03. 2013年6月27日 09:19:10
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Bpress>海外>The Economist [The Economist]FRBの量的緩和の行方:だいぶ明確になったが・・・ 2013年06月27日(Thu) The Economist (英エコノミスト誌 2013年6月22日号) 債券買い入れを継続し、打ち切るかもしれない時期について説明するベン・バーナンキ議長は正しい。 ベン・バーナンキFRB議長は量的緩和からの「出口」という難しい問題を抱えている〔AFPBB News〕
金融市場はこの6週間余り、「緩和逓減(tapering)」について取り乱してきた。緩和逓減は中央銀行の専門用語で、米連邦準備理事会(FRB)が紙幣を増刷して債券を購入する(「量的緩和」を行う)ペースを現行の月間850億ドルから落とすプロセスを指す。 5月初め以降、超緩和政策の終わりへの不安が10年物米国債の利回りを率にして40%以上押し上げてきた。新興国の通貨と債券は大揺れした。FRBの金融引き締めが世界的な金融不安を招いた1994年との類似点を心配する向きもある。 最近の神経質な展開は、超緩和型の金融政策からの出口がいかに揺れの激しいものになり得るかを示している。だが、最近の振れは、米国の中央銀行高官によるお粗末なコミュニケーションの結果でもあった。 FRBの複数の理事は、債券買い入れの縮小が間近に迫っていることを示唆する講演を行ったが、緩和逓減がなぜ、どのように、いつ始まるのかについてバラバラなメッセージを送っていた。 6月18日、19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)が動揺に終止符を打つことは最初からあるはずもなかった。だが、今回のFOMCは、中央銀行高官たちの計画について、待ち望まれた明確さをある程度示す機会を提供した。そして中銀は概して、この機会を最大限に生かした。 買い入れ縮小のリスクの方がまだ大きい FRBは、債券買い入れペースを即座に減速させるべきではないという賢明な決定を下した。なぜなら、債券買い入れを縮小させるリスクはまだ、債券買い入れを増やすリスクよりも大きいからだ。 同時に、FRBのベン・バーナンキ議長は、景気が予想通り改善し続けた場合には、年末に向けて債券買い入れのペースを緩めると明言した。米国の失業率が7%まで下落した時(バーナンキ議長はその時期を2014年半ばと予想している)、FRBは新たな債券の買い入れを停止する計画だという。 透明性は賞賛に値するものだったが、バーナンキ議長は、早計な緩和逓減に注意すべきだ。債券買い入れのペースを維持することを正当化する論拠は強力だ。 FRBが債券買い入れプログラムを拡大し、労働市場が「大幅」に改善するまで継続すると約束した2012年9月以降、失業率は7.8%から7.6%に低下し、国内総生産(GDP)は約2%のペースで拡大してきた。 これらの数字は景気回復を示しているが、目覚ましい回復にはとても見えない。実際、FRBは先日、2013年の成長見通しを2.3〜2.6%へと若干引き下げた。米国がGDP比約1.75%に相当する予算縮小を実施していることを考えると、この成長率は悪くない。 だが、政治家が早計に財政政策を引き締める決意を固めている以上、中央銀行はもっと長く金融緩和を継続する必要がある。 まだ不確かな景気指標 米国のインフレ率も、失敗するにせよ、過度の緩和で失敗した方がましだということを裏付けている。消費者物価の上昇率は非常に低く、しかも低下している。FRBが好む指標である個人消費支出価格指数は前年比1.05%上昇しており、50年間にわたる同統計の歴史の中で最も小幅な上昇率となっている。 また、将来のインフレ率に対する投資家の期待も、ここ数週間で急低下している。消費者物価が中央銀行の目標よりゆっくりと上昇しているだけでなく、将来のインフレ率に対する期待が低下していることは、実質借り入れコスト(期待インフレ率で調整した後の名目金利)が上昇したことを意味しているのだ。 どちらのトレンドもデフレ懸念を示唆するほど急激なものではないが、それらはまだ、仮に出口を模索するとしても、ゆっくりと行うことを支持する内容になっている。 債券買い入れの早急な縮小を支持する最も強力な議論は、債券買い入れの経済的恩恵が小さくなっており、FRBが大量の債券を保有することによる潜在的な歪みが拡大しているというものだ。この見方は正しいかもしれない。だが、仮にそうだったとしても、緩和逓減は慎重に行われるべきだ。 過去数年間のパターンは、FRBが債券買い入れの規模を縮小し、その後、景気回復が期待外れになると買い入れを再開するというものだった。 そうしたパターンの再発と長期債券購入の歪みを避ける最善の方法は、より長く緩和を継続し、バーナンキ議長が言うように、経済が確実に「脱出速度」に達するようにすることだ。 重要なのは何をするかではなく、それをどう表現するか 長引く債券買い入れのリスクを最小化するもう1つの方法は、買い入れが終わる時の状況について極力明確にすることだ。労働市場の「大幅」な改善というこれまでの曖昧な表現は、十分ではなかった。だからこそ、先日のバーナンキ議長の具体性は非常に重要だった。 ゼロ金利環境の中では、中央銀行は、行動を通してよりも言葉を通しての方が金融情勢に大きな影響を与えることができる。中央銀行が持つ最も強力な手段は、将来のインフレ率に対する投資家の期待に働きかける能力だ。 だが、そこに難しさが潜んでいる。FOMCの後、10年物国債の利回りは急上昇した。投資家が、FRBの明確さをよりタカ派的な動きを意味するものと解釈したからだ。投資家は間違っている可能性が十分にある。 バーナンキ議長は心を砕いて、緩和逓減への道のりは「統計次第」だと指摘した。インフレ率が不安なほど低いままだったり、成長が弱かったりした場合には、FRBは債券買い入れを継続する可能性がある。 しかし、その一方で、米国の中央銀行高官らが債券買い入れプログラムから抜け出したい一心で、経済の将来の道筋について希望的観測を抱いている可能性もある。そして、そのことが、この先さらに振れの激しい展開につがなる恐れがある。
大荒れの市場、日本国債が思わぬオアシスに 2013年06月27日(Thu) Financial Times (2013年6月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 1週間前に国会に現れた日銀の黒田東彦総裁はまるで別人のようだった。今年4月に「異次元」の金融緩和を打ち出して投資家をあっと言わせた時の堂々たる姿とは大きく異なり、おどおどしていると言ってもよさそうなほどだった。 「もし量的・質的金融緩和についての日銀の意図が誤って解釈されたり、混乱を招いたりしたのであれば、遺憾に思う」。世界で2番目に大きな債券市場が下落し、ボラティリティー(変動率)の高い状態が続いていることについて黒田氏はこう述べた。 米国債などとの利回り格差が拡大、再び安全な避難先に 日銀の黒田東彦総裁〔AFPBB News〕
だが、それ以降、市場は黒田氏にいくらかの援軍を提供している。この点は米国債と比べてみればよく分かる。米国債は、米連邦準備理事会(FRB)が先週、資産買い入れの縮小に言及してから急落している。 しかし、日本の国債市場はまるで静かなオアシスのようなのだ。 日本国債5年物のヒストリカル・ボラティリティー(10日ベース)は現在、FRBが超金融緩和政策の出口に向かい始めるような姿勢を示して投資家を最初に不安にさせた5月22日の水準にほぼ戻っている。 一方、米国債と日本国債の利回りの差は2年ぶりの大きさに広がっている。ほかの先進国の国債と日本国債との利回りの差も急拡大している。 東京に本社を構えるパインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長として約1300億円を運用している松川忠氏は「日本国債は、安全な逃避先という地位を取り戻し始めた」と言う。 これは計画の一部だ。安倍晋三首相がまとめた成長戦略には、債券利回りを十分に低くかつ安定した状態に保つことで、投資家がリスクの高い資産(株式、不動産、外国資産など)に資金を移すことを促し、インフレ率引き上げの一助になるようにするとの目標が盛り込まれているのだ。 しかし、アナリストの間には、「アベノミクス」が成功するとはまだ言い切れないと警戒する声がある。 