネタリストの見解にさらなる支持を与えるかたちとなっている。そのデータは、ロイター/ミシガン大学による消費者調査でのとある質問に対する家計の回答から得ることができる。その質問では、今後12か月の間に世帯所得がどの程度変化すると予想されるかが問われている。以下の図では2011年10月までの回答結果が示されている。

Source: Thompson Reuters/University of Michigan
この図によると、大平穏期(Great Moderation)の大半の期間を通じてFedは将来の名目所得の期待伸び率を5%近辺に安定させることに成功している[1] ことがわかる。これは注目すべき成果である。しかし、この図はFedによる大いなる失敗もまた明らかにしている。この図によると、2005年後半から名目所得の期待伸び率が徐々に低下し始め、2008年に入ってその低下ペースが急激に加速していることがわかる。図で表示されている期間に関する限りは、名目所得の期待伸び率がこれほど低下した例はかつてない。しかし、それ以上に厄介なのは、名目所得の期待伸び率がそれ以降低い水準で横ばいを続けていることである。Fedが名目所得の期待伸び率をかつての標準的な水準にまで引き戻すことに失敗しているわけである。名目所得の期待伸び率が大きく落ち込んでいることを考えれば、家計がデレバレッジ(債務の圧縮)に臨み、異常なほどの流動資産を貯め込んでいるとしても何も驚くことはないだろう。

Source: Thompson Reuters/University of Michigan, New York Federal Reserve Bank
ロイター/ミシガン大学の消費者調査データを利用した最近のとある研究では、名目所得の期待伸び率を安定させることの重要性をさらに裏付けるような発見がなされている。その研究というのは、シカゴ連銀のエコノミストであるMariacristina De NardiとEric French、そしてDavid Bensonの共著論文 “Consumption and the Great Recession”である。この論文では、期待名目所得ならびに富の変化が総消費支出(マクロ全体でみた消費)に影響を及ぼす上でどれだけの重要性を持っているかが検討されている。この論文で明らかにされている発見の中でもとりわけ目を引くのは、過去数年にわたり名目所得の期待伸び率がすべての年齢層、すべての教育レベル、すべての所得階層で落ち込んでいる、という点である。つまり、名目所得の期待伸び率の落ち込みは特定の部門に特有の(構造的な)現象ではない、ということである。また、この論文では、名目所得の期待伸び率の落ち込みが今回の大不況(Great Recession)下における総消費の低迷の重要な決定因であったことも発見されている。
ロイター/ミシガン大学の消費者調査から得られるデータとシカゴ連銀のエコノミストによる研究、そしてかつての私自身によるエントリーはいずれも、Fedが期待名目所得を適切に管理することがいかに重要であるかを示唆している。期待名目所得の管理という基準に照らすと、これまでFedは職務を怠ってきたと判断せざるを得ない。そろそろFedが自らの失敗を認め、名目所得の期待成長経路に対して確固としたアンカーを提供する(名目所得の期待伸び率に安定的な見通しを与える)アプローチの採用に踏み出すべき時である。今こそ名目GDP水準目標を採用すべき時なのだ。
(追記)シカゴ連銀総裁であるチャールズ・エヴァンズ(Charles Evans)が名目GDP水準目標の支持者に転向する上で件のシカゴ連銀のエコノミストによる研究がおそらく幾ばくかの影響を与えたに違いない。
1. 訳注;家計が今後12カ月の間に名目所得が5%のペースで上昇すると予想している [↩]

 

http://econdays.net/?p=8451
「予想インフレ率を測る新たな指標 〜日本の予想インフレ率の動きを辿る〜」 BY BENJAMIN MANDEL AND GEOFFREY BARNES
以下は、Benjamin Mandel and Geoffrey Barnes, “Japanese Inflation Expectations, Revisited”(Liberty Street Economics, April 22, 2013)の訳。
金融政策がその仕事を果たしている(成功している)かどうかを測る重要な指標の一つは、インフレ期待を安定化させる(インフレ期待にアンカーを与える)中央銀行の能力である。なぜなら、インフレ期待は実際のインフレの動向に影響を及ぼすからであり、それゆえ(中央銀行に課せられた)インフレ目標が達成されるかどうかを左右することになるからである。このことは特に日本経済に関して重要な意味合いを持っている。日本では1994年以降CPI(消費者物価指数)で測ったインフレが度々マイナスを記録しており、さらには将来のインフレに関する期待(予想インフレ率)は長らくマイナスの領域にとどまったままだ(つまりは、デフレの継続が予想されている)と広く考えられている。このエントリーでは、日本における予想インフレ率を測る新たな指標−購買力平価のアイデアに依拠した、市場データに基づく指標−を取り上げ、その評価を行う。詳細は追々触れることになるが、その指標によると、ここ最近の日本の予想インフレ率は過去3年間におけるピークの水準を大きく上回る結果となっている。
ここで簡単ながら関連する背景情報を提供しておこう。つい最近のことだが、日本銀行はインフレ期待にスポットライトを当てた政策行動に踏み出した。去る4月4日、日本銀行は量的・質的緩和(Quantitative andQualitative Monetary Easing ;QQE)と呼ばれるプログラム(pdf)(日本語はこちら(pdf))の導入を宣言し、マネタリーベースの拡大を促すために資産の買い入れ額を劇的に増やすとともに、(満期が長めの資産の買い入れを進めることで)バランスシート上で保有する資産の満期を延長する旨を約束したのである。日本国債の名目利回り(名目金利)は既に極めて低い水準にあることを考えると、今回導入された量的・質的緩和プログラムが成功を収めたと言えるかどうかは、予想インフレ率が日銀の掲げる2%の物価安定目標に近いところまで上昇し、その結果として実質金利が低下するかどうかによって判断されることになるだろう。
いかにして予想インフレ率を測るか;予想インフレ率を測る既存の指標
日本の予想インフレ率はいかにして測ることができるのだろうか? この問題に関しては次のようなコンセンサスが存在する。それは、日本の予想インフレ率を測る上で頼りになる指標は存在しない、というものである。アメリカの予想インフレ率を測る際に通常よく利用される市場データに基づく指標は、普通国債と物価連動国債(TIPS)の利回りのスプレッド(差)から算出されるいわゆるブレーク・イーブン・インフレ率である。また、市場データに基づく他の指標としては、インフレスワップと呼ばれる店頭デリバティブの情報も利用されている。一方、日本の物価連動国債(JGBi)はマーケットでの取引が極めて少なく、近年になって発行残高の大半が財務省によって買い戻されたという事情もあって、物価連動国債のデータは日本の予想インフレ率を測る指標としてはあまり頼りにならないと見なされている。また、日本ではインフレスワップも市場の厚みの面で物価連動国債と同様の問題を抱えている。
予想インフレ率を測る指標には、 家計や投資家、経済予測の専門家らに対するアンケート調査に基づくものも存在する。しかしながら、そのようなアンケート調査での回答はバックワードになりやすい面がある。すなわち、回答の結果は将来的なインフレ予測[1] を反映するよりも実際の(直近の足許における)インフレ[2] に強く影響される可能性があるのである。ちなみに、市場データに基づく指標(ブレーク・イーブン・インフレ率(紫色の線)とインフレスワップ(赤い線))とアンケート調査に基づく指標(日経クイックサーベイ(青い線)と日銀による生活意識に関するアンケート調査(緑色の線))の推移を表したのが以下のチャートである。ここ最近になって、5年、10年先の予想インフレ率を測る指標がいずれも1%近辺に集中していることがわかるだろう。しかし、既に指摘したように、これらの指標から予想インフレ率の正確なサインを読み取ることができるかどうかという点に関しては多くのアナリストはそれほど信頼を置いてはいないことだろう。

購買力平価に基づく予想インフレ率の指標;予想インフレ率を測る新たな指標
以上のように、日本の予想インフレ率を測る既存の指標に関しては色々と問題があるわけだが、そこでここでは市場データに基づく別の指標にスポットを当てて日本の予想インフレ率の推計を試みることにしよう。以下では、アメリカの予想インフレ率−予想インフレ率を測るために利用される物価連動国債(TIPS)もインフレスワップもアメリカでは活発に取引がなされている−と購買力平価説に基づいて日本の予想インフレ率を推計する。筆者らが知る限りでは、日本の予想インフレ率を推計するにあたってアメリカの予想インフレ率や購買力平価が利用されることは滅多にないが、我々の判断ではこれらのデータやアイデアは物価連動国債(JGBi)やインフレスワップに代わる有益な情報を提供するものと思われる。我々のアプローチと類似した観点に立ったものとして、ゴールドマン・サックスによる調査(“The Market Consequences of Exiting Japan’s Liquidity Trap,” Global Economics Weekly 13/05, February 2013)−このレポートでは、日本の予想インフレ率を推計するにあたって、ドル円の先物為替レート(30年)が利用されている−が存在することはここで指摘しておこう。
ここで我々が利用する指標は購買力平価(Purchasing Power Parity;PPP)のアイデアに依拠するものである。購買力平価説によると、任意の二国間の名目為替レートはその二国間の物価水準の比と等しくなると考えられている。これまでの研究によると、購買力平価説は長期的な名目為替レートの動きを説明する上では比較的あてはまりがよく、中でも相対的PPPのあてはまりがよい−つまり、水準によるPPP(絶対的PPP)よりも変化率によるPPP(相対的PPP)のほうがあてはまりがよい−ことが知られている。相対的PPPによると、日本における将来の物価水準の期待変化率(≒予想インフレ率)は、アメリカにおける将来の物価水準の期待変化率に名目為替レート(ドル円レート)の期待変化率を加えたものに等しい(日本の予想インフレ率=アメリカの予想インフレ率+名目為替レートの期待減価率)、ということになる[3] 。ここでは、アメリカの予想インフレ率を測る指標として(物価連動国債(TIPS)のデータから算出される)アメリカのブレーク・イーブン・インフレ率を用い、名目為替レートの期待減価率の計算にあたってはドル円の先物為替レートを利用することにしよう。
購買力平価に基づいて求められる日本の予想インフレ率の推移を表したのが以下のチャートである。以下のチャートでは日次データを利用しており、2010年1月以降における5年先(赤い線)、7年先(緑色の線)、10年先(紫色の線)の予想インフレ率の推移がそれぞれ描かれている。予想インフレ率にシフトが生じているタイミングを見ると、予想インフレ率の動きは政策面での変化と関連があることが示唆されるだろう。それというのも、以下のチャートによると、過去3年間にわたり予想インフレ率は政策面での主要なイノベーション(新たな行動)の実施後にそれぞれピークに達していることが読みとれるからである。 2010年10月に日本銀行は「包括的金融緩和」(pdf)(日本語はこちら(pdf))に乗り出したが、その後予想インフレ率の上昇が引き起こされていることがわかるだろう。しかしながら、2011年の半ば頃までには予想インフレ率は包括的金融緩和が実施される以前の水準にまで低下することとなった。そして、2012年2月に日本銀行は「1%の物価安定の目途」(pdf)(日本語はこちら(pdf))を発表したが、その発表後再び予想インフレ率は上昇する−包括的金融緩和の実施後と比べると軽微な上昇ではあったが−こととなった。しかし、その数ヶ月後には予想インフレ率は再び元の水準(1%の物価安定の目途の発表以前の水準)にまで低下していることが見て取れる。最後に、つい最近の予想インフレ率の動きに目を向けることにしよう。2012年9月に自民党は安倍晋三を総裁として衆院選挙を争うことを決定し、12月に行われた選挙では自民党が勝利を収めることとなった。そして、安倍が新首相の座に就くことになり、いわゆる「アベノミクス」と呼ばれる政策レジームが始動することになったわけだが、アベノミクスを受けて予想インフレ率は上昇傾向にあることがわかる。以下のチャートによると、アベノミクス後の予想インフレ率は先程触れた過去2回のピークの水準を大きく上回る結果となっている。

頑健性のチェック
購買力平価に基づいて求められたこの指標の頑健性(ロバストネス)をチェックするためには、日本とアメリカのペア以外にも同様の手続きをあてはめてみてその結果を比較するという方法が考えられるだろう。上で求めた日本の予想インフレ率の指標の動きがアメリカと日本の金融市場に備わる特異な性質によって強い影響を受けていないとすれば、ドル円以外の先物為替レートやアメリカ以外のブレーク・イーブン・インフレ率を用いて日本の予想インフレ率を推計しても似たような結果となるはずである。アメリカ以外の国として真っ先に候補となるのはイギリスであろう。というのも、イギリスの物価連動国債のマーケットは比較的流動性が高いからである。そこで、先のケースと同じように購買力平価に依拠しつつ、ポンド円の先物為替レートとイギリスのブレーク・イーブン・インフレ率を用いて日本の予想インフレ率を推計した結果をまとめたのが以下のチャートである(以下のチャートでは、日本-イギリスのペアに基づいて求められた日本の予想インフレ率の推移(U.K.-PPP;緑色の線)とあわせて、日本-アメリカのペアに基づいて求められた日本の予想インフレ率の推移(U.S.-PPP;赤い線)も描かれている)。その水準に関しては必ずしも完全に一致しているわけではないものの、2010年以降の期間における両者(U.K.-PPPとU.S.-PPP)の相関は極めて強い−相関係数は0.66−結果となっている。

この指標の頑健性をチェックするためには、購買力平価に基づいてアメリカの予想インフレ率を推計し、その結果とアメリカのブレーク・イーブン・インフレ率とを比較するという方法も考えられるだろう。以下のチャートには、イギリスの予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率)とドルポンドの先物為替レートを用いて求められたアメリカの予想インフレ率(購買力平価に基づいて求められたアメリカの予想インフレ率;緑色の線)とアメリカのブレーク・イーブン・インフレ率(赤い線)とがプロットしてある。2012年の後半に両者のデータが時折乖離や収斂を見せてはいるものの、この2つの指標に関しても相関は極めて強い−相関係数は0.64−結果となっている。購買力平価に基づいて求められた予想インフレ率の指標は、アメリカの物価連動国債(TIPS)から算出される予想インフレ率の良い近似となっていることが示唆されよう。

