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“静観”決め込む1万3500円割れ「まだ弱気になれない」これだけの理由 2013年6月4日(火) 松村 伸二 株式相場の調整が止まらない。3日の東京株式市場で、日経平均株価は大幅に反落。約1カ月半ぶりに1万3500円を割り込み、1万3200円台へ沈んだ。この1カ月半の上げ下げを振り返ると、当初、約5週をかけて1万6000円近くまで上昇したこともかなり急な動きだったが、その後は同じ幅を1週間ちょっとで帳消しにするという、「暴落」と言っていい崩れ方だ。 ところが市場からは、必ずしも悲壮感に満ちた声が漏れてくるわけではない。昨年11月半ばに野田佳彦前首相が「衆院解散」を宣言して以降の上昇率が8割から5割強へ「落ち着いた」といった冷静な受け止め方が、いまだ少なくないのが実情だ。 次のポイントは「1万3000円」 今回の調整場面では、いわゆるチャート分析上で意識された水準のポイントをすでにいくつか割り込んできた。5月27日に「25日移動平均(1万4300円近辺)」、5月30日に心理的な節目の「1万4000円」、そして、過去の累積売買代金が比較的積み上がっていた「1万3500円〜1万4000円」の価格帯も下回った。 今のところ、こうしたチャート上で先を読めることが、市場心理を落ち着かせている面があるという。 次のポイントとしては、「1万3000円」の節目近辺を意識する市場参加者が多い。昨年11月半ばの8600円台から今月5月22日の1万5600円台までの上げ幅のうち、「黄金分割比率」という割合である「38.2%」分が調整する水準が「1万2966円」に当たるというのが1つ。 加えて、下に示した「一目均衡表」というチャートでは、2本の灰色の線に挟まれた「雲」と呼ばれる価格帯が次の支えになると見られている。実はこのチャート分析では、今回は描画していない別の線が相場の下振れを示唆しているが、目先はこの「雲」の中の水準「1万3000円近辺」が緩衝材になると見られている。 実は売る理由に乏しい海外投資家
日本株を取り巻く世界経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)から見ると、今の調整局面はどう映るか。株価が下がり始めてから1週間強が経ち、市場の見立ては徐々に集約されている。 1つは、世界的な流動性相場が曲がり角を迎えるのではないか、という見方だ。5月23日の「1000円安」のきっかけが、その前の日のバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長による議会証言だったことが、それを言い尽くしている。バーナンキ議長が年内の量的緩和の縮小を示唆したことで、世界の株式市場に集中していた投資資金の逆流が連想されたわけだ。 もっとも、FRBが金融緩和の出口を探るということは、米国の景気が改善に向かうということであり、本来なら株価にはプラス要因とされるはず。このことも、足元の株安が、あくまでも「調整」の範囲と受け止められる所以の1つだ。 そして、日本株を売っている“犯人”として話題に上ることが多い「外国人投資家」。その実相は、積極的に売るほどの日本株をまだ保有していないという。これまでの日本株売買の主体としては、投機的に資金を素早く移動させるヘッジファンド説が有力視されている。ある海外投信の日本株担当者も、「年金といった、ど真ん中の海外投資家に日本株を売り込むのは、むしろこれから」と打ち明ける。 しかも、外貨建て換算で儲けを考える海外投資家にとって、日本株の価値が目減りしやすい円安進行の下で、利益確定売りを急ぐ必要性は乏しいとの指摘もある。 下のグラフは、「円ベース」である通常の日経平均と、ドルベース日経平均、ユーロベース日経平均について、これまでの推移の仕方を指数化して比べたものだ。これを見ると、ドルやユーロに対して円安が進んできた分、外貨建て日経平均のほうが、上がり方が相対的に緩やかだ。このことは、海外投資家にとって、日本株高の過熱感が極端に高まっていたわけではないということを物語る。 「過熱感」解消で政策を催促
相場のどこが過熱していたのか。元凶は様々指摘されるが、業種別の騰落状況を見ると、1つの側面が浮かび上がる。日銀が「量的・質的金融緩和」の導入に踏み切った4月4日の前の日から6月3日までの、業種別日経平均の騰落率をまとめたのが下の一覧だ。日銀による「異次元緩和」効果を先行して織り込みすぎた業種が、今になって下げがきつくなっている。 「倉庫」を始め、「鉄道・バス」、「小売業」、「不動産」と、下げた業種には、ひところ市場で話題になったテーマ「土地持ち銘柄」が並ぶ。日銀の大胆な金融緩和で、土地の含み益が拡大するとの思惑で買われたこれらの業種は、しっぺ返しを受けている。
