01. 2013年6月20日 08:26:34
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FRBと新興国:投資ブームの終わり 2013年06月20日(Thu) The Economist (英エコノミスト誌 2013年6月15日号) 米国の量的緩和縮小の見通しが新興国の為替市場と債券市場を動揺させた。 ファンドマネジャーが、南アフリカ共和国の通貨ランドを売りたいと思う理由はたくさんある。南ア経済はほとんど成長していない。労働人口の25%という失業率は、ユーロ圏の最も悲惨な国々と肩を並べる。鉱業は、ちょうどコモディティー(商品)価格が下落している時に、労働争議に苦しんでいる。 多額の貿易赤字は、国内の生産者が外国の競争相手と無駄に戦っていることを示す兆候だ。ランドの対ドル相場は今年、16%下落した。ランド以上に下落しているのは、シリアポンドとベネズエラボリバルだけだ。 だが、こうした国内問題だけがランド下落の理由ではない。南アは、先進国のような金融市場を擁する。大半の中所得国よりも、債券と株式を売買するのが簡単なのだ。そのため、ランドは、投機筋が新興国全般に対してポジションを取ることのできる便利な通貨になっている。 一攫千金を狙う投資家が米国での金融緩和政策の終わりの始まりを感じ取っている今、彼らが売りたいと考える資産は、新興国市場の債券と通貨だ。ランドは、単に脆弱な通貨の長いリストの中で最も大きな打撃を受けているだけだ。 FRBの量的緩和縮小観測をきっかけに始まった「売り」 FRB(写真)による量的緩和縮小観測が新興国市場を揺るがしている〔AFPBB News〕 過去1カ月間で、ブルームバーグが追跡している24の新興国通貨のうち、19の通貨が対ドルで下落している。 この下落のきっかけは、米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長が5月に行った、中央銀行の資金を使ったFRBの債券買い入れが近く徐々に減少するかもしれないという発言だった。 指標となる米国の10年物国債利回りは、1.6%の記録的な低水準から2.2%に上昇している。時間とともに利回りがさらに上昇するという見方は、ドル相場を押し上げ、相対的にリスクの高い世界各地から米国に資金を呼び戻す可能性が高い。過去1カ月間の新興国市場の下落は、こうしたトレンドを見越したものだ。 こうした動きは、何気ない発言に対する激しい反応に見える。バーナンキ議長は、すぐに政策を変更すると言ったわけではない。FRBの債券買い入れは続くが、恐らく現在の月間850億ドルのペースの買い入れは長く続くことはないだろう。FRBが現在ゼロ近辺にある短期金利を引き上げるのは、まだ数年先になるかもしれない。 だとしても、FRBによる債券買い入れの縮小の見通しは、恐らく米国の債券利回りが長期間徐々に上昇し、より普通の水準に戻る始まりになるだろう。「利回り上昇は一直線で進むものではない」とソシエテ・ジェネラルのキット・ジュークス氏は言う。金利は、適正価格を求めて不安定な動きを見せるだろう。 最近までそうした変動がなかったことから、先進国の投資家は安心して新興国の債券に投資してきた。水面が波立ってくると、先進国の投資家は、そうしたギャンブルにあまり乗り気ではなくなるだろう。 自己資本比率規制が強化されるため、銀行のトレーディングデスクは今、投資家が投げ売りする資産を買い持ちしたがらなくなっている。そのため債券価格の変動は大きくなる一方だ。 最も影響を受けやすい国は、支出と収入の差を埋めるために外国資本に依存している国だ(図1参照)。 南アは国内総生産(GDP)比の経常赤字が比較的大きい。その結果、ランドが苦しんでいる。ランドの地位は、中国の成長鈍化もあってコモディティー価格が下落していることからも打撃を受けてきた。 他にも新興国のチリやブラジルから先進国のオーストラリアに至るまで、コモディティーへの依存、比較的多額の経常赤字、下落する通貨という弱い地位を共有する国はいくつかある。 ただのパニックか、もっと深刻な問題か? 一部のコモディティー輸入国の通貨も揺れ動いている。インドは、経常赤字のGDP比が5.1%に上る。ルピー相場は先日、対ドルで史上最安値をつけた。トルコは、赤字を埋めるために短期資金に依存している。イスタンブールの抗議運動は、いくつもあるリラ売りの理由の1つに過ぎない。 