02. 2013年6月25日 00:29:55
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【第283回】 2013年6月25日 真壁昭夫 [信州大学教授] バーナンキショックで新興国から逃げ出す投資資金 「BRICs終焉」のパラダイムシフトは起きるのか? FOMCでも鮮明化したQE3縮小の方針 バーナンキショックでBRICsから資金が逃避 5月22日、FRBのバーナンキ議長が、金融緩和策(QE3)の縮小を示唆する発言を行った。それにより、世界の金融市場に激震が走った。米国の金融緩和策を前提としていた投資家の多くが、慌てて保有するリスクを減らす(リスク・オフ)の行動をとり始めたからだ。 米国の資金供給量が絞られる懸念から、米国債が売られ長期金利の上昇傾向が鮮明化した。また、わが国をはじめ世界の主要株式市場は一斉に売り込まれ、株式市場は不安定な展開になった。 為替市場でも同じように、ヘッジファンドをはじめ、大手投資家のリスク・オフの動きが顕在化した。その結果、それまでのドル強含みの展開が逆回転し、一時ドルが大きく売り込まれることになった。 足もとで、しばらくバーナンキ・ショックが薄れてきたと思ったら、6月20日、FOMC(連邦準備制度理事会)後の会見で、同氏は「米国経済の回復が続く前提の下で、今年中にQE3を縮小し、来年半ば頃までにQE3を止める」との見通しを公表した。 今回のバーナンキ議長の発表によって、米国の金融政策の変更がほぼ間違いないことが明確になった。それをきかっけに、新興国の株式市場が不安定化すると共に、当該国の通貨が軒並み弱含みの状況になっている。 明らかに、世界の投資資金が新興国から逃げ出している。金融専門家の間では、「新興国相場が終焉を迎えた」との見方が有力になっている。 つい最近まで、世界経済の中で欧米諸国の経済が低迷する一方、BRICsに代表される新興国が高い経済成長率を達成してきた。その背景には、欧米諸国が2000年代中盤の大規模な不動産バブルの後始末に腐心していたことがある。 経済の低迷に悩むわが国をはじめ、欧米諸国はいずれも景気刺激策として“超”の付く金融緩和策を実施してきた。金融緩和策によって供給された潤沢な資金の一部は、投資資金として高成長が期待できる新興国の株式や債券市場に流れ込み、当該金融市場の安定した展開を支えてきた。 それと同時に、中国を中心として新興国の経済が高成長を続けていたため、鉱物や穀物などの商品市況にも多額の投資資金が流入し、商品市況も活況を呈してきた。 進む出口戦略への“地ならし”で 資金の流れにパラダイムシフトか? そうした世界経済の構図とマネーフローの動きが、ここへきて大きく変化している。我々も今までの発想を変えて、大きなパラダイムシフトにスムーズに対応することが必要だ。そのきっかけは、5月22日のバーナンキ発言だった。 当時のバーナンキ議長の発言は、米国が金融政策を変更することに対する“地ならし”であり、その延長線上で今回のより明確なQE3縮小プランへとつながった。実際のQE3縮小時期については、専門家の間でも様々な見方がある。早ければ、今年9月に縮小が実行されるとの見方がある一方で、年末までずれ込む、あるいは来年の春先まで実行できないとの見解もある。 金融政策変更の時期はさることながら、バーナンキ・ショックのインパクトは小さくない。それは、世界経済の構図が変化していることを明確に表すイベントであり、それによって世界の投資資金の流れに大きなパラダイム・シフトをもたらすからだ。つまり、今我々の足もとで世界の経済情勢が変わり、それに伴いマネーフローも変わろうとしているのである。 世界の経済情勢の変化の中で最も重要なポイントは、米国経済がバブルの後始末をほぼ終了し、少しづつではあるが経済活動が回復しており、今後米国は世界経済の牽引役を果たすことが期待される。 中国、インド、ロシア、ブラジル 世界経済の牽引役が立たされた岐路 一方、今まで高成長率を達成してきた中国などのBRICs経済はすでに曲がり角に差しかかっており、今後、成長率の鈍化が顕在化すると見られる。 特に中国経済については、過大な設備投資の後遺症で経済全体の供給能力が過剰になっている。それに加えて、実質的に地方政府が抱える多額の負債や、シャドーバンキングと呼ばれる簿外資産などの一部に問題が発生している。 6月に入って、不良債権を抱えた企業の資金繰り悪化などを背景に短期金利が急上昇するなど、今まで水面下に隠れていた問題が顕在化する兆候が出ている。 中国の景気減速によって鉄鉱石の輸出が伸び悩んでいるブラジルは、経済活動の低迷とインフレ台頭の2つの問題の挟撃に遭っている。インドは海外経済の影響もあり、成長率の鈍化が顕著になっている。 