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岩田日銀副総裁にインタビューを行った日経新聞は、「金融政策の運営で最も重視している点について「予想インフレ率が中長期的に上がり、実質金利が下がっていくかどうかをみている」と強調。現状では「実質金利が下がる傾向は続いている」と語った」と冒頭で書いている。が、実質金利と見なされる物価連動債の利回りに“実質金利”としての妥当性があるのかという根源的な問題が横たわっている。
物価連動債に実質金利を示すだけの商品性がないとなれば、日本円については、予測インフレ率も理論値がないことになる。
言ってしまえば、貸し借りのあとの実際のインフレ率の推移に基づく事後的な実質金利しかわからないことになってしまう。
※ ブレーク・イーブン・インフレ率:BEI(10年債利回り−10年物価連動債利回り)を期待インフレ率とする。
BEIは、黒田日銀の「異次元の金融緩和」政策実施後1.9%ほどまで高まったが、10年物価連動債の市場性には問題があり、それをベースにした期待インフレ率云々は疑問視せざるを得ない。
白川前日銀総裁も、総裁当時、衆議院予算委員会で、「日本の物価連動債の市場は非常に小さく、流動性が低いため、日本ではインフレ予想を弾き出すことはなかなかできない」と説明した。
2004 年3月から発行が始まった物価連動国債は、リーマン・ショックをきっかけに大きく売り込まれ、買い手不在のなか価格下落(利回りは上昇)が起き、買入消却でようやく沈静化するという経緯を有している。
流動性が低い物価連動債は、換金性の悪さの代償として高い金利を要求する「流動性プレミアム」が大きく上昇した。
そうでありながら、今回の「異次元の金融緩和」政策を受け、残高も5兆円未満で平均残存期間も7年ほどしかない物価連動債の価格が上昇(利回り低下:マイナス1%超)したからといって、期待インフレ率が高まったということはできないであろう。
言えるとしたら、「異次元の金融緩和」政策で醸成されたストーリーに乗っかった投資家もいるというレベルである。
財務省は、5年ぶりに今年10月、物価連動債を3000億円発行すると発表した。
新しい物価連動債の商品性格で微笑むのは、以前はデフレでも元本を保証しなかったのに、元本を保証するかたちに変更したことである。
物価連動債を再び発行する理由は、インフレで目減りすることを嫌う投資家向けということになっている。
しかし、投資家の要望を容れ、デフレでも元本を保証するかたちに変更した財務省は、自分たちはどうだかわからないが(笑)、「異次元の金融緩和」政策によりデフレから脱却してインフレに転換するという見通しが投資家に信じられていないことを認めたことになるだろう。
今なおデフレ状況にある日本で、デフレでも元本を保証する“歪んだ”物価連動債の利回りを実質金利とすることにはムリがあると言っておく。
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岩田日銀副総裁、金融政策「実質金利下げを最重視」
初の単独インタビュー
2013/6/24 21:45
日銀の岩田規久男副総裁は24日、日本経済新聞のインタビューに応じ、金融政策の運営で最も重視している点について「予想インフレ率が中長期的に上がり、実質金利が下がっていくかどうかをみている」と強調。現状では「実質金利が下がる傾向は続いている」と語った。岩田副総裁のメディアとの単独インタビューは3月20日の就任後初めて。一問一答は以下の通り。
――副総裁の就任から約3カ月たつ。4月4日に導入した量的・質的緩和をどう位置付けるか。
「今回の政策の柱は2%のインフレ目標を設定し、できるだけ早く、メドとしては2年程度で達成するとコミットメント(約束)したことだ。それを実際に裏付けるために量的・質的に緩和をしている」
「狙いの一つは予想インフレ率の引き上げだ。予想インフレ率が上がると、実質金利が下がり、設備投資や住宅投資を後押し、実体経済にも働き掛ける」
――金融緩和から2カ月半たつが、成果はどうか。
「金融政策はまず株式や為替、債券など金融市場に影響を与える。金融資産は予想が変わったときに入れ替えが比較的容易なためである。株高や円安は、株式と外貨資産の資産効果を通じて消費を押し上げる。今回、こうしたルートを通じて消費は比較的早めに反応した」
「今は金融市場の好影響が実体経済にもだんだん波及し始めている段階だ。実体経済が反応するには少し時間がかかる。実体経済は金融市場に起こったことが安定的に続くのかを見ながら判断するからだ。さらに輸出などは海外の経済状況にも依存する」
「ただ、いずれにしても時間がたつにつれて民間需要が増えると期待できる。そうなればモノの需要も増え、物価も次第にプラスへ変化する。雇用も増え、賃金も少しずつ上がっていく」
