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いまこそ「エネルギー日露同盟」を結べ―藤 和彦(世界平和研究所主任研究員)(BLOGOS)
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/573.html
投稿者 会員番号4153番 日時 2013 年 6 月 24 日 06:43:02: 8rnauVNerwl2s
 

藤氏の思想的背景はいろいろあるようだが、エネルギー安全保障は極めて重要。

何の資源のない日本が国民を食べさせていくため、日本経済のためにはエネルギー政策をどうするかを考える必要がある。

「お花畑の左翼」(中野剛志氏)の言うとおりしていたら、彼らの願望とおりに日本が滅びます。

国際政治、経済、地政学に基づいた選択が迫られている。


BLOGOSから
http://blogos.com/article/62694/


いまこそ「エネルギー日露同盟」を結べ―藤 和彦(世界平和研究所主任研究員)


シェールバブル崩壊か

 2013年4月12日、電気事業連合会は2012年度の電力10社の火力発電向け燃料消費量を発表したが、液化天然ガス(LNG)が前年度比5.5%増の5579万tに達し2年連続で過去最高となった。昨年の燃料費総額は6.8兆円と、2年前に比べ3兆円以上の増加となったが、アベノミクスの円安効果で今年の燃料費が円ベースでみてさらに大幅増になるのは必至の情勢である。

 停止している原子力発電所の再稼働時期は見通せず、燃料費が電力会社の経営を圧迫する状況が当面続くと見込まれるが、電気料金の相次ぐ値上げを受けて大手メーカーの半分強が今後2〜3年間に国内生産を減らす方針であることが、経団連のアンケート調査で判明した。

 「ジャパン・プレミアム」という不名誉な名前を付けられた割高なLNGを買い続けている日本が、この流れを断ち切り、天然ガスを安価に入手するにはどうすればよいのか。

 原油と異なり天然ガスはグローバルに一物一価が成り立っておらず、米国と日本では市場が分断されている。米国の天然ガス価格の指標であるヘンリー・ハブが米国の天然ガス市場の需給バランスによって決まるのに対し、日本の天然ガス価格の指標であるJLC(Japan LNG Cocktail)は日本が輸入する原油価格にリンクして決まっている(原油価格連動方式)。

 リーマン・ショック以降、産業用の需要が多い天然ガスの価格が急落したままであるのに対し、運輸用の需要が多い原油の価格は景気の動向に左右されにくく高値で推移しているため、原油価格にリンクする日本の輸入LNG価格は割高のまま推移している。

 そもそもLNGはパイプラインによる生ガス輸送に比べて、液化コスト・海上輸送コスト・気化コストが付加されるために割高にならざるをえない。しかも米国ではパイプライン網が充実しているため、市場の需給が天然ガス価格に敏感に反映されるが、日本の場合、天然ガスの97%がLNG(価格が長期に固定される契約が主流)として輸入されているうえ、米国のようにパイプライン網が全国的に整備されていないため、競争原理が働きにくい状況にある。

 価格の安さから日本企業は米国のシェールガスに注目し、日本の年間のLNG輸入量の2割に相当する約1500万t分の権益をすでに確保したといわれているが、これにより日本が輸入する天然ガス価格が大幅に下がる可能性は低いといわざるをえない。

 日本では米国政府がシェールガス(LNG)の輸出を認めるかどうかに関心が集まっているが、筆者にとって気がかりなのは、米国のLNG輸出企業が「日本への輸出価格を原油価格連動方式に則って設定したい」と発言したことだ。これではシェールガスがいくら安くても、日本への輸出価格は現在日本が輸入しているLNG価格と大差がなくなってしまう(輸出されるシェールガスが少量にとどまるとの観測もある)。

 さらに、シェールガス自体にバブル崩壊の懸念が高まっている。4月1日、オクラホマ州でシェールガス等を生産するGMXリソーシズが連邦破産法第11条(日本の民事再生法に相当)を申請した。負債総額は4.6億ドルにすぎないが、同社の破綻は「終わりの始まりか」と業界内で囁かれ始めている。

