05. 2013年6月13日 00:57:14
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ベネズエラに忍び寄るハイパーインフレの影 2013年06月12日(Wed) Financial Times (2013年6月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 今年4月、ウゴ・チャベス前大統領の死去に伴う大統領選で辛勝し、新大統領に就いたニコラス・マドゥロ氏〔AFPBB News〕
ベネズエラでハイパーインフレが生じる可能性が出てきた。5月の物価上昇率が月次ベースで過去最大を記録する一方、ベネズエラ経済は景気後退局面に入りつつあり、ニコラス・マドゥロ新大統領の支持率は低下している。 消費者物価は5月に6.1%上昇(前年同月の上昇率は1.6%)し、2013年1〜5月期の累計インフレ率が19.4%に達した。2012年通年のインフレ率(20.1%)にほぼ匹敵するレベルだ。 4月にも物価が4.3%上昇して既に警鐘が鳴っていたが、急激なインフレ昂進を受け、ゴールドマン・サックスではベネズエラがハイパーインフレの瀬戸際にあるとの不安が広がった。同社は、季節調整後の年率換算で40%を超す物価上昇をハイパーインフレと定義している。 ハイパーインフレについては、確固たる定義は存在しない。国際会計基準審議会(IASB)は、3年間の累計で100%の物価上昇をハイパーインフレの基準としている。現時点では、ベネズエラの年率換算のインフレ率は35.2%だ。 経済は既に後退局面、深刻な外貨不足で生活必需品も不足 物価が跳ね上がる一方で、経済は勢いを失い、2013年第1四半期の成長率は0.7%にとどまった(前年同期の成長率は5.9%)。ロンドンのコンサルティング会社キャピタル・エコノミクスのアナリストらは、ベネズエラは既に景気後退に入った可能性があると見ており、国内総生産(GDP)が今年1%減少すると予想している。 石油輸出国機構(OPEC)加盟国であるベネズエラの経済問題の根底にあるのは、複雑に絡み合った物価統制と為替管理だ。これが輸出収入の96%を稼ぐ石油産業の問題と相まって、外貨不足を招いた。 輸入に依存するベネズエラ経済は外貨なしでは回らず、外貨不足が食品を含む生活必需品の不足を招き、インフレを一段と悪化させている。 ベネズエラで最も人口の多いズリア州は、基本的な食品20品目を配給制にすることを検討したが、マドゥロ氏は「正気の沙汰ではない」として、この計画を一蹴した。 スタグフレーションは今やすっかり定着したが、4月半ばの大統領選挙でマドゥロ氏が2%足らずの僅差で勝利してからは、政情不安もベネズエラを揺るがしている。勢いづいた野党は、この選挙結果を認めることを拒んでいる。 今日選挙を実施すれば野党指導者の勝利 与党・統一社会党内の内紛もマドゥロ氏の人気を損ねている。カラカスに本拠を置くIVADが最近実施した世論調査では、今日再び選挙を実施したら、野党連合の指導者であるエンリケ・カプリレス氏が勝つという結果が出た。 カラカス・キャピタル・マーケッツのマネジングパートナー、ラス・ダレン氏によれば、問題は、10年にわたる厳格な為替管理の結果生まれた闇市場でドルの為替レートが過去3年間で3倍以上に高騰し、輸入品の値段が跳ね上がったことだ。 「もしマドゥロ氏がドルを見つけ、お金を迅速に市場に回すことができれば、その状況を変えられるだろう。残念なことに、今のところはキューバ人が物事を仕切っているようで、ズリアの配給モデルのようなキューバ型の解決策が出てくる」と同氏は話している。 By Benedict Mander in Caracas
