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アメリカのロックバンド、イーグルスのヒット曲「ホテル・カリフォルニア」。その歌詞の中に、「好きなときにチェックアウトできるが、決して立ち去ることはできない」といった意味のフレーズがある。「ホテル・カリフォルニア」的金融政策――。アメリカでは出口政策の難しさに対する不安の声がFRB内部からも出ているという。
2%のインフレ率が達成されたとき長期金利はどこまで上がるのか、その際、日本の金融機関はどのような影響を受けるのか。各国の中央銀行関係者は世界的な緩和競争とも言える現状をどう見ているのか。そして任期が見えているバーナンキFRB議長は「勝ち逃げ」なのか――。FRBなど各国の中央銀行関係者と頻繁に情報交換している河野龍太郎氏と加藤出氏とのお二人に、“大本営発表”からは見えない、金融緩和策のもう一つの顔について語ってもらった。(聞き手は飯村かおり)
--- 金融緩和政策の副作用についてお聞きしたいと思います。
河野:バブルは既に始まっているのではありませんか?
加藤:そうですね。
河野:私は昨年末からアセット・バブルは始まっていると言ってきました。そもそも、もっと以前から日本では、相当大きな金融緩和の弊害が出てきていると私は思っている。
どういうことかというと、本来であれば金融機関の役割は、預金者の預金を成長分野に振り向け、有望な企業に資金を貸し出すことで収益を上げるというものです。ところが、中央銀行が非常に低い資本コストを可能にしていて、さらに国債購入政策で国債価格をサポートしている環境下では、金融機関はわざわざリスクを取って貸出先や成長分野を見いだすよりも、収益性はそれほど高くはないが、安全で価格もサポートされている国債を買った方がいい。このようなメカニズムが働いていて、おそらく一種のファイナンシャル・リプレッション(金融抑圧)(注1)が既に始まっていたのだろうと思います。
(注1)ファイナンシャル・リプレッション(金融抑圧):政府の実質債務と利払い負担を減らすため、公的関与を強め、長期金利を低く抑えるという政策。
黒田総裁は「基本的に財政規律は国会と政府の責任である」と発言している。これは正しいですが、本来、金融市場に任せていれば、追加的に国債を発行するとき、市場が警告を発するという形で、長期金利の上昇が始まり、政治的な財政膨張圧力への歯止めになる。
しかし、中央銀行が国債を大量に買うことによって、金利上昇をずっと回避してきた。だからこそ、これほど大きく公的債務が膨らんでいる。この問題は既に起こり、ずっと続いていると私は思います。
長期金利が上昇したときのシミュレーション
河野:中央銀行による大量の国債保有は、今後より大きな問題になってくる可能性があります。特に出口のときは、政治的プレッシャーというよりは、目の前の危機に対応せざるを得ないから、中央銀行は物価安定を犠牲にせざるを得ない、という状況に追い込まれるのではないでしょうか。
最近、シミュレーションをしたのですが、2%のインフレ率が達成されると、日本の均衡実質金利は1%程度なので、自然体でいけば、長期金利は、少なくとも3%ぐらいにはなる。そこにリスクプレミアムが乗っかってくれば、4%か5%ぐらいという状況になるかもしれない。
このとき3%ぐらいの長期金利であれば、大手金融機関、第1地銀、第2地銀は対応可能です。4%になると、第1地銀、第2地銀のような地域金融機関の一部で資本が不足し、金融システムの動揺が始まる可能性があります。長期金利が5%になってくると、一部のメガバンクも資本不足に直面し、金融システム危機は避けられないと思います。
ただ、中小企業金融機関等と呼ばれる一部の金融機関については、大量の長期国債を保有しているため、長期金利が3%を超えてくると、経営問題が起きてくる。そのこと自体が金融システムを動揺させるわけではありませんが、政治力を持っているので、政府がそこに財政的なサポートをする可能性がある。
そうしたゾンビ金融機関を延命させるという議論になると、金融市場では、いくらお金をつぎ込んでも足りないという話になり、際限のない財政資金の投入を懸念し、長期金利が上昇、金融システム不安の引き金を引く可能性があります。そうすると、日本銀行の一義的な目的は物価安定ですが、金融システムの安定も同様に目的でありますから、目の前に金融システム危機があるなら、長期金利の上昇を抑えるためにまたまた国債を買わざるを得ない、物価安定は当然、犠牲にせざるを得ないということになってしまいます。
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加藤:白川総裁の時代の日銀も実際はかなり緩和策を進めていましたが、なぜもっと思い切ってやらないのかと周囲から批判されていたのは、緩やかなデフレを緩やかなインフレに持っていくのと同時に、国債の暴落を避けて金融システムの安定を維持するという、2つの命題を追求しなければならなかったからです。