これはパニックなのだろうか、それとももう少し深刻な何かなのだろうか? これまで新興国の通貨は、時折訪れる運の悪い月を耐え抜き、結局回復するという経緯をたどってきた。FRBは注意深く歩みを進める可能性が高い。だが、米国の国債利回りがゆっくりと着実に上昇し、ドル高が小幅だったとしても、問題は起きる。 ヘッジファンド、SLJマクロ・パートナーズのスティーブン・ジェン氏によると、2009年以降、新興国市場に約4兆ドルの資金がなだれ込んでいるという。その大部分は、新興国で高いリターンが得られるという見通しに「引っ張られた」というよりも、先進国で得られる低利回りによって海外に「押し出された」資金だとジェン氏は言う。 その資本のごく一部でも神経質な投資家によって引っこ抜かれれば、それは相場下落を総崩れに変えるだろう。 ドル高と米国債利回りの上昇が起きた過去の出来事は、その後に通貨危機と債務危機が続いた。1980年代初めの中南米や1990年代半ばのアジアが好例だ。 現在の状況は、1つの重要な点で昔とは異なる、とヘッジファンド、ノース・アセット・マネジメントのジョージ・パパマルカキス氏は言う。かつては、先進国の銀行は貧しい国々にドルで貸し出しを行っていた。資本の流れが逆転した時は、借り手の元には、ドルの上昇で膨れ上がる債務が残された。 対照的に、最近の大量の資本流入は、現地通貨建ての債券に向かった。投資家はしばらくの間、債券価格の上昇と通貨高という好循環を享受した。しかし今は、膨らむ可能性の高い損失に直面している。 避けられない副次的影響 そのため、調整の痛みの一部は、先進国でも感じられるだろう。新興国の中央銀行は、そのことから利益を得ることさえできる。中銀は、安上がりに準備金に加えたドルを売り、同時に為替レートの下落を抑えることができるからだ。 だが、新興国は副次的な影響から逃れることはできない。米国の金融政策のサイクルのごく小さな転換でさえ、新興国では増幅される。 一部の国では、現地通貨建て債券の外国人の買い手がいなくなっているため、金利が上昇している(図2参照)。 少し前までは、FRBの緩和政策が新興国の通貨を押し上げ、現地の輸出業者に損害を及ぼしているという不満の声が聞かれた。今、新興国の通貨は下落している。だが、その結果には痛みが伴う。輸出主導型の成長は、外国からの低利融資と強い通貨によって喚起される消費ブームのような楽しいものでは全くないのだ。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38047 ギリシャ危機が遺した負の遺産 2013年06月20日(Thu) Financial Times (2013年6月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) ギリシャは「恐慌」と呼べる深刻な不況に陥った〔AFPBB News〕
ギリシャは2500年前に西洋の精神を形作り、近年は金融危機への対応を形作った。この危機でギリシャは災難に陥り、同様な状況になるのを恐れたほかの国々は緊縮財政への方針転換を正当化した。 その結果、危機後の景気後退からの回復は弱々しいものにとどまっており、ユーロ圏と英国では特にその傾向が著しい。ギリシャは悲しいかな、まずいタイミングでまずい危機に見舞われた。 IMFが断じた「ギリシャ支援プログラムの失敗」 オックスフォード大学のサイモン・レン・ルイス氏は見事なブログ投稿で、この物語を紹介している。同氏が参照したのは、2010年5月に合意されたギリシャ支援プログラムを国際通貨基金(IMF)が批判的に検証してまとめたリポートだ。このリポートでは、同プログラムの失敗を次のように要約している。 「市場の信頼感は回復せず、銀行システムは預金を30%失い、経済は予想をはるかに上回る深刻な景気後退に陥り、失業率が異常なほど高くなった。公的債務は過大な状態が続き、最終的には債務再編を強いられた。その打撃は、景気後退で弱まった銀行のバランスシートにも及んだ。賃金の下落を背景に競争力はいくらか高まったものの、構造改革は進展せず、生産性もなかなか向上しなかった」 この支援プログラムは、2009年から2012年にかけて実質国内総生産(GDP)が5.5%減少すると見込んでいたが、実際は17%減少した。