誇張されているインフレリスク 当面のリスクはむしろ低すぎる物価上昇率 2013年06月13日(Thu) Financial Times (2013年6月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 3年近く前に中国・天津で開かれた世界経済フォーラム(WEF)の「夏季ダボス会議」に参加した時、米共和党のある政治家が、米国は2年以内にハイパーインフレに陥ると話しているのを耳にした。その時、筆者は愕然としたが、ハイパーインフレがやって来ると信じている人は多い。 もし米国が苦境にあるなら、英国も間違いなく苦境にある。これらの予測に信頼性はあるのだろうか? この問いの答えは、あるかもしれないが、それはかなり長期的な話だ、というものになるだろう。ただ、目下のリスクは、インフレ率が「高すぎる」ではなく「低すぎる」というものかもしれない。また逆説的だが、そのせいでインフレのリスクは長期的に高まっている。 そもそも、インフレの原動力は何なのか? 故ミルトン・フリードマンが残した古典的な答えはこうだった。「インフレは、産出よりも速いペースで貨幣の量が増加することによってのみ生じており、かつそれによってのみ生じ得る現象であるという意味で、いつでもどの場所においても貨幣的な現象である」――。 だが、これでは一体なぜ貨幣(マネー)の量が産出よりも速いペースで増加するのかが説明されない。 これについては、インフレを恐れている人々が2つの答えを用意している。1つは、中央銀行が「量的緩和」を通じて「マネーを印刷しており」、いずれ広義のマネーの量が爆発的に増加するというもの。もう1つは、政府がいずれ公的債務の予想残高に促され、インフレによる債務不履行(デフォルト)を目指すようになるというものだ。 本稿ではこの、英国にとって大きな問題を取り上げることにしよう。英国では公的債務が増加傾向にあり、最近のインフレ率も比較的高くなっている。 短期・中期的にはインフレは「幻影」 長期的にどんな危険があるかはともかく、向こう2年程度の見通しは正反対だ。英国のインフレ率は、一時的な変動要因を除去したコアベースで見ても、これを除去しない総合ベースで見ても十分に低い。賃金インフレ率はゼロに近く、生産性の低下にもかかわらず、単位労働コストの伸び率は年2%を下回っている。 為替レートもコモディティー(商品)価格も安定している。国際通貨基金(IMF)は、コモディティー価格が向こう数年間下落する公算が大きいと予想している。つまり、短期的なインフレ圧力は非常に弱いということだ。英国でそうなのだから、米国やユーロ圏ならなおさらだ。 では、次の5年間の見通しはどうなるだろうか。この時期は、需要と生産能力の稼働率が重要になってくる。残念ながら英国の国内総生産(GDP)は現在、危機前のトレンドを16%下回っている。公的機関の推計によれば生産能力もかなり余っており、IMFが計算する今年の「産出ギャップ」――実際のGDPと潜在GDPとの差――は、潜在GDPの4%相当に達している。 失業率も、思われているほど高くはないとはいえ、8%前後に達している。また、中央銀行のバランスシートは拡大しているが、民間銀行による貸し出し意欲の低下を打ち消すには至っていない。その結果、供与されている信用の額と市中にあるいわゆる「広義のマネー」の量が減少している。さらに、政府はかなり緊縮的な財政政策を採用している。 そのため、中期的に見ても、インフレは単なる幻影ではないと考えることは難しい。では、長期的にはどうだろうか? 例えば2020年代にインフレ率が急上昇することはあり得るのだろうか? 長期的にインフレ昂進を見込む根拠は? 急上昇すると考えている人は多い。なぜなら、商業銀行が中央銀行に置いている準備預金と、商業銀行による企業などへの貸し出しとの間には直接的なリンク――いわゆる「貨幣乗数」――が存在するからだ。銀行は準備預金よりも多い額の資金を貸し出すのだから、現在の準備預金残高が高水準であることはマネーの量が将来増えることを示している、と彼らは考えているのだ。 しかし、支払い能力のある銀行は、必要な準備預金を中央銀行から調達できる。また中央銀行は、支払い能力のある銀行が準備不足に陥らないようにするだろう。そうしなければ、決済システムが崩壊しかねないからだ。では、何が銀行の貸し出しに歯止めをかけるのか? それは銀行の支払い能力であり、銀行の顧客の支払い能力だ。 