すごく狭いパスウェイを行こうとしていたが故に、金融政策だけでインフレ期待を持ち上げながらやっていくというのではなくて、成長戦略もやっていきながら、その結果として国民にとって「緩やかな良いインフレ」を白川さんは実現させたかったのだと思います。
一方、黒田さんは、「日本経済をこのまま緩やかなデフレの中に浸けておいてよいのか」という問題意識の下で、大きなリスクを取ってチャレンジしていますので、敬意を払うべき面がある。
しかし、今回の異次元緩和策で日銀経済は「ルビコン川」を渡ってしまっているので、われわれも単に株価の先行きを気にするだけではなく、自己防衛のために、この政策はリスクももたらし得ることを意識しておく必要はあります。
規制を強める当局とリバランスを促す中央銀行
加藤:日銀だけでなく、米連邦準備理事会(FRB)やイングランド銀行も含め、何かちぐはぐな点がある。まさにファイナンシャル・リプレッションなんでしょうけれど、要は中央銀行は国債を大規模に購入して、金融機関や投資家に対して本来はリスクが低い投資先である国債を買えないように追い込み、それによって、きれいな言葉で言えば、ポートフォリオ・リバランスをさせようとしている。しかし、そこで取らざるを得ないリスクのエクスポージャーの問題は必ず将来出てきて、その結果として、今、河野さんが言われた事態になっていく恐れはあるわけです。
全体として非常にちぐはぐなことが起きている。規制当局は金融危機のようなことを起こしちゃいけないから、できるだけリスクを取るなと、世界的に金融機関への規制を強めている。ところが、中央銀行は世界的に金融業界に低リスクの運用はしにくいように追い詰めて、もっとリスクを取れと、リバランスを促している。大きな矛盾が起きているが、誰も全体のコーディネーションを行っていない。
ダラス連銀のフィッシャー総裁は、以前は投資会社を経営していました。彼はQE3に強く反対していますが、先日のフィナンシャル・タイムズのインタビューで、「もし私が今も前の仕事をしていたら、不適当なリスクをとること以外に、どうやって利回りを上げたらいいのか? と辺りを見渡すだろう」と話していました。
グローバルに見た場合、オーソドックスな金融の分野は規制がかかっているので、あまりリスクを取るほうには行けない。となると、昔からあった話ですが、金融業界は、何かイノベーションを生み出しては裏道を探して、そちらに投資していく。たぶん当局が追跡できないようなリスクの取り方になっていく。後でそれがバブルおよびバブルの破裂という可能性もあるわけです。経済を健全に発展させるための資金のアロケーションにならない恐れがある。今、世界中でやっている先進国の金融緩和策は全体としていったい何を目指しているのか、目先の景気回復だけを中央銀行は追求すればよいのか、非常によく分からない現象が起きています。
金融危機が始まった直後の主要国の異例の金融緩和策は、パニック鎮静化策でした。その後、パニックは収まりましたが、多くの先進国の財政は悪化していたので財政による景気刺激策は打てなくなった。このため、中央銀行でなんとかやってくれという政治的要望が多くの国で高まり、異例の金融緩和策は総需要刺激策へと変容してきました。ただ、それはそれなりに後でツケを払わされることになると思います。また河野さんがおっしゃったような形で、本来は国債を中央銀行がそろそろ売らなきゃならないタイミングなのに、金融システム安定のために、さらに買い取っていかなきゃならないという局面もあり得る。そうなると、政府と中央銀行を合わせた全体のクレディビリティはどうなんだという議論になっていって、収拾がつかなくなる恐れがあります。
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加藤:フレッド・ミシュキン(注2)らは最近の論文で、FRBに対してそれを心配している。フィスカル・ドミナンス(金融政策の財政への従属)という状況に一度陥ってしまうと、FRBと政府の間で悪循環が起きる。財政の規律が低下して、財政赤字の維持可能性が疑われると、FRBは大量に国債を持っているので、その信認も急落し、一挙に中央銀行のクレディビリティも落ちるという循環に入っていくと警告している。そうなれば非常に危険です。
(注2)フレッド・ミシュキン:コロンビア大学教授。FRB理事時代にはバーナンキ議長の側近だった。1990年代の不況を長期化させた元凶として日本の財政・金融政策を厳しく批判したこともある。