 ピーク時の3分の1にまで値崩れした天然ガス価格に苦しむのは中小業者だけではなく、最大手のエクソンモービルも同様だからだ。シェールガス井の寿命が短く、毎年ガス井の3割以上をリプレースしなければならないため、2012年の業界全体の開発費用が420億ドルに膨らんだ。

 一方、米国全体で産出されるシェールガスの売上高は約325億ドルだったため、業界全体で100億ドルの赤字経営となっている。各企業は保有する権益を切り売りするなどで急場を凌いでいるが、今後、操業コストがさらに上がることが予想される。専門家の一部には「シェールガスのピークは今後4年以内にくる」と警告し始めており、米エネルギー省も4月に入り2013年と14年の天然ガス生産量の伸びを下方修正しているが、バブル崩壊による供給の大幅減少により、今後の米国の天然ガス価格が急上昇する可能性すら出てきているのである。

 石油価格が天然ガス価格を大幅に上回るという経済性から、開発はシェールガスからシェールオイルに大きくシフトしているが、いずれにせよ、シェール革命が世界情勢に与えるインパクトはとてつもなく大きいのではないだろうか。

中国とは協力できない

 国際エネルギー機関(IEA)は2012年11月に「2017年までに米国がサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国になる。米国は、シェールオイルやシェールガスの生産を進め、2035年までには、国内全体のエネルギー需要をすべて自給できるようになる」との予測を発表したが、エネルギー自給が達成されれば、内憂外患の米国は、原油や天然ガスを産出する地域に関心を示さなくなり、今後の中東政策に大きな影響が出てくるだろう。

 中東産原油の90%が日本や中国などアジア向けになるが、そこで懸念されるのがシーレーンの安全確保である。中東地域から輸入される原油や天然ガスは、必ずホルムズ海峡を通る。核開発疑惑で国際社会と対立の度を深めるイランが万一ホルムズ海峡を封鎖したら、日本はどうするのか。戦後の日本は、中東地域を中心に原油や天然ガスの安定供給源を確保することにより、経済発展を遂げてきたが、中東地域から日本に至るシーレーンの安全を米国が担保しなくなったら、日本は戦略の大転換を余儀なくされるだろう。

 メタンハイドレートは残念ながら救世主になりそうもない。2013年3月、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は地球深部探査船「ちきゅう」を使って愛知県渥美半島80km沖の水深1000mにあるメタンハイドレート層から世界で初めて天然ガスの採取に成功したが、商業化に向けての最大の壁はコストである(100万BTU当たり約50ドルであり、現在のLNG価格の3倍以上)。竹島周辺海域に存在するメタンハイドレートに関し、日本と韓国が2014年に調査を行なう予定であるが、そうなれば日韓間の領土問題が激化することは必至である。

 ホルムズ海峡問題では、日本は中国と利害関係が一致しているが、尖閣諸島国有化に端を発した中国海洋監視船の領海侵犯の常態化など一連の常軌を逸した行動を見ると、この二つの輸入大国が協力できる可能性は低いといわざるをえない。

 2010年に世界第2位の経済大国になった中国に対する、アジアをはじめとする世界各国の懸念が高まっている。中国は、南シナ海を「核心的利益」としてその領有権を主張し、フィリピンやベトナムなどASEAN諸国との対立を先鋭化させ、マラッカ海峡やバシー海峡の安全航行まで脅かすようになりつつある。

 しかし、「中国の台頭」に頭を悩ませている米国の態度は煮え切らない。中国と領土問題を抱える日本としては、日米同盟を堅持しつつも、中国の台頭に頭を抱える「別の大国」ロシアとの提携を真剣に検討する必要があるのではないだろうか。

 幸か不幸か日本とロシアのあいだには、天然ガスや原油に関する需要・供給者という相互補完的かつ互恵的な関係を築ける潜在的なポテンシャルが高い。

 東日本大震災以降、シェール革命の影響で世界的に天然ガス価格が低下しているなか、その恩恵に浴せず、世界一高い価格でLNGを買い続ける日本。一方、シェール革命の影響で貴重な外貨獲得手段である天然ガスの輸出に逆風を受けているロシア。

