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アップル対サムスン[日経新聞]
(1) さらば「コピー・キャット」
「Wow(ワオ)」。5月16日、東京都中央区日本橋室町のイベント会場に白いジャケットの女性が登壇し、両手を広げ声をあげた。サムスン電子副社長の李英熙(イ・ヨンヒ、48)。新発売のスマートフォン(スマホ)「ギャラクシーS4」が世界に与える驚きを表現したのだ。「新しい人生の楽しみ方を提案する」。米国仕込みの英語で聴衆に宣言した。
李英熙は仏化粧品大手ロレアルの韓国法人でふるったマーケティングの腕を買われ、2007年にサムスン電子に移籍。以来、モバイル機器のマーケティング戦略を任されてきた。「ギャラクシー」の名付け親の一人でもある。今は米アップルの「iPhone(アイフォーン)」との販売競争の最前線に立つ。
創業家を除くグループトップ、副会長の崔志成(チェ・ジソン、62)の信任を得て出世レースの先頭集団を走る。一貫して「価格競争はしない」と社内にある安売り論を押さえ込み、ギャラクシーブランドの向上に努めてきた。
「視線を外すと動画がとまる」「顔の動きで画面がスクロールする」。李英熙はS4の革新性をアピールする。プレゼンはアップル創業者の故スティーブ・ジョブズを意識したかのようだ。
発表イベントでは3月のニューヨークに始まりモスクワ、リオデジャネイロなどを巡り、締めくくりの地に東京を選んだ。5月16日、発表を終えた李英熙は向かいのホテルに移り周囲に告げた。「アップルの後じんを拝している日本市場の『例外的状況』を変える」
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スマホ市場でアップルとサムスンの最終決戦が近づいている。ギャラクシーシリーズの発売は10年。11年には首位に立った。現在は世界市場の3割をサムスンが占め、アップルは2割にとどまる。その例外がアップルのお膝元である米国、そしてシェア1割以下の日本だ。アップルがiPhone5の伸び悩みで1〜3月期に約10年ぶりの減益となった今、李英熙は「勝つ好機」とみる。
3月、ニューヨーク。「サムスンはイノベーションを起こしている」。スマホ事業を率いる社長の申宗均(シン・チョンギュン、57)も熱弁を振るった。ジョブズがサムスンに貼った「コピー・キャット(ものまね屋)」というレッテル。この払拭をS4にかける。
4月末に韓国、米国で発売するとS4は1カ月で1千万台超と猛烈な勢いで売れ始めた。今月23日に売り出した日本でも販売ペースは「過去最速」(NTTドコモ)だ。
グループの御曹司、サムスン電子副会長の李在鎔(イ・ジェヨン、44)もスマホの首位固めに奔走する。昨年12月、李在鎔は大阪でシャープ会長の片山幹雄(55)と会談。ソウルに戻ると部下たちにこう言った。「シャープはアップルの言いなりになっている」
12年に7億台、13年に9億台と急成長するスマホ市場で勝つには高性能部品の安定調達が欠かせない。基本的に自社部品を使う方針を掲げるサムスンも外部調達を増やす必要がある。高精細パネルを持つシャープはキープレーヤーの一社だ。
「シャープは設備投資を肩代わりした米アップルに安い価格で納入を強いられている」。李在鎔は片山に持ちかけ、3%の出資交渉をまとめた。部品調達でも対アップルの姿勢を鮮明にする。
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4月26日。ソウル南部にあるサムスンのオフィスビル玄関で李在鎔は米グーグル最高経営責任者(CEO)のラリー・ペイジ(40)と肩を組み親密ぶりをアピールした。
ギャラクシーが使う基本ソフト(OS)はグーグルの「アンドロイド」。サムスンがスマホを売れば売るほどグーグルは検索やコンテンツ配信など自社サービスの傘に世界の消費者を取り込む。
運命共同体のはずの両社の間に、すきま風が吹いている。サムスンの目標はアップルがつくったOS、スマホ、コンテンツ配信が結合した生態系を越えるモデルをつくること。新興国などで「100ドルスマホ」といわれる安い機器が普及すれば、今の高価格戦略は維持できなくなる。自前の生態系をつくり上げないとじり貧になる。
サムスンは米インテルやドコモなどとともに独自のOSづくりを進める。グーグルも米モトローラ・モビリティー買収後、自らハードをつくる意欲を隠さない。
李在鎔、崔志成とともにペイジを見送った後、申宗均から「今後はもう少しグーグルと緊密に協力していく」と本音が漏れた。サムスンの次のライバルはグーグルかもしれない。
(敬称略)
[日経新聞5月28日朝刊P.2]
(2) 7億人の磁力
