05. 2013年6月21日 10:48:57
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【第342回】 2013年6月21日 倉都康行 [RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役] FOMCを受けて広がる米国「出口戦略」の波紋 世界、そして日本への“影響度”はいかほどか ――倉都康行・RPテック代表取締役 世界の金融市場の関係者は、今月18、19日に行われた米国FOMC(連邦公開市場委員会)の協議の行方を、並々ならぬ関心を持って見守っていた。5月下旬にバーナンキFRB議長が議会証言の質疑応答で言及した「緩和縮小の可能性」は、日本のみならず世界の市場を揺さぶった。今回のFOMCにかつてなく注目が集まったのも、無理はない。政策現状維持を決定したFOMC後のバーナンキ議長の記者会見は、市場の乱調を強く意識しつつも、緩和縮小・停止に明確に舵を切ったという印象を与えた。今後、世界、そして日本にはどのような影響が及ぶのだろうか。米国をはじめ、世界の金融市場に精通する倉都康行・RPテック株式会社代表取締役が、その行方を鋭く推察する。世界が注視したFOMCの行方 政策現状維持もFRBは金融緩和縮小へ くらつ・やすゆき RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役。1955年生まれ。東京大学経済学部卒。東京銀行、バンカーストラストを経て、チェースマンハッタンへ移籍。チェース証券取締役東京代表を経て、2001年4月に独立、現在に至る。著書に『投資銀行バブルの終焉―サブプライム問題のメカニズム』(日経BP社刊)がある。 今月18、19日の2日間にわたって行われた米国FOMC(連邦公開市場委員会)でどんな協議がなされるのか、そしてバーナンキFRB議長がどんな発言をするのか、世界中の経済問題に関心を寄せるほぼ全ての人々がその瞬間を待ち続けていた、と言っても過言ではないだろう。
政策現状維持を決定したFOMC後の記者会見で、同議長は、その声明文に示された見通しに沿って経済が順調に成長し、雇用市場が改善すれば、QE3は年内に縮小し、来年半ばには終了する、との具体的なスケジュールを描いて見せた。 もう少しハト派的な内容を期待していた市場にとって、これはややサプライズとも受け止められ、株価は下落して長期金利は上昇、為替市場ではドル買いの動きが強まった。 ただし、バーナンキ議長が市場に対して一定の配慮を示したことは間違いない。緩和終了までには相当の距離があると述べ、政策判断は経済統計次第だとして緩和縮小シナリオが所与のものではないことを示し、緩和縮小と引き締めは異なるものであることを強調している。 それは、市場に対して「来たるべき出口時期への準備をしておくように」とのメッセージのようにも聞こえる。 それは、5月22日に同議長が議会証言の質疑応答で言及した「緩和縮小の可能性」が米国長期金利の上昇を通じて、日本のみならず欧州や新興国などのあらゆる市場を揺さぶったことに鑑み、議長が「市場との対話法」において相応の神経を遣ったものと思われる。 5月下旬の米国市場には、半年間で長期金利が2%以上も急騰した1994年の「債券メルトダウン」が再現するのではないか、との戦慄さえ走った。金融緩和にどっぷりと浸かった金融市場は、突然の環境変化の予兆に機動的に対応できない弱さを露呈したのである。 利上げでも緩和終了でもない単なる「買い入れ額縮小の可能性」が示唆されただけで、有り余るマネーは右往左往してリスク資産から逃げ惑う。日経平均の暴落とも言える下落も、そうした世界的な流れの一環であった。 結果として、本来ドル買い材料になるはずの米国の金利高が、反対に「安全資産買い」を連想させて「ドル売り・円買い」を誘う、といった現象まで引き起こした。 