この間に上昇をキープしている“勝ち組”の上位は「精密機器」や「機械」、「自動車」など世界的に競争力を維持している業種で、日経平均を大きく上回る力強さがうかがえる。 こうした、日本企業の底力を支えるために、大きな期待が掛かっているのが、安倍晋三政権が放とうとしているアベノミクスの第3の矢、成長戦略だ。市場は、成長分野の産業を活性化する強力な施策を切望するが、とりまとめが直前に迫る中で、その期待に応えるような政策案はまだ見えてこない。 「成長戦略をまとめる直前に株価が大きく調整したことは、政府に改めて本気で政策を考えてもらうための、相場からの催促」。SMBC日興証券の西廣市・株式調査部部長は、最初のきっかけが海外要因に限られ、国内要因で悪材料が特に出ていない中での足元の調整場面を、次のステップへの踊り場と位置づける。 この先、相場が次の上昇局面を目指すのか、もしくは、さらに崩れる方向へ向かってくのか。グローバルな流動性相場の行く末を占う上で、7日に発表が予定される5月の米雇用統計に世界の注目が集まる。ここで、米量的緩和の縮小観測が一層強まれば、日本株もさらに痛手を被りかねない。その余波をどこまではね除けられるかどうか。市場関係者は、近くとりまとめられるアベノミクスの成長戦略の中身をこれまで以上に注視している。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20130603/249058/?ST=print 異次元緩和で債券相場が止まらない
“劇薬”飲んだ市場の長引く治療期間 2013年6月4日(火) 岩下 真理 日銀が4月4日に「異次元緩和」を決定してから、ちょうど2カ月となる。その間、円の対ドル相場は1ドル=93円台半ばから一時103円台まで円安が加速。日経平均株価は1万2000円近辺から一時1万6000円手前まで株高が進行した。ところがその後、5月下旬以降は、この円安・株高の進行に急ブレーキが掛かっている。日銀は早くも難問にぶつかったことになる。 そもそも2カ月前、日銀は黒田東彦新体制の下、「レジーム・チェンジ」が期待された4月3〜4日開催の金融政策決定会合で、想定以上の大胆な金融緩和策を“有言実行”で決定した。新体制下の初会合で大方の議案をほぼ全員一致で決めてしまい、全ての市場の期待に応える品揃えを整えるトップダウン方式かつ、短期決戦のサプライズな結果だった。 「異次元緩和」からちょうど2カ月。日銀は早くも難問にぶつかった この決定プロセスは、黒田総裁が財務官経験者ならではという、過去の大規模な為替介入の実績を模倣した印象を受けた。また全員一致で決定できたのは、黒田総裁がわざわざ懐に呼び寄せた前大阪支店長、雨宮正佳理事を含めた事務方「チーム黒田」の調整作業と苦労の賜物だろう。
これを受けた5月下旬までの円安・株高の動きを振り返ると、日銀が断行した「量的・質的金融緩和(Quantitative and Qualitative Monetary Easing=QQE)」の主目的である「資産価格のプレミアムへの働きかけ」「市場の期待の抜本的転換」には成功したと言える。 債券市場を混乱に陥れた異次元緩和 ところが、その一方で、QQE直後の債券相場は乱高下し、その後も不安定な動きを続けている。日銀の大量買い入れにより、市場での国債の取引量が減ると、買い注文と売り注文で新たに出合う値段が上下に飛び易くなる。一旦売りが出ると一気に価格が下がり、一旦買いが入ると一気に価格が上がるという、値動きが激しい事態に陥った。 外国為替市場と株式市場には恩恵をもたらした半面、このように債券市場の頭を悩ませている、日銀の異次元緩和の中味を改めて考えてみよう。 大胆な金融緩和の第1弾は「量的・質的金融緩和」の導入で、具体的には大きく3つある。(1)マネタリーベース・コントロールの採用、(2)長期国債の買い入れ拡大と年限長期化、(3)上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)の買入れ拡大である。金利の世界に直接的に影響を与えるのが(1)と(2)。そして大胆な緩和策のキーワードは「2倍」だ。 QQE決定時の声明文の冒頭で、物価安定目標2%を2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現すると明記。目標の達成時期に明確にコミットした点は白川方明前総裁との違いを鮮明にした。 (1)は量的緩和への復帰宣言だ。量的な拘りをマネタリーベースの数字で表すことにし、これを2年間で2倍にすると明言した。大胆さを世の中に示すためには、2倍は必要という認識があったようだ。 新しい指標の採用で金融緩和の「量」は明確になった マネタリーベースの選定は、岩田規久男副総裁の理論を尊重しつつ、諸外国と緩和度合いを比較するための説明に都合が良いとの考え方がメンバーのコンセンサスとなった。
