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昨年末首班指名を受ける安倍首相。参院選後を考えると、株価下落は薬になったかも(撮影:尾形 文繁)
浜教授!アホノミクスより、アスノミクスですよ アベノミクスについて、一緒に討論しませんか?
http://toyokeizai.net/articles/-/14362
2013年06月18日 草食投資隊 :渋澤健、中野晴啓、藤野英人 :東洋経済オンライン
「アベノリスク」、「アホノミクス」など、アベノミクスを揶揄する声が、いろいろなところから聞こえてきます。5月23日、日経平均株価は1万5942円の高値を付けた後、6月13日には1万2415円まで下落。ドル/円も1ドル=103円台まで円安ドル高が進んだものの、ドル安に転じ、一時は1ドル=93円台に。果たしてアベノミクス効果は消えたのでしょうか。草食投資隊の面々が、現段階でのアベノミクスの総点検を行います。
■上げても下げても、あおるマスコミって…
中野 随分、下げましたね。
藤野 メディアでは「アベノミクスは終わった」などという論調が目立つけど、おかしな話ですよね。上がる時にはさんざんあおっておきながら、下げれば下げたでまたあおる。上げのあおりは嫌なものだけれど、下げのあおりはもっと嫌だね。
中野 まあ、確かにまだ具体的な成果は見えてこないけど、何か大きな弊害が出てきたというわけでもない。
渋澤 国内長期金利がちょっと上がってきたこと、米国の金融緩和の「出口戦略」を織り込むこと、そして、「第三の矢」の成長戦略の中身がなさそう、という動揺ですね。
中野 でも、インフレ率の目標値が2%なんだから、長期金利だってある程度、上昇するのは当然ですよ。米国やドイツも長期金利が上昇している。日本だけが突出して上昇しているわけではありません。ただ、一時は0.3%台まで低下したから、昨今の上昇ピッチが目立つだけ。
渋澤 そう言い切れるかなあ。毎月7.5兆円規模で日銀が長期国債を買うワケでしょ。年間で90兆円。短期金融市場を中央銀行がコントロールするのはわかるんだけど、長期国債の市場まで手を広げるというのは、やはりおかしいんじゃない。日本政府に対する信認が何らかの形でなくなったら、ヘッジファンドなど外国人投資家は真っ先に「国債売り」に転じるでしょうね。また、現在、国債市場の買い手が日銀だけという状態は不健全ですね。何しろ異次元の金融緩和政策だから、正直何が起こるのかはわからない。
中野 ヘッジファンドって、今回の株価急落にも絡んでいるのかな。
渋澤 ヘッジファンドは政府の成長戦略に注目していて、中身をしっかりと見ている。彼らが失望したら、株式買いをいったん手仕舞うのは当たり前ですね。
■安倍首相にとって、下落は「よい薬」に
中野 5月23日以降の下げって、そもそもは単純な調整による売りから始まったわけでしょ。それまでの株価上昇については、8割が短期筋の買いによるものだから、ここまで上がれば売られるのは当たり前。でも、ここまで急落したのは、やはり短期筋の売りに対して買い向かえる長期投資マネーが、今の日本には決定的に不足しているということですよね。
藤野 確かに今の日本の株式市場は、ヘッジファンドなど短期筋の動きに翻弄されやすい環境にあるのは事実だと思います。
中野 この下落はもう少し続くのでしょうか。
藤野 う〜ん、まだ震度5くらいの地震はあるかも知れないけれども、もう余震だと思いますよ。じきに収束するでしょう。
渋澤 参院選の後くらいまでは株価が上昇傾向をたどり、秋口に大きく調整するのではないかと思っていたんだけど、どうもその調整が前倒しになったような気がする。
藤野 今回の下げは、安倍首相にとってはむしろ良かったんじゃないかな。というのもいま、憲法改正を容易にするために、憲法96条の要件を見直そうという動きがあるじゃないですか。現時点でこれを議論するのは拙速で、やはり経済をしっかり立て直してからの話だと思うんです。だから、今回の下げで安倍首相は憲法96条に関する議論よりも、まずは経済を成長路線に乗せることに集中せざるを得なくなったかも知れない。これは良い傾向だと思いますよ。
渋澤 先日、会った国会議員の方も、「秋に成長戦略をしっかり打ち出していく」と言ってたな。
中野 だから、いまの段階でアベノミクスを評価すること自体がナンセンスなんですよ。特にメディアの対応はひどい。さんざん「アベノミクス万歳」みたいな論調でまくし立てておきながら、マーケットの風向きが変わった途端、「アホノミクス」ですからね。一体、何なんだと言いたい。
■アベノミクス批判者は、自虐的すぎる
藤野 前々から言っているんですが、アベノミクスの効果が現われるのも、現われないのも、結局のところは皆、国民一人ひとりの努力次第なんですよ。政府は株価を上げよう、所得も増やそうというように、方向は示したわけです。あとは、国民が自分で出来ることをきちっとやっていくしかない。
ところが、アベノミクス批判をする評論家というのは、「そんなこと出来るはずがない」と言う。でも、よく考えてもらいたいのですが、株価が上がって、所得も増えるのが悪いことなのでしょうか。そうではありませんよね。株価は下がるよりも上がった方がいいに決まっているし、所得だって増えてもらいたい。誰もがそう思うはずです。アベノミクスを批判している人たちからは、何かこう自虐的なものを感じます。
中野 テレビニュースだって、本当にひどいと思いますよ。株価が急落すると、必ずといって良いほど、新橋のサラリーマンへのインタビューが行われるじゃないですか。そしてインタビュアーが「アベノミクスで何か良いことはありましたか?」と質問するわけです。でも、安倍政権がスタートしてまだ半年足らず。政策の効果なんて、そう簡単に出てくるはずがない。それも、サラリーマン世帯が政策の恩恵を実感できるようになるのは、まだ先の話です。なのに、こんな質問をする。
大概の人は、「う〜ん、何もないですね」と答えるでしょ。で、結論としては「アベノミクスは何の効果もない」となるわけです。これじゃあ、いくら良い政策を行おうとしても、メディアに殺されてしまいます。
渋澤 労働法の大改革をはじめとする規制の見直しが、参院選の後にきちっと実行できるかどうか。ここが注目点だね。
藤野 やるでしょ。
中野 何やら自信ありげの発言ですね。
■異次元の政策は、まさにこれから
藤野 やりますよ。きっと。外国人投資家の中には、雇用特区のような話を期待している人たちもいるようですけど、そんなものは比較にならないくらい、スケールの大きな、まさに異次元ともいうべき政策が打ち出されてくるはずですよ。
渋澤 具体的には?
