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藤巻 健史 ふじまき たけし 元モルガン銀行東京支店長、日本を代表する債券・為替・株式トレーダーの1人。一橋大学商学部卒業後、三井信託銀行入社。1980年ノースウエスタン大学ケロッグスクールでMBA取得。1985年モルガン銀行に転職し、「伝説のトレーダー」の異名をとる。ジョージ・ソロス氏のアドバイザ―を経て、現在はフジマキ・ジャパン代表取締役。
なぜ「円安は日本再生の最強の処方箋」なのか 伝説のトレーダー、藤巻健史氏が語る「本物の円安論」
http://toyokeizai.net/articles/-/14165
2013年06月03日 東洋経済オンライン編集部
安倍政権誕生以降、急激な円安が進み「為替」への関心が高まっている。円安は本当に日本経済を救うのか? それとも輸入物価の高騰を招き、国民生活を疲弊させてしまうのか? そこで、今回と次回の2回に分けて、『円安vs.円高 どちらの道を選択すべきか』を著し「円安こそ日本再生の最強の処方箋」と主張する藤巻健史氏に、日本のあるべき通貨政策について語ってもらった。第1回目は「なぜ円安がいいのか」「なぜ円高が日本経済を苦しめてきたのか」について明らかにする。
安倍政権が誕生して以降、円高の弊害が少しずつ国民の間に浸透し始めた気がしますが、私はもうずっと前から「円安だ、円安だ」と、独りで叫び続けてきました。そのせいでしょうか、私のことを「ミスター円安」などと呼ぶ人もいます。
■円高に苦しんできた日本経済
読者の方に誤解されるといけないので言わせていただきますが、私は年がら年中、「円安がいい」と主張しているわけではありません。本来、市場原理が正しく働いていれば、為替は経済の自動安定装置としての役割を果たします。したがって「景気が悪ければ円安に、景気がよくなったら円高に」――それが私の持論なのです。わが国はバブル崩壊以降、今日までずっと景気が落ち込んでいました。だから「円安を」と言い続けてきたにすぎません。
「円安がいい」と言うと、「輸出が伸びるから藤巻は円安を主張しているのだろう」と誤解されることがよくあります。また、その誤解に基づいて、「日本経済は輸出依存度が低いから円高でいいのだ」といった俗論をぶつけてくる人もいます。私が「円安がいい」と言うのは、単に輸出産業がよくなるからというだけの、底の浅い話ではありません。
■為替とは、「値段」そのもの
まず識者やマスコミも含め多くの人が、わかっているようでわかっていないのが、「為替とは何か」ということです。
為替とは、何か特殊なものではなく、まさに「値段」そのものです。企業活動から国民の日常生活まで、為替レートはすべてに決定的な影響を及ぼすのです。この認識が、日本人にはあまりにもなさすぎるのではないでしょうか。
モノやサービスの値段、あるいは労働力の値段(賃金のことです)は、国内市場を相手にしようと、海外市場で勝負しようと、すべて〈自国通貨建て価格×為替レート〉で決まります。たとえば日本企業が国内市場でモノやサービスを取引する場合、為替レートはつねに1ですが、国内に参入している他国企業の製品は、円が3倍になれば為替は3分の1になります。当然、日本での販売価格は3分の1に下がるということです。どちらが価格競争力に優れているかは、言うまでもないでしょう。
安倍首相就任で20%以上円安に振れましたが、それまではほぼ1ドル=80円に張り付いていました。1980年代の1ドル=240円の為替レベルと比べると、ちょうど3倍の円高です。この変動が日本企業にどういう影響をもたらしたかというと、海外市場では「3倍の値上げ」となり、日本の国内市場では「3分の1に値下げした外国製品と戦わなければならない」、理不尽なほどのハンディキャップを負わされているわけです。
これが「元気がない」と言われる日本経済の元凶です。円が強すぎるがゆえに、世界の競争相手が値下げをしているときに、日本だけがモノ・サービス・労働力をめちゃくちゃに値上げしなければならないのですから、元気になれるはずがありません。これではいくら技術力があろうと、品質が優れていようと、価格競争力の差で太刀打ちできるはずがありません。