日銀のディレクティブを金利から量に変更した結果、短期金利のアンカーがなくなり、時間軸(債券市場が織り込む、実質ゼロ金利政策が維持される期間)を曖昧にしたことは、後々、禍根を残すことになる。 問われる金融市場局の手腕 (2)は、2年間で国債の保有額と平均残存年限を2倍にするという方針だ。年間50兆円に相当するペースで買い入れを増加し、買い入れ対象の平均残存期間を現状の3年弱から7年程度に延長という大枠のみを金融政策決定会合で決定。国債の量と質の両面の拡大を図った。この大枠の方針のもと、詳細な運営は、従来から市場との窓口になっている金融市場局の裁量に委ねることになった。 実は、その点を日銀は声明文に分かり易く明記しておくべきだった。声明文に新たに「市場参加者との対話の強化」という項目が加わっただけに、尚更である。何故ならば、4月4日は、会合結果を13時40分に発表してから、金融市場局が「当面の長期国債買入れの運営について」を18時過ぎに公表するまで、4時間20分のタイムラグがあったのだ。 ここのところが、債券市場を混乱に導いてしまう起点となったと言っていい。 その4時間もの間、債券市場では国債の買い入れの対象年限と金額について様々な予測と思惑が迷走し、特に10年超のゾーンで金利が急低下する動きとなった。 短時間で纏めあげた金融市場局の努力は理解できる。しかし、いくら黒田総裁が分かり易さをアピールしたつもりでも、これでは日銀の施策は分かりづらいと市場関係者から批判を浴びても仕方がない。 結局、長期国債の毎月のグロス買い入れ額は7兆円強となる見通しだ。この買い入れ額は、新発国債のうちの7割弱を日銀が買い占める形であり、“国債の日銀相場”と揶揄された。 イールドカーブ全体の金利低下を促す観点での施策とはいえ、債券市場の流動性低下をもたらす大量の買い入れが“劇薬”であることは、その後の市場の動きが示すことになる。 「異次元緩和」決定直後こそ、市場で債券が買い進められ、イールドカーブが低下したものの、翌4月5日には、債券相場は乱高下することになる。日銀の金融市場局は当初4月4日に発表した「長期国債買入れの運営」について、わずか2週間後の4月18日、早くも見直しせざるを得なくなった。 当初のオペ1回当たりの金額を減らし、オペの回数を増やす対応をしたことは評価される。それでも債券相場の乱調は止まらない。その背景には日銀の大量の国債買い入れによる流動性低下に加え、一部投資家によるポートフォリオのリバランスの動きが見え始めたこと、そして、5月は国債入札ラッシュに対して投資家が身構えていたことなどがあったと思われる。 「イールドカーブ押し下げ」は封印 加えて5月3日発表の4月の米雇用統計が市場予想より景気の強さを示す内容となると、今後の米景気回復の期待、および米連邦準備理事会(FRB)による「出口戦略」が早まるとの思惑が台頭。市場で「リスクオン」の動きが強まり、海外発の金利上昇要因が背中を押した。結局、日銀の狙いとは裏腹に、イールドカーブは異次元緩和前よりも押し上げられてしまった。 イールドカーブは日銀の狙いとは逆に全体が切り上がってしまった 黒田総裁は5月22日の定例会見で、長期金利の動向を注視する姿勢を示したが、ある程度の金利上昇は容認しつつ、過度な金利上昇に備えたオペ対応に含みを残す発言をした。4月4日の声明文に掲載した「イールドカーブ全体の金利低下を促す」という文言は封印され、「働きかける」姿勢を前面に出した格好だ。
先行きの景気回復や物価上昇への期待を背景とした金利上昇に対して、日銀が大量の国債買い入れを推し進めれば、プレミアム圧縮効果により、「長期金利の跳ね上がりは十分に防止できる」との見解である。 足元の日本の潜在成長率が0%台半ば、そして、インフレ率が今夏に前年比プラス圏に入るという想定でも、名目長期金利の適正水準はせいぜい1%前後の見積もりとなる。長期金利が1%を大きく超えていくような過度な金利上昇は、景気面および、金融機関の収益面や民間企業の資金調達面にも悪影響が出ることから、日銀は使命感を持って抑制していくべきだろう。 その象徴的な出来事は5月23日に起こった。長期金利が朝方に約1年2カ月ぶりに一気に1%をつけると、日銀は残存期間が5年以下の国債買い入れと1年物の固定金利オペで総額2.8兆円超の大規模オペを通告した。財務省の流動性供給入札(残存5年超、15年以下)と同日の国債買い入れオペ実施は、対象残存期間が重複していないとは言え、初めてのことだ。 このときは日銀の弾力的なオペ対応を債券市場は評価し、ひとまず安心感が広がった。“禁じ手”の慣例化で、6月以降のオペ日程も増やすことが可能となった。 日銀はその後も機動的に策を講じようとしている。5月30日発表の「長期国債買い入れの運営」第3弾では、残存期間1年超、5年以下と10年超で、買い入れ頻度と1回当たりのオファー金額の上限を引き上げた。無用な混乱を避けるために、日銀は市場との意見交換会を定期的に開催し、市場との対話を強化しつつ、柔軟なオペ対応で債券市場の安定化に努める姿勢だ。 