要約しよう。購買力平価は日本の予想インフレ率を測る市場データに基づいた代替的な指標の作成を可能とする。この指標は、日本銀行によるここ数年の金融政策面でのイノベーションに極めて敏感な反応を見せてきたように思える。また、異なる期間(5年先、7年先、10年先の予想インフレ率)や異なる国のペア(アメリカと日本、イギリスと日本、アメリカとイギリス)でも似たような結果が得られることから判断すると、購買力平価は予想インフレ率を測る頑健な(ロバストな)指標の作成を可能とすると言えそうである。
おことわり;このエントリーで表明された見解はあくまでも著者らの個人的な立場からなされたものであり、ニューヨーク連銀やFRBにおいて著者らが占める地位を必ずしも反映するものではない。エントリー中に含まれる誤りや誤字脱字はすべて著者らの責任に帰する。
1. 訳注;将来的にインフレがどうなりそうかという予測 [↩]
2. 訳注;つい最近のインフレがどうであったか [↩]
3. 訳注;ということは、アメリカの予想インフレ率と名目為替レートの期待減価率とに関するデータがあれば、そこから日本の予想インフレ率を推測できる、ということを意味する [↩]


03. 2013年6月26日 01:17:14 : e9xeV93vFQ
「FEDの職務怠慢 〜まだ続いてます〜」 BY DAVID BECKWORTH

以下は、David Beckworth, “The Ongoing Dereliction of Duty”(Macro and Other Market Musings, April 23, 2013)の訳。

昨年のことになるが、私は次のように指摘した。ここのところFedは名目所得の期待伸び率の安定化に失敗しており、これは職務怠慢だ(拙訳はこちら)と言わざるを得ない、と。

我々マーケット・マネタリストは長らくこう主張してきた。「名目GDP水準目標(NGDP level target)は名目所得の期待成長経路(名目所得の期待伸び率)に対する確固たるアンカーを提供する(将来の名目所得の伸びに関する安定的な見通しを与える)」、と。そして、家計や企業は将来を見据えて(フォワードルッキングに)意思決定を行うので、名目所得の期待成長経路に対する確固たるアンカーが提供されることになれば足許の(現時点の)名目支出も安定することになるだろう、とも語ってきた。例えば、富の水準を一定として考えると、将来の名目所得が減少すると予想される場合には、家計は新車の購入や住宅の改修を控えることになるだろう。反対に、将来の名目所得が増加すると予想される場合には、家計は新車の購入や住宅の改修を積極的に進めるだろう。スコット・サムナー(Scott Sumner)が好んで「金融政策は長くて可変的な(ラグではなく)リード(long and variable leads)を伴って働く」と語る理由もまさにここにある。このようなマーケット・マネタリストの理解に基づくと、現在名目支出が危機以前のトレンドを下回り続けている理由は、Fedが期待名目所得を危機以前の経路に戻すことに失敗したからだ、との示唆が得られることになる。言い換えると、Fedによる受動的な金融引き締め(拙訳はこちら)がその理由だ、ということになろう。


このエントリーを執筆して以降、Fedは条件付きの[1] 資産購入プログラムであるQE3(第3弾の量的緩和)に踏み出し、期待の管理に改善をもたらすこととなった。確かにこのプログラムはこれまでよりも一歩前進したものと評価できるが、適切かというと決してそうは言い切れない。その理由は、ロイター/ミシガン大学の消費者調査におけるとある質問への回答結果から容易に見てとることができる。その質問では、今後12か月の間に世帯の名目所得がどの程度変化すると予想されるかが問われている。以下の図では2013年3月までの平均的な回答データが示されている。

ここのところの名目所得の期待伸び率の低下とその後の低迷ぶりには驚かされるばかりである。名目所得の期待伸び率が低迷しているために家計の足許の(現時点の)支出が抑えられる結果となっていると考えられるが、この点はシカゴ連銀のエコノミストであるMariacristina De NardiとEric French、そしてDavid Bensonによる論文ではっきりと明らかにされている。彼らは、データの入念な検討を通じて、過去数年にわたり名目所得の期待伸び率がすべての年齢層、すべての教育レベル、すべての所得階層で落ち込んでいる事実を発見している。つまり、名目所得の期待伸び率の落ち込みは特定の部門に特有の構造的な現象ではなく、システマティックな名目的な(nominal;あるいは貨幣的な)問題だ、ということである。また、この論文では、名目所得の期待伸び率の落ち込みが危機発生後の総消費の低迷の多くを説明することも見出されている。

しかし、問題はそれだけにとどまらない。この図によると、債務の実質的負担が危機発生以前に多くの家計が予想していた以上に増大することになったことも示唆されるのである。図中の点線を見てほしい。この点線は「大平穏期」(’Great Moderation’)における名目所得の期待伸び率の平均値を表しており、具体的にはその値は5.3%となっている。次のような状況を想像してもらいたい。時は2000年初頭から中頃にかけて、あなたは30年の住宅ローンを借りようとしている。どのような債務契約を結ぶだろうか? この選択における重要な要因の一つは、今後30年間にわたるあなた自身の名目所得の期待伸び率である。上の図によると、もしあなたが平均的な人物であったとすれば、今後名目所得はおよそ5%のペースで上昇を続けると予想したことだろう。しかし、現実はそうならなかった。家計の名目所得は落ち込み、今後も低迷を続けると予想されているのである。しかし、一方で債務の調整は速やかには進まず(こちらとこちらを参照)、そのため家計が負う債務の実質的な負担は予想以上に増大する結果となったのである。

このような状況はFedによって矯正し得るものである。QE3は正しい方向に向けた一歩であることは確かだが、名目所得の期待伸び率を引き上げるためにはさらなる工夫が必要である。そのための一つの方法としては、資産の購入規模を状況に依存させるというやり方が考えられるだろう。すなわち、現在のようにターゲットが達成されるまで(労働市場の著しい改善が見通せるまで)毎月850億ドルの決められたペースで債券の購入を継続する、といったかたちをとるのではなく、景気回復の進捗状況に応じて資産の購入規模を柔軟に変更させるのである。例えば、インフレや失業の動きになかなか変化が見られず両者がターゲットとなる水準になかなか達しそうにないと考えられる場合には資産の購入規模を増額し、反対にインフレや失業がターゲットを越えて行き過ぎると見込まれる場合には資産の購入規模を縮小させる、といったようにである。なぜそのようにするかというと、毎月850億ドルのペースで債券を購入しても景気回復になかなか勢いがつかないとすれば、それは(毎月850億ドルのペースで進められる)貨幣の市中への注入を上回る勢いで貨幣需要が増大している証拠と考えられるからである。このように資産の購入規模を状況に依存して柔軟に変更するようにプログラムに修正を加え、そのことがマーケットから広く理解されるようであれば、QE3を通じた期待の管理は一層改善され、これまで以上に経済に大きなインパクトがもたらされることだろう。その結果、Fedの職務怠慢も改められる、ということになろう。

(追記1)コメント欄でのニック・ロウ(Nick Rowe)のリクエストに応えて、以下に2つの図を追加することにしよう。最初の図は、名目所得の期待伸び率と名目GDP成長率をあわせてプロットしたものである。名目所得の期待伸び率が名目GDP成長率よりも先行して動いているように見える。

2番目の図は、名目所得の期待伸び率の平均と中央値(メディアン)を示したものである。興味深いことに、今回の危機以前においてはこの2つの値のギャップは安定していたものの、危機以降ではそのギャップは縮小している。

(追記2)はじめの2つの図では3四半期の中心化移動平均を用いてデータの平滑化を行っており、名目所得の期待伸び率の平均と中央値をプロットした最後の図では加工していない原系列をそのまま利用している。

訳注;労働市場の著しい改善が見通せるまで資産の購入を継続するとの条件付きの [↩]

 


 

http://econdays.net/?p=8601
財政派 VS マーケットマネタリスト ―ブロガー分類学― BY CARDIFF GARCIA

以下はCardiff Garcia “Fiscalists vs market monetarists, a bloggy taxonomy“(June 13, 2013)の訳です。誤訳等あれば御指摘頂けると幸いです。

なお、本エントリの内容にはクルーグマン(邦訳 by沢ひかる氏)、サムナー、ノア・スミスなどがコメントしておりますので、御興味あるかたはそちらも御覧ください。

共通の敵が撤退する中、財政派とマネタリストという競合的で不自然な同盟関係の間で小競り合いが勃発している。
しかし経済危機後の学術界における戦場では、両者は大抵同じ側にいたか、少なくともお互いのやり口にけちをつけるようなことはなかった。

簡単に言えば、この論争は金利がゼロ下限にある中で、回復を加速させ危機前の成長トレンドに戻すための最善の方法に関するものだ。(金利がゼロ下限よりも上にあるとき、多くの財政派、特に新ケインズ主義者はマネタリストに戻る。)

考えてみよう。

−ポール・クルーグマンは流動性の罠に関する多くの学術研究に先鞭をつけた。彼は危機における財政政策の優位を説き、ゼロ下限における金融政策の根底となるのは主としてインフレ期待だと信じている。

ただ、FEDのバランスシートの拡大というセールスポイントのためではあるが、彼はそれでもNGDP目標の有用性を過去に認めている。そして彼は特に自らの著書において、アメリカの金融政策の無効性と同じくらいその控えめさを批判している。彼はただ財政政策は金融政策と異なり、「経済に対して直接的かつ即効性の効果を持つ」と信じているのだ。

−ブラッド・デロングもゼロ下限における財政による安定化を擁護する者たちのリーダーの一人だ。デロング&サムナーやデロング&タイソンを読んでみてもらいたい。それでも彼もまたNGDP水準目標を支持している。(ただ、これらの点に対するデロングの考えは微妙なところがあり、また彼は都度これらの論点について再評価を行うという賞賛すべき習慣を有している。)

−マイク・コンクザルは、このところのディスインフレを示して、金融政策の期待チャンネルが本当に機能するのかどうかに疑問を呈している。彼は、金融政策が財政政策による悪影響を完全に完全に相殺できるということには懐疑的だ。

しかし金融タカ派の中に彼の名前を見つけるとことは出来ないだろう。全く正反対なのだから。

−カレン・ロシュは現代金融理論(MMT: Modern Monetary Theorists)の一派であるマネタリー・リアリズム(MR: Monetary Realists)の典型だ。彼はQEを良く思ってはおらず、金融政策が補助 (訳注;≒財政政策)なしで目標を達成できるという点には懐疑的だ。

しかし、財政政策の役割が危機に対する戦いを主導する限りにおいては、彼はNGDP水準目標を容認するに違いない。(MMT及びMRは金利がゼロ下限よりも上にある場合においてはケインジアンとは異なるが、ゼロ下限においては基本的に同じで、したがって「財政派」だ。)

−デイビッド・ベックワースはマーケット・マネタリストではあるが、貨幣に準じた安全資産の発行を増やすことで政府が経済活性化において役割を果たしうることを認めている。

もちろんのことながら彼は、名目所得目標を達成するという信頼性のあるコミットメントによって活性化を図るという金融政策を遥かに好むだろうが、危機の直後においてはヘリコプターマネーを容認するはずだ。すなわち中央銀行のファイナンスによる赤字支出だが、これはまさに財政政策との協力を意味する。

−保守的な改革派であるジョシュ・バローはしかし、実際のところは保守的ではなく(なので心配しないでほしい)、マーケット・マネタリズムを「保守的な改革運動における輝かしい成功」として賞賛している。彼は金融政策は政府の財政出動による悪影響を金融政策がしっかりと相殺したというスコット・サムナーによる最近のデータの解釈に同意している。

しかし彼は、「財政的・金融的チャンネルの両方とも経済を刺激するのに効果があり、そしてその両方ともが実務上・政治上の制限に直面しているため、我々はそのどちらも止めるべきではない。」とも書いている。アメリカが財政緊縮を必要としていないということを示す彼の9個のチャートを見てもらいたい。

−スコット・サムナーは近年のNGDP水準目標推進におけるドンであり、基本的に金融政策純粋主義者だ。「純粋主義者」というのは、金融政策は適切に実施しされれば財政刺激の助けがなくとも完全に目標を達成でき、銀行や信用のチャンネルは無視して差し支えないと彼が考えている[1] ことを示すために単に付けたものだ。

それでも、金融政策が相殺しようとしていない限り、財政政策は実のところ名目GDPを上昇させるとも彼は実際的見地から書いている。財政政策は金融政策と同じだけのパワー[oomph](残念ながらこれは専門用語ではない)をもたらすことが出来ないというだけだ。また彼は財政政策はサプライサイドに効果がありうるとしており、特に給与税[payroll taxes]を挙げている。

サムナーの書いたものを読むと、単に彼は反景気循環的な財政政策はそれほど効果がない思っているということが分かる−もっと言うのであれば、金融政策が正しく行われていれば、財政政策は効果がないだろうと彼は考えている。詳細は後述する[2] 。

上に挙げたブロガーをどちら側に位置付けるかは簡単だが、次に挙げる数人はそれほど簡単ではない。

−カール・スミスは初期の苛烈な名目GDP水準目標の王者で、今でもそのうちの一人ではあるが、「本当に馬鹿でかいものは、中央政府の得意分野」であるからこそ、財政政策は効果があるとも彼は考えている。

経済が不況にあるときには、規模で対応するほうが精確に目標を狙うよりも効果がある。なぜなら「遊休リソースが溢れており、借入の実質コストがゼロかマイナスであるときというのは、つまり精度を気にしても意味がないということ」だからだ。

−ライアン・アヴェントとマット・イグレシアスは、バーナンキが停滞が継続している原因を財政による悪影響に求めていることを批判しており、また財政政策に関しては危機の後のデマンドサイド的な対応よりも、基本的にはより長期の問題に焦点を当てている。二人とも去年の金融政策の変更が予期せぬ大きな財政収縮に対する堅牢性を高めたと考えてはいるが、それでもまだ十分ではないと考えている。

ただ、両者とも財政政策の効果を否定したり、一層の予算削減を求めたりしていなことは明らかだ。一例をあげれば、実質金利がマイナスのときにインフラ投資を行わないのは機会の損失だとイグレシアスは書いたことがある。(教育関係支出にも同じことが成り立つ。)

−スティーブ・ランディ・ワルドマンは「精神面からの名目GDP目標のススメ[the moral case for NGDP targeting]」と題し、名目GDP目標は不完全ながらもインフレ目標の改良であると述べている。しかし留保も付しており、マネタリストと財政派(特に現代金融理論家たち[MMTer])は両者の知見を融合させるべきだとしている。

−ここFT Alphaville[3] において、金融市場と家計双方における不足について焦点を当ててきた。財政政策と金融政策の双方ともに、こうした不足を軽減する効果がある。これを現代の金融情勢に対応したバジョット図[Intro Bagehot]と名付けよう。