市場の乱調を強く意識しつつも 緩和縮小・停止に明確に舵を切った 市場では「実体経済からかけ離れた株価への懸念」も緩和縮小検討への一因だ、と言われることもあるが、米国株にはそれほど割高感はなく、5月中旬以降の下げ幅も限定的であった。 むしろ、歴史的水準にまで利回りが低下した債券市場や、上昇スピードが強烈であった日本株、再建途上であるにもかかわらず金利が急低下していた南欧国債、そして実力以上に買われていた新興国通貨などが狙い撃ちに遭った、と見た方が解りやすい。 先日のバーナンキ議長の会見は、こうした市場の乱調を強く意識したものとなった。だが一方で、緩和縮小・停止の方向に明確に舵を切ったという印象は強い。 以下、まずFRBの現状認識と議長会見について概観した後で、日本を含む各国経済や世界の金融市場が今後どういう展開を見せるのか、推論してみよう。 FOMCと議長会見のポイント 修正見通しが正しければ緩和縮小へ 今回のFOMCでは、毎月850億ドルの資産買い入れという現状の政策を維持すると同時に、GDP成長率、失業率、そしてインフレ率の見通しを修正している。 具体的には、2013年の成長見通しを3月時点での予想値である2.3-2.8%から2.3-2.6%へとやや下方修正、一方で2014年は2.9-3.4%から3.0-3.5%へと上方修正している。 また、失業率の2013年末見通しは7.3-7.5%から7.2-7.3%へ、2014年末は6.7-7.0%から6.5-6.8%へとそれぞれ改善の見通しを掲げ、コアインフレ率を2013年末は1.5-1.6%を1.2-1.3%へ、2014年末は1.7-2.0%から1.5-1.8%へと下方修正している。 こうした米経済見通しの改訂を踏まえた上で、バーナンキ議長はその見通しが正しければ緩和が縮小・停止されるのは必然、との考えを示したのである。その中で、緩和が停止される頃の失業率は7.0%前後になる、との新しいメッセージも提供した。 市場は、この発言を「緩和縮小・停止は既定路線になった」と受け止めたようだが、実際にFOMCで示されたシナリオ通りにことが運ぶのか、という点には注意する必要がある。FRBの成長見通しはよく外れることで有名だからだ。米国が厳しい景気後退から回復してきたここ数年間、FOMCで示された成長見通しは何度も下方修正されている。 今回の成長見通しに関しても、財政政策は強制歳出削減で硬直化したままであり、企業の設備投資は回復せず、新興国経済の急速な冷え込みで製造業の新規受注は停滞中である現状を考えれば、かなり甘い見通しだと言わざるを得ず、IMFの1.9%予想や世銀の2.0%予想の方に現実味を感じる。ウォール街の予想もほぼ2%前後だ。金融緩和の効果で住宅市況と自動車販売は確かに好調だが、この2分野だけで景気を引っ張ることは難しい。 また失業率は低下中であるが、それは労働参加率が減少していたからであり、求職者が雇用市場に戻ってくれば、逆に上昇する可能性も指摘されている。就業者数は確かに増えているが、その中身は主に給与水準の低いサービス業である。 さらに、気になるのがインフレ動向である。QE3導入の際に懸念されたインフレはほとんど存在しない。むしろ、米国では物価上昇スピードが落ちている。FOMCの見通しにもそれが反映されており、FRBの一部には「2%インフレ維持が難しくなってきた」という別の警戒感もある。デフレ回避はFRBの大命題でもあり、こうした逆の物価懸念が強まる中で緩和縮小に踏み切れるのか、という疑問もある。 市場には9月のFOMCで緩和縮小開始と見る向きが多いが、その時点で明確に「経済回復・雇用改善・インフレ率持ち直し」と言える数字が出ているかどうかは現時点では不透明だ。縮小開始は12月だとの声もあるが、半年先のことなど誰にも解らない。バーナンキ議長は緩和縮小に着手できないまま、来年1月に次の議長へバトンタッチ、というシナリオもまだ残っているように思われる。 