06. 2013年6月05日 06:32:33
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「事実上、日銀の独立性は先進国で一番低い」 異次元緩和と「日銀製バブル」の危うさ 2013年6月5日(水) 河野 龍太郎 、 加藤 出 日本銀行の黒田東彦総裁は4月4日の金融政策決定会合において、従来とは「次元の違う金融緩和」を発表した。大きく円安に振れたことで株価なども顕著に上昇。従来は専門家の領域と見られていた金融政策が、これほど注目されたのは史上初めてのことだろう。 安倍首相の打ち出したいわゆるアベノミクスの評価も含めて、これからの日本経済は順調に上昇軌道に乗っていくのか、失速するとすればリスクはどこにあるのか。実力派エコノミストの河野龍太郎氏と屈指の日銀ウォッチャー、加藤出氏という、どちらかといえば黒田日銀に懐疑的な気鋭の論客に、とことん語り合ってもらった。(聞き手は飯村かおり) 黒田総裁は、2%インフレ目標の2年程度での達成を目指し、日銀による長期国債の購入額を大幅に増加しました。こうした「異次元緩和」について、どのように評価しますか。 加藤:4月4日の日銀の「異次元緩和策」の基本的なコンセプトは、円安バブル、株式バブル、不動産バブルを起こして、国民のマインドにユーフォリア(酔狂)を発生させ、企業が値上げしても消費者はそれについていくという状況を生み出すことで、2年後の2%インフレを目指すということだと思います。 加藤出氏(写真:大槻純一、以下同) 日銀幹部も明確に言及していますが、今の日本のフィリップス曲線(図)では、ものすごい成長が継続しない限り、インフレが早期に2%に到達することは困難です。フィリップス曲線を上方にシフトさせるには、国民、企業のマインドをジャンプさせる必要があります。そのために政府が市中で発行する長期国債の4分の3を日銀が買い取り、金融機関や投資家を国債市場から追い出して、彼らの資金運用が外国債券、株、不動産融資などにシフトすることを日銀は期待しています。 もし日銀が外債購入オペというような「実弾」を打ちながら円安誘導を行う政策を採用したら、日本は国際社会から激しい批判を受けたでしょう。しかし、今回の政策は幸い日本国内のデフレ対策、景気浮揚策と解釈されたので、今のところは許容されています。ただし、実際はこの政策は、急激な円安を必要としています。海外からの批判を避けるには、説得力のある成長戦略を描いていく必要があります。 図:(短期の)フィッリプス曲線 (出所)池尾和人著『連続講義・デフレと経済政策――アベノミクスの経済分析』日経BP社、7月刊行予定) 「異次元緩和」で大荒れした国債利回り 「異次元緩和策」によって円安・株高は起きましたが、4月前半、5月前半に国債の利回りは大荒れとなりました。日銀が従来の日銀券ルールを事実上破棄して、強烈な長期国債の購入を始めてから、債券市場では取引の流動性が大幅に低下しました。 商いが薄い中で誰かがまとまった金額の国債を売ろうとすると、成り行き売り状態になりやすく、ボラティリティが激しくなります。金融機関のリスク管理上、ボラティリティが増大すると国債の安全度が低下することになるので、金利観としてはそろそろ購入してもいいはず、という水準に国債の利回りが上昇しても手が出しにくい状況が一時生まれました。 アメリカの景気指標の改善、米連邦準備理事会(FRB)のQE3(注1)縮小観測、米長期金利上昇、それに伴う円安に引っ張られ、日本の10年金利が一瞬1%台に乗ったら、5月23日に日経平均が暴落しました。世界中の株価指数の中で日本だけが異様に突出して大きな下げ幅となりました。「日銀製バブル」の危うさが露呈した形となりました。 (注1)QE3:FRBが打ち出した金融緩和第3弾。景気刺激やインフレ率低下の阻止などを目的にバーナンキ議長が取った非伝統的な金融緩和策で、QE2、ツイストオペに続いて実施された。 とはいえ、日銀が国債買いオペを柔軟に実施し始めたこと、株価急落で金利上昇観測が和らいだことから国債のボラティリティもいったん鎮静化してきています。FRBのQE3縮小開始はすぐではないでしょう。 しかし、先行き、もしベン・バーナンキFRB議長(注2)が市場の期待のコントロールに失敗し、アメリカの長期金利が急上昇するようなことがあると、日本国債の金利はまた暴れ始める恐れがあります。 (注2)ベン・バーナンキ:アラン・グリーンスパンの後任として2006年2月に米連邦準備理事会議長に就任。大恐慌の研究者でもある。リーマンショック後の世界金融危機を大胆な金融緩和で切り抜けた。 加藤:また、日本で本当にインフレ率が2%に達し、その後も毎年2%以上の物価上昇が続く状況になるのなら、10年金利がいずれ2%を超えても不思議はありません。株の流動性相場は金利上昇には弱い面があります。株価上昇が持続するには、金利から来る不安材料を克服していく必要があります。 「金融政策ができることはない」と言ってもよかった 河野:そもそも、量的緩和策の有効性に疑問があります。