http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/106.html
Tweet |
http://diamond.jp/articles/-/36279
■株特集を組むと株価がピークを打つ?
『週刊ダイヤモンド』は、100周年記念第2弾に当たる最新号(5月25日号)で「経済ニュースを疑え!」という何とも大胆な特集を組んでいる。
トップに掲載された記事「読者の知らない“リーク依存症”という重病」は、『日本経済新聞』の取材と紙面作りの内幕に迫っており、同紙の「リーク体質」(企業の情報リークに頼る紙面づくり)、企業側の事情、日経と企業の癒着関係、さらに、これらが記事の内容に与える影響について書いている。
さて、この特集号は自分自身にも鋭い鉾先を向けた。それが、「週刊ダイヤが株特集を組むとなぜ株価がピークを打つのか」(P46〜47)と何とも直裁な見出しを付けた、2ページにわたる反省文的な記事である。
リードには「ここまでは、他のメディアの誤報を批判してきたが、本誌も経済誌の本領ともいえる株特集で予測をはずしまくっているのだ」とある。そもそも、「先の予測を届けよう」というつもりで株式投資特集をつくっているのだとすると、それ自体がかなり問題だが、週刊ダイヤモンド編集部がどう自己反省しているのか興味深い。
編集部の反省によると、株特集が外れる原因は大きく言って2つある。
・データの発表と掲載までのタイムラグ
・外れる構造要因
■データの発表と掲載までのタイムラグ
・1つ目は、紙媒体の宿命とも言える、元データの発表と記事掲載までのタイムラグの存在だ。
ダイヤは、決算発表のある5月初旬を待って、株特集を企画するのが定番だったが、投資家の注目度の高い決算発表(それよりも今期の予想の発表が重要だが)時の情報はただちに株価に反映する一方で、その「数週間後」に特集号が発表されるという構造的な間の悪さがあった。
週刊ダイヤモンドのお家芸というと、何ページにもわたるランキング表だが、データにこだわってデータが動く時期に特集企画を固める結果、むしろ市場の後追いをしやすくなってしまった。これは不運でもあるが、経済誌としては一考の余地のある企画の立て方だった。
あえて対案を出すなら、そもそも投資家にとっての関心が高い決算発表の時期に雑誌が手元に届いていて、決算発表をどう投資に生かしたらいいかを指南するなら、特集記事が読者にとってより役に立つのではないか。
株価が動く時期が発売時期となるので、特集号がよく売れる可能性もあるのではないだろうか。
・株特集のもう1つの外れ要因は、毎号の売り上げが気になる雑誌の場合、株価が上昇するほど株特集が売れやすいので、株価のピークに向かって、あるいは株価のピークを見てから株式投資特集号を企画してしまうことだ。
近年の株価は、長期的に上昇せず、強気相場が短い場合が多かった。
一方、ビジネス上の必要性に忠実であれば、週刊ダイヤのような経済誌でも相場が盛り上がっているときには、高値が怖くても株特集をやらざるを得ない。そして、特集をする以上、雑誌の売り上げ増を狙って、相場の盛り上がりに乗った「順張り」的な記事を並べることになるだろう。
一相場がどの程度続くのかは、プロでもわからないので、結果的に予想が外れるのは仕方がない。結局、読み手の側で、雑誌の意図や内情を斟酌しながら記事を読むしかない。
■特集のもう1つの「外れ要因」は
・株価のピークを見てから企画すること
経済専門誌ではないが、雑誌業界における、現在のアベノミクスがらみの投資特集のブームは、講談社の『週刊現代』が今年の1月に「安倍バブル」到来を強調して出した号が圧倒的に売れたことに起因するようだ。
同誌はその前週まで、アベノミクスに警戒的な記事も載せていたが、「これは、バブル的なブームが来るな」と判断して、アベノミクス相場に「乗る」決断をしたのだろう。雑誌ビジネス的には見事な相場観であり、褒めていい。
それまでインフレを警戒したり、老後の生活防衛術を説いたりといった、辛気くさい特集で今や高齢化した雑誌読者の相手をしていた多くの他誌も、この路線に追随せざるを得ない流れになって、現在に至っている。
・今の相場が「いつまで」続くかは、もちろんわからない。
今回の『週刊現代』のように、相場の流れを当てることができれば申し分ないが、それは一般化して繰り返し可能な技ではない。それが毎回本当にできるなら、雑誌の編集をしているのはもったいない。運用会社をやる方が儲かるだろう。
ブームのピーク、すなわち高値圏で世に出てしまうのは、雑誌の株特集ばかりではなく、投資信託にも言えることだ。「大量設定された時期のファンドは、運用で苦戦する」とは、投信業界で昔からよく言われることだ。
古くは、2000年のネットバブルのピークの時期に1本の、しかも日本株ファンドで1兆円以上の金額を集めた某大手証券のファンドなどが典型例だ。
相場にはいつかピークがあり、ピーク付近では人々の関心が集まる傾向がある。ダイヤモンドに限らず「株式投資特集号」が、いずれは天井圏で発行されて、読者に高値での投資を勧めてしまうのは、雑誌ビジネスのインセンティブ構造を考えると止むを得ないことだ。
■株特集の記事は信用できるのか。鮮度と有効性はネットのほうが有利