これは長く延びた形状になっており、片方の端に財政派、もう一方の端にマーケット・マネタリズム、そして中心部にまとめ系ブロガーが位置するというスペクトラムのような見かけをしている。(簡単な説明しか付せなかったことをブロガーたちには申し訳なく思っている。これは彼らの業績を過小評価する意図ではなく、文字数の制約があったためだ。)

[財政]Matt K―Carney―[Felix--Weisenthal--Matt O]―A Harless―N Rowe[MM]

タイラー・コーエンもどこかに加えたかったが、彼の考えは複雑なために(訳注;位置づけを決めるのに)長い議論が必要になってしまう。ノア・スミスについても同様で、私は彼が財政派であると思ってはいるが、彼のかなり懐疑的な姿勢を鑑みると、確信は持てなかった。

追記:しまったことにマーク・トーマが漏れていた。彼はその他の財政派よりも早い段階から、深刻な下降期にある経済を十分に刺激するという金融政策の力に懐疑的で、積極的な財政的な対応についてもより早くから主張していた。ティム・ダイについても触れておくべきだろう。彼もまたバーナンキの大胆さの欠如を一貫して批判しており、ヘリコプターマネーについてもいつか必要になる可能性があることを匂わしたことがある。

財政派とマーケットマネタリストは、今回の偶発的な論争の激化は別として、両者とも同じ側に立っている、もしくは互いのやり口にけちをつけることはなかったと冒頭で書いた。

もっと正確に言えば、金融タカ派や金本位制支持者たちとの戦いの中で財政派はマネタリストと同じ側に立っており、マネタリストは大抵において財政派の歳出削減や「緊縮派」型の人間に対する戦いのやり口にけちをつけることはなかった。

財政派VSマネタリストの論点が加熱したのは、互いが相手側の主張しているものの有効性を疑っているからではなく、どちらの方法論がより効果的かというもっと狭い問題を焦点にしているからこそなのだ。

マーケット・マネタリストと財政派が互いを槍玉に挙げているのであれば、それはより巨大な敵が討伐された(インフレ懸念派[inflationistas])か、やり込められた(緊縮推進者)印とみなすことがおそらくできるだろう。

ただここにおいては、3点の大まかな点を挙げたいと思う。

1)この論争は大部分責任と口実に関するものである。

両サイドとも、不況にある経済においてマクロ経済安定化に資するより優れた方法を持っていると信じており、それぞれの政策決定者がそうした方法を責任を持って履行することを望んでいる。同様に、両サイドはともに相手側がそれら政策決定者に、責任を他へ擦り付ける口実を与えてしまうことを防ぎたいと思っている。

つまり一例を挙げると、マーケット・マネタリストは財政派がFEDの責任を小さくしてしまうのを嫌がっているということだ。

マネタリストの論理でいけば、財政政策決定者が反景気循環的な需要管理の責任を負っていないことになれば、バーナンキは彼がFEDの責務を十分に果たしていないことを財政政策による悪影響のせいにすることが出来なくなる。

するとバーナンキは自分の職務をどんどん進めていかなければならなくなる。財政政策がどれだけ総需要曲線を下や左に動かそうが、バーナンキはそれを上や右に戻すことを誓わなければならない。そしてその誓いを強固なものにするために、必要なことは何でもやることになるだろう。

それに対して、財政派はひょっとしたら次のような相互に関連する2つの問題について心配しているのかもしれない。

A)FEDへの過剰な依存によって、景気停滞による税収の低下に対して議会が歳出削減のような有害な政策を積極的に採ろうとしてしまうか、または

B)それと同じように、リソースが遊休状態にある上に資金の借入れが容易という歴史的な好機において、政府が国の物的・人的資本への投資機会を無駄にしてしまう。これらの投資の一部はいずれにせよ結局は行わなければならないため、これらを今行わないことが最終的には国の予算上の問題を改善するどころか悪化させてしまう場合がある。

そして、マネタリストたちは保守派や自由主義者の割合が高いため、こうした結末をあまり気に掛けないだろうというある種の(正当な)疑惑もあるのだろう。

2)両者の実際の政策提言は相反するものではない。

ここに書かれていることは関係者にとっては全く明らかなことではあるが、各ブログを行きつ戻りつして流し読むような外部の人間は、実際以上に問題を複雑に捉えて、背を向けてしまうかもしれない。

財政派の立場ははっきりしている。すなわち、「もちろん金融政策は出来うる限りのことをするべきであって、そうした試みを支持する。ただそれで十分とは思わないだけだ」ということだ。

ここにおいて実質上の対立点はない。

マーケット・マネタリストが財政政策を容認する際の主張はもっと複雑だ。

しかし、マネタリストの立場においても財政刺激を容認できる一つのアイデアがある。それは、名目GDP成長の鈍化、資産価格の大幅な下落や担保価値の崩壊といった大不況[a Great Recession]による悲惨な結果は、名目GDPターゲットが適切に採用されたならば即座に回避されるだろうというマーケット・マネタリストの教義だ。

現時点で(訳注;名目GDP目標が)適切に実施されれば、金融政策がその目標を達成するという必然性の予見が、経済主体や市場参加者がその目標の実現を前倒しするように振舞うように促すとも言えるだろう。

ここにおいて、経済を安定化させ、回復を加速させるための財政政策の使用をことさらに推し進める必要はないだろう。危機以前の普通の理由(政府の経済における役割、再分配など)を主張することに立ち戻ればいいのだから。

そこでマネタリストは、整合性を保つためには次のように言わなければならない。「よし僕らが失敗したときのために財政政策も準備しておきなよ。僕らはそれが必要になるとは思ってないだけ。もしそれが必要になったら、まあやりなよ。」

3)まだ何もわかっていない。

ブロガーをそれぞれの陣営に分類することは、ある意味愚かなことだ。この議論においては必要だったことだが、ブロガー全員に対して不公正だ。財政派の間でもそれぞれが異なった考えを持っており、それはマネタリストも同様だ。

と言いつつも、2009年や2010年に財政派が行ったような、政策の方向性はあっているが規模が小さすぎるという主張は、いまやマネタリストも行っている。彼らは同意に至ったのだ。

しかしもっと根本的なところでは、そう言い切るのは夢想的なまでに早すぎる。

金融政策が効果を発揮するにはタイムラグがあることは良く知られており、エヴァンス・ルール[4] は昨年12月に採用されたばかりだ。政策は方向を変えてきてはいたが、その歩みは遅く弱々しいものだった。

さらに、エヴァンス・ルールは名目GDP先物市場の創設と同時に名目GDP目標を採用するというターゲットマネタリストの望みの極致からは程遠い。

異なる財政政策は経済に対して異なる影響を及ぼすし、それは様々な金融政策緩和の手段も同様だ。そしてどうやれば景気循環による政策とは関係のない変化を取り除き、異なる政策の効果だけを取り出すことが出来るだろうか。不可能だ。

我々はより多くのデータを集めるか、もしくは今あるデータのさらなる詳細を待たなければならなくなる上に、それが不可能である可能性すらある。事実、成長に関する数値はまだ不十分だ。

マネタリストと財政派の双方ともにあまりにもその主張の内容が膨大で、それはマイケル・ウッドフォードによる去年の有名な論文の最後から二番目、まとめ部分の前のパラグラフがそれを説得力のある形で示している。

単に期待経路のみに依らない現時点での総需要を押し上げる最もはっきりとした要因は財政刺激であり、政府調達の増加や投資税額控除[investment tax credit]、もしくはイギリスの資金調達支援スキーム[UK Funding for Lending Scheme]のような貸出に対する補助金といった経路全てにおいてそう言える。と同時に、中央銀行による名目GDP目標パスへのコミットメントは、財政政策が直接に効果を発揮した場合と比べて、経済活動と価格の上昇による早期の金利上昇がその他の形態の支出を排除しない[5] と保証することによって、財政刺激による効力を高める。そして、名目GDP目標パスに対する中央銀行の宣言の存在は、特殊な財政刺激策が導入された際の、抑えの効かないインフレのリスクを高めうる警戒水準も限定したものにする 。


しかし、今年が実際ある種の政策実験の年となっているかどうかを知るのには、しばらくの時間を要する。そして、リソースが遊休状態であり失業がこのような非常に大きな問題となっている中ではスケールメリットは精度よりも重要、というカールの考えが示唆するところ、つまりはそうした実験は避けることが出来る上に、正当化できない間違いとなるだろうということについて私は考えずにはいられない。

自身の主張が妥当であっても、相手側のアイデアを自分のアイデアと平行して行うことは最悪の場合でも何の悪影響も発揮しないという合意が出来ているのであれば、両方を行うことに反対するのは無情というものだろう。

自身のアイデアだけが実施され、そしてそれが間違っていたと分かった場合、ひどく多くの人々がそのマクロ経済学の新たな知見のために苦しめられることになる。

全てを同時に試し、因果関係の仕組みについては後で考えたほうが良いだろう。全て終わった後で。

訳注;リンク先のエントリで、金融セクターのサイクルをモデルに組み込むのには意味がないとサムナー言っていることを指しています。 [↩]
訳注;(2)後段のこと [↩]
訳注;原文が掲載されているフィナンシャル・タイムズのブログコーナーのこと [↩]
訳注;インフレ見通しが2.5%を超えない限りにおいて、失業率が6.5%以下になるまでは現在の低金利政策を継続するというルール [↩]
訳注;金融政策が財政政策によるクラウディングアウトを軽減するということ [↩]


04. 2013年6月26日 02:10:08 : e9xeV93vFQ
【第281回】 2013年6月26日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長]
タッカー副総裁も退任のBOE
カーニー新総裁の就任後を占う
 イングランド銀行(BOE)は、ポール・タッカー副総裁が今年秋に退任する予定と6月14日に発表した。

 1年前、「LIBORスキャンダル」が英国で大騒ぎになるまで、タッカー副総裁はキング総裁の最有力後継候補だったが、同問題でつまずいた。また、金融危機の責任はBOEにもあるとの批判が英国民の間で根強いこと、大胆な金融緩和策にBOEが消極的であることに英政府がいら立っていたことにより、オズボーン財務大臣は、BOE出身者ではなく、カナダ銀行総裁の若いマーク・カーニー氏(今年48歳)を選んだ。

 英議会で明らかになったが、英国がこのカナダ人に支払う報酬は、年収80万ポンドと25万ポンドの住居費を含む諸手当だという(計1億5800万円以上)。

 キング総裁は先日も「需要を上向かせられる魔法のような弾丸は存在しない」と金融政策の限界を主張していた。それは正論であり、7月1日に新総裁に就任するカーニー氏が切れるカードは実はそう多くはない。おそらく、FRBや日銀が採用してきた時間軸政策(金利ガイダンス:超低金利を長く継続すると市場に約束する政策)を彼は提案するだろう。

 量的緩和策(現在、資産購入規模3750億ポンド)の拡大をカーニー氏が提案する可能性もある。ただし、キング総裁は量的緩和策の小幅拡大を金融政策委員会で提案してきたが、2月から6月まで5カ月連続で投票で否決され続けてきた(5月までは3対6。6月の票数は未公表)。追加緩和慎重派の委員は、量的緩和策の景気刺激効果を疑問視する一方で、インフレ率が目標(2%)を上回り続けてきたことを問題視してきた。

 タッカー副総裁も量的緩和の拡大に反対してきた。英政府がハト派の新メンバーを彼の後継に選べば4対5になるかもしれない。しかし、賛成多数となるには慎重派からの一段のシフトが必要であるため、量的緩和拡大案は、しばらく否決され続けるのでは? という見方が今のロンドンでは多い。

 英「ガーディアン」紙は「もし新総裁を楽にするという理由だけで、メンバーが投票を変更したら、彼らの独立性は大きな問題になる」と書いている。日銀の場合、黒田東彦氏が総裁に就任するや否や、政策委員会は急変して、大規模資産買い入れ策が全員賛成で承認された。自由闊達な議論を重んじる英国と、そうではない日本との違いが鮮明となりそうだ。

 (東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)


 


【第285回】 2013年6月26日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
FRBの「出口」に向き合うマネー運用戦略
まだ可能性に言及したに過ぎないが――。
FRBの「出口」の意味とインパクト

 日経平均で前日比1100円を超えた5月23日の日本株急落から、世界の市場が不安定だ。背景には、FRB(米国中央準備制度理事会)が現在の大規模な金融緩和のペースを近い将来落とす可能性が現実味を帯びてきたこと、いわゆる金融緩和の「出口」が近づいてきたことに対する市場の警戒感がある。

 一般に、株価をはじめとする資産価格にとって、中央銀行による金融引き締めは、抵抗しても結局は勝つことができない「最大の敵」だ。典型的な金融引き締め行動は中央銀行が誘導する政策金利の引き上げだが、1回目、2回目ではないことが多いとしても、何度か政策金利が引き上げられるうちには、株価や不動産価格は天井を付けて下落に転じるのが普通だ。

 現在のFRBは、短期金利をほぼゼロまで引き下げた上での「量的緩和」政策の規模を、近い将来縮小する可能性に言及したという段階だ。現在、実際に緩和を縮小し始めたわけでもないし、それを行う時期を明言したわけでもない。

 とはいえ、FRBの金融緩和が縮小に転じ、将来は政策金利の引き上げもあり得るとすると、米国の金融市場はもちろん、米国以外の国の金融市場にも与える影響は小さくないだろう。

 将来、投資家に対して米ドル建てで支払いをしなければならないという資金は、米国内にも米国の外にも多々あるし、米ドルで投資に使う資金を調達している投資家(ヘッジファンドなども含む)は少なくない。米ドルの実質金利が上昇するということは、こうした投資家の資金のいわば「元値」が変わるということなのだから、米国内の資産価格も、米国外の資産価格も影響を受ける公算が大きい。

 ただし、今論じられている「出口」は、遠からず金融緩和の規模を縮小し始めるというレベルの話であって、金融引き締めに転じるというところまでは小さくない距離がある。

 物価と共に雇用も目標とするFRBにとって、現在の失業率(5月は7.6%)は満足の行く水準ではないはずだ。失業率が低下するには、景気のもう一段の伸びが必要だ。経済が現状のままでも、FRBが金融引き締めに転じるという話ではないことには注意が必要だ。

株価の天井と下落時期はわからない
米国内のあるべき反応と先行きの見方

 米国の金融緩和政策の「出口」が動き出すとすると、市場には以下のような力が働くだろう。

 まず、米国内では好景気(そうでなければ「出口」はない)による業績改善と、長短の金利上昇による株式の相対的な不利とのせめぎ合いが起こり、典型的にはいったん後者が勝つことで幕が下りるはずだ。

