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「日銀は一刻も早くインフレターゲットをやめよ 異次元緩和の矛盾で混乱が続くマーケット (週刊東洋経済)」
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そこで展開されている野口悠紀雄氏の論考は、黒田日銀やアベノミクス派ブレーンの主張に対する批判としてはそれなりに妥当なものである。
しかし、それを学者に言うのは酷かもしれないが、黒田日銀の金融緩和政策をインフレターゲット政策とする大前提そのものが誤りなのである。
というのは、アベノミクスの「第1の矢」すなわち黒田日銀の「異次元の超金融緩和」政策は、説明されている建前(インタゲ)とは異なり、「国債サイクル管理」政策及び「銀行経営健全化」政策でしかないからである。
身も蓋もない話になるが、「国債サイクル管理」や「銀行経営健全化」のための政策である「異次元の超金融緩和」をもっともらしい政策として受け入れて貰うための言い訳が「2%のインフレ目標」なのであり、「2%のインフレ目標」を実現するための手段が「異次元の超金融緩和」なのではない。
アベノミクスは、冷静に見ればわかるように、メディアなどの取り扱い方とは異なり、これまでの自民党主力政権や民主党主力政権で提示されてきた金融・経済政策と“質”的に異なるものではない。
異次元と呼べるほど拡大された金融緩和政策と公然化した拡張的財政政策という“量”的な違いでしかない。
白川日銀時代も日銀当座預金がひたすら積み上がる政策が採られており、既に、企業や家計の資金需要を超えた“過剰”な金融緩和状況にあった。
財政出動というか赤字国債の発行も、ご存じのように民主党政権時代(3.11以前から)に10兆円ほど増大した。財政再建という掛け声の裏で、放漫財政=赤字国債増大が進行していたのである。
浜田内閣参与や岩田日銀副総裁はともかく、黒田日銀総裁や財務省は、金融緩和策によってデフレをインフレに転換できるとなぞ考えてもいない。
インフレに転換させるためには、勤労者所得の持続的増大、赤字国債に依存した政府支出の持続的拡大、民間の持続的投資増大、持続的な輸出増大などが組み合わせ的に必要なことを知っているからである。
国家資本主義体制や戦時統制経済体制ではない日本が採れる政策となれば、「赤字国債に依存した政府支出の持続的拡大」しかない。「勤労者所得の持続的増加」・「持続的投資増大」・「持続的な輸出増大」は、民間部門の自由裁量に基づく活動の結果であり、政府が手出しできない問題である。
だからといって、政府部門が唯一できるデフレ脱却策である「赤字国債に依存した政府支出の持続的拡大」は、1千兆円まで積み上がった政府債務を前にしてはなかなか言いづらいだけでなく、グローバル企業向け支援策である消費税増税の“言い訳”(財政再建)をウソにしてしまう政策である。
アベノミクスの目的は、来年4月と再来年10月に予定されている消費税税率アップが経済社会に与える打撃を財政出動でできるだけ緩和することであり、残高が750兆円にも達する「国債サイクル管理」をスムーズなものにするとともに、国債を膨大に保有している「銀行の経営健全性維持」を図ることである。
「銀行の経営健全性維持」とは、ひとえに保有国債の価値維持である。
このようなことが理解できていないから、5月に起きた「長期金利の上昇」の“意図”が読み取れないのである。
野口氏も、「長期金利の上昇は、期待インフレ率の上昇に応じて、前述の調整が現実に進んでいることの証拠」と勘違いしている。
現在も0.8%から0.9%のあたりである10年物国債の利回りは、アベノミクスの“副作用”の結果として生じたわけではなく、日銀が意図的に誘導した金利水準なのである。
毎月7兆円強の“介入資金”があり、市場参加者との意見交換も行っている日銀は、全ての年限について迅速にというわけにはいかないが、長期金利の水準もある範囲で収めることができる。
超金融緩和政策の最大の隘路は、他に資金の運用手段がないため、国債を大量に売りたい金融機関がいないことなのである。
