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輸出額など中国の統計には、論理的に矛盾のあるものも多い(写真:Imaginechina/アフロ)
中国の統計が歪んでいくカラクリ
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130606-00014204-toyo-int
東洋経済オンライン 6月6日(木)8時0分配信
この連載コラムでは、中国のみならず、台湾、香港、東南アジアを含む「グレーターチャイナ」(大中華圏)をテーマとする。私は20代から40代前半の現在まで、留学生や特派員として、香港、中国、シンガポール、台湾に長期滞在するチャンスに恵まれた。そうした経験の中で培った土地勘を生かし、「大中華圏」 での見聞を硬軟取り混ぜて皆さんにお伝えしていきたい。
■ 一致すべき数字が80ポイント乖離
92.9%と13.8%。
これは2013年3月における「中国から香港への輸出額」の前年比伸び率の数字である。92.9%は中国政府が発表したもので、13.8%は香港政庁が発表したものだ。
出す方と受ける方で、本来なら一致すべき数字が80ポイント近くも懸け離れている。輸出入の統計は集計の方法や時期の違いなどから、多少ズレが出ることはある。しかし、この差はあまりにも現実離れしている。
中国政府は1〜4月累計の輸出額も発表しているが、中国全体で17.4%増、香港向けに限定すると69.2%増に達した。欧州連合(EU)の0.9%減や日本の3%減と比べて突出して高く、中国全体の輸出増の半分は香港向けで稼ぎ出したことになる。しかし、需要が落ちている欧州向けの中継基地である香港で、大きな輸出増が起きているのは明らかに不自然だ。
その実態は「香港一日遊」と呼ばれる偽装貿易である可能性が濃い。
中国は、投機資金の流入を防ぐため、外貨の持ち込みを厳しく規制しており、一部の企業は規制の緩い貿易決済を利用して外貨を獲得している。物資を香港の子会社などに架空輸出し、受け取った外貨を国内投資に回しているのだ。加えて、香港への優遇制度によって香港向け輸出は一部の税金が免除されるメリットもある。もともとあった「裏技」だが、世界的な金融緩和で投機資金の中国流入が活発化していることに加えて、貿易統計の「お化粧」のため、当局が「香港一日遊」の黙認度を高めたとも指摘されている。
この数字が発表された5月以来、世界中のアナリストは「中国の統計は怪しい」という声を上げた。しかし、統計の正確さについて中国を批判したところで、一時的に改善されても、本質的には変わらないと私は考えている。なぜなら、中国では「統計が政治に従属する」という考え方がシステムに宿命的にビルトインされており、統計の「客観的な正確さ」よりも「政治的な正確さ」が優先されているからである。
最近、『毛沢東 大躍進秘録』(楊継縄著、文芸春秋)という本を読んだ。この本は新華社の記者だった作者が、1958〜1961年に展開された大躍進運動の実態をえぐり出す作品なのだが、政治目的のためにいかに統計が恣意的に粉飾されたか事細かに描き出し、背筋が寒くなる。
大躍進政策は、鉄鋼生産や農業生産で「英国を追い抜き、米国に追いつく」という誇大な目標を掲げた国民運動で、あまりの非現実的な政策によって数千万人の餓死者を出したと言われる。その被害のひどさは、1960年代の文化大革命を上回るとも言われる。
当時、河南省のある県の生産大隊は、農地1ムー(6.667アール)当たりの作物が1000キロあると報告した途端、翌日に隣の大隊は1700キロと報告し、その翌日、別の大隊は3600キロだと報告したという、数字がロケットのように吊り上げられていく実例が紹介されている。こうしたことが国土の末端まで行われた結果、中国の統計では農業生産の合計が米国を上回るどころか、世界のすべての農業生産量まで超えてしまうという事態になった。
■ 「改革開放路線」と統計
統計と政治の関係について、同書はこのように書いている。
「(大躍進時期の統計は)党と政府指導者の意図と指示を基準とし、大躍進路線の正しさの証明を主旨とした統計体制である。大躍進は成功のみが許され、失敗は許されず、それは数字の上で表現されなければならなかった。組織の圧力のもと、統計部門は次々と新記録をでっち上げ、上を騙し下を欺く統計データを作りだした」
この「大躍進路線」を「改革開放路線」に置き換えればどうだろうか?