もう少し具体的に言うと、通常、金融政策が物価に影響を及ぼすのは、金利を下げることで個人消費や設備投資など総需要を刺激し、需給ギャップ(注3)が改善して、インフレ率が上がっていくというメカニズムです。ところが、日本の場合は1999年2月にゼロ金利政策に突入しているということで、もう政策金利は基本的には下げることができなくなっています。 (注3)需給ギャップ:企業の生産設備や労働力、技術力をフル稼働した潜在的な実質国内総生産(GDP)に対し、実際のGDPがどれだけ離れているかを示す指標。GDPギャップとも呼ばれる。総需要が総供給を下回るときはデフレギャップ、逆の場合はインフレギャップという。 河野龍太郎氏 正確に言うと、1995年の段階でオーバーナイト金利(注4)が0.5%を割り込み、ほぼゼロ金利制約に直面しているわけです。そうは言っても長期金利がある程度、高い状況であれば、将来のオーバーナイト金利の経路を中央銀行が表明することで長期金利を下げていくということはできるのですが、日本は長期金利も10年金利で0.5〜0.6%なので、ほとんど下げ余地がなくなってきています。 (注4)オーバーナイト金利:金融機関同士がコール市場で、無担保で短期資金を借り、翌日返済する取引の金利。 黒田総裁がアグレッシブな国債の購入をやって、長期金利があと20ベーシスポイント(0.2%)、30ベーシスポイント(0.3%)下がったとしても、それで貸し出しが増えるか、あるいは設備投資が刺激されていくかというと、そんなことは起こらないと金融機関の人には広く知られています。そういった意味では、金融政策ができることはなくなってきていると、もっと早い時期に中央銀行は言ってよかった。 そういった中で今回、黒田体制が掲げているのは、大量の国債を買っていくことで金融緩和をしていくということです。この量的緩和の発想のベースは何かというと、マネーストックと物価が、長い目で見ると比例関係にあるという貨幣数量説(注5)です。 これはスタンダードな考え方ですけれども、均衡において物価と貨幣供給量が比例関係にあると言っているだけで、現状からどう均衡に向かうのか経路を示しているわけではありません。量的緩和の理論的根拠になっている貨幣数量説は、どのような経路をたどってデフレから脱却していくかということは言っていないのです。 (注5)貨幣数量説:ある国の物価水準は、その国で流通している貨幣量に比例するという古典派の学説。貨幣量が2倍になれば、物価も2倍になると考える。18世紀のヒューム以来の古い考え方で、マーシャルらが精緻化した。 河野:そういう批判をすると、たぶんリフレ派(注6)の方々は期待に働き掛けるのだという話を必ずします。しかし、期待で動くのは、株価や不動産価格などの資産価格や、為替レート、商品市況であり、私たちが上げたいと思っている最終財やサービスの価格、あるいは賃金は、基本的に期待が変わったと言っても簡単に動くようなものではありません。むしろ、最終財やサービスの価格、賃金などの期待形成は、適応的な期待形成というか、バックワードルッキングな期待形成なんです。需給ギャップの改善に対応して、ゆっくり上昇していきます。 (注6)リフレ派:インフレ政策(リフレーション)を唱える一派。日本が長らく陥っているデフレ不況を脱するために、量的緩和や日銀の国債引き受け、ゼロ金利政策の継続などを主張している。アベノミクスのブレーンである浜田宏一、高橋洋一の各氏、日銀副総裁に就任した岩田規久男氏らが有名。 値段にはフェアネスの感覚が関係している さらに言うと、フェアネスという、この商品はだいたいこのぐらいのものだという感覚があります。雑誌「日経ビジネス」を書店で買っている人は1冊、650円で買っています。だいたい、700円ぐらいだと思っているわけです。値段を見て買っているわけではありません。いつも買っている人がレジに持っていって、1万5000円ですと言われたら、これはショックを受けます。だから、最終財の値段は、ある意味では社会の中ではフェアネス、公正というのがあるので、期待が変わったから値段も変わるという話ではありません。 そういった意味でも、アグレッシブな金融緩和をやっていくと黒田さんが言われているその議論のベースそのものが妥当性を持っているのかどうか疑問です。リーマンショック後、各国で量的緩和をやっていましたが、マネーの量を増やしていくという政策は、理論的にも実証的にも効果がない、とほぼ決着がつき始めました。そんなとき、非常にオールドタイプのマネタリスト(注7)的な政策が日本で導入されたというのは、皮肉に思います。 (注7)マネタリスト:貨幣供給量(マネーサプライ)を重視する、ミルトン・フリードマンを代表とする経済学の一派。貨幣供給量の変動が、短期における実物経済の成長および長期におけるインフレに対し、決定的に重要な影響を与えるとする。 FRBの「大本営発表」は割り引いて聞く必要がある 加藤:それは全くそうで、何か1周遅れの政策が今、日本で始まった感がありますね。 例えば、バーナンキ議長も、資産の購入を増やしているけれども、決して中央銀行のバランスシートの負債サイドのマネタリーベースを増やすことに効果があるというスタンスではありません。