東短リサーチのチーフエコノミスト、加藤出氏は、投資家にポートフォリオの中身を本当に入れ替えさせるためには、「運用先としての日本国債の魅力が低下する」ところまで名目金利が低下しなければならないと指摘している。 ところが、複数のアナリストによれば、年金基金など大口の機関投資家は、利回りが1.7%を超えていれば20年物の国債を進んで購入するという。それだけあれば、彼らの平均的な負債と十分に釣り合うからだ。国債価格はここ1週間、その近辺で推移している。 ボラティリティーの抑制を図る日銀 日銀はまた、日中のボラティリティーも一定の範囲内に抑える必要がある。これまでは債券買いオペの頻度を高めることで市場の乱高下に対応しており、日次の相場変動をならすのに役立てている。 ただ、日銀がどの年限の債券をターゲットにするかを投資家が予想し始めたことから、価格が急上昇した後で急落するという現象も見られている。過剰在庫を抱えた投資家が、流動性の低い市場でこれを処分しようとするためだ。 日銀の債券貸出プログラム(国債補完供給)の条件を緩和するという手もあるのではないか――。メリルリンチ日本証券のチーフ債券ストラテジスト、藤田昇悟氏はこう語る。FRBは債券貸出について1日当たりの上限を設けていないが、日銀は1銘柄につき2000億円までとしているうえに、特定の銘柄にかなりの圧力が加わったときにしか貸出を実施していないという。 FRBが現在行っている資産買い入れの規模は月額850億ドルで、日銀のそれ(7兆5000億〜9兆5000億円)とほぼ同じ。しかし、米国の経済規模は日本の3倍だ。 「ということは、日銀は3倍効率的にやらねばならないが、今はそれができていない」と藤田氏。「ポートフォリオ・リバランス効果が顕在化し始めるのは、安全資産が安全資産として振る舞う時だけだ」。藤田氏の同僚である大崎秀一氏はそう付け加える。 投資家が本当に、日本がデフレ問題を克服しつつあるという考えを受け入れるためには、予想インフレ率が上昇し続ける必要がある。 だが、株式市場が5月22日に高値を付けてから、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI、固定利付国債と物価連動債の利回り格差)は着実に低下してきた。 日本の物価連動債市場は厚みを欠き、主に外国人投資家が売買しているため、こうした予想インフレ率は物価上昇に対する一般的な予想の指針としては不正確だ。だが、それでも日銀はBEIを注視している。日銀の岩田規久男副総裁が今週、日経新聞に語ったように、マイナスの実質金利は融資に対する広範な需要を喚起するうえで不可欠だと見られている。 国内外の経済統計で荒れる恐れも 安倍政権は26日で発足から丸半年を完了したことになる。向こう3年間にわたる自民党の政権維持を固めるかもしれない7月21日の参議院選挙を前に、同党にとって最大の弱点は今も金融市場の動きだ。 SMBC日興証券の債券ストラテジスト、岩下真理氏は、28日に発表予定の日本の消費者物価指数や鉱工業生産指数、あるいは来週発表される米国の雇用統計が足元の安定をあっさり乱す可能性があると言う。 だが、今のところは、日本国債は「怖いほど落ち着いている」と、バークレイズ証券のストラテジスト、徳勝礼子氏は話している。 By Ben McLannahan
http://diamond.jp/articles/print/38008 【第70回】 2013年6月27日 高橋洋一 [嘉悦大学教授] 中国のシャドーバンキングを放置すれば「第2のリーマンショック」が起きるのか? 中国の銀行同士で資金を融通し合う短期金利が一時上昇し、その結果、上海株が暴落し、世界各国の株式市場にも波及している。この中国での短期金利の上昇には、中国のシャドーバンキング(陰の銀行)の問題がある。 シャドーバンキングが問題になったのは、米国発のリーマンショックの原因としてその急速な拡大があったからだ。 リーマンショックの原因をたどるとサブプライムローン問題であり、証券化手法によってリスクが見えなくなっていたものが一気に顕在化したのが原因だった。このため、シャドーバンキングをどのように規制監督するかが世界の金融監督者間の問題だった。 シャドーバンキングは「ノンバンクによる信用仲介システムのうち、システミックリスクおよび(または)規制格差(regulatory arbitrage)の懸念をもたらすもの」と一般的に定義されている。 具体的なシャドーバンキングは、@住宅関連のモーゲージブローカー、Aファイナンス会社、B資産担保証券の発行者、C資産担保コマーシャルペーパーの発行者、D銀行の連結対象の投資子会社、Eマネー・マーケット・ファンド、Fノンバンク、Gヘッジファンド、Hデリバティブ商品会社、I銀行持株会社等で構成される。 中国の現状は、米国のサブプライム 〜リーマンショックの過程と同じなのか シャドーバンキングは中国にもあるが、国営の金融機関の間隙を縫って近年急速に拡大しており、その影響が懸念されている。中国のシャドーバンキングとして、ノンバンク経由と信託経由のプロジェクトファイナンスがある。資金の出し手について、前者は企業や企業集団であるが後者は個人だ。これらのシャドーバンキングを通じて、企業や個人の大量のマネーが地方における不動産開発に流れ込んでいるといわれている。 中国の地方政府の債務リスクが拡大し、このままシャドーバンキングの膨張を放置すれば、金融不安を招くおそれもある。これは、米国でシャドーバンキングによってサブプライムローン問題が起こり、リーマンショックになったのと似ているという見方もある。 ただ、サブプライムローン問題からリーマンショックに至るときの価格形成において中国は米国とは違うという意見もある。米国では、証券化商品の価格の低下をきっかけとして実際の価格が不透明な中で、資金の出し手になった金融機関が売り一辺倒になって、ここの金融機関としては合理的な行動は、結局全体としてみれば大きくクラッシュを招いた。 しかし、中国では資金の出し手は個人であるので、売ろうにも売れないので、それが大きなクラッシュを引き起こさないという考えだ。個人と金融機関の投資行動は違うのかどうかは、興味深い問題である。 中国経済がリーマンショックのような規模のショックを起こすのかについて、予測するのは難しいが、これだけ各方面から指摘されているので、よもや起こることはないと信じたい。 中国政府がシャドーバンキング潰しに動けば 実体経済も壊す可能性がある ただし、金融政策をシャドーバンキング潰しに使うのであれば別である。金融政策は強力なマクロ経済ツールであるので、シャドーバンキングだけでなく、実体経済も壊す可能性があるからだ。角を矯めて牛を殺すになりかねない。シャドーバンキングに対する世界の流れは、業者規制で対応するという方向だ。中国人民銀行の高金利容認は一時的であり、その後資金供給の予定も公表しているので、とりあえずは一安心だが、金融政策での対応はあまりに乱暴だ。 4月4日の本コラム第63回「バブル再来懸念に答える その生成と崩壊への対応を検証する」で書いたように、インフレ率が高くないときに、金融引締めを行うのはまったく愚策である。日本の90年代以降の経済停滞は、90年当時の金融引き締めを正しい(平成の鬼平論)と信じこみ、その後も金融引締めを続けたことで説明できる。 中国国家統計局が6月9日に発表した5月のインフレ率(消費者物価指数の上昇率)は前年同月比2.1%と、4月より0.3ポイント鈍化している。中国の2013年のインフレ率は「3.5%前後」となっており、今の金融引締めはシャドーバンキング潰しどころか、実体経済を壊してしまうだろう。 中国のシャドーバンキングは、官製金融が跋扈し市場金利が浸透しないなかで拡大してきた。言うなれば、中国の市場化のシンボルでもある。これが中国には面白くないのかしれないので、金融政策でシャドーバンキング潰しがありえる。それが実行されると、中国経済でのリーマンショックの再来がありえるかもしれない。今のマネーストックの高い伸び率にストップかけると、90年代の日本のようになるだろう。 もっとも、そうなっても、日本経済への打撃は最終限度に抑えられる。リーマンショック時に、世界各国が金融緩和する中で、日本だけが金融政策無策で刷り負け、円の相対的な希少性が増し、日本一国だけが円高になって経済不況を招いた。それは、白川日銀の失敗であったが、黒田日銀ではそうした失敗を繰り返すことはないだろう。