高所得国の集まりである経済協力開発機構(OECD)によれば、2008年第1四半期から2013年第1四半期にかけて民間需要は33%減少し、失業者は増加して労働人口の27%を占めるに至ったという。 このような恐慌を正当化する理屈はただ1つ、必要な相対コスト削減を通貨同盟の参加国に強いるためにはGDPの大幅減とそれに伴う失業の増加が避けられない、というものだった。ギリシャはユーロ圏にとどまることを望んでいるのだから、それに伴う痛みは我慢してもらわねばならないというわけだ。 しかし、この理屈をもってしても、支援プログラムには正当化されない部分が残る。そもそもIMFは、債務が持続可能な状態になった国にしか融資しないことになっている。 だが、当時から多数の識者が指摘していたように、ギリシャの債務は全く持続可能ではなかった。支援プログラムはこれを持続可能にすることなく、多くの民間の債権者が無傷で脱出していくのを黙認した。 最終的には民間の債権者への債務が減額されたが、ギリシャの公的債務は依然過大なままだと言ってよい。IMFでは、GDP比の公的債務が2020年には120%近くになると予想している。このような過剰な債務があっては、資本市場に復帰したり健全な経済を取り戻したりするのは難しい。ギリシャについては、もっと大幅な債務削減がまだ必要なのだ。 ギリシャ危機は「財政危機」という誤解 この一連の話からは、IMFの政治色が強まっているとか、ユーロ圏は比較的弱い加盟国のために行動することができないといった、気の滅入る状況が垣間見える。しかし、ギリシャ危機は世界的にも2つの影響を及ぼした。 第1に、ユーロ圏内ではギリシャが最初にトラブルに見舞われたために、これは財政の危機なのだという欧州北部の見方が信憑性を持つようになった。実際、ギリシャは大変な放漫財政を行っており、危機以前からGDP比の純公的債務が100%を超えていた。 しかし、ほかの国では状況がかなり違った。アイルランドとスペインでは民間部門の借り入れが危機の根本的な原因であり、ポルトガルでもある程度そうだった。イタリアの公的債務は多額だったが、それは放漫財政を近年行っていたからではなかった。 今回の危機は概ね財政の危機なのだと判断したことで、当時の政策立案者は重要な真実を無視することができた。混乱の根本的な原因は国境をまたいで行われた無責任な融資であり、それについては信用を供与した側にも間違いなく借り手と同程度の責任があるという真実だ。 貸し手と借り手の双方に落ち度があったことがもし理解されていたならば、債務の減免を認めるべきだという主張はもっと明快になされていたことだろう。 危機からの急回復を阻んだ緊縮策 第2に、ギリシャ危機は世界中の国々の政策立案者を震え上がらせた。彼らは、危機の原因である金融セクターの崩壊や民間部門の過剰債務を是正することに注力するのではなく、財政赤字に目を向けた。だが、財政赤字は、危機に対する適切な政策対応である面もあったとはいえ、概して危機の症状であって原因ではなかった。 筆者が先に論じたように、ギリシャの第1次支援プログラムが合意されてまだ日の浅い2010年6月に、20カ国・地域(G20)の首脳たちはカナダのトロントに集い、景気を刺激する方針を転換し、「先進国は、2013年までに財政赤字を少なくとも半減させる計画にコミットした」と謳いあげた。そして財政支出が急激に減らされた。 政策立案者たちは、学者の研究報告を使ってこの政策転換を正当化した。歳出削減が景気を拡大させる可能性もあるとの説を励ましと受け止め、公的債務が過度に積み上がると経済成長率が低下するとの説を警告と捉えた。 2010年半ばまでは「グレートリセッション(大不況)」の悪夢からの急回復に見えた動きは、止まってしまった。英国とユーロ圏ではそれが特に顕著だった。緊縮を切り抜けるうえで米国が欧州よりも大きな成功を収めたのは、恐らく、米国の方が積極的に金融セクターを一掃し、家計のデレバレッジング(負債圧縮)を受け入れ、特にユーロ圏との比較で積極的な金融政策を講じたことが原因だった。 OECDの最新の予想が正しければ、2014年第4四半期のユーロ圏のGDPは、2008年第1四半期のGDPより小さく、2011年第1四半期から0.7%しか拡大していないことになる。財政引き締めが、それだけでこれほど弱々しい回復をもたらしたのだろうか? もちろん、違う。 だが、財政引き締めは、危機に襲われた民間部門から生じる景気縮小作用を打ち消す、今も切実に求められている相殺効果を取り除いてしまった。 