02. 2013年6月26日 02:24:04
: e9xeV93vFQ
中国の「7月危機」は本当にやってくるのか習政権のギャンブルはもう始まっている? 2013年6月26日(水) 福島 香織 中国で6月に入ってからのホットワードの1つは「銭荒」だろう。 「金が足りない」という意味だが、日本語で報道されるときには流動性逼迫とか、流動性リスクと翻訳されている。ようするに中国の金融市場で深刻な資金不足に陥っており、債務不履行で倒れる銀行がばたばたと出そうだ、と懸念されている。 政権交代前のかなり前から、「2013年7月危機説」というのは囁かれていた。それが現実味を帯びてきたのが6月に入ってからの中国の銀行間取引金利の急上昇だ。先週20日に中国の銀行間取引金利の指標であるSHIBOR(上海銀行間出し手金利)が翌日物13.44%にまで上がると、日本のメディアも「銀行デフォルト連鎖(か?)」といったセンセーショナルな記事が出始めた。 しかも23日午前中に、工商銀行のATMシステムがダウンする「故障」があり、これは預金者が預金封鎖を警戒して預金引き下ろしに殺到したためではないか、といった噂も流れた。もちろん銀行側は否定している。 とりあえず人民銀行(中央銀行)は少なくとも1銀行に500億元の資金を供給したということで、SHIBORの翌日物金利も21日に8.49%まで落ちた。だが、まだ2008年9月15日のリーマンショック時の米金融市場の銀行間金利と比べても高い数値であり、緊張感が続いている。今週初めには上海の株価も2009年以来の下落率で急落した。 中国の商業銀行の間では、人民銀行が助けてくれない、という怨嗟の声が渦巻くが、人民銀行は野放図な融資を行ってきた銀行側が悪い、といった冷ややかな態度で、この銭荒自体が「不良銀行や影子銀行と呼ばれる野放図な民間金融機関への鉄血のお仕置き」と言われている。 この銭荒は今後、どう展開していくのか。本当に7月危機はやってくるのか。中国側の論評を中心に占ってみよう。 習政権にとって経済危機は早い方が良い 2013年7月危機説というのは2年前の9月に、国務院発展研究センターの李佐軍研究員による内部報告で提示されたもので、12次五カ年計画中に大きな経済危機が訪れ、その時期はおそらく2013年7月か8月である、という。 その根拠は4つ挙げられている。 (1)不動産バブル崩壊と地方債務危機が同時にやってくる。リーマンショックのとき、中国政府は4兆元の財政出動で危機からいち早く脱出できたというが、この4兆元のうち7割は地方財政から拠出されている。 地方財政は主に商工業税収と「売地」と呼ばれる土地開発収入からなっている。つまり農地を強制収用し、開発業者に売って開発し不動産売買やテナント収入を得る。この開発業者は地方政府が運営する第3セクター的なものであり、開発資金は地方政府や地方銀行が運営する信託会社などを経由することで、親銀行の簿外で流すことができる。こういった金融機関は「影子銀行(シャドーバンキング)」と呼ばれ、銀行監督管理委員会の監督外になるため、大手銀行から低金利で調達した資金を、高い金利で貸し出したり、また債権を高利回りの理財商品として個人投資家に売ったりする。 この仕組みは「地方融資プラットフォーム」と呼ばれるが、野放図に行われる融資と土地開発の結果、わけのわからないゴーストタウンやテナントの入らないショッピングモールなども生み出し、回収の見込みのない巨額の債務を生み出している。その簿外資金運用規模は2012年暮れに中国銀行市場部関係者が内部座談会で明らかにしたところによると28.8兆元、GDPの55.4%に上るとか。2008年の4兆元の投資は2011年下半期から償還期が始まっているが、それを返せない地方政府、影子銀行が出てくるのは当然だ。2013年上半期末にそのピークがやってくる。 (2)2013年には中国経済成長の鈍化が顕著になり、また米国経済も回復するため、中国の市場に流れていた国際ホットマネーが大量に引き上げられ、金融市場が貧血状態になる。 (3)2013年春に政権交代が行われ習近平政権による経済のかじ取りが始まる。このとき胡錦濤政権から受け継ぐバブル経済という負の遺産に対してどう対応するか。バブルがはじけないように慎重にコントロールしても、2015年、16年に確実に経済危機はめぐってくる。この時期に経済危機が起きればその責任は習政権が問われるが、政権を引き継いですぐに経済危機が起きればその責任は前政権にある。習政権としては早々に負の遺産を一掃してやり直した方がよい。時期としては政権交代後の3、4カ月後の2013年7月か8月ごろの可能性がある。 (4)経済は短期的に3〜5年、中期的には9〜10年の周期、長期的には60年周期で動く。前回の中国経済危機(1998年)から数えると2008、9年に本来は中国も大経済危機に陥るはずだった。だが強硬な政策でもってそれを先延ばしにした。易経的な観点からみても2013年が危ない。 このリポートを読むと、2013年7月の経済危機は習政権が中国経済の延命措置を採るよりも、これを機会に、再三の行政指導では改善できなかった野放図な融資、地方政府財政はさっさとクラッシュさせてしまう荒療治を提言しているようにもとれる。 ホットマネーが大量流出 そう考えると、6月の「銭荒」は、習近平政権がこの発展研究センターの内部報告を基にしたシナリオ通りの展開、ということになるかもしれない。報道によれば四大銀行は人民銀行に市場に資金供給するように迫ったが、人民銀行はこれに「金が不足しているのではなく、金をどこに投じているかの問題」と泰然と拒否した。李克強首相も「人民銀行が多少の放水をしても、全体のバランスを改善するのは難しく、銀行の渇きはいえない」との態度で、商業銀行や企業、地方政府はパニックだが、中央政府は落ち着いた発言が目につく。 