2013年06月26日 目先的なドル/円の戻りには自ずと限界がある!? 前回(6月19日)更新分で述べたように、目下のドル/円は5月22日につけた高値=103.73円から始まった「第4波の修正波」の局面にあると見ることができ、この「修正波」はa−b−cの3つの波で構成される可能性が高いものと思われます。 ここで、6月13日の安値=93.79円までが「a波」であったと仮定した場合、それ以降は「b波」のリバウンド局面に入ったと考えることになり、実際、6月20日に5月23日以降の下落局面の中で形成された上値抵抗ライン(下図の紫点線)を明確に上抜けたことからも、目下は「b波」の局面下にあるとの感触が強まっています。 そうであるとするならば、次に焦点となるのは「この『b波』のリバウンドはどのあたりで終点になるのか」ということです。つまり、目先の戻りメドはどのあたりかということであり、それは一つに一目均衡表(日足)の「雲」下限、あるいは21移動平均線(21日線)と想定することになります。その実、昨日(25日)までのドル/円は、「雲」下限ならびに21日線を終値ベースで上抜けてはいません。 ちなみに、日中(ザラ場)の高値は6月24日につけた98.70円であり、これは5月22日高値から6月13日安値までの下げに対する50%戻し=98.77円に近いことから、同水準を以てすでに「b波」は終了したと考えることもできなくはありません。 ただ、執筆時のドル/円が21日線を上抜けてきていることも事実であり、場合によっては今後「雲」下限を上抜けてくる可能性もないとは言えません。いきおい、6月24日高値=98.70円や50%戻し=98.77円を明確に上抜けてくれば、次に40日移動平均線(40日線)、あるいは61.8%戻し=99.94円を試す展開となる可能性も十分に残されていると言えるでしょう。 仮に、一段の戻りを試す展開となったとき、やはり注目しておきたいのは一目均衡表(日足)の「遅行線」です。この「遅行線」が再び日々線を力強く上抜けるような展開となるのか、それとも一旦は日々線の抵抗にあって「遅行線」が再び下向きになるのか...。「第4波の修正波」がa−b−cの3つの波で構成されるとするならば、自ずと「b波」の戻りには限界があり、「遅行線」と日々線の関係は後者のパターンとなる可能性が高いと言えるのではないでしょうか。 セオリーに基づいて考えれば、あくまで目先のリバウンドと考えられる「b波」はいずれ終了し、後に訪れる「c波」の終点は「6月13日安値=93.79円と想定される『a波』の終点よりも低い水準に位置する可能性が高い」ということになります。そうであるとするならば、戻り一巡後の下値メドは、一つに昨年9月安値から今年5月高値までの上げに対する38.2%押し=93.58円、あるいは4月2日安値=92.57円、2月25日安値=90.88円などが想定されるところとなるでしょう。 コラム執筆:田嶋 智太郎 経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役
http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/20130626_123012.html 日経平均下落の本質を探る 13日 日経平均が一時870円安、新興国の株式・債券・通貨同時安で 13日の日経平均株価は、下げ幅が一時今年2番目となる870円を超え、円相場は14日、一時1ドル93円台と、4月4日以来の水準まで上昇しました。新興国で、株式、債券、通貨の同時安が進み、投資家のリスク回避姿勢が強まったことが背景にあり、安全志向の資金は債券にも向かい、長期金利が1ヶ月ぶりの水準に低下しました。 新聞やテレビの報道でいろいろな説明をする人がいますが、全部間違っています。アメリカのQE3の終了に神経質になっていると説明されていますが、もしそうであり、安倍・黒田両氏の経済運営が評価されているならばお金は日本に向かうはずなのです。また、新興国の株式・債券が同時安ならば、それもやはり日本に向かうはずなのです。つまり、今回の下げは日本の問題によって売られていると見るのが正しいでしょう。その理由は基本的には安倍、黒田両氏による厚化粧が剥げ、就中、成長戦略の中身がないことが明らかになり、お金だけで勝負しようとしていることについての評価が非常に低くなってきているからです。
安倍、黒田両氏の政策はこれ以上何も出てこないのではないかということがポイントなのです。新興国のせいでもなければ、アメリカのマーケットにつられているわけでもありません。今までのお金の動きから見るとアメリカがおかしくなればなるほど日本にお金がきます。逆に日本がおかしくなればアメリカにお金が向かいます。お金は国境をまたいでより良い所に行くわけですから当然です。今回のように経済新聞や経済番組を鵜呑みにすると、経済がよりわからなくなるのです。 ヘッジファンドの人たちが私の所にも相談にやってきますが、彼らは本格的な規制緩和、規制撤廃、本格的な改革を、日本がどこまでやる覚悟があるのかということを問題にしています。本格的な改革はないことがはっきりしたので、失望により離れていっているわけです。日本の新聞などは、痛みを伴う改革が問われるのはこれからだといった論調ですが、そうではなく、ここまでに痛みを伴うことをやっていなければいけないのです。支持率が6割7割あっても参議院選があるからやらないということは、いつまでたってもやらないのです。 為替は黒田総裁の本格的な操作が始まる前に円高になり、株価も大きく下落。10年国債の利回りも高止まりしている状況です。投資マネーを動かすヘッジファンドは去年の11月安部政権ができることになり、期待感から買い始めました。リスクを取って買いに行きましたが、安倍総理は期待通りの動きで、世界中から資金が向かってきました。しかし今は、日本もリスクが非常に大きくなりリスク回避の動きが出てきたわけです。ロシア危機の時には、債券市場で下手なものにかけてしまい逃げ場がなくなり、ノーベル経済学賞を取ったような人でもリスクの分析ができなかったと笑いものになりましたが、今、同じ状況になってきています。ヘッジファンドも非常に自信がなくなり、リスクを避け、投資対象は米国債くらいしかないというところまで来ているのです。 物価連動国債を10月発行へ 〜財務省〜 財務省は14日、10月をめどに約5年ぶりに物価連動国債の発行を再開する方針を明らかにしました。今年度は合計で6,000億円を2回程度に分けて発行する方針で、物価が下落しても元本割れにならない商品設計にすることで幅広い投資家に購入を促し、国債の安定消化につなげたい考えです。 今心配なのは、黒田総裁の政策で2%を目指してやけっぱちになってお金をばらまいてしまい、2%のインフレにとどまらず、ハイパーインフレになってしまうことです。その場合は、インフレスライド債というのを出してくれるとありがたいです。インフレになり今の1万円の価値が5,000円しかなくなったとき、インフレスライドしたものを返してくれるなら安心できます。しかし、国は国債の借金を目減りさせるためにインフレに誘導しているのが本心なので、インフレにスライドした金額を返すのはいかがなものかと思うでしょう。 今回発行が決まった物価連動国債は国民を騙すためのフェイントであり、私たちが望むものとは違います。われわれが望むのは、ハイパーインフレが起こったときにそれを償ってくれるものです。ハイパーインフレが起これば国は借金が大きく減るので、願ってもないことになります。今回はポイントがずれているかフェイントの悪巧みの行き過ぎかどちらかであり、これを見抜く力が大切です。 2040年の生産年齢人口 2010年比23%減、高齢者人口は50%増 国土交通省が11日発表した首都圏白書によると、2040年時点の東京圏の生産年齢人口は2010年に比べ23%、550万人減少し、高齢者の人口は50パーセント増加する見通しが明らかになりました。これについて国土交通省は、空き家の増加や介護施設の不足が深刻になると分析、鉄道など公共交通網の維持も課題になると指摘しています。 アベノミクスでは基本的に、人口減の問題、生産年齢人口の減少の問題については何も語っていません。実はこの問題が最大の問題であり、ちょうどその対極に一千兆円を超す借金があります。この借金を誰がどうやって返すのかを示さない限り、第二の矢である財政政策は片付かず、第三の矢の成長戦略も、人が減り続ける中、日本企業が成長することは難しいでしょう。日本においては人口問題が最大の問題であるという認識を持たないといけません。 グラフを見ても生産年齢人口が下がり、高齢者すなわち扶養される人口が増えてくることは明らかです。これを踏まえると、成長戦略に関する経営者アンケートがいかに能天気かよくわかります。