気が滅入る悲しい物語 この物語が気が滅入るのは、それが不要だったということだ。当初は、ギリシャ危機は財政危機の大流行の最初の発症例だと危惧することが理にかなっていたかもしれない。 だが、独自の変動通貨を持つ国はまだ、超低金利で国債を発行できることがすぐに明らかになった。その背景には、これらの国の中央銀行による「量的緩和」があった。独自の中央銀行を持つことにより、政府は金融危機への対応を管理する一定の自由を得られるのだ。 こうした国にとっては、急激な構造的財政引き締めを行うべきタイミングは、民間部門が構造的な資金余剰を解消し始めた後に初めて訪れる。その時期は、危機の直後ではない。また、事前に金融部門のリストラを実施し、民間部門の過剰債務を処理することも必要になる。 要するに、ギリシャ危機は三重の災いだった。ギリシャ自身にとっての災いであり、ユーロ圏内では危機に対する一般的な見方にとっての災いであり、世界中の財政政策にとっての災いだったのだ。その結果が経済の停滞であり、特に欧州では、停滞以上にひどい状況だった。 我々は今、危機以前のトレンドに対するGDPの大幅な減少は、2度と取り戻せない可能性が十分あることを認識しなければならない。にもかかわらず、政策立案者の対応は、過ちを認めることではなく、以前より低い水準で容認可能な経済パフォーマンスを再定義することだった。これは悲しい物語だ。 By Martin Wolf
日本の最大の貿易相手は中国ではない! 「付加価値貿易統計」で日本の実力を再評価 2013年6月20日(木) 木暮 太一 かつて、日本の貿易相手国はアメリカ合衆国でした。そして近年、それが中国になりました。それもあって「中国は日本にとって欠かせない経済大国だ」といわれています。しかし、「実はそうでもない」ということも明らかになったのです。 今年1月、経済協力開発機構(OECD)と世界貿易機関(WTO)が「付加価値貿易統計」という“付加価値”で考える新しい貿易統計を公表しました。これによると、日本の輸出先はアメリカが最大で、従来の統計で最大だった中国を上回ることが分かったのです。対米の貿易黒字は従来の統計と比べて「6割増」となり、日本経済は「やはりアメリカとの結び付きが強い」ということを改めて認識させられました。 “付加価値”で考える貿易統計とは? これはどういうことなのでしょうか?「付加価値で考える新しい貿易統計」とは、一体何なのでしょうか? これまでの貿易統計は、「金額」で表していました。例えばこういうことです。 日本が100ドルの商品(日本で1から作ったとします)を中国に輸出し、 中国で加工されて150ドルの商品にします。それを中国がアメリカに輸出したら、 → 日本:中国向け輸出が100ドル → 中国:アメリカ向け輸出が150ドル となりました。しかし、この新しい貿易統計では付加価値で考えます。そうなると、「輸出額」が変わるのです。中国からアメリカに輸出された150ドルの商品のうち、100ドル分は、日本で作りました。ですから、付加価値で考えるとこの商品は、 100ドル分は日本で生産されて、アメリカに渡った 50ドル分は中国で生産されて、アメリカに渡った ということになるのです。これを反映させたのが、新しく発表された貿易統計です。 そして冒頭の話の通り、この貿易統計で考えると、日本の輸出先のトップは、実はアメリカだったのです。 こちらの付加価値をベースにした統計の方が、経済の実態を正しく表しています。これまでの統計だと、たとえその国の貢献度が1%程度でも、その商品の金額がまるまる輸出として反映されています。「右から左へ」の状態でも“輸出”とみなされるわけです。しかし、それがその国の経済パワーを表していないことは明らかです。 例えば、デジタル機器は、中国や台湾で組み立てて世界に輸出されています。だからといって、中国や台湾“だけ”がその商品を売っているわけではありません。その過程を見ると、日本や韓国など外国の商品が中間財として組み入れられています。これらを考慮しなければいけません。 この付加価値をベースにした統計は理にかなった考え方であり、そもそもGDPを計測する時には、各経済主体の「売り上げ」ではなく、付加価値を積み上げて計算されています。従って、この統計で見ればより実態を正しく把握できるわけです。 また同時に、自分たちの「本当のお客さん」が誰なのかも見えてきます。これまでの統計で考えると、日本の最大輸出国は中国でした。