そえゆえ彼らは自分たちの大規模資産購入策に量的緩和策(QE)という名称を一度もつけていません。中央銀行の資産サイドで市場から買い取って資産価格に働き掛ける、あるいは期待に働き掛けるという効果のことを言っているんですが、それもちょっと怪しいところがあります。 FRBが2010年11月に大規模資産購入策の第二弾、いわゆるQE2を開始するとほぼ同時に、彼らがインフレ指標として重視しているPCE価格指数前年比は1.4%で底を打って上昇を始めました。それは期待に働きかけた効果だとFRBは強調していますが、先日ニューヨークで会ったある有力FRBウォッチャーは首をかしげていました。 その時のインフレ率上昇の主因は、コモディティ価格上昇の価格転嫁のタイミングと重なったことと、住宅を差し押さえられて持ち家から賃貸に移る人が増えて一時的に賃貸需要が増えて家賃が上昇したことが主因でした。賃貸物件のオーナーが新聞を見て「QE2が始まったから賃料を上げよう」と決断したとはちょっと考えにくい。 米国のPCE価格指数は2011年に2%台後半まで上昇しますが、その後ピークアウトし、今年3月は1%まで下がってしまいました。この間、QE2、オペレーションツイスト、QE3と大胆な緩和策が行われてきたのに、米国のインフレ率はQE2開始時より低い水準に落ちているのです。 基本的に大本営発表なので、FRBのエコノミストの「こんなに効果があった」という発言は、やはり少し割り引いて聞く必要があります。河野さんも指摘されましたが、以前から言われているような貨幣乗数的なものというのは、今は基本的に成り立ちません。 というのは、銀行の経営上、リスク管理が厳しくなっているため、準備預金が一定量、増えたからといって、それを貸し出しとか投資には回さないのです。準備預金量に制約があって、銀行の行動が制約されているのではなく、資本力が問題なんです。資本が十分になければ、現代の金融機関は投資ができません。また、企業や家計の資金需要も弱い状態が続いている。だから、いくら資金供給してもマネタリーベースは中央銀行の口座にただ溜まっていくということが世界的に起きているわけです。 加藤:マネタリーベースを増やすと通貨安になる、景気が良くなる、というストーリーは為替市場や株式市場では信じる人がまだ多いですが、債券市場、短期金融市場にはほとんどいない。「それは日銀理論(注8)だ」という批判がリフレ派の人たちから聞こえることがありますが、そうではなくて、実務に精通している人にマネーの現実の動きを聞く必要があります。 (注8)日銀理論:中央銀行はハイパワードマネーを増減することによってマネーサプライを増減できるという「標準理論」に対し、実際の資金操作のオペレーションでは信用乗数が不安定でそうはならないと主張する考え方。リフレ派が批判的に使っている言葉。 明かに狙っている「ニセ薬」効果 それらの市場は銀行が中心の市場なので、彼らは自分が持っている超過準備それ自体は経済に何の影響も及ぼしていないことを当然ながら知っている。アメリカや欧州でも、債券市場、短期金融市場の参加者の大半は、マネタリーベースの増大が経済・インフレに強い影響を及ぼすとは思っていません。黒田総裁は、海外の中央銀行幹部と情報交換を行っているから、その点は意識しているはずです。 では、なぜ日銀は4月4日に「2年でマネタリーベースを2倍にする」と明示したかというと、明らかに「ニセ薬」効果を狙っています。それで勘違いして円安にベットする市場参加者がいるのならいいではないか、という割り切りですね。 河野:そうですね。 加藤:一方で、FRBの幹部もほとんど主流派はマネタリーベースを増やしても意味はないということを公式に言っています。バーナンキは議会証言でも、FRBの資産買い入れによって準備預金は増えたけど、それは電子的な数字が増えただけで、経済に対しては何の働きもしていないとはっきり言っています。それがなぜか普段、バーナンキを崇拝している日本のリフレ派の人たちはそのことには触れません。 5月に発表されたFRBのFOMC議事要旨に気になる記述がありました。今後2年間、米国のインフレ率は2%を超えないと彼らは予想している。あれだけの大胆な緩和策を継続し、かつインフレ・マインドが家計や企業にビルトインされている米国でも当面は2%を超えないとなると、日本でそれを2年で実現するには相当の無理が必要になると言えます。 河野:もともと中央銀行は、貨幣数量説を前提に金融政策のチャネルを考えてはいません。普通は金利政策です。ゼロ金利制約に陥ったから、ほかに政策はないのか、という話です。非伝統的な政策がパワーを持っているのなら、ゼロ金利制約に直面しているときだけではなく普通のときでも採用した方がいい。なぜ普通のときに非伝統的政策をやらないかというと、コストに比べると、その効果が少ないと分かっているからやってない。その事実を認識すべきですね。 非伝統的な金融政策には限界があるという点については、黒田総裁も認識しているということになりますね。 加藤:黒田総裁が就任早々、「2年では難しい」と言ってしまうと、安倍政権の要望に応えられないし、また、インフレに向けた国民のマインド転換も早期には起きにくい。