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大企業景況感は2期連続改善、設備投資計画はやや慎重
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/421.html
投稿者 賢者の石 日時 2013 年 6 月 11 日 20:56:06: Qf5ShLuWtoZHs
 

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE95A00420130611?sp=true

[東京 11日 ロイター] - 財務省と内閣府が11日発表した4─6月期法人企業景気予測調査によると、企業の景況感を示す景況判断指数(BSI)は、大企業全産業でプラス5.9%ポイントとなり、2期連続で改善した。

先行き見通しも2桁の上昇が続き、企業の景況感は過去の景気拡大期と匹敵する高水準が見通されている。今年度設備投資計画は順調に上方修正されてはいるが、現段階では景況感の割には例年と比べてさほど大きな伸びとはなっていない。

4─6月の景況判断は、製造業がプラス5.0%ポイントと3期ぶりに改善、非製造業はプラス6.4%ポイントとなり、2期連続で改善した。

製造業では化学や情報通信機械が大幅に改善した一方で、その他の輸送用機械器具や自動車・同付属品製造業で悪化した。また非製造業では、サービス業や金融行・保険業で大きく改善したが、情報通信業や建設業で悪化した。

先行き7─9月期は大企業全産業でプラス14.0%ポイント、10─12月期はプラス11.5%ポイントとなった。景況判断の水準としては、過去の景気拡大期に匹敵する高水準に達する見通しとなっている。

雇用判断は、非製造業で大企業・中小企業ともに不足超過が続いているほか、これまで過剰感のあった大企業製造業でも徐々に過剰感が解消されてきた。中小企業製造業では6月末の判断で不足超過に転じ、人手不足になっている。

設備投資計画(ソフトウエア投資を含む、土地購入額を除く)は全産業ベースでは前年比7.2%増となり、前回調査(6.5%減)から順調に上方修正された。製造業、非製造業ともに前年度比で増加し、特に上期は非製造業で22%を超える増加率となった。

製造業では、食料品製造業や自動車・同付属品製造業が増加、非製造業では金融業・保険業、小売業で高い伸びとなっている。

もっとも、過去3年と比較すると、大震災直後の11年度を除き、同時期の投資計画を下回る伸び率にとどまっており、景況感が大きく改善している割には、まだ設備投資にやや慎重さがうかがえる。

法人企業景気予測調査の景況判断BSIは前期に比べて景況感が「上昇」との回答構成比から「下降」との回答構成比を引き算したもの。日銀短観のDIが「良い」「悪い」といった水準を聞いているのに対し、この調査は景況感の変化の方向を聞く。調査対象は資本金1000万円以上の法人企業。

*内容を追加して再送します。

 

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01. 2013年6月14日 06:44:48 : e9xeV93vFQ
円安で輸出が増える? それは昔の教科書に書いてあったことです!

円安が企業にもたらす真の影響(第3回)

2013年6月14日(金)  岩村 充

 企業のビジネスを巡って日々流れるニュースの中には、今後の企業経営を一変させる大きな潮流が潜んでいる。その可能性を秘めた時事的な話題を毎月1つテーマとして取り上げ、国内有数のビジネススクールの看板教授たちが読み解き、新たなビジネス潮流を導き出していく。
 今月のテーマは、安倍晋三政権が推進する経済政策「アベノミクス」によって急激に進んだ円安。企業の輸出が回復し、業績の回復や雇用の拡大につながるといった理由から、円安を歓迎する声も多いが、果たして本当にそうなのか。円安が国内企業にもたらす真の影響について、国内ビジネススクールの教壇に立つ4人の論客たちに持論を披露してもらう。
 今回は、早稲田大学大学院商学研究科(早稲田大学ビジネススクール)の岩村充教授が登場。円安がもたらす企業の好決算の中身には精査が必要と説く。
(構成は小林 佳代=ライター/エディター)
 為替レートには、時系列の中で徐々に変化していく「傾向」としての変動と、水準そのものが不連続にポンと変わる「ジャンプ」とがあります。今回、1ドルが80円を切るかどうかという為替レートの水準が、100円台まで2割以上も下がったのはジャンプに当たります。

 為替レートがこれだけ大きく変動すると、当然、企業の経営に影響が生じます。ステレオタイプな見方は、円安になれば輸出産業が復活する。企業の業績が改善して景気が良くなる。日本経済の押し上げにつながるというものですが、私は、現実をよく知っている企業の経営者たちは、それほど将来を甘く見ていないと思います。

 円安の影響を受けて、2013年3月期決算で増益を発表する企業が多かったのは確かです。でも、その中身には精査が必要です。

為替レートがもたらす変化の3つのポイント

 為替レートの変化が企業収益にもたらす変化には、3つのポイントがあります。第1に「在外資産の評価益」、第2に「海外事業利益」、第3に「輸出利益」です。1つずつ見ていきましょう。

 まず在外資産の評価益。日本のグローバル企業は海外に工場やオフィスの土地、建物、設備など、膨大な有形固定資産を持っています。調べてみると、自動車メーカーでは日本円にして2兆円を超える海外資産を、電機メーカーでも数千億円の海外資産を有しているところがあります。こうした海外資産のほとんどは現地法人が所有し、ドル建てになっているはずです。

 例えば1兆円分のドル建て資産を持っている場合、為替レートの変動で日本円が20%減価すると、2000億円の評価益が生じます。この評価益は事業活動とは全く無関係に生じる利益です。その全部が直ちに今年度の決算に現れるとは限りませんが、それが現れる時には営業利益の後段階で足される特別利益などとして最終利益に影響することになるでしょう。

 為替のジャンプが起きた年には、このような資産の評価差損益が出ます。2012年度に最高益を更新した企業の中には、こういう事情が影響したところもあったのではないでしょうか。ただし、こうした在外資産の評価益が決算に影響するのは1回きりのことです。要するに宝くじに当たったようなもので、次年度以降の利益には影響しません。ですから、その前の年度との比較では今度は減益要因になってしまいます。

 営業利益に影響するのは第2の海外事業利益と第3の輸出利益です。

 まず、海外事業利益から見ていきましょう。この20年ほど、日本企業は海外生産に軸足を移してきました。その海外で上げた事業利益を日本円で換算した時、円安であれば数字がかさ上げされて増益となります。ただ、実際の事業活動の規模や採算が向上しているわけではありません。また、2013年度以降も円安基調が続けば、数字のかさ上げは続きますが、前期比伸び率は横ばいになります。

 もう1つの輸出利益は、日本の工場で生産した製品を海外に輸出し販売した場合に生じる利益です。円安に振れた時に、現地で以前と同じ売価で売れば、利幅が増えます。

 例えば、売上高原価率60%で作っている製品を米国で100ドルで売っているとします。これまでの粗利益は「100−60」で40ドルでした。ところが、円が20%安くなると、日本円に換算した売上高も2割かさ上げされますから、「120−60」で粗利益は60ドルになります。5割も増益になるのです。

 この輸出利益に関しては、2012年度決算でも多少の影響があったと思いますが、まだ、効果は出きっていません。本格的に効いてくるとしたらこの後です。また、現地価格を据え置くのではなく、円安で採算が良くなった機をとらえて現地での売価を引き下げて販売シェアを増やすことができれば、事業活動の拡大に成功したわけですから、それは喜んでいいと思います。けれど実際には、今の日本企業がそれを実現するのはなかなか難しいでしょう。

日本が輸出しているのは価格弾力性が低いものばかり

 例えば、トヨタ自動車は現在、「レクサス」ブランドの車を主に日本で生産し、専用船に載せて輸出しています。円安の機をとらえて、米国で「ドル高還元セール」をやったら、レクサスは一気に販売シェアを伸ばせるでしょうか。ほとんど変わらないと思います。こうした富裕層向けのラグジュアリー車は、円安で価格競争力が高まったからといって、簡単に現地販売台数を増やせるようなものではないはずだからです。

 安倍晋三政権は「クールジャパン」とうたって、日本の文化やファッション、アニメなどを海外に発信しようとしていますが、アニメを安く売ったって、視聴率は上がりません。これも国内の雇用改善には結びつないのです。

 このように、現在、日本から輸出しているのは価格弾力性が低いものが中心です。円安になって価格競争力が高まることで売れ行きが良くなる商品というのは、そうそうは思いつきません。その手の商品は既に中国や韓国に取られてしまいました。

 むしろ、日本企業の経営者が注目しているのは米国内の景気でしょう。米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長が量的緩和の「出口戦略」を示唆しただけで米国の株式市場が揺れるのを見て、「困ったな、これで消費者心理に陰りが出たらどうしよう」とは思っているかもしれない。けれど円高か円安かということを、自社製品が海外で売れるか売れないかということに直結して考える経営者は少ないのではないでしょうか。

 日本の輸出品が鉄鋼、繊維、化学などの素材系の商品が中心だった時代は、今とは全く様相が異なりました。素材は、価格が安ければ売れるし、高ければ売れません。円安でドル建て価格を下げることができると、輸出が増え、米国でのシェアがぐんぐん上がります。そうすれば輸出品を作っている日本の工場の稼働率も上がって、労働者の賃金が上がり、下請けも儲かる。文字通り、景気に影響します。

 ですが先に説明したように、今の日本の輸出入構造はこうではありません。「知識集約産業」の構築に邁進してきた結果、今では、日本の港から輸出される製品の中で、素材系の商品はほとんどありません。逆に素材は中国、韓国、台湾などから輸入しています。こうなると、円安はコスト高要因になってしまいます。

 今回、円安に振れる過程で、世界で進む「シェールガス革命」を背景にエネルギー価格が低下していたのは、本当にラッキーだったと思います。もし、低下していなかったら、円安によるコスト高というマイナス面が一気に噴き出していたでしょう。

ボーナスは増やしてもベース賃金は変えない

 円安になったから輸出が増えるというのは、昔の教科書に書いてあったことです。ですから、円安だ、増益だ、と言っても、企業経営者は浮かれてはいない。甘い見方はしていないはずなのです。

 これまで説明したような文脈で、自らの将来を厳しく見ている経営者は、恐らく夏のボーナスは増やすけれどもベース賃金は変えないという判断をするでしょう。引き続き、日本企業が置かれている厳しい経営環境を労働組合にも理解してもらおうという考えだと思います。

 そうなると、サラリーマンもそうそう浮かれてはいられません。「そろそろ車の買い換え時期だけど、今年はちょっと様子を見よう」となるはずです。

 メディアでは高級輸入ブランドの人気が復活していると報じています。これは景気回復とはまた別の要因でしょう。そこには「起こるかどうか分からないが本当に大インフレが起こったら大変だ、資産性のある宝飾品やブランド品は今のうちに買っておこう」といった、一部の富裕層独特の心理が働いているだけではないかと思います。株やREITが値を上げるのと同じ構図が働いているだけのことです。

 企業の増益決算が続いたといっても、景気が良くなっているわけではありません。財務会計的な意味での企業収益の動向と実体経済の好不調、つまり景気の動向とを区別して見ていくことが必要です。工場の稼働時間は増えているのか、モノは実際に売れているのか、要するに、事業活動が拡大しているのかがポイントです。

 円安が進む中で株価も上がりました。ただし東京証券取引所に上場する企業では外国人持ち株比率が30%近くもあります。大企業の場合はもっと高く、50%を超える企業もあります。大きな株価上昇は主に大企業で起こったことを考えると、株価上昇による資産効果の3分の1ほどは外国に流出しているはずなのです。株価が上がった資産効果で消費が活発化して景気が回復に向かうという見立ても、楽観的すぎると思います。

 次回は企業経営から離れて、為替レートが大きくジャンプした背景などを解説します。

(次回は6月17日月曜日に岩村教授の論考の後編を掲載します)

MBA看板教授が読むビジネス潮流
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130611/249509/?ST=print





円高93円台、企業が不安定な為替に戸惑わないために

副作用伴う「ネガティブな円安」にも注意

2013年6月14日(金)  深谷幸司

 円相場の乱高下が止まらない。13日の外国為替市場では、急速な円高が再燃し、一時1ドル=93円後半と、日銀が「量的・質的金融緩和」の導入を決めた4月4日以来、約2カ月半ぶりの円高水準となった。5月下旬には、103円台後半にまで円安が加速していたが、その後は大きな値動きを伴いながら、調整圧力が強まっている。株式市場では、この円高が嫌気され、日経平均株価は前日比の下げ幅が800円を超える大荒れとなった。

円相場は93円台まで急ピッチで調整
円の対ドル相場と日経平均株価の推移

 この背景には、米国で量的金融緩和の縮小観測が台頭したことで、株式などリスク資産への投資ポジションを圧縮する動きが活発化したことがある。これが外国人投資家や投機筋による日本株の利食い売りに波及。さらに外国為替市場でも投機的な円売りポジションの手仕舞いや、円の買い戻しにつながった。また、アベノミクスの「3本目の矢」である成長戦略に対する失望や、日銀の金融政策の限界を改めて認識した結果でもあろう。

 前回のコラム(今までとは異質な「これからの円安」を考える)で、円の対ドル相場の購買力平価は「95円前後」であり、そこから先の円安・ドル高のペースは緩慢になって然るべきだ、と記した。

乱高下するも円安・ドル高傾向は今後も不変

 今回の円高・株安の荒い値動きは、それまでの「行き過ぎた円安の調整」と言える。内外金利差は拡大しておらず、投資資金が海外に流れにくい環境は続いている。単なる円安期待で加速した過剰な投機的円売りに巻き戻しが生じても当然だろう。水準自体も、購買力平価で見た95円前後から大きく円高が進まなければ、過度に不安がることはないと見ている。

 しかも、今後想定される内外のファンダメンタルズ面や金融政策面の格差を踏まえれば、大きな流れとしての円安・ドル高トレンドは不変と見られる。足元の円買い材料とされている、米量的緩和の縮小観測は本来、米金利の上昇要因なのだから、長い目で見れば円安・ドル高を促していくことになる。

 これまでの「ポジティブな円安」という印象が、「ネガティブな円安」に転換するリスクもある。安倍晋三政権が的確な成長戦略の具体策を打ち出せず、金融緩和の“カンフル注射”的な効果が剥落する中、財政悪化が進んだ場合に「悪い円安」に陥る可能性はあるだろう。

 今回は、今後の円安が企業にもたらす影響や意味について考えてみたい。

2004〜07年の円安局面は「ダブルでおいしい」環境

 昨秋以降の円安進行はこれまでのところ、輸出企業を中心に好意的に受け止められてきた。しかし、さらに円安が進むとすれば、今度は逆に事業環境の変化が企業経営の足かせになりかねない。

 まずは過去を検証するため、2004〜2007年の円安局面の状況を、企業業績への影響や財務管理の視点を踏まえて振り返っておこう。

 当時、世界経済の高成長は投資家のリスク選好を促し、株価の上昇とともに信用スプレッドが縮小した。企業財務面では、絶好の資金調達機会が提供されていた格好だ。

 特に日本企業にとっては、滅多にない「ダブルでおいしい」環境が整っていた。輸出増加という数量面でのプラス効果と、内外金利差の拡大による円安の進行という収益率の面でのプラスである。

 輸出増加により貿易黒字が右肩上がりで増加し、それに伴う円高圧力が増大する中でも、投機的な円売り、いわゆる「円キャリートレード」が活発化した。加えて、海外諸国の相対的な高成長や高金利を背景とした対外証券投資の活発化により、資本収支面での円売り増加でも円安が進んだ。

 すなわち、世界経済の異例の高成長、新興国ブーム、クレジットバブル、円キャリートレード、これらすべてが日本企業にプラスに働いていたのが当時だ。空前の好環境、まさにバブルであった。

 当時、輸出企業の財務担当者は円高リスクをさほど懸念することはなかった。好調な輸出・売上動向に支えられて体力が高まっていたこともあって、輸出のための為替予約(先物の円買い)を自然体で遅らせる動きが散見された。これらが為替需給面から円安に対する歯止めが掛かりにくい状況をもたらしていた。

 唯一、国際商品相場の右肩上がりは、企業にとってコスト面での懸念材料となり、世界経済の恩恵にあずかりにくい内需型の企業にとって頭痛の種だった。

 しかし、日本企業全体としては、ほかの好材料に相殺され、企業側からは「円高は確かに問題ではあるが、業績全体でカバーできているので大丈夫」という声がほとんどで、さほど問題とはなっていなかった。

今は世界経済が強くない中での円安

 こうした状況を、昨今の円安・株高局面と比較すると、いくつもの違いが見えてくる。

 まず、今の世界経済の状況は当時ほど強くない。先進国では成長率が低迷している。米国経済が相対的に強く、第1四半期こそ前期比の年率換算で2.5%成長だったものの、今年の成長率見通しは2%を大きくは超えない見込みだ。

 欧州はマイナス成長が続いている。第1四半期もマイナス成長にとどまり、これで6四半期連続だ。

 新興国も景気減速からの脱却が明確ではない国が多い。中国はなおも景気の先行きに不透明感が漂っている。1−3月期に続き、4−6月期も成長率は8%を割り込んだ状態が続き、やや鈍化する見込みだ。

 足元の株安が始まった5月23日に日経平均が急落した際に、中国の製造業景況感指数の弱さが引き金の1つとなったことは記憶に新しい。新興国ブームという状態ではなく、むしろ「新興国ブームは終わったのか?」が市場のテーマとなっているほどだ。

 クレジットバブルも見受けられない。リーマンショックを受けて、金融機関のスタンスは大きく変化した。投資のレバレッジ効果に対する規制意識は強く、特に欧米の金融機関はリスクテイクに慎重な姿勢を崩していない。

 もっとも、先進国の中央銀行は金融緩和の継続・強化を続けており、リスク資産には追い風である。レバレッジの結果ではなく、債券市場から投資家が押し出される形で、グローバルにリスク資産に資金が流入しているのが特色だ。

 円キャリートレードに関しては、「黒田緩和」によって円が唯一の「ファンディング通貨」、すなわち、ある特定の通貨を投機的に買う際の「売却通貨」、であるとの認識が固定化してきた。この点は前回の円安局面と同様である。

 ただし、内外金利差が、特に先進国間でほとんど無い状態であること、そして、新興国や資源国もかつてほどの高金利ではなくなっていること、などが大きな違いだ。今回の円キャリートレードはさほど安定的ではなく、それによる相場の上下変動がかなり大きくなることを念頭に対処する必要があるだろう。

円安の悪影響を気にする必要

 世界経済全体の流れは悪くはない。だが、相対的に堅調とは言っても、今のところさほど強いとも言えない米国経済だけが支える形になっている。前回の円安局面は強い実体経済主導のリスク選好が背景にあったが、今回は大きく異なる。輸出数量増や売上数量増は相応に見込まれるものの、これは競合国とのパイの奪い合いという側面が大きく、伸びるにしても緩やかだろう。

 むしろ、直接的にも間接的にも、円安の悪影響を気にする必要が生じている。グローバルに見て、実体経済の強さからやや乖離するマネー主導のリスク選好だ。日銀による大胆な金融緩和が主導する円安は、企業にとって、特にコスト面を踏まえれば、手放しで歓迎できることではない。今後はコスト高に陥らないか、より神経を使う必要がありそうだ。

 実体経済の弱さ、中でも中国経済の不透明感を背景とすれば、国際商品相場の上昇は限定的と見られ、この点は企業にとって、ある意味で救いではある。逆に言えば、仮に中国景気が今後、盛り返した場合、その恩恵を売り上げの面で受けなければ、企業にとっては結果的にコストプッシュによる収益悪化に苦しむ可能性が生じてくる。

 多くの日本企業が、政治的な側面や国民感情の面から、中国ビジネスの拡大と中国国内での売り上げ増に支障を来たしている状況は、こうした観点からも懸念材料だ。

 インフレ率の上昇懸念、金融引き締め、人民元高の容認、となると、中国からの輸入品は軒並み円建て価格が上昇する。企業は、中国からの輸入のみならず、全般的な円安による輸入コストの上昇に見舞われ、それを販売価格に転嫁できなければ、次第に収益率が圧迫されることになろう。

 マクロで見ても、既に日本の貿易収支が大幅な赤字であることを踏まえれば、円安が好ましいとばかりは言えない。輸出国であれば円安が望ましいが、純輸入国である現在、通貨の購買力は維持されることが好ましい。特に現状では、電力関連のエネルギー輸入が増加しており、電力価格の上昇を通して企業も負担が増してくるだろう。あるいは家計も含めた経済全体のコストアップにつながる。

円安が原油の調達コストを押し上げ
円建てとドル建てで比べたブレント原油価格の推移

債券「バブル」は企業財務にマイナス

 それでも円安・ドル高がさらに進む可能性がある。米国経済が順調に拡大を続けてドル高の進行が実現する場合だ。米国のファンダメンタルズの回復は量的緩和の縮小につながる。米長期金利の上昇、日米金利差の拡大が円安・ドル高を促すというのがメーンシナリオだ。

 一見、これは企業にとって好ましいシナリオかもしれない。しかし、この間の超低金利政策に慣れた世界からの決別は必然的に混乱を招く可能性がある。先進国の長期金利は、各国中央銀行の大胆な金融緩和によって大幅に低下している。その反転は大きなリスクとなり得る。

 現在、金融市場を見回した場合、「バブル」の懸念が生じているのが債券市場だ。米国の量的緩和縮小は債券バブルの崩壊、あるいは金融正常化に伴う長期金利の上昇につながる可能性がある。

 日本の債券市場は、日銀の“インフレターゲット導入”と国債大量購入の間で混乱している。米長期金利が上昇すれば、日本の長期金利も上昇圧力を受けるだろう。ただでさえ混乱している国内債券市場は、さらに困難に直面する可能性がある。

 米国景気の堅調推移や円安・ドル高は、輸出企業にとって収益面でプラスとなろう。しかし、財務面では社債発行コストが上昇するなどマイナスの影響が生じ、原材料の輸入コストにも上昇圧力が掛かる。前回の円安局面と違って、様々な副作用を伴う円安・ドル高局面となりそうだ。

 企業の現場からは、「昨年までの長引く円高・ドル安局面で、それに対応すべく、血のにじむような努力や断腸の思いでの決断を余儀なくされてきた」との声を多く耳にする。調達構造を変え、あるいは生産拠点をシフトし、円高・ドル安のリスクを極小化すべく動いてきたわけだ。

 特にここ数年の円高局面では、中小・中堅企業の対応が際立っていた。その後だけに、逆に円安・ドル高となった場合のメリットを得られる可能性は小さくなっている。コストプッシュ面で割りを食う可能性もある。

 総じて、企業にとっては、前回の円安局面に比べて、今回は目配せをしなければいけない点が多いことだけは確かだ。まずは会社全体の為替感応度が企業努力により良くも悪くも大きく変化している可能性を念頭に置く必要があるだろう。

 さらなる円安進行というファンダメンタルズ要因が、金利や為替、商品市況、売上数量、仕入数量などを通じて企業業績に与える影響やリスクを、総合的にとらえておくことが肝要だ。


深谷幸司の為替で斬る! グローバルトレンド
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130613/249614/?ST=print


成長戦略、“失望”に3つの理由

参院選後に試される安倍政権の改革姿勢

2013年6月14日(金)  安藤 毅

 安倍晋三内閣が14日に閣議決定する成長戦略の評判がいまひとつだ。アベノミクスの「第3の矢」と期待が膨らんでいたが内容に新味がなく、株式市場は今月5日の安倍首相の成長戦略に関する講演時から売り一色に。慌てた政権側が秋に設備投資減税を柱とする追加策を検討する考えを打ち出すなど、火消しに追われる事態となった。

これが「異次元の戦略」?

