02. 2013年6月10日 10:02:30
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主権という幻想を追い求める国家 2013年06月10日(Mon) Financial Times (2013年6月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 国家が戻ってきた。1945年以降の多国間の秩序は崩壊しつつある。どこを見ても、国家主義が勢いを増している。既成勢力も新興勢力も、国家主権という伝統的な概念を掘り返している。こうした国々は、1648年のウェストファリア条約が生み出した国際体制を取り戻したいと考えている。彼らは幻想を追い求めている。 共産主義が崩壊した後、しばらくの間は、未来はポストモダン体制に属していた。この体制は、政治組織に欠かせない基盤だが、共通の利益を認識する。各国政府は協調的な安全保障と繁栄を支持し、国益という狭い概念を放棄する。近年の混乱の後でこう言うのは奇妙に思えるが、欧州連合(EU)は新たな国際秩序の模範と見なされていた。 この体制には非現実的な夢想以上の実体があった。グローバル化は経済的な相互依存を深めた。国家に対する脅威は、気候変動から流行病、テロリズムと非通常兵器の拡散から大量移住に至るまで、はっきりそれと分かる国際的な特性を備えている。 移動する資本、国境を越えたサプライチェーン(供給網)、そしてデジタル時代のつながりは、個々の国から力を奪う。失われた権威を取り戻す方法は、各国が協調して行動することだった。 ウェストファリア体制への郷愁? ところが、ムードが変わった。「台頭する」国は、「台頭を遂げた」国になると、ルールに基づく制度を受け入れるのを渋るようになった。そのルールが主に既成勢力の大国によって書かれたものである以上、なおのことだった。 一方、米国は「世界の警察」の役割から退きつつある。ユーロを救うために大幅な統合深化が求められているポストモダンの欧州でさえ、国家と超国家の緊張と格闘している。 新たな大国――中国、インド、ブラジル、南アフリカ共和国など――は、ジョン・ロールズの協調的な世界よりトーマス・ホッブズの絶対的な主権を好む。これらの国は、19世紀の世界のような景色を思い描いている。力というものが、最大の経済と軍隊を持つ国々に属し、競合する同盟関係によって均衡が保たれていた世界だ。 ウラジーミル・プーチン大統領が専制国家を再び築こうとしているロシアも、ほとんど同じ見解を抱いている。主権は不可侵なのだ。ウェストファリア体制の内政不干渉の原則に従うと、世界はシリアの残忍なバシャル・アル・アサド政権をそのままにしておかなければならない。 米国は「世界の警官」の役割から退き始めている〔AFPBB News〕
現在の体制を設計した立役者であるにもかかわらず、米国は常に、自国の行動の自由を制限することに微妙な感情を抱いてきた。だが、かなり最近まで、自国の好みに合うように国際的なルールを定めることで、矛盾する考えを両立させることができた。 しかし今、米議会は主権を侵害する恐れがあるとの理由から、全く当たり障りのない国際条約にさえ調印することを拒んでいる。 バラク・オバマ大統領率いる米政権は口先では、ベルリンの壁崩壊後にジョージ・H・W・ブッシュ元大統領が一時思い描いた新しい国際秩序に賛同する。だが、台頭する中国に挑まれ、気難しいロシアに妨害されている米国は、国際主義に嫌気が差している。 一極体制の時期は、自給自足の超大国の時代に道を譲った。米国はどの国にも増して、世界と距離を置くことができる地理、天然資源、経済を備えている。米国は今、壮大な多国間体制よりも有志連合を好むようになっている。 欧州では、事情はもっと複雑だ。ユーロ圏17カ国はより多くの主権の共有化にコミットしているが、ユーロ危機は国家主義の亡霊を呼び覚ました。フランスのフランソワ・オランド大統領は、欧州政治同盟の必要性について雄弁に語ったかと思えば、次の瞬間には、フランスの経済問題に対する欧州委員会の干渉を激しく批判する。 国内問題を「部外者」のせいにすることほど容易なことはない 欧州各国ではEUに対する不信感が高まり、各地で国家主義者が勢いを増している〔AFPBB News〕