「韓国のサムスン電子は最大の競合相手か」。21日、米アップルの納税について最高経営責任者(CEO)のティム・クック(52)を招集した米上院公聴会。こう問われたクックは不機嫌そうに答えた。「競合相手の一つに間違いありません」
クックのいらだちを象徴する記事が3月14日、米紙に載った。「守勢のアップル、サムスンを攻撃」。サムスンのスマートフォン(スマホ)「ギャラクシーS4」の発表に合わせ、アップルのマーケティング担当上級副社長、フィル・シラー(52)にインタビューした記事だ。
「調査によればiPhone(アイフォーン)の顧客は4分の3が満足しているが、(S4が使う米グーグルの基本ソフト=OS)アンドロイドは利用者の半分しか満足していない」。シラーはこう“口撃”した。
独自OSと商品力を武器に、通信会社に販売ノルマを課すなど自社に有利な条件でiPhoneを提供、音楽やアプリ配信で顧客の囲い込みに成功しているアップル。それでもスマホ販売でサムスンが先行する現状は、売上高の87%をハードに頼るアップルを憂鬱にさせる。
1月、クックは中国を訪問した。この15年余りで20回以上も現地のiPhoneの協力メーカーなどに足を運んできたが今回の目的は違う。情報通信行政を担う工業情報化相の苗●(つちへんに于、58)や、世界最大の携帯電話会社、中国移動通信集団(チャイナモバイル)董事長の奚国華(62)との密談だ。
7億人の顧客を抱えるチャイナモバイルがiPhoneを採用すればシェア争いで反撃する切り札になる。チャイナモバイル関係者は「奚は採用条件を提示したはずだ」とささやく。
条件には中国が世界普及を狙う独自の通信規格をiPhoneに搭載することが入ったようだ。日本や欧米が使う規格とは異なるがスマホ用の半導体に複数の規格を混載するのは技術的に可能だ。ただ条件をのむことはアップルが開発の主導権で妥協することを意味する。
再び米上院公聴会。「チャイナモバイルと交渉しているのは承知しています」。ある上院議員のこんな問いかけにクックは苦笑した。議員の意図は、中国事業が拡大したら米国よりも海外への納税額が増えるばかりだという嫌みだったからだ。アップルの中国への傾倒ぶりを皮肉る形となったが、ある幹部はつぶやく。「7億人の磁力に勝てるか」
(敬称略)
[日経新聞5月29日朝刊P.2]
(3) いずれ折れてくる
4月18日、都内のある飲食店。NTTドコモ社長の加藤薫(62)と韓国サムスン電子社長でスマートフォン(スマホ)事業を率いる申宗均(シン・チョンギュン、57)が会談した。米アップルのiPhoneを扱わず顧客流出が続くドコモと、「ギャラクシーS4」発売を機にアップル優勢の日本市場で逆転を期すサムスン。特に対アップル戦略の話は熱を帯びた。
「隙がない」。申宗均が披露するスマホの開発ロードマップに加藤は舌を巻いた。どの国にどの価格のスマホを投入するか。眼鏡型、腕時計型、ジャケット型などポストスマホの新製品も準備は整っていた。何より加藤が信頼を深めたのはギャラクシーの故障率が最も低い水準になり、S4が世界中で高く評価されていた点だ。
「こういうスマホを待っていた」。加藤はS4をソニーの「エクスペリアA」とともに販促費を集中投入するツートップにすると決断。従来型携帯電話からスマホに買い替える10年以上の契約者の場合、S4購入にかかる実質負担額は1万5千円前後と従来の約半分になる。5月23日、発売初日の販売台数は4万台に迫り、ドコモのスマホでは過去最高の出足となった。
サムスン同様、加藤もS4にかける。ただ、ドコモの思惑は多少異なる。
ドコモが日本でのiPhone初採用をソフトバンクと争った5年前。「NTTグループが持つ知的財産の利用、スマホ販売の5割をiPhoneとするノルマを求めてきた」。交渉にあたった幹部は断念の経緯を明かす。以来、iPhoneは「あくまで検討対象」(加藤)にとどまってきたが、潮目が変わってきた。世界でサムスンの攻勢にさらされるアップルが条件を緩和するとの読みだ。
1月22日、春モデルの新製品発表を終え報道陣に取り囲まれた加藤。iPhone導入の可否を問われると「ノルマが2、3割なら」と漏らした。根拠は企画部門がまとめたシミュレーション。アップルの要求に従って競合他社がiPhoneに費やす販促費と安い通信料金をドコモが採用した場合、iPhone導入による収益へのマイナス影響は顧客流出の影響より大きくなるとの試算だ。
追い込まれたアップルが条件を下げればiPhoneを導入する環境が整うドコモ。ある幹部はこう期待する。「いずれ向こうが折れてくる」
(敬称略)
[日経新聞5月30日朝刊P.2]
(4) iPhone銘柄の変質