 ただし、そこまでは時間がかかる可能性があるし、そのときまでに米国の株価が意外なくらい高いレベルまで上昇している可能性もある。

 米国の株価の天井とその後の下落の時期とレベルは、正確には誰にもわからない。もう過ぎた可能性もあるし、これから意外な高値を取る可能性もある。米国の投資家にとって、「出口前」を認識した段階で、最も無難な運用資産は「キャッシュ」(短期資金)だ。

 米国債は、この段階では利回り上昇のリスクがある(価格は下落する)。相場用語でいうところの「キャッシュ・イズ・キング」(何と言っても一番安全なのは、キャッシュだというくらいの意味)の状況だ。米国債がベストの運用対象になるのは、株価などの資産価格が大きく崩れて、景気が下降方向であることがわかってからだ。

 ここしばらく、米国株が調整色を強めているが、失業率がまだ7%台半ばであることを思うと、これ以上景気が回復しないまま、株価が下落するのと共にFRBが本格的な出口戦略の実施に踏み切るとは思えない。投資家は、いずれは来るはずの「出口」に対する先読みと現実の業績改善との引っ張り合いを、見極める必要がある。

中国株にも見える「出口」への脅え
新興国の株式市場はやはり苦しい

 FRBの出口戦略の影響を、米国の資産市場よりももっと強く受けそうなのは、新興国の株式市場と経済だ。新興国の株価は外国人投資家の影響が大きく、これまで、米国の年金資金をはじめとする外国からの投資によって押し上げられてきた。金融緩和による「米国版カネ余り」が縮小することは、新興国への投資資金の縮小につながる公算が大きい。

 最近の中国の株価下落にも、中国経済の減速や変調と共に、FRBの出口戦略の影響に対する怯えがある。

 後述のように、米国の出口戦略実施には、米ドルの実質金利を押し上げることによって、米ドルの為替レート上昇につながる影響チャネルがある。日本株はこの恩恵を受けやすいが、通貨が米ドルに連動する場合の多い新興国では、通貨を切り下げない限り、米ドル高もマイナスに働く。新興国株式への投資にとっては、今後しばらくリスキーで神経の休まらない状況が続くのではないか。

 もともと、新興国株式への投資には、以下の3つの心得が必要だ。

(1)新興国株式はリスクが大きいと認識する(NYダウの5割増しくらいのアップ・ダウンがある感覚だ)。

(2)新興国株式がブームになっているときに投資してはいけない(特に日本の投資信託などは、設定時期が絶妙な悪さである場合が多い)。

(3)少量を分散・長期投資すべきだ(いつ上がるかはわからないが、大きな経済成長率は長期的に魅力だ)。

 新興国株式への投資は、MSCI EMのような複数の新興国株式市場をインデックス化した指数に連動するインデックス・ファンドか、ETFなどを少量買って長期投資するイメージだが、現段階で、少し投資ポジションを落として、「出口」がいよいよ見えてきたときに、値下がりした新興国株式を買い増しすることを楽しみにするくらいの戦略がいいだろう。

 ただ、現在新興国株式をお持ちの方には、投資ポジションを完全にゼロにすることはお勧めしない。いったんゼロにすると、初期の上げについて行きにくいし、その後に投資ポジションをスムーズに増やせないことが多い。

「出口戦略は円高材料」の信憑性は乏しい
日本株は「外人売り VS. 円安」の勝負に

 日本株はどうなるか。

 5月下旬に株価が大きく調整した時には、FRBの出口戦略への懸念が取り沙汰されて、「外人の日本株への投資資金が回帰する」「世界的にリスク・オフの流れになるので、円高になる」という説が流れたが、前半の力学が働く可能性は確かにあるとしても、FRBの出口戦略実施が円高材料だという説の信憑性は怪しい。

 あえて推測を言うと、これは、当時日本株の売りポジションを持っていた向きが株価をさらに下げようとして流した「不気味な売り材料」だったのではないか。

 将来想定される「FRBは出口へ、日銀はまだまだ入り口に」という状況にあっては、米ドルの実質金利が上昇し、日本の実質金利は下落ないしマイナスのままに留まることになるので、為替レートが円安になる公算が大きい。出口実施の時点では、サブプライム問題前のレベルである120円台くらいの為替レートも、十分あり得るのではないか。

 問題は日銀の行動だが、少なくとも「物価上昇率2%」の目標実現が十分視野に入るまでは、金融緩和を継続するだろう。さすがに、「予防的引き締め」などと称してインフレ期待を殺すようなことはするまい。

 そう考えると日本株は、国内の投資家に買いの主体をシフトさせながら、徐々に下値を切り上げる展開が予想される。

現状はブラックマンデー後に似ている
日本株のポジションは大きく落とさない

 過去との類似で言うと、現状は1987年のブラックマンデー後に似ているかも知れない。1985年にプラザ合意があって、円高不況になった。1986年には金融緩和(4回の公定歩合引き下げ)で株価が大幅上昇する。ここまでの展開は、よく似ている。

 そして、1987年には米国発の株価大暴落であるブラックマンデーがあったが、その後、世界経済の需要牽引を期待された日本は、金融緩和と内需拡大を止めることができなくなり、経済はバブル色を強める。

 今回は、ブラックマンデー的な株式市場の波乱は米国ではなく日本で起きたが、その後、「物価上昇率2%」の達成まで金融引き締めに転じることができない状況は、1987年から1988年にかけての経済状況とよく似ている。

 高値のスケールや上昇相場継続の期間はわからないが、消去法的にも日本株は、「まあまあ魅力的な投資対象」のカテゴリーに入るのではないか。投資家は、日本株の投資ポジションを大きく落とす必要はないのではないかと、筆者は考えている。大規模な金融緩和で始まった上昇相場が、1回目の調整と共に終了するようには思えない、ということもある。

 もちろん、マーケットはグローバルにつながっているので、投資家としてはFRBの出口戦略には注意が必要だ。しかし、それが今すぐに来るものではないことと、日本株に与える影響と新興国株に与える影響は異なったものになる可能性が大きいことに、配慮しておきたい。

 


 


 


 

【第101回】 2013年6月26日 高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト],森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
「世界過剰ババ抜きゲーム」の
ジョーカーは主要新興国に
バランスシート健全性でいまや日米はトップへ
――高田創・みずほ総合研究所チーフエコノミスト
世界大恐慌再来を救った主要新興国

 2007年以降のグローバルな環境を振り返れば、大恐慌以来、最大規模のバランスシート調整を迎えた欧米では、2007年のサブプライム問題、翌年のリーマンショックと金融面の危機が生じた。

 すでに1990年代からバランスシート調整が続く日本も含め、先進国として世界をリードした米欧日の3局が同時に大幅なバランスシート調整を迎えることは戦後初であり、1930年代以来の大恐慌不安も生じた。

 実際に、金融政策上、日米欧はゼロ金利政策に近い水準まで金利引き下げを行い、3局同時に民間セクターが資金余剰に転じる戦後初の状況の中、長期金利は各地域で史上最低金利水準まで低下した。

 下の図表1はグローバルな景気先行指標であるが、日米欧が連動して調整が生じた。しかも、2007年以降、2012年まで6年にわたる調整期間とその深度は、戦後最も深刻なものと言っていい。

 ただし、その深刻さは1930年代の大恐慌と較べれば明らかに軽微で、その背景には日米欧の世界に占める割合の低下があった。すなわち、新興国の台頭が世界大恐慌を救った。

 同時に、そこで中国を中心とした新興国は、その見返りに今や過大な負担を背負ってしまった可能性もある。図表1では、中国が2007年以降、なかでも2008年以降、日米欧の低下が続くなか「4兆元対策」で大幅に先行指標の水準を伸ばし、日米欧のサイクルとは異なる対応で世界経済を支えたアンカーになった。


新興国のシェア拡大が
日米欧の同時調整の感染を救った

 次の図表2は、先進国と新興国のGDPシェアを示す。1970年代以降、日米欧の先進国経済の景気連動が生じたが、80年代前後、新興国のウェイトは20%台であり、世界経済の動きは日米欧の連動で生じた。

 仮に、こうした状況で日米欧が同時に深刻なバランスシート調整に陥ったら、1930年代以来の大恐慌の再来が本当に生じてもおかしくなかった。しかし、現実には図表2のように、2010年代には新興国のシェアは40%近い水準まで上昇する大きな環境変化が生じた。


新興国が世界の過剰を肩代わりした

 バランスシート調整の基本は債務調整と、同時に為替調整を主軸にした外需による成長戦略であると筆者は考えてきた。日米欧だけで構成されていた世界で、その3局メンバーが同時に調整に陥ったら、まさしく世界大恐慌である。

 ただし、今回の場合、そのメンバー以外の存在が3局の調整のアンカーになった。また、日本も2007年以降、為替で円高となる自国通貨高を背負い込み、欧米に対してアンカーとなって支えた。

 すなわち、中国を中心とした新興国は、2007年以降も財政・金融の拡張を続けることで欧米を中心とした調整のアンカーになった。その結果、2013年以降、米国を中心とした改善で世界大恐慌の危機の再来を回避したことになる。

 ただし、ここでの問題は、2007年以降のアンカーとして拡張戦略をとった中国を中心とした主要新興国が、過剰設備を中心とした調整圧力の副作用を残したことにある。さながら、「世界過剰ババ抜きゲーム」でジョーカーを引いてしまったようなものである。一方、日本と米国は過剰を肩代わりしてもらった分だけ、バランスシートが世界で最も健全になった状況だ。

 したがって、今後の世界は2013年以降、欧州は依然調整を残すものの、米日を中心とした先進国が調整から脱して世界の成長の牽引となる。一方、これまでの牽引役であった中国を中心とした主要新興国は、調整圧力を引きずり、2000年代と比較して低い水準での成長が続く、従来とは反対の二極化になりやすい。2013年のグローバルな投資資金の動きは、こうした動きに沿ったものと考えられる。

米国の出口不安と
新興国のトリプル安の不安

 次の図表3は、新興国の長期金利の動きを示す。昨今、新興国は経済の減速が不安視されるなか、長期金利も上昇することは資金の流出を含むスパイラル的不安を拡大、株式・債券・為替のトリプル安不安を生じさせやすい。こうした動きの背景にも、5月後半以降、米国の金融政策のQE3のエグジット不安が生じ、日米中心に金融株式市場に変動が生じたことがある。


グローバルな金利上昇は
次第に小康状態に

 みずほ総合研究所が5月に行った世界経済の見通し作業では、日米は大幅な上方修正を行いながらも、世界全体の見通しは下方修正にしたように、世界全体は足踏み状態にある。こうしたなか、6月の先進国G8サミットも含めて日本への期待が高いのは、あくまでも消去法的であるものの、日本にかつての「機関車論」のような期待を寄せざるを得ない面である。

 一方、新興国は不安を抱えた状況にあるだけに、米国は性急な出口戦略を行うわけにはいかないだろう。米国出口戦略への不安から、世界の長期金利は一転して急上昇に向かったが、金利上昇は持続的なものにもなりにくい。

 すなわち、現段階では持続的な金利上昇を正当化させるほど、世界全体の経済状態は強靭ではない。大きな流れで見れば、世界の金利は上昇局面に一歩踏み出したが、世界的な金利上昇は第一ラウンドが終盤に入り、次第に小康状態にならざるをえないのではないか。


 


 

 

相場の乱気流、試される黒田総裁の胆力

「ゼロ回答」でもメッセージに潜む真意

2013年6月26日(水)  岩下 真理

 5月前半は一時的な世界同時株高となったが、5月22日のバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長による議会証言以降、米国の量的緩和第3弾(QE3)の早期縮小観測に市場は揺れている。同議長は今月19日の会見で、量的緩和の縮小に年内にも着手する可能性を明言した。その後、米10年物国債利回りが2.5%を超えたことから、当面は米債券相場の調整局面が続くことが見込まれる。

 日米の長期金利上昇をきっかけに、日経平均株価は乱高下を繰り返す日々が続いている。異次元緩和以降は債券市場の不安定化が話題だったが、5月に米国要因が加わり、株式・為替市場のボラティリティも高めてしまった。異次元緩和決定から2カ月半が経つが、やはり日米ともに金融緩和の副作用を軽視すべきではない。

債券市場は徐々に安定化へ

 6月第2週の各種報道では、日銀による固定金利オペの長期化(現状1年までを、2年以上に見直し)の検討が既定路線であるように報じられていた。しかしながら、11日付の日本経済新聞朝刊では、「政策委員の間で、“時期尚早”との慎重論が強まっている」と風向きの変化が伝えられた。

 変化を後押ししたのは、長期金利が0.8%台でやや落ち着きを取り戻していることや、固定金利オペの長期化で落ち着かせたい中短期ゾーンで5年債利回りが0.3%程度で推移し、オペを打つ緊急性がなくなったことである(下図参照)。

日本国債の利回り推移(2013年以降)

(出所)bloombergより、SMBC日興証券作成
    *終値ベース
 その背景には5月以降の国債入札ラッシュの一巡や、6月が国債大量償還月という需給改善要因、日銀が「1年超5年以下」ゾーンの国債を多めに買い入れたことなどが挙げられる。日銀が5月29日に開いた市場参加者との意見交換会で、一部の参加者から固定金利オペの延長を希望する声が出ていたが、当時に比べて明らかに状況は改善した。

 その一方で、5月下旬以降の株安の局面で、政府サイドから日銀に対して長期金利抑制策を講じることへの期待感があったのも事実だろう。

6月はゼロ回答

 そのような状況下、6月10〜11日に黒田東彦総裁の下で4回目となる日銀金融政策決定会合が開催された。足元の景気判断を「持ち直している」と6カ月連続で上方修正し、全員一致で3回連続の現状維持を決定。事前に報道されていた固定金利オペの長期化というテクニカルな施策も決めることなく、一部観測にあった不動産投資信託(REIT)や上場投資信託(ETF)の買い入れ枠拡大も講じなかった。市場の一部にあった期待に対して、日銀は「ゼロ回答」だったわけだ。

 黒田総裁は4月4日の初会合で「戦力を逐次投入はせず、現時点で必要な政策を全て講じた」と語った通りの有言実行と、当面は動かないという姿勢の点で、胆力の強さを示したと言える。白川方明前総裁との違いを印象付けた格好だ。