EUに反感を抱いているのは、英国の保守党だけではない。経済的なストレスと不安の時代にあって、大陸全土の国家主義者が魅惑的な調べを奏でている。 国が抱える国内問題を「部外者」――それが移民であれ、ブリュッセルの官僚であれ――のせいにすることほど容易なことはない。 これに対抗する見方もある。筆者は先日、外交政策を専門とするアイルランドのシンクタンク、国際経済問題研究所(IIEA)がダブリンで開催した主権とグローバル化に関する会議で、そうした見解を耳にした。 アイルランドは世界金融危機の後、大変な苦難に耐えた。だが、EUとユーロ圏に対するコミットメントは揺らいでいない。大半のアイルランド市民は今も、ダブリン大学トリニティカレッジの学者、ジョン・オヘイガン氏に同意する。同氏は会議で、アイルランドは国家主権を共有することで、自国の利益を追求する力を高めたと語った。 小国も大国も避けられない「グローバル化の事実」 この相互依存は、小国のみならず、大国にとっても避けられない現実だ。国家のムードは変わったかもしれないが、グローバル化の事実は変わっていない。どちらかと言えば、国家権力が非国家主体へと拡散する動きは加速した。 高齢化が進み、世界経済に占める割合が急激に低下する大陸として、欧州は自分たちの価値観と利益を守るために一体となって行動しなければならない。中国は、気候変動の荒廃や、開かれた市場と世界的な供給ルートへの脅威に非常に脆い。米国は、比較的自給自足が成り立っているにしても、自国の繁栄と安全保障に対する遠くの脅威を避けられない。 我々の元に残された矛盾は、国家主権が大いに尊ばれる一方で、行動する能力と厳密に定義した場合、主権が次第に効果を失っている世界だ。世界の国々は、古い秩序を新しい取り決めに改め、国家の目標だけでなく共通の目標を認めることに、避けられない利害を共有している。 だからと言って、各国が実際にそうするわけではない。歴史は、政治家が幻想を追求することを選んだ不幸な事例に満ちている。欧州は来年、初期のグローバル化時代が流血のうちに終わってから100周年を迎える。 By Philip Stephens
混迷深まるキプロス、救世主はロシアから中国へ? 街中に突然増え始めた中国語の看板 2013年06月10日(Mon) 大坪 祐介 日本では株価の急回復とともにすっかり忘れ去られた感のあるキプロスだが、各種報道によれば国内経済はその混迷の度合いを一段と強めている。4月27日付の英エコノミスト誌で報じられた地元コンサル会社の推計によれば、2013年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス15%、さらに2014年もマイナス15%の景気後退が続くという。 筆者は4月14〜15日の2日間、キプロスのリマソルで開催された Global Russia Business Meeting(GRBM)に出席する機会があり、ちょうど2年ぶりにキプロスを訪れる機会があったので、その様子をリポートしたい。 プールやビーチはロシア人でいっぱい リマソル市内 週末夜のレストラン、客は筆者のグループのみ リマソルはキプロス第2の都市でキプロス島の南側、地中海に面した港町・商業都市である。 港に続く海岸線はキプロス最大のリゾートエリアで高級ホテルが立ち並んでいる。
特にロシア人には人気の高いエリアで、街中にはロシア語の看板が立ち並んでいる。 今回のGRBMの会場となった Four Seasons ホテル(世界的な高級ホテルチェーンのフォーシーズンズ ホテルズ&リゾートとは無関係)も金融危機前は客の8割がロシア人とのことであった。 この時は金融危機後でかつロシアの連休前でもあり、閑古鳥が鳴いているかと思いきや、それでもプールサイドやビーチはロシア人でそこそこ賑わっていた。 リマソル市内のショーウインドウには裸のマネキン この時期にキプロスでロシアビジネスフォーラムというのも何とも酔狂な話であるが、会議の開催自体は1年前から決まっており、筆者も1年前からパネルへの参加を誘われていた。
何よりも筆者の投資先のロシア企業もキプロス親会社の会社が多いので、現地調査にはいい機会と判断しモスクワから3時間のフライトに乗った。果たして週末のキプロス行きの便はロシア人観光客で満席であった。 ところで、このGRBMはスイスのホラシス(Horasis)という国際組織が主催したコンファレンスで、今回はロシアとキプロスを中心に30カ国、300人以上の政府関係者、ビジネスパーソンが集まり、2日間にわたって各テーマに分かれて議論を行った。 ホラシス会長のフランク・ユルゲン・リヒター(Frank Jurgen Richter)氏は、前職はワールド・エコノミック・フォーラム(ダボス会議)のディレクター、かつて慶応義塾大学で国際政治学を修めた知日派でもある。 彼はロシアのほかインド、中国、アラブ諸国にフォーカスしたビジネスイベントをヨーロッパで開催しており、ロシアは2010年から毎年開催、今回は4回目である 今年はロシアからの出席者は若干少ないように思えたが、その分、湾岸諸国や欧州からの参加者が増えたように感じた。日本からは例年2〜3人がモスクワから参加しているが、今回はジェトロのドバイ事務所が参加していたのが目を引いた。 ロシアへの影響は思ったより軽微 リマソル市内の至る所に「FOR RENT」の看板が さて、問題のキプロスであるが、筆者はポジティブ、ネガティブ両方の印象を受けた。