 成長戦略は(1)「日本産業再興プラン」(2)「戦略市場創造プラン」(3)「国際展開戦略」の3つの柱からなる。(1)は企業再編や設備投資を促す法制度整備や国家戦略特区の推進、子育て支援の拡充などを明記。(2)では医療関連産業の活性化や電力システム改革、農業の競争力強化策などを掲げた。(3)ではTPP(環太平洋経済連携協定)など経済連携交渉の推進、インフラ輸出、クールジャパンの推進などを打ち出した。

 内容は多肢にわたるが、ある財務省幹部は「各省が持ち寄った内容をつなぎ合わせるこれまでに世に出た戦略と変わり映えしない印象だ」と漏らす。

 「株価はあまり気にしても仕方ないが、ここまで戦略の評価が低いとは想定外だった」。自民党幹部は苦り顔で話す。

 安倍首相が異次元の金融緩和に続き、「異次元の成長戦略を示す」との考えを繰り返し表明し、期待をあおり過ぎた面もある。とはいえ、市場関係者や専門家から聞こえるのは「いい意味でのサプライズはない」「日本が直面する構造問題に取り組む姿勢が曖昧」といった厳しい意見だ。

 様々な関係者の見方を大別すると、成長戦略が“失望”された背景には3つの理由がある。

 まずは、日本株売買の7割を占める外国人投資家が期待する政策があまり盛り込まれなかったことだ。

 成長戦略を議論してきた政府の産業競争力会議のある民間議員は今月初め、「海外投資家が期待するのは『課題先進国』の日本が変わりそうという分かりやすいメッセージ。それを事務方が理解しようとしない」と筆者に漏らしていた。

弱い改革メッセージ

 具体的には、法人税減税、規制緩和、人口減少に備えた移民政策への取り組み、市場活性化につながる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用対象の見直しなどが挙げられるという。

 結果として、この民間議員の見立ては当たった。

 法人減税は財務省が首を縦に振らず、あっさりと見送りに。移民政策を巡っては、政府は高度な技能を持つ外国人に関して永住に必要な期間を現状の5年から3年に短縮する方針だが、クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは「生産年齢人口の急激な縮小という課題に対する取り組みとしては弱い」と言い切る。

 GPIFの本格的な運用改革については有識者会議で検討を進めることが成長戦略に明記されたものの、政府・自民内でもリスク投資拡大に慎重な意見が根強く、先行きは見通せない。

 今月7日の大引けにかけ、GPIFが運用計画の変更を公表すると伝わったことが買い材料となり、日経平均株価が急速に下げ渋ったことは、こうした海外投資家の期待の現れ。裏を返せば、政府の慎重姿勢が明確になれば、大きな売り材料に転じる可能性もあるということだ。

 2つ目の理由は、相も変らぬ省庁の縦割りの弊害がにじみ出てきた点だ。

 その象徴が、規制改革論議の停滞だ。企業活動の自由度を高める規制改革は潜在成長力を高めるカギ。だからこそ安倍首相は「規制改革は成長戦略の一丁目一番地」と位置付けてきたはずだ。

 だが、参院選を控え、業界団体や経済界との対立回避を優先した安倍政権は最高裁判決を受けて解禁状態になっている一般用医薬品のネット販売解禁など小幅な緩和にとどめる方針を早々と決定した。

 この結果、企業による農地所有の自由化や農業生産法人への出資規制の緩和、保険診療と保険外診療を組み合わせた混合診療の全面解禁などの“大玉”は軒並み見送りになった。

「官僚主導の弊害」の見方も

 これには、竹中平蔵・慶応義塾大学教授ら産業競争力会議の民間議員の一部から「規制緩和の提案の多くが無視された」と怒りの声が出ている。

 議論が盛り上がらない背景には、参院選までにまとめるという時間的制約もあるが、「官僚主導で戦略をまとめることの弊害」と、複数の民間議員は口を揃える。

 成長戦略の取りまとめを担う事務局は各省からの混成部隊。当初から「民間議員の提案はあまり重要視していない」と漏らす幹部もいた。

 古巣とのやり取りの中で、権益保持を優先しながら落としどころを探る。そんな従来からの霞が関的手法が踏襲された面があるのは間違いない。

 民主党政権での「政治主導」の失敗から一転、官僚の存在感が一気に回復した安倍政権。夏以降に農業分野などの規制改革論議を進める構えだが、構造問題に本当に切り込めるのか、市場は懐疑的に見始めているのだ。

 この官僚の復権とも絡むのが3つ目の理由、改革の司令塔の不在問題だ。

 小泉純一郎内閣時代、小泉首相(当時)は経済財政諮問会議を唯一の改革の司令塔として位置づけ、マクロ政策から焦点となるミクロ政策まで方向性を決定づける舞台とした。

 これに対し、現在は諮問会議が主にマクロ政策を担い、競争力会議、規制改革会議などの政府会議と随時連携していく建て前だ。

どうする「改革の司令塔」

 かつての諮問会議の効用を知り尽くしている竹中氏はこれらの会議間の連携不足を指摘したうえで、「司令官(安倍首相)はいいが、改革の司令塔がない」と指摘。「だから、官僚とも戦えない。その弊害が成長戦略の内容不足に如実に出ており、市場も見透かしている」と周辺に不満をあらわにしている。

 安倍首相や菅義偉・官房長官にはこうした竹中氏らの不満が伝わっている。自民幹部は「安倍首相や菅さんが体制の立て直しを図るはず。突破力と発信力がある竹中さんを要所に使う可能性があるが、竹中さんへのアレルギーが強い我が党には劇薬だ」と漏らす。

 安倍内閣の支持率の高さを背景に、内外の投資家の視線は既に参院選での自民勝利後の政権運営に向けられつつある。安倍首相に近いある自民議員は「自民が勝利するということは、改革に後ろ向きな議員も増えるということ。夏以降が政権の正念場だ」と語る。

 当面は「経済の安倍」を基軸に据える構えの安倍首相。財政再建などの難題とともに、構造改革に取り組む姿勢を貫くことができるかどうかが、アベノミクスの先行きを占うポイントになりそうだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130611/249474/?ST=print



【第15回】 2013年6月14日 佐々木一寿 [グロービス出版局編集委員]
じつは、利益を貯めこんでも、経済は大変なことになる?
麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。前回に引き続き今回も、嶋野と末席が自由市場のモデルとその恩寵につきケンジに全力でレクチャーします。(佐々木一寿)

「やっぱり自由に取引できるって、大切なことなんですね」

 ケンジは消しゴム付きの鉛筆を見ながら、しみじみと言った。

 嶋野は甥の理解度を喜びながら相槌をうつ。

「それぞれが得意なことをやって、それぞれが自由に交換する。そうするとみんなが幸せになる、そういうシステムになっているんだよ」

 末席は、なんかのアヤシイ勧誘のような相槌になっているな、と気になりながら先に進める。

「その自由な取引をスムーズに実現するのが、貨幣の役割なんですね。貨幣を介することによって、ほとんどのものと交換できると言っていい」

「ヒトとか南極大陸とか、禁じられてるもの以外は、ということだがね!」

 嶋野は末席の発言のフォローをしているつもりのようだが、末席は渋い顔をしている。

 俄然、経済学っぽくなってきたな。ケンジは身構えて言った。

「なるほど。でも、かならずそう、みんながハッピーになるんですか」

 なかなかするどいじゃないか。末席は感心しながら応答する。

「だいたいそうなる、というのが経済学者のコンセンサスでしょうかね」

 嶋野が末席の補足をする。

「逆に、自由に交換できることが前提にあれば、自分が得意なものだけやっていてもいい。むしろそのほうがパフォーマンスが高くなるとも言える。得意なものを多く作ることができれば、それだけたくさんのおカネと交換できる*1」

「なるほど。そうすれば多くの欲しいものが結果的に手に入るのですね」

 ケンジは直感的に比較優位論を理解できたようだ、末席は安堵した。

*1 比較優位(comparative advantage)理論とは、分業のメリットを数理的に表現したもので、デビッド・リカード、ジョン・スチュアート・ミルらによって定式化された。数式的に表現すると、X国とY国が生産財aと生産財bを産出するとして、その生産効率をXa、Xb、Ya、Ybと表したとすると、XaとYa、あるいはXbとYbの大きさの比較を絶対優位(劣位)といい、Xa/XbとYa/YbあるいはXb/XaとYb/Yaの比較を比較優位と呼ぶ。口語的に結論を言うならば、他者(他国)に劣ることであっても、自国内で得意なものを生産したほうが、世界のためにも自国のためにもなる、という考え方で、自由貿易のメリットを論理的に肯定する(ミクロ)経済学の根幹をなす理論

比較優位は本当に効果的な分業につながるのか

 ケンジは続けて疑問を呈した。

「ただ、みんながハッピーになるというのが、まだピンとこないところもあるのですが。その人にとって得意なことをやったとしても、他の人とくらべて上手じゃない可能性もあります。であれば、そのひとの貰いは少なく、あんまり幸せじゃないかもしれないのでは」

 おお、鋭いじゃないか! 叔父は嬉しさのあまりにその場で小ジャンプをした。

「そこなんだよ。比較優位論のおもしろいところは。アインシュタインは料理も上手だとして、ではアインシュタインは料理もするべきだろうか」

「好きだったら、すればいいんじゃないですか」

 素朴に答えるケンジに、末席は笑いをこらえながら言う。

「じゃあ、アインシュタインが日本で物理学の公演をするとして、そのために賢い彼が日本語を3年間勉強するべきでしょうか」

「うーん。同時通訳でもいいような。それよりは物理学の研究をしたほうがいい気がしますね、日本語を身につけることもいいことだとは思うんですが、なんだかもったいない気がします。でもやりたいなら止められませんが」

 ケンジは本人のやる気を重視するタイプだな、末席は好感しながら続ける。

「アインシュタインのアウトプット(論文)が、おそらく人々にとても高く評価されるとすれば、それはきっとみんなの役にたちますね。逆に、日本語通訳の人は、6年間勉強して物理学の論文を書くよりは、通訳で日本の人に物理学の素晴らしさを伝えられるかもしれない」

「なるほど、それは極端な例ですが、説得力ありますね…。ただ、アインシュタインや通訳者のような特別な能力がなければいけないんですよね」

 ケンジは、人類の99%を代表するようにガッカリする。

「いやいや、それほど極端でないとしても、みんながそれぞれ得意分野を生かしてがんばっていけばいい結果につながる、ということなんです。たとえば、アインシュタインが助手の誰よりもタイプライターを打つのが早く、犬の散歩も非常に得意だとしても、アインシュタインは思考実験に専念して、比較的タイピングに自信のある助手がタイプライターを打ち、犬を比較的満足させられる自信がある助手が犬の散歩を担当すれば、その研究室のパフォーマンスは上がるわけです*2」

 なぜ、アインシュタインの研究室に犬がいる設定なのだろう。ケンジは麹町経済研究所の思考実験ノリに、感覚がだんだん麻痺してきているが、かろうじて正気は保っているようだ。

*2 繰り返しになるが、比較優位における「比較的」とは、他者(比較対象)との関係と、その人のなかでの得意不得意の比較を含む。「周りと比べて比較的よい」ということと同様かそれ以上に、「自身のなかで比較的に得意なもの」という意味合いが重要である

「ケンジくんは、逆に、交換でハッピーにならないってどういうイメージを持ってるんですか」

 末席は、ここぞとばかりに、すかさず質問を投げかける。

「えーっと、そうですね。こう、フェアじゃない取引というか」

「…もしかして、マンハッタン島の取引のことか」

 嶋野はうつむいてつぶやいた。

「こうね、情報の非対称性を利用しながらね、少量の交易品(60ギルダー≒約24ドル分)と大量の土地(マンハッタン島)を交換…、って、いつの何の話をしてるんですか!情報の非対称性は最新の経済学では確かに重要ですけれども…*3」

 末席はノリツッコミをしながらヤレヤレと続ける。

*3 取引者間の情報の非対称性により自由市場が上手くいかなくなるケースがあることを、ジョージ・アカロフなどが中古車市場などを引き合いに出しつつ論理的に示した。その分野への貢献により、ジョゼフ・スティグリッツ、ジョージ・アカロフ、マイケル・スペンスの3名が2001年にノーベル賞を受賞した

「まあ、現代風にいえばジャイアンとのび太の取引なんでしょうかね」

 それは取引なのか? そう心で思いながらもケンジは流れをさえぎらないように小さく頷く。

「じつは、そういう経済モデルもあったんですよ。別名は、『重商主義』といいます」

 ドラえもんがポケットからひみつ道具を出すかのように、末席はドヤ顔で言った。そして続ける。

過度の重商主義はグローバル規模での搾取を生じることも

「重商主義は、言ってみれば、商売をして、富を自国にできるだけ貯めこむのがよい、という経済政策です。ここでの『商』というのがまたクセモノでして、当初は金や差額の蓄積でしたが、末期的には、絶対主義王政と植民地政策がセットになって、まあ、簡単に言えば、ジャイアンごっこをしていたんですね*4」

*4 絶対主義王政下の重商主義(merchantilism)に関しては、ルイ14世の財務総監ジャン=バティスト・コルベールによる、フランス東インド会社といった勅許会社の設立、新大陸ケベックへの植民政策、貿易船団保護のための海軍強化のパッケージ、いわゆる「コルベーリズム」が有名

 嶋野はフォローを忘れない。

「つまり、グローバルな搾取をしていた」

 ケンジはあまりの表現に目を瞬いているが、しかし、それほどイメージ出来ないわけでもないのが自分でも不思議である。

「それって…。でもいまは、ないんですよね…」

 末席は難しい表情で説明する。

「グローバル企業の新興国での生産委託などで、それに近いことが行われているのではないか、という疑義は、たびたび報道されてもいます。現代でも取引がフェアであるかないかの判断は、非常に難しいという事実もあります。最終的には、その地域のためになるかどうかで判断されるべきなのかなと思います。話を戻すと、この重商主義って、こすっからいし、クールじゃないよね、ということで、自由貿易主義を標榜する一派が出てきたわけです*5」

*5 フランソワ・ケネーの重農主義(労働と生産と分配の重視)や、アダム・スミスなどの自由貿易主義が登場し、重商主義を批判した

 嶋野もフォローする。

「それが、自由主義経済に発展して、取引自体が双方にとってメリットをもたらす可能性がある、という議論が育っていき、リカードとミルによって比較優位論にまで定式化されるわけだね。この比較優位は、経済学のエラい人*6も、経済学上の最大の発見と豪語しているほどの原理なんだ」

*6 ポール・サミュエルソン(1970年ノーベル賞受賞)など

 末席も負けずにフォロー返しをする。

「自分が儲かりさえすればそれでよい、ということを部分最適、全体が前よりもよくなる(その結果、自分も良くなる)ということを全体最適と言ったりします。重商主義は前者、自由主義は後者の考えなんですね*7」

*7 部分最適、全体最適に関しては、経済学では「合成の誤謬」という言葉もよく用いられる

 自由って、なんとなくそうだといいなと思っていたけど、こんなにも重要なものだとは想像もつかなかった。ケンジは我が身の自由さをあらためて深く感謝した。

(つづく)

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2013年6月13日


アメリカ社会は人種ではなく“知能”によって
分断されている
[橘玲の日々刻々]
1
2
3
 すこし前の話だが、ワシントンのダレス国際空港からメキシコのカンクンに向かった。12月の半ばで、機内はすこし早いクリスマス休暇をビーチリゾートで過ごす家族連れで満席だった。

 乗客は約8割が白人で残りの2割はアジア(中国)系、あとは実家に帰ると思しきヒスパニックの家族が数組という感じだった。クリスマスまでまだ1週間以上あるから、彼らは長い休暇をとる経済的な余裕のあるワシントン近郊のひとたちだ。

 その富裕層の割合は、アメリカの人種構成とは大きく異なっている。国勢調査によれば、全米の人口のおよそ7割は白人(ヨーロッパ系)で、10%超がアフリカ系(黒人)、6%がヒスパニックでアジア系は5%程度だ。しかし私が乗り合わせた乗客のなかに黒人の姿はなく、メキシコに向かう便にもかかわらずヒスパニックの比率もきわめて低かった。

 もちろん私は、たったいちどの体験でアメリカについてなにごとかを語ろうとは思わない。このときの違和感を思い出したのは、チャールズ・マレーの『階級「断絶」社会アメリカ』(草思社)を読んだからだ。

アメリカの経済格差は○○の差

 著者自らが認めているように本書は、アメリカ社会を分析したいくつかの先行研究を組み合わせたコロンブスのタマゴだ。しかしこのタマゴは、見た目がグロテスクで味はほろ苦く、アメリカの知識層に大きな衝撃をもたらした。

 アメリカがごく一部の富裕層と大多数の貧困層に分裂しているという話は、耳にタコができるほど聞かされている。では、この本のどこがショッキングだったのだろうか。

 マレーは、アメリカの知識人なら誰もが漠然と思っていて、あえて口にしなかった事実を赤裸々に書いた。彼の主張はきわめて単純で、わずか1行に要約できる。

 アメリカの経済格差は知能の格差だ。

 マレーはこのスキャンダラスな仮説を実証するために、周到な手続きをとっている。

 まず、アメリカにおいてもっともやっかいな人種問題を回避するために、分析の対象を白人に限定した。ヨーロッパ系白人のなかで、大学や大学院を卒業した知識層と、高校を中退した労働者層とで、その後の人生の軌跡がどのように異なるのかを膨大な社会調査のデータから検証した。

 そのうえでマレーは、認知能力の優れたひとたち(知識層)とそれ以外のひとたちが別々のコミュニティに暮らしていることを、郵便番号(ZIP)と世帯所得の統計調査から明らかにした。

 アメリカ各地に知識層の集まる「スーパーZIP」がある。このスーパーZIPが全米でもっとも集積しているのがワシントン(特別区)で、それ以外ではニューヨーク、サンフランシスコ(シリコンバレー)にスーパーZIPの大きな集積があり、ロサンゼルスやボストンがそれに続く。

 ワシントンに知識層が集まるのは、「政治」に特化した特殊な都市だからだ。この街ではビジネスチャンスは、国家機関のスタッフやシンクタンクの研究員、コンサルタントやロビイストなど、きわめて高い知能と学歴を有するひとにしか手に入らない。

 ニューヨークは国際金融の、シリコンバレーはICT(情報通信産業)の中心で、(ビジネスの規模はそれより劣るものの)ロサンゼルスはエンタテインメントの、ボストンは教育の中心だ。グローバル化によってアメリカの文化や芸術、技術やビジネスモデルが大きな影響力を持つようになったことで、グローバル化に適応した仕事に従事するひとたち(クリエイティブクラス)の収入が大きく増え、新しいタイプの富裕層が登場したのだ。

 マレーは、スーパーZIPに暮らすひとたちを「新上流階級」と呼ぶ。彼らが同じコミュニティに集まる理由はかんたんで、「わたしたちのようなひと」とつき合うほうが楽しいからだ。

 新上流階級はマクドナルドのようなファストフード店には近づかず、アルコールはワインかクラフトビールでタバコは吸わない。アメリカでも新聞の購読者は減っているが、新上流階級はニューヨークタイムズ(リベラル派)やウォールストリートジャーナル(保守派)に毎朝目を通し、『ニューヨーカー』や『エコノミスト』、場合によっては『ローリングストーン』などを定期購読している。

 また彼らは、基本的にあまりテレビを観ず、人気ランキング上位に入るようなトークラジオ(リスナーと電話でのトークを中心にした番組)も聴かない。休日の昼からカウチに腰をおろしてスポーツ番組を観て過ごすようなことはせず、休暇はラスベガスやディズニーランドではなく、バックパックを背負ってカナダや中米の大自然のなかで過ごす。ここまで一般のアメリカ人と趣味嗜好が異なると、一緒にいても話が合わないのだ。

 アメリカでは民主党を支持するリベラル派(青いアメリカ)と、共和党を支持する保守派(赤いアメリカ)の分裂が問題になっている。だが新上流階級は、政治的信条の同じ労働者階級よりも政治的信条の異なる新上流階級と隣同士になることを好む。政治を抜きにするならば、彼らの趣味やライフスタイルはほとんど同じだからだ。

新上流階級の価値観

 もちろん、アメリカ社会における新上流階級の登場を指摘したのはマレーが最初ではない。

 クリントン政権で労働長官を務めたリベラル派の政治学者ロバート・ライシュは、1991年の『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』(ダイヤモンド社)で、市場のグローバル化によって労働市場は「ルーティン・プロダクション・サービス(工場労働)」「インパースン・サービス(対人サービス業)」「シンボリック・アナリスト(知識産業)」に分かれていくことを指摘した。

 だが分裂していくのはワークスタイル(仕事)だけではない。

 戦前はもちろん、戦後も1960年代くらいまでは、大富豪も庶民とたいして変わらなかった。金持ちになればハイボールがジムビームではなくジャックダニエルになり、乗っている車がシボレーではなくビュイックやキャデラックに変わったが、日々の生活や余暇の過ごし方は一般のアメリカ人と同じで、ただそれを召使に囲まれて優雅に行なっていただけだった。富裕層は庶民と異なるスタイルを身につけていたが、異なる文化コンテンツを持っていたわけではなかった。

 しかし1980年代以降、とりわけ21世紀になって、アメリカ社会に大きな変化が訪れた。

 ニューヨークタイムズのコラムニスト、デイビッド・ブルックスは2000年の『アメリカ新上流階級 ボボズ』(光文社)で、高学歴の富裕な社会集団を「ボヘミアン(Bohemian)的なブルジョア(Bourgeois)」と定義し、「BOBO」と命名した(この名称自体は定着しなかった)。ここでいうボヘミアンは、「既存の秩序やルールにとらわれず自由な生き方を求めるひとたち」で、作家やアーティスト、同性愛者などを指す。

 次いで2002年、社会学者のリチャード・フロリダが『クリエイティブ資本論』(ダイヤモンド社)などの一連の著作で、知識社会の中心はクリエイティブな仕事をするひとたち(クリエイティブクラス)であるとして、同性愛者が多く暮らす都市はキリスト教原理主義的な南部の都市よりも際立って経済成長率が高いことを示した。知識層(BOBO)は自由闊達なボヘミアン的文化に引き寄せられるため、同性愛者を差別しない寛容な都市にクリエイティブな才能が集まり、それを目当てにクリエイティブな企業が進出してくるのだ(ニューヨークのウォール街やサンフランシスコ郊外のシリコンバレーが典型)。

 それと同時に、2000年に政治学者のロバート・パットナムが共同体論の記念碑的作品となる『孤独なボウリング』(柏書房)を刊行し大きな反響を呼んだ。アメリカのボウリング人口は増えているものの、かつて隆盛を誇ったボウリングクラブはほとんど消滅してしまった。パットナムは膨大な統計と社会調査を駆使して、ひとびとがコミュニティに所属するよりも自分ひとりで孤独なボウリングをするようになった現実を示した。

 パットナムは、アメリカ社会が全体としてコミュニティ文化を失いつつあると論じた。しかしマレーは『階級「断絶」社会アメリカ』で、アメリカ社会を新上流階級と労働者階級に分けたうえで、労働者階級のあいだではたしかにコミュニティが崩壊しているが、新上流階級のなかでは「古きよきアメリカ」の価値観がまだ健在であることを発見したのだ。

 これが本書のもっとも大きな意義で、かつ論争の焦点だろう。

格差社会の「強欲な1%」に美徳がある

 マレーは、アメリカ社会の建国の美徳として「結婚」「勤勉」「正直」「信仰」の4つを挙げる。これについては異論もあるだろうが、円満な家庭を営み、日々仕事をし、地域のひとたちを信頼し、日曜には教会に通うひとは、孤独な1人暮らしをし、仕事がなく失業中で、犯罪に怯えて誰も信用せず、教会の活動からも足が遠のいているひとよりも幸福である可能性が高いことは間違いないだろう。

 そのうえでマレーは、認知能力において上位20%の新上流階級が暮らすベルモントと、下位30%の労働者階級が住むフィッシュタウンという架空の町を設定し、いずれの基準でもベルモントにはフィッシュタウンよりも圧倒的に高い割合で「幸福の条件」が揃っていることを示す。

 もちろんマレーは、一人ひとりを取り上げて「知能が低いから幸福になれない」などといっているわけではない。彼が指摘するのは、フィッシュタウンでは働く気がなかったり、薬物やアルコールに溺れたり、赤ん坊を置いて遊びに行くような問題行動をとるひとたちが急速に増えているという事実だ。その割合が限界を超えると地域社会は重荷を背負えなくなり、コミュニティは崩壊して町全体が「新下流階級」へと落ちてしまう。

 それに対して新上流階級ではこうした問題行動はごく少ない(あるいは排除されてしまう)ため、アレクス・ド・トクヴィルが『アメリカのデモクラシー』で描いたような健全なコミュニティを維持することが可能なのだ。

 こうしてマレーは、格差社会における「強欲な1%」と「善良な99%」という構図を完膚なきまでに反転する。アメリカが分断された格差社会になのは事実だが、美徳は“善良”な99%ではなく“強欲”な1%のなかにかろうじて残されているのだ。

 このように書いてもイメージできないだろうから、本書に登場する現実のフィッシュタウン(善良な99%)を紹介しよう。ペンシルバニア州フィラデルフィアにある低所得地域で、住民のほとんどは白人だ。

 最初は、1980年代半ばに20歳だったジェニーの体験談。ジェニーは7人兄弟の一人で、父親の暴力のため両親は子どもの頃に離婚していた。

「息子を産んだのは20歳のときです。19歳で妊娠して、20歳で生みました。早くに結婚した姉もちょうど妊娠していました。わたしは当時つき合っていた男性と結婚したくて、これで結婚できる、そして姉みたいになれると思ったのですが、うまくいきませんでした。そうしたら妹も妊娠して、姉妹3人がそろって妊婦になってしまって、それ自体は悪いことじゃありませんが、母は驚いてました(後略)」

 次は、地元のカトリックの中学校に通う16歳の娘を持つ母親の話。

「この4カ月で娘は6回もベビー・シャワー(妊娠した人のためのパーティー)に招かれました(略)(娘が通っている学校には)52人も妊娠している女子生徒がいるんです。52人ですよ。ひどい話です。しかもそれ以外に、すでに子供を産んだ生徒もいるんですから。(略)誰もがみんなこうだから、もう誰が悪いともいえないし、いったいどうなってしまったんでしょう? なぜこんなにたくさんの子供たちが妊娠するんでしょう? わたしが学校に通っていたころも少しはいましたけど、でも1年にせいぜい4人でした」

 マレーはこうした新下流階級の規模を、「生計を立てていない男性」「一人で子供を育てている母親たち」「孤立している人々」という3つの基準から、(控えめに見積もっても)30歳以上50歳未満の全白人の2割に達すると推測している。

 マレーは分析の対象を白人に限ることで、アメリカ社会は人種ではなく“知能”によって分断されている事実を示した。

 もちろんマレーは本書で、こうした分断社会を無条件に肯定すべきだといっているのではない。ただ、グローバルな知識社会の現実を直視しなければ、いかなるきれいごとの「対策」も無意味だと述べているだけだ。
http://diamond.jp/articles/-/37381?page=3



【第14回】 2013年6月13日 坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
意思決定は合理的ではありえない――
ノーベル賞に輝いた「限られた合理性」との対峙
『【新版】経営行動――経営組織における意思決定過程の研究』
安倍政権が打ち出す経済政策への期待感から「すわバブルか」という空気が流れたのも束の間。5月末の株価急落後は一進一退が続く現状です。経済はどう動くのか、売り買いのどちらがトレンドとなるのか。誰しもが合理的に考えて行動しているはずなのに、先行きの予測は困難です。この人間の合理的な意思決定が限定的なものであることを定義し、経営学における組織研究に昇華させたハーバート・A・サイモン。彼はこの研究でノーベル経済学賞を受賞しました。今回紹介する『【新版】経営行動』はそのすべてが詰まった一冊です。

経済学、経営学の進展に影響を及ぼした
「人間の選択する『限られた合理性』」の分析

「需要曲線と供給曲線の交点で価格と生産量が決定される」。この法則は、ミクロ経済学の教科書を読んでいなくても、ほぼだれでも知っている基礎知識です。「需要と供給の一致」、つまり「神の見えざる手」ですね。需給の交点で市場は均衡するわけです。

 しかし、この法則の成立には前提があります。市場には供給側も需要側も十分に多数の参加者が存在し、全員が同じ情報を持っていることです。これを「完全競争市場」といいます(正反対の概念は「独占市場」)。