もっとも、こうした“劇薬”を飲んでしまった債券市場の治療期間は、当初想定したよりも長引きかねない。株高・円安進行の一服感、長期金利1%の達成感、そして5月の国債入札ラッシュの一巡により、徐々に金利上昇圧力は弱まっていくだろう。国内要因だけなら、国債入札とオペをこなしながら、各年限の落ち着きどころを探る展開が見込まれる。しかしながら、海外要因は日銀ではコントロールできない。 米国では、強めの内容の経済指標発表に伴って、FRBの出口戦略に対する見方が交錯し、ここに来て投資家がリスクを落とすような米国債売却に動き始めている。6月7日に発表予定の5月の米雇用統計で、米国発の次の波が押し寄せてくるかもしれない。 今後の注目タイミングは7月と10月 こうした海外要因に少しでも揺さぶられなくて済むように、政府と日銀はともに、実効性のある政策を打つことで、足元を固めていく必要がある。 日銀は、黒田総裁が4月4日の初の定例会見の際、「戦力の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策を全て講じた」と語ったことが示唆するように、すでに大胆な緩和を実行に移したことから、当面は今の政策で様子を見ていくことになるだろう。 その影響力が持続するためには、期待を織り込む過程から、今後は実体経済の数字に反映されていくことが求められる。具体的には、消費の増加基調の継続、設備投資の持ち直し、コアCPI(消費者物価指数)のプラス転化などの確認が必要だ。 今後、政府と日銀の政策一体運営を点検する重要なタイミングは、四半期に1回の頻度で、経済財政諮問会議の金融政策に関する集中審議が行われる時期と重なる。目先は参院選前の7月に予定される「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」の中間評価の時。その次は、消費税引き上げ実施の可否を最終判断するころの10月の展望レポート公表時だ。 アベノミクス政策に対し、諸外国からは今のところ表だった批判は聞こえてこない。日銀の金融政策に対して副作用に留意しつつも、各国から理解を得られたのは、日本の内需拡大が世界に好影響を与えることへの期待によるものだ。また、米国が好意的な姿勢を示すのは、日銀の異次元緩和が、米国の量的緩和第3弾(QE3)の出口戦略に向けての緩衝材になってくれるとの考えがあるからだろう。 しかし、異次元緩和による資産価格の上昇、それに伴う金融面の不均衡への不満は水面下で燻り始めている。 そうした不満を和らげるには、金融政策以外の部分も重要になってくる。政府は6月中に取りまとめる成長戦略を実効性ある政策にすることが求められる。対外競争力の回復に繋がる規制緩和の具体策も待たれる。 それが実現しないと、日銀の負荷はさらに増しかねない。市場の歪みが一段と増幅しないよう、日銀は今後も工夫を求められ続けることになるだろう。 岩下真理の日銀ウオッチング
安倍晋三政権が放つアベノミクスの3本の矢のうちの1つ、日銀の大胆な金融緩和策。財務官出身の黒田東彦総裁の下で、「量的・質的金融緩和」という未曾有の大実験が始まった。果たしてデフレを克服し、日本経済を再生することができるのか。長年、金融政策を追いかけてきた数少ない女性の「日銀ウオッチャー」、SMBC日興証券の岩下真理氏が、独自の視点で日銀の一挙手一投足を読み解く。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130531/248939/?ST=print
FRBは「緩和停止」ではなく「緩和微調整」へ
市場との対話に苦慮する中央銀行 2013年6月4日(火) 倉都 康行 日本では長期金利が不安定化し、ドル円の100円割れが意識されて株価も1万3000円台まで逆戻りするなど、東京市場には甘利機長の「当機は間もなく乱気流を抜けます」とのアナウンスが虚しくこだまする。だが米国市場では「日本の現象は円安・株高のスピード調整」という局部的現象だとの見方が強く、米株はまだ地合いの強さは損なわれていない。 筆者が仕事柄常に注目しているクレジット市場においても、ジャンク債市場ではさすがに平均利回り4%台という異様な水準は修正されてきたが、低格付け企業への融資意欲は旺盛で、いわゆる高利回りの「ローン・ファンド」にも個人資金が大量に流入している。欧州でもこれまでの南欧国債の投げ売りが嘘のように静まり返り、ギリシャ10年債の利回りは先月8%台にまで低下し、ポルトガルの10年債入札にも国外から旺盛な需要が寄せられるなど、昨年とはずいぶん様子が変わってきた。 マクロな経済指標を見る限り、世界の実体経済が上向いているとは必ずしも言えないところがある。確かに米国では住宅市場が急回復して、一部にはバブル再燃とまで言われるような価格動向を示している地域があり、雇用も徐々にではあるが改善傾向が見えている。