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脆弱さ露呈、高まる国債の「テールリスク 市場動向を読む(債券・金利)
http://toyokeizai.net/articles/-/14314
2013年06月15日 森田 長太郎 :バークレイズ証券 チーフストラテジスト :東洋経済オンライン
日本国債の金利は、5月に10年債でみて上下45bp(ベーシスポイント=100分の1%)という大幅な変動を見せた。4月4日の金融緩和直後に付けた10年0.3%強の水準からすると、5月下旬に瞬間風速で付けた1%まで70bpに及ぶ金利上昇が1カ月半の間に生じたことになる。
5月の金利上昇のトリガーは明らかに米債金利の上昇であり、その要因となったのはFRB(米国連邦準備制度理事会)の金融政策が出口に向かうとの観測が市場で強まったことである。5月1カ月間で、米債10年金利は日本国債を上回る62bpの大幅上昇を見せている。
この点だけを取れば、日本国債の金利の急上昇はグローバルなトレンドにリンクして起きたと言うことができるだろう。
■突出した日本国債の金利の上昇幅
しかし、日本国債の金利の米債金利に対する感応度(ベータ)が長期的に見れば0.25〜0.3程度であることを考えると、5月の日本国債の金利の上昇幅はやはり突出していた。米債金利の62bp上昇に対して過去の平均的なベータであれば、日本国債の金利の上昇幅は20bp程度がノーマルだ。
しかも、5月の金利上昇幅45bpの大半は実質的に約2週間で生じており、その期間中の米債金利は20bpしか上昇していない。今回と同様な日本国債の短期的な金利上昇が起きた2010年8月の「小沢ショック」の時においてさえ、上昇幅は同期間中の米債金利の上昇幅には達しなかった。その意味では、日本国債の市場の構造が過去とは根本的に変質してしまったようである。
ただ、こう言ってしまうと、日銀の2%インフレ目標を織り込んで日本国債の金利が本格的な上昇局面に入ったのではないかという議論にもつながりがちであるが、そのように結論付けてしまうのは時期尚早である。上述のように、5月以降のグローバルな長期金利の方向性は、そもそも、米債金利を中心に総じて上昇方向であり、日本国債の金利の上昇も基本的にはその「トレンド」に沿ったものだと言える。
そういったグローバルな動きがトリガーとなって、「トレンド」を上回る大きな「振れ」が生じた結果、5月の日本国債の金利の上昇が突出したものになったのである。その「振れ」の部分を捉えて、日本国債の金利の「トレンド」とみなしてしまうのはやや乱暴な議論である。
■ボラティリティの高さだけなのか
では、5月に顕在化した日本国債の「振れ」をどう解釈すべきだろうか。
これを単純に「ボラティリティ」(変動性)と言ってしまうのも、必ずしも正確な理解ではないだろう。確かに、日本国債市場のボラティリティは4月の金融緩和後にいったん跳ね上がった後、5月以降も基本的には高水準にある。ボラティリティの水準は、リーマン危機が発生した2008年以降で見ると、米国のQE2(量的緩和2)導入の余波でグローバルに長期金利が大きく変動した2010年秋のピーク水準を大きく上回る最高水準に達している。
「ボラティリティ」は金融資産のリスクを測る代表的な指標であり、実際、「ボラティリティ」の上昇はVaR(ヴァリューアットリスク)など金融機関の内部管理上の数値を変化させることで、金融資産保有の資本配賦上での制約を高める。一般論として、ある資産クラスにおいてリスク量が増大すれば、期待リターンが高まらないかぎり、投資妙味が低下する。すなわち、リスクプレミアムが求められるようになる。その意味では、4月以降「ボラティリティ」が上昇してしまった分、単純に長期金利の水準に上昇圧力が加わる状況が生じたことは間違いない。
しかし、リスクプレミアムが金利水準にオンされているということと、あるイベントに反応して突然金利が跳ね上がるということとは、市場で生じる現象としては必ずしも同一のものとは言えない。今回、日本国債市場において見られた急激な金利上昇の背景にあるより本質的な点は、どちらかと言えば、日本国債市場の「テールリスク」の増大を示唆していると見るべきではないか。
むしろ「ボラティリティ」は、今後、外部環境が安定化してくるようであれば、徐々に低下してゆく可能性もあるだろう。実際、2010年秋に米国QE2導入に際して米債市場でも「ボラティリティ」が急上昇したが、しばらく高水準で推移した後、最終的には上昇前の水準近くまで低下して安定した。「ボラティリティ」の上昇によって一時的に金利水準にオンされたリスクプレミアムも徐々に剥落していった。日本国債の市場も、最終的には2010年秋以降の米債市場と同様な経緯を辿って安定化してゆく可能性は十分にあるだろう。
■高まったテールリスク
しかし、米国のQEと今回の日銀のQQE(量的・質的緩和)を比べると、やはり違いがある。まず、国債発行量の7割を中央銀行が市場から吸収してしまうという「フローベース」の量の大きさの違いがあるが、それ以上に、GDP(国内総生産)比200%の公的債務を抱える国においてそのような政策を採っているという点が根本的な相違である。
米国においても、FRBの市場からの国債吸収が日本と同様に「流動性の低下」を引き起こしている状況はあるものの、市場の背後にある「ストックベース」での公的債務の規模の違いを考えると、その潜在的な意味合いは日本とはやはり異なる。
「流動性の低下」が「ボラティリティ」の上昇を招いたという事実は日本も米国も等しくあるものの、日本国債市場では、ポテンシャルな「売却圧力」の大きさ(すなわちストックとしての公的債務あるいは国債発行残高の巨大さ)が市場変動をそれ以上に高めた可能性があるのである。
このポテンシャルな「売却圧力」は、仮にいったん「ボラティリティ」が低下に向かったとしても、日本国債市場における「流動性の低下」が固定化され、市場メカニズムが十分に機能しない状況が続く限り、長期的な懸念として消失することはないだろう。
■劇的な環境変化に弱く
将来、5月に起きた以上の何らかの劇的な環境変化が生じた場合に、今回以上の劇的な市場変動が生じてしまうリスクがあるということである。これは「ボラティリティ」の高止まりという事象ではなく、一種の「テールリスク」の高まり(=ファットテール化)というように理解すべきであろう。
もちろん、「テールリスク」(発生確率が統計的な分布の端にある)は、まず滅多に起きないことであるからこそ「テールリスク」なのであり、その発生確率が多少高まったからといって、それを100%回避しようとすれば、通常の投資を行うことも困難になってしまう。実際、「ボラティリティ」が低下しさえすれば、リスクプレミアムの縮小と共に日本国債投資にも徐々に前向きなスタンスが市場では見られてくることが予想される。
しかし、仮にそういう投資行動の変化に伴って長期金利に低下傾向が見えてきたとしても、日本国債市場の「リスク・プロファイルの変化」という構造的な変化には、今後も十分な警戒を持ち続ける必要がある。滅多に起きない「暴落」が発生する確率は、実際にごく微小な数値に過ぎないのではあるが、その確率がこれまでに比べれば、わずかに高まったということを認識しておく必要がある。
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