 今後も景気の下振れリスクの顕在化など、それなりの理由付けができる状況でなければ、黒田日銀は簡単には動かないだろう。おそらく、異次元緩和の効果を見守る時間的猶予を1年ぐらいで想定しているのではないだろうか。言い換えれば、1年経過しても期待する結果が伴ってこなければ、ためらわずに方針変更してもおかしくない。

日銀のポートフォリオリバランス効果へのこだわりは続く

 そもそも、固定金利1年超のオペに対しては、一部金融機関のALMマッチング(資産と負債の総合管理において、期間が長めの負債に対応して資産を長めに持つ)のためのニーズがあるのみ。この施策について日銀内では、実行タイミング如何で、「2年程度で2%の物価安定目標を実現する」という時間軸との整合性がなくなり、市場に誤ったメッセージを送ることになりかねないとの慎重な意見は多かった。

 その一方で、長めの資金供給については、量的・質的金融緩和(以下、QQE)が目指すポートフォリオ・リバランス効果に反する施策になるとの懸念が出ていたようだ。

 また、白川前総裁時代に決定した貸出支援基金で、民間向け貸出を増やした金融機関を対象に最長3年の資金を年0.1%で資金供給することは可能なため、2〜3年のオペを実施する必要はないとの意見もあったと推察される。

 日銀は今回、QQEの政策意図を改めて明確にする狙いを込めているのか、6月の声明文と同時に「貸出増加を支援するための資金供給の実施予定」を発表した。6月18日に3兆1519億円の貸付実施を事前公表し、その期間別の内訳も1年が1914億円、3年が2兆9605億円と明記。3年物に軸足を置いていることをアピールし、固定金利オペの長期化が必要ないことを匂わせた。「また貸出を増やす」というQQEへの取り組み姿勢を示したように見える。

黒田総裁のメッセージを読み解く

 その後の黒田総裁の定例会見では、追加策の見送りに関する発言が多かった。具体的には、「為替あるいは株価については、一つひとつの動きにコメントすることは差し控えたい」と、市場の催促に対して毅然とした態度で回答。オペについても、「現時点では、1年を超える共通担保オペの導入は必要ない」「将来必要となれば検討する」と語った。メリット、デメリットを議論したうえで、金利の変動率がおさまったことを主因に今は必要ないとの結論となったようだ。

 将来の可能性に含みを残す発言をしたとはいうものの、会合時間の短さ(2日目の会合が正午前に終わるのは経験則として短い)からも、積極的な議論にはならなかったと推察される。追加策の導入が必要となる時期はそんな近くにはない印象だ。

 その上で、「必要に応じて今後も弾力的にオペを行う」と述べ、「1年物のオペは、ボラティリティを抑える効果があった」との認識も示した。この説明を踏まえれば、当面、ボラティリティの抑制には、国債買い入れの弾力的な運営と1年物オペで対応し続けることになるだろう。その後、米国発の金利上昇の波がきても、日本の10年債利回りが0.8%台で推移しているのは、日銀による国債買い入れの効果であるのは言うまでもない。

 方や、「REITの保有残高見通しは買い入れ上限ではない」「REIT市場を十分に注視し、弾力的に対応できるところは対応」とも述べた。6月15日付の日経新聞朝刊が、「REITの購入拡大、想定より最大100億円」と報じたように、柔軟な対応は見込まれる。しかしながら、REITの市場規模を考えれば、過度な期待は禁物とも思われる。

 他方、声明文と同時に公表された貸出支援オペについては、「金融機関の積極的な利用が見られている」と前向きな動きを評価しつつ、「金利抑制で副次的な効果もあろうかと思う」と述べた。昨年12月の貸出支援基金の創設にかかわった事務方であれば、2013年末残高見通しの13兆円に向けた積み上げの動きはうれしいはずだ。

 結局、日銀が追加策を講じなかった結果(6月11日午前11時48分公表)に対し、当日の東京市場の取引時間帯では、円相場が一時1ドル=97円台、日経平均は後場の寄り付きで一時、前日比200円安、債券市場では10年物国債利回りが0.880%、5年債利回りが0.320%まで上昇したが、悪影響はその程度でとどまった。国内勢は、テクニカルなオペの長期化を含む追加策に、過度な期待を持たなかったようだ。

物価プラス転換のタイミングを注視

 黒田総裁は会見で、「わが国経済は順調に回復への道筋をたどっており、金融市場もそうした実体経済の前向きな動きを反映して、次第に落ち着きを取り戻していく」と語り、景気回復への自信をほのめかす。

 今後は時間の経過に伴い、4月の「経済と物価情勢の展望(展望レポート)」にある2013年度の見通し数字が実現できるかや、今年の半ばごろに見込まれる本格的な景気回復、そして物価がいつプラスに転じていくかを検証していくことになる。日銀が次回7月10〜11日に開く金融政策決定会合で議論される展望レポート中間評価は、次の政策を占う重要な点検のタイミングとなる。

 今回の日銀の景気判断では、当面の物価見通しについて、「マイナス幅が縮小」という部分が削除された。5月の東京都区部のコア消費者物価指数(CPI)が前年比プラス0.1%と4年2カ月ぶりのプラスとなったのはサプライズだった(下図参照)。

全国・東京都区部のCPI比較

(出所)総務省よりSMBC日興証券作成
 押し上げの主因は、電気料金や都市ガス代の値上げとテレビ価格の持ち直しだ。5月分で、全国コアCPIがプラスになるかは微妙なところだ。さらには、年末に向けてプラス幅が一気に拡大していく姿はまだ描き切れず、中身を見れば「コストプッシュ型」でしかない。

 それでも、今夏に向けて日銀の物価見通しも自信を深めたと言える。目先は、6月28日発表の6月の東京都区部、5月の全国の消費者物価指数の動きが注目だ。その先は、夏場に電気料金の値上げ主体で前年比プラス0.5%まで到達できるかどうかの見極めと、そのプラス幅の持続性に加え、予想物価上昇率の動向により、「期待への働きかけ」の効果を見極めていくことになるだろう。

 6月6日発表の「ESPフォーキャスト6月調査」(民間エコノミスト41人による日本経済予測の集計で、筆者も回答メンバー。回答期間は5月23〜30日)では、日銀の4月の展望レポートに合わせて、新たに2015年度の実質国内総生産(GDP)成長率とコアCPI上昇率の予測値が集計された。

ESP比較
(前年度比、%)
(公表時点) 実質GDP成長率 コアCPI上昇率
日銀
(4月26日) ESP調査
(6月6日) 日銀
(4月26日) ESP調査
(6月6日)
2013年度 2.9 2.7 0.7 0.3
2014年度 1.4 0.6 1.4 0.7
2015年度 1.6 1.3 1.9 1.0
(注1)日銀は2013年4月の展望レポート、大勢見通しの中央値。
(注2)ESPフォーキャスト調査は、平均値。
(注3)コアCPI上昇率は、2014年度以降は消費税増税の影響を除いたベース。
 上の図表で比較してみると、2013年度の実質GDP成長率は、5月16日発表の1-3月期(1次速報値)が前期比年率プラス3.5%(6月10日発表の2次速報値は同プラス4.1%に上方修正)という高い数字だったことを反映し、両者の差は縮小した。しかしながら、消費税引き上げ前の駆け込み需要の反動が想定される2014年度については、日銀の予想値が民間よりもかなり楽観的だ。

 またコアCPI上昇率では日銀の予想値は民間に比べてかなり強気の状態は変わらない。やはり日銀の物価見通しの数字(2年後に2%程度)は、実質GDPを高めに設定して、マクロ的な需給バランスの改善幅を大きくし、期待に働きかけて予想物価上昇率が上振れていかなければ、作ることができない。

 それでも民間予想は徐々に上向いてきており、2015年度がプラス1.0%台乗せとなり、政策委員の最小値であるプラス0.8%や、下から2番目のプラス0.9%という「ハト派委員」の数字を上回ったことは、前向きな変化の1つと言えそうだ。

現在調査中の日銀短観もカギ

 次に重要な材料は、日銀が7月1日に発表する企業短期経済観測調査(日銀短観)の6月調査だ。アンケートはすでに5月の最終週から配布され、足元は中締めの時期に当たる。想定為替レートは円安修正が見込まれることから、事業計画は改善方向が続くだろう。その一方で、設備投資の回復はまだ期待できないと見られる。

大企業製造業 業況判断DI

(出所)日本銀行、ロイターよりSMBC日興証券作成
    *記号の離れは各調査の期先予想
 6月10日発表の5月の景気ウオッチャー調査(調査期間は5月25〜31日)では、5月下旬以降の株価変調への不安が消費マインドに影を落とした。しかしながら、日銀短観の関連統計であるロイター短観(6月調査:調査期間は6月3〜17日)では、金融市場での相場の乱高下の影響は見られなかった。上図の大企業製造業では、足元も先行きも業況判断指数(DI)は大幅改善。為替や株式相場は前年との比較ではまだ円安・株高水準にあり、企業は中長期的な観点で景況感を判断していることがわかった。日銀短観・6月調査でも、前向きな変化の芽を確認することになりそうだ。


岩下真理の日銀ウオッチング

安倍晋三政権が放つアベノミクスの3本の矢のうちの1つ、日銀の大胆な金融緩和策。財務官出身の黒田東彦総裁の下で、「量的・質的金融緩和」という未曾有の大実験が始まった。果たしてデフレを克服し、日本経済を再生することができるのか。長年、金融政策を追いかけてきた数少ない女性の「日銀ウオッチャー」、SMBC日興証券の岩下真理氏が、独自の視点で日銀の一挙手一投足を読み解く。

 


 


「150万円所得が増える」は間違ったガイドライン

「成長戦略」と「骨太方針」から経済政策を考える〜アベノミクスの中間評価(その4)

2013年6月26日(水)  小峰 隆夫

 私は、大学院で「経済政策論」を講じている。その際に心がけていることは、なるべく最新の経済事象を題材にすることだ。受講する院生は社会人が多く、具体的に現時点で進行中のことに強い関心を持っており、現在の政策的課題について自分なりの意見を持っていることが多いからだ。

 今回決定された成長戦略と骨太方針(正確には「経済財政運営と改革の基本方針」)は、私にとって格好の経済政策論の教材である。本稿では、教材として見た時に、経済政策論という観点から、どんな議論を導き出すことができるのかを紹介してみたい。

論点1 成長戦略とその評価の基準

 成長戦略について考えよう。そもそも今回決定された「成長戦略」は経済政策の体系の中でどう位置付けられるだろうか。単純化して言えば次のようになる。経済政策の目的は、良好な経済パフォーマンスを実現して、国民福祉を向上させることにある。その経済的パフォーマンスとしては「持続可能な範囲でのできるだけ高い成長」「働く意志を持つ人が働く場を持つという完全雇用」「インフレでもデフレでもない物価の安定」を実現することが基本である。

 こうした経済パフォーマンスを実現するには二つのアプローチを組み合わせることが必要である。一つは、短期的な視野で、需要をコントロールすることにより、成長率の変動を安定的に保つことである。要するに、景気の悪化(不況)を防ぎ、過熱を抑えるということだ。日本銀行が担っている金融政策や、不況時に公共投資を増やしたりする財政政策がこれに当たる。アベノミクスの第1の矢「大胆な金融緩和」、第2の矢「機動的な財政運営」がまさにこれである。

 もう一つは、長期的な視野で、基調的な成長力を引き上げていくことだ。第3の矢「成長戦略」はこれである。今回決定された成長戦略には「3つのアクションプラン」というセクションがあり、この中にある「雇用制度改革・人材力の強化」「科学技術イノベーションの推進」は供給面から成長力を引き上げようとする政策であり、「戦略市場創造プラン」として取り上げられている医療・介護、エネルギーなどでの需要創出策は、需要面から成長力を引き上げようとするものである。

 このように第1、第2の矢と第3の矢は、対象とする時間の次元が異なるのだから、評価の基準も異なるというのが私の考えだ。

 その一つは、マーケットの評価をどの程度重視するかだ。第1の矢、第2の矢は、短期的な効果が期待されるものだけにマーケットがこれをどう評価するかが大きなポイントになる。マーケットは短期的な効果を読み込んで行動するから、それが有効な政策であれば、それを踏まえて、株価が上昇したり、インフレ期待が高まったりすることが考えられ、それが政策効果そのものを先取りすることになる。

 しかし、第3の矢「成長戦略」については、長期的な視点での評価が求められる。政策の効果が現れるまでに時間がかかり、不確実性も大きいのだから当然のことだ。こうした長期の問題については、マーケットが適切に判断できるとは限らない。今回の成長戦略が発表された時、マーケットが失望して株価が下がったと言われている。しかし、長期の成長戦略につては、マーケットの反応は気にせずに、それが長期的な成長力を強化するかという点のみに基づいて評価されるべきであろう。

 もう一つは、継続的な実行が重要ということだ。今回の成長戦略の内容を、野田内閣の時の成長戦略(「日本再生戦略」2012年7月)と比較すると、医療・介護分野での需要創出、科学技術の振興、農業の再生、人材の育成など、似通ったものが多いことに気がつく。これはある意味で当然のことである。長期的な成長のために必要なことは既に分かっているのであり、起死回生の妙手などないからだ。またそれは望ましいことでさえある。長期的な効果を狙った政策は、継続的に推進していくことが重要だからだ。

 今回の成長戦略には多くの不十分な点も多いのだが、継続的に推進すべき政策が網羅されている。「マーケットの短期的な反応は気にせず、とにかく実行」というのが私の成長戦略についての基本的な評価である。

論点2 骨太方針と経済政策のガバナンス

 次に「骨太方針」について考える。骨太方針というのは、経済財政諮問会議が6月頃、当面の経済政策の基本方向を明らかにするものである。自民党政権の時には、諮問会議が毎年、骨太方針を策定するという慣行が維持されていたのだが、民主党政権では諮問会議が休業状態となったため、骨太方針も策定されなくなった。これが今回復活したわけだが、私は、この点を経済政策のガバナンスという点から高く評価している。

 適切な経済政策が立案され、それが着実に実行されるためには、「政治(時の内閣)」「行政(官僚)」「民間有識者」という3つの主体が適切に組み合わされる必要がある。国民の負託を受けた内閣が最終的な政策決定を行うことは、民主主義の原則からして当然のことだが、政治はしばしば短期的な人気取り政策やばらまき政策に走りがちとなる。官僚は、過去との連続性や政策実施についての実務的な知識を持っているが、選挙で選ばれているわけではないので、あくまでも補佐役に徹する必要がある。民間有識者は、専門的知識に基づいて、中立的な立場から政策の方向付けについて議論に加わることになる。