藤野 渋澤さんがおっしゃった労働法の大改革なんて、そのひとつですよね。雇用維持よりも、雇用の流動化を重視した政策とかね。あとは無利子国債の発行。
渋澤 無利子国債ってことは・・・・・・。
藤野 利子は付かないけれども、無利子国債を購入した人が亡くなった時、それを相続するのに相続税がかからないとかね。このスキームが実現すれば、喜んで国債を買う人が出てくるから、政府としては資金調達が容易になる。金利も払わなくて良い。恐らく、高齢者を中心に積極的に買う人が出てくるはずで、そのお金はやがて子供への富の移転につながってくる。
渋澤 それは面白いね。
中野 ところで、今回の株価下落で皆さんが運用しているファンドへの影響って、何かありましたか。
藤野 解約が増えた。しかも、損をした状態での解約ですよ。
中野 それはもったいない。
藤野 5月の上旬から中旬にかけて、株価が大きく上昇した時に買った投資家が、今回の急落場面で投げ売りしたんですね。メディアに左右されている典型例だと思います。これは本当にもったいない。あと半年、1年くらい待てれば、損をした状態での解約は免れたかも知れないのに、我慢できないんですね。これは、日本の投資信託の最大の問題点だと思います。
■個人投資家は、自分で損をする状況をつくっている
中野 ウチ(セゾン投信)は07年から買い続けてきた人の解約が目立ちましたね。当然、利は乗っているので、本人にとってその時は良かったのかも知れませんが、結局のところは預金に戻すだけ。ところが今はゼロ金利だから、「やっぱりこれではふえないね」ということで、もう一度投資信託を買ったところが高値だったということの繰り返しでは、決して果実は育ちません。やはり長期で保有してもらいたいところですね。
渋澤 ウチ(コモンズ投信)ももちろん、解約はあったけれども、一方で買いもあったから、差し引きで見ると大きな資金流出にはならなかった。
藤野 某外資系投信会社の日本株ファンドは、相当の資金流出があったみたいですね。
中野 まあ、あれは某大手証券会社を通じて大量の資金を集めたわけですから、短期での解約がどっと出るのは想定通りです。だから、某大手証券会社から入ってきた資金は、全額キャッシュで運用すれば良かったんです(笑)。
渋澤 あははは。それはそうかも。もっとも株価が大きく上げた局面でキャッシュをしこたま持っている状態では、基準価額の上昇も期待できないけどね。
中野 これ、投資信託を購入する際には本当に大事なことなんですが、多くの個人投資家が、自分で損をする状況を作ってしまっていることを、しっかり認識するべきだと思うんです。株価が上がると買う。そして、株価が下落すると我慢できなくなって解約してしまう。この繰り返しですよね。これでは資産を築くことは出来ません。やはり長期で持ち続けるのが大事。それに、一気に資金が入って、一気に出ていくということを繰り返していたら、どれだけ優れた運用を行っていたファンドも、あっという間にボロボロになってしまいます。
■日本の明日を考えた、アスノミクス長期投資を
渋澤 なかには「株価がどこかまで下がるのを楽しみにしています」とおっしゃる投資家もいて、これは立派。ちゃんと長期投資のコツを掴んでいらっしゃる。
藤野 投資をファッションのように捉えている人は、投資には向きませんね。
中野 やっぱり長期投資は大事だということですね。継続するのは確かに大変ですが、続けた人が最後は笑えるのだと思います。株価の上がり下がりで右往左往しても、何の得もない。たとえアベノミクスがうまく行かなかったとしても、成長源泉をしっかり持っている企業は成長します。それをしっかり見極めて投資しているファンドには、注目したいところです。
渋澤 投資は日本の未来を創る。
藤野 そう。「アホノミクス」などと揶揄しているヒマがあったら、明るい未来を築くための長期投資をきちっと行うべきでしょう。さしずめ、これを「アスノミクス」と名付けてはどうでしょうか。
中野 あ、それいいですね。
渋澤 では近々、「アホノミクスvsアスノミクス」と題した対談を企画しましょう。公開でもいいと思いますよ。
藤野 本気?
中野 もちろんですよ。浜矩子さん(=同志社大学教授)、いかがでしょうか。
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