ただし製造業における設備投資意欲はいまだ低迷しており、海外からの需要見通しにも今一つ迫力がない。欧州経済の底打ちは来年以降にずれ込む可能性が高く、中国経済も明らかに減速し始めている。 そんな中でのリスク資産市場への資金流入は、長期化する金融緩和の下での「流動性相場」であると言われている。つまり金融市場は過去に例がないような「実体経済からのデカップリング」状況にあるが、もう一歩その論理を進めて言えば、投資家の「現金離れ」つまり「現金売り」としての他資産への逃避と解釈しても良いだろう。それは先進国の金融当局が、量的緩和によって積極的に自国通貨価値を切り下げているからに他ならない。 9月か12月には縮小方向を具体化する見方も だが米国市場では、景気回復感から米連邦準備理事会(FRB)がついに量的緩和の出口に向けて舵を切り始めた、という見方が広がってきた。それが長期金利の上昇につながっている。実際に、米国の大学基金など機関投資家の「米国債離れ」のペースは顕著である。FRBが政策転換すれば、株式などリスク資産にも大きな転換点が到来するかもしれない。先月下旬からの日本株の急落は、主に日本固有の問題(上昇スピード調整や国債市場の流動性枯渇など)から発生したものではあるが、これを世界の市場変化の予兆として捉える向きもある。 FRBが毎月850億ドルの資産を購入するQE3の見直しを始めたのは、最近のことではない。本コラムでも、3月にFRB内部で緩和の軌道修正議論が開始されている点について触れておいた(「量的緩和コストの計算を始めた米国」)。だが、春以降のタカ派地区連銀総裁の発言や、バーナンキ議長自らが先月の議会証言の質疑応答の場において路線修正の可能性に言及したことで、市場に「6月18〜19日開催のFOMCで緩和縮小も」といった声が一気に湧き上がってきた。 6月にいきなり政策変更が決定される可能性は低いだろうが、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で買い入れ額が縮小されるとの見方は増えており、9月でなくても12月には縮小方向を具体化するかもしれない。だが、一方ではなかなか縮小に踏み切れない事情もある。筆者は、緩和の縮小開始が来年以降にずれ込む可能性もまだある、と感じている。 いま早期の緩和停止を支持ないし期待する人々の根拠は、(1)インフレ懸念、(2)雇用市場の改善、(3)住宅市況の活況、(4)個人消費の堅調さといった経済情勢と、(5)緩和長期化による資産バブルの進行という市場情勢である。それらの点を少し掘り下げて見ておこう。 インフレ懸念に関しては、現時点では全く問題にされていない。量的緩和がインフレに結び付くという議論は根強いものがあるが、少なくとも米国のデータを見る限り、インフレの「イ」の字も観測されず、FRB内ではむしろデフレ・リスクの方に警戒度のウエートが掛かっている印象が強い。従って、インフレ懸念は論点から外れていると見て良い。 雇用状況の判断には注意が必要 一方で、FRBが緩和修正の尺度にしている失業率が改善傾向にあることは明確だ。就業者数は着実に増えており、失業率も7.5%まで低下してきた。6月の雇用統計も引き続き改善を示す可能性は高そうだ。 もっとも、就業を諦める人の増加によって低下している失業率が現在の米国雇用状況を正確に表現するものでないことは、いまや周知の事実である。現在の米国の労働参加率は63.3%と歴史的に見ても低い水準だ。それは人口動態構造の変化に拠るものだ、という意見もあるが、昨今の調査では、やはり景気循環に拠るものとの主張を裏付ける実証分析が多い。徐々に雇用状況が改善してくれば労働参加率が改善し、失業率が逆に上昇する可能性もある。ヘッドラインに出てくる数字だけを見て雇用状況を判断するのは危険だろう。 次に、住宅市況の活況である。先月発表されたS&Pケース・シラー住宅価格指数が主要20都市で前年同月比10.9%上昇とのニュースには、市場でも驚きの声が上がった。そのうち12都市では二桁の上昇率となっており、中でもフェニックスは22.5%、サンフランシスコは22.2%、ラスベガスは20.6%という過熱ぶりである。その理由の一つが超低金利政策であることは論をまたない。こうした統計を見れば「もう緩和は必要ない」と言いたくなる気持ちもよく分かる。 住宅価格急上昇のウラに大手投資ファンド だが、この住宅価格の急上昇にはカラクリもありそうだ。昨今の住宅購入に大手投資ファンドが参入しているからである。彼らは差し押さえ物件をまとめて大量に購入し、賃貸物件として運用している。従って、一件ごとの住宅価格の妥当性を精査していない可能性が高い。事実、ある西海岸の大手不動産ファンドは「素人的なマネーの参入でもはや投資できる水準ではなくなった」とサジを投げている、とブルームバーグは報じている。格付け会社のフィッチは「価格上昇ペースが早過ぎる」として、今後の価格反落のリスクに言及している。 