 ロシアは東シベリア・極東地域での天然ガス資源の有効活用を悲願としているが、中国との長年の交渉がうまくいかず、サハリンからのLNG輸出を除くとほとんどが手付かずのままである。

 日本にとっても、サハリンをはじめとする東シベリア・極東地域の天然ガス確保は魅力的だが、天然ガスの低廉供給のためには、LNGという形態のみでなく、パイプラインによる生ガス輸送も加えた「デュアル供給体制」を確立することが不可欠である。世界の天然ガスの9割以上はパイプラインを使って供給されているが、天然ガス田と需要地の距離が4000km以下であればパイプラインのほうがコスト的にもエネルギー効率的にも有利である。サハリンから首都圏までの距離が1400kmなのだから、パイプラインを敷設しない手はない。

 しかし、ロシアからの天然ガスをパイプラインを利用して輸入することに抵抗を感じるという意見は日本国内に根強くある。近年発生したウクライナとの天然ガス紛争によって「ロシアはエネルギーを政治の武器に使用する」という間違ったイメージが日本国内にも広がってしまったからだ。

 そもそもウクライナへの天然ガス供給停止は、ウクライナが天然ガス料金をロシアに払わないばかりか、ウクライナ領を通過するパイプラインからの天然ガスを違法に抜き取る行為を、恒常的に行なっていたことに対するロシア側の懲罰的な措置であったのである。反ロシア的姿勢ではなくむしろ親ロシア色が強いとされていたクチマ政権の時期でも、ロシアは3回の天然ガス供給停止の措置を講じている。したがって、反ロシア的政権に政治的な圧力をかけるためという説明は的外れである。

 ウクライナには当時3カ月分の天然ガスが備蓄されており、ロシア側の供給停止により、ウクライナが直ちに危機に陥るわけではなかったのだが、ウクライナがこれまでの対応とは異なり「死なば諸とも」とばかりにウクライナ経由で欧州諸国へ供給される天然ガスの流れを止めてしまうという暴挙に出たために、欧州の天然ガス市場は大混乱し、ロシアの国際的評判は散々なものになってしまった。

 しかし、こうした事情を知悉する欧州経済界は、政治の世界とは異なり、この紛争が起こったあとも、ロシアは信頼の置けるエネルギー供給者として認識している。ロシアは、過去40年にわたり欧州諸国への天然ガスのグッド・サプライヤーであったからだが、ここで約40年前に旧ソ連から西欧諸国に天然ガスが供給されるようになった経緯に触れてみたい。

 1960年に結成された石油輸出国機構(OPEC)が国際石油市場での存在感を強めたため、西欧諸国は石油への依存を軽減する必要があるとの認識が高まったが、その矢先に1960年代後半からソ連の西シベリア北部で次々と巨大ガス田が発見されていた。

 当時の西ドイツでは、1969年10月に発足したブラント首相率いる社会民主党政権が掲げた「東方外交」のもと、同年11月に西ドイツが天然ガス開発に関する資機材をソ連に輸出、その見返りにソ連から20年間に1200億立方メートルの天然ガスを輸入するという協定が締結された。最初の天然ガスは1973年9月に西ドイツに供給されたが、当時、緊張緩和(デタント)の兆候が出てきていたとはいえ、冷戦下でソ連と西ドイツのあいだでこのようなバーターが成立したことは画期的であった。

 この動きにイタリアやフランスが追従したため、1970年代から西欧の主要国がソ連の天然ガスに依存する体制ができ上がったのだが、ソ連側は欧州向けの天然ガス輸出を推進するため、西シベリアなどの天然ガス田開発を推進し、生産した天然ガスを西欧市場まで輸送するために新規の国内幹線パイプラインの整備を精力的に進めた。

 1980年代には、西欧向け天然ガス輸出の全輸出に占める比率は7〜8割で推移し、ソ連が獲得したハードカレンシー(国際決済通貨)の大宗を占めるに至ったが、ソ連崩壊の際でも西欧向けの天然ガスの輸出量は減少していない。政治的な混乱時にあっても、輸出によってハードカレンシーを獲得することがいかに重要であったかをうかがわせる。