なぜ緩和縮小へとなびいたのか バーナンキ議長の心境を推察する では、何故同議長がこれほどまでに緩和縮小へとなびいたのだろうか。それは今回の発言には示されていないが、1つには緩和の長期化によるデメリットへの警戒感があるように思われる。 具体的には、レバレッジド・ローンと呼ばれる低格付け企業向け融資の「ミニ・バブル化」である。銀行を中心とする金融システムにおける資産配分が狂い始めたことへの懸念、と言っても良いだろう。 バーナンキ議長は、年初以降しばしば「クレジット問題を注視している」とコメントしてきた。それは、2007年のサブプライム・ローン問題を過小評価したために、金融危機防止への初期対応が遅れたことへの強い反省があったのではないか、と思われる。 また、昨年9月に導入されたQE3は、回復力の乏しい雇用市場や下振れリスクを抱えた米国経済に配慮してのものであったが、この追加的量的緩和が雇用拡大に寄与したという議長の主張を疑問視する声は強い。 FRB内部にも、QE3の効果は薄いとの指摘がある。そんな中で緩和のデメリットが目立ってきたとあっては、緩和規模の縮小を主張する声に議長も耳を傾けざるを得なくなった、という背景もあるかもしれない。 そして、議長自身は来年1月で退任する腹を固めていると言われ、先般オバマ大統領もそれを事実上認める発言をしたことからもうかがえるように、自らが導入した非伝統的政策の解消への道筋を在職中に示しておく、という個人的な思い入れがあったとしても不思議ではない。後世に「ヘリコプターからドルをばら撒いただけ」という評価を下されることは、絶対に避けたかっただろう。 欧米経済への影響度はどうなる? 米国経済への懸念は欧州に波及か バーナンキ議長の思いがどうであれ、「中銀しか見なくなった市場」は今回の議長発言を重く受け止めている。仮になかなか緩和縮小に踏み切れなかったとしても、市場センチメントはすでに緩和停止を織り込む方向へ傾いている。その中で米国長期金利が2.5%を超えて上昇するような状態になれば、好調な住宅市場や金融機関経営にもネガティブな影響が出るだろう。 昨年来、上昇機運に乗ってきた住宅市場には下半期に在庫が増える見通しであり、需給が緩む中でモーゲージ金利が上昇して需要を抑制することになれば、住宅価格が再び下落すると予想する向きもある。 さらに、低金利に馴れ切った米銀の収益構造が揺らぐ可能性もある。大手は金利リスク管理が進んでいるが、中小規模の銀行や地域金融機関は金利上昇リスクに脆いのである。悪いことに、米銀では低金利の長期化を見込んだ「長期固定金利の資産」が増えている。金利高期待で銀行預金がMMFに流れれば、資金調達コストも上昇するだろう。 米国の金利上昇や実体経済の下振れ懸念は、容易に欧州債務危機を再燃させる契機にもなるだろう。昨年来、ECBのOMT(国債買い入れ策)や欧州銀行同盟への合意などにより、南欧諸国の債務懸念はひとまず収束して長期金利の低下をもたらしたが、それは抜本的な解決によるものではない。 現在は小康状態に過ぎず、ギリシア、キプロス、そしてスペインやイタリア、ポルトガルなどの問題は依然として燻っている。最近では、フランスやオランダの景気後退という新たな問題を抱え込み、域内でのドイツ独り勝ちという不安定な状態に陥っている。経済再生から抜け出せない中で、ユーロの将来像への不安感はいつ復活してもおかしくない。 米国の金融政策修正は影響大 エマージング危機の可能性も だが、米国金利上昇とドル高という点で、欧州以上に気になるのは新興国経済への影響だ。1980年代の中南米危機や1990年代のメキシコ危機・アジア危機などを思い出すまでもなく、米国の金融政策修正によって常に大きな影響を受けるのが新興国なのだ。 今回は、その中に世界第2位の経済大国となった中国が含まれる、という点で、20世紀に見た光景とは大きく異なる事態に直面するかもしれない。 中国経済に関しては、すでに鈍化傾向が鮮明となっているが、それに加えて、シャドウ・バンキングと呼ばれる規制対象外の金融取引の肥大化で、金融システムの脆弱化もまた浮き彫りになっている。 