ロシアは、シェールガス革命の影響でエネルギー資源の輸出に懸念が出始めている。その他の新興国の経済にも、成長率鈍化などの影が見え始めている。 バーナンキ・ショックによる流動性供給の縮小の見通しで、今まで新興国に流れ込んでいた投資資金の一部は、すでに当該国の金融市場から流出し始めている。ヘッジファンドなどの大手投資家は、新興国の株式、債券を売却して、その資金を米国などに持ち帰っているという。 そのため、新興国の通貨は軒並み弱含みの展開になっている。また、中国などの新興国の需要増大を見込んで上昇を続けていた、鉱物や穀物などの商品市況は弱含みの展開になっている。 そうした世界経済や金融市場の変化は、今後も続くだろう。これから、米国と中国の経済の行方を注視することが必要だ。 米国が世界経済の牽引役に復帰 金利が急上昇する中国の先行き 米国経済には、世界経済を牽引してもらわなければならない。新興国の経済が息切れしており、欧州圏の経済も当面上昇過程への復帰が望めない現状では、米国経済に頑張ってもらうしかない。 米国経済は、財政問題や金融政策変更に伴う軋轢などのリスク要因を抱えてはいるが、そうしたハードルを上手く乗り越えて、景気回復がより確実になることを期待する。 一方中国は、多額の不良債権や過剰供給能力など、より深刻な問題を抱えており、それらの問題が爆発しないような政策運営が必要になる。 足もとの短期資金の市場で、金利が急上昇するなど不安要素は山積している。その意味では、中国はリスク要因の1つだ。仮に中国当局がそれらの問題に対する対応を誤ると、リスクは一段と深刻化し、世界経済に与えるインパクトは小さくない。それは頭に入れておくべきだ。 金融市場では、パラダイムシフトを反映した動きが続くと見る。バーナンキ議長が考えているように、米国経済が順調な回復過程を歩むことができると、ドルは強含みの展開になるだろう。米国の金利は、長期金利を中心にして上昇傾向が続くはずだ。米国株式は、金融政策変更のショックを吸収した後、徐々にしっかりした足取りに戻ると予想される。 円は対ドルで弱含みの展開となり、わが国の株価は徐々に安定した展開を取り戻すだろう。国債流通利回りは、インフレ期待が醸成されるにしたがって、少しずつ上昇するはずだ。 一方、新興国の通貨はもう少し弱含みの展開が続き、株価も不安定な展開から抜け出せないのではないか。
【第104回】 2013年6月25日 江口征男 [智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)総経理] 「おもてなし」のヤマダ電機が撤退を始めたワケ 「付属品」で価格競争に陥らない領域で勝負せよ 性価比に敏感な中国人は おもてなしは評価せず 南京のヤマダ電機が業績不振で閉店すると4月22日に発表されました。中国で展開する残り2つの店鋪(天津、瀋陽)も近日中に閉店し、中国市場から撤退するという噂も流れているようです。 昨秋からの反日運動による日本製品不買運動が影響というのが主因のようですが、先日、天津で人通りの多い繁華街にあるヤマダ電機を訪問した際のガラガラ感を見ると、真の原因は別のところにある気がしてなりません。 ヤマダ電機は中国で、「おもてなしの接客サービス」、「ポイント割引制度」など日系企業である強みを武器に、国美や蘇寧などの大手家電量販店と勝負を試みたものの、ヤマダ電機の強みは中国人消費者には刺さらなかったということでしょう。 これはヤマダ電機に限ったことではありませんが、中国では(純粋なサービス業ならまだしも)比較的高価な商品を販売する業態において、「おもてなしサービス」に対して価格プレミアム払う消費者はいないからだと思います。 どこの店鋪でも取扱商品自体に違いがない家電量販ビジネスでは、好むと好まざるとにかかわらず「価格勝負」になります。特に日本人よりも「性価比」(商品価値に対する価格)に敏感な中国人にとっては、「価格の安さ>おもてなしサービス」という評価になるのです。実際、ヤマダ電機だけでなく中国の大手家電量販店の店鋪売上は、価格競争を仕掛けているネット販売に食われて、落ち続けています。 カメラマニアが増えているが 付属品が充実した店は少ない 昔の中国であれば、店に騙されてニセモノ商品を掴まされる可能性もあったので、多少プレミアムを払ってでも信頼できる店で購入したいというニーズもありました。しかし、ネットも普及し、消費者の商品知識レベルの上がった今では、よほど怪しい店でない限り本物を売っています。商品でも差別化できない、そして人件費やコンプライアンンス遵守等のコスト構造でもローカル競合に勝てない日系企業には、もはや市場で勝ち残る見込みがないようにも思えます。 しかし、筆者はヤマダ電機のような業態で、日系企業が勝てる可能性はあると見ています。