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大問題!長期金利はなぜ高騰するのか?正反対の日銀見通しで債券市場が大混乱
http://toyokeizai.net/articles/-/14111
2013年06月03日 野口 悠紀雄:早稲田大学 ファイナンス総合研究所顧問
5月中旬、長期金利が急騰した。15日には10年国債の利回りが一時0.9%を超えた。短期の金利はそれほど上昇していないので、イールドカーブ(金利の期間構造を示す曲線)の傾きが急になった。
日本銀行の新金融政策発表翌日の4月5日にも、長期金利が乱高下した。その後、0.6%程度の水準が続いていたが、再び大きな変動があったわけだ。長期金利が短期間にこのように大きな変動を示すのは、あまりない。金利は最も重要な経済変数の一つだから、これは看過することのできない重要な事態である。
金融緩和による長期金利の上昇は、ありえないことではない。2010年11年にアメリカの量的緩和策QE2が導入された際、10年債利回りは、1%ポイント程度上昇した。これはインフレ期待の高まりからと言われる。
イールドカーブが急になることも、金融緩和期によく見られる現象であり、珍しいものではない。ただし、通常は、長期金利が一定のアンカー値からあまり変化せず、短期金利が下がる。しかし今回は、短期金利が下がらずに長期金利が上がった。
■長期金利高騰は、経済活動にいかなる影響を与えるか?
第一に、金融機関に巨額の評価損が発生する。日銀は、『金融システムレポート』の中で、1%の金利上昇によって銀行に6.6兆円の評価損が発生するとの試算を示している(全期間の金利が上昇する場合)。
第二に、貸出金利が上がれば、経済に抑制的な影響が及ぶ。貸し出しが増えないので、設備投資も増えない。住宅ローン金利はすでに上昇しているが、これは住宅需要を冷やす可能性がある。
第三に、国債の利払いが増加する。年間の国債発行額はグロスで174兆円(12年)なので、金利が1%上昇すれば、支払金利は1.7兆円増加する。これは、消費税率を3.5%引き上げた場合の国の増収分(増収総額から地方に回される額を控除した額)に匹敵する。
第四に、長期金利が乱高下すると、長期計画が立てにくくなる。設備投資の決定には長期金利が影響するが、乱高下すると、それだけで設備投資が減少するおそれがある。実際いくつかの企業が、社債の発行の延期を決めている。また、銀行や保険会社などの資産運用において、国債を買い増すべきか売却すべきかの判断は、長期金利の見通し次第で正反対になるので、大混乱に陥る。
■銀行が国債を売ったのは投資でなく防御が目的
では、なぜ長期金利が上がったのか? 株価が上昇したので、銀行が国債を売って株を購入したためだという説明がなされている。
この説明が正しいかどうかを確かめるには、銀行の資産がどのように変化したかを調べる必要がある。そのデータが得られない現時点で確固たることは言えないが、銀行がこうした行動を取るとは考えにくい。
なぜなら、自己資本の計算上、自国国債はリスクのない資産と見なされるからだ。実際、満期まで保有すれば、市場価格がいかに変動しても、額面通りの償還が得られる。そして、銀行にとって自己資本比率の維持は重要な課題だ。株価が上がったからといって、国債を簡単に売却するとは思えない。それに、株価がすでに上昇してしまった今、株に新規投資するのは、極めてリスキーだ。
銀行が国債を売ったのは事実だろうが、それは、株投資を増やしたいためではないだろう。銀行は、残存期間が長期の国債を売って、残存期間が短期の国債を購入したのではないかと思われる。つまり、保有国債の平均残存期間(デュレーション)を短期化したのだ。これは、イールドカーブの傾きが急になったという事実とも合致している。
では、銀行はなぜこうした行動を取ったのか? それは、デュレーションを短期化しておけば、金利上昇が生じた場合の損失を抑えられるからだ。つまり、銀行の国債売却は、株式というハイリスク・ハイリターン投資を求める積極的なものではなく、金利上昇の可能性に備えた防御的なものと考えられる。
この解釈が正しいとすれば、長期金利高騰の根底にあるのは、長期金利高騰の予想である。
では、銀行はなぜ金利上昇を予想するのか? それをこれから述べるが、その前に、名目金利の上昇は、金融緩和と矛盾するのが普通であることに注意しよう。なぜなら、金融緩和とは、マネーストックを増大させて金利を下げるものだからだ。
ただし、ここで考えられているのは実質金利だ。名目金利がどうなるかは、物価上昇率の見通しによる。フィッシャー方程式(名目金利=実質金利+期待物価上昇率)によれば、実質金利の低下幅が物価上昇率の引き上げ幅より大きい限り、名目金利は低下する。金融緩和の効果として普通期待されるのは、こうした事態だろう。今回の金融緩和でも、そうした結果が期待されているはずだ。
しかし、実質金利の低下が物価上昇率の上昇に及ばなければ、名目金利は上昇する。市場は、こうした事態を想定しているかもしれない。
■名目金利上昇の見通しが低下見通しより優勢に
実際に名目金利が高騰したのは、次の二つの変化が生じたからだと考えられる。第一は、実質金利の十分な引き下げは成功しないとの見通しが強まったこと。もう一つは、物価上昇の見通しが強まったことだ。
物価が上昇するルートとして、二つの可能性がある。一つは、円安による輸入物価の上昇だ。為替レートが1ドル=100円の大台を超えたため、とめどもない円安と輸入インフレが生じると考えられるに至った可能性がある。いま一つは、財政拡大による物価上昇だ。これは、実質金利をも上昇させるので、名目金利の上昇幅はより大きくなる。
いずれせよ、名目金利が、低下するのではなく上昇するという見通しが優勢になった。
では、マーケットはどの程度の物価上昇を予測しているのか? 前回、フォワードレートを推定した。そこで示したのは5月8日のデータに基づくもので、期間の経過にしたがって単調に上昇し、8年目頃で定常値に収束するような形になっていた。
金利上昇後の5月15日のデータで計算すると、図に示すようになる。カーブがかなり上方にシフトした。もっとも、2%目標が達成できない点では前回と変わりはない。ただ、右側の部分が奇妙な形に変形している。これが意味のあるものかは不明だ。いまだに見通しが混乱しているためではないかとも考えられる。
先に述べたように、名目金利が下落するか上昇するかは、実質金利の低下幅と期待物価上昇率の上昇幅の、どちらが大きいかで決まる。日銀は、一方において金融緩和をする(その含意は実質金利の引き下げ)と言い、他方で物価上昇率を高めると言っている。つまり、名目金利の方向付けに関して、正反対のメッセージを市場に送っているのだ。市場はどちらがどの程度成功するか判断がつかないために、金利の方向付けの判断ができず、混乱している。
今回の事態に対し、日銀は国債購入を増やして金利を抑えようとするだろう。しかし、「2%目標」が残っている限り、将来の名目金利は上昇すると考えざるをえない。
(週刊東洋経済2013年6月1日)
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