04. 2013年6月18日 15:24:56
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成長戦略には失望!法人税減税といびつな税制を改革せよ 2013/6/18 今月5日に発表された成長戦略は、残念ながら、大胆な規制緩和や法人税を下げるなどの抜本的な対策は見送られました。市場も「成長戦略は期待外れだ」と失望し、その日の日経平均株価は大幅に下落したのです。その後も株価は乱高下をしています。 アベノミクス3本目の矢の成長戦略は、第2弾が秋に出るとのことです。第1弾が市場の期待にこたえられなかったこともあります。第2弾では、大胆な規制緩和と税制改正を期待したいものです。財政が厳しい中、減税を先行させることは難しいと思いますが、世界的にも高い法人税を下げることが、国内外の企業が日本国内で投資することにはぜひ必要なことだと思います。ただ、私は法人税率を下げることと同時に、税制を改革すべきなのではないかと考えています。 今回は、前半部分では、日本のいびつな税制について私の考えを述べたいと思います。後半部分では、アベノミクスに関連し、微妙な動きをするこのところの日本経済について説明します。 国内での設備投資を増やさなければ意味がない このコラムでは何度もお話ししていますが、本格的な景気回復は、企業の設備投資に火がつくか否かに懸かっています。今月3日に発表された2013年1〜3月期の法人企業統計によると、「設備投資」は前年同期比5.2%減。2四半期連続のマイナスとなりました。日本の景気は底上げしつつあることは間違いありませんが、設備投資が増えてくる段階までは至っていないということです。 それに関連して、2013年6月3日付けの日本経済新聞朝刊に、以下のような記事がありました。 「設備投資、国内1割増 13年度 全体は12%増 小売り・不動産、内需けん引 製造業 円安でも海外シフト」 日本経済新聞社がまとめた2013年度の設備投資動向調査によると、全産業の当初計画は12年度実績比12.3%増になる。増加は4年連続。政府の景気刺激策を受け不動産や小売りなど内需型企業が積極投資に動き、国内投資は1割増とリーマン・ショック後で最も高い伸びとなる。(略) 製造業では海外投資が約2割増の2兆7390億円となり海外比率は初めて4割を超えた。(2013年6月3日付 日本経済新聞朝刊より) 今年度の設備投資が、昨年度より増える見通しだということです。しかし、この記事で注意しなければならないのは、「製造業では海外投資が約2割増の2兆7390億円となり海外比率は初めて4割を超えた」という点です。国内でも約1割増加していますが、海外での増加幅の方が大きいのです。円安であっても、海外に設備投資をしようとする傾向には今のところは変わりないということです。 冒頭でも触れましたが、国内経済の本格回復は、企業が将来に対して確信を持ち、国内での設備投資や雇用を増やすかに懸かっています。 そこで、アベノミクス3本目の矢である成長戦略の内容に注目されていますが、5日に発表された素案は、不十分な内容でした。これだけでは、企業は国内で設備投資を増やそうとは考えません。市場も失望し、株価の下落に拍車をかけました。 >> 税制を変えれば、消費税増税を回避できる可能性も こうした事態を受け、安倍首相は今秋、企業の設備投資を促すための減税を盛り込んだ「成長戦略第2弾」をまとめると発言しています。どういう内容になるかは分かりませんが、いずれにしても、これまでになかった規制緩和や法人税を半分にするなどの「異次元の成長戦略」を出さなければ、国内産業を活性化することはできません。 言い方を変えますと、よほど思い切った内容を示さなければ、失望感の方が強くなってしまいます。そうなりますと、ますます株価の調整が進んでしまう可能性があるのです。 税制を変えれば、消費税増税を回避できる可能性も それでは、なぜ法人税を下げられないのか、という点について考えてみます。 一つは、日本は財政の問題が深刻だからです。今年度予算93兆円のうち、税収で賄えるのはたったの42兆円。財政状況がすこぶる悪く、これからも年々、社会保障費が増えていきます。 そこで、来年には高い確率で消費税が増税されますが、消費税を上げて法人税を下げますと、「大企業を優遇しているのではないか」という批判が起こる可能性があります。この調整が難しいというのが、もう一つの理由です。 ただ、法人税について議論する場合、注意していただきたい点があります。それは、税務申告上、企業の約7割が赤字だということです。均等割の事業税などは払っているはずですが、中小企業や零細企業の約7割は税務署に赤字申告をしていますから、法人税を払っていないのです。 しかし、大多数の大企業は当然のことながら、法人税を支払っています。もちろん、中小企業でも利益を出して法人税を支払っている企業も少なくありませんが、大企業には優遇税制もあります。ですから、法人税を下げると、得をするのは主に大企業であると言えるわけです。 なぜ、このようなおかしな状況になるのでしょうか。私は、日本のいびつな税制がひとつの大きな原因だと考えています。 >> 所得税を払うという二重課税が起こる 所得税を払うという二重課税が起こる どういうことか、少し詳しく説明します。まず、会社は税法上の利益が出た場合には、法人税を支払います。 さらに、会社の利益の一部を株主へ支払う「配当」は、通常は税引き後の利益(正確には利益剰余金)から支払われますが、受け取った配当金は、中小企業からの場合には個人所得に合算されますので、所得税が発生します。つまり、法人税を払った上に、個人として所得税を払うという二重課税が起こるのです。 このような二重課税を防ぐため、上場株の配当には優遇制度があります。「上場株の配当金に対する課税は分離課税で2割でいいですよ」と決められているのです(現状は特例で、さらに優遇税率が適用されています)。しかし、上場していない企業には、そういった優遇措置がありません。 