日経新聞がまとめた主要企業の経営者に対するアンケート調査の結果によると、政府の成長戦略について一定の評価をすると回答したのは88%に達しました。また、安倍首相が秋にも検討する追加策に盛り込むべき政策では、思い切った法人減税を挙げる企業が95.4%にのぼりました。これを見ると、経営者がいかに国家のことを考えていないか、成長戦略が何かを考えていないかが分かります。税金を減らせという以外は何も意見がないということです。経営者一人ひとりに成長戦略をどうしたらいいか尋ねたら考えていないに違いありません。これは大きな問題で、自社の商品が売れるなら日本ではなくてもいいと考えていることが如実に表れています。これを批判的に捉えることもなく、よく記事にしたものだと思います。 日本の財政問題については、6月10日週のビジネスウィークに記事が出ています。各国の負債をグラフで表し、イタリアでも横ばいに近く、アメリカも100%程度であるのに、日本の借金は200%を超える勢いで増え続けていることが示されています。そして、日本のGDPが世界全体のGDPに占める割合は、7%から2030年には4%、2060年には3%になるというグラフを示し、どのように借金を返すのかと論じました。成長戦略はもとより、財務戦略が全くないことから、奇跡が起きなければ無理だろうという内容です。 結局、アベノミクスの化けの皮が剥がれている状況であり、これをひっくり返すには、例えば明確に移民を毎年70万人ずつ入れる、大都市の建築基準法をドラマチックに変えるなど、大胆な施策を入れるべきでしょう。成長戦略を考える人たちは、日本の現状についてもっと危機感を持ってあたるべきなのです。 大前 研一 コラム:「強い円」と「強いドル」、綱引きを決する新興国=佐々木融氏 2013年 06月 26日 23:29 JST 佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長(2013年6月26日) 19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)にはいくつか注目すべき点があったが、その中でも為替相場に最も大きなインパクトを与えたのは、連邦準備理事会(FRB)理事、各地区連銀総裁が適切と考える将来の政策金利予想だろう。 内訳を細かく見ると、2015年末までに政策金利が0.75%以上に上昇すると予想するメンバーは今年3月時点の11名から16名に増加した(19名中)。タカ派の4名の予想を除外して加重平均すると、15年末時点での予想政策金利は、3月時点の0.77%から0.97%まで上昇した。 これを受けて、15年半ば頃にもFRBが利上げを開始するとの期待が高まっている。仮に今後のFOMCで25ベーシスポイント(bp)の利上げが毎回行われるとすれば、15年末時点で政策金利が1.0%になるためには、15年7月には利上げが開始されることになるからだ。 こうした期待を背景に、フェデラルファンド(FF)金利先物15年12月限は0.8%近辺から1.1%台まで急騰している。また、政策金利の先行きを占う上で注目されることが多い2年物金利にも動きが出始め、米2年スワップ金利は1年振りに0.5%台後半まで上昇した。予想を上回る4月雇用統計が発表された5月初め以降、量的緩和の早期終了期待の高まりもあって、米金利は上昇トレンドを続けていたが、19日のFOMCを受けて、その勢いが加速した格好だ。 これまでも、米国の利上げ期待が高まるなどして米2年金利が上昇すると、ドルは上昇することが多かった。これは、ドル金利の短期セクターの上昇は、ドルの調達コストの上昇を意味するため、ドルを資本調達通貨として新興国の資産や高金利通貨などに投資されていた資金の動きが反転し始め、ドルが買い戻されるためと考えられる。 利上げ期待で米2年金利が今後も上昇し続けるようであれば、「ドル買いによるドル円の上昇」が持続する可能性がある。ここ数年弱くなることが多かった日米2年物金利差とドル円相場の相関も、再び強まってくるかもしれない。 <円は足元で最強通貨、背景に新興国市場の不安定化> 一方、日経平均株価が急落した5月23日以降、円の強さも続いており、主要通貨の騰落率を見ると、円は「最強通貨」となっている。 この背景としては、1)日本の長期金利急騰などを受けた日経平均株価の急落、2)米国の量的緩和縮小懸念の高まりと米金利上昇を受けた新興国市場の不安定化、3)中国の短期金利上昇と株急落などが、世界の投資家のリスク回避志向を強め、円の買い戻しを誘発しているためと考えられる。 昨年11月以降、アベノミクスや異次元金融緩和に対する期待を胸に円を売ってきたのは、もっぱら海外の投資家だった。こうした海外勢は実需としての円売り需要はほとんどないため、円を資本調達通貨として利用(売却)し、高金利通貨や新興国通貨・資産に投資を行うというポジションを造成してきたものと考えられる。 したがって、新興国の通貨・資産が一段と下落するようなことになると、投資を手仕舞い、資本調達通貨として利用(売却)してきた円を買い戻す必要が出てくる。この結果、円は「強い通貨」となる。実際、JPモルガンが算出している主要新興国長期金利の加重平均値は、5月上旬の5.1%近辺から現在は6.7%近辺まで急騰(債券価格が急落)している。 ちなみに、通貨オプション市場でも円ショート・ポジションが依然として積み上がり、場合によってはさらに円の買い戻し圧力が大きくなる兆候も見られている。 足元のドル円オプション市場では、円コールオプション(円を買う権利)の価格が割高になってきている。ドル円相場は現在、97―98円台と輸出企業の予算レートよりも比較的円安水準で推移しているが、円コールオプションの価格はドル円相場が80円を下回っていた頃と同程度割高になってしまっている。 この事を見ても、海外勢の円ショート・ポジションは依然として高水準で、こうしたポジションを保有する投資家が不安を感じ始め、円を買う権利を慌てて購入していることが分かる。 <リスク回避なら買い戻し圧力は円に軍配> このような「強いドル」と「強い円」の綱引きでどちらが勝利するかは、新興国市場の動向次第であると考えられる。 仮に中国市場を含む新興国市場の不安定さが続き、世界の投資家のリスクテイク志向が後退を続けるような事態となった場合、実体経済にも影響が及び始め、景況感の悪化から他国と共に米国の株価もさらに下落することになる。 そうなれば、FRBによる量的緩和縮小、15年中の利上げ期待も急速に後退せざるを得なくなるだろう。結果的に米金利が低下し、ドルは反落する可能性が高まる。一方、この場合、円の買い戻しが続くことになるため、「ドル安・円高」となり、ドル円相場はさらに下落する可能性が高まる。 もちろん、投資家のリスクテイク志向の後退はドルの買い戻しにもつながるが、昨年11月以降の市場の動きから推測するポジションの傾きに鑑みれば、本格的なリスク回避の動きが始まったら、ドルの買い戻しよりは、円の買い戻しの方が圧倒的に大きくなる可能性は非常に高い。 一方、中国市場を含む新興国市場が安定を取り戻せば、FRBの量的緩和縮小・15年中の利上げ期待はますます高まる可能性もあり、これは短期セクターの米金利のさらなる上昇を通じてドルにとってポジティブに働くだろう。そして、こうした状況は、世界の投資家が円を資本調達通貨としたリスクテイクを再度拡大させることを意味する。そのため、円は「弱い通貨」となる。この場合は、「ドル高・円安」となり、ドル円相場は再び上昇することになるだろう。 *佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。 日銀の金融緩和は「パールハーバー」か?「戦艦大和の特攻出撃」か? 評価の中に目立つ軍事・戦争関連の表現を考える 2013年6月27日(木) 上野 泰也 黒田東彦総裁が率いる日銀が4月4日に「量的・質的金融緩和」を導入してから、まもなく3カ月が経とうとしている。対外公表文に「量・質ともに次元の違う金融緩和を行う」とあるので、「異次元緩和」とも呼ばれる。 日本経済そのものを対象にした「壮大な実験」だと言われることも少なくない。来日した経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長は4月の対日審査報告発表後の記者会見で、日銀の試みは「まったく新しいアプローチ。海図なき旅に乗り出そうとしている」と評した。 これらのほかにも、今回の日銀の行動がいかに大胆な賭けであるかを示す言い回しがよく用いられており、目立つのが軍事・戦争関連の表現である。