高速道路にパイプラインを

 当時、西ドイツの動きに消極的な承認を与えていた米国は、レーガン政権が発足すると政権内のネオコン勢力からソ連のハードカレンシーの獲得を危険視する発言がなされるようになったが、一方、専門家のあいだでは、1970年以降にパイプラインが敷設されることにより欧州地域の安全保障が向上する効果に注目が集まるようになった。

 パイプラインは初期投資に多額の費用を要するが、いったん敷設されると操業の効率性・経済性などで優れた面を有する輸送インフラであるため、規模の経済性が発揮され、次々とパイプラインが自己増殖するという「正のフィードバック機能」を有する。

 石油天然ガス・金属鉱物資源機構主席研究員の本村真澄氏は「パイプラインには相互確証抑制効果がある」と主張するが、その理由をかいつまんで説明したい。相互確証抑制効果とは「相互確証破壊」という米ソ冷戦時代の軍事用語をもじって付けたネーミングであるが、パイプラインによってつながれた関係国間での破滅的な闘争が自制的に回避されるという事態を指すものである。なぜ、このような事態が生ずるのだろうか。

 消費国側には、天然ガス売買契約の「テイク・オア・ペイ条項」があることから生産国に対して買い取り義務が生ずるが、生産国のほうも消費国の「生殺与奪の権」を握っているというより、先行投資を着実に回収する観点から、消費国に対し安定的に天然ガスを供給するという発想が強くなるため、相互に敵対的な行動をすることができなくなるからである。

 現在、あらゆるエネルギーが「燃料間競争」にさらされていることから、生産国が仮に恣意的に供給を停止するという一方的な行動をとれば、消費国は失った燃料をほかから調達すると同時に、これまで利用してきたパイプラインに対する不信感から二度と使用することはなくなるであろう。

 天然ガスの巨額の輸出代金を得られなければ、生産国は大きな損失を被ってしまう。パイプラインを敷設してしまえば、ほかに移動させることはできないため、輸出先を変更することは不可能だからである。

 したがって両国の関係は、互恵的・双務的な性格になる傾向が強くなるため、パイプラインという輸送インフラはエネルギーを利用した政治的な武器としてよりも、地域の安全保障に寄与するといえるのではないだろうか。しかし、LNGではこうはいかない。国内にパイプラインを敷設することに対するさらなる批判として、「バラマキだ」とか「漁業補償の問題がクリアできない」というものがある。

 バブル崩壊後、公共事業といえば「親の仇」のような扱いを受けているが、土地取得費にお金をかけない、労務費と機材購入費中心のプロジェクトは依然として雇用創出効果が高い。少子高齢化が急速に進む日本にあって、良質な公共事業を前倒しで進めることで、国力の増強を図る必要性が高まっている。

 このような観点から、高速道路の敷地を活用してパイプラインを敷設する方法が有益である。高速道路の敷地に天然ガスパイプラインを敷設するのであれば多額の土地取得費は不要となり、海上を通らないため厄介な漁業補償交渉も回避することができる。

Gゼロ時代のエネルギー戦略

 リーマン・ショック後の世界経済は、各国が直後に実施した財政金融政策の効果が剥落する今年以降、再び厳しい時代を迎えるだろう。

 まさかと思うような話だが、米ウォール街など国際金融界からは、究極の経済政策としての「大戦争」勃発への期待が生まれつつある。このようなきな臭い状況だからこそ「国際社会の構造の本質はアナーキーである」との前提に立った地政学的な発想で、中長期を見据えた大戦略を築く必要がある。

 米国が引き続き圧倒的な国力を有しながらも、世界のGゼロ時代は長く続くだろう。

 東アジア地域の安定を確保するためには、中国の台頭を座視するのではなく、中国とライバル関係にあるもう一つの大陸国家であるロシアと提携することで、中国を牽制するという発想が肝心だ。19世紀に英国が欧州大陸のバランサーとなって自国の安全保障を確保したように、日本も米国を当てにするばかりではなく、ロシアと組むことによって、急膨張したことで「我」を失いつつある中国の頭を冷やしてやる必要がある。このことは結果的に中国自身のためにもなる。

