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安倍晋三首相が育児休業3年や待機児童解消を掲げ、経済界にも女性の活用を呼びかける中、男性の育休取得の広がりを期待する声が高まっている。女性の継続就労のカギを握る仕事と家庭を両立しやすい社会を実現するには、男性の育児参加は必須となるからだ。育休3年の議論で北欧が採用する「パパクオータ制」も注目を集めており、男性の働き方を見直す契機となる可能性がある。
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「必要性が低い」「収入が不安」「周囲の目が気になる」。なぜ育休を取らないか。旭化成が社内の男性社員に調査した結果、3つの理由が浮き彫りになった。ワークライフバランスを目指し同社は3年超の育児休業制度を設けていた。しかし、男性の取得者はほとんどいなかった。
これを受けて旭化成は▽配偶者が専業主婦でも取得可能▽5日間は有給▽5日以内なら口頭での事前申請が可能−などの制度改正を2006年に行った。これ以降、男性で育児休業を取った社員が延べ1500人を突破。多くは5日間の有給に土日を組み合わせる程度で、半年を超える長期の取得者はいないが、同社は「一つの前進」(広報担当者)と評価する。
東証1部上場企業のトップが育休を取ったことで話題を呼んだのは、グループウエア大手サイボウズの青野慶久社長だ。10年8月に第1子で2週間休業したのに続き、12年に第2子で半年間にわたり毎週水曜日を「育児デー」として休んだ。同社では青野社長に続き、5人の男性社員が最長10カ月の育休を取ったという。
サイボウズの広報担当者は「社長の行動は、育児や介護、病気など事情を抱えながらも長く働ける会社というメッセージになったのでは」と説明する。
毎週水曜日をノー残業デーにするなど全社的な長時間労働縮減に取り組み、結果的に父親の育児参加を促したのは日立製作所。男性社員による出産休暇の利用者は07年の113人が12年に230人と倍増。小学校1年生終了まで3年間、何度でも取得できる育休の男性取得者は07年の2人から12年に15人となった。
ここにきて追い風になりそうなのが、育休中の在宅勤務を認める規制緩和に向けた政府の動きだ。現行制度では、育休中は雇用保険により休業前の50%の所得が保障される。しかし上限は20万円強で、男性が家計を担うことの多い日本では大幅な収入減となってしまう。育休中も在宅勤務が認められれば雇用保険に給与が上乗せされ、収入面の不安が軽減される。長期にわたり仕事を離れることに対する不安も緩和されそうだ。
男性に育児休業取得を促す取り組みは、北欧が先行している。ノルウェーの「パパクオータ制」は手当が出る約1年の育休のうち、父親には10週間が割り当てられ、取得しなければその分、手当が削られてしまう。スウェーデンでは子供が8歳になるまで約1年4カ月の育児休業が取得できるが、そのうち父親60日、母親60日分はお互いに譲ることができない。
日本は所得保障のある育休は基本的には1歳までで、父母ともに取得した場合は1歳2カ月に延長されるものの、男性の取得率は11年で2.63%。8割を超える北欧と比較するまでもなく極めて低い。
NPO法人(特定非営利活動法人)ファザーリング・ジャパンの創設者で、厚生労働省のイクメンプロジェクト推進チーム座長を務めた安藤哲也さんは「女性の活用は男性の育児参加抜きに語れない。女性が働き続けられる環境をつくろうという首相の発言は、パパクオータ制を導入するなど社会全体の働き方を見直すチャンス」と指摘する。
男性の育児参加が新たな市場を広げる可能性もある。男性も使える抱っこひもとして巷(ちまた)のイクメンにヒットしたのは、ハワイ発の「エルゴベビー」だ。サイズが大幅に調節できて男女の共用が可能なのと、アウトドア用品を思わせる機能的なデザインが男性の人気を呼んだ。
エルゴベビーを輸入する育児用品販売のダッドウェイ(横浜市港北区)によると「(08年の)発売から口コミで急激に広まり、育児雑誌の調査では、昨年から店頭で指名買いする人の数でナンバーワンになった」という。ここ数年で、育児用品を扱う販売促進イベントは、父親の参加率が急増しており「少子化でも男性育児市場はむしろ拡大基調にある」(広報担当者)と話す。男性の育児休業取得が進めば、こうした市場の一層の拡大も見込まれる。(滝川麻衣子)
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