中国の専門家たちはこれをどう見ているか。 中国の著名エコノミストの謝国忠氏は(アンディ・シエ、元モルガンスタンレー首席エコノミスト)は専門紙・金融投資報に答えてこう言っている。 「中国の流動性逼迫は、まず外部要因による。米国の量的緩和縮小のシグナルによる連鎖反応がある。国内要因を見れば、金融システム全体が、『金が金を生むゲーム』に遊んだ結果だ」 実際のところ、中国の5月のM2(広義のマネーサプライ量)は15.8%増と依然高い水準で、人民元預金残高も100兆元に迫る。1−5月の社会融資規模は9.1兆元で、前年同期比で3.12兆元増。 だが、中国金融市場に元高期待で大量に流れていたホットマネーが、米国の量的緩和縮小シグナルに反応して一気に引いてしまった。これが急激な流動性逼迫を引き起こしたのが直接の原因という。 そして、市場に資金があるのに、これが実体経済の中に投入されず、マネーゲームの中で金融機関をくるくる回っている状況こそが、銭荒を生んでいる、と謝氏は指摘している。 だが、今回の「銭荒」騒動の一時的な苦しみの後に、依然「世界の工場」としての確固たる地位を武器に経済再生を図れると、楽観的な見方だ。 3回、衝撃波が来る では、7月に銀行や中小企業、地方財政はばたばた倒れるのだろうか。そして庶民の虎の子の預金や、なけなしの金が投資された理財商品の償還は踏み倒されるのだろうか。ネット上ではそういう悲鳴に似た噂が飛び交っている。 これについて、安信証券の主席エコノミスト、高善文氏が21日に「おそらく3回、衝撃波が来る。余震は絶え間なく続く」として、以下のような見解を示している。 第1の衝撃波は今騒ぎになっている銀行間取引市場の金利急上昇。今後も「余震」が続く。6月末まで、あるいは7月中旬まで、あるいは9月まで段階的に流動性逼迫の問題は続くかもしれない。だが、最大の衝撃波は6月20日だった。これにより商業銀行の管理部門の多くが責任を問われ、整理されるだろうという。 第2の衝撃波はまだ来ていない。信託や証券会社などの非銀行系金融機関(影子銀行)の理財市場に来る。中央銀行はこれらを救済できず、あるいは救済せず、一定範囲の金融機関が破たんし、破産するだろう、という。 第3の衝撃波は実体経済への影響である。影子銀行が整理され規模が縮小されると、経済成長の速度は大幅に鈍化する。正規の銀行から金を借りられずに影子銀行に頼っていた中小企業、地方政府の償還能力に問題が現れ、信用債市場から株式市場まで、泣き面に蜂状態になる。この損失を被るのは、銀行よりも金融商品を買った投資家たちである。ただし、この出資者の少なからずが腐敗官僚であろう。 となると人民銀行の姿勢、そして最近の中央指導者の態度は、一種の腐敗官僚一掃の目的もある、と言えるかもしれない。もちろん、多くの善良なる庶民や中小企業も被害に巻き込まれるだろうが、その痛みは、経済構造の転換という目的のための許容できる犠牲、というところか。 多くの影子銀行はレバレッジの制限もなく準備金制度もなく、責任者も不在で保護措置もないので、今回の第三波で完全に崩壊するだろう。これは短期的には中国経済にとって打撃だが、長期的には収穫ではないか、というのが高氏の見方である。 また武漢大学金融研究所の董登新所長がこんなコメントをしている。 「『銭荒』は銀行業の野放図な増長を転換させることになる。改革開放30年の間、銀行は不動産などに融資し、その資産を年平均20%の早さで拡大し、目下、米国7000以上の銀行の総資産の2倍にのぼる。不動産のバブル化、資産のバブル化、GDPの狂奔、銀行サインの狂奔がある。中国の問題は資金が足りないことではなく、金融システムが不健全なことである。今回の流動性逼迫によって、銀行が座して暴利を得ていた時代がひっくり返る」 「銭荒」は政治現象 さて、私のような経済素人が、この現象を的確に分析することは難しいのだが、1つ言えることは今回の「銭荒」は経済現象のようであって、政治現象の側面も強いと言っていいだろう。しかも非常にギャンブル的である。 リーマンショック後の米国経済の復活状況を見て、中国は自国もそのショックを2年ほどで乗り越えられるのだと踏んでいるのだろうか。確かに習政権としてはどん底からのスタートした方が、多少の回復で評価されやすい。 だが、本当にそうなのだろうか。中国がそういう計算をはじく根拠になる各種統計は、本当に信頼に足るのだろうか。この荒療治をコントロールできるだけの能力が習李体制および官僚たちにあるのだろうか。 そもそも、影子銀行が登場した背景には、中国の金融市場がコントロールされすぎ、金利を低く抑えらすぎている問題があった。インフレ傾向の強い中国では銀行に預けたままでは資産は目減りするし、正規の金融機関から融資を受けられない中小企業や個人も多い。だから正規の銀行に代わって資金提供する昨日として影子銀行が求められた。影子銀行を荒療治で排除しても、真の金融市場改革が進まない限り、本質の部分は解決しないのではないか。 習政権がもし本気なら、「7月危機」のシナリオはすでにスタートしている。13億の人民とともに、グローバル金融経済でつながる日本を含む各国の人々も、このギャンブルに付き合わざるを得ないというなら、とりあえず衝撃に身構える心の準備はしておくべきだろう。 中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス
新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。 中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。 特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。 |