リーマンショック後の株価の回復状況をみても、先進国で最も出遅れが目立つのが日本株です。とにかく日本企業は、他国企業に比べてまったく儲かっていないのですから、株価の低位安定もいたしかたありません。
にもかかわらず識者からは、企業の業績不振を「リーダーシップの欠如」や「意思決定の遅れ」といった経営サイドの問題に帰するコメントが聞こえてきます。それではあまりにも経営者に酷でしょう。特定の1社、2社がダメだというならわかりますが、現実はそうではありません。パナソニックやシャープなどの家電メーカーをはじめ、日本を代表する大企業や産業が軒並み落ち込んでいるわけですから、やはり国に何か根本的な誤りがある、と考えるのが自然ではないでしょうか。問題は円高であり、それを是正できない為替政策の誤りなのです。
円高のハンディキャップに耐えきれず、企業が今以上に生産移転を進めてしまったら、仕事や給料を得るのは外国人で、法人税や従業員が支払う所得税、消費税など各種の税金を収入として得るのも外国政府です。一方で日本人は、円高によって働く機会を奪われます。雇用問題や若者の就職問題もつまるところ、為替の問題だということです。
■日本は実質、社会主義の国
「円は隠れた基軸通貨」という円高論者は、「国内の余剰資金が海外へ出ていき、逆に避難通貨としての円を目指して世界のおカネが日本に流れ込んでくる」から、「世界は円なしには生きられず、円はますます強くならざるをえない」と説明します。その絵空事がもし現実であったなら、どんなにすばらしいか。景気の悪い時期には、国内の資金がドラスチックに海外へ流れて、為替は適正な円安レベルに動いていたはずです。円安が、景気回復の特効薬になっていたことでしょう。本来、為替相場はうまく働けば、国力に応じて適正かつ柔軟に変動する「経済の自動安定装置」の役割を果たすのですから。
しかし現実はそうではなかった。だから日本は、身分不相応な円高で苦しみ続けているのです。では、なぜ海外へ資金が出ていかないのでしょうか。
結論から申し上げると、日本という国が実質、社会主義だからです。日本が資本主義国家で市場原理が正しく働いているなら、20年も名目GDPが伸びていないような国の、利回り1%割れの国債などに資金が投入されるわけがありません。よりリターンの多い海外の投資先・運用先に向けて、おカネがどんどん流れていくのが当たり前です。第一、そうでないと株主が黙っていないはずです。本来、それが市場原理なのです。
■政治に求めるべきは、さらなる量的緩和ではない
資金が集まらなければ、国債の価格は下落し、長期金利が上がります。ところが日本では、日銀とゆうちょ銀行という事実上の国営機関が、国債の大口需要家として、ひたすら国債を買い支えてきました。ちなみに日銀は、その資産の7割を国債投資に充てていますし、ゆうちょ銀行になると、預かった預金総額の8割に上ります。日銀とゆうちょ銀行という市場原理とは関係ない大需要家が市場に参入し、がむしゃらに国債を買い支えてきた結果として、国債の価格はかろうじて高止まりしています。ここに、政治家がいくらバラマキを行っても長期金利が上昇しないカラクリが隠されていることを、どれだけの国民が理解しているでしょうか。
デフレから脱却したいなら、景気をよくしたいなら、私たちが今、政治に求めるべきは、さらなる量的緩和などでは断じてありません。市場原理を正しく機能させることで、ジャブジャブになった国内滞留資金の海外への流出・還流を促し、円安へと導く仕組みづくり――要は、「構造改革」なのです。
「日銀の外貨資産購入」や「ドル建て日本国債の発行」など方法論はいくらもありますが、根本的にはやはり、ゆうちょ銀行を完全民営化し、日銀による国債購入を制限するなどして、市場原理の埒外にある「国営機関」が市場を牛耳る不合理を改めることが最重要でしょう。言い換えれば、市場原理が働くまっとうな資本主義をこの国で実現することこそが、円高を解決し、日本経済を再生に導く処方箋であると、私は確信しています。
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