従って、民間銀行がマネーを創造する能力を決める要因としては、準備預金よりも銀行の自己資本の方がはるかに重要だということになる。また、もし中央銀行が銀行の過剰準備を減らしたいと思ったら、その時は国債を市中に売却するか、所要準備額を引き上げればいい。 つまり、準備預金残高が高水準であるから広義のマネーの量は将来間違いなく増えるという見方は誤りなのだ。 高インフレの可能性について論じるのであれば、説得力のある根拠は、高インフレは現在の政策の必然的な帰結だということではなく、むしろ政策立案者が公的(あるいは民間)債務の過剰状態に対処する最も簡単な方法だということだろう。 この見方では、債権者と債務者、あるいは若者と高齢者の間の分配を巡る対立は、インフレによる債務デフォルトで解消される。このようなインフレによる富の再配分の前例は簡単に思いつく。結局のところ、インフレに代わる道筋があるのか? 大雑把に言えば、代替策は緊縮、成長、そして金融抑圧(恐らくは為替管理などの投資家に対する規制を伴う金利の低下)の3つだ。インフレは、これらの代替的な要素とうまく馴染む。 多額の債務を管理してきた英国 実際、近代の英国には、高水準の公的債務を管理してきた興味深い歴史がある。第2次世界大戦後、純債務はGDP比200%を超えていた。1970年代初頭には、債務比率は50%に低下していた。 この目覚ましい変化はいかにして起きたのか? 1948-49年度から1970-71年度にかけて、名目ベースの債務残高が29%しか増加しなかったのに対し、名目GDPが336%増加した、というのがその答えだ。 実質GDP(91%増加)と物価水準(128%上昇)の双方がこの幸せな結果に貢献した。年平均成長率(CAGR)を見ると、名目GDPのそれは6.9%、実質GDPは3%、物価水準は3.8%だった。 英国が実は過去20年間の日本とそっくりだったという話にならない限り、GDPに対する公的債務の水準は、大半の予想に基づくと、2020年代に1948年当時の半分以下に減少する。そう考えると、名目GDPの成長率が年間4%でも、目的を果たせるはずだ。 この見込みは、2020年代初頭までにプライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)の赤字を、例えばGDP比2%の黒字に転換することができ、また、長期の実質金利が2%を超えないことを前提としている。こうした前提に基づくと、成長によって債務から抜け出す戦略は完璧に妥当になる。 最大の脅威は実質GDPの急減 では、最大の脅威は何か? その答えは間違いなく実質GDPの急減であり、それが住宅価格を暴落させ、失業率を上昇させ、経済をデフレに陥れ、場合によってはさらなる金融危機を生み出す事態だ。こうなると、公的債務という分子がさらに大きくなり、名目GDPという分母が一段と小さくなる。その影響を唯一相殺できるのは金利低下だ。 しかし、日本の経験が示しているように、超低金利でさえ、非常に長期にわたる財政赤字とデフレの悪影響から経済を守ることはできない。解決策は、力強く、持続可能な成長だ。そうした経済成長は、インフレの脅威を張子の虎に変えることができる。 By Martin Wolf 欧州の銀行同盟:現行計画なら大失敗 2013年06月13日(Thu) The Economist (英エコノミスト誌 2013年6月8日号)
不十分な基礎の上に新たな欧州通貨を作ってはどうか? 最初は非常にうまくいったのだから・・・。 欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は、ユーロを救うためなら「どんなことでもする」という計画を明らかにした時、アメとムチをうまく組み合わせた。ECBに流通市場で自国国債を買ってほしいと思う国は、改革プログラムを受け入れなければならなかったのだ。 ドラギ総裁は「モラルハザード」に気を配っていた。モラルハザードとは、すなわち、ひとたび圧力が取り除かれると、債務国が規律を失う危険のことだ。 