 さらに、企業は利潤を最大化し、人々は効用を最大化する行動をとることが前提にあります。効用の最大化とは、予算の制約のなかで欲望を最大化すること、と言い換えてもいいでしょう。人々は同じ財・サービスであれば、必ず価格の一番安いものを買う、といったことです。なぜならば、それが合理的な行動だからです。つまり、人間の合理性が大きな前提条件として組み込まれていることがわかります。

 人間の合理性を前提に、経済学は計算可能なサイエンスとして発達したわけですが、現実の社会で完全競争市場はほとんどありえません。実際は完全競争市場と独占市場の間にグラデーションのようなさまざまな市場があり、人間は完全に合理的な行動をとることもありえないのです。


ハーバート・A・サイモン著 二村敏子、桑田耕太郎、高尾義明、西脇暢子、高柳美香訳『【新版】経営行動――経営組織における意思決定過程の研究』
2009年7月刊行。570ページにも及ぶ大作。写真では外していますが、オビのキャッチコピーにある「金字塔」がしっくりきます。
 このような人間社会の現実は、じつはだれでも直感的にわかっています。同じ機能、同じ価格の商品であっても、広告のコピー、キャラクターなどのちょっとした差異によって需要側の行動は変わります。

 では経済学の均衡理論は絵空事かというと、そうではありません。条件をいろいろ設定したうえで構築されるモデルは、現実を考察する際に重要な指針になります。また、経済学者は完全競争市場やと独占市場の間に存在するさまざまな市場の価格決定メカニズムや、個々の市場参加者(プレイヤー)の行動メカニズムを研究してきました。それが複雑系、ゲーム理論、そして行動経済学といった研究です。

 このような潮流の初期に重要な概念を提供したのがハーバート・A・サイモン(1916−2001)でした。サイモンは行動する主体の「限定合理性」(Bounded Rationality)について分析し、限定合理性を克服する組織の意思決定過程を考察したのです。

 サイモンの「限定合理性」は、必ず合理的な行動を取るという人間像を前提にしていた経済学に大きな影響を与えました。そして、経営組織の意思決定過程を限定合理的な人間像をもとに描き、経営学にも一石を投じました。

「意思決定にはつじつまの合わない要素が必ず含まれる」
ノーベル経済学賞を受賞した組織研究

 サイモンは米国の経済学者で、と紹介したいところですが、哲学、心理学、政治学、経営学、認知科学、情報科学から人工知能まで、じつに幅広い領域を横断しながら学際的な研究を続けた20世紀を代表する知識人でした。


1989年に刊行された第3版の翻訳版。装丁はまったく異なりますが重厚感は変わりません。
 本書『【新版】経営行動――経営組織における意思決定過程の研究』は、原書第4版(1997)の全訳で、2009年に出版されています。原書第1版は1947年に出ていますから、第4版は50年後のことです。この間、本書のテーマである「経済組織における意思決定過程の先駆的研究」で1978年にノーベル経済学賞を受賞しました。なお、原書第2版と第3版もダイヤモンド社からそれぞれ1965年と89年に邦訳が出版されています。

 原題は“Administrative Behavior: A Study of Decision-Making Processes in Administrative Organizations, Fourth Edition,1997”です。邦訳で五百数十ページを超える浩瀚な書物で、学際的な記述が多く、翻訳は大変な作業であったと思われますが、正確な日本語を当て、やっかいなサイモンの述語が見事に翻訳されています。

 読む側ももちろん苦労しますが、1行ずつサイモンの思考プロセスを追うつもりで読むと、意外にわかりやすい文章です。

 サイモンは合理的な意思決定者について、次のように定義します。

客観的な合理性とは以下のことを意味している。行動する主体が、(a)決定の前に、行動の代替的選択肢をパノラマのように概観し、(b)個々の選択に続いて起こる諸結果の複合体全体を考慮し、(c)全ての代替的選択肢から一つを選び出す基準としての価値システムを用いる、ことによって、みずからの全ての行動を統合されたパターンへと形づくることである。
(144ページ)

 そして、「こうした理想的な姿はない、多くのつじつまの合わない要素を含んでいる。もし行動がある期間にわたって観察されるならば、その行動はモザイク状の性格を示す」と続けます。

 そして、実際の行動について、限定合理的であることを3点挙げます。

(1) 合理性は、各選択に続いて起こる諸結果についての完全な知識と予測を必要とする。実際には結果の知識はつねに断片的なものである。
(2) これらの諸結果は将来のことであるため、それらの諸結果と価値を結び付ける際に想像によって経験的な感覚の不足を補わなければならない。しかし、価値は不完全にしか予測できない。
(3) 合理性は、起こりうる代替的行動の全てのなかから選択することを要求する。実際の行動では、これらの可能な代替的行動のうちほんの二、三の行動のみしか心に浮かばない。(145ページ)

限定合理性をいかに克服するか?
サイモンが示した5つの意思決定過程

 日本のバブル経済は1980年代の後半に起きました。バブル崩壊は90年から始まります。世界史的にも大きな経済変動であり、その後の日本人の行動に大きな影響を与えました。リスクというより、損失の予測に対して極端に腰が引けます。

 サイモンは「予測の困難性」の項でこう書いています。

リスキーな投機的企てにおいて、損失という結果をより鮮明に心に描けるほど――そうした結果を過去に経験していることやその他の理由で――リスクを引き受けることが望ましくないように思われてくる。損失の経験があると、損失の発生がより高い確率で生ずると予測するよりは、むしろ損失という結果を避けようとする欲求が強化される。(148ページ)

「損失という結果を避けようとする」ため、損失に対して参照点から限界効用逓増になり、利益に対する限界効用逓減のカーブよりも傾きは急峻になります。これは行動経済学の「プロスペクト理論」の一つで、ダニエル・カーネマン(1934−)らが2002年のノーベル経済学賞を受賞しています。詳しくは、真壁昭夫『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年)、依田高典『行動経済学』(中公新書、2010)を参照してください。

 サイモンは、人間の限定合理性によって予測不可能なめちゃくちゃな経済像、あるいは経営像を描いたわけではありません。限定合理性を克服するための組織の意思決定過程を次のように考察するのです。

(1) 組織は、仕事をそのメンバー間に分割する。各メンバーに達成すべき特定のタスクを与えることによって、組織はメンバーの注意をそのタスクに向けさせ、それのみに限定させる。(後略)
(2) 組織は、標準的な手続きを確立する。ある仕事は特定の方法でなされなければならないと、きっぱりと(略)決めることによって、その仕事を実際に遂行する個人が、その仕事をどうやって処理すべきか毎回決める必要がなくなる。
(3) 組織は、権限と影響のシステムを確立することによって、組織の階層を通じて、決定を下に(そして横に、あるいは上にさえも)伝達する。(略)非公式的な影響のシステムの発達も、あらゆる実際の組織において劣らず重要である。(後略)
(4) 組織には、全ての方向に向かって流れるコミュニケーション経路がある。この経路に沿って、意思決定のための情報が流れる。(略)公式的なものと非公式的なものの両方がある。(略)非公式的な経路は、非公式的な社会的組織と密接に関係している。
(5) 組織は、そのメンバーを訓練し教化する。これは影響の「内面化」と呼ぶことができるだろう。なぜなら、それは、組織のメンバーの神経系統に、その組織が用いたい決定の基準を注入するものだからである。組織のメンバーは、知識、技能、および一体化あるいは忠誠心を獲得し、それによって、組織が彼に決定してもらいたいと欲しているように彼自身で意思決定することができるようになる。(171−172ページ)

 とくに(5)は、サイモンならではの科学的な組織論です。サイモンは本書で「意思決定過程の観点から組織が理解できるか」(序文)を考察し、読者のターゲットを「組織の監視者と設計者」(序文)においたのです。

次回は6月20日更新予定です。

◇今回の書籍 19/100冊目
『【新版】経営行動――経営組織における意思決定過程の研究』
http://diamond.jp/articles/print/37308


02. 2013年6月14日 06:49:52 : e9xeV93vFQ
Vol.291:アベノミクスのパラドックス(3)>

テーマの領域: 株、債券、通貨、実体経済
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おはようございます。梅雨とは言え、なぜか雨が降りません。ほぼ
3か月、眠るときは夏目漱石を読みます。日本に生き、根底のとこ
ろを考え、残してくれたことを、ありがたく思うのです。

【小説論 : 3行×7段落】
残った言葉を読んでいる私の時間は、漱石の、生きた時間と一致し
ます。その意味ではナマの現在であり、化石になった過去ではない。
幾度読んでも豊饒な観念を与え、感情を喚起される文章はマレです。

木が、名人の刀によって、貴重な美をあらわすものに変わるように、
画布と絵の具が、画家によって至上の花をあらわすように、漱石が
書いた言葉が、彼の(観念が)生きた世界を写しています。

観念が生きたというのはイマジネーション(想像力)ということで
す。小説は、個人が見た、知った、経験した現実をモデルに、ある
いは元に、言葉が喚起する想像的なものを使い、脚色したものです。

〔個人 →現実の経験 → 言葉の意味と連なり → 小説の世界〕
↓ ↑ ↓
〔共有できない個的な世界〕 〔言葉〕 〔人と共有できる世界〕

例えば漱石の恋愛は、全く個的なものです。誰も、その中身は分か
らない。自分でも分かっていず、感情に流されているだけかも知れ
ません。この閉ざされた個的な世界の一端を、言葉によって表現す
る。

読む人は、漱石が生きた観念の世界を、生きることができる。『草
枕』の漢語をたどれば、小天(こてん)温泉(熊本県玉名市)の自
然、宿、美しいお那美さんが浮かびます。実際に、温泉に入るので
はないのですが、漱石が行ったときのことを、言葉で、体験できま
す。

それが実際のものであるように、読んだ人が受け取るには、言葉の
技法が必要です。彫刻刀で木を彫れば、誰でも彫刻ができるのでは
ない。技術が必要です。小説でも、言葉を使う技術が必要です。

古典的なものをお読みになることを、お奨めします。
理由:(1)根底的なことを徹底して書いているからです。
(2) あなたの人生を、豊かにしてくれるからです。

▼アベノミクス・パラドックスが生じてきた(3)

パラドックスは、矛盾。矛盾は、行き着く先で両立できないこと。
極めて簡単に、その論理を、骨太に示します。

【普通ではない、市場の金利上昇の動き】

黒田総裁が、
13年4月に就任し、実際に、円増発を始めたあと、
市場の金利と国債の価格では、普通ではないことが生じています。

4月に国債を10兆円買い切って(日銀B/Sは174兆円に拡大)、
5月も10兆円増やし(同:184兆円)たのに、
長期金利は0.6%から、0.8〜1.0%に上がっているのです。

この金利上昇は、言いようがない、逆の動きです。

日銀がマネー量を、2ヶ月で20兆円(年間ペースは+120兆円)増加
させるのですから、普通、金利は0.3%や0.2%にも下がらねばな
らない。

日銀が、毎月10兆円も国債を買い切るのですから、
国債価格は下がるのではなく上がらねばならない。

ところが、
金利は上がり、
国債価格は下がったのです。

これは、アベノミクス・パラドックスの、前兆に見えます。

【アベノミクス】
インフレ目標を2%とし、物価目標の達成のために、
マネー・サプライを6%(金額で70兆円/年)は増やす。

理由は、〔M(マネー・サプライの量)×V(回転速度)=P(物価
水準)×T(実質GDP)〕というフィッシャー等式である。これを、
正しいとする。安倍政権は、マネタリストの立場に立つ。

過去の、マネー・サプライ統計と物価のデータを並べると、日本経
済では、マネー・サプライの増加が1年に+4%のとき、物価が±0
%の上昇だった。それ以下だと、物価は下がる傾向がある。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1305.pdf

金融危機の1998年以降、日本のマネー・サプライの増加は、1年に2
%増の平均でしかない。

このため、00年代は物価が下がるデフレになっていた。(注)マ
ネー・サプライの量を物価と関係づけるのはマネタリスト的な見解
です。

経済成長には、物価のマイルドな上昇が必要である。消費者物価を
2%上げるには、マネー・サプライの増加を、年6%(70兆円:物価
の基準点4%+2%)としなければならない。

マネー・サプライ(M3:1152兆円:13年5月)の主なものは、企業
と世帯の預金である。企業と世帯の預金を、日銀が直接に増やすこ
とはできない。

日銀は、国債を買って、円を増発できる特権をもつ唯一の銀行であ
る。日銀が、毎月7〜10兆円の長期国債を、買い切る。買い切りに
よって、月間7〜10兆円の円を、国債を売る金融機関(銀行・生
保)に増加供給する。これは実行できる。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2013/ac130531.htm/

2013年と14年の2年間で、13年5月末には153兆円である〔発行銀行
券82兆円+当座預金71兆円〕、言い換えれば、マネー・サプライの
元になる「マネタリー・ベース」を倍増させる。

このマネタリー・ベースの倍増で増えるのは、金融機関が日銀に預
ける「当座預金」(5月末で71兆円)である。

日銀当座預金は、金利が0.1%と低い。金融機関が、金利がつく国
債を売った代金を、年利0.1%で日銀に預けたまま増やすことはな
いだろう。

日銀が国債を買って、マネタリー・ベースを増やせば、
それが貸出しの増加になり、マネー・サプライが増えるだろう。

(注)これは日銀が、黒田総裁で、黙って変更した見解です。白川
総裁の時期には、「日銀が、国債を買ってマネタリー・ベースを増
やしても、それが世帯や企業の預金であるマネー・サプライの増加
にはつながりにくい。」ということでした。日銀は、いつの間にか、
見解を変えたのです。

マネタリー・ベースが300兆円(倍増)に向かって増えると、銀行
は、その増えたマネーを、企業や世帯に低い金利で貸すようになる。

企業は、借りたお金で設備投資をし、
世帯は、住宅ローンで買う住宅を増やすだろう。
そうすると、経済(GDP)は成長する。

経済が成長すれば、マネー・サプライは、1年4%(70兆円)は増え
るようになる。マネー・サプライが4%増えると、MV=PTで物価は1
年に2%は上がる経済が定着する。

以上が、インフレ・ターゲット2%のアベノミクスである。

パラドックスは、ここからです。

【金利の原理】
名目長期金利=〔物価の期待上昇率+GDPの実質上昇率+リスクプ
レミアム〕です。

物価の期待上昇率が2%、
GDPの期待実質成長率が1%、
リスクプレミアムが1%なら、
名目長期金利は、4%に向かって上がります。

フィシャーの金利公式と言われ、合理的期待形成学派風のものです。
(注)金融工学では、主に、この金利原理を使っています。

自分が100万円を誰かに貸そうとしているとします。物価の上昇が1
年に2%、実質経済成長が1%という条件なら、金利が何%で貸す
か?

(1)物価上昇と金利:
100円のものが、来年は102円になるのが、物価の2%上昇です。
貸す人は2%の金利がないと、貸すのが損になります。

(2)実質経済成長と金利:
実質経済成長が1%という意味は、所得の実質増加が1%(1万円)
という意味です。この分も金利として必要とするでしょう。

(3)貸すときは、いつも回収にリスクがあります。
これも、金利として回収されねばならない。

(注)ケインズは、金利の原理として、「現在、そのお金で入手で
きるものをガマンすることの報酬」(『一般理論』)と言っていま
す。

以上の〔(1)+(2)+(3)〕を示すのが、
名目長期金利=〔物価の期待上昇率+GDPの期待実質上昇率+リス
クプレミアム〕という、フィシャー等式です。

実際の経済では、
・物価の期待上昇率が2%、
・GDPの実質上昇率が1%、
・リスクプレミアムが1%なら、金利は、すぐ4%になるかというと
そうではない。

経済学の公式は、数値を入れたときはアバウトなものです。つまり
「市場の長期金利が、理論値の4%を中心点に、波動する。」とい
うことです。期間が立つと、4%付近へと収束に向かう。

●金利と物価の原理が示すのは、アベノミクスがうまく行き、物価
が2%上昇すると期待されるようになって行くと、日本の長期金利
は、現在の0.8%付近から、4%を目指して上昇するということで
す。

アベノミクスのインフレ目標2%が達成に向かうと、
・うまく行ったという理由で、
・まずいことが「金利の上昇として起こる」というパラドックスが
あります。

【原因:政府負債が、GDPに対し大きすぎる】
金利の上昇が、日本経済にとってひどいことを招く理由は、政府の
負債残が1112兆円と巨額で、名目GDP(474兆円:13年3月)の
2.3倍になってしまっているからです。

しかも政府負債は、政府財政の赤字のため、毎年、40〜50兆円は増
えます。
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

政府債務1112兆円のうち、国債は900兆円くらいです。
国債にせよ借入金にせよ、金利がつく借金です。

【日本には、政府の、債務額の大きさの問題がある】
政府負債がGDPの1倍(500兆円規模)のときなら、長期金利が4%や
5%に上がっても、穏やかなインフレ(2%)を含んで経済(実質GD
P)が成長することによる「いい金利の上昇」です。

ところが、政府負債が1000兆円を超えているときは、
・金利の上昇が、超低金利の国債価格の下落を生み、
・その国債価格の下落が一層の金利上昇になって、
・日銀は国債価格を下げないため、一層、国債を買う必要が出て、
・国債が現金化され、より高いインフレ率に向かうという、「悪い
金利の上昇」になってしまいます。

すぐに、このパラドックスになるのではない。

2015年:インフレ・ターゲット2%を言うアベノミスクがうまく行
けば、必然的になるパドックスが誰の目にも明らかになるのは、20
15年ころと見ています。

必然的とは、政策の方向を変えない限りそうなるということです。
理由を言えば、上記の金利の原理です。

物価が従来のマイナスの期待(−1%程度)から1%の上昇に向かっ
ているという認識がはじまると、マイナスだった期待物価上昇率が、
高まり、金利が上がるからです。

2年先は、遠い将来でしょうか、あるいは、近い明日でしょうか。

【日銀は答えない】
日銀番の記者が「インフレ・ターゲットがうまく行って、物価が2
%上がるようになったら、日銀はマネーを絞って金利を上げる「出
口政策」をとらねばならないが、これについて、どう思うか?」と
いう質問に対し、黒田総裁は、「出口政策を言う時期ではない」と
答えています。

2年先は、遠い、遠い将来に思えるからでしょう。

【しかし、固定金利で長期国債は売る】
ところが・・・政府は、「額面に対して固定金利の10年もの国債」
を発行します。

10年先の、金利と10年後の元本返済を約束した証券が、10年もの国
債です。2年先が、まだ「出口政策」を言う時期ではないなら、10
年先の金利は、一体、どうなるのか? 国債を買う側の心理が、こ
れです。

「金利0.8%の10年債」を買うには、10年間の、市場の平均金利が
0.8%か、2%か、4%かを判断せねばならないのです。

黒田総裁は、将来の市場金利について答えない、無視すると言う。
記者も、この答えを暴論とは感じてはいません。

0.8%の金利で、10年満期の債券を発行することは、本当は、向こ
う10年間の金利は0.8%と宣言するのと同じです。金利を0.8%と
見るから0.8%で発行する。国債を買う側に立てば、これが分かる
でしょう。0.8%の金利が妥当と思うから、国債を買う。

【異常に低い金利が、普通になっている】
現在、向こう10年間の金利見通しは、世界の誰も言わなくなってい
ます。それでいて、目下の金利は、とても低い。

逆茹(ゆ)で蛙のように、異常に低い金利に慣れてしまった。
(注)長い期間で見た歴史的な金利は、3%〜5%でした。

08年9月のリーマン危機以降、
・世界の金利が異常に低く(米国2.1%;ユーロ1.5%;日本0.8
〜0.9%)、
・中央銀行が合計700兆円(FRB300兆円+ECB300兆円+日銀100兆
円)のマネーを増発した上での、経済・金融が現在です。

08年以降、5年続いています。5年で、皆、正常な感覚がなくなって
いるようです。5年は長い。高校2年生が大学を出る期間です。これ
からも永遠の低金利が続くように、錯覚してしまうくらいの期間で
す。

2013年の株価の乱高下と、異常さがある金利の動き(変化割合は乱
高下)も、非常時の金融、つまり700兆円の量的緩和マネーの上で
のものです。

本稿では、
最初に、国債価格と金利の奇妙な動きを、
次は、これもまた異常に見える日米の、国債と金利の動きを、論じ
ます。そして、1日500円の幅で乱高下している株価です。

2015年ころに想定されるアベノミクス・バラドックスが、6ヶ月く
らい先の期待で動く株価と金利面で、まだわずかですが、生じてき
たのか、です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<658号 :アベノミクス・パラドックスが生じてきた(3)>
2013年6月12日号

【目次】

1.解釈に困る金利の上昇と、
国債価格の下落は、なぜ起こったのか?
2.黒田日銀で国債金利が上がり、国債価格が下がっている
3.なぜ、日銀が異次元の緩和に乗り出したあと、
普通とは逆に、金利が上がったのか
4.昨年比25%の円安から、夏からの輸入物価上昇は、確実
5.日銀は、長期金利の上昇を抑えることができるのか?
6.海外ヘッジ・ファンドと投資銀行の先物売りが起こると、問題
7.証券会社の、自己売買での売り超〔5月の5週〕

【後記】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

株価は、相変わらず、日々のニュースに反応して、2%から3%の大
きな幅(±500円)で、乱高下しています。この根底の理由は、日
米欧の経済が、08年以降、700兆円の中央銀行マネーの上にあるこ
とです。このため、FRBのバーナンキのちょっとした発言で、動揺
する。

いや、ヘッジ・ファンドの実際の、現物と先物の売買の動きは、小
さなニュースに大きく反応し、利益のため価格変化を拡大させてい
ます。

今週の金曜日は、日経平均225(株価指数先物)の、反対売買で清
算せねばならない限月(げんげつ:契約期限)です。3月、6月、9
月、12月の第二金曜日です。


03. 2013年6月14日 07:20:38 : e9xeV93vFQ
アングル:政府・日銀、急激な株安・円高は海外発と静観
2013年 06月 14日 00:56 JST
[東京 13日 ロイター] -  政府・日銀は、急激な株安・円高を表向き静観している。要因が米金融政策など海外にあり、対応手段に限界があるうえ、国内の実体経済は改善しているとみているためだ。

ただ13日は閣僚から努めて冷静を装う発言が相次ぐなか、昼過ぎには日銀の黒田東彦総裁と安倍首相の会談が開かれた。首相周辺には株安の一因を日銀に求める声も出ている。

日経平均株価.N225は13日、一時800円を超える下落となり、約2カ月ぶりに1万2500円を割り込んだ。この動きに対し、甘利明経済財政・再生相や山口俊一財務副大臣、菅義偉官房長官は相次いで金融市場の動向に「一喜一憂しない」と発言した。

官邸周辺でも「今の株価は企業収益を反映した水準でないため、一定の調整はある」と静観する声が聞かれる。「有効求人倍率の改善など実体経済は確実によくなってきている」(首相ブレーン)と強調する声もある。

一方、参院選が近づく中で株価が甘利経済財政相が目指すべき水準として言及した1万3000円の通称「甘利ライン」を突破したことで、政権内には神経をとがらせている向きもあるとみられる。黒田総裁と首相の昼食会談について日銀は「来週英国で開かれる主要国首脳会議(サミット)を控え、内外経済情勢の意見交換を目的に従来から予定されていた」と説明するが、そう受けとらない市場関係者もいる。

日銀幹部も株価急落が企業や家計の心理面に与える悪影響を懸念、市場動向をこれまで以上に注視しつつある。

現時点で政府・日銀内では世界的な株価下落などリスクオフの流れは、米国金融政策の出口議論の活発化や、米国の金融緩和の早期縮小に対する過度の懸念を発端とした海外要因との見方が主流。対応は難しく手段も限られているとの見方だ。

実際日銀は2年で2%の物価上昇率を実現するため、すべての政策手段を講じたとしており、黒田東彦総裁は、これまで投入してきた政策の効果を見守り、基本的なスタンスを維持する考えを変えていない。21日の金融政策決定会合でも市場で相当程度織り込まれていた長期金利の上昇抑制策である2年以上の固定金利オペ導入を見送った。

ただ、首相のブレーンの一人でもある中原伸之・元日銀審議委員は「日銀の政策見送りが世界的な株安の一つの引き金」と指摘。長期金利安定に向け、より積極的な姿勢を日銀が示さないと金融市場が脆弱になるとの見方を示している。

(竹本 能文 編集;石田仁志)


 

 

ドルが対円で下げ幅縮小、好調な米経済指標で=NY市場
2013年 06月 14日 06:55 JST
[ニューヨーク 13日 ロイター] 13日終盤のニューヨーク外為市場では、好調な米経済指標を手掛かりにドルが対円で下げ幅を縮小した。

ドル/円は海外市場で日経平均株価.N225の大幅下落をきっかけに売られ、一時93.78円と日銀が大胆な金融緩和策を打ち出した4月4日以来の安値を付けた。

しかしニューヨーク取引時間帯に入ると、この日発表された5月の米小売売上高と週間失業保険申請件数がいずれも市場予想を上回る好調ぶりを示したことから、ドルが下げ渋った。

終盤のドル/円は0.92%安の95.12円。ユーロ/円は0.72%安の127.16円。ユーロ/ドルは0.22%高の1.3365ドル。

米新規失業保険申請件数は減少、5年ぶり低水準に近づ


 

 

ESM責任者がIMF批判、「EUの協定踏みにじる」=独紙
2013年 06月 14日 06:29 JST
[ベルリン 13日 ロイター] - 欧州安定メカニズム(ESM)の責任者、クラウス・レグリング氏は13日、国際通貨基金(IMF)は欧州連合(EU)の安定・成長協定を踏みにじったとし、将来的にはユーロ圏の財政再建プログラムに関与するべきではないと述べた。

レグリング氏は、14日付独フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトング紙に掲載予定のインタビューで、「IMFは安定・成長協定を踏みにじっておきながら、成長(支援)に関わろうとしている。矛盾があるだけでなく、ユーロ圏のルールを理解していない」と厳しく批判した。

IMF・欧州中央銀行(ECB)・EUが支援対象国に派遣する調査団「トロイカ」について、最終的には解体される必要があるとの考えを示した。

支援プログラムで実績があることから、IMFは短・中期的にはプログラムに関わることが好ましいが、長期的にはユーロ圏諸国が自らプログラムの内容を決定する必要があると指摘した。

ギリシャ債務が追加再編される可能性はあるかとの質問には、追加支援に関する協議は、同国が一定の条件を満たしたうえで2014年半ば以降に行われる可能性があるとの見方を示した。


 

量的緩和の「縮小」観測で輝きを失う豪ドル
2013年06月14日(Fri) Financial Times
(2013年6月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


資源ブームもあって「強い通貨」だった豪ドルが変調を来たしている(写真はカラフルな豪ドル紙幣)〔AFPBB News〕

 伝説的なヘッジファンドマネジャーのスタンレー・ドラッケンミラー氏が1カ月前にニューヨークで開かれた投資家会議で、豪ドルは過大評価されており、今後「急落する」と述べた時、現地のトレーダーはその言葉を受け止めた。

 トレーダーたちは、ドラッケンミラー氏の発言は、ヘッジファンド業界がこぞって豪ドルを売る合図だと考えた。豪ドルはただでさえ、強さを取り戻した米ドルに対して弱含んでいたからだ。

 彼らの読みは正しかった。米商品先物取引委員会(CFTC)の直近のデータによると、豪ドルに対する売りポジションが過去最大に達し、豪ドルの先物契約は、想定残高58億6000万豪ドル(55億米ドル)相当の5万8600枚の売り越しとなった。

ヘッジファンドが空売りに動いた?