 サハリンから首都圏に至る天然ガスパイプライン事業を皮切りに、日本とロシアという大国が先導して東シベリア・極東地域の油ガス田開発やパイプライン整備を進めれば、40年前に西欧諸国と旧ソ連が築き上げた地域の安定を東アジア地域にも実現できる可能性が高い(ロシア内で日本を「アジアのドイツ」にすべきとの意見が出てきている)。油ガス田開発やパイプライン整備が本格化してきた暁には、当該地域の利権を両国で独占的に享受するのではなく、その成果を中国や韓国が享受できるようにすべきである。ゼロサムの安全保障の世界と異なり、エネルギーの世界はプラスサムだからである。

 以上の理由から、筆者はロシアとのエネルギー同盟の締結を提案する次第である。

(本稿は筆者個人の見解である)

プロフィール
■藤 和彦(ふじ・かずひこ)世界平和研究所主任研究員
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。11年から現職。著書に、『日露エネルギー同盟』(エネルギーフォーラム新書)ほか多数。

 

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コメント
 
01. 2013年6月24日 07:15:35 : e9xeV93vFQ
2013年6月24日 中原圭介
シェール革命で
新興国はどうなるか?
世界経済のパワーバランスを大きく変えるといわれる「シェール革命」。安価なシェールガス、シェールオイルの登場で、世界の経済や政治に大きな地殻変動が起こることになる。これまで世界経済を牽引してきたBRICs諸国は、シェール革命によってどのような影響を受けるのか。

エネルギー価格の下落はすでに始まっている

 いまアメリカでは「シェール革命」という、かつての産業革命に匹敵する大変革が進行中です。これが進むと、アメリカは再び世界の工場として復活し、膨大な雇用を生むと期待されています。

 しかし、これから先は、アメリカ経済が活況を呈しても、それが世界経済に及ぼす効果は限られたものになると思われます。なぜならば、アメリカのシェール革命が世界のエネルギーの需給関係に大きな変化をもたらし、資源大国といわれている国々を没落させることになるからです。

 シェール革命によって、アメリカの天然ガス価格はこのまま低位で安定を続けるでしょう。加えて輸出規制が撤廃され、アメリカ産のガスが海外へ自由に輸出できるようになると、世界的に天然ガスの需要が増加すると同時に、原油の需要が減少するという現象が広がっていくはずです。

 そして、天然ガスの需要は増加するものの、長期的に国際的な価格は下落していきます。

 というのも、アメリカの天然ガス指標価格であるヘンリーハブは現在きわめて低位にあり、イギリスの指標価格であるNBP価格やロシアの天然ガスの輸出価格、日本の液化天然ガスの輸入価格などがそれに引きずられて大きく下落していくことになるからです。

 一方、原油については、いまのところ、アメリカ国内の原油需要が減少しているのを背景に、WTI原油価格のみが世界の他地域に比べて安い状況にあります。ですが、やがては欧州の北海ブレントや中東産ドバイ、さらにはロシア産の原油価格にも大きな下落圧力が働いていくはずです。

 原油にしても天然ガスにしても、アメリカの指標価格を後追いするように全体の価格が下がっていくのが、経済的合理性からいっても自然な流れではないでしょうか。原油価格などは2017年までに50ドルを割り込んでもおかしくないのです。

大ダメージを受ける資源国

 アメリカではシェールガスとともに、シェールガスの採掘方法を使ったシェールオイルの開発も急増しています。

 国際エネルギー機関(IEA)によれば、アメリカは2015年までには世界一のガス産出国に、2017年までには世界一の産油国になるとの見通しを立てています。

 こうしたエネルギー情勢の劇的な変化は、アメリカの安全保障政策をも大きく変えようとしています。

 アメリカは世界最大の石油消費国で、最も多いときには国内の原油消費量の60%を主に中東産油国からの輸入に頼ってきました。ですが、2011年の輸入比率は45%、2012年では42%と漸減傾向にあります。2013年以降は輸入比率がさらに下がっていくことは間違いありません。