ここでは、第2次世界大戦に関連する言い回しをいくつか取り上げたうえで、史実などを確認しておきたい。 ちなみに筆者は、第2次世界大戦のうちナチスドイツなど欧州戦線の関連では、若い頃から本をたくさん読んだり現地を訪れたりしており、かなり詳しいと自負している。 「バズーカ砲」 金融市場に対して威力のある措置を、主に米国の市場関係者などが「バズーカ砲」(米軍が使用した携帯式対戦車ロケット弾発射器)と呼ぶことがある。 近年では、住宅バブル崩壊や「リーマンショック」発生後の金融システム安定化策の柱として「TARP(不良資産救済プログラム)」を打ち出した米国のポールソン財務長官(当時)が、これを「バズーカ砲」と呼んだ事例がある。 今回は、内外のメディアが日銀の「異次元緩和」を「黒田(総裁)のバズーカ砲」と、しばしば形容している(4月17日付の英フィナンシャルタイムズ紙など)。 しかし、実は麻生太郎副総理・財務・金融担当相が、日銀が4月に「異次元緩和」に動くより前から、この言い回しを用いている。2月15、16日にモスクワで開催された20カ国(G20)財務相・中央銀行総裁会議で麻生副総理は、「3本の矢」ではなく「スリー・バズーカ(砲)」だと英訳して、「アベノミクス」を説明したという。 さらに、4月19日付の英フィナンシャルタイムズ紙に掲載された寄稿の中で、麻生副総理は「日銀がすでに金融のバズーカ砲を撃ったがデフレは1つのバズーカ砲だけでは破壊することができないものであり、われわれは3つのバズーカ砲を撃つ」とした。 また、市場は最初のバズーカ砲の爆風を感じているとも述べた。同日にワシントン市内で行った講演では、「アベノミクスの『3本の矢』と呼ぶが、私はクレー射撃の選手として五輪日本代表も務めたので、矢ではなく『バズーカ砲』と呼んでいる」と、麻生副総理は説明した。 「パールハーバー」 デフレが15年続いた後、指導者たちは再び劇的に針路を変え、インフレを目指して猛スピードで進んでいる。戦略的な意味では、この突然の変化は悪名高い真珠湾(パールハーバー)攻撃とよく似ている。 (中略) 日本の現在の財政状況は持続不能だ。支出するお金の半分をいつまでも借り続けることはできない。自国の労働人口、ひいては将来見込まれる税収基盤が永遠に縮小し続ける場合はなおのことだ。 (中略) このため何らかの債務危機が訪れる。だが、債務の90%以上が国内で保有されているため、将来の日本政府が全面的にデフォルト(債務不履行)する可能性は低い。それよりずっとあり得そうなのは、政府が紙幣の印刷機を用いることだ。いずれにせよ最後にインフレになるのであれば、間違いなく先手を打った方がいい。真珠湾の時と同様、日本が抱く期待は、敵の機先を制すれば優位に立つチャンスがある、ということだ。 (4月18日付 英フィナンシャルタイムズ紙『パールハーバーのような決断をした日銀』。和文は日経電子版を採用) 日本は1941年当時、石油の約8割を米国からの輸入に依存していた。ところが、日中戦争を続ける日本への制裁として米国が対日石油禁輸に踏み切った。英国・オランダ・中国と合わせた4か国による「ABCD包囲網」が意識される中、国内の石油備蓄が枯渇すれば日本はジリ貧になるしかなく、そうなるより前に対米開戦すべしという「ジリ貧論」が陸軍を中心に台頭。山本五十六長官ら海軍の慎重派が押し切られる形で、太平洋戦争が始まった。 戦争の遺物たちは今の日本をどう見ているのか・・・ 真珠湾攻撃(パールハーバー。1941年12月の日本海軍による米ハワイ真珠湾への攻撃)は、奇襲としては確かに成功した。だが、主に撃沈したのは戦艦で、最も重要な空母は1つも沈めることができなかった。この点では完全な失敗だったと評されている。
また、対米短期決戦で太平洋での日本軍優位を固めた上で日本に有利な講和に持ち込むというのが、当時の日本の指導部の腹積もりだったようだが、このシナリオがうまくいかない場合どうするかといった軍事・外交シナリオは、何もないままだった。「出口」戦略を描かずに走っているという点で、いまの日銀の政策運営と見事に似通っている。 「乾坤一擲(けんこんいってき)」 一部メディアによると、日銀内では大胆な金融緩和を「乾坤一擲」と評する声が出ているという。乾坤一擲というのは要するに、きわめて劣勢に立たされた側が一発逆転を狙って打ち出す渾身の一撃ということである。筆者が「国家破局カウントダウン」(朝日新聞出版)や「為替の『誤解』」(同)といった著書の中で、これは「日本人の悪いクセ」だと指摘したキーワードである。 失敗した時には目も当てられない状態になってしまうリスクが大きいことをある程度までは認識しつつも、「これさえうまくいけばなんとかなる」という思考パターンに、日本人は昔からはまりやすい。だが、戦争は言わずもがなとして、マクロ経済政策でそれを行うというのは、いかがなものか。「壮大な実験」が失敗した場合にそのツケを払わされるのは、一般国民である。 「戦艦大和の特攻出撃」 「戦艦大和の特攻出撃」(1945年4月、米軍が上陸していた沖縄に向けて特攻出撃。米軍機の猛攻で大和は撃沈された)――。 マスコミ報道における用例はないようだが、市場関係者との会話の中で筆者がしばしば口にする例えである。極端な精神論重視に基づいた行動であり、「出口」を考えないあたりに、日銀の大胆な金融緩和策との共通項が見出される。 筆者は内外のさまざまな時代についての歴史書もよく読むのだが、以前に読んだ日本の戦国時代に関する本(西股総生著『「戦国の軍隊』学習研究社)に、下記のような記述があった。日銀の場合は、果たしてどうなのだろうか。評価は読者の皆さんに委ねたい。 「第2次大戦後に連合軍は日本軍を評して、兵士たちは勇敢で前線指揮官も優秀だが、高級将校は無能だったと言っている。実際、大戦時の日本軍の戦いぶりを見てゆくと、戦技レベルはかなり高く、戦術レベルでもなかなか巧妙だが、作戦レベルになると破綻が目立ち(ミッドウェー作戦・ガダルカナル島攻防戦・インパール作戦が典型)、戦略レベルでは無策に近いことがわかる。これはそのまま、現在における日本の政治・行政や企業経営に当てはまりそうで、なぜそうなのかを考えると本当は面白い(後略)」 このコラムについて 上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130625/250148/?ST=print
バーナンキFRB議長はQE3を継続するべき 経済成長率も物価上昇率も十分高まってはいない 2013年6月27日(木) The Economist 「テーパリング」という言葉がある。中央銀行の政策に関する用語で、量的緩和(QE)を縮小することを指す。つまり、紙幣を刷り、国債などの資産を購入する規模を縮小する。
この6週間というもの、世界の金融市場は米連邦準備理事会(FRB)がテーパリングする可能性を巡って、混乱を続けている。FRBは量的緩和策第3弾(QE3)として、毎月850億ドル(約8兆3257億円)の米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を買い取り続けてきた。 5月初め以来、現在の超低金利政策に終止符が打たれるのではないかという懸念から、米国10年債の利回りは40%以上高騰している。新興国市場の通貨と国債も打撃を受けた。1994年の再来を懸念する声もある。この時、FRBが引き締め政策を進めたために世界の金融市場が混乱に陥った。 こうした最近の動揺を見ても、超低金利政策の「出口」を見つけることがどれほど難しいことなのかがわかる。 一方で、動揺が広がったのはFRBのコミュニケーション不足が招いた結果でもあった。過去に多くのFRB理事が「証券購入の規模を間もなく縮小する」という意味の発言をしてきた。だが実施の根拠や方法、具体的な開始時期について、これらの発言の内容はバラバラだった。 6月18〜19日に行なわれた米連邦公開市場委員会(FOMC)会合は政策の変更を見送った。だがFRBは、今後の方針の一部を明らかにした。現段階では証券の買取規模を縮小することのリスクが証券購入のそれを上回るとして、緩和を直ちに縮小すべきではないとするFRBの判断は賢明だ。同時に、バーナンキFRB議長は、米経済が予想どおりに改善を続ければ、2013年の年末にかけて証券購入を減速すると述べた。米国の失業率が7%まで下がった時には新規債券の購入を止めると言う。その時期についてバーナンキ議長は2014年半ばを予想している。 経済はまだ十分には回復していない 今回示された透明性は賞賛すべきものだが、バーナンキ議長は早すぎる政策転換には用心すべきである。