 これにより売り圧力が一段と増し、豪ドルは11日夜、0.9326米ドルまで下げ、ほぼ3年ぶりの安値をつけた。この日の下げで5月初め以降の下落幅は8.1%に達した。その間、豪ドルより大きく下げたのは、南アフリカ、スワジランド、ナミビア、ガンビアの通貨だけだ。

 豪ドルは世界的な超緩和型金融政策から最大の恩恵を受けた通貨の1つだった。金融危機以降、世界各国の金融緩和を受け、12兆豪ドル以上の流動性が市場に溢れかえった。

 オーストラリアの資源投資ブームが始まると、外国直接投資(FDI)が急増。また、トリプルA格付けのオーストラリア証券に対する記録的な海外需要もあって、豪ドルは2年前に1.10米ドルの史上最高値をつけた。

 だが、米連邦準備理事会(FRB)が巨大な資産購入プログラムの段階的縮小に近づくと、豪ドルの魅力が薄れ始めた。この事態を悪化させているのが、オーストラリア経済の先行きに対する懸念だ。資源ブームがピークに達したように見えるからだ。

 「当初の豪ドルの下落は米ドルの動きであり、米ドル上昇は(量的緩和)縮小が原因だった」。野村のストラテジスト、マーティン・ウェットン氏はこう話す。「次の段階の豪ドル安は間違いなく、中国の成長減速に対する懸念およびオーストラリアの見通し悪化と関係した動きだった」


シドニー中心部にあるオーストラリア準備銀行〔AFPBB News〕

 オーストラリア準備銀行(中央銀行、RBA)は経済のリバランスを図るために、主要政策金利を過去最低の2.75%に引き下げた。

 だが、鉱業以外の産業の需要が資源投資の減少が残すギャップを埋められる見込みがほとんどない中、追加利下げが行われ、場合によっては政策金利が2%まで引き下げられると予想する向きが多い。

不況知らずだった経済もついに景気後退入りか

 ゴールドマン・サックスのエコノミストらは今週、オーストラリア経済が来年景気後退に入る確率が20%あると述べた*1。

 同社はまた、FRBによる量的緩和の縮小、コモディティー(商品)価格の軟調なトレンド、オーストラリア資産に対する各国中央銀行と政府系ファンドの需要が一巡した兆しを引き合いに出し、12カ月後の豪ドル相場の予想も0.90米ドルから0.85米ドルに引き下げた。

 豪ドルに重くのしかかる要因は、ほかにもあった。FRBの次の動きを先読みしようとする投資家がもたらしたボラティリティー上昇は、キャリートレードの対象としての豪ドルの魅力を損ねた。

 キャリートレードは、投資家が低利の通貨で資金を借り入れ、高利の通貨に投資する取引のこと。ナショナル・オーストラリア銀行の為替戦略の共同責任者、レイ・アトリル氏は「ある取引で年間3%のリターンを得たいと思っているが、ボラティリティーの水準からすると、1日で1%損することもざらにある場合、キャリートレード通貨としての豪ドルの概念全体がほんの一撃で崩れ去る」と言う。

 前出のウェットン氏は、RBAの利下げに狼狽した日本人投資家もオーストラリア資産を売っており、「売却はかなりの規模で、過去6カ月間でざっと200億豪ドルに上る」と指摘する。

 もちろん、豪ドル安は全面的な悪材料ではない。特に、製造業や観光業など貿易に大きく左右される産業にとっては、悪い話ではない。エコノミストらによれ ば、影響がフルに出るのには2年かかるものの、為替レートが5%下がると、RBAの政策金利が0.25%低下するのと同じ効果があるという。

*1=資源国のオーストラリアは、資源ブームと中国の急成長のおかげで22年間景気後退を免れてきた

 「多くの意味で、オーストラリアが2014年に景気後退を避けられるかどうかという問題は、今後数カ月の豪ドルの動きと絡み合っている」とゴールドマンのエコノミスト、ティム・トゥーイー氏は言う。

 豪ドルが現在の0.946米ドル近辺で下値を見いだせると考える理由もある。「CFTCのデータは、逆の指標になることが多い」とアトリル氏。「弱気筋は皆、既に売りポジションを築いたため、それ以上の売り手は出てこない」

米国の利回りが上昇すれば、豪ドルは苦戦

 11日夜に豪ドルが0.9326米ドルの安値をつけた後に反騰した理由も、これで説明がつくとアトリル氏は言う。「弱気筋は踏み上げに弱く、我々はこれを一夜で目の当たりにした。豪ドルは1セント以上も上昇した」

 だが、これで大きな構図が変わるわけではないと同氏は警鐘を鳴らし、「米国の利回りが今後上昇するとすれば、豪ドルは苦戦することになる」と話している。

By Neil Hume

 


期待外れのブラジル経済:泥沼で立ち往生
2013年06月14日(Fri) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年6月8日号)

弱い成長が方向転換を余儀なくさせた。だが、政府が対策を講じる余地は以前より限られている。


ジルマ・ルセフ大統領はまだ高い支持率を誇っているが・・・〔AFPBB News〕

 低い期待に応えられないことがブラジル経済の習慣と化している。5月29日に発表された統計は、ブラジル経済の今年第1四半期の成長率がわずか0.6%(年率換算で2.4%)にとどまり、アナリストの回復予想を大きく下回ったことを示していた。

 何年も黒字が続いた貿易収支は、赤字に転じている。プライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)の黒字が縮小する一方、政府債務は増加している。

 中国が減速し、ユーロ圏が低迷する中で、他の新興国も成長予想を下方修正しているが、ブラジルの苦悩は大半の国よりも早く始まり、また、その原因は国内にあるようだ。

 低成長にもかかわらず、6.5%に迫るインフレ率は、主な問題が弱い外需ではなく、むしろ国内の硬直性にあることを示唆している。

 ジルマ・ルセフ氏は2011年に大統領に就任した後、公共支出を増やし、最低賃金を引き上げると同時に国営銀行に融資拡大を強いることで成長を促そうとした。刺激策の結果として物価が上昇すると、今度は金利の引き上げではなく、売上税の減税と、食料品、ガソリン、バス運賃など物価指数に大きな影響を及ぼす品目の価格統制によってインフレに対処した。

国民の懐を直撃し始めた低成長

 経済はそれを評価しなかったものの、有権者は最近まで好意的な反応を示していた。3月に実施された世論調査では、ルセフ氏は79%という記録破りの支持率を獲得。これでルセフ氏は来年の大統領選挙に勝つ大本命になり、経済調整を2期目まで先送りできるようになった。

 ところが今、成長の停滞がブラジル国民の懐を直撃している。賃上げに次ぐ賃上げを経て、今年の賃金協定はインフレ率を辛うじて上回る程度にとどまった。既に多額の債務を背負い込んでいる家計は、支出を抑制している。消費者マインドは冷え込んでおり、物価上昇を最大の経済的な心配事に挙げる人が増えている。

 経済統計と国民感情の急激な悪化が政府を行動に追い込んだようだ。ブラジル中央銀行は、弱い国内総生産(GDP)統計にもかかわらず基準金利を7.5%から8%に引き上げ、市場を驚かせた。これにより、ブラジルは経済大国の中で唯一、金融政策を引き締めている国となった。

 中銀総裁のアレクサンドル・トンビニ氏は、利上げはルセフ氏の「全面的な支持」を得ていると述べた。これは、大統領がインフレ率が上昇していたのに金利を引き下げようとして大きく傷つけた、インフレと戦う機関としての中銀の信頼回復にいくらか役立った。

 ブラジル中銀はインフレ率を4.5%の目標に近づけるために、再び金利を引き上げざるを得ないだろう。政府は6月4日、外貨の流入を促し、レアル安(これが輸入品価格を高くすることでインフレを煽った)の動きを遅らせるため、外国人投資家の債券購入に対する課税を撤廃した。

 昨年、会計操作によってプライマリーバランスの黒字目標を達成した財務省は、清廉潔白さを取り戻した兆候があるかどうか徹底的に調べられるだろう。財政収支の操作に反対したと伝えられている財務省上級官僚のネルソン・バルボサ氏の退任は、多くのアナリストを憂慮させている。

投資ブームを生み出せるか?

 最も強く待ち望まれるのは、消費拡大を図ることをやめ、その代わり現在GDP比18.4%にとどまる投資を後押しするという政府の約束が本気だということを示す証拠だ。投資は第1四半期に上向いたが、それは主に、排出規制の厳格化によって昨年落ち込んだ重量物運搬車の販売が回復したことによるところが大きい。

 ルセフ氏は企業に対して投資を増やすよう強く働きかけた。だが、政府自身の行動が、企業がルセフ氏の要請を聞き入れない理由の1つになっている。インフレ昂進のペースを鈍らせるためのガソリン価格抑制により、国営石油大手ペトロブラスのバランスシートが悪化し、ガソリンと直接競合するサトウキビ系エタノール産業も大混乱に陥った。

 新たな鉱業法の導入の遅れと石油開発のロイヤルティの分配方法を巡る論争によって、両産業では探査・開発が中断している。

 ブラジル政府は昨年8月、2013年初頭に道路と鉄道の建設・運営権を民間事業者に付与する入札を開始すると発表した。だが、魅力的なリターンを認めたがらない政府の態度が投資家の意欲を損ね、入札は遅れた。電力、銀行業界に対する要領を得ない干渉は、高圧的なアンチ企業政権のイメージを完全に作り上げた。

 投資ブームを巧妙に仕組むということは、そうした行き詰まりの少なくとも一部を打破することを意味する。先月成功に終わった掘削権入札と10月にリオデジャネイロ沖の新たな巨大油田を売却する計画は、石油業界への投資が近く上向くとの期待を抱かせた。

 また、政府はここ数週間で、道路と鉄道の利権に入札者を惹きつけるためには、より旨みのあるリターンを提示する必要があることを認めるようになった。一連の資産・権利売却が成功すれば、企業の信頼感と民間投資を高めることに大いに役立つだろう。さらには、成長を上向かせるためにブラジルの古臭いインフラが必要としているグレードアップも後押しするはずだ。

舵取りが難しくなる政治

 だが、折しも経済的な対策を講じる余地が狭まっているタイミングで、政治情勢は舵取りが難しくなっている。連立与党が議会の80%を支配しているとはいえ、与党議員には共産主義者から福音主義キリスト教徒、そして節操のない権力欲の塊まで、あらゆる人が混在している。

 元官僚で、大統領就任まで公選職の経験がなかったルセフ氏は、いわゆる「味方」をおだてて自身の計画への支持を得るために必要な往復外交に不向きなことが明らかになった。無愛想でせっかちな同氏は、ほとんど議員と話をしない。議員らはルセフ氏が送り込んでくる代理人のことを、傲慢で時に無能と見なしている。

 先月、好戦的な議会はもう少しで、非常に必要性の高い新法案の成立を阻止するところだった。ブラジルの古くて混雑した港の競争力を高め、民間投資を呼び込む新法の成立には、結局、下院における夜通しの議論、上院でのごり押し、そして10億レアル(5億ドル)に上る予算のばらまきの約束が必要になった。

 ルセフ氏にとって最大の連立相手であるブラジル民主運動党は今、来年行われる一部の州の選挙戦で、大統領選の対抗馬になると見られるエデュアルド・カンポス氏の政党を支持し、その他の州で独自候補者を擁立する可能性を示唆している。恐らくこれは単なる交渉の策略だろう。だが、これは、ルセフ氏が自身のインフラ構想を実現するために大きな代償を払わざるを得ないことを示唆している。


 


 

2013/06/10 6:03 pm
「1ドル93円の円高も」高島氏、「米経済復活でドル高」吉崎氏─WSJカフェ

円安はいつどこまで続くのか──。シティグループ証券外国為替本部チーフFXストラテジストの高島修氏は昨年秋からの円安トレンドの調整局面として「1ドル93円までの円高もあり得る」と予想する一方、双日総合研究所副所長の吉崎達彦氏は「今年は米国経済復活の年」と位置づけ、年末までに1ドル100─110円までのドル高円安が進むとの見通しを示した。


Kumiko Harada/The Wall Street Journal
シティグループ証券外国為替本部チーフFXストラテジストの高島修氏
高島、吉崎両氏は、ウォール・ストリート・ジャーナルが7日に東京都港区のアークヒルズカフェで開いたトークセッション「WSJカフェ東京」で、為替相場の見通しをめぐって、日米経済の今後の行方から米中2強時代という地政学リスクが円に与える影響まで、幅の広い議論を展開した。

高島氏は、ドルが対円でいったん天井を付けて上昇しなくなると、10円ほど下落する傾向があると指摘、今回の円安局面でのドルの高値が103円台になっているため、93円までの円高方向への調整がいったんあり得ると話した。

高島氏は、この日会場に詰めかけたほぼすべての聴衆が今後の円安を予想して挙手したことについて、「これこそがヤバイ相場」と言い、「みんなが上がると思っていたら下がる。みんなが下がると思っていたら上がる。円安が半年以上続いて、円安が当然だとみんな思っている。しかし、肝心要のアメリカの金利環境はほとんど変化していない」と指摘した。そして、年末までのドル円相場は95─100円をコアレンジとし、93円から103円の範囲で推移すると予想した。

一方、吉崎氏は昨年秋からアベノミクス効果によって円高が修正され、1ドル90円台半ばまで円安が進んだと指摘、それ以降の100円を超えていく円安局面は米経済の回復期待から生じた、と述べた。

吉崎氏は「日本経済の今の実力から言えば1ドル90円台が妥当な水準」と分析、「それよりも若干円安になるのは、今年はアメリカ経済が本格的に再生を始めるきっかけになる年と思っているためだ。2013年のアメリカは強い」と述べ、今年後半はドル高円安が進むとの見通しを示した。


Kumiko Harada/The Wall Street Journal
双日総合研究所副所長の吉崎達彦氏
吉崎氏は、米経済の復活を示す一例としてシェールガス革命を挙げた。これまで困難であったシェール層からの石油や天然ガスの採掘を可能にした、このエネルギー革命について、吉崎氏は「頭の良い人と言うより、ガッツのある人がやり遂げたアメリカンサクセスストーリー」とたたえ、それが政府主導ではなく、民間活力でもたらされた点を指摘した。

このほか、高島氏は、米ソ冷戦時代が終わり、崩壊したソ連に代わるターゲットとして米国が日本つぶしのドル安円高圧力をかけてきた1990年代前半と違って、米国は現在、円安を黙認していると述べた。

高島氏は、地政学的な環境が「1990年代前半と今は180度違う、逆転現象になっている」と指摘、それが「10年後、20年後に2013年という年を振り返ってみると、地政学的な環境変化が(為替相場を左右する)1つの大きな要因だったな、と認識されると思う」と述べた。

吉崎氏も「為替相場は経済と安全保障の掛け算で決まっている」と述べ、米中関係を注視していると述べた。国家主席就任から約3カ月という異例の早さで訪米した中国の習近平体制とオバマ米政権による米中関係について、「不思議なことがいっぱいある」と話し、今後も為替相場の大きな材料になっていく可能性があると指摘した。

記者: 後藤 浩祐

(後藤記者をツイッターでフォロー: @KOSUKEGOTO2013 )


013/06/08 10:09 am
安倍政権が長続きする理由

日本政治を専門とするコロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は、これまで何人もの歴代首相が1年と持たず、さしたる実績を残せずに政権を下りたのに対し、安倍晋三首相の率いる政権は数年続くと予想している。だが、日本経済の生き残りをかけた大胆な改革を実行できるかといえば、その可能性は低いとみている。

足元の金融市場に動揺が見られるにもかかわらず、安倍首相が党首の自民党は来月の参院選で勝利すると同教授は予想する。だが、それは首相の政策の効果や政治力が評価されているわけではなく、ほかに期待できそうな指導者がいない日本の暗澹(あんたん)たる政治状況を反映していると指摘した。

ウォール・ストリート・ジャーナルが6日に東京都港区のアークヒルズカフェで開いたトークセッション「WSJカフェ東京」で同教授は「安倍首相の人気が高いのは国民がその力量を認めているからでなく、今後みんなが世の中が良くなると信じたがっているためだと思う。アベノミクスが実際に効果を発揮するよう祈るような思いで見ているということだ」と述べた。


Agence France-Presse/Getty Images
安倍首相
一連の景気刺激策を提案するアベノミクスによってこの4カ月間株価は上昇が続いてきたが、最近になって疑問が生じ始め、足元の金融市場は揺れ動いている。株価は急落し、円は下落幅が縮小した。5日には安倍首相の成長戦略が発表されたが、カーティス教授は期待外れの内容だったとみている。首相が強調した医薬品のオンライン販売に関する規制緩和についても、「インターネットで痛み止めを販売できるようにしたところで、日本経済がそれほど恩恵を受けるわけではない」と述べた。

カーティス教授は「この4カ月は、アベノミクスをめぐって市場は一種の根拠なき熱狂状態にあると思っていた。これからは逆に過剰な失望感が広がることになるかもしれない」と述べたが、それでも安倍政権はしばらく揺らぐことはないだろうとみている。その結果、この数年の日本には見られなかった一種の安定状況がおとずれると言う。

「私がみてきたこの44年間のなかで、野党勢力がここまで弱体化しているのは初めてだ。また、今ほど自民党に指導者が不足しているのは見たことがない」と指摘、「安倍首相を追い出したとしても、それに代わる指導者がいるだろうか?国民に期待を抱かせるような政治家がいるだろうか?応えは『ノー』だ」と述べた。

また、野党の今後の見通しについても厳しい目を向けている。12月の衆議院選挙で政権の座を失った民主党は「参院選後は消え去るか、解散するだろう」と予想、一時は高い人気を得ていた日本維新の会についても、党首の橋下徹氏が従軍慰安婦発言でアジアの近隣諸国の怒りを買い、「政治的な自殺行為」をしたことで将来の希望はそれほどないだろうと述べた。

記者: Yuka Hayashi

原文(英語):Why Abe Has Staying Power
http://blogs.wsj.com/japanrealtime/2013/06/07/why-abe-has-staying-power/

関連記事:
安倍首相の第3の矢、参院選後に国民は失望へ=コロンビア大教授
http://bitly.com/104UyiD

日本は尖閣問題を「棚上げ」するのが得策だろう=コロンビア大教授
http://bitly.com/13BGzz9

ジェラルド・カーティス, WSJカフェ東京, 安倍晋三


04. 2013年6月14日 15:53:00 : e9xeV93vFQ
2013年 6月 14日 08:44 JST
アベノミクス効果めぐる議論が激化―市場の波乱受け
記事 
By YUKA HAYASHI

 【東京】日本の金融市場が大きく動揺する中、安倍晋三首相の経済成長政策「アベノミクス」の効果をめぐる議論が激化している。

 アベノミクスによって数カ月前から日本経済に対する楽観論が高まっていたが、ここ3週間は株式・為替市場が乱高下し、一連の経済政策のおかげとされていた相場が大きく崩れた。これを受けて、エコノミストや市場参加者は瀕死の日本経済を活性化するための安倍首相の大胆な取り組みの効果について白熱した議論を交わしている。

http://si.wsj.net/public/resources/images/WO-AO165B_ABENO_G_20130613184509.jpg
Reuters
安倍政権は14日、成長戦略と「骨太方針」を閣議決定する

関連記事

安倍首相の第3の矢、参院選後に国民は失望へ=コロンビア大教授
【オピニオン】安倍首相の手当たり次第の改革
【社説】何本もの矢を射る安倍首相─改革案は曖昧で期待外れ
【オピニオン】日本にはより大胆なアベノミクスが必要
 アベノミクスの支持者は、政策の効果が実体経済に浸透しつつあり、一部指標にこれが表れ始めていると主張する。一方、アベノミクスの最重要要素と広く見られていた新成長戦略が、日本経済を根本的に立て直すために必要な踏み込んだ措置に欠けていたために、これまで発表された金融・財政措置によって高まった不当な楽観論が後退したと主張する向きもある。

 13日の東京市場では株価が急落した。これを受けて、法政大学の小黒一正・経済学准教授はツイッターで「アベノミクス幻想の終焉かな」とつぶやいた。同氏はその後のインタビューで、アベノミクスに対する期待は大きかったが、実際に経済を再生するのはそれほど容易ではないということが分かってきたのだろうと述べた。

 長年にわたって日本政治を追っている米コロンビア大学政治学教授のジェラルド・カーティス氏は、「ここ4カ月、アベノミクスに対してある種の根拠なき熱狂があったと考えていた。今後は過度な失望感を呼ぶ可能性がある」と警鐘を鳴らした。

 こうした見方に異議を唱える者もいる。

 大和キャピタル・マーケッツヨーロッパの調査部門責任者、グラント・ルイス氏は、「アベノミクスは有効で、今後も効果を発揮し続ける」と主張する。市場が数日か数週間波乱含みの展開になったからといって、アベノミクスが失敗に終わるという予兆ではないというのが同氏の考えだ。

 同氏はこの根拠として、日本経済が1-3月期(第1四半期)に年率4.1%拡大し、他のG7諸国を上回る成長率を記録したことを挙げた。また、消費者や企業の信頼感の回復に加えて、求人倍率がおよそ5年ぶりの水準に上昇するなど、雇用市場にも改善が見られると述べた。

 甘利明経済再生担当相も、ほぼ全ての経済指標が上向いているとの発言をしている。

 一方、アベノミクスの結果を判断するのは時期尚早とする声もある。足元の相場下落はどちらかと言えば米国における金融緩和縮小の見通しを受けた世界市場のセンチメントの変化を反映しており、アベノミクスや日本国内の景気による影響はほとんどないというのが論拠だ。

画像を拡大する

日米欧のGDPの前期比年率成長率

 こうした議論は、13日の東京市場で日経平均株価が6.4%下落するとともに、ドル円相場が93.90と2カ月ぶりの円高水準をつけたことで特に激化した。相場は最新の金融緩和が打ち出される前の水準に戻っており、株価は5月23日につけたピークから20%下落している。

 アベノミクスの効果をめぐるエコノミストの意見は分かれているが、安倍首相にとって厄介な時期に市場の波乱が起きているという点では一致しているようだ。

 安倍首相は今週末、主要8カ国(G8)首脳会議に合わせてロンドンを訪問し、一連の政策が日本経済の20年続いたデフレからの脱却と成長促進につながると説明しなければならない。また、安倍政権の行方を左右する7月21日の参議院選挙に向けて株価を高水準にとどめることも重要だ。

 安倍政権は14日、金融緩和と財政出動というアベノミクスの第1・第2の矢に続いて、第3の矢とされる長期成長戦略を承認する予定だ。成長戦略には規制緩和や税制優遇など今後10年間の経済成長率を2%に上昇させるための様々な政策が含まれている。

 第3の矢に対する失望感が市場センチメントの悪化を招いたとみるエコノミストもいる。法人税率の引き下げや企業の再建を後押しする雇用関連の規制緩和など、市場や企業が望んでいた政策が含まれていなかったことが要因だという。

 経済政策が3回にわたって小出しに発表されたのも、政府が長期的な経済成長に向けた戦略を打ち出しているのではなく、単に市場環境の悪化に対応しているだけという見方につながり、効果を薄めた。 

 第3の矢の発表も市場の混乱収束には至らず、政府は秋の臨時国会で追加の成長戦略をまとめる方針を明らかにした。これに対して、第一生命経済研究所の藤代宏一氏は、あらゆる措置を詰め込んだ成長戦略よりも、いくつか強力な措置を含む単純な政策が必要という見方を示した。

 


焦点:米FRBは今度こそ本気、債券投資家は買い入れ縮小を確信
2013年 06月 14日 14:14 JST
[ニューヨーク 13日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は今度こそ本気。

これが米国債投資家の見方だ。FRBが近く総額2兆5000億ドル・4年半の債券買い入れプログラムを縮小すると信じており、米国債市場の動揺を招いている。

米国債市場の取引はここ数日間、振れが非常に大きく、トレーダーが流動的な市場に対応しようとするなか、ボラティリティが高い状態は今後も続く可能性がある。

指標の10年物米国債利回りは、5月始めは1.60%だったが、この6週間の間に2.19%まで急上昇した。

その結果、債券ファンドからは急激な資金流出が起き、米国債入札でも需要の低さが目立っている。こうした資金流出やボラティリティの高さは、FRBが実際に金融緩和策の縮小に動いたとき、どのような事態が起きるのかを垣間見せてくれる。

世界最大の債券ファンドを運用するパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)で、米国債・デリバティブ取引を担当するスティーブ・ロドスキー氏は「さまざまな市場の取引高や動きを見ると、金融緩和から緩和縮小、そして引き締めへと至る道のりは平坦でないことが分かる」との見方を示した。

一方、国債市場の今後のボラティリティ予想も大幅に上昇している。長期債利回りの将来のボラティリティ予想を反映するメリルリンチMOVE指数.MERMOVE1Mは、週明けの10日には84.7となり、およそ1年ぶりとなる高水準を記録した。