2年での目標達成は容易ではないことはある程度認識しつつも、その決意を示すことで、インフレ期待に働き掛けようとしているわけです。 しかし、今年10月の展望レポート、来年4月の展望レポートで、2015年には2%に行くとの予想をどうやって維持していくかが大きな課題となります。異例の緩和策のコストとリスクをどうしても意識せざるを得なくなるでしょうから、就任から1年以上たってくると、黒田総裁の発言も微妙に白川方明前総裁と似てくると思います。 河野:今回は、中央銀行の政策を批判していた人たちが執行部に入って政策をやるという、ほとんど例がないケースです。だから、同じ発言を続けることができるかどうか、興味深い。黒田総裁はある程度、限界も認識した上でやられていると加藤さんが指摘されましたが、確かにそうでしょう。ただ、アグレッシブに国債を購入していくと、果たして出口のときに大丈夫なのかと思います。 多くのマスコミは、黒田新体制が掲げる2年でインフレ率2%という目標の達成は可能かどうかにフォーカスしています。確かにこれもハードルは高いのですが、目標が達成できるという見込みができたと同時に、その出口の困難さに直面してくる。一言で言うなら、2年という短い間に目標を達成するため、大量の国債を購入した中央銀行は、必然的に国債管理政策(注9)に巻き込まれてしまう。 (注9)国債管理政策:国債の確実かつ円滑な発行、消化、流通、償還および中長期的な資金調達コストの抑制を目的とした種々の政策。 すると、インフレ率が目標の2%に達し、物価安定の観点から利上げや国債売却が必要となっても、財政や金融システムの安定性の問題に直面して政策を手仕舞うことができず、結果的に物価安定を犠牲にする可能性が高い。 長期の国債をスムーズに売ることができるか 河野:白川前総裁は、デフレ脱却に消極的だと見られて批判された。理由の1つは、2年物や3年物という期間の短い国債しか買っていなかったことです。これは、残存期間が3年以下の国債を購入するのであれば、2年あるいは3年かけてデフレから脱却したとき、能動的に国債を売っていかなくても、償還が3年目に来るのでスムーズに出口に向かえるという発想があった。 しかし、これが10年国債、20年国債、30年国債を買っているとすると、2年後にデフレ脱却はできているけれども、保有している国債の残存期間は8年、18年、28年ということになる。これをスムーズに売ることができるか。 FRBはうまくできると言っていますが、確かに、中央銀行だけの観点からすれば、できる。しかし、現実には、金利を上げていったとき、利払い負担に国が対応できるのか懸念され、スムーズに金融引き締めができなくなるリスクが非常に強いと思います。 加藤:おっしゃるように、日銀は財政ファイナンス(注10)から今後、抜け出せるのか、と心配されます。FRBの場合も、あれだけ長期の証券を大量に買ってしまうと、先行きの出口政策はやはり相当混乱する。七転八倒することになる。また、FRBが保有している長期証券が今後の景気回復局面での金利上昇の際、巨大な損失を発生させる。昨年12月の連邦公開市場委員会(FOMC)に、FRBのスタッフがそういったシミュレーションを提出していました。 (注10)財政ファイナンス:中央銀行が新規発行国債を直接買い入れること。中央銀行が政府にマネー(資金)をファイナンス(調達)ことを指す。国債のマネタイゼーション(貨幣化)とも呼ばれる。 加藤:FRBから政府への利益納付ができなくなると、政治的に相当批判される。中央銀行の独立性という面で相当シビアな事象として表れる。2011年6月のFOMCで、FRBの資産にMBS(住宅ローン担保証券)は入っているべきではないので、出口政策のときに3〜5年かけてゆっくりと売却していくべきだ、との合意が形成されました。しかし、当時よりもFRBのバランスシートははるかに膨張し、MBS保有額は今でも増えています。 金融緩和策は「フリーランチ」ではない 出口政策はより難しくなっており、先日の議会証言でも共和党系の多くの議員がそれを問題視していました。FRB内の出口政策議論は迷走し始めたように思います。最近のFRB幹部は、出口時に保有証券の実現損が出て政治的問題を招かいないように、証券を売却しない出口政策を検討しています。 しかし、それで必要な引き締め効果を醸し出せるのかというと、景気回復期にあらたなバブルを起こして反動を招く恐れもある。FRBにとって完全に「海図なき領域」であり、やってみないと分からない面が多々ある。FRB幹部は公式には「心配ない」と言っていますが、事務方は相当心配しているように感じられます。 国際決済銀行(BIS)元幹部のウィリアム・ホワイトは、大胆な金融緩和策は「フリーランチ」(ただ飯)ではなく、必ずコスト、副作用を発生させるため、今すぐやめるべきだと主張しています。現実にはそれは難しいですが、もう何年かたってくると、アメリカの方でも大胆な金融緩和策は実はコストがかかるということが広く意識されてくるようになるでしょう。 