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アベノミクスの宴はいつまで続くのか?3本の矢が突き刺さらなければ、期待は一気にしぼんでしまうだろう(撮影:尾形文繁)
あなたは今、なぜ株を買うのか?アベノミクス3本の矢は、標的に当たったのか
http://toyokeizai.net/articles/-/14190
2013年06月07日 ムーギー・キム:プライベートエクイティ投資家 東洋経済オンライン
グローバル化の進展により、国の枠を超えて活躍する「グローバルエリート」が生まれている。しかし、そのリアルな姿はなかなか伝わってこない。グローバルエリートたちは何を考え、何に悩み、どんな日々を送っているのか? 日本生まれの韓国人であり、国際金融マンとして、シンガポール、香港、欧州を舞台に活動する著者が、経済、ビジネス、キャリア、そして、身近な生活ネタを縦横無尽につづる。
「うっわー、ほんまどこの経済紙見てもアベノミクス、アホノミクス、株価が上がるかどうか、そんなんばっかりやな。どうせ経済専門家や株式専門家の話なんてほぼ全て的外れやのに、なんで皆こう読みたがるんや。そもそも円急落でドル建てで見たらS&P500のパフォーマンスを下回ってるのに、一体何がそんなに嬉しいんや!!」
さて、ここ数週間アベノミクスや株価関連の話題で「東洋経済オンライン」が埋め尽くされているが、遅ればせながら私もフランスの彼方から参戦させていただこう。というのも、最近、こちらフランスの世界マクロ経済関連のカンファレンスで超久しぶりに日本のことが話題になり、アベノミクスに関して海外でも関心が高まっているからだ。
6月になったら株が高騰するとか、再度秋口には崩壊とか、なんとでも言えるわけだが、私の長年の経験から確かなのは株価のリターンはほぼランダムであり、変数も多すぎて予測などできないという一点に尽きる。かといって資産運用会社のサービスは無意味だと言っているわけではないので私の業界の友人の皆様は怒らないでいただきたいのだが、ともあれ最近の株価動向に関して所感を述べさせていただこう。
■株式投資の専門家も当たる確率は5割
最近の株価動向だが、別に実物経済の力強い下支え(つまり8割の株価上昇を支える8割の利益上昇)があったわけではなく、ファンダメンタルのサポートがついてきていないだけに、株価は期待値と需給の乱高下によりボラティリティが極めて大いのは当然である。最近の急激な売り浴びせに戸惑った経験豊かなアセットマネジャーが“どこかの国が陰謀で売り浴びせている”とか滑稽なことを言い出すくらい、日本株ストロングバイキャンペーンを行ってきた直後のファンドの皆さんを当惑させている。
さて、まず株式投資の基本だが、“株式投資専門家”の意見を決して真に受けてはならない。
明日の株価はほぼ50%の確率で上がり、50%の確率で下がり、その上がり幅の確率分布は見事に正規分布に従う。大幅に上がればその反動で大幅に下がることが多く、儲けているのは最初に動いた一部のアーリームーバーと、ボラティリティで稼ぐデリバティブ投資家の皆さん(つまり上がっても下がっても儲かるプロダクト)だけである。その値動きの理由について金融機関や金融情報誌は毎日レポートを送ってくるが、書いているほうも読んでいるほうも、実際は「ランダムな値動きに後付けで何とでも言えるわな」と鼻で笑っている。
少なくとも本当になぜ上がっているのか、下がっているのか、真実を知っている人はほぼおらず、また将来、どうなるかに関しては100%知らないのに、皆が的外れな理由を面白おかしく「あーだこーだ」言い合って、乱痴気騒ぎに興じているのである。
■外しても平然としている“専門家”たち
私は知った顔して株価は2万円になるとか(ちなみに誰とは言わないが、この方は、いつも日本株は2万円になると10年くらい言い続けているので、業界では「またかよ」と笑っていたりする)、6月に株価調整とか、円は50円にとか、どうせ外れるのに堂々と吹聴できる人の胆力をうらやましく思う。
これは読み手の忘却力と、今までも外れまくってきたけど怒られなかったから今回外しても大丈夫、という習慣化した無責任さの賜物だろうか。もしくは、「みんな外れるんだから、みんなで外せば怖くない」の心境だろうか。はたまた、過激な一言を言わないとメディアで取り上げられないので仕方ないのだろうか。(たしかに私が、“株価の動向は諸々の不確定な変数に依存し、将来動向の予測は困難である”という真実を断言したところで誰も注目しないだろう)