それは商品本体ではなく、「付属品」で勝負するという作戦です。 例えば、最近中国では一家に1台は一眼レフを保有していると言われるほど、広く普及しています。それだけではありません。中国では日本以上に、レンズなどの付属品に拘るカメラマニアが多いのです。 しかし、そういった状況にもかかわらず、付属品(しかも本物)を手広く取り揃える店鋪は、上海でもほとんど見かけません。この点に、日系企業は注目すべきだと思います。こういう競争が少なく、利幅の大きい分野でこそ勝負すべきだと思うのです。 しかも、付属品ビジネスの良いところは、お客様は既に商品自体は購入済で、自分が持っている商品に合う付属品しか購入できないので、ある程度限定された客に対して商売ができるところです。つまり、極端な価格競争には陥らないということです。 そしてカメラのように、レンズや電池などの付属品に機能や品質が求められる商売であれば、日本での日系メーカーとの関係を利用して品揃えを豊富にすれば中国でも有利に勝負できるはずです。 狙うはマスではなくオタク 職人の拘りを強みにすべき 商品自体のニセモノを取り扱う店鋪は少なくなっているものの、付属品に関してはまだまだニセモノを本物として偽って売られているのが中国です。例えばカメラを購入したときに付属品としてついてくる電池(300元相当)なども、お客様にばれないように純正の電池ではなくニセモノ電池をつけて販売している店鋪も少なくない状況です。 そして付属品商売で差別化ができるようになれば、徐々に付属品の強みを商品販売に抱き合わせるなどで商品自体の販売でも競合と戦うことができるようになるかもしれません。 日系企業は13億人のマス市場に目がくらみすぎているような気がします。職人気質の日本企業が中国で勝てる市場は、「商品の知名度」と「価格」で勝負が決まるマス市場ではなく、むしろ職人の拘りを評価し、価格プレミアムを払ってくれるオタク市場ではないでしょうか。 その意味では、ヤマダ電機のような総合家電小売よりも、カメラのキタムラのように、日系企業の強みが活かせて、かつ中国でもニーズの大きなに領域に絞れるカテゴリーキラーの方が向いているのかもしれません。 【7/4(木)GML中国セミナー@東京「事例で学ぶ中国小売ビジネス」】のお知らせ スペイン、緊縮財政が強めるドイツへの苛立ち 2013年06月25日(Tue) Financial Times (2013年6月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
最近は、スペインの人々がドイツやドイツの指導者について話すのを聞いていると、そこにわずかながら冷ややかな思いがあることが感じられる。新聞のコラム、世論調査、日々の世間話などからも、ドイツ政府に対する不平不満が強まっている兆候がうかがえる。 各種の調査では、ドイツは欧州の中で強くなりすぎており、景気後退で打撃を受けた欧州大陸周縁国への支援にも消極的すぎるといった感情がスペイン国内に広がっていることが浮き彫りにされている。 「欧州で最も称賛できる指導者」との評価が一転、南欧が抱える「問題」に 多くのスペイン人がドイツのアンゲラ・メルケル首相に批判の矛先を向けている〔AFPBB News〕
特にやり玉に挙げられているのはドイツのアンゲラ・メルケル首相である。財政緊縮政策の擁護者として批判を集めており、それと同じくらい馬鹿にされてもいる。 メルケル氏の政策がスペインの失業問題を悪化させているという非難の声が上がっており、同氏の人気は急低下している。 つい1年前にスペインで行われた調査では、メルケル氏が欧州で最も称賛できる指導者だと見なされていた。ところが今では、フランスやイタリア、英国の指導者よりも低い評価しか得ていない。 「欧州南部の国々は今、同じ問題を抱えているんだ。メルケルって言うんだけどね」。首都マドリードの繁華街にある小さな建設会社のオーナー、マヌエル・コネヘロさんはこう語る。 「ドイツは2度の戦争に負けて、とても高い代償を払った。今じゃ賢くなっていて、この新しい戦争を1発も撃たずに勝てるほどだ。それでほかの国々が負傷している」 アナリストらによれば、マリアノ・ラホイ首相が推進した大幅な歳出削減と痛みを伴う増税は議会での合意の上で実行されたことを、スペイン国民は重々承知している。 しかし、人気漫画家のペリディスが日刊紙エル・パイスに描いているのとまったく同じ見方をしている国民も少なくない。同氏の手による1コマ漫画には、けた外れに大柄なドイツ首相の前で畏縮している小柄なスペイン首相の姿が描かれている。 マドリードの都心部で果物店を営むマノロ・ペレスさんは言う。「ドイツのせいでここの状況は悪化していると思う。