また個人の住宅購入を促してきたモーゲージ金利の「超低水準」にも変化が生まれ始めている。市場の政策変更の思惑で長期金利が上昇したため、米国住宅借入の標準金利である30年物固定ローン金利が3.5%前後から4%近くまで上昇しており、これがせっかく盛り上がってきた住宅市況に冷水を掛ける、と懸念する声が出てきた。日本でも長期国債下落のあおりを受けて住宅ローン金利が上昇中だが、日米ともにまだ金利上昇に耐えられるような経済状況ではない。 では個人消費はどうだろうか。先週、市場の目を引いた指標が、コンファレンス・ボードが発表した5月の消費者信頼感指数と、第1四半期GDP改定値の中の個人消費であった。前者は76.2と前月比7.2ポイント上昇で2008年2月以来の高水準となった。後者は前期比3.4%と速報値から上方修正されている。こうした消費意欲に支えられて、ここ数カ月の新車販売は年率1500万台を維持するなど絶好調である。 年初以来、給与税増税や強制歳出削減など個人消費へのマイナス材料が指摘されてきたが、上述した経済指標には、雇用への不安感の薄れや株・不動産など資産価格の上昇に支えられた家計心理の好転が示されている。個人消費の堅調さは確かにFRBの緩和縮小論にポジティブな材料だと言って良いだろうが、日本同様に実際の消費拡大は高額商品に限定されているとの見方もあり、消費面だけで資産買い入れ額の減少を判断する訳にはいかない。 以上は、実体経済面から見た「FRBの緩和縮小」への判断材料である。これに製造業の現況を加味すれば、これまで主張されてきた緩和の必要性や重要性を覆すほどの理由は出てこないように思える。 だが、市場状況は別物だ。上述したリスク資産のバブル懸念は、確かに緩和修正の主張に説得力を与えている。FRBは物価安定・雇用最大化のためにQE3を導入したことになっているが、株や不動産価格の上昇に拠る資産効果も狙いの一つであることは、よく知られた事実だ。ただし資産価格の上昇が行き過ぎれば、バブル破裂で市場経済に大きなマイナス効果を与える。 最も過熱しているのは「レバレッジド・ローン市場」 メディアではダウやS&P500の史上最高値が「バブル」として報じられることも多いが、実務的に見て最も過熱しているのは、低格付け企業への融資、いわゆる「レバレッジド・ローン市場」だろう。カネ余りが恒常化している中で、邦銀なみに預貸率(貸出を預金で割った比率)が70%程度まで低下してしまった米銀は、リターンの高い貸出案件探しに躍起となっている。手っ取り早いのは資金需要の旺盛な不動産開発融資やレバレッジド・ローンである。 融資資金が殺到すれば、リスクプレミアムは低下し、融資条件も甘くなる。最近目立つのは後者である。米国のローンには「コベナンツ(特約条項)」と呼ばれる貸し手保護のための財務的な種々の制約条件が付けられるのが普通だが、この条件を「緩める、あるいは付けない」甘いローンが増えているのである。これは、サブプイライム・ローン問題を生んだ2006〜2007年に起きたことの反復だ。 優良企業にそうした特約条項を付けないことは往々にしてあるが、それが信用力の低い企業に適用され始めたことは、クレジット・バブル再燃のリスクを感じさせる。バーナンキ議長が時々言及する「市場の過熱リスク」は、株ではなくこのローン市場を指しているように思われる。規制強化だけでは金融危機の再来は防げないとの意識から、QE3の縮小を検討している可能性は十分にある。 だがFRBが中途半端に緩和策を修正すれば、期待に持ち上げられた株式などの資産価値が一気に下落するおそれがある。5月の日本株の急落は、その意味ではFRBにとって「参考にすべき厄介な材料」が一つ増えた、ということであったかもしれない。 上記のように、緩和縮小を迫る材料もあれば躊躇せざるを得ない要因もあり、なかなかメーン・シナリオが描きにくい。市場には「QE3の波に乗り遅れて儲け損なったヘッジ・ファンドらが、腹いせにメディアを使って緩和縮小論をばら撒いているだけだ」といった意見すら見かけるようになった。 もっとも、その論はあながち邪推でもなさそうだ。伝統的な大手ヘッジ・ファンドの中には、一貫して量的緩和を批判する一方で十分なリターンを挙げられていないところもあるからだ。市場経験の長い投資家は、非伝統的な金融政策を嫌う傾向もある。市場を早く元に戻してくれ、という願いもあるだろう。確かに「景気が良ければ買い」「景気が悪ければ緩和が続くので買い」という現在の風潮は、プロが腕を見せられる環境ではない。 「Tightening(引き締め)ではなくTapering(漸減)」 だが市場の猛者が何と言おうが、やはり最終的に方向性を決断するのはバーナンキ議長だ。では、従来ハト派と見られていた同議長がなぜ議会証言の質疑応答で緩和縮小に言及したのだろうか。以下は筆者の下種の勘繰りに過ぎないが、ご参考までに記しておこう。 