米国の金融緩和修正が中国からの資本流出を引き起こし、資産市場の混乱や実体経済の下振れを通じて、中国の経済基盤を揺るがす可能性は否定し難い。 今中国の金融市場では、前述したシャドウ・バンキングへの規制で流動性が逼迫しており、短期金利が急上昇するといった不安定な状況にある。こうした中での資本流出は危険なシグナルだ。仮に中国で何らかのショックが起きれば、当然ながら日本の経済にもかなりの悪影響を及ぼすことになろう。 アベノミクスへの賛否両論に固執 世界経済の乱流への警戒感が薄れる日本 日本では、アベノミクスに関する細かな点での賛否論に固執するあまり、こうした世界経済の乱流への警戒感が薄れていることが最大の問題ではないだろうか。異次元の金融緩和には、プラス面と同時に危険な問題もある。その副作用が海外要因によって増幅されることこそが、日本にとって警戒すべき最大のポイントだろう。 欧米諸国がこれまで「異次元の緩和政策」に理解を示していたのは、日本株市場と似たような「期待感」によるものだ。だが、先般のG8サミットでメルケル首相が釘を刺したように、副作用や出口戦略への意識が乏しい日本政府に懸念を示す向きは、市場にも増えつつある。 出口に向けて市場との対話に四苦八苦するFRBの姿が、大胆な金融緩和政策への楽観ムードを冷却し始めているようにも見える。 米国の金融政策変更の可能性を前にして、具体的に日本が今後警戒せねばならないのは、長期金利の上昇傾向と、それに伴う景況感の失墜だ。期待だけで持ち上げられた高揚感がハシゴを外されたと失望するときの落胆は、株式市場にも反映されるかもしれない。 政府は秋の成長戦略に賭けているようだが、ニュースのヘッドラインだけに反応する投機筋はともかくとして、海外の長期投資家が注視するのは個別企業が打ち出す成長への経営戦略であって、政府や官庁がもっともらしく仕上げる文書ではないのである。 そのことに気付いていない人が、あまりに多いような気がしてならない。 【第440回】 2013年6月21日 横山渉 異次元の金利上昇で家庭に募る「異次元の不安」 住宅ローン、投資にまつわる杞憂と真のリスク 日銀の“異次元”金融緩和は、長期金利の乱高下という予想外の副産物を生み出した。それにより、我々の家庭がダイレクトに被りかねない悪影響が懸念されている。「メガバンクで住宅ローン金利が上がった」「株のみならずREIT価格も下落している」など、金利上昇に伴うネガティブなニュースを耳にするにつけ、不安を感じている人も多いだろう。過去と比べて水準自体はまだそれほど高くないとはいえ、今まで経験したことのない状況下で起きている「異次元の金利上昇」だからこそ、我々は先行きを類推しづらく「異次元の不安」を感じてしまうのだ。金利の上昇基調をどう見据え、どんな対策をとればいいのか。住宅ローンや投資に関わる杞憂と真のリスクを、専門家の意見を交えながら検証しよう。(取材・文/フリーライター・横山渉、協力/プレスラボ) 増える住宅ローン金利上昇のニュース 家庭が不安を募らせる金融緩和の副産物 「今、結婚を前提に付き合っている彼女がいます。年も年なので、そろそろ入籍しようと考えていますが、最近住宅ローンの金利が上がったというニュースを毎月のように聞き、焦っています。いったい、どうなるのでしょうか」 こう語るのは、都内在住で総合商社に務める金井哲二さん(仮名・42歳)。海外出張も多く、あまりの仕事の忙しさに、ここ数年は女性と付き合う機会がなかったという。1年ほど前に、結婚相談所を介して出会った6歳年下の女性と意気投合し、すでにプロポーズも済ませている。 「結婚には先立つものがなければ」と考えた金井さんは、数ヵ月前からマンション探しを始めた。しかし、数少ない休日を使って物件巡りをしても、住宅の好みがはっきりしている彼女となかなか意見が合わない。