『週刊ダイヤモンド』以外にも対象を拡げて、雑誌の株式投資特集一般の記事をどう読んだらいいかについて考えてみよう。筆者は、自分自身が特集の中で原稿を依頼されたり、取材されたりする場合があるので、言いにくい面もあるが、読者・投資家の立場から考えてみる。
一般誌の場合、経済専門誌のように、株特集を何週間もかけてつくるわけではない。多くの場合は、雑誌の発売の数日前にある原稿〆切のそのまた2、3日前に取材の電話がかかってくることが多い。ただし、「専門家○人に聞いた有望銘柄○○」のような手間のかかりそうな取材は、さらに1週前から取材がスタートしている場合がある。
つまり、雑誌の発売から数えて、相場の雰囲気全体に関するコメントは1週間前のもの、また個別銘柄に関する情報は2週間前くらいのものだと考えて、記事を読む必要がある。率直に言って、相場の世界で2週間は長すぎる。
個別の推奨銘柄名を出して具体的に挙げるか否かは、取材対象になっている「専門家」の方針や芸風によるが(私は個別銘柄の推奨はしない)、個別の推奨銘柄に関しては、雑誌に載っている株価が発売時点に近いものに修正してあるとしても、銘柄選びの根拠が古いので、情報としてあまり影響を受けない方がいいように思う。これが月刊誌ともなると、さらに情報が古い。
情報の鮮度と有効性を考えるなら、ネットの情報の有利さが圧倒的だ。
もっとも、潤沢な投資資金を持っているのは高齢者であり、彼らの中には、紙媒体は読むけれども、ネットにはアクセスしない人が相当数いるので、「鮮度の必要な情報は全てネットで」とすると、当面はニッチだが、広告主には魅力的なマーケットを逃す可能性もある。
高齢者はやがて退場せざるを得ない。いずれ、株式投資特集はネットの媒体が中心となって伝えられるようになるのではないだろうか。紙ベースの雑誌がまだ株特集をやっている現状は、過渡期にさしかかっているのではないだろうか。
■取材で方向性が変わることはない?特集のコメントはどのくらい正しいか
一般向け週刊誌の記事では、2〜4ページくらいにわたって専門家のコメントをカギカッコで引用しながら、記者ないしライターがまとめた概説的な文章が載っている場合が多い。
この種の文章は、相場の専門家ではない記者またはライターが、雑誌の特集コンセプトが固まってから、短期間で仕上げる場合が多い。加えて、多くの雑誌で、記者・ライターの書いた原稿を雑誌の狙いにより合ったものにする目的で、デスクが手を加えて完成することになる。
週刊誌の場合、取材から文章の完成まで2、3日であることが多く、最初に決めた大まかな構成と内容に合わせて、専門家のコメントを散りばめながら、予定された方向性の文章を仕上げている場合が多い。
要は、取材の結果、最初の予定とは全く異なる内容の記事ができ上がるというようなことは、ほとんどないということだ。
記事の文中にカギカッコで引用されている専門家のコメントは、専門家本人にカギカッコの中身だけを確認していることが多い。
取材される側としては、文章全体のコンテクストが気になるところだが、カギカッコで自分の言葉として載るものがどうにも不適切だと思わなければ、「それで結構です」と答えるのが「現実的」な場合が多い。記者・編集部と専門家も、しばしば、持ちつ持たれつの関係にある。
こうした記事の1つの読み方をあえてお教えするなら、原稿全体のトーンが予め予定されていたものだという前提を置いた上で、カギカッコの引用を個々に読み、取材された専門家たちが本当は何を言いたかったのかを想像してみると面白い。
しかし、この読み方は、それぞれの専門家が日頃どんな意見を持っていて、どのように話す人かを知らないと、十分にはできないかも知れないので、一般向けではなく、熱心な投資家向けだ。
■「煽り」だってもちろんある。株特集は情報の読み方をを学ぶもの。
今週の『週刊ダイヤモンド』の特集では、同誌が2007年9月8日号で行った「資源株投資入門」が、読者を煽りすぎたことと(表紙には「太鼓判」と書かれた小判の絵があった)、その後、株価が大きく崩れたことに対する反省の弁が述べられている。
前述のように、株価が上昇しているときにしか株特集は売れないということの他に、多くの読者は株価上昇の肯定を望んでいるという現実もあり、株式投資特集の記事は、投資熱を煽るようなトーンになることがしばしばある。こうした傾向があることは、多くの読者がすでに感じているところだろう。
株式を実際に持っている読者は、これからも株価が上がるという話を聞くと心強いし、自分が持っている銘柄が推奨されているのを見ると、自分が褒められたようないい気分になる。
株式投資特集には、情報提供の目的の他に、こうした読者に向けた娯楽目的がある。こう考えると、当たり外れや情報の価値を検証して目くじらを立てる必要がないような気もしてくる。
★結局、投資に関する記事で真に役に立つのは、その時々のマーケットの解説と予測を述べたものよりも、投資に関する「考え方」や情報の「読み方」を教えてくれるような記事ではないだろうか。
雑誌の株特集記事については、投資のための情報を探して読むのではなく、上げ相場を楽しむ娯楽として読むのがいいと結論しておこう。(山崎元)
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。