デフレはヘリコプター・マネーで止められるという持論のもと、2010年にQE2を導入した同議長は、恐らくこれで最悪期を乗り切れる、と期待していただろう。2014年1月の退任時には自説の正しさが証明されているはずだ、とも思ったかもしれない。 だが量的緩和効果は予想以上に鈍く、2012年には無限大のQE3までの政策拡大を強いられてしまった。その一方で緩和長期化のリスクは増大し始めている。こんなはずではなかった、との思いもあろう。議長退任までに、少なくとも緩和縮小への筋道を付けておきたい、という気持ちが日に日に強まっていても不思議ではない。 現在、次期FRB議長候補の最右翼はイエレン副議長である。同女史は現FRB内で最もハト派と見られる人物であり、QE3を継続したままバトンタッチすれば、軌道修正が難しくなる可能性もある。だから少なくとも年内には一度縮小しておきたい、景気動向が悪化すれば、その時にまた元に戻せばよい。それが議長の本音なのではないだろうか。 実際にFOMC議事録を読むと、緩和政策は「増額、減額のどちらも有り得る」と書いてある。最近、FRBはQE3縮小を「Tightening(引き締め)ではなくTapering(漸減)だ」と表現するようになっている。市場に神経を使っている証拠である。 だが「縮小は緩和停止へのシグナル」という短絡的な解釈が世界中に蔓延していることも事実である。FRBの軌道修正は、米国内だけでなく欧州や新興国など脆弱な市場をも直撃する可能性が高い。「QE3バブルは」新興国の国債や社債にも波及しているからだ。ルワンダが発行した4億ドルの債券に需要が殺到し、ブラジルのペトロナスは、新興国企業史上最大の100億ドル超の社債を発行する。こうした環境が一気に逆回転を始める可能性はゼロではない。 FRBが路線変更に踏み切ったとしても、それは「緩和の微調整局面へ」と見るのが適切だろう。だが市場が素直にそう解釈するとは限らない。量的緩和の長期化において、金融当局と市場との対話はますます難易度を高めている。それは、黒田体制の日銀が抱き始めた悩みと全く相似形である。 倉都康行の世界金融時評
日本、そして世界の金融を読み解くコラム。筆者はいわゆる金融商品の先駆けであるデリバティブズの日本導入と、世界での市場作りにいどんだ最初の世代の日本人。2008年7月に出版した『投資銀行バブルの終焉 サブプライム問題のメカニズム』で、サブプライムローン問題を予言した。理屈だけでない、現場を見た筆者ならではの金融時評。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130603/249023/?ST=print 【第280回】 2013年6月4日 真壁昭夫 [信州大学教授] 株価下落はアベノミクスの限界を示しているのか? 今度は安倍首相が「異次元の成長戦略」で汗をかく番 アベノミクスの限界を示したか? 株価調整で台頭する悲観的な見方 5月23日、日経平均株価が1000円を超える急落となって以降、市場関係者などの間から「株価下落はアベノミクスの限界を示した」との指摘が出ている。株価が調整局面入りしたことで、先行きに対する悲観的な見方が台頭していることを考えると、そうした声は理解できないではない。 しかし冷静に考えると、まだ、アベノミクスの最も重要な成長戦略、つまりいかにしてわが国の企業を強くし、経済を立て直すかという点が明らかにされていない。 今まで、円安傾向が進み株価が急速に上昇していたことで、多くの人が何となく、先行きについて楽観的な見方になっていたのだが、それはアベノミクスの「前座」とも言える金融政策による成果に過ぎない。 この次は安倍首相自身が実際に汗をかいて、各省庁や既得権益層の壁を破る番なのである。安倍首相の政策実行能力を不安視する見方は根強く、過大な期待を持つことは危険であることは確かだが、海外への積極的なセールス姿勢などを見ていると、それなりの期待を持てるかもしれない。少なくとも、金融市場の関係者や一般庶民も、まだ期待を捨てたわけではないだろう。 重要なポイントは、安倍首相が明確な成長戦略を打ち出せるか否かだ。それができなければ、期待が失望に変わり、アベノミクスで加速した相場は終焉することになる。もちろん楽観はできないが、その判断は今ではなく、もう少し先になるはずだ。 わが国の株式市場は、昨年11月13日を底にして上昇基調に変わった。11月14日に、当時の野田首相が衆院を解散することを宣言したことをきっかけに、全く期待の持てない民主党政権に代わって、やや期待可能な自民党政権ができることが現実味を帯びたからだ。 株式市場はその潮目の変化に敏感に反応し、それまでの株価低迷期を脱し、上昇トレンドへと移行した。それに加えて、今年4月に黒田・新日銀総裁が、いわゆる“異次元の金融緩和策”の実行を宣言し、株価上昇のペースを加速することになった。その後は、1980年代後半の大規模なバブル相場を彷彿とさせるような展開になった。 