日本でも長期の国債を大量に買ったあと、それが売れるかというと、実際には売れないでしょう。その前段階で、国債買いで増やしたものを減らせるかというと、財政赤字が減って、新規国債発行量が明確に減っていないと、それすら難しいかもしれない。インフレ目標2%と宣言したんだから、2%を超えていったら引き締められるはずだというのは、原則論はそうなんですけれども、これだけ巨額の政府債務を抱えている国で政治的にそれが許容されるのかというと容易ではない。 事実上、日本の中央銀行の独立性(注11)は先進国で一番低い。別に日銀法を改正しなくても、もう十分低いので、出口政策の議論になったとき、たぶん日本銀行は抵抗できないだろうと多くの人は予想する。すると、そのときのインフレ期待、あるいは妙なアセット・バブルが過熱しないかとか、そういう恐れはあると思います。 (注11)中央銀行の独立性:財政危機に陥った国が紙幣を乱発して超インフレになった歴史的経緯を踏まえ、先進各国では中央銀行が政府から独立している。日本では1998年4月、新日銀法が施行され、日銀の政府からの独立性が明記された。 株式市場は全会一致を称賛したが… 4月4日に日銀政策委員会が9人全員一致で日銀券ルール(注12)を事実上廃止したことは将来に禍根を残すかもしれません。株式市場は全会一致の評決を称賛しましたが、債券市場では「日銀は政治環境に全く抵抗しない組織なのだな」という印象を抱いてしまった参加者が多かったと思います。 現時点では日銀がいつ出口政策を開始できるか全く展望できませんが、出口の際には、日銀政策委員会には相当の胆力が求められると言えます。債券市場がそれを信じられないと、期待の制御が難しくなり、長期金利は急騰する恐れがある。その点でも、2013年4月4日に、せめて「演技」でも良かったので、1〜2名の委員が反投票を投じる方が良かったのではないかと思います。 (注12)日銀券ルール:日銀が引き受ける長期国債の総額を日本銀行券の流通残高以下に収めるという日銀の内規。 (次回に続きます) 河野龍太郎×加藤出 金融緩和のゆくえ 日本銀行は黒田東彦総裁が「次元の違う金融緩和」を発表した後、円安・株高が続いている。従来は専門家の領域と見られていた金融政策が、これほど多くの人に注目されたことはないだろう。米国でも積極的な金融緩和が続けられているが、リスクや出口戦略への言及も始まっている。いわゆるアベノミクスの評価、そして、今後の日本経済は上昇していくのか、それとも失速するリスクはあるのか。実力派エコノミストの河野龍太郎氏と、屈指の日銀ウォッチャー、加藤出氏という気鋭の論客が徹底的に語り合う。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130530/248871/?ST=print
【第9回】 2013年6月5日 野地 慎 [SMBC日興証券為替ストラテジスト] マネーを行き渡らせるには長期金利低位安定が不可欠 日本銀行の「量的・質的金融緩和」は資産の入れ替え、ポートフォリオリバランス効果を期待する政策だ。 4月6日号の本欄で、10年国債利回りは貸出金利から下方に乖離し過ぎると上昇しやすいと指摘した。4月5日に0.315%まで低下した10年国債利回りは、その後上昇傾向に転じ、5月23日には1%をつけた。 国債利回りが低過ぎれば、国債より株式や不動産への投資、あるいは貸し出しに資金を回すほうがよいとの思惑、ポートフォリオリバランス効果が働いた結果だろう。日銀が円安を最重要視するとの見解が広がり、円安と株高の同時進行の中、「長期金利の低位安定が必要なくなった」との声が増えたことも長期金利上昇に一役買った。 しかし、再度銀行の新規貸出金利(長期)に注目すれば3月時点で0.932%であり、10年国債利回り1%はこれを上回る。貸し出しが本格的に増加しているのであれば問題にならないが、現時点では貸し出しが大きく増えつつあるとのデータは見られない。 アベノミクス効果で実際に企業が設備投資を増やし、借り入れ需要が増加すると期待するのだとしても、少なくとも6月に発表される成長戦略を見極めてからの話であろう。過去数年の為替市場の大きな変動をよりどころとした企業のグローバル化の流れも容易には変わりにくく、成長戦略そのものが踏み込み不足と認識されれば、企業の国内投資もどこまで増えるかわからない。 長期金利が相当に低いのであれば、金融機関が優良な貸出先を探す動きが活発化すると思われるが、10年国債利回りが貸出金利を上回るようであれば、貸し出しに優先して債券投資を行うインセンティブも高まると予想される。国債利回りが上がり過ぎればポートフォリオリバランスは起こりにくい。 拡大画像表示 20年国債利回りと東証REIT(不動産投資信託)指数の逆相関が続いている点からは、「金利が低ければREITを買うが、金利が高ければ債券を買う」との投資行動も浮かび上がる。10年債利回りが1%に達した5月23日には日経平均株価も急落した。 市場参加者の期待インフレ率の上昇ペースも緩慢で、また、アベノミクス効果も早期には生じ難いと考えられる中、ポートフォリオリバランスが起き得ない金利水準を放置すれば、貸し出しや不動産投資、株式投資という形で市中にマネーが行き渡らないと考えられる。5月23日の株価急落やREIT指数の軟調などは、警鐘であるといえよう。 日銀が即座に講じた共通担保オペや国債買い入れオペのかいもあり、その後の長期金利はやや安定傾向にある。日銀は、急激な相場変動を抑えるためだけではなく、長期金利を一定の低い水準にとどめておくために、今後も市場との対話を強化し、金融緩和策を運営していく必要がある。 (SMBC日興証券為替ストラテジスト 野地 慎) http://diamond.jp/articles/-/36912