そうこうしているうちに、「メガバンクが軒並み住宅ローンの金利を引き上げている」というニュースがちらほら聞こえて来るようになった。 職業柄、同世代の友人たちと比べて1〜2割は年収が多いという彼にとって、住宅購入はそれほどハードルが高い決断ではない。とはいえ結婚を予定している彼女は、務めていた人材サービスの会社を2年前に辞めており、今は実家で家事手伝いをしている。マンション購入のための頭金やローン返済を自分1人の収入で賄わなくてはならない金井さんにとって、金利上昇にはやはり不安が募る。 「消費税の増税開始や住宅ローン減税の期限も視野に入れながら、なるべく早い段階で家を買ってしまいたいんです。金利以外のそういう要素も、焦りの背景にありますね」(金井さん) 現在、金井さんのように焦っている「家探し族」は少なくないという。自民党が政権に返り咲いて以降、日本はアベノミクスによる円安・株高に湧いた。米国の出口戦略観測などにより、5月下旬に株価は大きく下落、ドル円レートは円高に振れたものの、専門家の多くはこの現象を「一時的な調整」と指摘している。多くの国民は、景気回復への期待を変わらず抱き続けている。 しかし足もとでは、いよいよ雲行きが怪しくなってきた。4月以降、日銀が推し進めてきた量的・質的金融緩和が、我々の生活に思わぬ「副産物」をもたらし始めたのだ。それが、金井さんが不安を抱く長期金利の上昇基調である。長期金利の上昇は、住宅ローンをはじめ、家庭が抱える借金の返済負担を増やしてしまう可能性がある。過去と比べて水準自体はまだそれほど高くないとはいえ、今まで経験したことのない状況下で起きている「異次元の金利上昇」だからこそ、漠然とした不安は募る。 言うまでもなく、市中の長期金利(取引の期間が1年以上の金利)の指標となっているのは、国債(主に10年物国債)の流通利回りだ。したがって、国債が売られて価格が下落し、利回りが上昇すれば長期金利も上昇し、国債が買われて価格が上昇し、利回りが低下すれば長期金利も低下する関係にある。 日銀総裁は反省するよりも 早く金利を何とかしてほしい 今なぜ、長期金利が上昇基調にあるのか。長期金利を低下させ、経済活性化を狙う日銀が始めた金融機関からの国債の大量購入は、新発10年物国債の流通利回りを、一時0.315%と過去最低水準まで押し下げることに成功した。しかしそれも束の間、5月中旬以降、国債価格は顕著に乱高下を始め、10年物国債の利回りは一時1.00%を超える水準まで急上昇。足もとの6月19日時点でも0.810%となっており、むしろ量的・質的緩和を始める前の0.5%台より上昇しているのが現状である。 政府・日銀は今後2年間で2%の物価上昇率を実現するとしている。そうしたアナウンス効果もあり、「インフレ期待が高まれば金利が上昇するのは当たり前」という声もあるが、そもそも本来彼らが目指していた方向性になぜ逆行しているのか。 原因として、あまりに多くの国債を日銀が購入しているため、市中の国債の量が減り、相対的に投資家の購入が細って国債価格が下落していること、円安を好感して株価が上昇したため、国債を売って株に乗り換える投資家が増え、国債価格が下落していることなどが指摘されている。 また、国債の大量購入で金利を下げようとしている政府・日銀は、一方で金利上昇を誘うインフレ目標を掲げている。こうしたちぐはぐにも見える彼らの方針に対して、機関投資家が「これでは、今後国債市場がどう動くかわからない」という疑心暗鬼を募らせ、国債への投資に慎重になっているのではないか、という見方もある。 6月19日の衆院財務金融委員会に出席した黒田東彦・日銀総裁は、長期金利の乱高下について、「緩和の意図について誤解や混乱を招いた面があれば、大変遺憾であり、反省している」と述べたが、前出の金井さんは、「総裁に反省されても金利が下げるわけではない。それより、早く対策を講じてほしいですね」と苦笑する。 どんなトレンドと対策があるのか 「住宅ローン不安」のウソとホント こうした状況下、家庭は金利上昇基調をどう見据え、どんな対策をとればいいのか。