それはアメリカでも心配され始めていますけれども、われわれの政府債務はGDP比でより巨大です。今のところはまだ国内の貯蓄があるので、支えられていますけれども、いつまでもそれは安定していられるものではない。そういったこともトータルで考えて、従来の日銀は非常に慎重だったわけです。しかし日本全体の雰囲気として、低成長が続いたいら立ちから、日銀がスケープゴートにされて、もっとすぐ経済が上向く打ち出の小槌はないかという風潮が高まった。今、黒田さんはリスクはある程度認識されているんでしょうけれども、でもそこに踏み込んでいくということなのかなと思います。
デフレ脱却で経済を不安定化する本末転倒
河野:2つちょっとお話ししたい。前回お話したように、期待に働きかけることで上昇する可能性があるのは、株価や不動産価格です。そのメカニズムはもう始まっている。私は難しいと思っているのですが、資産価格を大きく変動させることで、何とかマクロ経済を活性化させて、デフレから脱却するということがもし仮にできるとしても、そのときにはマクロ経済が相当、不安定化しているということになります。ブーム&バーストが起こるリスクが相当に高いですから。
そもそも私たちが物価安定を中央銀行の目的としているのは、ある意味では手段なんですよね。物価安定を通じて、経済の発展に資すると言っているわけなので、物価安定は重要だけれども、デフレを脱却するために、経済を不安定化させるというのは本末転倒なんだ、というのがまず1つです。私から言わせると日銀法違反。
ただ一方で、じゃあ、こういった状況で何をしないといけないのかと。まさに白川前総裁が目指していたことだと思うのですが、結局、官民が構造政策、構造改革を進めていくことで、潜在成長率を上げる。つまり資本収益性を上げていけば、今の低い金利でも利益が上がってくる、投資のリターンが上がってくるので、それで金融政策の有効性も復活してくるというのがたぶん正当な方策だった。
ただ問題は、先ほど指摘された通りですが、そういった構造改革なりというのは、例えば政府がやる場合、有権者に負担をお願いすることになる。だけれども議会制民主主義の下では、有権者に負担をお願いすることというのは、やっぱり難しくなってしまう。
結局、何が起こるかというと、構造改革は見送られ、財政出動で目先の成長をかさ上げしようということになり、公的債務が膨らむわけです。この管理をスムーズにするために、中央銀行にサポートさせるということになってきている。これは日本だけではなくて、世界的に起きている。ここ数年間、アメリカやヨーロッパの中央銀行関係者と話をすると、「マネタイゼーション(注3)に自分たちも入っている」と思っている人が多かった。今、日銀でもマネタイゼーションの領域にたぶん踏み込んでしまったと考えている人は多いと思う。
(注3)マネタイゼーション:中央銀行が通貨を増発して国債を引き受けること。
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河野:財政はもう増やせない状況になっている。むしろ圧縮しないといけない。だから、さらに中央銀行頼みになってきている。その弊害は何かというと、例えば、アメリカの株価は、もうバブルの領域に完全に入っている。明らかに実体経済の回復ペースよりも、株価の上昇ペースの方がはるかに速い。金融市場参加者の間には、かつてグリーンスパン・プット(注4)というのがありましたが、バーナンキ=イエレン・プット(注5)がほぼ出来上がってしまったのではないでしょうか。
(注4)グリーンスパン・プット:FRB議長時代のグリーンスパンは金融緩和で実体経済の悪化を防ぐというメッセージを繰り返していた。これによって「グリーンスパンなら危機になっても株価を支えてくれる(=損失が回避できるオプションが付与された)」と投資家が思ってしまったこと。
(注5)バーナンキ=イエレン・プット:「FRBのバーナンキ議長、およびその後任と目されるイエレン副議長なら、いざというときに株価を支えてくれる」と投資家が強気になること。
2010年、2011年、2012年の過去3年間を振り返ると、春に景気循環がピークアウトして、夏場までペースダウンし、秋ぐらいから持ち直す。こうしたパターンが続いている。この夏場の景気減速を見てFRBはQE2、ツイストオペ、QE3と手を打ってきた。
景気が減速してくると中央銀行がサポートするので、「経済は不況を避けることができる。バーナンキが救ってくれる」と人々は思うようになる。困ったらバーナンキが救ってくれるという思惑が強まり、それが今のアメリカの株高を生んでいる。
FRBがこうした金融緩和策を打ち出すと、いつも円高が起きました。円高にしっかり対応していないと日銀は叱られてきました。アメリカの金融緩和政策が評価される裏返しで、毎回、日銀がいじめられてきたわけです。
今年も春にやや悪いデータが出始めています。過去3年と同じように、今年も、春先をピークに減速すると、その後、どうなるか。FRBが助けてくれるから大丈夫だというふうに思ってしまうと、すごく強固なバブルになってしまうのではないかと感じています。