証券購入ペースを維持する必要性について、強力な論拠がある。FRBは昨年9月、QE3を開始するに当たって「労働市場がかなり改善するまでは続ける」と宣言した。それ以来、失業率は7.8%から7.6%に低下。米国のGDP(国内総生産)は約2%のペースで成長している。どちらも経済回復を示す数値だが、著しい回復を示すとは言えない。 今週、FRBは2013年の成長予想を若干引き下げ2.3〜2.6%とした。政府がGDPの1.75%に当たる規模の財政支出の削減を進めていることを考えれば、まずまずの数字だ。しかし政治家たちが財政の引き締めを急ぐ中、FRBは緩和政策をもう少し継続する必要がある。 米国のインフレの動向を見ても、FRBが緩和政策を続行するのは妥当なことだ。消費者物価の上昇率は異常に低い。下落している時期もある。FRBが重視するコア個人消費支出(PCE)価格指数の伸びは前年比1.05%で、過去50年間で最も低い。また、投資家の期待インフレ率もここ数週間で大きく低下している。消費者物価の上昇率がFRBの目標を下回っているだけでなく、期待インフレ率が下がっているということは、実際の借入コスト(期待インフレ率に応じて名目金利を調整したもの)が上昇していることを意味する。いずれの傾向もデフレ懸念につながるほど顕著ではないが、それでも懸念が徐々に姿を現しつつあることがわかる。 QEの縮小を正当化する主張で最も強力なのは、「証券購入による経済的効果は薄れてきている。その一方で、FRBが資産を抱えることから諸々の歪みが生じる可能性が高まっている」というものだ。確かにそのとおりかもしれない。だがそうだとしても、緩和の縮小は慎重に進めるべきである。ここ数年は、FRBが証券購入の規模を縮小しても、そのあと結局、緩和政策を再開するというパターンが続いている。このような悪循環を避け、長引く証券購入がもたらす障害を回避するための最善策は、バーナンキ氏が言うように経済が不振から脱出するのに十分な速度を得るまで緩和政策を続けることだ。 FRBは希望的観測に従ってはならない QE3の長期化に伴うリスクを最小限に抑えるもう1つの方法は、政策転換の条件をできる限り明確にすることだ。「労働市場が“かなり”回復するまで続ける」という曖昧な表現では不十分だった。だからこそ、今回バーナンキ議長が明確な指針を示したことは極めて重要だ。ゼロ金利環境において、金融市場はFRBの行動より言葉からの影響を受けやすくなる。FRBが持つ最強のツール――それは投資家のインフレ期待を左右する力だ。 だがまさにその点が問題なのだ。今回のFOMC会合後、10年物国債の利回りは急上昇した。投資家がバーナンキ発言に「よりタカ派的な意味」が込められていると解釈したからだ。果たしてそうだろうか。バーナンキ氏は緩和縮小への道筋が「今後の経済統計次第」であることを指摘した。インフレ率が低迷を続けたり経済成長が乏しかったりすれば、FRBは資産購入を続けるかもしれない。しかし証券購入からの脱却を望むFRB が米経済の将来を見る時、何らかの希望的観測に陥る可能性もある。もしそうなら、行く道の険しさはさらに増すかもしれない。
ECBの政策出口なお遠い、行動を取る用意=ドラギ総裁 2013年 06月 26日 23:55 JST [パリ 26日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は26日、フランス下院の委員会で、緩和的な金融政策の解除は引き続き先の話との見方をあらためて示した。 ユーロ圏経済の回復について、緩やかでぜい弱なものとなると予想。成長へのリスクは依然として下向きだと指摘し、必要があれば新たな行動を取る用意があるとした。 ドラギ総裁は「われわれの政策姿勢についてだが、これまで緩和的だったし、現在も、そして予見可能な将来も緩和的であり続ける」と述べた。 さらに、ECBのクーレ専務理事が言及した通り「われわれの出口は引き続き遠い。同時に、活用することが適当と考える他の全ての手段に関して柔軟だ。必要とされれば、再び行動する用意がある」と話した。 27─28日のEU首脳会議を前に、ドラギ総裁は諸改革や銀行同盟の推進を各国に呼び掛けた。「銀行同盟は、金融市場の再統合での進展が恒久的なものとなるよう確実にする上で不可欠」と指摘、強力な単一監督メカニズム(SSM)と単一清算メカニズム(SRM)が重要との認識を示した。 また、ユーロ相場の上昇について、ユーロに対する信頼がある程度回復したことが要因との見解を示した。 ユーロ相場はECBにとって政策目標ではないとしつつ、ユーロ相場は物価安定と成長にとって重要と指摘した。 ここ数週間の金融市場の変調を受け、ボラティリティを注視する姿勢も示した。 ユーロが対ドル・円で下落、ECB総裁の緩和継続姿勢が重し 2013年 06月 27日 00:06 JST [ニューヨーク 26日 ロイター] - 26日序盤のニューヨーク外為市場で、ユーロがドルと円に対して下落している。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁がユーロ圏経済成長へのリスクは下向きだと指摘し、緩和的な金融政策を続ける考えを表明したことがユーロの重しとなった。
第1・四半期の米国内総生産(GDP)確報値が市場予想を下回る伸びにとどまったことを受けユーロはドルに対して一時下げ幅を縮小したが、長続きしなかった。 ユーロは対ドルで0.3%安の1.3046ドル。オーバーナイトでは3日以来の安値となる1.3012ドルをつける場面もあった。 ドルは対円で0.4%安の97.44円。中国の金融不安から、安全資産を求めて円が買われた。
【第10回】 2013年6月27日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 日本の法人税の負担は重くない ?6月14日に政府が閣議決定した日本再興戦略の中で、今年の秋に投資減税を検討する旨が表明された。法人税減税を求める声も大きい。
?この前提にあるのは、「日本の法人税負担は重い」という認識だ。以下では、これが正しいか否かを検証する。 「実効税率」指標の問題点 「日本の法人課税の負担が諸外国に比べて重い」と言われる根拠として、通常用いられるのは、「法人の実効税率」という指標だ。 ?これは、法人税等(日本の場合は、国税としての法人税と、地方税である住民税及び事業税の合計)の法人所得に対する比率である(地方税負担の一部が国税で損金算入されることを調整してある)。 ?2011年当時、「日本の実効税率は40.7%(国税27.89%、地方税12.80%)であり、アジア諸国はもとより、ヨーロッパ諸国より高い」と言われた。 ?こうした認識に基づいて、2011年に法人税率の引き下げが行なわれた(2012年4月1日以後に開始する事業年度について、法人税率を30%から25.5%へ引き下げた。中小法人に対する軽減税率は、18%から15%へ引き下げた:図表1参照)。 ?その結果、日本の実効税率はかなり低下した。財務省の資料によると、図表2に示すとおり、13年1月における日本の実効税率は、東京都の場合、35.64%だ(国税が23.71%、地方税が11.93%)。これは、アジアやドイツ、イギリスなどと比べれば高いものの、米国(40.75%)よりはかなり低く、フランス(33.33%)と同じくらいである。 ?図表3には、実効税率のデータと税務データを示す。 ?イに示したのは、図表1にある実効税率のデータである。 ?ロは11年度予算と会社標本調査のデータを用いて計算した負担率である。減税前なので、B/Cに示す負担率は40%近くになっている。ニは13年度当初予算の計数である(分母となる黒字企業の利益額データがまだ公表されていないので、負担率は計算できない)。 ?ところで、「実効税率」という指標には、つぎの2つの問題がある。
