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2013年6月4日 真壁昭夫 [信州大学教授] :ダイヤモンド・オンライン
■アベノミクスの限界を示したか?株価調整で台頭する悲観的な見方
5月23日、日経平均株価が1000円を超える急落となって以降、市場関係者などの間から「株価下落はアベノミクスの限界を示した」との指摘が出ている。株価が調整局面入りしたことで、先行きに対する悲観的な見方が台頭していることを考えると、そうした声は理解できないではない。
しかし冷静に考えると、まだ、アベノミクスの最も重要な成長戦略、つまりいかにしてわが国の企業を強くし、経済を立て直すかという点が明らかにされていない。
今まで、円安傾向が進み株価が急速に上昇していたことで、多くの人が何となく、先行きについて楽観的な見方になっていたのだが、それはアベノミクスの「前座」とも言える金融政策による成果に過ぎない。
この次は安倍首相自身が実際に汗をかいて、各省庁や既得権益層の壁を破る番なのである。安倍首相の政策実行能力を不安視する見方は根強く、過大な期待を持つことは危険であることは確かだが、海外への積極的なセールス姿勢などを見ていると、それなりの期待を持てるかもしれない。少なくとも、金融市場の関係者や一般庶民も、まだ期待を捨てたわけではないだろう。
重要なポイントは、安倍首相が明確な成長戦略を打ち出せるか否かだ。それができなければ、期待が失望に変わり、アベノミクスで加速した相場は終焉することになる。もちろん楽観はできないが、その判断は今ではなく、もう少し先になるはずだ。
わが国の株式市場は、昨年11月13日を底にして上昇基調に変わった。11月14日に、当時の野田首相が衆院を解散することを宣言したことをきっかけに、全く期待の持てない民主党政権に代わって、やや期待可能な自民党政権ができることが現実味を帯びたからだ。
株式市場はその潮目の変化に敏感に反応し、それまでの株価低迷期を脱し、上昇トレンドへと移行した。それに加えて、今年4月に黒田・新日銀総裁が、いわゆる“異次元の金融緩和策”の実行を宣言し、株価上昇のペースを加速することになった。その後は、1980年代後半の大規模なバブル相場を彷彿とさせるような展開になった。
冷静に振り返ると、4月以降の株価の急上昇は、ヘッジファンドなど海外投機筋の積極的な日本株の先物買いに先導されていた面が強かった。彼らのオペレーションを見ると、先物買いに加えて、日経平均株価への寄与度の高いファーストリテイリングなどの値嵩株を買い上げて、いわば無理矢理に株価を押し上げていたフシがある。
■投機筋のオペレーションは必然 株価の調整局面は驚くに当たらない
5月23日、ヘッジファンドなどの投機筋は、米国でFRBの金融緩和策の縮小予測が出たり、中国経済の経済指標が一段と悪化したことをきっかけに、一斉に利益確定の売りに出た。結果的に、それが大幅下落につながった。
ただし、そうした投機筋の動きは、どこかの時点では必ず出るオペレーションだ。ということは、5月23日以降の不安定な株価の動きは、株価上昇の調整局面であり、特に驚くには当たらない。
株価下落幅が予想外に大きかったこともあり、当面、投機筋のポジション整理や一般投資家が落ち着きを取り戻すには時間を要するだろうが、それが終わればまた、わが国の株式市場は元気を取り戻すと考えた方がよい。
足もとの不安定な株式市場の動きを見て、「アベノミクスは失敗だった」と断じるのはやや尚早だ。
安倍首相は、今までに第1弾、第2弾、さらに第3弾というように、実際の成長戦略を小出しにして期待をつなぐ戦略を取っているようだ。そうした戦略の背景には、7月21日に予定される参院選挙まで期待をつないで、選挙で勝つことを考えているのだろう。
■期待される“異次元の成長戦略”も目新しい項目は見当たらない?
今まで安倍首相から公表されている成長戦略の中身を見ると、女性の労働力化や若者の国際競争力を高めるための教育の向上、国内の設備投資額の増加、インフラ輸出の強化、農業所得倍増計画などの内容が盛り込まれている。
また、6月中旬に“戦略特区”などを中心とした成長戦略第3弾に加えて、経済財政諮問会議からはマクロ経済政策に関する「骨太の方針」、新しいIT戦略、規制改革の答申などが出てくる予定だ。
その中のいくつかは、産業競争力会議が取りまとめ、成長戦略の中に集約されるだろうが、これから7月の参院選挙までに、成長戦略の様々な計画やかけ声が発表されるのである。
ただ、これらの内容は多かれ少なかれ、今までの政権でも検討されてきたもので、特に目新しい項目は見当たらない。強いて挙げると、規制緩和や税負担の軽減などに関して速効性のある“戦略特区”が注目されるものの、特区に適用される税制などに関して財務省がもろ手を挙げて賛同するとは考えにくく、実際に動き出すまでにはまだ紆余曲折があると見た方がよさそうだ。
そうした総花的な項目の列挙は説得力がないばかりか、安倍政権が謳うわが国経済の復活を本気でやる気があるのかという、本気度が疑われることにもなりかねない。
今までのところ、安倍首相が新興国中心に積極的なトップセールスを展開し、期待が高まっているものの、各省庁間の対立や既得権益の壁を破ることができなければ、アベノミクスに対する期待は失望に変わるときが来る懸念が高まる。
■消費税率引き上げまでに回復基盤をアベノミクスの成功に必要な“神風”
最近、企業経営者と話をすると、彼らの多くが2014年、15年のわが国経済の動向に悲観的な見方をしていることがわかる。円安傾向が進んでいることは自動車など大手輸出企業には強力な追い風だが、原材料を輸入に頼る国内型の企業には逆風になる。原材料のコストアップ分を価格転嫁できればよいが、それができないと企業業績は一気に圧迫される。
それに加えて、今のところ2014年4月に消費税率が3%上がり、さらに2015年10月に2%上がることが決まっている。日銀の政策目標である2%の消費者物価指数の上昇が現実のものになると、物価上昇分に消費税率上昇分を加えた一般消費者の負担はかなり大きくなる。
そのため、消費税率引き上げによる駆け込み需要が出る2014年3月までは、それなりに景気回復の絵が描けるのだが、それ以降、国内の需要項目に大きな期待を持つことはできない。逆に言えば、2014年3月までに経済状況をよほどしっかりしておかないと、それ以降はかなり厳しい経済状況に落ちこむ可能性が高い。
そうした懸念が現実のものになると、わが国経済の復活を目指すアベノミクスが、当初の目標を達成することは至難の業になるだろう。
アベノミクスが上手くワークするためには、国内の需要項目の落ち込みをカバーするのに十分なほど輸出が伸びるケースが考えられる。具体的には、米国の景気回復が予想を上回るペースで進み、世界経済が短期間に明るさを取り戻してわが国の輸出が大幅に増加する場合である。そうした状況は、わが国にとって他力本願、言ってみれば一種の“神風”と言えるかもしれない。
“神風”に依存せず、消費税率引き上げの中で中長期的な景気回復過程を歩むためには、“異次元の成長戦略”によって、消費性率引き上げ前までに、磐石な回復の基盤を築くことだ。それもまた容易な話ではない。
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