まずポジティブな印象は、キプロス危機のロシアへの影響は思ったより小さいということである。ディナーのテーブルで隣に座ったプライスウォーターハウスクーパース(PwC)のディレクターにロシアへの影響をストレートに尋ねてみたのだが、答えは「さほど大きくはない」とのことだった。 その理由はロシア人やロシア企業にとってキプロスは資金の最終投資先ではなく、一時的な通過地点なので、そもそも滞留資金は大きくないこと、またロシア人は昨年夏から秋にかけて(昨年の記事参照)急速にキプロスから資金を移動させており、3月の時点で残っていた資金はさらに少ないのではないかという説明であった。 ハイウエイ沿いにはロシア人に宛てられたメッセージ 「兄弟よ、我々はいつも共にある」。それを見たロシア人は「俺たちはいつからキプロスと兄弟になったんだ?」 同じ説明は、キプロスからモスクワに戻って、知り合いの弁護士からも聞かされた。特にロシア人のキプロスからの資金移動に関しては昨年12月がピークではないかとのことであった。
年が明けてからは、彼のオフィスにはキプロスの知り合いの弁護士からの電話がひっきりなしにかかり、「ロシア人のマネーはいつになったら戻るのか」という問い合わせばかりだったという。 GRBM参加者の中には、ロシア・ナンバーワンの資産家ウスマノフ氏の資産管理会社の財務担当者もいたが、もしロシアのオリガルヒが甚大な損失を被っていたとすれば、こうした会合で和やかに議論に参加することはないだろう。 ともあれ欧州がロシアへの牽制を込めてキプロスに強硬策を迫ったのだとしたら、それはやや的外れであったと言わざるを得ない。 もちろん、ロシアの中小企業や富裕層の一部には甚大な影響を被った先がないとは言えないが、ロシア経済を揺るがすインパクトはない。むしろ、次に述べるようにキプロスそのものへの影響がはるかに大きかったと言えよう。 キプロス経済に対する金融危機の影響は筆者の想像を超えていた。リマソルの街中を歩いてみると、商店の3軒に1軒は閉店しているような状況である。飲食店も営業しているのはマクドナルドやスターバックスといった外国資本の店ばかりで、地元の飲食店は閉店してしまったか、開店休業状態の店がほとんどである。 インフラの老朽化で観光産業にダメージ 中国語の不動産広告 同じ時期にキプロスの別の観光都市パフォスに滞在したロシア人の友人の話では、パフォスは以前と変わりなく賑やかだったとのことだが、それも時間の問題ではないだろうか。
キプロスの基幹産業は観光業(と金融)であったが、もはやキプロスに外国資本の投資は期待できない。ホテルはじめ観光インフラも老朽化が進む一方だろうし、そうした観光地には観光客の出足が鈍ることは目に見えている。 もちろん、キプロス当局の危機感は並ではない。BRGMのディナーではアナスタシアデス大統領が出席、金融危機後初めて公のスピーチを行った。30分近くに及ぶ熱弁のほとんどはEUへの恨み言が多かったように記憶する。 3ベッドルーム、プライベートプール付き、30万ユーロから・・・ 何より印象的だったのはロシアマネーを引き留めるための苦肉の策、「300万ドル以上の損失を被ったロシア人には、キプロスの市民権(=EUパスポート)を与えることを検討している」との発言だった。
大統領は万来の拍手を期待していたのかもしれないが、周りのロシア人は呆気に取られるか苦笑するか、いずれにしても歓心を買うことはできなかったようだ。「同じEU加盟国のラトビアなら1万5000ドルも払えばパスポート買えるからね・・・」 ところで、今回のキプロスの金融危機対応、すなわち「ベイルイン」に対して、BRGMと同じ週にモスクワで開催されたズベルバンクフォーラムでバルセロヴィッツ元ポーランド中銀総裁、副首相兼大蔵大臣が興味深い発言をしていた。 曰く、「キプロス自身に痛みを伴う措置が必要であったことは理解できる。しかし、欧州中央銀行(ECB)と国際通貨基金(IMF)はアイルランドは救済したのにキプロスは見放した。その基準が不明確であることには疑問を感じる」 さて、最後に気になったのが2年前には全く見かけなかった中国語の看板である。今回は空港はじめ、島内の至る所で目にした。 中国と言えば、BRGMに出席していた筆者の友人の話も興味深い。彼は昨年秋にロシアの大手不動産開発会社の社長を辞め、余生は(といっても筆者よりも若い)はイタリアでと話していたのだが、つい先日、中国の会社で働くことにしたとの由。 中国の西の端、新疆ウイグル自治区の首都ウルムチから、シベリアの中心都市ノボシビリスクまでハイウエーを建設するプロジェクトの社長になったという。同プロジェクトは3月下旬の習近平国家主席とプーチン大統領の会談で合意されたプロジェクトだが、ロシアも中国の資金力には一目置かざるを得ないようだ。 ともあれ、キプロスにはロシアのみならず、中国という頼り甲斐のある兄も現れたようである。EUに見放されたキプロスが3兄弟で復活を果たすのか、引き続き注目したい。
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