冷静に振り返ると、4月以降の株価の急上昇は、ヘッジファンドなど海外投機筋の積極的な日本株の先物買いに先導されていた面が強かった。彼らのオペレーションを見ると、先物買いに加えて、日経平均株価への寄与度の高いファーストリテイリングなどの値嵩株を買い上げて、いわば無理矢理に株価を押し上げていたフシがある。 投機筋のオペレーションは必然 株価の調整局面は驚くに当たらない 5月23日、ヘッジファンドなどの投機筋は、米国でFRBの金融緩和策の縮小予測が出たり、中国経済の経済指標が一段と悪化したことをきっかけに、一斉に利益確定の売りに出た。結果的に、それが大幅下落につながった。 ただし、そうした投機筋の動きは、どこかの時点では必ず出るオペレーションだ。ということは、5月23日以降の不安定な株価の動きは、株価上昇の調整局面であり、特に驚くには当たらない。 株価下落幅が予想外に大きかったこともあり、当面、投機筋のポジション整理や一般投資家が落ち着きを取り戻すには時間を要するだろうが、それが終わればまた、わが国の株式市場は元気を取り戻すと考えた方がよい。 足もとの不安定な株式市場の動きを見て、「アベノミクスは失敗だった」と断じるのはやや尚早だ。 安倍首相は、今までに第1弾、第2弾、さらに第3弾というように、実際の成長戦略を小出しにして期待をつなぐ戦略を取っているようだ。そうした戦略の背景には、7月21日に予定される参院選挙まで期待をつないで、選挙で勝つことを考えているのだろう。 期待される“異次元の成長戦略”も 目新しい項目は見当たらない? 今まで安倍首相から公表されている成長戦略の中身を見ると、女性の労働力化や若者の国際競争力を高めるための教育の向上、国内の設備投資額の増加、インフラ輸出の強化、農業所得倍増計画などの内容が盛り込まれている。 また、6月中旬に“戦略特区”などを中心とした成長戦略第3弾に加えて、経済財政諮問会議からはマクロ経済政策に関する「骨太の方針」、新しいIT戦略、規制改革の答申などが出てくる予定だ。 その中のいくつかは、産業競争力会議が取りまとめ、成長戦略の中に集約されるだろうが、これから7月の参院選挙までに、成長戦略の様々な計画やかけ声が発表されるのである。 ただ、これらの内容は多かれ少なかれ、今までの政権でも検討されてきたもので、特に目新しい項目は見当たらない。強いて挙げると、規制緩和や税負担の軽減などに関して速効性のある“戦略特区”が注目されるものの、特区に適用される税制などに関して財務省がもろ手を挙げて賛同するとは考えにくく、実際に動き出すまでにはまだ紆余曲折があると見た方がよさそうだ。 そうした総花的な項目の列挙は説得力がないばかりか、安倍政権が謳うわが国経済の復活を本気でやる気があるのかという、本気度が疑われることにもなりかねない。 今までのところ、安倍首相が新興国中心に積極的なトップセールスを展開し、期待が高まっているものの、各省庁間の対立や既得権益の壁を破ることができなければ、アベノミクスに対する期待は失望に変わるときが来る懸念が高まる。 消費税率引き上げまでに回復基盤を アベノミクスの成功に必要な“神風” 最近、企業経営者と話をすると、彼らの多くが2014年、15年のわが国経済の動向に悲観的な見方をしていることがわかる。円安傾向が進んでいることは自動車など大手輸出企業には強力な追い風だが、原材料を輸入に頼る国内型の企業には逆風になる。原材料のコストアップ分を価格転嫁できればよいが、それができないと企業業績は一気に圧迫される。 それに加えて、今のところ2014年4月に消費税率が3%上がり、さらに2015年10月に2%上がることが決まっている。日銀の政策目標である2%の消費者物価指数の上昇が現実のものになると、物価上昇分に消費税率上昇分を加えた一般消費者の負担はかなり大きくなる。 そのため、消費税率引き上げによる駆け込み需要が出る2014年3月までは、それなりに景気回復の絵が描けるのだが、それ以降、国内の需要項目に大きな期待を持つことはできない。逆に言えば、2014年3月までに経済状況をよほどしっかりしておかないと、それ以降はかなり厳しい経済状況に落ちこむ可能性が高い。 そうした懸念が現実のものになると、わが国経済の復活を目指すアベノミクスが、当初の目標を達成することは至難の業になるだろう。 アベノミクスが上手くワークするためには、国内の需要項目の落ち込みをカバーするのに十分なほど輸出が伸びるケースが考えられる。具体的には、米国の景気回復が予想を上回るペースで進み、世界経済が短期間に明るさを取り戻してわが国の輸出が大幅に増加する場合である。そうした状況は、わが国にとって他力本願、言ってみれば一種の“神風”と言えるかもしれない。 “神風”に依存せず、消費税率引き上げの中で中長期的な景気回復過程を歩むためには、“異次元の成長戦略”によって、消費性率引き上げ前までに、磐石な回復の基盤を築くことだ。それもまた容易な話ではない。 |