【第203回】 2013年6月5日 週刊ダイヤモンド編集部 米国の量的緩和はサブプライムより危険 日本は国債暴落でキャピタルフライトも ――米ペンシルバニア大学ウォートン校教授 フランクリン・アレン インタビュー
先進国で実行された金融緩和。日本など各国の経済にどうした影響をもたらすのか。以前から日本経済の構造改革を訴えているアレン教授に聞いた。 1956年英国生まれ。80年から同校で教鞭(きょうべん)をとる。専門はコーポレートファイナンスと各国の金融制度 Photo by Satoru Okada ――日本銀行が4月に発表した“異次元”金融緩和に対し、国内では期待と不安の声があり、国外でも賛否両論が出ています。どうお考えですか? 今の世界の経済状況での量的緩和は、それほどよい結果をもたらすとは思いませんし、むしろ大きなリスクを伴います。 日本でのリスクは、まずは長期金利への影響です。日本は対国内総生産(GDP)比200%超と巨額の公的債務を抱えています。数年後に公的債務の金利が上昇すれば、国内総生産(GDP)でこれをカバーしないといけません。 すでに大きな財政赤字があるのに、さらに3〜4%、あるいは5%の金利上昇分を、果たしてGDPでカバーできるでしょうか。 また、日本の銀行は多くの日本国債を保有していますが、過度のインフレと金利上昇、国債価格の暴落が同時に起きれば、大打撃を受けませす。 そうなるとわかれば、国民や企業は資産を一気に海外に移すでしょう。いわゆるキャピタルフライトが起こります。その悪影響は計り知れません。 ――例えばジョセフ・E・スティグリッツ・米コロンビア大教授が3月に安倍晋三首相を訪問し、その際報道陣に「デフレから脱却し経済成長すれば歳入が増え、債務の返済に回せる」と述べたと報じられました。 彼は、私が修士号を取得するときのアドバイザーの1人だったのですが(笑)、確かにインフレは長期的に見れば、公的債務の削減の助けになります。私が懸念しているのは、その移行期に生じる金融市場の混乱です。 電話のダイヤルを回すようにインフレ率を設定できるのなら、何年も前にやっていますよ。物価はそんな簡単にコントロールできません。日銀や日本政府は実に、綱渡りをしているようなものです。 ――日本経済は長年、デフレで苦しんできました。その打開策としての金融緩和という位置づけです。他の方法を採るべきだったのでしょうか? 日本が抱えている根本的な問題は、自国の企業の競争力が失われてきたことです。典型的な例はソニーです。30年前、ソニーは電機業界における世界的なリーダーでしたが、今はサムスンなどに勝てない。他の日本の企業も同様です。 確かに低金利が長く続くと、企業の金利負担が減り、経営の効率化への動機づけが難しい。 ですから、金融緩和よりもっと緩やかな金利上昇を私は薦めます。金融市場の混乱を避けつつ、企業に対してより高いリターンを目指すよう促すのです。 要は、企業自身が競争力を取り戻す仕組みが必要なのです。構造改革や規制緩和ももちろん重要です。 米国の株価は実体経済とかい離 ――米国や国際通貨基金(IMF)は金融緩和の効果を認めています。 先進国の中央銀行やIMFは、金融緩和にはある程度のメリットがある、という程度の見解でしょう。 しかし例えばブラジルは、先進国の金融緩和による資金流入で生じる自国の通貨高や、大都市での不動産価格の高騰に苦しんでいます。IMFなどはこうした問題について十分に検証していません。 また、金融緩和それ自体の効果も疑問です。例えば米国は08年のリーマンショック以来、金融緩和をし、さらに財政刺激策も講じていますが、1.5〜2%とわずかな成長率しか達成していません。 そもそもリーマンショックの要因は、米国の不動産バブルと、サブプライムローン問題の表面化によるその崩壊でした。金融緩和は、資産バブルと、銀行の資産価値の下落を生じさせるリスクがあります。サブプライムローン問題と同じか、むしろより深刻な事態を引き起こしかねません。 ――米国では株価とドル相場が上昇し、シェールオイルやガスの採掘が進むなど好材料もあります。 「シェールガス革命は財政問題を解決するほどではない」と語る Photo by S.O. 米国の株価は実体経済とかい離しています。お金をどんどん流し続ければ、必ず何らかの資産へ行き着くのですから。それが突然止まると、バブルがはじけて金融機能が停止します。 財政赤字も増えるばかりです。歳出の強制削減など改善策は見られますが、オバマ政権と、共和党が多数を占める下院との“ねじれ”による政治的な対立は深刻です。 