FRBに逆らうことは、これまで長らく、悪い戦略と見なされてきた。しかし今や、4年間に及んだ大規模な金融緩和のあと、多くの投資家は、FRBが市場の動きを主導しなくなった時どのように行動すればよいのか、分からなくなっている。

利回り上昇に伴い、投資家は債券ファンドから資金を引き揚げている。インベストメント・カンパニー・インスティテュート(ICI)のデータによると、6月5日までの1週間には、109億3000万ドルが債券ファンドから流出、週間ベースとしては、2008年10月15日以来で最大規模の流出となった。ICIによると、債券ファンドへの資金流出入状況は、これまでは21カ月連続で流入となっていた。

クレディスイスの米金利取引責任者、ゲング・フー氏は「市場にはもはや異なる見方はない。少数の非常に大きなプレーヤーがおり、その全員がFRBに追随している。つまり、FRBが緩和を縮小すれば皆が同時に手を引くことになる」と述べた。

さらに大手ディーラー銀行は規制が足かせとなり、大規模な債券売りを吸収することが難しいかもしれない。金融機関がとるリスク低減を意図した新ルールでは、銀行のバランスシートが縮小することを意味し、価格のボラティリティの上昇につながる可能性がある。今週の3年・10年・30年物米国債入札はいずれも不調だった。

<転換点>

米国では現在、インフレ率はFRBがターゲットとしている2.0%を下回っており、失業率もターゲットである6.5%を上回っている状況。こうしたなか、FRBがすぐに債券買い入れプログラムを縮小するとは、皆が考えているわけではない。

UBSの世界金利戦略責任者、マイケル・シューマッハー氏は「市場は債券買い入れ縮小がごく近いとの考えにとりつかれているようだ。それは完全な誤解であり、早期に縮小が実施される可能性は、極めて低いと言えるだろう」との見方を示した。

ただし、市場が今や転換点に近づいているというのは、多くの一致した見方だ。つまり、金融緩和プログラムを受けて経済成長がしっかりと軌道に乗り、FRBのバランスシート拡大をやめることができる状態になったのか、もしくは、一段の金融緩和のメリットよりも、資産バブルのリスクや市場をゆがめるリスクのほうが大きいのか──転換点とは、現状がこのうちどちらの状態なのか、クリアになるということだ。

TCWの債券担当最高投資責任者(CIO)であるタッド・リベル氏は「QE(量的緩和)があと12─18カ月続いた場合には、金利は上昇するだろう」と指摘。「QEには大きな力があるが、その力はFRBが厳格に管理・誘導できるものではない。過剰流動性が最終的にどこに行くのかを決定することはできない。そうした流動性は新興市場、住宅市場、株式市場に向かうかもしれない」との見方を示した。

FRBが市場から手を引くことに伴う悪影響は、これまでにもQEプログラムの間に、現れることがあった。しかし、景気が悪化してFRBがすぐに措置を講じたため、そうした悪影響は一時的なものだった。ただ投資家は今回、FRBがバランシシート拡大をやめても、景気はそのショックに耐えうる状態にある、と考えている。

ロード・アベット&Coの債券ストラテジストであるゼーン・ブラウン氏は、金利がより正常な水準に戻れば、バークレイズUSアグリゲート債券指数をベンチマークとする投資家は向こう5年間、トータルリターンがゼロになる、と指摘する。

「5月は、投資家がついに、債券投資で損失を出したという点で、特筆すべき月だ。5月は、向こう数年間の状況を示す縮図ととらえることができる」としている。

FRBの買い入れが長引けば長引くほど、トレーダーにとっては、FRB不在の市場に慣れることが難しくなるだろう。前述のクレディ・スイスのフー氏は「FRBはなんとかして市場から手を引き、市場が自律的に機能できるようにしなければならない。自然な需給で相場が動くようにしなければならない」との見方を示している。

(Karen Brettell記者;翻訳 吉川彩;編集 田中志保)


 

 


スペイン・ギリシャから欧州北部への移民が急増=OECD報告書
2013年 06月 14日 15:02 JST
[ブリュッセル 13日 ロイター] - 経済協力開発機構(OECD)は13日、移民に関する年次報告書の中で、欧州北部に移住するギリシャ人とスペイン人が増加していることを明らかにした。

失業率の上昇と緊縮財政により、生活水準が低下していることが背景という。

2011─12年にドイツに移住したギリシャ人は3万4000人で70%超の増加、スペインとポルトガルからの移民は50%増だった。

グリア事務局長は、危機に見舞われている諸国から移民する熟練労働者が増えており、景気回復に影響している可能性があると指摘。「長期的な影響をはらむ頭脳流出だ」と述べた。

欧州債務危機によるリセッション(景気後退)が続く中で、スペインとギリシャでは若年層の半分以上が仕事に就いておらず、失業率は欧州連合(EU)内で最高水準となっている。

OECDは、債務危機前にはEU域内の国民は外国への移住よりも母国にとどまることを選択しており、07─2010年の移民は40%減少していたが、そのトレンドが変わり始めていると指摘した。

 


焦点:法人税逃れ問題、欧州各国の対応に急速な前進は望めず
2013年 06月 14日 15:13 JST
[ブリュッセル/ロンドン 13日 ロイター] - 欧州各国の首脳は法人税逃れの問題に厳しい姿勢で臨むと発言しているが、彼らは景気が低迷する中で大企業との関係が悪化する事態を恐れて、対応はわずかな前進にとどまる見通しだ。

スターバックス(SBUX.O)やアップル(AAPL.O)、アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)などの大企業が相次いで既存の法律下で法人税を最小限に抑える手法を使ったことで、キャメロン英首相は、6月17・18日開かれる主要国(G8)首脳会合でこの問題を議題とする方針を示した。経済協力開発機構(OECD)もこの問題に対処する枠組みを来月に打ち出す予定で、20カ国・地域(G20)でも協議されることになる。

議員や当局者は、法人税逃れの問題への対応がゆっくりとしたペースでしか進まないと予想している。ルクセンブルグやアイルランドなどの小国は、外国からの投資を呼び込んでいる低税率の税制を変更することに強く抵抗している一方、英国とドイツは大企業が逃げ出すことを心配しており、欧州内でも意見が割れている。

額面通りに受け取れば、世界的な政治の方向性は明らかだ。OECD租税政策・財務行政センターのディレクター、パスカル・サンアマン氏は今週、英上院で「合法ではあるものの好ましくない慣行がある場合、法律を改正する必要がある」と述べた。

また最近、政治サイドが対応に動くと約束していることは、欧州連合(EU)欧州委員会で長年、この問題を周知させるのに苦労してきたシュメタ委員(税制・関税同盟・会計検査・不正対策担当)にとっては歓迎すべき動きといえる。

シュメタ委員は「わたしは、あらゆる角度から法人税逃れ問題に対処する手法を計画してきた。加盟国はこれに最後まで従う必要がある。これは国家の税制の抜け穴を埋めるほか、税法の悪用防止条項を一段と厳格化し、透明性を向上させ、租税回避地を厳しく取り締まるという話だ」と説明した。

もっともシュメタ委員の取り組みはこれまでのところ限定的な成功にとどまっており、この問題で前進することの難しさが示されている。同委員が打ち出した、免税額を算出する標準手法を含めた「共通連結法人税課税標準(CCCTB)」はほとんど進展が見られない。アイルランドなどはCCCTBが単一のEU税率に結び付く事態を懸念している。

<大きな抵抗>

欧州議会は、法人税逃れ問題対策の公約化には懐疑的であり、ドイツや英国が税制改革に真剣かどうか疑問視している。

欧州議会の経済・金融問題委員会のボウルズ委員長(英自由民主党)は、銀行が義務付けられているように企業が国別に活動の詳細を公表すべきだと考えている。

こうした改革は、欧州委のバルニエ委員(域内市場・サービス担当)や英野党の労働党も支持している。バルニエ委員は、それぞれの国に税金をいくら支払ったかの開示を企業に義務付けることで、企業が体面を気にしてさらに税金を支払うようになると期待している。バルニエ委員は「アップル、グーグル、アマゾンなど最近報道された企業を含む大企業は、税金をいくら、誰に支払ったかの開示を義務付けられるべきだ。これは法人税逃れへの対処で重要な一歩だ」と述べた。

だがボウルズ委員長は「国別に報告を義務付ける取り組みに対しては、大きな抵抗に直面している」と述べ、改革に反対している国としてドイツ、ルクセンブルグ、英国を挙げた。

国際的な合意がなければ、税制が異なる国の間で企業は最も有利な国を選ぶことができる。PwCで税制政策部門を率いるメアリー・モンフライズ氏は「国際的な合意に達することが重要だ。そうでなければ、各国が個別に対応するよう迫られるが、それは好ましい結果とはならないだろう」と述べた。

同氏によると、G8とOECD、G20の会合をにらんで期待が非常に膨らむ中で、実際に生じ得るのは、達成可能度とそのスピードをめぐる相応の失望になるという。

英政府の法人税逃れ問題への取り組みの決意に疑問が突き付けられたのは、4月に英国とフランス、ドイツの財務相が銀行の透明性向上への取り組みを発表するため、ダブリンで会談した際のことだった。翌朝、さらに深い議論をEU各国の財務相が開始した際、オズボーン財務相は既に会場から姿を消し、代わって副大臣が参加したのだ。

英政府は、最低6%の実効税率も認めるほか、外国子会社に対する免税措置を提供するなど、法人税を引き下げる方針で、法人税逃れへの対応で税制改革を唱える人々は英国に批判的になっている。

一方でルクセンブルクは改革の進展を注視している。同国のフリーデン財務相は、公正さの観点から税制の見直しを支持すると表明しながらも、「われわれは世界経済が機能し続けることを確認するとともに、企業が特定の業務をどの国で行うかを選ぶことを認めなければならず、成長を促進するために税金面での競争が必要だ」と主張した。

同相は「今後起こるのは、漸進的な変化であり、恐らくは既存の諸規則を厳格化して運用する動きだ。大幅な改正が行われるとは思わない」としている。

G8首脳会合に続いて、来週にはルクセンブルグでEU財務相会合が開かれる。だが法人税逃れ問題は焦点から外れると当局者は予想している。

ある当局者は「貧しい納税者を犠牲にして多国籍企業が巨額の資金を持ち逃げしている問題は、今回は議題とはならないだろう。各国の大臣は結果を出せる分野に焦点を当てる意向であり、(法人税逃れ問題は)その1つではない」と話した。

(John O'Donnell、Huw Jones記者)


 


コラム:非論理的な政策の「実効性」=カレツキー氏
2013年 06月 14日 14:09 JST
アナトール・カレツキー

[13日 ロイター]  それは皮肉に満ち、市場誘導的で、偽善的だが、それでも効果があるように見える──。あなたが政府の対策や経済政策を描写する上で、こうした言い回しをどれぐらい頻繁に耳にしたかはわからないが、まだ十分ではない。

メディアや、そして驚くべきことに企業経営者、金融関係者、経済分析に携わる人々の多くが、誠実性に欠け、理論上の矛盾があったり、明らかに自己の利益を図る動機に基づくような政策はその特性ゆえに失敗する運命をたどるか、公共の利益を損なうと信じているように思われる。しかしこうした見方が真実でないのは明白だ。実際には、公共政策の効果とそれが最終的にどれだけ望ましいかは、動機でなく結果で判断される。

そこで当コラムの本題にたどりつく。つまり、世界経済の見通しは改善していて、なぜ多くのエコノミストや金融関係者はそれを認められないのかという問題だ。まずは、3月に当コラムがまさに予想した通りになった事例があるので説明しよう。それは、英政府が2015年3月の総選挙向けに狙った住宅価格の上昇と、借り入れに基づく消費が実際に起きるという見立てだった。

オズボーン財務相は3月20日の予算発表で、選挙対策の目玉となる住宅支援政策を打ち出した。住宅ローンの一定額に政府が保証を付与することなどで家計債務を13000億ポンドまで拡大させようというものだった。

財務相は全体的な経済運営の基礎を財政赤字と債務の削減に置き、予算演説では冒頭にキャメロン政権の「さらなる借金で借金を賄うことはできない」という常套句さえも盛り込んだ。それゆえに、英国の消費者に借金の拡大を促すのは論理が一貫せず、どう見ても偽善的とみなされた。また財務相が住宅ローンを借りるよう誘いを向けても、国民は選挙目当ての「餌」には食いつかないので、政策は失敗に終わるだろうとされた。

それから3カ月が経過し、こうした道徳を論じる伝統的行為が完全に間違っていたことが判明した。この支援制度が完全に始動するのは来年からだが、英国の住宅市場はもう息を吹き返したのだ。

不動産業者が今週公表した月例調査では、売上高の期待の大きさは05年以来で、過去15年の調査期間の中でも三番目だった。住宅建設関連株は高騰し、スコットランドなど住宅市況が低迷していた地域でも価格上昇率が07年以降で初めて2桁に達した。そしてバブル崩壊でも打撃を受けないロンドンの高級住宅街では、この支援策をどうやってバカンス用の別荘や投資向け不動産、子息のマンションなどの購入に活用するかが夕食時の話題になっている。

要するに15年の総選挙に合わせて住宅市場の借り入れの活況を作り出そうという財務相の見え見えの政治的な計画は、財務省やイングランド銀行(英中央銀行、BOE)の本格的な信用供与が始まる前に、既に効果を発揮しつつあるようだ。

足元の流れが続くと想定すれば、そしてそれが続くと信じるに足る理由しか存在しないが、新たな借り入れ資金の大部分が消費に向かって経済成長は加速し、失業率が低下、英国は選挙の時期までにかなり良好な経済状態を享受することになる。こうした好景気がキャメロン首相の再選につながれば、政権交代を望んでいた人々には悪い知らせをもたらす。また英国内では、住宅ブームによって多くのエコノミストが勧めるような輸出・投資主導への経済構造の転換が進まず、不動産投機と消費への依存に回帰してしまうのではないかとの懸念が生まれるだろう。

しかし住宅ブームが、キャメロン政権にとって政治的に当を得た方法であるかどうか、またそれが英経済の長期的な構造上プラスかマイナスかといった問題は、それが実際に起きるかどうかとは何の関係もない。必ず実現するはずの出来事と、起こる可能性が大きな出来事を峻別することを、エコノミストや金融関係者は驚くほどにためらう傾向がある。

同様に道徳面と分析上の判断の混同も、経済や金融の分野では世界中で見受けられる。ウォール街の多くの投資家は、株価は金融政策を通じた市場操作でつり上げられているので、上昇は続かないと信じている。彼らは市場操作を無責任、もしくは非道徳的とみなしているのだ。だが、そうした操作にもかかわらず、あるいは操作のおかげで強気相場は継続している。

ドイツでは政治アナリストの多くが、メルケル首相はユーロ支援を続けることは不可能だと論じている。なぜならそれは国内の有権者と、他の欧州諸国の政治指導者や金融市場に対してそれぞれ異なる発言をすることを意味するからだ。それでもこの偽善性にもかかわらず、あるいは偽善性のおかげでユーロは生き長らえている。

日本の安倍政権は物価上昇率を2%に引き上げる方針だが、長期金利が1%を超えるのを阻止しようとしている。これは皮肉なことに、貯蓄をしている人々に合理的な投資戦略を放棄するよう説得しない限り達成できない。ところがこの皮肉があっても、あるいは皮肉のおかげで日本経済が持ち直しているのは誰の目にも明らかだ。

話をまとめると、政府や中央銀行の政策に矛盾があったり多くの点で自己の利益を図る目的があるように見えても、経済状況は世界各地で徐々に改善しつつある。ただ、それは人間の行為がたどる当然の普通の道筋だ。世界経済が5年にわたる不振から抜け出し、無制限の紙幣増刷や政府による未曾有の借金に反応して次第に正常な状態に復するのに伴って、今回の当コラムが冒頭に記した言い回しを繰り返す価値が出てくるだろう。

皮肉に満ち、市場誘導的で、偽善的だが、それでも効果があるように見える、という表現だ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

 


 

 


コラム:アジアに忍び寄る「デフレ病」、重症化の恐れも
2013年 06月 13日 19:37 JST
By Andy Mukherjee

デフレの影がアジアに忍び寄っている。生産者物価指数(PPI)がアジア全体で低調であり、第1・四半期の国内総生産(GDP)の伸び率が前年比7.8%だったフィリピンでさえ、4月のPPIは前年同期比でマイナス8.5%だった。コモディティ価格の下落も原因の1つだが、主な要因は米国からの需要低迷だろう。

世界的な緩和マネーに後押しされ、バンコクやジャカルタ、シンガポール、香港では不動産価格がバブル的に上昇するなど、アジア各国の国内需要は堅調さを見せている。しかし、輸出依存型のこうした国々の製造業にとっては、国内需要は大きな力としては働かない。アジアの生産者物価は依然として、米国の消費者によって大きく左右されている。

2008年の金融危機以降に金融緩和策が実施されたにもかかわらず、米国の消費は伸び悩んでいる。中国、台湾、韓国、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピンの4月の生産者物価は平均3.5%下がり、8カ月連続のマイナスとなった。

アジアには他にも懸念がある。タイやインドネシアでは急速な賃金上昇が起きているほか、アジア全体の債務残高は1997年のアジア通貨危機以来、対GDP比で最高水準にある。もし製造業が価格決定力の欠如を販売数量の増加で補うことができなければ、企業の収益は圧迫され、債務返済能力は低下する。そうなれば、アジア地域の銀行にも問題は波及しかねない。特に、世界の緩和マネー時代が終わりを迎えようとしている時ならなおさらだ。

政策立案者の選択肢は限られている。借入需要が非常に大きい時の金利引き下げはリスクを伴う。むしろ、資本規制と市場介入の組み合わせを使い、自国通貨安を誘導するほうが賢明な策かもしれない。輸出企業の収益は増加し、債務返済にもつながるだろう。とはいえ、通貨安競争がどの国でもうまくいくとは限らない。

アジア各国の中銀は過去4年にわたり、インフレを誘発するような欧米からのマネー流入と闘ってきたが、これからは厄介なデフレ病に注意する必要があるだろう。

[シンガポール 12日 ロイター BREAKINGVIEWS]


 

 


05. 2013年6月14日 20:02:44 : e9xeV93vFQ
ユーロ圏CPI上昇率は5月に加速、就業者数の落ち込みは深刻化
2013年 06月 14日 19:49 JST
[ブリュッセル 14日 ロイター] - 欧州連合(EU)統計局が14日発表した5月のユーロ圏のEU基準消費者物価指数(CPI)改定値は前年比1.4%上昇、前月比0.1%上昇だった。市場予想もそれぞれ前年比1.4%上昇、前月比0.1%上昇となっていた。

電力や果物・野菜といった物価の上昇で3年ぶり低水準だった4月の水準から加速した。4月の前年比上昇率は1.2%だった。

一方、統計局が同日発表した第1・四半期のユーロ圏就業者数は前期比0.5%減、前年比1.0%減となり、就業者数の落ち込みは一段と深刻化した。

ドイツの5月のCPI上昇率は前年比1.6%で、4月の同1.1%から大幅に加速した。フランスの上昇率の加速は小幅にとどまり、イタリアは1.3%で横ばいだった。

ユーロ圏のインフレ率は欧州中央銀行(ECB)の目標である2%弱の水準を大きく下回っているが、ECBは今月、インフレリスクはほぼ均衡しているとの見方を示した。

*情報を追加して再送します。



物価連動債は今年10月に発行再開へ、財務省が方針伝える
2013年 06月 14日 19:47 JST
[東京 14日 ロイター] - 財務省は今年10月に物価連動債を3000億円発行する。長引くデフレで元本割れを敬遠する投資家が多かったが、安倍晋三政権がデフレ脱却への取り組みを強化していることに対応する。

14日開催した国債市場特別参加者会合と、国債投資家懇談会でそれぞれ参加者に伝えた。

日本政府が物価連動債を発行するのは5年ぶり。新たに発行する物価連動債は元本保証するタイプに切り替える。初回利率は0.1%に設定し、「価格ダッチ」と呼ばれる方式での入札を想定しているとみられる。同省幹部は会合後、記者団に対し「今年10月と来年1月にそれぞれ3000億円ずつ発行すると、出席した市場参加者に伝えた」と述べた。

物価連動債の発行再開の方針について「出席者からの異論はなかった」という。

この日の会合では、物価連動債の発行再開の方針のほかに、10年物や20年物の銘柄統合発行についても議論した。日銀が流通する7割の国債を買い上げる結果、流動性が枯渇しているのに対応する狙いからだ。

銘柄統合で発行するかどうかは、これまでは上下0.05%の幅を持たせて決めてきたが、7月からは10年物に限って0.15%に広げる案を採用する方向。一方、20年物は四半期ごとに銘柄を統一することにした。

(山口貴也;編集 田中志保)

来週の外為市場、FOMC通過後に落ち着き取り戻す可能性
2013年 06月 14日 18:21 JST
[東京 14日 ロイター] - 来週の外為市場は、18─19日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)が最大の焦点となる。それまでは期待感とポジション調整のせめぎ合いになる可能性が高く、引き続き不安定な動きになりそうだ。FOMCを無難に通過できれば、相場は落ち着きを取り戻す可能性が高い。

予想レンジはドル/円が93.50─97.50円、ユーロ/ドルが1.3150─1.3450ドル。

今週のドル/円相場は大荒れとなった。決算を前にしたファンドの売りが止まらず、ドル/円は一時93.75円まで下落、日銀が「量的・質的金融緩和」に踏み切った4月4日以降の上昇分をすべて吐き出した。

売られたのは日銀への失望感というより、米連邦準備理事会(FRB)のスタンスに不透明感が出てきた影響が大きい。量的緩和(QE)縮小観測により、ドル相場のボラティリティが高まった結果、円キャリー取引が巻き戻された。「何が起こるかわからないから、とりあえず売っておこうという動きが入った」(国内証券)という。

来週も前半はこの動きが続きそうだ。市場では「このところボラティリティが高いので、取引を手控える動きも目立つ。このままスルスルと上がっていくとは考えにくく、FOMCまでは不安定な値動きになる可能性が高い」(国内金融機関)と警戒する声が出ていた。

「FOMCまでは期待感と、ハシゴを外されたら怖いという、ポジションを持っている人たちのせめぎ合いになるだろう」(大手邦銀)という。

焦点のFOMCでは、QE縮小観測はひとまず後退するとみる市場関係者が目立つ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフ為替ストラテジスト、植野大作氏は「QE縮小をめぐる思惑でこれだけボラティリティが上がっていることを踏まえると、マーケットが心配しているようなタイミングでQEの早期縮小観測を助長するような発表にはならないだろう」と予想。その上で「FOMCを無難に通過して、ヘッジファンドの決算と言われている6月が過ぎ、新しい期が意識されてくれば、相場は落ち着きを取り戻すのではないか」との見方を示した。

カギを握るのは株式市場の動向だ。日経平均は「もはや1人で上がる力はないので、米株に引っ張ってもらうしかない」(大手邦銀)状況にあるものの、QE縮小観測が後退すれば米株は上昇する可能性が高く、日経平均株価とドル/円をサポートする公算が大きい。

先行きについて、みずほ証券チーフFXストラテジスト、鈴木健吾氏は「混乱が始まってからそろそろ1カ月経つが、各市場とも売買をかなりこなしてきている。イベントを通過すれば徐々に落ち着いてきて、ドル/円、株式市場ともにもみ合い相場に移行し、その後は緩やかに上昇していくのではないか」との見方を示した。

IG証券マーケットアナリストの石川順一氏は、今後3カ月のドル/円レンジについて93─105円とみている。「米経済は堅調であり、9月のFOMCに向けて、QE3縮小観測が高まるだろう。参院選で自民党が勝利すれば円安要因になる」という。

(ロイターニュース 志田義寧)


インタビュー:市場変動に慌てて反応することない=西村内閣府副大臣
2013年 06月 14日 19:55 JST
[東京 14日 ロイター] 内閣府の西村康稔副大臣は14日午後、ロイターとのインタビューに応じ、株安や円高が続く最近の金融市場動向について、政権交代後の急ピッチな変動の調整局面にあるとの見方を示し、きょう閣議決定した成長戦略を推進する考えを強調した。

副大臣との主なやり取りは以下の通り。

<市場が政府の成長戦略「試している」>

──株安・円高が続いている。

「若干株価が乱高下しており、変動幅が大きい。株価や為替の水準にコメントはしないし、一喜一憂もしないのが基本方針だが、株価は安定的に伸びていく姿が望ましい。幅広くいろいろな人に投資してほしいが、変動幅があまりに大きいと、良識ある投資家が参加しにくくなってしまうことを危惧している」

「米国でいい経済指標が発表されると、量的緩和策を縮小するとの観測から株価が下落するという金融相場になっている。短期的な資金に翻弄(ほんろう)されている面がある。実体経済を評価し、見てもらいたい」

──市場変動に対する政府の見解は。

「株価上昇や為替変動が急激だったので、その調整局面にあり、そう慌てて反応することはないというのが共通認識だ」

「(成長戦略を)着実に実行していけば、足元の経済指標はいいので、日本経済全体の動きは心配していない。中長期的に日本は必ず経済を回復させる。足元の姿、今動いている方向性を見てほしい」

「(相場の)上げ方が急激だったので、調整するのは当然だと思うし、日本に投資しようか迷っていた人に、買うチャンスを与えてくれたと取れなくもない。できるだけ前向きに見ていきたい」

「われわれの実行力を試し、促しているとの市場の力も感じる。絵に描いた餅との批判に負けないよう、しっかり実行していくと首相以下、皆で確認し合った。市場から促されていると思うので、それに応えたい」

<日銀の対応を信頼し尊重>

──日銀が長期資金供給策を見送った。

「日銀の判断を信頼して尊重したい。見方はいろいろある。日銀はいろいろなことを常に考えながら、臨機応変にやってくれると思う」

<法人税減税は中期的課題>

──法人税減税についての考えは。

「まずは国内投資を増やさないといけないので、思い切った設備投資減税をやりたい。その後、それを見極めながら、どのくらい成長して税収が増えるのかを見ながら、中期的な課題として、法人税全体を下げることも引き続き念頭に置きながらやっていく」