それゆえ、野口氏の「名目金利が上昇すると国債の利払いが増加し、財政の維持可能性に対する信頼がゆらぐ。そうすると、実質金利が上昇する危険がある」というのも、机上の空論の域を超えない。
日本は、財政の都合ではなく、銀行の需要に応じるかたちで国債の発行額を膨らませてきた。
端的に言えば、預貸率の低下を埋めるために、政府は国債を発行して銀行の経営を支援してきたのである。だからこそ、使い切れない予算が15兆円にも達するというみっともない財政状況にもなっている。
さらに恐いのは、赤字国債の発行が銀行の預金を増大させ、さらなる赤字国債の発行を催促するという“悪循環”が進行していることである。
この“悪循環”を少しでも緩和する手段が、日銀当座預金である。国債を買う代わりに、日銀当座預金で金利を稼いでくれというものである。
日銀が長期金利を上昇させた目的は、地方銀行が保有する国債の平均年限を短縮させる(都銀より長い国債を保有)ことであり、生保など非預金金融機関に“高利回り”の国債を移行させることである。
(住宅ローン金利の上昇は意図していたわけではないだろうが、消費税増税前の駆け込み需要が期待できる今、少しは期待していた可能性がある)
ざっくり言えば、日銀が買いオペしない状況で、地方銀行が残存期間の長い国債を多めに売却すれば、価格が下落(利回りが上昇)する。それを長期の国債が欲しい生保が安く(高利回りで)購入したわけである。地銀は売却したお金で、より短い国債を買うか、日銀当座預金に預けることになる。
今月11日の日銀政策委員会後の記者会見で、黒田総裁は、長期金利の変動率が大きいことは問題だとしたが、その水準を問題視している様子は見せなかった。
今後、地銀をはじめとする銀行が保有国債の平均年限を短くする一方で、生保など非預金金融機関の保有国債の平均利回りを引き上げるめどが付けば、長期金利は0.5%前後まで低落して落ち着くと考えている。
金利が低落して落ち着けば、生保などは、現金が必要なとき、安く(高利回りで)購入した国債を高い価格で売ることができる。(生保は、日銀当座預金を利用したり日銀からの融資を受けたりすることはできない)
銀行に関して言えば、国債残存期間が3年を下回れば、国債(3年物利回り0.14)を保有していようが日銀当座預金(付利0.1%)に預けていようが決定的な違いはない。
ここまでの話の詳細な説明は別の機会に譲るとして、日本経済の先行きを考えるとき、最大の問題は、供給力劣化によるインフレ状況の出現である。
そして、銀行の経営健全性を考えると、この転換が起きたときにも金利のコントロールをうまく行わなければならない。預金者を犠牲にしても、戦時及び戦後の米国のように、長期金利を抑え込む政策を採るかという判断である。
野口氏の論考においても、インフレ率ないしインフレ期待率の上昇は、名目金利の上昇につながるという見方がなされているが、中央銀行の政策によっては、名目金利を抑えることができる。
(米国の連邦政府とFRBは、戦費を賄うため膨大に発行した国債の“価値”を維持するため、長期金利の上限を2.5%にする政策を実施することに“合意”した。CPIは、1947年には20%近く上昇し、46年から48年にかけて5%を超える上昇水準にあったが、国債の無制限買いオペと国債価格支持政策により、長期金利は2.5%以下で維持された。それらの政策だけが2.5%以下に維持された要因ではないという見方もあるが、インフレ率の上昇がそのまま名目金利の上昇を意味するものではないことはわかる)
中国と違い自由主義経済体制である日本が政府として採れる経済政策は限定されている。
今日本政府が採るべき政策は、何より、消費税増税の延期である。90円前後の“円安”水準であれば、消費税増税に頼らなくても、輸出企業の経営は改善される。
どんな成長戦略よりも、財政出動はそのままで消費税増税を延期するという政策が、日本経済に資すると断定する。その上で、成長戦略を考えていけばいいのだ。
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