そのため中国が最大の「お客さん」だったわけです。ですが付加価値ベースで考えると、アメリカが最大になります。 2009年の実績を付加価値に基づいて計算し直すと、日本の最大の輸出国はアメリカで、全体の19%を占めることになります。従来の統計では中国が24%でトップ。しかし付加価値で見ると2位の15%に下がります。3位の韓国も、9%から4%にシェアが落ちることになります。 貿易黒字は中韓向けでほとんどなくなり、アメリカ向けでは360億ドルと6割も増えます。これはつまり、日本は商品を中国や韓国を経由して、アメリカに売っているということなのです。 ※中国に100億ドル輸出しても、それが加工されてアメリカに再輸出されれば、中国向けの「付加価値」はゼロになります。よって日本が商売をしているのは中国ではなく、実はアメリカだということになります。 日本の対米貿易黒字は6割増加する これまで、中国の対米貿易黒字が注目されてきました。アメリカは対中貿易赤字が急増していることを懸念・非難しています。ですが、この付加価値貿易額で見ると赤字は25%縮小します。 そして一方で日本の対米貿易黒字は、従来の統計で2009年220億ドルでしたが、付加価値ベースでは360億ドルへと60%も増加することがわかりました。 現在の貿易統計では、その輸出額が中国や東南アジア諸国に計上されていますが、付加価値で考えれば、日本が生みだした価値が相当分増えるはずです。日本は中国や東南アジア諸国に、様々な部品や素材を輸出しています。それらの中間財が加工され、最終消費財として大量にアメリカに輸出されているわけです。 つまり、従来の統計では最終商品を輸出する国の輸出額が過大に評価され、同時に中間財を輸出している国は過小評価されていたことになるのです。そしてその過大評価・過小評価に基づいて、世界経済の「勢力図」も作られていました。 こうなると付加価値で考えたときに、二国間の貿易赤字・黒字を取り上げてもあまり意味がないことが分かります。そもそも単純な出荷額が実態を表していないのであれば、それを基に「赤字だ!」「黒字だ!」と言っても意味がありません。 東南アジア諸国が、「対日貿易赤字が大きい!」と叫んだとしても、意味がありません。もし対日貿易赤字を大きくしているものが中間財だとしたら、それは「輸入」というより、「仕入れ」であり、自分たちが加工し、輸出するために必要不可欠な原材料です。 例えば韓国も対日貿易赤字が大きいと批判していますが、韓国がその中間財を加工して、欧米各国に輸出している限り、この赤字は自分たちの商売の一環になります。また、付加価値をベースに考えると、韓国の対日貿易赤字は“ほぼゼロ”になるようです。 新統計が浸透すれば貿易黒字のイメージが変わり、貿易収支の構図が変わります。そのため、各国の「政治的圧力」の矛先にも変化が見られるでしょう。アメリカからすれば、中国は「まだまだその程度だったか」と感じる半面、日米貿易摩擦が再燃しかねません。 正確な統計には中間財の追跡が重要 この統計は、経済の実態を把握するのに非常に有効です。この統計に基づけば、実際に誰が付加価値を生むことができるのかが分かります。世界の中での経済的地位が低下しつつある日本ですが、付加価値を生む力で考えれば、日本は過小評価されていたことになります。日本の力が見直される機会として期待できます。 ただ、この統計が正確なものになるためには、中間消費財の追跡が欠かせません。どの部品がどの地域でつくられて、それをいくらで輸入したのか、それを事細かく把握しなければいけません。単に「何をいくつ、いくらで輸入したか」を調べるだけでは不十分で、それがどの商品に組み込まれ、どの国にいくらで輸出されたかを追跡できなければいけません。 はたして、すべての商品についてそれができるのか、やや疑問が残ります。 とはいえ、この貿易統計はぜひ浸透するよう継続して進めてほしいものです。この付加価値に基づく貿易統計に関して、経済協力開発機構が5月28日に公表した報告書では、日本やアメリカなど、先進国の価値創造力が依然高いことが明らかになりました。 最終消費財を構成する付加価値(原材料、部品)がどこで創られたかをたどっていくと、日本やアメリカで付加されている価値が高く、それが世界中に輸出されているのが実態だったというのです。各国の経済力を的確に把握し、日本が国際的に再評価されるためにも、この統計は意味が大きいと考えます。 |