「7割ぐらいの企業が法人税を払っていない状況で下げても、効果がないとの議論もある。一方で海外企業に進出してもらうためには、下げないと日本を選んでくれないところもある。総合的に判断したい」

「法人税全体を下げても、投資に回らず内部留保に回ってしまっては意味がない。(投資減税には)意欲を見せてくれる企業を優遇する政策的効果がある」

<消費増税、この調子でいけば来年4月に実施>

──消費増税について。

「足元の経済はいい。この調子でいけば、正式には9月に判断するが、来年4月の消費税引き上げを実行することになると思う」

「8月から9月にかけて(財政再建も)しっかり議論する。(PB目標も)守ることとしているので、その道筋を作りたい。そのためにも消費税は引き上げることになる」

(ロイターニュース 梶本哲史、基太村真司;編集 田中志保)




来週の日本株は下値固め、米緩和策の縮小懸念が後退すれば反騰相場も
2013年 06月 14日 17:32 JST
[東京 14日 ロイター] - 来週の東京株式市場は、下値固めの展開となりそうだ。日経平均は為替との連動性を高めており、先物主導で振れやすい状態が続くものの、極端に上昇したボラティリティは徐々に落ち着きそうだ。

18―19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に米量的緩和策の縮小懸念が後退すれば反騰色を強める可能性もある。

日経平均の予想レンジは1万2200円─1万3200円。

5月23日の米量的緩和策の縮小懸念に端を発したショック安以降、日本株の不安定な値動きが続いている。株式と為替が連鎖して乱高下し、日経平均ボラティリティ指数.JNIVも41台と投資家の不安心理が根強いことを示している。14日に先物・オプションSQ(特別清算指数)算出を無難に通過し、市場が意識していた目先の需給懸念はクリアしたが、「ピーク時に7兆円を超えた仮需(裁定買い残と信用買い残の合計)の減少は進んでいない。いずれも金利変動に最も弱い商品であり、月内は需給整理に手間取りそうだ」(みずほ証券投資情報部長の稲泉雄朗氏)との見方もある。大きな需給イベントをこなし、極端に上昇したボラティリティは低下するとみられるが、引き続き余震には警戒する必要がある。

最大の注目イベントは18―19日のFOMC。会合の内容とバーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長の会見が量的緩和第3弾(QE3)の縮小を示唆するものでなければ、リスク回避が緩み株高・円安が進む可能性が高くなる。米経済指標は5月米小売売上高や新規失業申請件数など一部に改善の兆しもあるが、依然まちまちであり緩和策縮小は時期尚早との見方が多い。ただ、「政策変更のタイミングでは投資家のマインドが振れやすく、指標や要人発言を市場が良い方に判断するか悪い方に判断するか予想しにくい」(証券ジャパン調査情報部長の大谷正之氏)という。FOMC以外では米住宅指標や中国経済指標も株価を刺激する材料になりやすく、内容次第で株価は上下に振れる可能性がある。

17―18日に開催される主要8カ国(G8)サミットで安倍晋三首相は、成長戦略と「骨太の方針」を説明するが、株価への影響は限定的とみられている。今後3カ月の日経平均のレンジについては「4―6月期決算で企業業績の上振れが確認できれば8月にかけて上値を試すことになる。1万2000―1万6000円のレンジが予想される」(ちばぎん証券顧問の安藤富士男氏)との声が出ている。

主なスケジュールでは、国内で17日に4月第3次産業活動指数(経済産業省)、19日に5月貿易統計(財務省)が発表される。海外では17日に6月NY州製造業業況指数(連銀)、18日に5月米住宅着工件数(商務省)、20日に6月中国製造業PMI速報値(HSBC)、5月米中古住宅販売(全米リアルター協会)などの経済指標が発表される。

(ロイターニュース 株式マーケットチーム)


2013年06月14日
第310回 米国中央銀行の金融緩和策の出口戦略は本当に株式の売り材料か?(JPモルガン・アセット・マネジメント)

<質問>

5月末から日本を始め世界の株式市場が不安定な展開となっています。その主因が米国中央銀行の量的緩和縮小等の出口戦略だといわれていますが、米国中央銀行の金融政策は、どの程度株式市場に影響するのでしょうか?

<回答>

ご質問、どうもありがとうございます。今回は、JPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木英典がお答えします。

今回の米国中央銀行の金融緩和策は、前例がないほど積極的なものであるため、そこからの出口戦略が、どの程度株式市場に影響するかは、正直、未知の世界となります。しかしながら、過去の米国中央銀行の金融政策の転換が、株式市場にどのように影響したかを見ることによって、今回の出口戦略の影響を類推することは可能です。

そこで、ここでは過去3回の米国中央銀行の金融引き締め局面、具体的には1994年2月、1999年6月、そして2004年6月からの利上げ局面での株価の推移を確認してみましょう。

まず、1994年2月からの局面ですが、米国中央銀行は1994年2月から1995年2月にかけて3%から6%に政策金利を引き上げました。米国株式は、この局面で、利上げ当初こそ、8%ほど調整したものの、その後は、利上げ期間を通じでほぼ横ばいの状態が続きました。そして、利上げが完了すると、待っていましたとばかりに買いが入り、その後5年間で約3倍まで値上がりしました。

次に、1999年6月からの利上げ局面ですが、米国中央銀行は1999年6月から2000年5月にかけて4.75%から6.5%まで政策金利を引き上げました。米国株式は、やはり、利上げ当初こそ7%ほど下落しましたが、その後、短期間で持ち直し、利上げ期間を通して見ると、結局、10%以上上昇しました。しかし、利上げ終了後約3ヵ月で市場は変調をきたし、今で言う、ITバブルが崩壊、その後、米国株式は2年以上調整局面を続けることとなります。

そして、3回目が2004年6月からの利上げ局面です。米国中央銀行は2004年6月から2006年6月にかけて1%から5.25%まで、実に4.25%も利上げしましたが、米国株式は、やはり、利上げ直後こそ5%ほど調整したものの、結局、10%以上値上がりしました。株価が本格的な下落局面を迎えたのは、利上げ終了後1年以上たった2007年10月のことで、ここから米国株式は世界金融恐慌に繋がる長い下落局面に突入することになります。

さて、このように過去3回の米国中央銀行の利上げに対する株式市場の反応を見てみると、3つの傾向が見て取れます。一つ目は、米国中央銀行が金融引き締めに動いた当初は、警戒感の高まりから株価が若干調整すること。2つ目は、しかしながら、株式市場がある程度利上げを織り込みむと、警戒感が薄れ、再び上昇し始めること。そして、3つ目は、株価が本格的な調整局面を迎えるのは、引き締め開始の前後でも、その最中でもなく、利上げ完了後ある程度時間が経ってからであること。

結局、中央銀行が引き締めに動く際は、金融市場に過度なインパクトを与えないよう細心の注意を払って実施するため、結果として、金融市場に大きな影響は出ない、逆に、利上げが終了し、市場の警戒心が薄れたところに思わぬ落とし穴が待ち構えているというふうには考えられないでしょうか?

つまり、中央銀行も、市場も、警戒感が高まっている時(今でしょ!)は、むしろ、安心していい時で、逆に、利上げが完了して油断している時こそ、警戒すべき時なのかもしれません。「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」、「天災は忘れたころにやってくる」名言ではないでしょうか?

コラム執筆:

鈴木英典(すずき・ひでのり)

JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社

投資戦略ソリューション室長

JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、連載コラム「投資耳(ミミ)」https://www.jpmorganasset.co.jp/wps/portal/Column/Indexや「資産運用の井戸端トーク」https://www.jpmorganasset.co.jp/jpec/ja/promotion/column/index.htmlを執筆。

前の記事:第309回 金利上昇時の投資の考え方 −2013年06月07日

ヘッジファンドの真実 - 投資の極意

犯人探し

不安定な相場が続いている。株の乱高下が収まらない。こうした市場の急変に際して、各メディアでは一様に「ファンド悪玉論」とでもいうような論調が目立つ。いわく、
「ヘッジファンドが先物を振り回して相場をおもちゃにしている」
「裁定解消の売りで相場が崩されている」
「HFT(ハイ・フリークエンシー・トレード、高速高頻度取引)が相場の錯乱要因」
「コンピュータのプログラム売買を仕掛けるヘッジファンドが下げ相場の主因」
と列挙すれば、だいたいのところを網羅できるだろう。ところが、ここに書かれていること、すべて間違いである。

罪を知らぬものだけが人を裁く。罪を知ったものは決して人を裁かない。
(山本周五郎 『赤ひげ診療譚』)

罪を知らぬもの、とは言い換えれば、イノセントな(無垢な、純粋な)ひとと言えるかもしれない。純粋さゆえに、メディアの言説を鵜呑みにしてしまう。また、ひとは弱い生き物だから、必ず誰かのせいにしたがる習性を持つ。相場が崩れると犯人探しをしたくなる。中世の魔女狩りと同じだ。

こうした論調を見るにつけ、僕などは「変わらないな」と思ってしまう。いや、メディアの論調を主導するひとが「変わった」がゆえに、こうした滑稽な議論が相も変わらず繰り返されるのだろう。

日経平均先物取引の前身である「株先50」が始まったのは、僕が証券界に足を踏み入れた1987年のことだ。翌年1988年に日経平均225先物取引が開始された。日経225オプションの取引開始はさらに1年後の1989年だった。入社当時から先物・オプションに興味を持ち研究していた僕は、日経225オプションの取引開始初日に商いを手掛けた。D証券全店での初商いが、入社3年目の若造だったことで当時社内では相当注目を集めたものだ。日本市場における先物・オプション、すなわちデリバティブ(派生商品)の歴史は、そのまま僕が歩んできたマーケットの歴史と重なる。

ところが僕がやっていたデリバティブの取引は、松本大が大学を出て入社したソロモン・ブラザーズなど外資系証券のトレードとはまったく比較にならない稚拙なものだった。日本の先物創世記から(いや創世記で価格の歪みが取り放題だったからこそ)、先物市場は外資系証券の独壇場だった。日系証券など外野から見ると、外資系が何をやっているのか理解できなかったのだ。だから、外資系が先物などデリバティブを駆使して市場を荒らしている、規制するべきだ、などいう「先物(外資)悪玉論」が横行したのである。無論、そうした「暴論」は、裁定取引など欧米から持ち込まれた最先端の金融技術を理解しない無知な輩が、やっかみ半分で唱えていたものだったため、識者の反論にあって自然と消滅していった。

今、ここでまた同じ議論を目するとは思わなかった。前述したように、これも当時のいきさつを知る人がメディアに少なくなったからではないだろうか。

裁定取引は市場に中立

裁定取引それ自体は基本的に相場の方向感を規定しない。裁定(アービトラージ)とは、サヤ取りであり、もっともポピュラーな225現物と先物の裁定取引は、現物と先物の価格差(ベーシス、スプレッド)に着目するものである。先物には理論価格がある。予想配当と金利から簡単に計算できる。そして、ここが一番重要なところだが、先物の値は必ず最終的に現物に一致する。最終売買日までに決済せずに残った建玉はSQ値(特別清算数値)で決済される。だから、理論価格を越えて先物のベーシスが拡大したときに、現物買い・先物売りのポジションを組めば、それはそのポジションを組んだ時点で利益が確定しているのだ。現物買い・先物売りのポジションならば、SQで先物売りは清算されるから、現物を寄り付きの値段で売ればよい。

最終的にSQで清算されるわけだが、しかし、SQまで待つ必要はない。ベーシスが理論値以下に縮小すれば、そこで反対売買を行なって清算してしまえばよい。すなわち先物を買い戻し、現物を売りに出す。これが「裁定解消の売り」である。

確かに、大きな裁定ポジションの解消は、現物にそれなりのインパクトを与えるのは事実である。しかし、重要なことは、その片方で先物に買い戻しを入れるのだ。よく「先物主導で相場の下げが加速」などと言われる、その先物市場での買いもまた同時に発生するのだ。なぜ裁定解消の「売り」だけが悪者扱いされなければならないのか。「先物主導で相場の下げが加速」などと先物悪玉論をぶつなら、裁定解消時における「先物の買い戻し」はプラス材料に評価するべきではないか。無論、評価するには当たらない。そもそも、売り買いセットの取引 - それが裁定取引であり、裁定解消はその反対売買、売り買いをひっくり返すだけなのだから。裁定取引は、方向感という観点からは市場に中立的である。

HFT(ハイ・フリークエンシー・トレード、高速高頻度取引)も市場に中立

日本におけるHFTの現状を、サンガード・ジャパンのブルーノ・アブリユ氏はこう語る。「東京証券取引所が2010年に現物株取引の新システム『アローヘッド』を稼働させたのとほぼ同時に、注文高速化のために発注装置を取引所のシステムに隣接させる『コロケーション・サービス』が始まったことで高速取引の土壌ができ、HFTが参入する環境が整った。コロケーション経由の株式取引は昨年末で5割程度と言われ、このうちHFTが占める比率は3〜4割とみられている。」

フィデッサ日本法人マーケティング部の松原弘統括部長は、「プログラム取引におけるHFT売買は日計りで基本的には相場の方向性を決めるようなことはない」と語っている。「主流の売買手法は2つ。1つはスタティカル・アービトラージ(統計的裁定取引)。銘柄間の統計的な相関・反転パターンを分析し、ロング・ショートのポジションを組み、反対売買を繰り返す手法。もう1つは売り買い気配を両建てで市場に提供し、他の市場参加者がポジション取得の際に利ざやを稼ぐマーケット・メイキングだ。HFT業者として有名なゲッコーはこの方法を用いている」

「ただ、最近、海外ではディレクショナル・ストラテジーと呼ばれる経済指標などを利用し、価格変化のある方向への振れを捉える手法が出てきている。先回りして注文する場合もあると見られ、仕掛けていると市場では捉えられるだろう。一部は日本にも進出してきているとみられるが、感覚的には相場の方向性をつくるような規模にはなっていない」
(出所:日経QUICKニュース)

HFTとは文字通り、高速(ミリセカンド、1000分の1秒)で動く呼び値の間で高頻度に売買を繰り返すものだ。昔は証券会社の自己売買部門にいたディーラーが他人より速く板から玉をかっさらって、1カイ2ヤリのサヤ取りをしていた。人間レベルの動物的反射神経の勝負だった。それが人間の視覚認知速度(数100分の1秒)を遥かに超えるシステムが導入されたことで、コンピュータに敵わなくなった。人間の仕事が機械にとって替わられただけで、やっていることにそれほど差はない。

つまり1カイ2ヤリのサヤ取りだから、買ったものは売る。売ったものは買い戻す。それを目にも止まらぬ速さで繰り返す。だから、HFTそれ自体が市場の方向性を決めるものではないのである。

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ヘッジファンドに関する報道

ヘッジファンドに関して書けば、それだけで本1冊になってしまうので、ここでは多くを語らないが、一番伝えたいメッセージは、ヘッジファンドというものを十把一絡げに語るメディア、市場関係者、評論家があまりにも多いことであり、それはまったくナンセンスであるということだ。言わずもがなだが、ヘッジファンドというものの定義は曖昧で、それゆえに膨大な種類、属性が存在する。ヘッジファンドにどのような種類があるのかは、インターネットで簡単に検索できるだろう。

動物には何万、何千の種類がある。「ヘッジは〜だ」というのは「動物は〜だ」というのに等しい。「動物は植物ではない」 - これは正しい。「ヘッジファンドは銀行預金ではない」 - これも正しい。

では「動物は凶暴である」「動物は速く走る」「動物は寒さに弱い」というのはどうだろう。無論、正しくないわけで、正解は「「動物の中には凶暴なものもいる」「動物の中には速く走るものもいる」「動物の中には寒さに弱いものもいる」である。

「ヘッジファンドの中には〜なものもある」というのは正しいが、ヘッジファンドの全部あるいは大部分がそうであるかのような表現が特に断りもなく使用されている例を見かけることが少なくない。例えば「6月はヘッジファンドの中間決算で、6月に解約するには1カ月前ノーティス(解約通知)が必要。ヘッジファンドが解約資金を手当する換金売りで5月には相場が下落しやすい」という説がまことしやかに語られている。

欧米企業の決算期はカレンダー・イヤーのものが多く、つまり12月決算が多いのは事実だが、もちろんすべてが12月決算ではない。これがファンドの決算ということになると、もうてんでバラバラである。さらに理解不能なのが「中間決算」とは何を意味するのか、である。いまや日本企業でさえ四半期決算だから、「中間決算」なんて言い方は死語だろう。

中間決算だからといって、何をするのだろうか。これが12月の本決算であれば、まだ話は分かる。良好なパフォーマンスを達成していれば、成功報酬を確実なものにするためにリターンを確定しにいくということはあるだろう。しかし、その年で運用をやめるわけではないのだから、来年のことを考えたら必ずしも手仕舞う必要がないこともある。ファンドがポジション・クローズするのは、あくまでも相場観やモデルの指示に従うのが第一である。ましてや、ここでいう「中間決算」にはファンドがオペレーションを行うインセンティブは何もない。

ではヘッジファンドに投資している顧客側の換金ニーズだろうか。確かにファンドによっては、3月,6月,9月,12月と四半期のタイミングでしかウィンドウ・ピリオッド(窓開け期間)を設けていないものもある。しかし、そういう種類のファンドは、極めて流動性の限られたもの、例えばプライベート・エクイティや超小型株、あるいは投資先とのエグジットの交渉が必要なアクティビスト・ファンド、そういうケースである。リーマン・ショック以降、投資家の最大の懸案事項は流動性である。解約したくても換金受け渡しに時間がかかるようなファンドは避けられる傾向にある。特殊な資産への投資ならまだ投資家の理解を得られるが、先進国の株式で運用するタイプのファンドで、極端に解約制限のついたファンドはまず売れない。つまり、我々がここで問題にしているようなファンド - 先物を使って市場を振り回すようなファンド - は、当然のように先物市場という最も流動性の高い市場で運用をおこなっており、それゆえに、いつでも解約できる。せいぜい10日前ノーティスがあれば毎月解約に応じるものがほとんどだろう。なかには日次でNAV(基準価額)を算出、日次で解約を受けるものまである。何も「中間決算6月の1カ月前ノーティス」で解約する必要はないのである。(NAVの算出やファンドの設定解約に制限をつけるのは流動性の観点というより、アドミニストレータ(事務管理業者)のコストを抑える観点からである。年金基金のような長期の機関投資家はデイリーNAVデイリー解約を必要としないところもあるからだ。)

日本の地域金融機関が中間決算期に配当収入が欲しい、だから解約するというケースはあるかもしれない。しかし、世界のヘッジファンド残高に占める日本の地域金融機関による投資比率とはいくらだろう。とても市場にインパクトを与えるような額に達してないのは想像に難くない。

CTA

さて最後に「コンピュータのプログラム売買を仕掛けるヘッジファンドが下げ相場の主因」という主張を見ていこう。「コンピュータのプログラム売買」と一言で言っても、これも膨大な種類があり、分類整理が必要だ。別名、アルゴリズム取引とも言い、略して「アルゴ」とも呼ばれる(アカデミー賞受賞のベン・アフレックの映画のタイトルと同じ)。業界で「アルゴ」という場合は、注文の執行方法を指す場合が通常である。例えば、運用会社からの買い付け指示を、証券会社が受けてマーケットで執行する場合、マーケット・インパクトを最小に抑える「アルゴ」、最適にVWAP(出来高加重平均価格)での約定を狙う「アルゴ」、一定の時間間隔で分散発注するTWAP(時間加重平均価格)戦略を行う「アルゴ」など様々なアルゴが存在する。

ヘッジファンドのなかでプログラム売買を行うものもまた、無数にあるが、CTAはその代表的なファンドのひとつと言ってよいだろう。

CTA - Commodity Trading Advisorはその名の通り、元は商品投資顧問であった。商品相場は先物で運用するのが主流であり、先物プレーヤーだから売り買いどちらでもいける。相場のトレンドに乗って売り買いを繰り返すのが彼らの基本的なスタイルである。やがて金余りの時代となりCTAにも膨大な資金が流入し始めた。そうなると商品先物のような規模の小さい市場では運用しきれなくなり、CTAは商品先物以外の短期金融商品・債券・為替・株価指数などの先物相場全部を投資対象とするに至ったのである。コンピュータによるプログラムと謳ってはいるものの、基本戦略はトレンド・フォローだ。要は価格が動くもの、トレンドが形成されるものならなんでもいいのだ。流動性さえあればいい。

彼らの基本戦略はトレンド・フォローだと述べた。上昇基調が鮮明になればなるほど、ポジションを多く張っていく。下落局面でも同じだ。トレンドの強く出ているものに、順張りで賭けるのがCTAである。

ということは相場の転換点では当然のように大やられする。グラフは世界最大のヘッジファンド運用会社、マン・インベストメンツの旗艦ファンドのひとつAHLのパフォーマンスを示したものである。AHLは非常に長いトラックレコードを有するコンピュータによるプログラム運用の代表的CTAである。


そのAHLでさえ - というかCTAの宿命として - 足元の相場の変調ではそれまで稼いできた儲けをすべて吹き飛ばすような損失となっている。これを見てもまだ「コンピュータのプログラム売買を仕掛けるヘッジファンドが下げ相場の主因」「ヘッジファンドが先物を振り回して相場をおもちゃにしている」などと言えるだろうか。そんなことはないのである。彼らだって相場の気紛れな変動にはついていけないのだ。なまじ、先物など振り回してケガをしているのは彼ら自身なのである。

投資の極意

ポーカー世界選手権で日本人初の世界王者となったプロポーカー師の木原直哉さんの言葉が先日、日経電子版で紹介されていた。一般にポーカーは「心理戦」が醍醐味と考えられがちだが、「相手の表情や態度から手の内を読むことは意外に少ない」と木原さん。「悪い手札の時にマイナスをいかに少なくし、良い手札の時にプラスをいかに多くするか。リスク管理と勝機の見極めが大切。」

まさに投資にも当てはまる極意である。マーケットというものは参加者の総意で決まる。そして、市場参加者というものは多種多様である。一口に「外国人投資家」「ヘッジファンド」と言っても様々な投資スタイルや相場観を持っている。彼らの売買動向や手口をあまりに気にするのは、ポーカーで「相手の表情や態度から手の内を読もうとすること」のようなものだ。

よく、「この下げはヘッジファンドの売りだ」とか「ここを買ったのは外国人だ」などと言われる。言うのは勝手である。そしてそれが正しいのか間違っているか真偽のほどは分かりようがない。また、分かったところで、次に彼らがどう動くかというのも分からない。分からないことに思いを巡らせるのは無駄である。マーケットは市場参加者の総意で決まる。一部の投資家の行動がすべてを規定するものではないのだ。

「悪い手札の時にマイナスをいかに少なくし、良い手札の時にプラスをいかに多くするか」 - 見えない相手の手を読もうとするより、今どのような「流れ」が来ているのかを認識するほうが大事である。流れに逆らっては絶対に儲からない。しかし、流れに乗っているだけでも転換点では大きくやられる。遠い先のことは分からない。一歩だけでいいから、先を見て、うまく流れをつかむことが投資の極意だと思う。一緒にがんばろう。

村上尚己「エコノミックレポート」

チーフ・エコノミスト 村上尚己が、ファンダメンタルズ分析を中心に内外経済・金融市場に鋭く切込みます。(@Murakami_Naoki )

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2013年6月14日
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(516KB)
質への逃避による円高の正体

来週の重要経済指標、主要企業決算についてPDF版のレポートで解説しています


ドル円市場では、今週も円高ドル安が続き、一時1ドル93円台まで円高ドル安が進んだ。6月7日レポートで、先週末円高に振れた経緯を説明した。その後、ドル円は99円台まで円安に動いたが、日銀の政策決定会合を材料にその後大きく円高が進んだ。そして、昨晩(6月13日)には95円ミドルまで戻った。

今週のドル円相場の特徴は、米長期金利の動きとの乖離が目立つことである。6月11日に海外市場で円高ドル安が進んだが、この日は米国では長期金利が大きく上昇した。その後も、米国金利は高い水準が続く中でドル安(円高)が進んだり、昨晩(6月13日)は米国金利が低下する一方、ドル高円安となっている(グラフ参照)。

この、米債券市場とドル円市場の動きの乖離の背景が何なのか、考えたが正直分からない。敢えて言えば、FRBの金融緩和縮小を巡る思惑が引き続き交錯し、いずれかの市場においてミスプライシングが起きているということだろうか。これは一つの仮説だが、大きく円高に振れた今週のドル円市場の動きが、ポジション調整などの需給変動がもたらすミスプライシングならば、これは投資機会と言える。

一方で、メディアでは、今週の円高に対して様々な解釈が述べられている。例えば、13日の日経新聞電子版では市場関係者は以下のように述べている。「投資家が運用リスクを回避する姿勢を強めるとの思惑で、質への逃避で円買いが加速した」。もっともらしいことを言っているようだが、コメンテーターが頻繁に使う「リスクオフ」とは、「株などのリスク資産の下落」を、言い換えているだけである。

つまり日本株などの下落の後追いで、円高という為替市場の動きを説明しているだけで、ドル円の今後を考える上で有益な情報ではない。今週、日経平均株価が再び12,000円台に下落し、同じ日に主要なアジアの株価も急落したが、その後追いで円高が起きているというのだろう。

筆者にとっては、この相場解説は雑音に過ぎないと考えている。というのも、株式市場などで株が売られると、「質への逃避」で円高ドル安が進むというコメントは、真のメカニズムが理解されずに使われているからである。

「質への逃避」と語るヒトの中で、日本円は「安全な資産」という位置づけなのだろう。日本は公的債務残高の持続可能性が問題になり、一部の識者から「日本は破綻している」という警告がされている。それとどう整合性があるのか。もちろん実際には、「国の破綻」とは定義が曖昧で、トンデモな評論家かそれに踊らされたメディアしか、そのような言葉を使わない。

日本の場合、金融政策などの経済安定化政策がまともに機能して、インフレという正常な状況に回帰し、本来の経済成長を取り戻す過程で、税収は10兆円規模で増える。その過程で政府の財政赤字は確実に減る。つまり、アベノミクスのメインエンジンである金融緩和政策が、米国などと同様に機能すれば、他国のように財政赤字も減る(グラフ参照)。

もちろん、安定的な財源として増税はいずれ必要だろうが、それは長期的な財政運営という視点で政策を行える経済状況になって判断できる選択肢である。今はデフレ脱却のために経済安定化政策に全力を注ぐべき局面で、教科書的に、国内需要を減らす増税政策は通常採用されない。実際、リーマンショック以降、財政健全化に傾きすぎ債務問題をこじらせた失敗を糧に、欧州では経済成長に配慮した政策が採用されつつある。

このように考えている筆者は、評論家が警告するような「財政破綻」は信じていない。しかし、だからといって、為替コメンテーターが言うように、円が「質への逃避先」で買われるという理屈も理解できない。確かに財政破綻はすぐ訪れないが、日本経済は金融政策がようやくまともに動き始めて、デフレという重い病気を克服しようとしている段階で、相対的にまだ大きなハンデを負っている。

というのも、デフレと低成長が続く中では、政治はいつまでも安定せず、いくら増税を繰り返しても財政赤字は増え続ける。なので、社会保障制度もいつまでも充実せず、公的債務が拡大し続ける。ようやく世界標準の妥当な金融政策が始まり、その悪循環から抜け出そうとしている。それが、今の日本の現状である。

一方で、まともな金融政策がようやく始まっただけなのに、「金融緩和で日本は破綻する」「アベノミクスバブルが崩壊した」などの三流記事がメディアで溢れており、そうした「デフレ応援団」の存在を考えれば、日本経済正常化シナリオにはリスクも相応にある。もちろん、リスクや不確実性があるから、投資において大きなリターンを期待できるわけだが、少なくとも為替コメンテーターが言うように日本円が「安全資産」であるとは言えない。

つまり、円高が起きている理由は、「質への逃避」が起きているからではない。株価の調整とともに再びデフレに舞い戻る疑念を感じ、高まっていた予想インフレ率が低下する兆しがあるから、円高が起きる。世界経済が不安定になると、金融政策がこれまで最も稚拙だった日本にまずデフレの被害が顕在化する。質への逃避ではなく、機能不全に陥いる日本の金融政策への疑念から、デフレが長期化するという恐れが高まり円高をもたらすのである。

筆者が抱いている、アベノミクスへの疑念については6月6日レポートで述べたとおりである。ただ、大きな政策転換が起こる過程で、そうした懸念が全く生じないというのも非現実的だろう。金融政策を中心に日本の経済政策が変わったならば、筆者が抱いたアベノミクスへの疑念に基づく市場心理の揺らぎが、冒頭で述べたのと同じ一時的なミスプライシングを引き起こした、ということになる。そうした視点で、今の金融市場を冷静に考えたい。


第309回 金利上昇時の投資の考え方

<質問>

金利が上昇してきていますが、相場にはどういう影響がでてきているでしょうか?