?第1に、分母にあるのは課税上の利益だが、税法は国によって大きく違うため、課税所得をもととした指標は国際比較にはなじまない。国際比較をするのであれば、国際的に統一された基準で計算される会計上の利益を分母にとるべきだ。 ?第2に、分子にあるのは表定税率によって計算した税額だが、さまざまな特別措置によって、実際の課税額は表定税率による課税額とは異なる。 ?こうした問題があるため、「実効税率」という指標を安易に用いて日本の法人税負担の軽重を論じるのは、大いに問題がある。 法人税負担率を推計する方法 ?法人所得課税率をマクロ的に捉えるには、つぎの2つの手段がある。 ?第1は、国税庁の会社標本調査を用いることだ。 ?ここでは黒字企業(利益計上法人)と赤字企業(欠損計上法人)が分けて集計されている。しかし、ここで「利益」とされているのは、課税上の利益だ。また、税として計上されているのは、国税としての法人税だけであって、住民税や事業税などの地方税がわからない。 ?第2は、財務省の「法人企業統計」を用いることだ。ここでは、「法人税等」として、地方税も含んだ数字が示されている。また、「利益」も会計上の利益である。ただし、公表されているのは、黒字企業と赤字企業のネットの額だ。われわれが知りたいのは、税を負担している企業(黒字企業)の利益を分母にした数字だが、それは直接にはわからない。 ?そこで、つぎの方法によって、黒字と赤字を分別する推計を試みる。 ?黒字会社(利益計上法人)の利益額をx、赤字会社(欠損計上法人)の欠損額をyとする。 ?黒字会社と赤字会社を合算した利益額は、x−y=a?(1) ?黒字額と赤字額の絶対数の比率は、???x/y=b?(2) ?ここで、法人税収が正になるために、x>y。したがって、a>0、b>1である。 ?これを解くと、x=ab/(b-1)、y=a/(b-1)?(3) ?が得られる。aは、法人企業統計によって知ることができる。bは会社標本調査の計数を用いることとする。 ?ここで、(1)式は定義によって必ず成り立つ。(2)式のbとして会社標本調査の計数を用いるのは、「黒字と赤字の比率が、法人企業統計と会社標本調査で同一」という仮定によるものだ。これが成り立つかどうかは、法人企業統計の非公開データを調べないとわからない。 ?なお、パラメータbが変化した場合に、(3)で示されるx、yは、図表4に示すように変化する(a=1とした場合の値を示してある)。bの値が十分大きければ、xはほぼ1、yはほぼ0になる。これは、欠損法人がほとんどない場合だ。b=2(赤字額が黒字額の半分ある)の場合には、x=2、y=1となる。 「法人税等調整額」とは何か
?法人企業統計には、「法人税等調整額」という数字が現われる。これについて説明しよう。 ?例えば、ある年度に巨額の赤字が発生したとしよう。その年度には、赤字会社には納税額は発生しない。しかし、その年度の赤字は、繰越欠損金として一定期間(通常7年間)を限度として将来の課税所得と相殺することができる。損益計算書では、それに見合う額をマイナスの「法人税等調整額」として計上する。それを利益と相殺させる年度で、プラスの「法人税等調整額」を計上する。 ?これ以外にも同様の扱いがなされる場合がある。例えば、貸倒引当金として税法で定められた限度額を超えた額を計上した場合、超過分は、会計上は損金となるが、税務上は、相手が倒産して回収不可能になるまでは損金にならない。したがって、超過額に税率を掛けただけの額をマイナスの法人税等調整額として計上し、貸出先が倒産して回収不可能になった年度で同額のプラスの法人税等調整額を計上する。 ?法人税の負担を「現実に支払った法人税等」で見るべきか、それとも「会計上の観点から本来その年に支払うべきだった法人税等」(=法人税等+法人税等調整額)で見るべきかは、客観的な答えが出ない問題である。法人税等調整額に計上できるのは一時的なものだから、一定期間の間にはプラスとマイナスが打ち消し合うはずだ。したがって、ある程度の期間を平均して見れば、どちらで見ても同じはずであるのだが、ある年度だけを見る場合には、両者でかなりの差が生じることもある。 金融機関を含む全産業についての負担率は24%程度 ?法人企業統計で、全産業(金融業、保険業を含む)をとった場合に、負担率がどうなるかを計算しよう。 ?2011年度において、税引前当期純利益(当期末)は43,768(10億円)である。これを、上記のa(黒字会社と赤字会社を合算した利益額)とする。 ?ところで、11年度においては、会社標本調査によると、x(利益計上法人の利益額)=33,940(10億円)、y=欠損法人の欠損額=16,535(10億円)である。したがって、b=x/y=2.05だ。 ?以上の数字を用いて法人税等の負担率を計算すると、結果は図表5に示すとおりだ。 拡大画像表示 ?法人税等のみをとると、負担率は2010年で19.9%、11年で19.8%である。この数字は、実効税率の数字と比べるとかなり低い。
?法人税等調整額は、どちらの年度もプラスだ。これを加えると、負担率は10年で21.5%、11年で24.4%に上昇する。それでも実効税率の数字に比べると低い。 ?2008、09年度はリーマンショックの影響で法人税収が大きく減った年であったが、それを考慮しても、表にある08、09年度の数字はきわめて低い。 ?このように、実効税率として通常言われる負担率と、ここで計算した負担率は大きく異なる。 ?そこで、その原因を考える必要がある。 ?本来は、金融機関を含む全産業のデータを用いてこの問題を分析するのが望ましい。しかし、このデータにはいくつかの問題がある。 ?第1に、データが08年からしかないので、リーマンショック以前の状態を分析できない。第2に、売上高などの基本的なデータがない。こうした事情があるので、分析には不十分だ。そこで以下では、製造業だけについて見ることとする。 製造業についての負担率は30%程度 ?最初に注意すべきは、法人企業統計と会社標本調査の対象は完全に一致しているわけではないことだ。製造業についていくつかの指標で両者を比較すると、つぎのとおりである。 ?まず資本金を見ると、法人企業統計が33,863(10億円)である。一方、会社標本調査では24,148(10億円)だ。これは、法人企業統計の71.3%である。 ?売上高は、法人企業統計が402,091(10億円)であるが、会社標本調査では281,800(10億円)(営業収入金額)である。これは、法人企業統計の70.1%だ。 ?このように、会社標本調査は法人企業統計の7割程度をカバーしていると考えることができるだろう。 ?ところで、2011年度において、法人企業統計における製造業・全規模の税引前当期純利益(当期末)は10,926(10億円)である。これを、上記のa(黒字会社と赤字会社を合算した利益額)とする。 ?また、11年度においては、会社標本調査によると、製造業について、x(利益計上法人の利益額)=8,766(10億円)、y=欠損法人の欠損額=3,460(10億円)である。x−y=5,306(10億円)であり、これは、法人企業統計における税引前当期純利益額の半分程度でしかない。したがって、税務上の利益は、会計上の利益に対してかなり圧縮されているわけだ。 ?さて、会社標本調査の数字を用いると、b=x/y=2.53だ。これと上記のaによって、会計上のxとy(法人企業統計の計数に対応する黒字と赤字)を計算すると、つぎのようになる。 ?x(利益計上法人の利益額)=18,052(10億円)、y=欠損法人の欠損額=7,126(10億円)。 ?この数字から負担率を計算することができる。 ?他の年度についても同様の計算を行なった結果を、図表6に示す。 拡大画像表示 ?リーマンショック前後を除くと、リーマン前が34%程度。2010、11年度は27%程度だ。これは、低いと言われるアジア諸国とも大差がない。
なぜ実効税率より低くなるのか? ?実効税率の数字に比べてこのように負担率が低くなる原因は何か? ?その分析を図表7に示す。 ?上で述べたように、資本金、売上高では、(1)は(2)の7割程度である。法人税等については、(1)は(2)の8割を超えているので、会計上の税のほうがやや少なめになっている。これは、税額控除等の特別措置の影響であろう。ただし、これは、大きな差ではない。
?(1)と(2)の大きな違いは、D欄の利益だ。会社標本調査の利益は、会計上の利益の半分程度でしかないのである。資本金や売上高で推定される両統計のもともとの差異を調整すれば、税務上の利益は会計上の利益の5/7=0.7程度に圧縮されていると考えることができる。 ?このため、税務上の利益を分母に置く実効税率は、会計上の負担率の1/0.7=4割増し程度の数字になるのである。 ?この違いをもたらす要因としては、さまざまなものがある。大きなものとしては、繰越欠損金の当期控除9,706(10億円)、受取配当の益金不算入5,775(10億円)などがある。 http://diamond.jp/articles/print/37990
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130624/250123/?ST=print 英国の法人税率引き下げが増税につながる?
