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銭湯がピンチ、納豆やクリーニングも苦悩−アベノミクス余波
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MO7JYL6KLVRE01.html
2013/06/17 10:23 JST ブルームバーグ
6月17日(ブルームバーグ):異次元の金融緩和による円高修正 で大企業の業績を押し上げているアベノミクス。しかし、影の部分も否定できない。民間の中小・零細業者からは輸入原料の物価上昇に悲鳴が上がっている。
都内文京区の閑静な住宅街で昔ながらの銭湯を経営する中谷九十九さん。1954年に創業した父親から古いながらも昭和時代の面影を残す趣のある風呂屋を引き継いできたが、今月末で廃業することを決めている。利用者の減少に加えて、追い打ちをかけたのが燃料費の高騰だ。
「お湯を沸かさなければならず燃料をいかに安くするかだが、下がることはない。昔はへっちゃらだったが、結局は燃料費」と打ち明ける。ボイラーで使用する重油代だけで月45万円程度と収入の半分近くの負担に。これに電気代や水道費が重なり「経営していける状態ではない」と60年の伝統を誇る釜の火を落とす決断を迫られた。
銭湯業界では原油が高騰した2008年以降、燃料を重油から価格変動の小さいガスへと設備を変えたところも多い。都も補助金制度で支援している。全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会によると、都内約730件の銭湯のうち6割近くが都市ガスを利用するが、残りは廃油やまき、重油を使用している。
国内の銭湯の数はピーク時の1980年には約1万5700軒あったが、現在は約5200軒と3分の1にまで減少。組合事務局の渡辺悟秀氏は「ただでさえ厳しい経営環境に置かれているが、燃料費の高騰で今後もっと厳しくなる」。古きよき日本の伝統がまた一つピンチに立たされている。
■値上げの通知ばかり
5月末。神奈川県川崎市で納豆製造会社を経営する松下商店の松下幹雄代表取締役は容器に使用する包装フィルムの値上げ要請を受けた。紙パックや包装フィルムの原料は石油製品。円安による価格上昇が背景だ。コストが上昇すれば「自分の給料を減らすしかない」との状況に追い込まれている。大豆を釜で煮るのに軽油や灯油も使う。大豆価格の高値が続く中、為替と原油価格の動向からも目が離せない毎日が続く。
茨城県行方市にある井川食品の井川敏久社長も、数年前から通常50グラムを詰める納豆の量を40−45グラムに減らし、納豆パックを包むフィルムの厚さをぎりぎりまで薄くするなどしてしのいできたというが「値上げの案内ばかりで限界を超えている」と頭を抱えている。
日本では納豆や豆腐などに使う食用大豆の8割弱を輸入に依存。全国納豆協同組合連合会の松永進専務理事は「納豆はスーパーでは特売の目玉。なかなか値段を上げられないのが現状」とした上で「原料は上がる、容器は上がる、燃料は上がるでは非常に厳しい」と懸念する。
燃料価格の上昇はクリーニング店にも影響を与えている。アイロンやプレス機、乾燥機と蒸気ボイラーは欠かせない。さらにハンガーはプラスチック製で石油製品、洗剤の原料にも石油製品を使う。製品にかぶせるビニール袋も石油製品だ。
神戸を拠点に約60店舗を運営するクリーニング会社ホームドライの太白守貞常務取締役は「値下げがなく値上げしかない。原材料は全部上がっている。アベノミクスで言われるところの効果はほとんどない」と嘆く。値下げ競争を迫られる中、クールビズの導入で需要は減少。円安による原料価格上昇の追い打ちで「業界は厳しい状態が予想される」。
石油情報センターによると、4月のA重油の全国平均価格は1リットル=90.8円。軽油価格は同115.3円。ともに昨年11月と比べると約1割上昇し、3月には08年10月以来4年5カ月ぶりの高値を付けた。
■燃料高騰でトラックが止まる
全日本トラック協会では先月、「燃料価格高騰経営危機突破全国総決起大会」を都内で開催した。業界全体で年間に軽油を170億リットルを使用しており、軽油価格が1リットル当たり1円上がれば年間170億円の負担増となる。同協会の金子貴史広報室長は「業界平均では運送費の約20%が燃料費。特に長距離の運行をしている業者では40%を占めるところもあり、多くの業者が事業存続の岐路に直面している」と語る。
ドル円相場は5月22日に1ドル=103円57銭まで上昇。08年10月以来のドル高円安水準を付けた。HSBCホールディングスの日本担当エコノミスト、デバリエ・いづみ氏(香港在勤)は大胆な金融緩和を掲げたアベノミクスによって「勝ち組と負け組企業の差がはっきりと分かれた」と指摘する。
帝国データバンクが5月21日から31日にかけて全国2万2910社を対象に実施した調査(有効回答企業数1万145社)では、アベノミクスによる国内景気の押し上げを効果を実感しているのは42%。一方、感じていないと答えた企業も34%あった。規模の小さい企業になるほど景気浮揚効果を感じていないという。
東京商工リサーチが発表した5月の全国企業倒産件数は前年同月比8.9%減の1045件と、7カ月連続で前年同月を下回った。環境は悪くないようにも見えるが、実は「倒産は抑制されている状況」だと同社情報本部の関雅史課長は語る。
関氏は「基本的にリーマンショックや東日本大震災によって企業は弱っており倒産予備軍は多い。円安による輸入物価の上昇や電気料金などの値上げがボディーブローのように効いてきて小規模零細企業を中心に倒産が表面化する大きな要因の一つになる可能性は高い」と述べた。
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