どうせ大半の場合、半分の確率で当たり、半分は外れるので、何かたくさん予言すると一部はランダムに当たるわけだが、それを本気で信じるナイーブな投資家の皆さんのおかげで、アベバブル破裂(高い期待値に応じた実績が伴わなければ、バブルということになる)のインパクトが大きくなっていくのである。
■金融緩和ストーリーに飽きた機関投資家
さて、安倍氏は期待の醸成に成功した。というか、今まで低すぎた期待値への反動を待つ投資家のセンチメントを刺激するのに成功し、ふんわりとした期待で外国人投資家が流入して株価のラリーが続いてきた。日本株は昨年後半までさすがに売られすぎていたので、世界経済が上向く中、バリュエーションが極端に低い日本株は資金を流しやすい対象であった。
また、中国などにたらふくエクスポージャーをもっている海外投資家は、中国経済成長の鈍化に伴い世界の株式配分をリバランスしたいわけだが、欧米以外に配分する巨大資金の受け皿となるのは、市場規模からいって日本であった(インドネシアなどにも流入したが市場規模が小さくすぐにバリュエーションが高騰した)。
加えて欧米の経済も底をつき、米国市場の指標が強い中、円に逃避していたドルやユーロに資金が還流するタイミングを探るうち、その大きな調整の流れに政権交代と大幅金融緩和の期待値が円安と株高にモメンタムを与えた。
「そんなもん聞き飽きたわ!!」とのおしかりの声が聞こえてきそうだが、皆様と同様にこのストーリーに多くの投資家が飽き出した今、今後は市場が金融政策・財政政策・成長戦略というアベノミクスの矢が的に当たったのか、マクロ経済と企業業績の数字を見定めにかかる段階に突入している。安倍氏就任から半年が過ぎ、もはや“大幅金融緩和”“大幅財政拡大”という語りつくされたストーリーに食いつく投資家はいない。
■時限爆弾・日本国債が破裂するタイミング
なお、アベノミクス最大の懸案事項とされる日本国債の行方だが、その大量売却は資産の大半を占める国債の値崩れリスクがあるので、「too big to sell(大量に保有しすぎて売れない)」といった恐ろしい資産になりつつある。どの機関投資家かは大きな声で言えないが、政府が刷りまくる国債をほぼ機械的に買わされ、いつか破裂する“売れない大量の国債ポジション”という時限爆弾を無理やり持たされている。
日本のネット金融資産を見れば、あと5年もすれば外国人投資家が買ってくれないと需給の面からも暴落するわけだが、そのときに“逃避先”としてでなく実力で買ってもらえる国債になれているか、甚だ疑問である。アベノミクスの放った矢が、円安と株価上昇の引き換えに全国民が大量に持たされている国債暴落の風船に突き刺さらないか、安倍氏が放った矢の突き刺さる先が心配である。
■外国人投資家にとっては、買うべき国がたくさんある
歴史的に日本株が上がっているときは、売買金額に占める外国人機関投資家の割合は5割近くに上り、外国人機関投資家が日本株をどのように見るかが株価の行方を決めるので、持続的な株価上昇には外国人機関投資家の関心が不可欠だ。
ただ、大昔のエマージングマーケットやアメリカ、欧州以外の投資先となると、日本しかなかった20年前とかと異なり、今や日本の金融市場をはるかに凌駕するするグレーター・チャイナ・マーケットを含むBRICs、その他OECD諸国にASEAN、ラテンアメリカ、中東、そしてアフリカとの資金獲得競争が起こっており、並大抵のことでは彼らは買い続けてくれない。
そんな中、外国人機関投資家およびその機関投資家におカネを振り分ける世界中の年金基金・大学基金・個人投資家等は、結局、日本がこれらの国々より長期的に魅力的な投資対象とみなせなければ、短期的にボラティリティで稼いで去っていくヘッジファンドはともかく、持続的に日本株を買い持ちしてはくれないのだ。
大切なのは市場を刺激する短期的な期待醸成ではなく、持続可能な、実績で裏打ちできる持続可能な期待を形成することである。
■痛みの伴わない成長戦略など無用
持続可能な期待のためにも、結局は経済および企業業績の実績に基づく数値で“3本目の矢”である成長ストーリーを長期的に描けるかが問題だが、これがいちばん難しい。