<回答>

現在、日本とアメリカで、国債の利回りが上昇してきています。いずれも様々な要因が重なってのことですが、一時的な要因というよりも構造的な要因と言えるものが多く、当面こうした傾向が続いていく可能性はあると思います。

国債の利回り上昇の影響は直接的なものと間接的なものに分けられます。直接的な影響は、その通貨で発行されている債券の価格下落(利回り上昇)です。日本国債の利回り上昇は、円建てで発行されているあらゆる債券の利回りを上昇させます。これにより円建て債券の価格が低下します。また、米国国債の利回り上昇は、米ドル建てで発行されているあらゆる債券の利回りを上昇させ、価格を下落させます。どの程度下落するかは修正デュレーションで確認できます。修正デュレーションが7の債券であれば利回りが1%上昇すれば7%、2%上昇すれば14%、債券価格が下落します。

債券利回りはベース利回りと上乗せ利回りで構成されており、日本国債や米国国債の利回りはベース利回りにあたります。ベース利回りが上昇しても、上乗せ利回りの縮小で相殺できれば債券価格は変動しませんが、現在のように上乗せ金利が小さい場合には相殺しきれず債券利回りが上昇して債券価格の下落が起こることが懸念されます。特に日本の投信市場では米ドル建ての債券に投資するものの比率が非常に高いため、影響が広範囲に及ぶ可能性があります。

間接的な影響としては、他の金融商品の相対的な利回りの魅力を低減させることが考えられます。例えば、株が3%の配当利回り、国債が1%の利回りだった場合、もちろん両者は異なるリスク・リターンを持つ別の資産クラスですが、先ほどの状態から株が3%で国債が5%となれば株の相対的な利回り魅力が低減して、株価の下落へとつながる可能性はあります。

また、先のJ-REITが短期間で大きく下落し、続いて米国のREITが大きく下落したのも、国債利回り上昇の間接的な影響が大きな一因の一つにあります。これはハイイールド債などにも言えることですが、国債利回りの上昇はその通貨の長期金利を上昇させ、負債の大きな人や企業にとって金利負担を増大させます。REITやハイイールド債など、負債を多く抱える企業が発行する証券は、金利負担増加による業績悪化懸念から価格下落することがあり、今回の日米のREIT価格の急落にはこうした国債利回り上昇の間接的な影響が少なからずあったと見られています。

今後も日米両国の国債利回りが、構造的な要因などによって上昇し続ける場合、これらの投資への影響が続いていく可能性は十分にあると言えます。

コラム執筆:ジョン太郎

金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。

前の記事:第308回 アベノミクスの効果について【お金の相談室】 −2013年05月31日
http://www.monex.co.jp/Etc/00000000/guest/G903/er/economic.htm


06. 2013年6月15日 15:30:24 : e9xeV93vFQ

http://www.nli-research.co.jp/report/econo_letter/2013/we130614.html

ニッセイ基礎研究所 2013-06-14
脚光を浴びる国民総所得(GNI)
経済調査部門 経済調査室長 斎藤 太郎


1. 安倍首相が成長戦略第3 弾のスピーチで、1 人当たりの国民総所得(GNI)を重視す
ることを表明したことをきっかけに、「国民総所得」がにわかに脚光を浴びている。
2. 国民総所得(GNI)は家計の所得そのものではない。巨額の対外純資産を背景とした
海外からの利子や配当の受取の増加を主因として、名目GNIは名目GDPを上回るペ
ースで拡大しているが、賃金の低迷や低金利による財産所得の減少などから、国民総所
得に占める家計の割合は低下している。
3. 実質GNIを見る際には、交易条件の影響を考慮する必要がある。日本は長期にわたり
交易条件の悪化が続いているため、実質GNI成長率が実質GDP成長率を下回る傾向
がある。交易利得はこの10 年間で▲26.4 兆円も減少している。
4. 実質GNI成長率が実質GDP成長率よりも高くなるためには、輸入品に対する価格交
渉力の強化などを通じて、交易条件の悪化による海外への所得流出に歯止めをかける必
要がある。GNI成長率がGDP成長率を上回ることは名目では比較的容易だが、実質
ベースで実現することは困難な課題といえる。


家計企業政府民間非営利団体
部門別可処分所得(総)の割合(国民総所得比)
(注)各5年間(05〜は7年間)の平均
(資料)内閣府「国民経済計算年報」


●国民総所得(GNI)とは何か
安倍首相が6/5 に行った成長戦略第3 弾のスピーチで、1 人当たりの国民総所得(GNI)を重
視することを表明したことをきっかけに、「国民総所得」がにわかに脚光を浴びている。成長戦略、
骨太の方針では、「達成すべき成果目標(KPI1)」として名目国民総所得が掲げられ、現在384
万円の1人当たり名目国民総所得(GNI)が10 年後には150 万円以上拡大することが期待され
るとした。
一国の経済活動全体を表す指標としては、国内総生産(GDP)が用いられることが多い。
国内総生産と国民総所得の違いのひとつは、「生産」と「所得」の違いであるが、三面等価の原則
(「生産」=「所得」=「支出」)から、名目では両者は概念的に一致する2。
もうひとつは「国内」と「国民」の違いである。国内という概念は、その国内領土に居住する経
済主体を対象とするものであり、国内総生産には外国企業の在日子会社の生産活動も含まれる。一
方、国民という概念は、当該国の居住者主体を対象とするものであり、国民総所得には居住者主体
が海外から受け取った利子や配当なども含まれる。すなわち、「名目GNI=名目GDP+海外か
らの所得の純受取」となる。
日本では、かつては国民総生産(GNP)が用いられていたが、企業の海外進出が盛んとなるに
つれ、国外での経済活動が加算されるGNPでは、国内の景気動向を把握する上では不適切な面も
あるということで、1990 年代前半からは主として国内総生産(GDP)が用いられるようになった。
その後、2000 年に日本の国民経済計算体系が68SNA から93SNA に移行した際に、国民総生産(GN
P)の概念自体がなくなり、同様の概念として国民総所得(GNI)が導入された。これは、国民
概念は、海外からの所得の純受取を含むので、生産測度よりも所得測度として捉えられるべき性格
のものと考えられたためである。
ここで、GDPとGNIの数値を現行統計(2005 年基準)が存在する1994 年度以降で比較する
と、1994 年度は名目GDPが495.6 兆
円、名目GNIが499.5 兆円と両者の
差は3.9 兆円だったが、乖離幅は拡大
傾向が続いている。2012 年度の名目G
NIは490.2 兆円となり、名目GDP
の474.8 兆円を15.4 兆円上回っている。
経常収支が黒字を続けたことで対外純
資産が大きく積み上がり、そこから得
られる利子、配当などの受取が増加し
ているためである。
1 KPI:Key Performance Indicator
2 日本では国内総支出の計数をGDPの値としている。生産面、所得(分配)面の計数は推計方法や基礎統計の違いから
実際には一致せず、その差は統計上の不突合として計上されている。
450
460
470
480
490
500
510
520
530
540
94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
(兆円) 名目GDPと名目GNIの推移
名目GDP
名目GNI
(資料)内閣府「国民経済計算」(年度)
3| |Weekly エコノミスト・レター 2013-06-14|Copyright ©2013 NLI Research Institute All rights reserved
名目GDPと名目GNIの成長率を比較すると、GNI
の成長率が高い年度のほうが多く、その差は18 年間の平均
で0.1%である。
なお、成長戦略では、日本国内の徹底したグローバル化
を進め、2020 年における対内直接投資残高を2012 年末時
点の17.8 兆円から35 兆円へ倍増するという目標を掲げて
いる。対内直接投資は新たな雇用を創出し、経済活動を活
性化することなどから、成長戦略の重要な要素であること
は確かである。ただし、対内直接投資の増加は直接的には
海外への所得の支払いが増えることを意味するため、GN
IがGDPよりも小さくなる要因であることには注意が必
要だ。
●GNIが増えると誰が豊かになるのか
安倍首相は6/5 のスピーチで、『最も重要なKPI とは何か。それは、「一人あたりの国民総所得」であ
ると考えています。なぜなら、私の成長戦略の目指すところが、意欲のある人たちに仕事をつくり、頑張っ
て働く人たちの手取りを増やすことに、他ならないからです。つまりは、「家計が潤う」こと。その一点で
す。』3と述べた。
しかし、言うまでもなく国民総所得は家計の所得そのものではない。
GNIとGDPの差にあたる海外からの純受取は2011 年度(確報の最新値)で14.8 兆円だが、
その大部分を占めるのが財産所得の14.6 兆円である。海外からの財産所得(純)は国内の部門別の
財産所得(純)の合計に等しくなる。
ここで、部門別の財産所得(純)の推移
を見ると4、家計部門は超低金利の長期化に
よって利子所得が大きく減少したことか
ら、ピーク時(1991 年度)の38.0 兆円か
ら2011 年度には12.1 兆円となり、この20
年間で25.8 兆円減少している。
一方、企業部門(非金融法人+金融機関)
の財産所得は、超低金利の継続による利払
い負担の軽減を主因として、改善を続けて
いる。企業部門の財産所得(純)は1991
3 内外情勢調査会での講演。首相官邸HPから引用。
4 国民経済計算では、2005 年基準から、FISIM(間接的に計測される金融仲介サービス)が導入された。ただし、FISIM
導入後の計数は2001 年度以降しか公表されておらず、2000 年度以前の計数との比較ができない。そのため、ここでは
2000 年度以前は2000 年基準の旧系列の計数、2001 年度以降は2005 年基準の新系列の計数をFISIM 調整前の計数に加
工して使用した。
▲40
▲30
▲20
▲10
0
10
20
30
40
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11
企業政府家計
財産所得(純)の部門別内訳
(注)FISIM調整前、00年度までは00年基準、01年度以降は05年基準
国内計
(兆円)
(年度)
(資料)内閣府「国民経済計算年報」
GDP GNI 差
95年度1.8% 1.9% 0.1%
96年度2.2% 2.6% 0.4%
97年度1.0% 1.1% 0.1%
98年度▲2.0% ▲2.0% ▲0.0%
99年度▲0.8% ▲0.9% ▲0.1%
00年度0.8% 1.0% 0.1%
01年度▲1.8% ▲1.5% 0.3%
02年度▲0.7% ▲0.9% ▲0.1%
03年度0.8% 0.9% 0.1%
04年度0.2% 0.4% 0.3%
05年度0.5% 1.1% 0.6%
06年度0.7% 1.1% 0.4%
07年度0.8% 1.2% 0.5%
08年度▲4.6% ▲4.9% ▲0.3%
09年度▲3.2% ▲3.5% ▲0.3%
10年度1.3% 1.3% 0.0%
11年度▲1.4% ▲1.1% 0.3%
12年度0.3% 0.4% 0.1%
平均▲0.2% ▲0.1% 0.1%
(資料)内閣府「国民経済計算」
GDP成長率とGNI成長率の比較(名目)
4| |Weekly エコノミスト・レター 2013-06-14|Copyright ©2013 NLI Research Institute All rights reserved
年度には▲29.1 兆円の支払超過だったが、2000 年度以降は受取超過に転じており、2011 年度の受
取額(純)は8.2 兆円となった。
政府部門は低金利によるプラス効果を債務残高の拡大によるマイナス効果が打ち消す形で、1991
年度が▲4.6 兆円、2011 年度が▲5.6 兆円と大きな変化は見られない
海外からの財産所得の受取(純)はこの20 年間で10 兆円以上増加したが、財産所得が増えてい
るのは企業部門だけということになる。
もちろん、所得の分配を財産所得だけで見るのは適切ではない。海外からの財産所得を直接受け
取るのは企業だとしても、賃金などの形で家計に分配されれば、家計が潤うことにつながるからだ。
そこで、国民総所得がどのように分配
されているのかを部門別の可処分所得
(総)の割合から見てみると、企業部門
は1990 年代前半までは10%台前半とな
っていたが、1990 年代後半から2000 年
代前半にかけて急上昇し、近年は20%台
前半で推移している。一方、家計部門は
1980 年代初め頃には70%近い水準とな
っていたが、その後低下傾向が続き2000
年代に入ってからは60%程度となって
いる。
企業部門は、本業で上げた利益に相当する「営業余剰」は低迷が続いているものの、財産所得の
改善幅が大きいために、営業余剰に財産所得(純)を加えた企業所得は景気循環による振れを伴い
ながらも右肩上がりで推移している。
これに対し、家計部門は景気低迷の長期化に伴う雇用者報酬の減少に、超低金利を主因とした財
産所得(純)の減少が加わることで、2011
年度の可処分所得は305.9 兆円となり、1997
年度の332.9 兆円よりも27.0 兆円少なくな
っている。
このように、国民総所得はあくまでも国
(居住者)全体の所得を表すもので、家計の
所得を把握する上では必ずしも適切な指標
とは言えない。家計が潤っているかどうかを
判断するためには、国民総所得がどのように
分配されているかを見ることが重要である。
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
80〜 85〜 90〜 95〜 00〜 05〜
家計企業政府民間非営利団体
部門別可処分所得(総)の割合(国民総所得比)
(注)各5年間(05〜は7年間)の平均
(資料)内閣府「国民経済計算年報」
(年度)
▲50
0
50
100
150
200
250
300
350
400
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11
雇用者報酬
営業余剰(純)
所得・富等に課される経常税
財産所得(純)
その他
家計の可処分所得(総)の内訳
可処分所得(総)
(注)その他は固定資本減耗+社会給付(純)+その他の経常移転(純) (年度)
(資料)内閣府「国民経済計算年報」
(兆円)
5| |Weekly エコノミスト・レター 2013-06-14|Copyright ©2013 NLI Research Institute All rights reserved
●実質GNIを左右する交易利得
ここまでは名目で議論を進めてきたが、実質の場合には「交易利得」の概念を加えて考える必要
がある。かつて(68SNA)の実質GNPでは輸出入の実質的な数量差による純輸出は含まれるもの
の、輸出入価格(デフレーター)の差によって生じる所得の実質額(=交易利得)はカウントされ
ていなかったが、93SNA では、所得を実質化する際に、交易条件の変化に伴う実質所得(購買力)
の変化を捉える「交易利得」を加えることで新たな調整を行い、国民が受取った実質的な所得をよ
り的確に表すこととなった。「実質GNI=実質GDP+海外からの所得の純受取(実質)+交易
利得」となる。
実質GDPと実質GNIの推移を見てみると、2010 年度までは実質GNIが実質GDPを上回っ
ていたが、2011 年度からはこの関係が逆転している5。両者の成長率を比較すると、名目とは逆に
ほぼ一貫して実質GNI成長率のほうが低く、過去18 年間平均の乖離幅は0.1%である。
名目の場合と同様に、海外からの所得はGNIの押し上げ要因だが、原油をはじめとした資源価
格の上昇などから輸出物価よりも輸入物価の伸びが高くなり、趨勢的に交易利得の減少が続いてい
るためである。交易利得はこの10 年間で▲26.4 兆円も減少している。ここにきて資源価格の上昇
は一服しているが、それに代わって円安が交易条件の悪化をもたらし始めている。
380
400
420
440
460
480
500
520
540
94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
▲20
▲10
0
10
20
30
40
50
60
海外からの所得の純受取(右目盛)
交易利得(右目盛)
差(実質GNI−実質GDP、右目盛)
(兆円) 実質GDPと実質GNIの推移
実質GNI
実質GDP
(兆円)
(資料)内閣府「国民経済計算」(年度)
▲5%
▲4%
▲3%
▲2%
▲1%
0%
1%
2%
3%
4%
5%
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
▲1.5%
▲1.0%
▲0.5%
0.0%
0.5%
1.0%
1.5%
(資料)内閣府「国民経済計算」
実質GDP成長率と実質GNI成長率の比較
(年度)
(前年度比)
実質GDP 実質GNI
差(実質GNI−実質GDP、右目盛)
骨太の方針では、今後10 年間で実質GDP成長率2%程度の成長を目指すもとで、実質国民総所
得(GNI)は年2%を上回る伸びとなることが期待されるとしている。実質GNI成長率が実質
GDP成長率を上回るためには、海外からの所得を増やすことに加え、省エネ・省資源、海外の資
源権益確保、エネルギー調達先の多角化などによる輸入品に対する価格交渉力の強化などを通じて、
交易条件の悪化による海外への所得流出に歯止めをかけることが重要となる。
経常収支の黒字が継続することを前提とすれば、名目GNIが名目GDPの伸びを上回ることは
比較的容易だが、実質GNIが実質GDPの伸びを上回ることは困難な課題といえる。
5 実質値はあくまでも2005 年を基準としたものであり、実額の水準そのものには意味がない。たとえば、基準年の交易
利得は理論的にはゼロとなる。
6| |Weekly エコノミスト・レター 2013-06-14|Copyright ©2013 NLI Research Institute All rights reserved
月次GDPの動向
2013 年4 月の月次GDPは、前月比0.1%と7 ヵ月連続の増加となった。
なお、現時点では、2013 年4-6 月期の実質GDPは前期比0.8%(年率3.2%)と3 四半期連続の
プラス成長になると予測している。
日本・月次GDP 予測結果
[月次] [四半期]
→実績値による推計実績← →予測
2012/11 2012/12 2013/1 2013/2 2013/3 2013/4 2012/10-12 2013/1-3 2013/4-6
実質GDP 518,130 519,135 520,927 523,251 527,401 527,696 517,920 523,188 527,384
前期比年率1.2% 4.1% 3.2%
前期比0.0% 0.2% 0.3% 0.4% 0.8% 0.1% 0.3% 1.0% 0.8%
前年同期比0.8% 0.0% 1.6% ▲1.2% 1.3% 1.0% 0.4% 0.4% 1.2%
内需(寄与度) 511,061 512,682 513,383 514,418 516,438 516,568 510,864 514,074 516,937
前期比0.2% 0.3% 0.1% 0.2% 0.4% 0.0% 0.4% 0.6% 0.5%
前年同期比1.5% 1.2% 1.5% 0.5% 1.4% 1.4% 1.4% 1.0% 1.2%
民需(寄与度) 384,939 386,375 386,175 387,714 390,152 390,118 385,292 388,013 389,540
前期比0.1% 0.3% ▲0.0% 0.3% 0.5% ▲0.0% 0.1% 0.5% 0.3%
前年同期比▲0.1% ▲0.3% 0.2% ▲0.7% 0.5% 0.5% ▲0.1% 0.0% 0.2%
民間消費309,305 310,236 310,910 311,794 313,403 313,766 309,293 312,036 312,793
前期比0.3% 0.3% 0.2% 0.3% 0.5% 0.1% 0.4% 0.9% 0.2%
前年同期比1.2% 0.6% 1.7% 0.4% 1.4% 1.5% 1.0% 1.2% 1.2%
民間住宅投資13,959 13,973 14,226 14,139 14,135 14,461 13,909 14,167 14,446
前期比1.2% 0.1% 1.8% ▲0.6% ▲0.0% 2.3% 3.5% 1.9% 2.0%
前年同期比6.3% 9.9% 11.4% 8.5% 8.2% 8.9% 5.8% 9.4% 9.2%
民間設備投資65,264 65,930 64,619 65,386 66,255 65,316 65,621 65,420 65,671
前期比▲0.6% 1.0% ▲2.0% 1.2% 1.3% ▲1.4% ▲1.5% ▲0.3% 0.4%
前年同期比▲8.2% ▲8.4% ▲6.7% ▲7.3% ▲2.2% ▲4.8% ▲7.1% ▲5.2% ▲4.5%
民間在庫(寄与度) -2,983 -3,158 -2,977 -3,004 -3,040 -2,823 -2,924 -3,007 -2,768
前期比▲0.1% ▲0.0% 0.0% ▲0.0% ▲0.0% 0.0% ▲0.1% ▲0.0% 0.0%
前年同期比0.1% 0.1% ▲0.2% ▲0.2% ▲0.2% 0.1% 0.1% ▲0.2% 0.1%
公需(寄与度) 125,938 126,123 127,033 126,529 126,111 126,275 125,388 125,886 127,221
前期比0.1% 0.0% 0.2% ▲0.1% ▲0.1% 0.0% 0.2% 0.1% 0.3%
前年同期比1.6% 1.5% 1.3% 1.2% 0.9% 0.8% 1.4% 1.0% 0.8%
政府消費102,146 102,499 102,569 102,729 102,892 102,874 101,740 102,171 102,613
前期比0.3% 0.3% 0.1% 0.2% 0.2% ▲0.0% 0.7% 0.4% 0.4%
前年同期比3.4% 3.8% 1.8% 3.0% 1.7% 1.9% 2.7% 1.6% 1.9%
公的固定資本形成23,787 23,618 24,418 23,754 23,174 23,355 23,688 23,782 24,562
前期比0.5% ▲0.7% 3.4% ▲2.7% ▲2.4% 0.8% 2.7% 0.4% 3.3%
前年同期比20.7% 19.4% 17.8% 11.1% 10.8% 10.0% 19.6% 13.1% 10.3%
外需(寄与度) 6,421 5,805 7,116 8,406 10,536 10,701 6,408 8,686 10,020
前期比▲0.1% ▲0.1% 0.3% 0.2% 0.4% 0.0% ▲0.1% 0.4% 0.3%
前年同期比▲0.8% ▲1.3% 0.1% ▲1.7% ▲0.2% ▲0.5% ▲0.9% ▲0.6% ▲0.1%
財貨・サービスの輸出78,527 78,024 79,670 80,973 83,485 84,065 78,396 81,376 83,492
前期比▲0.1% ▲0.6% 2.1% 1.6% 3.1% 0.7% ▲2.9% 3.8% 2.6%
前年同期比▲3.6% ▲6.2% 0.2% ▲7.1% ▲3.3% ▲5.1% ▲5.0% ▲3.5% ▲1.0%
財貨・サービスの輸入72,106 72,219 72,554 72,568 72,949 73,364 71,989 72,690 73,472
前期比0.6% 0.2% 0.5% 0.0% 0.5% 0.6% ▲2.2% 1.0% 1.1%
前年同期比1.7% 2.1% ▲0.1% 4.4% ▲2.8% ▲2.3% 6.7% 6.7% 6.7%
<民間消費の内訳>
家計消費(除く帰属家賃) 250,743 251,011 252,141 253,793 255,577 255,631 251,385 251,385 251,385
前期比▲0.1% 0.1% 0.5% 0.7% 0.7% 0.0% 0.4% 1.0% 0.3%
前年同期比1.0% 0.4% 1.5% 0.3% 1.2% 1.5% 0.8% 1.0% 1.2%
需要側推計前期比0.3% 0.4% 0.8% 0.8% 1.3% ▲1.3% ▲0.9% 2.3% ▲1.1%
前年同期比2.3% 1.6% 2.1% 1.2% 3.6% 0.2% 1.7% 2.3% ▲1.0%
供給側推計前期比▲0.4% ▲0.7% 2.0% ▲0.7% 1.0% 1.5% ▲0.2% 1.2% 1.0%
前年同期比1.3% 0.4% 0.4% 0.5% 0.4% 1.5% 1.0% 0.4% 1.4%
帰属家賃4,202 4,206 4,212 4,215 4,218 4,226 50,409 50,592 50,769
前期比0.1% 0.1% 0.1% 0.1% 0.1% 0.2% 0.3% 0.4% 0.4%
前年同期比1.3% 1.3% 1.3% 1.3% 1.3% 1.3% 1.3% 1.3% 1.3%
(注) 家計消費(除く帰属家賃)には「需要側推計」、「供給側推計」以外に「共通推計」部分が含まれる
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情
報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。


07. 2013年6月15日 22:20:25 : HX9lOYfaLo
米FRB、早期利上げの公算低い=PIMCOグロース氏
2013年 06月 15日 08:38

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G8首脳、成長と雇用が優先課題との認識で一致へ=米ホワイトハウス

[ニューヨーク 14日 ロイター] - 米債券運用会社パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)のビル・グロース共同最高投資責任者は14日、連邦準備理事会(FRB)が近く利上げする可能性は低いとの見方を示した。また米中期債に投資する好機だと指摘した。

グロース氏はPIMCOのウェブサイトに掲載されたリポートで「FRBが意味のある利上げに踏み切るのは少なくとも数年先になる」との見通しを示した。現在7.6%の米失業率は依然高く、FRBがすぐに緩和政策を解除することはないとしている。

中期債について、利回りが2%程度となっており投資妙味があるとの見解を示した。

償還期間が長めの債券は避けているとしたほか、景気リスクの影響を受けやすいセクターの社債への投資を減らしているとした。一方、米国やブラジル、メキシコ、オーストラリアなど経済が比較的強い国への投資を増やしているとした。

また、債券市場は依然ベアマーケットにはなっていないとの認識を表明した。

同氏は前月、31年間続いた債券市場の強気地合いが4月29日に終わったとの見方を示していたが、14日のリポートでは「同じようなブルマーケットにすぐに戻る可能性は低いが、ベアマーケットが始まっているとは思わない」とした。


08. 2013年6月16日 17:16:35 : xR0EVIRmR2
小笠原誠治の経済ニュースに異議あり! トップ |
黒田総裁が嵌ったジレンマ
2013/06/16 (日) 10:41


 私、先週、スキャンダルネタばかり扱っていた気がするので、本日は、経済学的な問題を扱いたいと思います。

 本日のテーマは、長期金利の上昇に対する対処策について、です。

 最近の株価と為替の乱高下の原因の一つは長期金利の上昇だと考えられています。もちろん、それ以外に理由を求める見方もあるとは思うのですが‥それでも、政治家や日銀関係者の多くが、長期金利の行方に関心を示しているのは事実です。

 多くの記者が、黒田総裁に、長期金利をコントロールすることができるのかと、畳み掛けます。

 そうすると黒田総裁は、「基本的には教科書が教えるとおり‥むにゃむにゃむにゃ‥長期金利を短期金利のようにコントロールすることはできないのだが、しかし、長期国債を大量に買い入れることによってリスクプレミアムを圧縮することができるので‥影響を及ぼすことはできる‥しかし‥」

 こうして歯切れが悪いものだから、市場からは見放されたのですよね。つまり、異次元の緩和策の賞味期限は短いかもしれないとの見方が生まれ‥

 そう思いませんか?