 やがては世界一の産油国になって、中東産油国から原油を買う必要がなくなれば、アメリカにとっては、もはや自国の軍事力をエネルギー確保のために中東地域へ集中させる理由もありません。

シェール革命で勝ち組、負け組が明らかになる

 シェール革命は原油や天然ガスの国際的な価格を下げることによって、世界の経済や政治に大きな地殻変動を起こすことになるでしょう。シェール革命によって、新興国の代表であるBRICs諸国はどのような影響を受けるでしょうか。

 負け組はロシアとブラジルです。

 両国ともこれまで資源高によって過剰な恩恵を受け、経済成長を続けてきましたが、その反面、シェール革命でエネルギー価格の下落が起きると、もはやこれまでの経済成長は望めず、構造的な経済停滞に突入していくかもしれません。資源に頼らない新たな産業をつくりださなければ、これまでのような成長を続けることはできないでしょう。

 さらに、資源価格の問題だけでなく、両国が抱える固有の問題もあります。ロシアには政変リスクが、ブラジルには不良債権リスクがあり、シェール革命によってそれらの問題が表面化する可能性が大きいのです。

 では、勝ち組はどこかといえば、インドです。

 現在、インドは財政赤字や貿易赤字に苦しみ、脆弱なインフラやカースト制度のために外資を思うように呼び込めないという苦境に立たされています。しかし、これらの点に関しては、シェール革命によって、カーストの問題を除いて多くの問題が改善へ向かうことになるでしょう。ロシアやブラジルとは逆に、資源高の恩恵を受けられなかったからこそ、シェール革命の恩恵を受けられる国なのです。

 そして中国は、シェール革命によって、勝ち組にも負け組にもならない国です。世界一の埋蔵量があるといわれるシェールガスの産出がどれだけ事業化できるかは未知数ですが、エネルギー価格の下落はエネルギー需要の大きい中国にとってはプラスに働くでしょう。

 ただし、シェール革命による生産コスト構造の激変から、これまでのように「世界の工場」としての地位を失うリスクが高いので、勝ち組とも負け組ともいえないのです。

 中国を考えるとき、もっと大事な点は、中国自身が抱える国内リスクのほうでしょう。格差拡大と民主化の動き、共産党独裁の問題、軍の暴走、チベットなどの内政問題は、経済問題以上の大波乱を引き起こすかもしれません。革命や内乱といった巨大リスクが隠されている点には注意しなければいけません。

BRICs諸国は低成長の普通の国になる

 これらの新興国には環境汚染という大きな問題が残っています。新興国全体がいまや深刻な環境汚染に苦しんでいるのです。経済成長だけが優先されて、国民の健康は犠牲にされてきました。新興国に進出している海外企業にとって、環境コストが高くつくのはこれからでしょう。

 その上、新興国は課税強化の動きを強めています。これまでは外資を呼び込むために企業への課税を押さえてきましたが、工場誘致等が一巡したこともあって、外資系企業にさまざまな形で課税することを図っています。なかには国際的な二重課税問題にまで発展しているケースも出ているほどです。課税強化が進むことで、これまでのようには外資を呼び込めなくなるでしょう。

 これらの点を考えると、BRICs諸国はもはや高成長の国々ではなくなっているのです。実際、経済成長率も低下傾向にあります。高成長の国から低成長の普通の国になっていくのです。中国はいまだ7%超の成長率といっていますが、実質的には5%くらいがいいところです。ヘタをしたら、それも切っているかもしれません。

 では、これからの高成長諸国はといえば、それは東南アジアの国々です。フィリピン、インドネシア、タイなどでは中間層の所得が増えており、かつての日本のように、家電製品や自動車の購入など、消費意欲の高まりが経済を牽引しています。BRICs諸国の成長に陰りが見えるなか、新たな新興国としてASEAN諸国が注目を集めていくことになるでしょう。


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