そのためには「日本は長年の無駄な構造をこのように変えている!」という本気の改革ストーリーを実績で見せていく必要があり、そのためには郵貯民営化の徹底を含む支持基盤に痛みの伴う改革が必要になるし、それ以前に政治の無駄を省く議員の大幅削減も含まれる。(たぶんできないだろうが)自民党が自らの支持基盤を痛める成長ストーリーを参院選前に打ち出せるか見ものだが、逆に言えば誰も困らない成長戦略なら無意味だと断定してよい。
財政の矢は需要を高めるが、サプライサイドの強化に回らなければ、ただでも緩い財政の規律を弱めて長期金利に跳ね返ってくる。金融の矢は円安を招いたが急激でボラティリティの高い為替変動は副作用も多い。打ち出の小槌がない以上、何を捨てて何を得るのか、誠実に国民にコミニュケーションすべきだ。
ちなみに為替が、週の頭に103円になったかと思えば、昨日は95円まで一気に上がったが、このように急激に振れる不安定な状況だと、ドルを円に換える為替差損リスクが大きくなり、対日投資が鈍る原因にもなるので、為替の乱高下に対する政策も重要になる。
急激に円安に振れれば揺り戻しの円高も急激になるので、一時的に円安が進んだからというだけで“放った矢”の効果を図ることはできないのである。
■資産運用会社の広告に惑わされてはいけない
ぶつぶつ申し上げてきたが、最後に「投資すべきかどうか」という問いに対し、私見を申し上げよう。こういう株高が続くと、そのモメンタムを利用して受託資産を増やそうと、“ストロングバイ・ジャパンキャンペーン”とか怪しげな日本株キャンペーンを資産運用会社が開始するが、その手のキャンペーンに乗って儲かっている人を見たことがない。これは何を隠そう、(東洋経済以外の)週刊誌や新聞やテレビで株高を知った頃には、すでに時遅しで、あなたより遅く株価上昇トレンドに気づく人がほぼいないためである。
そこで冷静に考えるべきは、はたして今まで株式投資などしたことなかった大阪の高槻市に住む普通のおばちゃんであるあなたのお母さんに、真っ先においしい金儲けの話が回ってくるか、ということである。もし「なぜこの株を買うのか」という自問の答えが「隣町の田中さんの奥さんも買ってはるから。あの人、20年前NTTで大儲けしはってんで!」であれば、決して買ってはならない。
私はこれを“地元のおばさんインディケーター”と呼んでいるのだが、田舎にいる遠戚のおばさんが「ムーギーちゃん、今どの株買うたらええんや? なんかあんた、投資の仕事してるらしいやないの。ウチようわからへんけど、銀行の担当者が“ふぁんど”いうやつ勧めてくるねけど、これ、ぎょうさん儲かるんか?」などと言いだしたら、市場のピークは過ぎ去っていると思っていただいて間違いない。
■なぜあなたは、その株を買うのか?
最近、ヨーロッパの大手投資ファンドの会長と話す機会があり、投資で成功の秘訣を聞いたら示唆に富む言葉をいただいた。
「私の30年にわたる投資キャリアの中で、他人に高く転売できるから、と思って買うと、安く買っても失敗してきた。逆に高づかみしても、自分がその資産にファンダメンタルな価値があると確信を持てたときは、オークション案件で他社の2倍支払っても、結局儲かった」とおっしゃっていた。
ほかの人がきっと高く買ってくれるから、ではなく、自分でその価値を正当化する理由を説明できないなら、投資などすべきでない、ということである。
末筆ながら、いきなり投資素人の自分がどうやって投資を勉強したらいいのか、途方に暮れておられる方も多いだろう。しかし安心してほしい。ちょっと先の話になるが、夏休みに私が数日来日する際、特別企画「グローバルエリートが来た! 投資ド素人対象・グローバル投資学習講演会」が開催される(かもしれない)ので、ご希望の方はこちらまでお願いしたい(皆様の投資や金融、ないし過去コラムに関する御質問を併記していただければ編集部が公正な抽選をさせていただきます)。
アベノミクスの放った金融・財政・成長戦略の矢が、あなたの家計の風船に突き刺さって破裂することのないよう、フランスの彼方から緊急来日し、ささやかなお手伝いをさせていただく所存である。
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