だが、モラルハザードは債権国にも影響を及ぼすことが分かった。昨年発表された「アウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)」は、ユーロ圏の債券市場が落ち着きを取り戻す助けになった。OMTプログラムに対するドイツ連銀の近視眼的な反対意見(6月上旬にドイツ憲法裁判所の審理でつまびらかになる予定だった*1)にもかかわらず、OMTは目覚ましい成功を収めた。 だが、OMTは一方で、ユーロ圏を安定させるために必要な制度改革の推進を迫る債権国への圧力も和らげることにもなった。 欧州各国は2012年6月、弱い銀行と衰弱した国々との致命的なつながりを断ち切るために銀行同盟の創設に着手することに同意した。だが、ユーロ圏最大の資金拠出国であるドイツと一部の国は、それ以来、銀行同盟に対するコミットメントを弱めた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのフランソワ・オランド大統領が5月30日に示した共同文書は、その最新の証拠だ。 真の銀行同盟には3本の柱が必要になる。単一の監督機関、共同救済基金へのアクセスを持つ単一の破綻処理機関、そして共同の預金保険制度だ。仏独両国の計画は、1本半の柱を使って、大きな建造物が倒れないことを祈るようなものだ。 ドイツのせいで骨抜きに 昨年6月からある程度の前進はあった。ECBは来年に、ユーロ圏の大手銀行の単一監督機関になる準備を進めている。ECBは、欧州の銀行の健全性を評価し、国益を超越するのに最も適している。だが、効果を発揮するためには、監督機関がその意志を実行できなければならない。 このことは、経営難に陥っている銀行に直接介入し、株主と債権者に損失を割り振り、必要なら、残る穴を補填するために必要な公的資金を供給できる破綻処理機関を設置することを意味している。 *1=6月11、12日の両日、OMTがドイツの法律に違反しているかどうかについて審理が行われた ドイツは自国の納税者が他国の銀行問題の責任を負わされることを恐れて、各国の破綻処理機関が統一の規則に従い、自国の資金を使う制度を強く求めてきた。それでは十分ではない。 ECBは、監督機関の役割を引き継ぐ前に、欧州の銀行のストレステストをもう1度実施する。ECBが銀行のバランスシートに新たな民間資本では埋められない穴を見つけたと仮定しよう。ドイツのモデルでは、各国の当局にボールを投げることになる。 弱い国は、いつの間にか、キプロスと同じ立場に立たされる恐れがある。つまり、可能であれば、問題を無視する誘惑に駆られるし、それが無理なら、さらに多くの債務を引き受けるか、債権者に大幅な損失を強いることを余儀なくされるのだ。 破綻した銀行の債権者に損失を負担させるのは、正しい行動だ。だが、それが、危機時に資本の穴を埋める唯一のやり方だと見なされた場合には、安定性に対するリスクが生じる。短期の債権者は、銀行から資金を引き揚げる気になるからだ。 保険の対象となる預金者でさえ、自国の政府が弱いと見なされた場合には、逃げることを考えるかもしれない。実際、キプロスはこうした預金者に損失を負わせることを検討した。 1本半の柱では・・・ そこで必要になるのが、悲しいことに仏独計画で無視された3本目の柱だ。つまり、保険対象の預金者を守るコストをユーロ圏諸国の間で分担する共同の預金保険制度である。 平時には、銀行の年間拠出金で預金者の保険を賄うことができるが、メルトダウンが生じた時にシステムをしっかりと守ることはできない(米国の事前拠出型制度は保険対象の預金のわずか1.35%しかカバーしていない)。 どのような預金保険制度も政府支援に頼らなければならない。ドイツはそれを嫌がる。だが、銀行同盟――そして、それゆえユーロ――は、こうした制度がなければほとんど意味を成さない。この場合、3本の柱のうち1本半の柱しかないことは完全な失敗だ。 *佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。 |