 民主党政権が諮問会議を動かさなかったのは「諮問会議が自民党時代に新自由主義的な政策を推進したから」というのが理屈だったのだが、これは、悪い知らせを持ってきた郵便配達を責めるようなものだ。今度は民主党が自らの考えるような方向で諮問会議を活用すればよかったのだ。これをしなかったために、民主党時代の経済政策は「幸福度を高める」「第3の道を目指す」「第3の開国を行う」などアイデア倒れになり「政策の使い捨て状態」になってしまったというのが私の診断である(詳しくは「時の総理のビジョンを『使い捨て』にしない戦略の作り方」2012年10月3日を参照)。

 要するに、政治家は選挙を気にして言いたいことも言えない傾向があり、官僚は発想が前例主義で硬直的になりがちなので、専門的見地から国民福祉の向上に資する経済政策を提言していくのが経済財政諮問会議の役割だということになる。

 というわけで、私は、安倍政権が、今回経済財政諮問会議を再稼動させ、骨太方針を決めたということは、高く評価している。ただし、その中身については、今回の骨太方針がその役割を十分果たしているとは言えない。特に、問題なのは財政再建についてである。

 今回の骨太方針では「国・地方のプライマリー・バランスについて、2020年度までに黒字化する」という従来からの政府の方針を繰り返している。しかしこれはいかにも「言っただけ」であり、実情はほとんど何も言っていないに等しい。

 それはこういうことである。2020年度までにプライマリー・バランス黒字化という政策目標は、野田内閣時代からのものである。これを達成するために野田内閣の時に消費税率の引き上げが決められた。しかし、それでもこの目標は達成できない。2012年8月に内閣府が示した「経済財政の中長期試算」によると、消費税を引き上げ、名目成長率が3%程度となったとしても、2020年度のプライマリー・バランスは8.5兆円の赤字が残ってしまうのだ。

 しかも、この時の試算では出発点の2013年度のプライマリー・バランスは25.4兆円の赤字だったのだが、2013年2月に内閣府が経済財政諮問会議に配布した資料によると、2013年度のプライマリー・バランスは33.9兆円の赤字に拡大している。言うまでもなく、安倍内閣が公共事業を中心に大盤振る舞いをしたからだ。

 つまり、ただでさえ難しかった財政再建目標の達成は、一段と難しくなっているのだ。これを達成するには、消費税率のさらなる引き上げや、社会保障経費の抜本的削減が必要となるはずだが、その具体策は今回の骨太方針には何も書いていない。「何も言っていないに等しい」と言わざるを得ないことが分かるだろう。

論点3 数値目標の意味

 今回の成長戦略、骨太方針には多くの数値が盛り込まれている。成長戦略には、「3年間で設備投資水準を70兆円に回復させる」「医療関連産業の市場規模を2020年に16兆円にする」「今後10年間で農村全体の所得を倍増させる」「2020年に女性の就業率を73%にする」といった目標が並んでおり、骨太方針にも「今後10年間で、名目GDP成長率3%程度、実質成長率2%程度の成長を実現する」「一人当たり名目国民総所得(GNI)は、10年度には150万円以上増加する」といった数値が並んでいる。こうして並べられた数値の意味をどう考えればいいだろうか。

 政府が政策とともに数値を公表するのには、次のような3つの役割がある。

 第1は、政府が考える経済展望を示し、それを民間の経済活動のガイドラインとすることである。今回の骨太方針で示された、成長率などの数字がこれに相当する。例えば、民間企業が事業計画を立てる時に、マクロ経済がどう推移するかを考える。その時、「政府はこんな経済が実現すると考えている」という展望が示されていれば、(少なくとも何も示さないよりは)企業にとっても何らかの参考になるだろう。その結果、民間経済主体の将来展望が政府の展望と近いものとなれば、それ自身が将来期待を動かし、望ましい経済の姿を実現する一助となる。

 かつて高度成長の時代に政府は「所得倍増計画」を作成し、経済が成長し、国民の所得が増えていく姿を数値的に示した。それが企業の積極的な投資、国民の積極的な購買行動を呼んだとされるのは、こうした政府のガイドライン提示効果がフルに発揮されたことを示している。

 ただし、このガイドライン効果が発揮されるためには、政府の提示した展望を民間の経済主体が十分信頼することが必要であり、余りにも楽観的な展望を示すと、かえって信頼を損なうことになるので注意が必要である。

 第2は、政策評価の基準としての役割である。今回の成長政策では、大きな政策群ごとに「成果目標」を掲げ、それが達成できたかどうかをチェックしながら施策を実施していくとしている。前述の「設備投資水準」「医療関連産業の市場規模」「女性の就業率」などは、この成果目標として提示されている。

 第3は、宣伝材料としての役割である。どの内閣も「自分たちの経済政策が行われれば、こんな明るい経済になる」と言いたい。おそらく与党は今後の選挙戦の中で、今回成長戦略で示された数値を積極的にPR材料として使うことになるだろう。

 こうした3つの役割に照らして、今回の数値を見ると、全体として「宣伝材料としての数値」が多く、民間のガイドライン、政策評価の基準としての役割については余り期待できないという印象を受ける。

 ガイドラインという点では、筆者はかねてより、実質国民総所得(GNI)の伸び率を積極的に位置付けているべきだと主張してきた(詳しくは「働いている割に実質所得が伸びないのはなぜか」2013年4月24日を参照)。その意味では、今回の骨太方針が、一人当たり名目国民総所得の増大を積極的な目標として位置付けたことは大いに評価したい。ただこれを総理があたかも「一人ひとりの所得が150万円増える」かのような宣伝に使うのはどうかと思う。こんな使い方をされたのでは、間違ったガイドラインになってしまう。

 この点は私の授業でもある院生から「明確な間違いなのに、どうして周りの人が何も注意しないのでしょうか」と質問された。全くその通りだ。国民総所得は、勤労者の賃金の他に、企業利益、資産所得などの項目から構成されている。国民総所得に占める雇用者報酬用(ほぼ賃金に相当)のシェアは50%(2011年度)である。仮に、この分配率のままで、国民一人当たり所得が150万増えたとしても、賃金として増える分はその半分である。

 政策評価の基準としての役割を果たせるかも疑わしい。そもそも成長戦略で掲げられた指標の多くは、2020年についてのものである。それが実現したかどうかは、2020年を過ぎないと分からないわけだから、そんな先の数値で毎年の施策の効果を測れるわけがないと私は思う。

論点4 成長戦略、骨太方針と政治

 今回の成長戦略、骨太方針の中身については、踏み込みが足りないという指摘が多い。例えば、成長戦略の最重要課題として位置付けられた規制緩和についても、企業の農地保有、労働法制の改革、混合診療の実現などの、いわゆる「岩盤」と呼ばれる重要課題はいずれも先送りされた。骨太方針については、肝心の財政再建について「書いただけ」になってしまったことは前述の通りである。社会保障の改革についても「検討する」となっているだけである。

 こういうことになってしまうのは、政治がからむからだ。岩盤の規制改革は、いずれも既得権益との対立である。農地については既存の農家、労働法制については正社員、混合診療については医師会という強力な既得権益集団がいる。こうした規制改革から得られるメリットは大きいのだが、そのメリットは国民全体に広く薄くばらまかれる。一方、コストの方は限られた既得権益者が厚く負担することになる。広く薄い層は政治的なパワーに集結しにくいが、限られた既得権益層は政治的働きかけを行いやすい。すると、政治が選挙を意識すればするほど岩盤に切り込むことは難しくなる。

 財政再建、社会保障改革も政治がこれを阻害する。財政を再建するには、増税するか、社会保障費をカットするしかない。しかし、増税や社会保障の削減を掲げて選挙戦を戦うことは難しい。ここでも政治が選挙を意識すればするほど、財政再建、社会保障改革は難しいということになる。

 唯一の望みは、安倍政権が選挙に勝利し、安定多数を確保した後に、岩盤に切り込んだ本格的な規制緩和、国民負担を伴う財政再建、社会保障改革に取り組むというシナリオである。しかし、選挙後にやろうとしていることを意図的に隠して選挙戦を戦うのは、民主主義の建前からして疑問があるし、そもそも私の観測では、安倍内閣にそれだけの気概と決意があるようには見えない。

 「日本経済に明日はあるのか」と本当に心配してしまうのである。


小峰隆夫の日本経済に明日はあるのか

進まない財政再建と社会保障改革、急速に進む少子高齢化、見えない成長戦略…。日本経済が抱える問題点は明かになっているにもかかわらず、政治には危機感は感じられない。日本経済を40年以上観察し続けてきたエコノミストである著者が、日本経済に本気で警鐘を鳴らす。

 


 


 


 

金利上昇でにわかに転換社債がブーム
2013.06.26(水) 
(2013年6月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

低利での資金調達を求める企業は米国で、金融危機以降最も早いペースで転換社債(CB)を発行している。最近の金利上昇がCB発行ラッシュに拍車をかけている格好だ。

 CBは、企業が超低利で債券を発行することを可能にする一方で、CB償還までに発行体の株価が事前に定められた価格に達した場合には、証券を株式に転換する権利を投資家に与える。

FRBの量的緩和縮小観測で高まるCB発行の魅力

 CB発行の回復は、企業の間でCB人気が落ちてきた過去数年間の低迷に続く動きだ。何しろ最近まで、企業はジャンク債や投資適格級の社債を歴史的な低利率で発行することができた。

 だが、米連邦準備理事会(FRB)が金融刺激策のペースを落とすかもしれないとの観測が強まったことをきっかけに、金利が急激に反転し、クレジットスプレッド(信用力に応じた金利上乗せ幅)が拡大したことで、CB市場を活用する魅力が増している。

 今月は、債券市場全般で発行を鈍らせかねない米債券市場、信用市場、株式市場の急落にもかかわらず、CB発行が過去2年余りで最も活発になる見込みだ。

 調査会社ディールロジックによると、企業は今年に入ってからCB発行で224億ドルを調達、既に昨年1年間の調達額の合計を突破しており、CB市場は2008年以降最高の1年を迎えることが確実な情勢だ。

 「(通常の)債券がこれまで過去最高値で取引されてきたため、CBにはあまり合理性がなかった」。バンクオブアメリカ・メリルリンチで米州の株式関連資本市場部門を率いるプラサント・ブリ・ラオ・カティ氏はこう話す。「普通社債市場が弱含むにつれ、問い合わせや案件が増えるだろう」

最近の株高も発行体に安心感

 アナリストらによれば、CB保有者は平均して、CB発行時と比べて株価が25〜35%上昇した時に社債を株式に転換することができるという。米S&P500株価指数が今年5月に過去最高値をつけたことから、CB発行体の間で信頼感が高まっており、企業は潜在株式を発行する見通しに安心感を抱くようになった。

 オンライン旅行会社プライスライン・ドット・コムは5月末、7年物CBの発行で10億ドル近い資金を調達した。このCBは、社債の利率がわずか0.35%で、転換プレミアム(転換価格とCB発行時の株価の差)が66%だった。

 プライスラインの株式は過去最高値に近い1株792.27ドルで取引されており、転換価格は1315ドルとなる。アナリストらは、同社のCB発行は市場最高クラスの案件だと話している。

By Arash Massoudi in New York


 

 


 
今後の英国経済、さらに悪化する恐れあり
2013年06月26日(Wed) Financial Times
(2013年6月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


英国のジョージ・オズボーン財務相〔AFPBB News〕

 ジョージ・オズボーン英財務相はこの3年間、英国経済が低迷している理由を外国に見いだしてきた。予算責任局(OBR)も概ね同じ意見で、財務相が実行した緊縮財政よりもユーロ圏危機や原油高の方が英国の経済成長を大きく脅かしていると主張している。

 最近の景気回復の兆し――第1四半期の国内総生産(GDP)伸び率は前期比で0.3%のプラスとなり、第2四半期も同程度の成長が予想されている――は、緊縮財政が英国経済の低迷を招いたと考えるケインズ主義者にとって政治問題になっている。

 ある財務省高官は「景気がなぜよくなりつつあるのか、財政乗数の理論では説明できない」と述べている。

 しかし、もし外国の出来事が英国の命運をそれほど左右するのであれば、英国政府に広がっている楽観主義にはあまり裏付けがないことになる。悪い方向に進みかねないことは、まだ数え切れないほど多い。

日本も英国経済の回復を頓挫させかねない爆弾

 オズボーン財務相が先週、マンションハウス(ロンドン市長公邸)で演説を始めようとしていた時、その近くでは日本の安倍晋三首相がちょうど演説を終えたところだった。この偶然を知ったら、オズボーン財務相は、英国経済の回復を頓挫させかねない、まだ爆発していない爆弾の1つを思い出したはずだ。

 世界第3位の経済大国である日本が抱える総債務は、同国のGDPの230%相当額に近づきつつあり、政府と中央銀行はインフレ期待の引き上げに取り組んでいる。金融市場はアベノミクスの開始を受けて沸いたが、アジアやその他の地域は不安を募らせている。

 また米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和の大規模な巻き戻しは、まだ始まってもいないうちから投資家を慌てさせている。信用引き締めを暗示する初期のサインは、中国にも影響を及ぼしている。

 欧州について言えば、ユーロについて心配するのをやめたのは慢性的に楽観的な人々だけだ。欧州中央銀行(ECB)は、苦境に陥ったユーロ参加国の国債も購入すると約束しているが、このバックネットは見せかけにすぎないのではないかと市場が疑い始めたら――ドイツの反対はこの疑念を弱めるものではない――、ユーロ危機の物語が再開するかもしれない。

 世界が混乱すればどの国の経済も困るが、英国のように規模が小さく開放的な経済は二重に脆弱だ。オズボーン氏は26日、2015-16年度のスペンディング・ラウンド(単年度予算枠組み)を発表する席で、英国は「救援(rescue)から回復(recovery)に」向かいつつあると述べる予定だ。

 だが、財務相はもう1つの「R」、つまり「リスク(risk)」にも言及しておく方が賢明だろう。

英国政治の大きな争点になった景気回復

 世界は危険に満ちている。もしこの国の政治家たちがあの暗い現実を感知しているのであれば、彼らはそれを上手に隠していることになる。

 英国議会が景気回復をいかに重要視しているかについては、いくら強調してもし過ぎることはない。経済成長は保守党を元気づけ、労働党を狼狽させている。労働党の幹部の中には、景気が三番底に落ち込んでオズボーン氏にダメージが及び、ひいては政権自体にもダメージが及ぶと予想する向きもあった。