 いずれにしても、黒田総裁は、長期金利は3つの要因によって決まると言います。そして、それは日銀の公式見解でもあります。

 (1)物価の見通し
 (2)経済成長率の見通し
 (3)リスクプレミアム

 では、異次元緩和策によって、それら3つの要因にどのような影響が及ぶのか?

 先ず、異次元の緩和策が成功すると予想すれば、物価の見通しはどうなるでしょう?

 2%のインフレ率が達成されると予想すれば、長期金利を引き上げる効果があるでしょう。

 次に、経済成長率の見通しにはどのような影響があるでしょう?

 異次元緩和策が成功すれば、経済成長率が上昇することになるので、長期金利は上るでしょう。

 最後に、リスクプレミアムにはどのような影響があるでしょう。

 アベノミクスが思惑通りに成功し、そして、増税の必要性が小さくなるとでも考えるのであれば、リスクプレミアムは低下するでしょう。しかし、幾らアベノミクスがある程度成功しても、結局政府の借金は増えるだろうと予想する向きが多ければ、リスクプレミアムは増大するでしょう。

 従って、常識的な発想をする限り、異次元緩和策の実施によって、長期金利は上がると予想するのがまともな考え方だと思うのです。

 しかし、黒田総裁は、当初そう考えなかった。長期金利を引き下げることによって民間の投資が喚起されると主張した。

 では、何故長期金利が下がると考えたのか?

 それは、日銀が市場から国債をブラックホールのように吸収してしまうからなのです。つまり、力づくで長期金利を引き下げるのです。従って、そうして形成される長期金利は、市場のメカニズムが作用して自然に形成される金利とは異質のものであるのです。

 しかし、その力づくの政策も巧く行っていない。つまり、市場の力に押し戻されているのです。だから、黒田総裁の表情は冴えず、そして、そうやって困った表情をしているから、アベノミクスが失敗に終わる可能性に賭ける、つまり、株安と円高に賭ける投機家が増えるのです。

 いずれにしても、本日、私は一つだけ強調したいことがあります。

 黒田総裁は、今になっても、日銀の長期国債の買い入れがリスクプレミアムを縮小する効果があると繰り返しています。そして、専門家たちのなかからも、そのことに対する疑問の声を聞くことはありません。

 でも、それは大変おかしいのではないでしょうか?

 何度も何度も私が言っていることですが、日銀が長期国債を買い入れれば、一時的に長期金利を引き下げる効果があるのはそのとおり。それを否定するものではありません。しかし、だからといって、長期金利の構成要素であるリスクプレミアムを、どうして圧縮することになるのでしょうか?

 そもそも私は、日銀に質問したい。

 例えば長期金利が0.8%だと仮定して、そのうち、物価上昇率に起因する部分と、経済成長率に起因する部分と、そして、リスクプレミアムに起因する部分に分解したとしたら、それぞれの割合はどのようになるのか、と。

 例えば、0.8%の金利うち、0.1%程度がリスクプレミアムによるものなのか、それとも0.4%程度がリスクプレミアムによるものなのか?

 私は、現時点では、日本の国債は信用度が非常に高いので、リスクプレミアムはそれほど大きくはないのではないかと推測しているのです。

 そう思いませんか?

 仮に、そうではなくリスクプレミアムが結構大きいとしても、例えば、0.8%のうちの半分の0.4%を超えることはないでしょう。

 仮にそうだとすれば、幾ら日銀が長期国債をどんどん買い入れたところで、最大限0.4%分程度、長期金利を引き下げる効果しかないのです。その一方で、例えば、インフレ率が目標の半分の1%程度にまで上昇すると予想しただけでも、長期金利を1%ほど引き上げる効果があるでしょうから、そうなれば、結局、長期金利は上がって当然ということになるのです。

 それに、賢明な方ならお気づきだと思うのですが‥リスクプレミアムを縮小させる最大の要因は、政府が財政を健全化することであり、今のように途方もない規模で日銀が長期国債を買い続けることは、むしろリスクプレミアムを増大させることになる、と市場が受け止める可能性の方が大なのです。

 本日、私が言ったことは、それほど難しいことではありません。落ち着いて私の文章を2、3度繰り返して読んで頂ければ、十分理解して頂けると信じます。

 しかし、どうもそんなシンプルな理屈を黒田総裁は、未だに理解していない可能性があるのです。或いは、理解し始めているかもしれません。でも、理解すればするほど、長期金利をコントロールすることが困難なことだと分かり‥そして、もし、長期金利を引き上げたくないと思うならば、異次元緩和策を撤回する以外に方法がないということが分かり、どうにも解決策が浮かばないのだと思うのです。


 長期金利に関する、黒田総裁の考え方ではなく、オール日銀としての考え方を知りたいと思うのです。


(日銀のサイトより)

 岩田副総裁は、かつての学者同士での議論から、長期金利をコントロールすることは可能だという立場であることは承知しています。


09. 2013年6月16日 19:03:34 : 4pqaDeOAfU
2013年 6月 15日 13:54 JST
FOMCはドル円相場の乱高下に小休止をもたらすか 
By TAKASHI MOCHIZUKI

 【東京】ドル円相場は過去3週間にわたって乱高下し、急激な円高が起きたが、日本のトレーダーらは、米連邦準備制度理事会(FRB)が来週、量的緩和の見通しを明らかにして、このジェットコースター相場に終止符を打ってくれることを切望している。

画像を拡大する

Reuters
都内の株価電光掲示板の前を歩く人々

 みずほコーポレート銀行国際為替部の佐藤大参事役は来週予定されている米連邦公開市場委員会(FOMC)がカギを握るとみており、来週になって、今週がドルの底だったのか、それとも1ドル90円を切る落とし穴が目の前で口を開けているのかがわかるかもしれないと述べた。

 市場関係者は、来週18日と19日に予定されているFOMCで量的緩和の縮小計画の見通しが明らかにされることを期待している。

 円は5月22日以来、対ドルで10%上昇し、大幅な円高が進んでいるが、日本のトレーダーは円高に転じた具体的なきっかけが何だったのか、頭をひねっている。一部の人々は、中国の軟調な鉱工業生産を原因として指摘する一方、別の人々は「期待外れ」となった日本政府の成長戦略が原因と考えている。日本株式市場の暴落がきっかけになったと主張する人々さえいる。

 東京で米国ヘッジファンドを運用するあるトレーダーは、この数週間は生き残ることに必死でその瞬間のことをよく覚えていないが、中国やアベノミクス、リスク回避など、最初のきっかけは何でも考えられると述べた。

 ただ、FRBが量的緩和を縮小する可能性が全体的な動きのきっかけになったという点には、誰も異存がないようだ。FRBの資産買入れがこれまで市場を大きく支えてきたが、それが縮小される可能性が生じたために、世界経済の回復を確信していた投資家の間で再びリスク回避志向が強まる結果となった。

 クレディ・アグリコル銀行外国為替部の斎藤裕司ディレクターは、5月までは円を売ってドルを買い、さらにドルを売って新興国通貨を買う動きがみられたが、それが反転したと述べた。

 ウォール・ストリート・ジャーナルが先月、FRBの政策見通しの変化について報道した際、市場では当初、金利が上昇しても米経済は回復を持続できるほど力強いだろうと考えられていた。そして、債券から株式へと資金が大移動する「グレート・ローテーション(大転換)」への期待が高まった。それは金利上昇局面ではよりよいパフォーマンス結果をもたらすとされる。

 だが、3日に米供給管理協会(ISM)が5月の製造業景況指数を発表すると、そうした見方が一変した。景況指数が市場予想の50.7を下回り、好況・不況の分かれ目とされる50を切って49.0となったためだ。

 斎藤氏は、しかも悪いニュースが重なったと指摘する。6月末は大手銀やヘッジファンドも含め、大半の米企業にとって中間決算期となるため、突然の損失を回避するためにリスクの高いポジションは手仕舞われる傾向がある。それがさらに市場の変動を増幅した。

 FOMCで量的緩和の縮小モメンタムが高まったり、あるいは立場を明確にしなかった場合は対ドルでさらに円高が進み、トレーダーにとってジェットコースター相場が続く可能性が高い。一方、緩和縮小はまだないとの明確なメッセージが出れば、円高に歯止めがかかり、トレーダーらは一息つくことができるだろう。

 そうした場合、現在は3週間にわたってドル安・円高が続いているものの、トレーダーらは再び大幅な円高になるとはみていない。

 楽天証券の相馬勉債券事業部長は、これまであまりにも楽観的な円安のシナリオを夢見てきたトレーダーらがそれを調整しているだけと考える。

 日本経済のファンダメンタルズは堅調だ。1-3月期の経済成長率は年率4.1%となった。FRBによる段階的な量的緩和の縮小すら、トレーダーらは長期的にはドルにとって好材料になるとみている。

 多くの外国為替取引業者は再びドル高・円安基調に戻るとの見方で、大半は年末に1ドル105-110円のレンジを予想している。

 一方で、現在の市場の変動は耐えるしかないと考える向きもいる。あるトレーダーは、もう何でも来いという心境だ、と述べた。


 

 
2013年 6月 15日 15:17 JST
EU、米国との貿易投資協定の交渉開始で合意 
By MATTHEW DALTON

【ルクセンブルク】欧州連合(EU)は14日、閣僚級会合を開き、米国との包括的な貿易投資協定である環大西洋貿易投資協定(TTIP)の交渉開始で合意した。フランスは映画製作などの芸術分野向けの補助金を交渉から除外することを求め、他国と対立していたが、この補助金は当面、保護されることになった。

芸術分野への補助金は現在、国や地方の文化を保護するという目的で国際貿易のルール上、「文化特例」として認められている。

フランスには国内で製作した映画やテレビ番組、音楽を支援する強力なシステムがある。この文化特例が縮小されればフランスの映画製作会社は米映画産業に飲み込まれてしまうのではないかとの懸念から、フランスは特例を交渉の対象に含めることに反対した。

14日の会合では12時間にわたる協議の末、文化特例を当面保護するという妥協案で合意した。しかし、交渉を担当する欧州委員会はいつでも域内の各国政府に対し、文化特例を交渉の対象に含める許可を求めることができる。

EUの合意を受けて、米国とEUは今後数週間のうちに交渉を開始することができる。早ければ17日から2日間の日程で北アイルランドのロック・アーンで開かれる主要8カ国(G8)首脳会議でオバマ米大統領が欧州首脳と会談した際に交渉が開始される可能性もある。交渉自体には数年かかることもある。

英国のビンス・ケーブル・ビジネス担当相は「これは、われわれはロック・アーンの首脳会議で今年のG8の目標を果たし、さらに交渉を開始できるということを意味するだろう」と述べた。ケーブル氏はまた「合意の実現はわれわれ全ての利益にかなうものであり、待ち望まれていた活力を関係各国の経済に与えてくれるだろう」と話した。

EUが交渉開始に合意するだけでも容易ではなかったことから、交渉妥結に至る道のりも困難なものになることは想像に難くない。

当局者は野心的な協定を実現したいとしている。幅広い産業で大幅に関税を撤廃したり、規制を統一したりして、欧米間の貿易と投資の円滑化を図り、2地域間としては世界最大の経済関係を築くことを期待している。

また、欧州首脳は米国との協定が将来的に、景気が低迷しているEU加盟国に刺激を与えるとも考えている。

しかし、野心が膨らむほど、交渉はより困難になる。欧州は米国と直接交渉するほか、域内27カ国(今夏にクロアチアが加盟すれば28カ国になる)と欧州議会の利害関係を調整しなければならない。オバマ政権側は、意のままにならない議会のほか、合意によって影響を受け得る業界からのロビイストと渡り合う必要がある。

14日夜、フランスは文化特例が危険にさらされると主張して、提案を繰り返し拒否した。英国とドイツは最初からこの特例を除外すれば、欧州の影響力が損なわれ、米国が政府調達など経済的な重要度がはるかに高い分野を交渉から除外しかねないと懸念した。

深夜までにはEU各国はこうした懸念を乗り越えたものの、合意した後もぎくしゃくした雰囲気は残った。

フランスのニコル・ブリック貿易相は「欧州の特定の国が米国と直接交渉したと感じている。悪い印象が残った」と述べた。

14日の合意で文化特例は当面保護されることになったにもかかわらず、EUのカール・デフフト委員(通商担当)は、米国との交渉で音楽・映像分野を取り上げると述べた。

デフフト委員は14日の会合のあと、「(音楽・映像分野を)米国と議論して、相手方の意見を聞く準備はできている。そのときに追加的な交渉指示が必要になるかどうかについて結論を出すことになる」と述べた。


 


 


 


 

2013年 6月 15日 12:12 JST
大手邦銀、日本国債の保有リスクを削減 
By ATSUKO FUKASE, PHRED DVORAK

 【東京】日本の大手銀行の一角が、大量に保有する日本国債のリスクを削減している。日本銀行の異次元緩和による金融市場への影響の兆しが見え始めた。

 みずほフィナンシャルグループと三井住友フィナンシャルグループはバランスシート上の「金利リスク」を減らしていることを明らかにした。債券利回りが上昇して国債の価値が下落するリスクを回避するためだ。両行とも数十兆円規模の国債を保有している。

 みずほは5月に、10年物国債利回りが1%ポイント上昇すると、融資ポートフォリオで1000億―2000億円の含み損が発生すると述べていた。

 両行とも必ずしも国債を大量に売りに出しているというわけではない。そのような事態になれば、銀行のリスクは減っても既に変動の激しい国債市場がさらに混乱するだろう。少なくともみずほはウォール・ストリート・ジャーナルに対し、金利ヘッジを使って3分の1ほどの金利リスクを減らしていることを明らかにした。同社の債券保有高は30 兆円で変わりはないという。

 だが、この動きは、この数年間、緩やかながらも価格が上昇し続けてきた(利回りは低下)中で、国債のトレーディングから容易に利益を上げてきた国内最大級の銀行の見解が根本的に変化していることを示すものだ。

 国債市場は日銀が今年4月に国債買い入れ額を倍増することを発表してから劇的に変化してきた。日銀の狙いの一部には、銀行が国債を手放して資金を融資や投資に振り向け、国内の景気を刺激することもある。

 その後、債券市場は大きく変動し巨額の国債ポートフォリオを抱える各銀行が自主的に設けているボラティリティー規則に抵触した。一方で、今後は金利上昇が予想されることで債券価格は頭打ちとなった可能性が高く、国債のトレーディングから容易に利益を得る時代は終わった。日銀のデータによれば、国内の4大銀行は4月に10兆円程度の国債を売却し、4行を合わせた4月末の国債保有高は約96兆円となっている。

 三井住友フィナンシャルグループの中核行、三井住友銀行は、大手銀の中でも他行に先駆けて債券市場環境の変化を考慮し、投資ポートフォリオを変更し始めた。昨年11月に安倍晋三氏率いる自民党が衆院選で勝利し政権を握るとの見通しが濃厚になってすぐにリスクを再評価し始めたという。

 12月に政権を握った安倍首相は、デフレ脱却のためにもっと大胆な緩和策を実行するよう日銀に圧力をかけることを選挙前から明言していた。物価の上昇は金利の上昇と債券価格の下落をもたらす。

 三井住友銀行の宮田孝一社長は5月の決算会見で、同行は債券から外国為替商品や株式指数連動型の金融商品に運用方針を方向転換していると話した。

 みずほでは、佐藤康博社長主導で金利リスクに対応するための特別委員会を毎月開いており、さまざまなシナリオを想定して対応策を練っているという。同行幹部がウォール・ストリート・ジャーナルに明らかにした。同行の日本国内外を合わせた債券からの利益は現在、市場部門利益の90%を占めるが、3分の2程度にまで下がるとみているという。

 48兆円と最大の国債ポートフォリオを有する三菱UFJフィナンシャルグループは、債券戦略について最も寡黙な態度を取っている。5月の決算会見では、借り入れ需要が高まれば国債保有高の削減もあり得るが、現行の保有水準を維持すると述べた。

 だが、銀行筋によれば、借入需要が急増する可能性は当面低い。景気回復は緒についたばかりで、政府の景気刺激策もまだ本格的に始動していない。

 銀行幹部らは、いったん融資需要が高まり始めれば、政府が重点産業としている農業や医療に加え、海外のインフラ案件を中心に融資する予定だが、それまではたとえ債券保有額を減らすとしてもその資金はおそらく日銀に預けることになるだろうと話す。また、みずほの幹部は、同行の融資が増えたとしても、それが数千億円程度になるとのと見通しを示した。

 

 

 

 

2013年 6月 14日 15:38 JST
乱高下する日本株 投資家の反応さまざま

 【東京】13日午後2時少し前、日経平均が前日比約4%安となるなか、日本銀行の黒田東彦総裁は安倍晋三首相との会合を終え、3週間にわたる株式相場の乱調は近く終わりを告げると投資家を納得させようと試みた。

 「市場は次第に落ち着きを取り戻していく」。黒田氏は待ち構えていた記者団にこう語った。ここでのキーワードは「次第に」だ。

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Associated Press
13日、安倍首相との会談後、記者団に応じる日銀の黒田総裁

 世界中の投資家がここ数週間、「アベノミクス」と呼ばれる大胆な新しい経済刺激策のかじ取りを共同で行う安倍・黒田の2人組を神経質に見守っている。日本の多くの政策当局者やエコノミストは、市場は混乱しようとも、根底にある経済は順調だと強調している。

 だが、投資家の多くは最近の株価急騰の記憶がぬぐい切れず、それだけでは不十分だと感じている。日本の株式市場は世界史上まれにみる規模と速さの強気相場となっていた。昨年末、総選挙で安倍氏が首相に選出されるだろうとの期待がきっかけとなり、日経平均は半年で80%上昇した。1カ月未満で弱気相場の領域に突入するのも異例の急転回だ。

 「日銀は何らかの発言や行動をすると思うか。安倍首相は何らかの発言をすると思うか」。シティグループの外為・レート取引担当責任者、イテイ・タックマン氏(東京在勤)は13日、このような顧客からの質問への回答に終始したと話す。その日はほとんど眠れない夜を過ごしたあと午前7時にオフィスに到着した。円の急伸を中心とする夜中の市場動向を知らせるロンドンやニューヨークの同僚からのメッセージをチェックしていたためだ。

 少なくとも現在までのところ、日銀は投資家が望んでいること全てを実行してはいない。日銀は今週、市場を失望させ、日経平均株価とドルの下落を招いた。11日の政策決定会合終了後、主に日本国債の大量購入を通じて実施している刺激策について、投資家にはっきりと分かるような具体的な措置を取ることが広く期待されていたが、日銀はそれをしなかった。


日経平均は13日、5月後半のピーク水準を20%下回る価格で取引を終え、正式に弱気相場に突入した

 13日、来月行われる主要8カ国(G8)首脳会議について話し合うため黒田氏と首相が会談するとのニュースを受けて市場は一時上昇した、とロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の平野淳・外国為替営業部長(東京在勤)は説明した。「だけど黒田さんはいつもと同じようなことしか言わなかった。だからこっちの反応としては『So what?(それで?)』だ」と平野氏は話した。

 今やますます多くのトレーダーがあきらめムードとなり、混乱が過ぎ去るのをひたすら待っている。

 東京を拠点に活動する為替のテクニカルアナリスト、ダニエル・コーシャさんは、ここ数カ月日本の市場に押し寄せている大勢のデイトレーダーの1人。彼らはドルの急騰にチャンスを見いだし、ときに下落を見込んだ取引も行っている。こうした彼らの存在が相場のボラティリティー(変動性)を増幅している。

 コーシャさんは13日朝、円が夜中に急伸したことを受け、自らのチャートや指標を見てドルが反発すると予測、それを見込んだ取引を開始した。

 コーシャさんは、今年に入ってからのドル反発時に1カ月で最大39%の利益を上げたこともあったが、6月は現在までのところ「厳しい月」としか言いようがないと話す。今はチャートから数日目を離し、取引を休止している。「こういう経験をしたあとは通常、手を休めて状況を再確認し、再び挑戦することにしている」とコーシャさんは語った。

 日本の株式相場は5月下旬につまずき始めるまで、驚異的なペースで上昇していた。JPモルガン・チェースの5月下旬のリポートによると、世界のいずれかの国の主要株式市場が半年で70%も上昇したのは1927年以降、今回でわずか15回目で、日本でこれほど株価が上げたのは初めてだという。そのうち、半年の節目を過ぎても上昇し続けたのはわずか4回だ(米国では1933年に1度それを経験しているが、大恐慌のさなか、その勢いはあっけなく消えた)。

 上昇局面の序盤に株を購入した投資家には今もかなりの利益が残されているが、最近の急落で最も損をしているのは恐らく終盤に参加した個人投資家だろう。


The Nikkei Stock Average tumbled into bear market territory Thursday. The WSJ’s Jake Lee tells Deborah Kan why Japanese Prime Minister Shinzo Abe’s economic program is facing fresh doubts 東京郊外で年金生活を送る69歳の男性は、誘惑にあらがってしばらく静観を続け、ピークに達する2日前の5月21日、500万円を一挙に投じた。「ニュースをつけると、アベノミクスがどうとか、外国のヘッジファンドがまた日本に投資しているとか、そういうものばかり。友達と会うと、すぐにインターネットで1日でいくらもうけたとか、そういう話になる」と男性は投資を決断した経緯について述べ、「その日は良かったと思った。3時になって見てみると、もう儲かっているわけだから」と話した。

 しかし、それから1カ月もたたない13日の時点で既に100万円近くも損をしているという。それでも男性は「いや、売らない。そのうち上がるでしょう」と話した。

 資産運用会社ロベコの香港にある運用資産11億ドルのアジア太平洋株式ファンドを運用するミヒール・ファン・フォールスト氏は5月初め、自身のポートフォリオの日本株の持ち高を40%から36%に減らした。

 「相場はあまりにも速く、激しく上昇しているとわれわれは感じた。一定の利益を確保するチャンスだった」とフォールスト氏は述べ、輸出株と金融株を売却したと話した。

 5月の相場急落後、その他の投資家は市場に戻るタイミングをうかがったが、乱高下に困惑させられるだけだった。

 シンガポールを拠点とするゴーディアン・キャピタルのStart22ファンドで約2200万ドルの日本株を共同管理するマイケル・トレース氏は、5月に相場が下落し始めたとき自動車株を売却したが、6月に入って再び銀行や証券、不動産株を購入した。その後、日経平均は10日に4.9%反発したものの出来高が少ないことに警戒感を持ち、13日の相場急落前に証券株を素早く売却した。

 一方、デイトレーダーや空売り筋の多くは13日の急落を楽しんでいた。

 日本の証券会社でファンドマネジャーを務める勇内謙嗣郎さんは12日、ニューヨーク市場で円が急伸したのを目にし、まずその日は日産自動車株の下落を見込んで2億円相当を投じることを決めた。円高で輸出株が打撃を受けると判断したためだ。「やっている方は冷や汗」と勇内さんはそのときの心境を語った。日産株はその日、5.7%安となった。

 「もうかっている」。勇内さんはこう話したが、具体的な額には言及しなかった。


10. 2013年6月16日 19:13:17 : 4pqaDeOAfU
>>08 歯切れが悪いものだから、市場からは見放された

株価暴落は黒田総裁発言のせいではない


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