かつて�眷小平は中国において「発展」が「硬道理」だと述べた。硬道理とは、揺らぐことのない理論であり、改革開放下の中国において経済発展こそがすべてに優先されるということだ。毛沢東の時代は「革命」や「階級闘争」が「硬道理」だったが「経済発展」が取って代わったのである。その結果、経済発展の象徴であるGDP統計を代表格とする経済統計が、中国において高度な政治性を有した形になったのである。
もちろん大躍進当時と現在の中国を同等に論じるつもりはない。国際社会の目も光っている。すべての統計が政治に左右されているわけでもない。しかし、共産党による統治の根っこにある「統計が政治に優先する」という観念は変わっておらず、GDPや貿易統計など有力な指標については、現在も政治の影響を受けやすいままではないのだろうか。
李克強首相は遼寧省党書記だった時期、「中国のGDP統計は人為的で参考値にすぎない」と発言したことがあった。この発言の本意がどこにあったかはさておき、中国人指導者の間でも自国でも統計は疑わしいという理解が一種の共通認識になっていることを実感させた。
アベノミクスの早すぎる崩壊となるかもしれない今回の株安、円高のきっかけとなったのが、HSBCの発表した5月の中国製造業購買担当景気指数の下落だったことは皮肉である。HSBCの統計は世界的に信用度が高い。これが中国政府の統計だったらここまで反響が広がったかどうか。
■ スウェーデン、イランに匹敵する「架空」経済
中国の統計で最もいびつな姿を見せるのが、国家統計局が発表する国としてのGDPと、31の省・市・自治区などが発表するGDPの合計値との大きな乖離である。
2011年、地方政府は合計で51.8兆円のGDP合計値を発表した。これは中央政府の発表である国のGDPを4.6兆元上回った。この4.6兆元は日本円にすると150兆円となり、経済体としての規模は国第2の経済力を持っている省の江蘇省に等しく、外国ではスウェーデンやイランに匹敵する「架空」の経済力が出現していることになる。中国では経済成長について「保8」、つまりどうやって年率8%を維持するかが大事になっているが、地方合計値のGDPでは今も年率10%の成長を続けている形だ。
原因は、中国語で「加水」と呼ばれる現象のためで、文字どおり地右方政府が数字を水増ししているからである。
地方のGDP関連の数字は地方の郷や鎮から県や市に上がり、そして省や直轄市がまとめ、中央政府に送られる。省や主要市のトップは政治任命なので中央から派遣された未来の指導者候補たちが着任している。前任者よりも低い数値になれば、その人物の将来に汚点がつく。上をおもんぱかって、省レベルの統計部門のトップは下部機関の県や市に「よい数字」を出すように求める。
その意向はさらに下に降りる。「よい数字」が出てくれば上の覚えがめでたくなるので、作為的数字を出すことのメリットが全体に共有され、粉飾された数字がいつの間にか客観的数字として生まれ変わるという仕組みである。末端から頂点まですべて数字を粉飾している構図なので、誰も本当の数字がわからないのが実情だろう。
■ 職業的忠誠は「よい数字」を出すこと
統計において正確さにその職業的忠誠が求められているというのは、法と民主主義に裏付けられた社会の論理にすぎない。中国は伝統的に政治優先の社会である。そのため、政策の実現が何よりも優先され、政策を実現できない指導者は無能の烙印を押されて出世コースから外される。この中国の政治システムにおいて、職業的忠誠は「よい数字」を出すことにある。
しかし、われわれが「疑わしい」と叫んでみたところで、中国の統計は中国以外には作れないし、統計の出し方自体は間違っていないので、世界銀行も中国のGDP作成方法については問題なしと評価し、データはIMFなどにも採用されている。
加えて、中国は世界第2位の経済体である。四半期ごとの経済成長率の数字が米国の雇用統計並みの注目を集め、その変動によって世界経済が右往左往する現実がある。中国の統計数字に対するいろいろなバイアスをかけたうえで判断していくしかない。その中で、われわれが中国の統計を眺めるとき、ゆがんだ数字を生み出すとき、内在論理を知っているかどうかで、その分析に大きな違いが出てくるはずである。
野嶋 剛
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