何しろ、予算カットや緊縮で締め上げろって命令しているのはあの人たちなんだから」 メルケル氏の評価が落ちているのは、有名な先輩政治家と比較されていることによる部分が大きい――。マドリードのシンクタンク、エルカノ王立研究所でディレクターを務めるチャールズ・パウエル氏はそう指摘し、「スペイン人は、アンゲラ・メルケルがもっとヘルムート・コールのようになってくれることを期待していた」と言う。 「コールは欧州の利益のためにドイツの利益を犠牲にしたという記憶がある。だからあのような幻滅がある。それに、一部のドイツ人がスペインの経済パフォーマンスをこれほど批判的に見ていることへの驚きも、恐らくあるのだろう」 スペインは「ユーロ圏の次のドイツ」か スペインの現在の経済政策がドイツと密接に関係していることは、特に不思議なことではない。ラホイ首相は2011年後半に政権を握って以降、ドイツが10年前に景気後退から抜け出すのに貢献した戦略の一部を意識的に模倣している。労働市場改革や、輸出拡大と競争力強化を重視した施策などがその主なところだ。 スペインはまた、ドイツの教育制度の大きな特徴を手本にしようとしており、10代の若者には学校を卒業したら職業訓練を受けるよう、これまで以上に働きかけている。 政府によれば、こうした施策はすでに成果を上げ始めている。単位労働コストは低下しており、競争力は向上しつつあり、さらには輸出も急増したからだ。この様子を見た米投資銀行モルガン・スタンレーのアナリストたちは今年、スペインは「ユーロ圏の次のドイツになる道を歩んでいる」と言明している。 ところが、このように思想的には共通する面があるものの、両国政府の関係には緊張も生じている。スペイン政府当局者らの話によれば、昨年危機が激化した時に、スペインはドイツからもっと大きな支援を期待していた。また現在も、スペインとしては銀行同盟の話をもっと速く進めたいのだがドイツはあまり動いてくれないそうである。 さらに、ラホイ首相はドイツに対し、ドイツ国内で消費を促す取り組みをもっと進めてほしいと要請している。ドイツの消費が増えれば、スペインからの輸出はさらに増えるだろうとスペイン政府は期待している。 「スペイン人は、ドイツがもっと拡張的な経済政策を取ることを望んでいる」。スペインの前政権でアドバイザーを務め、現在はマドリードで政治コンサルタントとして活動するアンドレス・オルテガ氏はそう指摘する。 「欧州中央銀行(ECB)にはもっと介入してほしい、ドイツには銀行同盟にもっとコミットしてもらいたい、とスペイン人は思っている。そして何らかの形でのユーロ共通債の発行に向けても話を進めたいと思っている」 だが、オルテガ氏によればドイツ人は「我々スペイン人が必要としている改革を、我々がちゃんとやっているとはあまり思っていない」らしい。また、ドイツの与党・キリスト教民主同盟(CDU)と強いつながりのあるシンクタンク、コンラート・アデナウアー財団のトマス・スティリング・マドリード事務所長は、両国間に「ちょっとした失恋劇」のにおいをかぎ取っている。 「『がっかりした。助けてくれなかったじゃないか』と一方が言い出し、もう一方が『がっかりした。せっかく助けたのに効果が上がっていないなんて』と言い返すような展開に陥る恐れがある」 基本的な2国間関係は安泰 しかし、最近のこのような緊張にもかかわらず、大半の政府関係者やアナリストは、両国の基本的な関係は揺らいでいないと口をそろえる。 ドイツとその社会・経済モデルは現在でも、スペインの多くの人々から高い評価を受けている。ドイツ政府の当局者も、スペイン政府は経済力の再生に向けた取り組みをほかのどの欧州周縁国よりも一生懸命やっていると努めて強調している。 またスペインでは、ドイツの力が強大になっているという議論になっても――例えばギリシャで見られるように――ナチス時代のドイツが引き合いに出されることはあまりない。 過去に戦ったことによる恨みの感情がないこと――スペインは欧州では数少ない、ドイツと戦争したことがない国の1つ――、そして移住や観光を通じてつながりを深めてきたことが、両国の関係にプラスに作用していることは明らかだ。 あるドイツ政府関係者は、「毎年何百万人ものドイツ人が1年で最も楽しい数週間をスペインで過ごしていることを忘れてはならない」と述べている。 結局のところ、この1年間積み上がってきたイライラは、スペインにとっては新しい「欧州の現実」を反映しているに過ぎない、とオルテガ氏は指摘する。「スペインは今や欧州の意思決定を行う側ではなく、下された意思決定を受け入れる側に属している、ということだ」 By Tobias Buck
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