人生で最も大きな買い物である住宅の購入に関わる影響や、個人が資産形成のために投資する可能性がある金融商品について、専門家の意見を交えながら分析して行こう。結論から言えば、少なくとも今巷から聞こえてくる不安の声は、ほとんどが杞憂と言っていい。金利の動向に無頓着ではいけないが、過度な不安を抱き過ぎるのもよくない。 第一に、住宅ローン金利のトレンドと対策だ。不動産コンサルタントの長嶋修氏は、「住宅ローンの金利には固定型と変動型がありますが、最近は固定型での借り入れが急増しています」と現状を語る。 「アベノミクス以前は固定を選ぶ人が2〜3割、変動を選ぶ人が7〜8割でした。しかし、アベノミクス以降は徐々に固定を選ぶ人が増えてきて、データ的に現在は約5割になっています。私の体感値としては、もっと多いような気がします」 アベノミクスにより、中長期的に金利の先高感が募っているのは間違いない。そもそも、足もとを見てもすでに金利は上昇基調にある。消費者もその点で、経済情勢によって金利が変わる変動型ローンのリスクに敏感になっているということだろう。 では実際に、ローン金利はどれだけ上がる可能性があるのか。 「住宅ローンは5年、10年、20年というロングスパンのものですが、中期的に見れば住宅ローン金利はいずれ本格的に上がります。アベノミクスが失敗すれば、日本の財政悪化が引き金で長期金利が上がるでしょうし、成功したら成功したでインフレ率がそれなりに高まりますから、やはり金利は上がります。仮に2%のインフレターゲットが達成されれば、住宅ローン金利は少なくとも3〜3.5%になります」(長嶋氏) 確かにそれを予感させる兆候はある。長期金利の上昇を受け、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行などのメガバンクは、5月から2ヵ月連続で、長期金利に連動する固定型ローンの金利を一斉に引き上げた。主力となる10年固定(最優遇金利)の上げ幅は、5月に0.05%(年1.4%)、6月に0.2%(年1.6%)となった。前出の金井さんが気にしていたニュースも、これだろう。 リスクが大きい変動型は金利据え置き 一部の商品では金利引き下げ競争も しかし、足もとでは心配し過ぎる必要はない。たとえば、リスクが大きいと目されている変動型については、各社は今のところ金利を据え置いている。変動型ローンはほとんどの場合短期金利に連動するので、長期金利が上がってもただちに連動して変動型の金利が上がるわけではないのだ。 また、冷静に考えれば、過去と比べてもまだまだローン金利は低い水準にある。10年固定に関しては、6月は5月と比べて年1.4%から同1.6%へと、0.2ポイント上がった程度。実質的な家庭への影響はほとんどないと言える。長嶋氏も「中長期はともかく、今はまだ住宅ローン金利が低いので、迷っている人もその恩恵を享受しない手はないと思います」と話す。 さらに、一部の商品については、長期金利の上昇とは関係なく、住宅ローン金利の引き下げ競争も起きている。三井住友銀行は、住宅ローンの3年固定型金利を1.5%(最優遇金利)から、同行として過去最低の0.6%に引き下げた。これは、日銀が昨年導入した貸出増加支援制度を利用したもので、4半期ごとに国内貸出を増加した銀行に対し、日銀が低利で一定金額を融資するという制度を利用している。 同制度で調達する低金利の資金を住宅ローンの原資に充当し、他行に対して商品の競争力を上げようというからくりで、三菱UFJとみずほも三井住友に追随した。3年固定商品にどの程度のニーズがあるかはわからないが、「家探し族」にとっては、むしろ良い選択肢が増えているという一面もあるのだ。 「ただし、住宅ローン金利は物件の引き渡しのときに決まるので、その点は要注意です。