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5月23日の日経平均は1万4483円と前日の1万5627円から大幅に値下がり、下落率7.32%と戦後第10位の下落になった。翌24日も乱高下し終値で1万4612円だった。
ただ、この水準は5月10日頃とほとんど同じだ。株式市場ではしばしば見られる現象で、一本調子での上げ相場の後の「調整局面」だろう。この調整はどんなきっかけでも起こりうる。
株価の上昇は金持ちにだけ恩恵があり庶民に関係ないと言っていたアベノミスク批判者が、今度は株価の下落で大騒ぎするのは滑稽である。また、名目長期金利の上昇を批判していたのに、株価の下落で名目長期金利の下落があったことについてまったく言及しないのは、批判のための批判であろう。
■マネーストックのインフレ、賃金の強い相関関係
アベノミクスの金融緩和のキモは、これまで何度も書いているが、実質金利(=名目金利マイナスインフレ予想率)の低下だ。今年初めから、予想インフレ率が急上昇し実質金利は急速に低下している。1年前と比べると、0%程度だった実質金利は、今では▲1.4%程度になっている。実体経済との関係を見たければ、これだけ見ていればいい。実質金利の低下は、時間ラグはあるが実体経済に影響を与えるのだ。
実質金利の低下の副産物として株価の上昇はあるが、あくまで株価は副産物であり、それが目標でない。しかも、株式市場はいろいろなものを先取りするので、一本調子の上昇はなく、しばしば調整局面がある。この意味で、株価の方向感は重要だが、日々の株価に一喜一憂しても意味がない。
残念ながら、経済学のツールで株価を分析するのはなかなか難しい。株価はあまりにいろいろな要素が絡んでいるからだ。もちろん、個々の株価についての理論モデルはあるが、それで株価がわかるというほどのものでない。
これから、ご紹介する株価モデルも、とても実際の取引に利用できるものでないが、株価が経済全体の中でどういう位置づけなのかをみるのには好都合だろう。
株価は、将来の経済の先取りといわれる。たしかに、名目GDP成長率と1年前の株価上昇率には、0.52と中程度の相関がある。この両者には、株価が上昇すると資産効果が働き消費が増加して名目GDP成長率が高まるという関係と、将来のGDPの動きを予想して株価が動いている関係があるだろう。
▼名目GDP成長率と株価上昇率(図参照)
また、金融政策と実体経済の関係であるが、マネタリーベースはインフレ予想に働き、その結果、実質金利を変化させる。これが実体経済(輸出、消費、投資)に影響を与えて、結果として2年程度で、インフレ率、賃金上昇率、失業率、名目GDP成長率に影響を及ぼす。いずれも相関係数は0.9程度と強い相関があり、その予測力は高い。
▼マネーストック増加率とインフレ率の推移(図参照)
▼マネーストック増加率と一人当たり報酬上昇率の推移(図参照)
▼マネーストック増加率と失業率の推移(図参照)
▼マネーストック増加率と名目GDP増加率の推移(図参照)
こうした実体経済の動きが予想されるので、株価も動く。もっとも、実質金利の変化自体も株価の変動要員である。ただ、実質金利の変化だけが株価に影響を与えるのであれば、もう少し株価の予測は容易になるが、将来の実体経済の先取りの部分については、予測が困難である。
ちなみに、株価上昇率は1年前のマネタリーベースと関係があるが、その相関係数は0.28と弱い相関にとどまっている。
■短期的な株価に一喜一憂する意味はない
要するに、金融政策から2年後の名目GDP成長率は9割方わかるが、1年後の株価上昇率はほとんどわからないのだ。これは、株価が一時的に下がっても、金融政策さえ間違えなければ、実体経済はよくなるということを示唆している。この意味で、株価の乱高下は、たいしたことではない。
株価が将来の経済の先取りといっても、せいぜい5割程度の話だ。金融政策は、GDPを成長させ、インフレ率を安定化させ、失業率をできるだけ低くするためにやっている。その観点から見れば、やはり短期的な株価の動向には一喜一憂しないのが正しい。
まともな経済政策をすれば、株価もまともなものになるだろう。それでも株価固有の動きもあるので保証はできないといった程度の話だ。
もちろん株価が高ければ企業の資金調達も容易になるなど、経済にいいことは間違いない。しかし、株価は政策目標としていないのだから、それを理由に政策批判はできない。
(高橋 洋一)
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