債務の上限をめぐる両者の対立は長引く可能性があります。シェールガスやオイルは確かに好材料ですが、財政の問題を解決するほどではありません。 ――米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融緩和を終わらせることができるのでしょうか? バーナンキ・FRB議長が5月22日に連邦議会で金融緩和の縮小を示唆しただけで、24日のダウ工業株30種平均が5週間ぶりに下落したことが象徴的です。 FRBはおそらく、2〜3%程度の経済成長率を終了の目安にしていると思われます。しかし、今後も世界的な低成長が続くとみられ、出口戦略はそれだけ難しくなります。 ――欧州市場も混乱が続いています。解決できるのでしょうか? まずユーロ圏の構造的な問題として、財政を全体で規制できる制度がありません。 そして今や、彼ら自身が将来の成長を見通せなくなっています。四半期ごとに成長するとの予測を出しても、そのたびに実現しないという事態が起きています。 特にイタリアやギリシャでは、経済の成長どころか、縮小に歯止めがかかっていないのですから。若者の失業率が上昇傾向にあり、底打ちしていません。 現在、世界的に注目されているのは日本ですが、次はイタリアを中心に再び欧州が注目されます。 ――なぜですか? イタリアは、日本と同様の経済の構造問題を抱えていますが、それを解決できない政治的な問題があります。 例えば2月の総選挙では、ユーロからの離脱を主張する五つ星運動のような党の大躍進が挙げられます。 おそらく半年から1年後には再び総選挙があるでしょう。ベルルスコーニ元首相が返り咲く可能性もある。そうなれば、財政再建を進めると口ではいいながら進めないという事態が起こりえます。 これに対して欧州中央銀行(ECB)は、イタリアに対して責任ある財政再建を条件に、国債買取プログラム(OMT)を発動するでしょう。 ユーロ圏も今後、日本と並んで“実験の場”となるかもしれませんよ。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)
QE3終了の“伝え方”に 苦戦を強いられるFRB 「日銀は景気回復を支援しようとしており、それは機能している。ECBは景気停滞を支援しようとしており、それは機能している」。米経済学者で元イングランド銀行(BOE)金融政策委員だったポーゼン氏はそう述べた。ECBは日銀やFRBに見習い、大胆な金融緩和を行うべき、との批判である。 しかし、5月23日以降の日経平均株価の乱高下に見られるように、中央銀行が資産価格を人為的に押し上げようとする政策には危うさがつきまとう。BOEのフィッシャー金融政策委員は、ポーゼンとは一線を画した思慮深い見方を5月24日に提示した。彼は「米国式」の無制限資産購入策はやりたくないと明言した。「アメリカ人は脱出の仕方が少し難しいことに気がつき始めたように思う」。 確かに、最近のFRBは市場への情報発信で苦労している。5月22日にバーナンキ議長の議会証言とFOMC議事要旨の公表が重なった。FRBが全体として発したメッセージを咀嚼すると、「経済の回復にはまだ確信が持てないので、無制限資産購入策(いわゆるQE3)の縮小はかなり慎重にやります。ただし投資家の皆さん、過剰なリスクテークには気をつけて下さいよ」というものだった。 バーナンキは資産購入額を調整することに「taper」という単語を使わなかった。その言葉だと、一度減額が始まると自動的にゼロまで行くことが暗示されるからだ。FRBは、資産購入の減額を始めても、次の減額は経済の情勢を見極めてから判断するつもりでいる。QE3の縮小に時間をかける姿勢を示すことで、「QE3終了=出口政策の開始」ではないことを伝えたがっている。 QE3終了はアクセルペダルから足を離すことであって、ブレーキ(ゼロ金利解除やFRBの資産縮小)を踏むことではない。しかし市場は「予想外にFRBはタカ派に傾斜している」と慌てた。市場の期待の制御は難しい。バーナンキが今後うまく立ち回ってくれないと、その衝撃は日本で増幅され、長期金利や株価に再び激しいショックが起きる恐れもある。 ところで、先のFOMC議事要旨には、インフレ率は今後数年間、2%を超えないという予測が載っていた。あれだけの緩和策が続けられ、しかもインフレが国民のマインドにビルトインされている米国ですらそうだとすると、日本でインフレ率を2%以上に押し上げることは容易ではないといえる。 (東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出) 欧州の金融政策:マイナス金利という選択 2013年06月05日(Wed) The Economist (英エコノミスト誌 2013年6月1日号) 中央銀行に資金を預ける市中銀行に金利を課すのは薬か毒か? ユーロ圏経済は、6四半期連続で生産高の減少に苦しんだ後も力を失ったままだ。欧州中央銀行(ECB)は、6月6日に政策理事会を開く時に行動を起こす必要に迫られている。1つの選択肢は、マイナス金利を導入することだ。 