中古マンションはせいぜい2〜3ヵ月後ですが、新築マンションの場合は引き渡しまでの期間が長く、タワーマンションなどは1年半や2年後というケースもありますから」(長嶋氏) スプレッド縮小懸念でREITも下落 市場は金利上昇を意識し過ぎている? 第二に、投資のトレンドと対策について見てみよう。 将来の資産形成を見据えて、様々な金融商品に投資している家庭は多い。不動産に関するところでは、ローンを組んで実物の家を購入するのではなく、REIT(上場不動産投信)に投資している個人もいるだろう。直近では、乱高下が激しい株式のみならず、REITも金利上昇の影響を受けている。 REITは投資信託の一種であり、投資先は賃貸不動産、賃貸収入が見込める住宅、産業用施設、オフィス、ホテルなどの不動産。特徴として、上場しているREITは株とほぼ同じような値動きをする、金利に敏感な金融商品だ。金利が上がればREIT価格は下落し、金利が下がれば価格は上昇する。 長期金利上昇により、REITの分配金利回りとの差(スプレッド)が縮小するとの警戒感から、地方銀行などの機関投資家が買いを手控えていると見られ、東証REIT指数は下落基調が続く。投資家には気になるところだ。 ただ、景気拡大が本格化していない今の段階で、「長期金利の急上昇」「不動産買入れコスト増」「分配金低下」という流れを意識するのは気が早い気もする。長期金利よりも、来春に予定されている消費税の3%引き上げのほうが不動産市場に与えるインパクトは大きいかもしれない。 また、アベノミクスが成功して、今後景気との連動性が高い不動産市場が活性化すると考えれば、REITはむしろ最も魅力的な金融商品の1つとなる。先行きは不透明だが、投資家は先入観で動く相場に惑わされることなく、冷静に「売り時」と「買い時」を見定めたいものだ。 個人向け国債の適用金利は大幅上昇 デメリットもメリットも冷静に吟味 一方、個人にとって手軽で安全な商品と言われる個人向け国債には、追い風が吹いている。6月に募集された個人向け国債の適用利率は、1年以上前の水準まで大幅に引き上げられた。 個人向け国債の3年物、5年物は固定金利で、10年物は半年ごとに適用利率が見直される変動金利だ。見直しの際に基準となるのが長期国債の金利で、この基準金利×0.66が適用利率となる。 具体的には、3年物が0.14%、5年物は0.3%、10年物は0.57%。メガバンクの定期預金金利は、3年物0.03%、5年物0.05%、10年物0.15%程度だから、足もとでは個人向け国債のほうがお得と言える。仮に、今後長期国債の金利が上昇基調をたどれば、10年物の個人向け国債の適用利率は上昇していく。 もちろん、 満期まで金利が変わらない固定3年と固定5年は、金利が上昇しても低い金利しか適用されないため、儲け損なうこともある。また、中途解約して商品を入れ替える場合、3タイプとも購入から1年を経過すれば額面(投資元本)での換金ができるとはいえ、ペナルティとして直前2回分の税引き前の利子(1年分)などに相当する金額を支払う必要がある。 いずれにしても元本割れをすることはないが、これらの点を資産運用上の微々たる必要コストと捉えるか、それともそれなりのリスクと捉えるかは、人それぞれだろう。 金利の動きが激しい今、金利と相関性が高い国債に投資して利益を狙う手としては、他にも東証のミニ長期国債先物取引やベア型の債券投資信託などがある。しかしこれらは、個人が投資するには資金面・ノウハウ面などでリスクが高いこと、個人が投資できる商品が限られていることなどの理由から、セミプロならともかく、経験の浅い投資家は手を出さないほうが無難と言える。 かつて経験したことのない状況下で起きている「異次元の金利上昇」だからこそ、我々は先行きを類推しづらく「異次元の不安」に囚われがちだ。しかし、その水準にもよるが、将来的に景気回復を伴う「良い金利上昇」であれば、心配には及ばない。デメリットをかいくぐってメリットを見つけ出すくらいの冷静な視点で、その動向を見据えたいものである。 |