 しかし三番底にならなかったことで労働党の慢心は消え去り、同党は以来、経済政策面での信頼を勝ち取るべく地道な努力を続けている。

 このおかげもあって、オズボーン氏は、予算編成にしくじり、3四半期連続のマイナス成長に見舞われた不名誉な2012年から回復を遂げている。政治闘争への意欲も取り戻している。労働党をもっと執拗に攻撃せよと同氏が保守党のスタッフに命じて以降、沈滞気味だった水面下での活動は改善している。

 この4月には、福祉手当への依存体質についてオズボーン氏が労働党を攻撃し、労働党はまだその失地を回復できていない。また労働党は今月、オズボーン氏の財政政策の基本部分を受け入れた。

根拠なき熱狂

 財務相という重要な役職にお気に入りのゲーム(バックギャモン)のような姿勢で取り組んでいる同氏はお高くとまった道楽者だと確信している人々でさえ、英国政治は同氏が設定した枠の中で行われているとの説を否定できなくなっている。

 しかし、復活は傲慢につながることがある。ここ数カ月間の政界の活気はたった1四半期の経済成長率に基づいたものであり、その成長率は、世界経済が比較的穏やかだった貴重な時期の賜物でもある。つまり、これは根拠なき熱狂だ。

 この熱狂はもっと長持ちするものに変わる可能性もあるが、オズボーン氏は、そうはならないという前提で職務に臨まなければならないだろう。

 純粋に経済的な視点で見るなら、26日のスペンディング・ラウンドにはほとんど意味がない。あくまで単年度予算の枠組みであり、歳出の削減幅はわずか115億ポンドで、現在の財政赤字幅の10分の1にも満たないからだ。

 しかし、英国経済に関するメッセージを発信する権威ある手段としての価値は計り知れない。オズボーン氏としては、景況感に依存する景気回復を過小評価したくはないだろう。だが、逆に過大評価してしまうと有権者は油断し、英国を再び景気後退に陥れるような外的ショックに対し無防備な状態になってしまう。オズボーン氏の信頼性も、様々な事象に影響されてしまうことになる。

恐ろしく不人気な強みを生かし、真実をありのまま伝えよ

 このジレンマを考慮して、オズボーン氏は慎重姿勢に転じるべきである。同氏は冷徹になった時こそ本領を発揮する。恐ろしく不人気であるがゆえに、悪いニュースをかえって堂々と伝えられるようになっている。例えて言うなら、患者への気配りを重視しない医師のようなものだ。

 振り返ってみれば、同氏が失敗したのは真実をやんわりと伝えようとした時だった。2010年冬のマイナス成長を悪天候のせいにした時、2012年度予算でこっそり増税した時、そして景気の回復は弱々しく断続的なものになるかもしれないと財務相就任時に警告しなかった時などがそれに当たる。

 26日は腹をくくって現状を率直に話さねばならないし、そうする方がオズボーン氏には似合っている。

 確かに、英国経済は快方に向かっている。病状は以前考えられていたほどひどくはなかった。2012年の二番底は、政府による統計の改定によりほとんどなかったことになっている。しかし、景気の回復はまだ始まったばかりで、どんな財務相にもなすすべがない世界的な事件が発生すれば、頓挫してしまう恐れがある。

 早くも言い訳を用意していると皮肉る向きもあるだろうが、先見の明があると称賛してくれる人もいるだろう。どちらにしても、それが正直なやり方というものだろう。

By Janan Ganesh


05. 2013年6月26日 02:38:05 : 2v98973FNo
異常に長い張付け投稿は効果的でないばかりか、他の投稿文を埋没させます。投稿者は要点のみ切取るか整理するかして、後はリンク先に譲るべきです。

06. 2013年6月26日 14:27:46 : nJF6kGWndY

アングル:米物価連動国債が急落、FRBにジレンマも
2013年 06月 26日 11:01 JST
[ニューヨーク 26日 ロイター] - ここ数年、債券市場で最高クラスのパフォーマンスをみせていた米国の物価連動国債(TIPS)が急落しており、アナリストは、TIPS価格が金融危機の局面でみられる水準に近付いていると指摘している。

債券価格は、連邦準備理事会(FRB)が量的緩和縮小の可能性を示したことを受けて、世界的に下落しているが、TIPSは相対的に流動性が低いことに加え、これまでロングポジションが大きく積み上がっていたため、下げがきつくなっている。

TIPSはここ数年、量的緩和でインフレが進行するとの思惑で買われていたが、これまでのところインフレは起きていない。

FRBは長期のインフレ目標を2%に設定しているが、4月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年比1.05%だ。

また、TIPSの投資家は、インフレ率が目標に達するまでFRBが量的緩和を続けると踏んでいたが、FRBのバーナンキ議長は景気・雇用を重視し、低インフレに大きな懸念を示していない。景気は改善しているものの、依然低迷しており、量的緩和以外に物価上昇を刺激する要因はない、との懸念も出ている。

トムソン・ロイター傘下のリッパーがまとめた債券ファンドの運用成績ランキングによると、年初来の運用成績ワースト1位・2位は、TIPSに投資するファンドとなっている。

<予想インフレ率が2%割り込む>

TIPSが織り込むインフレ期待は大幅に低下しており、10年後の予想インフレ率は2%を割り込んでいる。24日時点の予想インフレ率は1.80%、25日は1.96%だった。

予想インフレ率が長期間低水準にとどまれば、FRBの量的緩和縮小が複雑になる可能性がある。

2008年のリーマンショック後で、予想インフレ率が2%を割り込んだのは、2010年後半と2011年の2回のみ。FRBはいずれのケースでも、新たな量的緩和を実施し、予想インフレ率は2%超の水準に戻った。

BNPパリバ(ニューヨーク)の金利ストラテジスト、アーロン・コーリ氏は「過去10年間、(予想)インフレ率がこの水準を非常に長期間、下回ったことはない。FRBは懸念しているはずだ」と指摘した。

アナリストによると、TIPSの発行残高は米国債全体の1割に過ぎず、流動性の低さもTIPSの値動きを大きくする要因になっている。

市場では、年金基金、ヘッジファンドなど、インフレ進行を予想してTIPSに投資していた機関投資家が一斉に売りを出している。一方、銀行はバランスシートの縮小を進めており、買い余力が減っているという。

もっとも、価格が急落したことで、短期のTIPSに割安感が出たとの指摘もある。

短期のTIPSに投資するイートン・バンス・ショートターム・リアルリターン・ファンドの共同ポートフォリオマネジャー、スチュアート・テーラー氏は「インフレ率が向こう2年間1%を超えると予想するなら、2年物の通常国債よりも2年物TIPSのほうがはるかにリターンが良い」との見方を示した。

(Karen Brettell記者;翻訳 深滝壱哉 編集 佐々木美和)

 

 


主要中銀幹部の市場鎮静化発言相次ぐ、緩和「出口」めぐる懸念で
2013年 06月 26日 08:47 JST
[ベルリン/ロンドン 25日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和策縮小の影響を早急に織り込もうとする市場に対し、鎮静化を図る主要中銀幹部の発言が25日、相次いだ。

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁はベルリンで、「物価安定は確保されており、全体的な経済見通しから緩和的なスタンスが依然として正当化される。出口はなお遠い」と述べた。

25日これに先立ち、ECBのクーレ専務理事はロンドンで、成長促進とユーロ圏の危機対応のためにECBがとっている政策措置は「必要な限り」維持されるとし、必要に応じて一段の措置をとることさえ考えられると述べた。「正当化される場合、標準的・非標準的な他の措置を実施することができる」とも語った。

この2人による発言は、世界の主要中銀の中で最初に刺激策の解除に関する道筋を示したFRBの動きにECBが追随しないことを示している。

またイングランド銀行(英中央銀行)のキング総裁は、FRB議長発言を市場が過剰に解釈していると指摘した。

総裁は25日の議会の財務委員会で「これで金利が通常水準まですぐに戻ると人々が考えたことは、性急な判断だ」とし、「FRBはただ、経済の状況によっては緩和策がある時点で縮小されるかもしれないと指摘しただけ」と述べた。

キング総裁の後任となるマーク・カーニー次期総裁は、ある時点でより通常の政策スタンスに切り替わることは避けられないと述べ、銀行や規制当局がそれに備えるべきだとの見方を示した。

国際決済銀行(BIS)は週末、緩和的な政策の解除は時がたつにつれて困難になってくるだけだと指摘。量的緩和策を解除するよう圧力を強めた。

ECBのトリシェ前総裁は、BISのコメントについて「非標準的な措置がずっとは続かないことを確認するものにすぎない」とけん制した。

<危険水域からは遠い>

ユーロ圏では、スペインとイタリアの10年債の利回りがFRB議長発言以降、0.5パーセントポイント以上上昇した。ただ、ECBがユーロ防衛に乗り出した昨夏の水準は大きく下回っている。

格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の欧州・中東・アフリカのソブリン格付け分析責任者、モリツ・クレーマー氏は、市場の動向はまだそれほど脅威とはなっていないと指摘した。「この2週間での全ての動きを見ると、たとえば昨年の夏に達したような危険な水域からはなお遠い」とし、「これらの国の多くが事前にかなりの資金を調達しており、すぐに脅威になるものはない」と述べた。

ドラギ総裁はECBが昨年発表した債券買い入れプログラム(OMT)についても、ユーロ圏の安定化に寄与したとして正当性を主張。世界の他地域で金融政策変更の可能性が浮上し不透明感が漂う中、OMTは一段と重要性を増しているとの立場を示した。FRBの緩和縮小計画を念頭に置いた発言とみられる。

*内容を追加して再送します。

 

ドル上昇、強い米経済指標でFRBの緩和縮小観測高まる=NY市場
2013年 06月 26日 07:03 JST

首相問責決議を野党の賛成多数で可決=参院本会議
焦点:ギリシャ連立政権は当面存続可能、EU・IMFには強腰対応へ
ドル97円後半、中国株や日経平均の下げ受け円買戻し
アングル:米大統領の温暖化対策、LNG輸出促進につながるかは不透明

[ニューヨーク 25日 ロイター] 25日のニューヨーク外為市場は、ドルが主要通貨に対し5営業日連続で上昇した。明るい米経済指標の発表が相次いだことで米景気回復をめぐる楽観論が強まり、米連邦準備理事会(FRB)が金融緩和策を縮小するとの観測が高まったことが背景。

強い経済指標を背景に米国株と米国債利回りが上昇したこともドル相場を支えた。終盤のドル/円は97.76円。

主要6通貨に対するドル指数.DXYは0.2%高の82.563で、24日に付けた約3週間ぶり高値の82.841に近い水準を保った。

ドル指数は年初から3.5%、ドル/円は12.7%、それぞれ上昇している。

RBSセキュリティーズの通貨ストラテジスト、ブライアン・キム氏は「今日の米経済指標の改善はドルの強い支援材料となった。先週の連邦公開市場委員会(FOMC)声明を受け、全般的な基調はなおドル高方向だ」と話した。

25日に発表された5月の米耐久財新規受注は前月比3.6%増と予想を上回った。4月のS&P/ケース・シラー住宅価格指数は、主要20都市圏の指数の前年比上昇率が7年ぶりの高い伸びを示し、5月の新築一戸建て住宅販売は約5年ぶりの高水準となった。

さらに、6月の米消費者信頼感指数は5年ぶりの高水準に上昇した。

ウエスタン・ユニオン・ビジネス・ソリューションズのシニア市場アナリスト、ジョー・マニンボ氏は「今日発表された指標は明確に景気の改善を示した。ただ、FRBの資産買い入れ縮小観測が本格的に高まるには、労働市場の改善を示すより具体的な兆候を確認する必要がある」と述べた。

ユーロ/ドルは朝方の高値から値を消し、終盤は0.2%安の1.3095ドルとなった。

米ミネアポリス地区連銀のコチャラコタ総裁とダラス地区連銀のフィッシャー総裁が24日、資産買い入れ縮小観測をけん制する発言をしたため、ドル指数は朝方下落する場面もあった。

テンパスの通貨ストラテジスト、ジョン・ドイル氏は「ドルは過去2週間、FRBの資産買い入れ縮小観測を材料に取引されてきた。24日の連銀幹部2人の発言はバーナンキFRB議長よりもハト派色が強かったが、市場の注目は既に『間もなく買い入れ縮小』という議論を後押しする耐久財新規受注へと移った」と述べた。

もっとも、強い経済指標にもかかわらず、投資家はドルの上昇幅とスピードが行き過ぎではないかとの警戒感も抱いている。BKアセット・マネジメントの外為ストラテジー担当マネジングディレクター、ボリス・シュロスバーグ氏は、ドルの上昇余地は限られると予想。「既に相当上昇したし、市場は今後の雇用統計に焦点を絞るだろう」と話した。

シュロスバーグ氏はさらに、米国債利回りの上昇に伴い住宅ローン金利が上昇しても住宅市場の回復が続くかどうかを投資家は見極めたがっている、と付け加えた。

© Thomson Reuters 2013 All rights reserved関連ニュース

米連銀総裁、緩和縮小観測めぐる市場反応に「まだ懸念せず」 2013年6月25日
ドルが対主要通貨で上昇、米金融緩和縮小観測で=NY市場 2013年6月25日
NY外為市場・序盤=ドル指数が上昇、米FRB緩和縮小観測で 2013年6月24日
緩和縮小計画示すFOMC決定は尚早=米セントルイス地区連銀総裁 2013年6月22日


07. 2013年6月26日 14:56:21 : e9xeV93vFQ
コラム:日米中の「異変」が支える円安シナリオ=池田雄之輔氏
2013年 06月 26日 11:49 J

為替フォーラム
焦点:ギリシャ連立政権は当面存続可能、EU・IMFには強腰対応へ
アングル:米大統領の温暖化対策、LNG輸出促進につながるかは不透明
アングル:米物価連動国債が急落、FRBにジレンマも
日経平均が大幅反発・ドル98円台、人民銀の資金供給方針など好感

池田雄之輔 野村証券 チーフ為替ストラテジスト(2013年6月26日)

悪い予感が当たった。米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長による量的緩和第3弾(QE3)縮小方針言及から一夜明けた20日朝、主張先である英ロンドンのオフィスに着くと、いくつもの会合がキャンセルされていた。

営業担当者は「EM(新興国市場)が大変なことになっている。誰も円相場どころではない」と言う。現地の為替トレーダーも「ドル円の参加者が急速に細っている。相場が分かりにくい。誰も手を出せない」とさじを投げる。グローバル金融市場に大きな影響力を持つ、米・日・中の3極で、それぞれ異変が起き、複雑に絡み合っている。冷静な現状分析が求められる局面だ。