その決定を下せば、ECBは初めてマイナス領域に踏み込む主要中央銀行になる。だが、ECBは独りではない。ユーロ圏には属していないが、自国通貨クローネをユーロに固定させているデンマークも、昨年7月にマイナス金利を導入した。ユーロとのペッグを破壊し、有り難くない通貨上昇を招く恐れのあった外国資金の流入を避けるためだ。 中銀預金金利をマイナスにする? ECBがその後に続いても、リファイナンス金利(主要政策金利)はプラスのままだろう。リファイナンス金利は、ECBが市中銀行に資金を貸し出す際の金利で、ECBは5月初めにこれを0.75%から0.5%に引き下げた。 デンマークと同様、マイナスになる金利は、市中銀行が中央銀行に預けた預金に対して支払われる金利だ。ECBの中銀預金金利は、昨年7月以降ゼロに据え置かれている(この時の決定を受け、デンマークはマイナス金利導入に動いた)。 2008年の金融危機以前には、ECBの預金金利はそれほど重要ではなかった。銀行が預けなければならない最低限の準備金以外には、銀行が中央銀行に余剰資金を置いておくインセンティブがほとんどなかった。銀行は、短期金融市場で資金を貸し出す方が得になったからだ。 銀行が相互に資金を融通し合う際の翌日物金利「EONIA(ユーロ圏無担保翌日物平均金利)」は、リファイナンス金利の動きをなぞっていた。 そのリファイナンス金利は、ECBが提供する資金量を制限することによって確実に誘導することができた。 ECBが、銀行が借り入れを望むだけ資金を貸し出し始めると、中央銀行の流動性が非常に潤沢になり、預金金利がEONIAの重要な決定要因になった。EONIAは預金金利を若干上回る水準で推移している。 同様に重要なことは、短期金融市場が南欧と北欧の間で決定的に分離するようになったことだ。ECBの貸し出しは、主に南欧の銀行に向かった。周縁国から資本が引き揚げられたため、欧州北部の銀行はいつの間にか豊富な資金を持つようになり、そのお金をECBに預けるようになった。 ECBがマイナスの預金金利を導入すれば、銀行は、中央銀行に資金を置いておくのに金利を支払わなければならなくなる。借り手ではなく預金者に金利を課すことは、通常の物事の道理をひっくり返す。実際、名目金利がゼロを下回ることはあり得ないという考え方が、中央銀行が量的緩和のような政策を採用してきた理由だ。 「ゼロ金利下限(ゼロより下には引き下げられないという制約)」について通常行われる説明は、預金者は現金に切り替えることでマイナス金利を回避できるというものだ。この制約から、マイナス領域に大きく踏み込むことに限界が生まれるが、多少のマイナス金利は実行可能だ。通貨の保有には保管費用がかかるからだ。 2つの利点 〔AFPBB News〕 マイナスの預金金利を課すことは、2つの利点をもたらすと考えられる。 1つは、これらの金利が短期金融市場に浸透するにつれ、ユーロが下落することだ。そうなれば、輸出を刺激し、輸入を抑えることで、需要が下支えされるだろう。デンマークでは、この政策がクローネに対する上昇圧力を防ぎ、ユーロとのペッグを維持することを可能にした。 デンマークの経験から得られる主な教訓は、このような政策が実際に為替市場に影響を与えるということだ、とノルデア銀行のエコノミスト、ヤン・ストルプ・ニールセン氏は言う。 また、この政策はユーロ圏の金融細分化と戦う助けになるかもしれない。欧州北部の銀行が中央銀行に資金を預けるために金利を支払わなければならないとしたら、これらの銀行が南欧の銀行に貸し出しを再開する意欲が高まるかもしれない。 マイナスの預金金利に向けた断固とした行動は、ユーロ圏全体で再びインターバンク(銀行間取引)市場を機能させる可能性がある、とクレディ・スイスのエコノミスト、クリステル・アランダ・ハッセル氏は主張する。 だが、こうした魅力的な見通しは、実現しないかもしれない。代わりに、南欧の銀行の健全性に対する不信感が広がり、中核国の銀行は余剰資金を南欧に振り向けることを警戒する可能性がある。 実際そうなれば、マイナス金利の導入は逆効果になる。銀行は、貸し出し金利を引き上げて新たな費用を補おうとし、経済を活性化させるどころか、かえって傷つける恐れがある。 量的緩和の方が好ましいけれど・・・ ECBは、利益以上に害を生む可能性のある政策には慎重になるだろう。何しろ、ECBは、マイナス金利の導入をちらつかせることで、その効果をある程度達成できるし、ユーロ安を促す助けになる。 だが、マイナス金利の導入という考え方は、先進国経済に関する最新のリポートの中で経済協力開発機構(OECD)の支持を得ていた。ユーロ圏が景気後退から抜け出せないままなら、ECBは実際にマイナス金利を導入するかもしれない。もっとも、米連邦準備理事会(FRB)やイングランド銀行を手本にして量的緩和に取り組む方がより望ましいのだが。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37935
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