韓国サムスン電子の新型スマートフォン(スマホ)「ギャラクシーS4」の日本発売を控えた5月22日。村田製作所の執行役員、中島規巨(51)は蒸し暑さが増すソウルにいた。スマホ用の無線識別装置や極小コンデンサーなどでトップシェアを誇る同社。中島はサムスンが開発中のモバイル端末に部品を納入するため2週連続で出張している。「常に即断即決」を迫るサムスンの問い合わせで、日本でも中島の携帯は昼夜休日を問わず鳴り続ける。
村田にとって米アップルは最大の得意先だがサムスンの存在感が日増しに強まっている。村田社長の村田恒夫(61)が愛用する端末はサムスンの「ギャラクシーノート」。名前が刻印された特注品だ。
米アップルの「iPhone(アイフォーン)5」で部品点数の4割を占めるとされる日本の部品メーカー。アップルの成長とともに株価が上昇してきたiPhone銘柄だ。だが、年初にはiPhone5の伸び悩みでアップルからの部品発注が減り部品各社は逆風にさらされた。今は過度のアップル依存がリスクとなり、他のスマホメーカーには調達機会が広がる。
アップルがiPhone5を発売した昨年秋以降、中小型液晶パネル最大手、ジャパンディスプレイ(東京・港、JDI)社長の大塚周一(61)は毎日のように中国や台湾から客を迎える。中国の華為技術(ファーウェイ)、中興通訊(ZTE)、台湾の宏達国際電子(HTC)などスマホメーカーの調達担当者だ。用件は同じ。「iPhoneを超えるパネルが欲しい」
iPhoneが使う高品質パネルはJDI、シャープ、韓国LGディスプレーなど数社しか供給できない。品質より価格を重視してきた中国、台湾勢が高品質パネルを求めるのは先進国市場でも攻勢に出るためだ。原則として自社部品を使う韓国サムスン電子もスマホ用パネルの供給を打診したことがある。
大塚は「アップルは重要顧客だが、持続的な成長には世界中の顧客からの注文が必要」と話す。年初にアップルの発注が減ったときも多様な取引先からの受注で乗り切った。
拡大する市場でスマホメーカーの顔ぶれも変わる可能性がある。長年、業界を見てきた村田は言う。「誰が勝つか予測できない。今、発注が少ないメーカーでも取引をおろそかにしない」。アップルの発注もかつては少量だった。
(敬称略)
[日経新聞5月31日朝刊P.2]
(5) 第3のOS渇望
5月初め、ワープロソフト「一太郎」の生みの親である浮川和宣(64)は公開まで2週間に迫ったスマートフォン(スマホ)向けアプリ(応用ソフト)の検証作業に追われていた。浮川は2009年に手書き入力できるノートアプリなどを開発するメタモジ(東京・港)を起業。当初は米アップルのiPhone(アイフォーン)版アプリを手がけてきたが、今回は米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」版だ。
様々なメーカーのスマホでアプリが正確に動くか。160機種以上の検証に半年を費やす。「正直、負担はかかる」と浮川は話す。それでも多くのアプリ会社がiPhone版とアンドロイド版の2つのアプリを並行開発する。ネット広告のD2C(同・同)によると1年前までiPhone版アプリの1割だったアンドロイド版の市場が急成長。ビジネスチャンスが広がっているからだ。
ただ、アップルとグーグルの2大企業がアプリ流通を支配する仕組みのなかでアプリの作り手の立場は弱い。その一端をある開発者が明かしてくれた。
「配信サイトにアプリを登録する際の交渉・連絡は原則メール。不合格になっても通知が来るだけで、何を直せばいいか詳細は教えてもらえない」。国内のゲーム配信会社にソフトを供給した時は企画段階から詳細なやりとりがあった。無事に採用されても売り上げの3割がアップルやグーグルへの手数料に消える。ヒットアプリを作れば世界に売れるが、「採用されない可能性と手間を考慮するとリスクも大きい」。
アップルやグーグルの影響下にあるのはスマホ最大手の韓国サムスン電子も同じだ。
2月、スペインの携帯電話見本市で2つの新OSが注目を集めた。サムスンがNTTドコモなどと推進する「タイゼン」と、米モジラ財団が主導する「ファイヤーフォックスOS」だ。両OSともネットにつながりさえすればアプリの機能をダウンロードせずに使える点に特徴がある。OSごとにアプリを作り分ける必要がなくなり、特定の配信サイトに依存せずに容易にソフト機能やコンテンツを市場に提供できるようになる。
「スマホのビジネスモデルは変わる」。スペインの見本市でドコモ取締役の永田清人(55)はこう話した。第3のOSを渇望しているのはアプリ開発会社だけではない。
(敬称略)
尾島島雄、堀江耕平、玉置亮太、奥平和行、小倉健太郎、指宿伸一郎、兼松雄一郎が担当しました。
[日経新聞6月1日朝刊P.]
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