「そうなれば予想インフレ率がさらに上がって、実質金利が下がり、設備投資や輸出や消費に影響を与えるという好循環が生まれる。そうした好循環は今、起こりつつある」
――黒田緩和後に進んだ円安・株高も足元はやや陰りが見えているのではないか。
「日本経済のファンダメンタルズは良くなっている。一時的に金利が上がり、ボラティリティー(変動率)も上がったが、日銀は鎮めてきた。名目金利の上がり方も、予想インフレ率の上がり方に比べて小さいので、実質金利は下がっている。市場も次第に落ち着くだろう」
――緩和後の長期金利の乱高下など市場の変調をどうみているか。
「市場で調整が起こっているのは、いくつか理由あると思う。ひとつはアメリカの資産買い入れの圧縮観測を市場が十分に消化できずに揺れ動いているためだ。もうひとつは株高・円安のスピードがかなり速かったので、スピード調整に動いた面がある」
「金融政策は市場の予想に働き掛けているが、黒田東彦総裁の下での異次元緩和で予想が大きく変わった。2%のインフレ率達成が近いと思う人と、遠いという人との間で予想に幅ができてしまい、相場が振れやすくなった面もある」
「今回の金融政策はたくさん国債を買うため、名目金利を下げる力がある。一方で予想インフレ率を上げることにコミットメントしているという点では、金利を上げる要因になる」
「私は当初、日本は長い間、デフレ心理が浸透していたため、相当な金融政策をやってもすぐに予想は変わらないとみていた。名目金利を上げる力より、下げる力のほうが強いと考えていた」
「金融政策の意図を理解してもらうのには時間がかかると思うが、だんだん浸透してくるだろう」
「しかし実際には市場の予想インフレ率は想像以上にすばやく反応した。それが株の急騰と円安の上昇スピードを上げた。市場はわれわれが思った以上に金融政策に反応したり、しなかったりする」
「市場とのコミュニケーションを通じて、金融政策の意図を理解してもらうのには時間がかかると思うが、だんだん浸透してくるだろう」
――予想インフレ率は上がっているのか。
「物価連動債の利回りから予想インフレ率を算出するブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は緩和後のピーク時に比べてやや低下しているものの、次第に再び上昇してくるだろう」
「消費者やエコノミストのアンケートなどもインフレ率は上がるという予想が多い。実質金利が下がるという傾向は続いている」
――今後の政策運営のポイントは。
「金融政策の運営で何を一番大事にしているかというと、予想インフレ率が中長期的に上がり、実質金利が下がっていくかどうかをみている」
「日本経済は、需給ギャップが解消し、貯蓄と投資が均衡する金利水準を指す『自然利子率』がマイナス圏にある。自然利子率は成長戦略で上がってくるが、時間がかかる。今はデフレを早期に脱却するため、自然利子率に合わせて実質金利をマイナスに下げていく局面にある」
「日銀は予想インフレ率を中長期に2%で安定させるというアンカーをつくっている段階だ。アンカーが安定すれば、物価も安定していく」
――実際に物価が上がっていくには、今は大量の手元資金を抱える民間企業がマネーを活用していく必要もある。
「これから実質金利が下がれば、お金を抱えていると損をする世界になる。今まさに企業は動きつつある。経済がよくなって需要が増えてくると、今あるお金だけでは足りなくなり、貸し出しも増えてくる」
「量的・質的金融緩和に先立つ昨年秋以降のアベノミクスの効果もあって、すでに貸し出しは増えている。金融機関が国債から貸し出しなどにマネーを振り向けるポートフォリオ・リバランスの効果はすでに出始めている」
――日銀は「逐次投入」しないという姿勢を打ち出している。
「これまでは市場や政府が要求するたびに日銀が動いていた。それが逐次投入だ。しかし上下方向のリスクが生じた際に動くのは逐次ではない」
「本当にリスクがあって、この金融政策では不十分、または十分すぎるとなったときに動くのは逐次ではなく『適正』な金融政策だ。必要があれば、上下両方向の政策の調整はありうるだろう」
――日銀が4月下旬に展望リポートで示した物価・経済の見通しに変化は生じているか。
「展望リポートで示した物価上昇へのパス(道筋)はあまり変わらない。計算方法はいろいろあるが、今の緩和ペースを続けていけば、2年程度で2%の物価上昇率を達成できる」
「たとえば、ある名目成長率を達成するのに必要な資金供給量(マネタリーベース)を算出する『マッカラム・ルール』でも、2%の消費者物価上昇率の達成に必要なマネタリーベースはだいたい今の日銀の緩和策と同程度になる」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC2401W_U3A620C1000000/?dg=1
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