19日に行われた記者会見でのバーナンキ議長は、少し緊張しているように見えた。議長の言葉ひとつひとつが、世界の金融市場を大きく動かすという、その重責からだろう。発言の中身が、今までになくタカ派的だったことに市場参加者は驚く。

周知の通り、QE3の運用については、今年中に毎月の資産買い入れ額を減らし始め、来年半ばには全て終了するとの「スケジュール観」が明確に打ち出された。「景気が悪ければQE3増額もあり得る」との期待されていた柔軟姿勢は最後まで示されなかった。議長は「金利の引き上げはずっと先」と言ったものの、市場は来年中の利上げ開始を急速に織り込み、米国債10年利回りは21日に、2.5%まで跳ね上がった。

<動揺する米国、安定する日本>

2008年の金融危機以降、一貫して大量のマネーを市場に供給してきた世界最大の中央銀行、FRBがいよいよ引き締めに向かっていく。1994年の例を引き出すまでもなく、「早すぎる引き締め」が市場の動揺を誘うのは、無理からぬところもある。しかし筆者は、バーナンキ議長に限って「早すぎる」は当てはまらないと考える。

重要なのは、FRBが金利引き上げを検討する最低条件として「失業率が6.5%を下回る」ことと明言しており、さらに今回議長がQE3終了の条件にも同7.0%を参照値に掲げたことだ。つまり、FRBの行動は予定された「スケジュール」ではなく、景気指標などの「データ」に従うものである。

早期のQE3終了があるとすれば、それは景気が強いからであり、逆に強制歳出カットの影響などで景気が弱含めば必然的に緩和巻き戻しのスケジュールは後ずれしていく。この自動安定化装置が組み込まれている以上、「早すぎる引き締め」を懸念する市場の動揺は、いずれ沈静化に向かうと見ている。

今回、バーナンキ議長があえて市場にショックを与え、金利上昇を促した背景には、日本の金融政策の影響も絡んでいた公算が大きい。すなわち、4月4日の「黒田緩和」を契機に、グローバル金融市場は過熱の様相を強めた面があった。

さて、日銀は5月、6月と政策を据え置き、11日の会合では市場で期待の大きかった「固定金利オペの長期化」という緩和的措置も取らなかった。これは一時的に市場の失望を招き、金利上昇を招いた。

しかし、特筆されるのは、その後のグローバルな金利上昇の中で、日本の国債市場が際立った落ち着きを示している点である。そもそも、海外マネーがほとんど流入していない日本国債(JGB)市場は彼らのポジション調整に巻き込まれにくいとも言えるが、黒田日銀の対応が奏功している面もあろう。国債買い入れオペレーションの頻度をほぼ毎日(国債入札日を除く)にまで引き上げるなど、市場のボラティリティを下げる努力を続けてきた。

「日銀が金利のコントロールを失っている」との警戒が、海外ヘッジファンド勢の日本株買い、円売りの流れに水を差していたことを踏まえれば、JGB市場の正常化は、円安シナリオを補佐する重要なポイントである。

<中国の変調がドル全面高を促す理由>

一方、グローバル金融市場にとって目下、最大のリスクは中国だろう。短期金融市場では6月半ば以降、銀行間金利が急騰し、7日物金利は一時10%を超えるに至った。この間、流動性がひっ迫しつつあった中で、人民銀行があえて引き締め方向のオペレーションを打ち出した場面もあったことから、市場では「懲罰的な金利押し上げ」との見方が広がっている。

4月から5月にかけては社会融資総量の伸びが急減速しており、中国当局がすでにバブル潰しに動いていた様子が見て取れる。中国も米国と同様、タカ派的なメッセージを市場に送っているように見える。しかし、重要なのは、米国が金融引き締めに際しても「失業率ターゲット」という景気への配慮を明示しているのに対し、中国には当然そのような仕組みはないことだ。当面、中国景気については、「当局がどこまで成長率を下げようとしているのか」といった疑心暗鬼が燻(くすぶ)りつづける可能性があろう。

現在のグローバルな資産価格の調整(リスクオフ)の背景には、緩和の出口に向かう米国と、成長率の低下が目立つ中国、という二つの要因が作用しあっていると考えている。対比されるのは、09年から10年にかけての「先進国(米国)低調、新興国(中国)好調」という「ツースピード」と形容された世界である。

当時、米国はバブル崩壊の後遺症を引きずりながら、ひたすら金融緩和で痛みを和らげることに専念した。一方、中国は「4兆元投資」の積極財政で世界景気の下支え役になると同時に、大量の資源消費で新興国経済をけん引した。先進国の緩和マネーは、必然的に資源国・新興国に流れていく構図である。これが今、180度変わろうとしている。すなわち、米国景気は緩和縮小を議論できるほどまで持ち直す一方、中国当局は意識的に成長率を抑えているように見える。

新興国に広く行き渡った緩和マネーが一斉に米国に戻っていく「ドル全面高」の構図は、今までの逆回転そのものであり、違和感はないだろう。しかし、市場が落ち着きを取り戻せば、通貨ごとの選別は進むはずだ。とりわけ、米国の堅調、中国の低調を考えれば、高金利通貨の中でも「メキシコペソの堅調、豪ドルの低調」といった地域差が現れてくるだろう。

<「エイブ大統領」への期待は正常化>

では、海外ヘッジファンド勢は、米・日・中の大きな変化のなかで、ドル円相場にはどのように取り組むのだろうか。まずは、ドル円をロングしている投資家の顔ぶれを理解する必要がある。

実は、一般に名前がよく知られているような円のプレーヤーとして存在感のあるヘッジファンドは、筆者が直接話をする限り、すでにドル円のポジションを大きく落としている。逆に、2月あたりから大挙して入ってきたのは、これまで円相場には触ったこともないような新興国専門のヘッジファンドだったりするのだ。

筆者は、6月半ばにシンガポールを訪れた。そこには安倍晋三首相のことを「プレジデント(大統領)・エイブ」と連呼している投資家さえいて、日本に対する深い知識がないまま日本株ロング、円ショートに大きく傾斜している様子を目の当たりにしてきた。

新規にドル円市場に参入しているヘッジファンドは、いわば「アベノミクス一点買い」である。あまり細かいことは気にしない。しかし、「日銀は何か追加緩和をやるはずだ」「成長戦略には法人税率引き下げが含まれるらしい」など現実とはややかけ離れた期待を持っていた点が気がかりだった。

案の定、一切の緩和措置を打ち出さなかった6月の日銀会合および、法人税に言及しなかった安倍首相の「第3の矢」の発表は、彼らの失望を招いた。ドル円はこの間、98円台から93円台まで下落する場面があった。しかし、これで過剰な政策期待はむしろ適正レベルに調整されたと言ってよいだろう。逆にここからは、参院選でのねじれ解消のシナリオ、インフレ率の緩やかな上昇などアベノミクスの支援材料となる政治・経済の展開が予想しやすい。

<年末までにドル102―107円も>

以上のような、米・日・中ファンダメンタルズの現状判断および、投資家動向を踏まえ、筆者は円安が継続すると見ている。バーナンキ議長のQE3減額への言及に対する市場の反応は過剰であり、あくまで「景気次第で調節する」という重要なメッセージを見逃している。

一方、日本の国債市場は、日銀のオペレーションの柔軟化により、徐々に正常化に向かっている。リスクオフが終息する一方、日米金利差が緩やかな拡大基調をたどればドル円には追い風である。加えて、貿易赤字の定着など構造的な円売り圧力が年間10兆円以上あることは、前回述べた通りだ。ただし、「円相場どころではない」とのヘッジファンド勢のコメントが示すように、アベノミクスが世界中の投機マネーを円売りに誘導したような局面は終わっている。ここからの円安ペースは緩まって当然だろう。

円高方向のリスクは新興国、および中国にあるだろう。グローバルな新興国市場の株式・債券・通貨のトリプル安が続くようだと、これらの市場を主戦場にしているヘッジファンド勢が、ポジションを持ちきれなくなり日本株の売却、円の買い戻しに動く可能性は否定できない。また、今のところ底堅く推移している原油価格が大きく下落すると、日本の貿易赤字の縮小を通じて円高圧力になる側面を持つ。

新興国市場、中国経済、そして原油価格に注意を払いつつも、ドル円の基本観は緩やかな上昇(円安)との見方を変えていない。13年/14年末のドル円予測値は、102/106と据え置いているが、米国の景気堅調・金利上昇が軌道に乗ってくれば、さらに5円ずつ程度、円安方向に上振れる可能性もあると見ている。

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。


08. 2013年6月26日 15:42:14 : e9xeV93vFQ
焦点:英中銀次期総裁待ち望む声、銀行業界は良好な関係を期待
2013年 06月 26日 14:47 JST 記 
トップニュース
トヨタ、新型「クラウン」など約2万台をリコール
セルビアの加盟交渉を1月までに開始へ、EU閣僚が合意
パナソニック株主総会で巨額赤字と無配に批判、津賀社長が陳謝
関電株主総会、地元自治体から原発依存度低減など注文相次ぐ

[ロンドン/オタワ 26日 ロイター] - ロンドンの金融街の多くにとって、イングランド銀行(英中央銀行)のカーニー次期総裁は、まるで同僚の1人であるかのようだ。

金融に関するカーニー氏の素質は、そもそもゴールドマン・サックスでの13年間の勤務経験を通じて培われたもので、これは経済学者である前任のキング総裁とは対照的。銀行業界は今、7月1日に就任する次期総裁と良好な関係を築くことを期待している。

イングランド銀のギーブ元副総裁は、キング総裁は銀行業界から敵対的とみられており、時に軽蔑の色も隠さなかったが、それが変わると述べた。カーニー氏は銀行業界で使われるような言葉で語りかけるとの見方を示した。

ただし、カーニー次期総裁が物腰柔らかというわけではなく、短気で、苛立たせることを恐れていない。また、カナダ銀行(中央銀行)の総裁、あるいは金融安定理事会(FSB)の議長として、銀行改革の取り組みを後退させるような要求をほとんど許容しなかった。

英国の銀行セクターは金融危機から5年以上経った今でも依然として脆弱(ぜいじゃく)な状態にある。

一部が大幅に規模を縮小したにもかかわらず、最大手行のバランスシートの規模を合わせると、経済の規模の5倍に相当する。銀行がリスクに慎重な姿勢を維持し、企業が需要の弱さを理由に借り入れに消極的になる中、経済の生命線とも言える企業向け貸し出しは依然減少している。

カーニー次期総裁は、カナダでは達成できなかった金融政策と財政政策の融合を英国で実施するチャンスがある。中銀が金融リスクの新たな監督機関で主導的な役割を担えると示唆し、2009年に権限を拡大しようとした。他の規制当局が懸念を示し、財務省が現状維持を支持した。

それでもなお、カナダの銀行業界ではカーニー氏が敏感な問題を取り上げることをためらわなかったと指摘する。

<イングランド銀に新たな権限>

ちょうどイングランド銀の銀行セクターに対する権限が拡大する時に、カーニー氏が総裁に就任する。信用危機を食い止められなかったこれまでの規制の枠組みを解体するに当たり、オズボーン財務相はカーニー氏を次期総裁に指名した昨年11月、銀行業界でのカーニー氏の経験を強調していた。

イングランド銀のロマックス元副総裁は「オズボーン財務相はカーニー氏に全てを賭けている。これでカーニー氏はかなり強い立場に立つことになる」と述べた。

大胆な発想に関して定評があるカーニー氏でも、金融政策を抜本的に変更するには苦戦するかもしれない。

低金利を維持する期間を明示するよう主張するとみられ、これは企業や家計の支出を拡大するかもしれないが、政策当局者の一部はそうしたコミットメントを示すことを懸念している。

カーニー氏は米連邦準備理事会(FRB)や日銀による量的緩和策が日米にとっては適切だったと支持を表明した。だが、イングランド銀で資産買い取りプログラムを再開しようとすれば、金融政策委員会(MPC)内の反対論を抑える必要がある。

ここ2年の停滞から英国経済が抜け出す兆しがあり、金融政策の改革がそれほど急務ではなくなってきたという状況もある。

それでもなお、エコノミストの間では外部者がイングランド銀の流れを変えられるとの期待がある。

銀行業界ではイングランド銀が特に小規模企業への融資を促す一方で、資本の増強を求めるという混乱を誘うメッセージを送っていることに不満の声が挙がっている。

資本増強が求められれば、貸し出しに消極的にならざるを得ないとの銀行業界の主張に対して、キング総裁は反論。6月19日の在任中最後の講演で、「実際はその逆。貸し出しを抑制するのは不十分な資本だ」と指摘した。

<銀行業界は新たなアプローチ期待>

英国ではキング総裁と銀行の間のあつれきはお決まりとなっていた。2003年にイングランド銀の総裁に就任してすぐに、銀行業界幹部との月次の昼食会を廃止。関係がより希薄になることが明らかになった。

金融危機が表面化し、キング総裁と銀行業界の関係は緊迫したものとなった。銀行が取ったリスクを批判したキング総裁は、彼らを救済するという倫理の欠如を嫌がった。

銀行支援に公的資金が注入されたことを不満とする人々はこうしたセンチメントを共有しているが、ロンドンの金融街では新たなアプローチを求める声が多くある。

英国銀行協会の幹部は、銀行が将来的な損失を想定するのにより柔軟なアプローチを望んでおり、資本増強の要件を決める場合は一段の対話を、また将来的にはどのような資本が新たに要求されるのかがはっきりとしてくることを望んでいると指摘している。

(William Schomberg記者;翻訳 青山敦子;編集 内田慎一)

© Thomson Reuters 2013 All rights reserved関連ニュース

英中銀が資産買い入れ枠を据え置き、金利も0.5%に据え置き 2013年6月6日
英中銀6月金融政策委、6対3で資産買い入れ枠据え置き決定=議事録 2013年6月19日
欧州は日本の教訓踏まえて大幅な改革必要=カナダ中銀のカーニー総裁 2013年5月22日
焦点:世界的に株主還元が増加、設備投資が犠牲に 2013年5月10日


  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
  削除対象コメントを見つけたら「管理人に報告する?」をクリックお願いします。24時間程度で確認し違反が確認できたものは全て削除します。 最新投稿・コメント全文リスト

 次へ  前へ

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民80掲示板

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民80掲示板
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
この板投稿一覧