税率20%以下になれば「低税率国」 2013年6月27日(木) 木暮 太一 イギリスは今年3月、現在23%の法人税率を、2015年4月に20%まで引き下げることを発表しました。世界的に見ると、台湾、香港やシンガポールなど、法人税が20%未満の国(地域)も多くあります。しかし、欧米の主要国の中では最低の水準です。 法人税が減るということは、要するに企業にとって“負担”が減るということです。本来であれば企業にはプラスで、いい情報のはずです。しかし、今回のイギリスの決定は、企業に大きな波紋を広げています。というのは、今回の引き下げで企業負担が大幅に増える可能性が出てきたからです。 「課税逃れ」対策としての課税 世界各国の法人税はバラバラです。そして、制度上、その国で「稼いだ利益」は、その国の法人税率に従って、課税されます。国によって制度が違うので、国によって課税額が違うのは、当然のことです。しかし、これを利用して税金を減らすことができます。要するに「タックスヘイブン」「課税逃れ」として活用することができるのです。 ケイマン諸島は、税金逃れとして有名ですよね。ケイマン諸島には、法人税がありません。そのためここに本社を作り、すべてを本社の売り上げ・利益にしてしまえば、法人税をゼロにすることもできることになります。 ここまで極端でなくても、税率の低い国に利益を移し、会社全体で税金を減らそうとする動きは多くあります。アップルやスターバックスも「税金逃れ」をしていると批判されています。 本国からすれば、制度を“悪用”して税金を逃れていると考えられます。そして、これを規制するために、日本では対策として「日本の法人税と同額を支払え」という命令が下っています。いくら税金が安い国に逃げても、結局は日本と同じ税率で払わなければいけなくなるので、無意味になる、ということですね。 イギリスが「タックスヘイブン」扱いに そして今回、イギリスが法人税を引き下げたために、日本の税制度では「タックスヘイブン」としての扱いが適用されそうなのです。日本の「タックスヘイブン(租税回避地)対策税制」(外国子会社合算税制)では、税率20%以下の国を「低税率国」として「追加の税金」をかける対象にしています。 つまりこういうことです。 イギリスがこの「低税率国」としてみなされれば、イギリス国内の子会社の利益にも、日本と同様の法人税(実質約38%)がかかることになります。 もっと分かりやすく言うと、 イギリスに20%分支払い 差額の18%分を日本に払う となります。 法人税率の引き下げは、本来は企業にプラスです。しかし、今回の引き下げでこれまで23%だったイギリスの法人税が、日本企業にとっては38%に引き上がることになります。つまり、15%の増税になるわけです。これが大きな問題になっています。税金が15%上がると言うことは、利益率が15%下がるのと、同じことです。これは企業にとっては、非常に大きいインパクトですね。 ただし、すべての企業にこの措置が適用されるわけではありません。イギリスに工場があり、生産しているなど、事業の「実体」がある場合は適用除外となる見込みです。しかし、持ち株会社や知的財産権の管理会社など、「目に見えない事業」を行っている会社は適用対象になる可能性があります。 まだ、どの企業が今回の“増税”を適用されるか分かっていません。しかし、影響が広範囲に広がる可能性もあります。イギリスもこの事態に対し、「20%ではなく20.1%に引き下げ」という選択肢を検討しているようです。 そもそも、法人税20%は「低税率国」ではない この税金逃れのための措置は、1978年の税制改正で導入されました。当初は「25%以下の国」を対象にしていましたが、2010年に、適用範囲を「20%以下」に変更しました。しかし、既に法人税が「20%以下」の国は世界でも珍しくありません。そして、その国に本拠地を移すことが、必ずしも「税金逃れのため」というわけではありません。 国は課税逃れを取り締まるべきですし、そのためには制度が必要です。しかし、実態と合わなければ、企業の活力を奪うだけの制度になってしまいます。 今回のイギリスの法人税改正とは直接関係ありませんが、法人税の“相場”も、どんどん見直されるべきだと思います。自民党政府は、設備投資を増やすという軸で減税措置の導入を進めていますが、世界的に見て、「法外に高い」法人税を下げることも早急に実現すべきだと感じます。 結局は、税収か雇用か 法人税を安くする理由は、一言で言うと「外国企業を自国に誘致したいから」です。「うちは場所代が安いですよ!」とアピールし、企業を呼び込みたいのです。そして、企業を誘致することで、雇用を増やすことが目的です。要するに、税収を減らしてでも雇用主を増やし、国内の雇用を増やすためにやっているのです。 経済学では、「税率を低くしても、税収が減らない」という議論があります。税率を下げれば、経済活動が活発になり、結果として税収が増えると言う理屈です。 考え方としては理解できますが、現実問題、その確証を持っている人はいないでしょう。「税率を下げれば税収が増える」という確証を持っているのであれば、どの国も既にやっています。その確証がないから、引き下げられないのです。 法人税を安くして企業を誘致しようということは、税収が少なくなっても、雇用を増やそうとしているということです。財政の規律を維持することや、“外せない”国民福祉のために国家がサービスを提供するお金は必要です。 しかし、それによって「空洞化」が起きていることは、かなり前から繰り返し指摘されていることです。国民の福祉のための税収を確保しようとして、雇用が外に出てしまうのは、本末転倒かもしれません。 財務省の統計によれば、リーマンショック以降、法人税の税収は6兆〜9兆円です。もし日本の法人税率が半分になれば、イギリスよりも低税率になり、先進国としてはかなり“魅力的な国”になります。法人税率を半分にすれば、当然税収は減ることが予想されます。仮に「減税効果」がゼロだったとしても、法人税の減少額は単純計算で3兆〜4.5兆円です(実際には、法人税率が下がれば、企業はより多くのお金を投資でき、人が雇え、ビジネスを拡大できるので、「減税効果」がゼロということはありませんが)。 日本が、今の高税率を維持するのであれば、その税収を「有効に活用できる理由」、そして当然「有効に活用している実例」を提示しなければいけないと考えます。
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