その結果、どういうことが起こるかと言いますと、このような二重課税を回避したいと考える中小企業経営者が、配当をしない前提で、利益を出さないように赤字申告をするのです。つまり、「法人税で課税後、さらに所得税でも課税される配当で取るより、企業が給料で払う形をとるほうが得だ」と考えて、その配当の分は、個人所得として取ってしまう経営者がいるということです。配当でもらうのではなく、給料としてもらえば、税務上は会社のほうはいくらでも赤字にできますからね。 しかし私は、このやり方は好きではありません。なぜかと言いますと、給料は労働の対価ですから、会社の中での責任と仕事のバランスによってもらうべきものです。一方、配当というものは、資本を出したリスクに対する対価です。ですから、二重課税を避けるためとはいえ、配当と所得を一緒にしてしまうことは、企業経営上健全な形ではないと思うのです。 日本の法人の約7割が法人税を払わない原因の一つには、こうしたいびつな税制があるのではないかと私は考えています。ですから、二重課税をされないように、中小企業や零細企業にも配当に対する優遇措置を設ければ、法人税を支払う会社がもっと増えるのではないでしょうか(税法上、配当控除の制度がありますが、その額はわずかなものです)。 >> 上場株のキャピタルゲインへの課税が甘い 上場株のキャピタルゲインへの課税が甘い 海外では、こんな二重課税は行われていません。そもそも、上場企業の優遇税制とは、「優遇」しているのではなくて、世界の基準から見れば「二重課税をしない」という一般的な潮流に乗っているだけの話なのです。 このように税制を改革して、中小企業もきちんと法人税を払うようになれば、税収が増え、経営も健全になる上に、消費税の増税額を少なくすることができるかもしれません。こうして税収が増えていけば、その次のステップで法人税を下げれば、財政の問題も大企業優遇批判も避けられるのではないでしょうか。 税制について、もう一つ、おかしい点があります。働いて稼いだお金に対する税率は高い一方で、上場株のキャピタルゲイン(株や土地などの価格変動によって得た収益)に対する課税が甘いということです。 例えば、働いて得たお金に関して、最高税率を払っている人は、稼いだお金のある一定額以上は所得税45%、住民税10%、合計55%を支払わなければなりません。なおかつ、社会保障費も徴収されますから、収入のかなりの部分が何も言わずに持っていかれてしまうわけです。しかし、株などで儲けたお金に対する課税は甘い。これでは、勤労の意欲をなくしてしまいます。こちらも併せて、改革が必要だと思います。もちろん、サラリーマンだけが100%所得を捕捉されていて、源泉課税されているというのも公平性の観点から問題があります。 日本の税制は、多くの点で問題を抱えているのです。法人税を下げることも必要だとは思いますが、その前に、税制について議論すべきではないでしょうか。 >> 今後の国内景気の行方は? 消費が冷え込む可能性も ..今後の国内景気の行方は? 消費が冷え込む可能性も 最後に、これからの国内景気を予測する上で、注目すべきポイントを指摘していきます。前回も説明しましたように、株価はこれまで急ピッチで上がりすぎましたから、しばらく調整が続くでしょう。ただ、それによって、今後は消費に影響が出てくる可能性があるのです。 それはなぜか。これまでは資産効果によって高級品の売上が増え、個人消費を押し上げていました。特に「全国百貨店売上高」は、3月の売上が前年比3.9%とこれまでにない伸びを見せたのです。4月は、前年比0.5%のマイナスですが、それでも宝飾品や家具などは高い伸びを示しています。 この時は株価が一本調子に上昇していたからこそ、高額商品の売り上げが伸びていたわけですが、現在(6月7日時点)の日経平均株価は、ピークから15%以上も下落してしまいました。
すると、投資家の中には、含み益が減ってしまった人や、高値で掴んで大きな損失を抱えてしまった人が少なからずいます。つまり、心理的な面でも資産額という面でも、大きなダメージを受けている人がいると考えられるのです。その結果、これまで増えていた高級品の売り上げが落ち込んでくる可能性があります。街角ウォッチャーによる「街角景気」も、株価が下落後は少し陰りが見え始めています。 株価の動きとともに、高級品の売上げに深く関連する「百貨店売上高」や「消費支出2人以上世帯」の今後の数字に注意が必要です。 それからもう一点、注意したいポイントがあります。 「消費支出2人以上世帯」は、3月、4月と前年比プラスが続いていましたが、「小売業販売額」は前年比マイナスが続いています。「現金給与総額」も、4月はかろうじてプラスに転じたものの、これまでは低迷し続けていました。
これと、先ほど触れた「百貨店売上高」の動きと併せて考えますと、高級品は売れているものの、一般の小売商品、つまりコンビニやチェーンストアなどの売り上げが減少していることが考えられるのです。実際には、日本フランチャイズチェーン協会が発表するコンビニ売上高は、4月までで11カ月連続で前年実績を下回っています。 株価が下落していることで、今後、消費にどのような影響が及んでくるのか。日本の個人消費は、GDPの約55%を支えていますから、消費が落ち込めば、景気が減速しはじめる恐れがあります。景気を見極めるためにも、消費に関する指標の動きに注意することが大切です。 (つづく) >> 本連載は、BizCOLLEGEのコンテンツを転載したものです ◇ ◇ ◇ 小宮一慶(こみや・かずよし) 経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。最新刊『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』(日経BP社)――絶賛発売中!
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