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欧州経済は、2013年後半に底入れか? アイルランド支援完了へ 欧州の緊縮財政が大転換
http://toyokeizai.net/articles/-/14414
2013年6月22日 週刊東洋経済 野村 明弘 :東洋経済 記者
ここ数年、債務危機で世界を揺るがしてきた欧州のムードが、じわりと変わってきた。
2010年末、経済破綻によりギリシャに続いてEU(欧州連合)やIMF(国際通貨基金)の財政支援が決まったアイルランド。同国が今、静かに自信を取り戻しつつある。
「アイルランドは今や弱い国(重債務国)の中で最も優等生。次の目標はドイツやフィンランドなど強い国のグループに下位でもいいから入ることだ」。マイケル・ヌーナン財務相の口調には自然と力が入る。
それもそのはずだ。GDP(国内総生産)成長率はギリシャ、ポルトガル、スペインなど他の重債務国のマイナス成長とは対照的に11年からプラスに転換。EUやIMFから突き付けられた金融や労働市場の改革、増税、歳出削減などの条件はすべてクリアし、15年の財政赤字を3%以下(対GDP比)とする目標も余裕を持って達成できる見込み。
年内にはEUなどからの支援プログラムが完了するため、すでに出口戦略の段階に入った。「自前の資金調達に向け今年3月、長期国債発行を再開した。投資家の入札倍率は5倍、低利発行が可能となり、現在流通市場では3.5%程度の利回りで取引されている」(ヌーナン財務相)。
アイルランドは人口450万、小国特有の開放経済が最大の特徴だ。サービスを含む輸出はGDPの105%(11年)を占め、ユーロ圏平均約40%の2倍以上。この輸出が景気回復を牽引している(図)。強みは輸出品目の付加価値の高さだ。製薬が輸出の5割(つまり製薬輸出はGDPの5割強!)を占めるほか、ソフトウエア、世界シェア5割の航空機リースやヘッジファンド管理を擁する金融サービス、食品産業などが輸出の柱だ。
米アップル社の租税回避問題で一躍注目の的となったアイルランドの低法人税率だが、それだけでなくさまざまな外資誘致のための規制緩和やインフラ整備、人材教育を政府が推し進めていることも大きな強みだ。その結果、たとえば製薬では世界上位10社のうち9社がアイルランドに工場を構える。
■EU全体が緊縮緩和へ
一方、経済破綻のきっかけとなった不動産バブル崩壊ではまだ住宅価格や竣工件数の減少は止まっておらず、緊縮財政と相まって内需の低迷が続く。「失業率は14%とまだ高く、国民が苦しんでいるのは間違いない」とエイモン・ギルモア副首相は言う。ただ今年後半からはいよいよ内需も底を打ち、全体の成長率をさらに押し上げるとアイルランド政府はそろばんをはじく。
金融市場の投機的なアタックが続く中でも、自力で輸出主導の回復にこぎ着けてきたアイルランド。これに対し、アイルランドほどの輸出部門を持たない他の重債務国やフランスなどは緊縮財政を急いだため、内需の悪化と失業率の上昇という状況に陥っていた。こうした欧州の潮流もここにきて変化の兆しが見える。
ECB(欧州中央銀行)の無制限国債買い取りプログラム(OMT)や、ユーロ圏が国を通さずに直接銀行に資金注入できるESM(欧州安定メカニズム)が態勢を整えた昨年後半以降、投資家による重債務国の国債売りは鳴りを潜めた。市場のアタックがないなら、財政赤字削減のために無理に財政緊縮を急ぐ必要はない。各国が政策転換する機は熟しつつあった。
そして5月29日、ついにその日は来た。欧州委員会は加盟各国に対する経済・財政政策勧告を発表し、スペイン、フランス、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スロベニアの6カ国について財政赤字を3%以下(対GDP比)に削減する期限を1〜2年先送りする方針を打ち出した。
加えて、3%以下の財政赤字が定着したイタリア、ラトビア、リトアニア、ハンガリー、ルーマニアの5カ国については「過剰財政赤字是正手続き(EDP)」の解除を勧告。重債務国中心のこれら11カ国は、今後、歳出削減を緩めることができ、内需が押し上げられる。特にスペインやイタリアは、足元で純輸出が順調なため、全体のプラス成長転換にも弾みがつくことになりそうだ。
■危機回避で統合深化は減速
春先以降、欧州メディアはギリシャ経済の回復を伝える記事も書き始めた。度重なる「国家粉飾決算」や常識を逸脱した国民へのバラマキで欧州債務危機の発端となり、国際社会の信用を失ったギリシャだが、アイルランド以上の財政緊縮によって財政赤字(GDP比)は09年の15.6%から13年には3.8%まで急縮小。基礎的財政収支(PB)に至っては年内の均衡も視野に入った。
むろんギリシャの公的債務残高(対GDP比)は175%と依然EU最悪の水準にある。これを20年に124%まで削減することが義務づけられているため、緊縮財政によるマイナス影響は残る。最近も国営放送の閉鎖を突如打ち出すなど、不安定感が払拭できていない。それでも、1年前に比べて底割れ懸念が薄れているのは事実だ。
一方で、欧州が緊縮財政の呪縛を逃れ、危機の峠を越えたのだとすれば、それはEU統合の深化をスローダウンさせることも意味する。
EU議会議員のクリステル・スカルデモーゼ氏(デンマーク出身)は「私見では、EU議員の3分の2はより強い統合を望んでいる。富の分配という意味の統合なら、さらに賛成者は増えると思う」と語る。
少なからぬEUのエリート層は、現在の国民国家並みに、豊かな地域から貧しい地域への富の再分配を伴う「欧州連邦国家」を遠い将来の終着点としてイメージしているが、それを最初から明言すると富裕国の世論が猛反発し、統合が頓挫してしまう。そのため、「さまざまな危機の解決を通じて加盟国からEUへ主権の移譲を進め、統合を深めるというのがEU構築のプロセスになった」(中央大学の田中素香教授)。
現在のEUの財政規模はEU27カ国の国家予算合計の50分の1(11年で1400億ユーロ)にとどまり、そのうち35%程度が国境を超えたEU域内の格差是正(インフラ、教育支出)に使われているにすぎない。
今回の債務危機対応を契機に、ESMに加え、銀行監督の一元化など各国主権のEUへの移譲は大きく進んだ。が、足元では、ユーロ共同債など財政統合の議論はほぼ完全にストップしてしまった。一時不安視されたEU分裂は杞憂だったが、統合のスピードも低下しつつある。
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