「皆が酔っぱらうまでパンチボウルを供給し続けます」
加藤:アメリカのいくつかの市場はもうバブルに入ってきています。クレジット市場でも、不動産投資信託(REIT)やジャンクボンドが異常な組成額、発行量になりました。少しでもよい利回りを求めて目をつぶってジャンクボンドを買う人が増えたので、需給関係でその利回りは一時異様に低下し、「ジャンクボンドをハイ・イールド債(高利回り債)と呼んでいたのは誰だ?」とウォールストリート・ジャーナルが書くほどでした。一方で、マネーストックのM2を見ると、3カ月前比の数字がずいぶん落ちていて、全然伸びていない。つまり、QE3をやっているのに銀行貸し出しは伸びないし、マネーの量の伸びも鈍化している。期待感で資産市場に金が流入しているけれども、そこの期待のコントロールは今後非常に難しくなる。
バーナンキ議長の政策に批判的で債券買い取りの即時縮小を主張しているフィラデルフィア連銀のチャールズ・プロッサー総裁の発言にもありましたが、本来、中央銀行はパーティーが盛り上がってきたら、お酒が入ったパンチボウル(金融緩和策)を片付けなくてはいけない。しかし、今のバーナンキのやり方は、少なくとも失業率が6.5%に下がるまでゼロ金利をやると言っている。パーティーがどんどん盛り上がり、朝になってもパンチボウルは片付けません、投資家が皆酩酊するまでパンチボウルに酒を供給し続けますよと、中央銀行が言っているわけです。米国には、アニマル・スピリッツを強く持つ人、悪く言えば強欲な人が多いので、FRBがそんな保証をしたら、過剰なリスク・テイクが強まるとプロッサーは心配しています。
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加藤:一方で、出口政策の難しさが想定されるため、これは「ホテル・カリフォルニア」的金融政策(注6)ではないかとも言われています。つまり、一度入ったら出られなくなるという世界ではないかという不安の声がFRBの内部からも出てくるような状態です。
(注6)「ホテル・カリフォルニア」的金融政策:「ホテル・カリフォルニア」は1976年にリリースされたアメリカのロックバンド、イーグルスのヒット曲。主人公は滞在中のホテルから出ようとするが出られない。We are programmed to receive. You can checkout any time you like, but you can never leave! (受け入れるのが運命なんだ、好きなときにチェックアウトはできるが、決して立ち去ることはできない!) という印象的な歌詞で締めくくられる。一度、思い切った金融緩和をすると、それを止めることが難しいという意味。
今年に入ってからの米連邦議会での証言で、バーナンキ議長は共和党系議員から、「今はもうバブルではないのか?」「出口政策は大丈夫か?」「バランスシートをこんなに膨らませて、正常化できるのか?」と、次から次へと問い詰められています。
バーナンキの説明は、「リスクのない政策はもうここから先はない。あくまでもリスクとメリットを比較して、われわれはメリットの方が上回っていると思うので、これをやっている」というを繰り返している。
--- 日本では、金融緩和政策はリスクがないかのような議論になっている点は心配されます。
バーナンキ議長の2月の議会証言に興味深い発言がありました。「バランスシートをこんなに膨らませて大丈夫か?」という議員からの質問に対して、「FRBだけではありません。日本の今の首相は、中央銀行に対して不十分だと言っています」と、言外に「あっちではもっとやろうとしているんだから、こっちもいいでしょう」というニュアンスで答えていました。
一方、日本は日本で、「バーナンキがあんなにやっているんだから、もっとやれ」というような具合で、お互いが相手を見ながら、もっとやったっていいんだみたいな感じもある。また、ECBのドラギ総裁は、最近の記者会見では「なぜFRBや日銀のような大胆な緩和をやらないのか?」と責められている。世界的に妙な緩和競争が起きており、先行きの着地が心配されます。
バーナンキ議長は勝ち逃げか?
--- バーナンキ議長は、もう任期が見えていますよね。
加藤:そうですね。そういう意味では、バーナンキは来年1月までの任期なので、もし今の調子でバブルが続くならば、「勝ち逃げ」ということになりますね。
河野:イエレン副議長の方がさらにハト派(金融緩和積極派)ですからね。だから、私はバーナンキ=イエレン・プットだと思っています。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130531/248925/?bv_ru
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