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2013/5/24 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
連日の最高値更新に沸いていた東京株式市場がきのう(23日)、パニック的大暴落に見舞われた。前日比1143円28銭安の大暴落は、ITバブルが崩壊した2000年4月17日以来13年ぶりの下げ幅、史上10位の下落率だ。あの東日本大震災やリーマン・ショックでもこんなに下げなかった。
狂乱相場はこの日もつづき、午前は一時1万5000円を回復。その後は再び下げに転じた。素人にはちょっと怖い乱高下の展開だ。
きのうの大暴落は米国のバーナンキFRB議長の発言や中国の景気指標の悪化が原因とされた。量的緩和に積極姿勢を見せなかったバーナンキ発言は、米国が金融引き締めに転じるのではないか、という連想を起こさせたし、中国の指標の悪化も日本企業に強烈な打撃になるとみられた。それをきっかけに、調整局面を見極めていた外国人投資家が一斉に利益確定売りに走ったことがパニック売りを招いたと解説されている。
つまり、ちょっとした不安の連鎖が招いた暴落で、安倍政権の閣僚たちは「基本的に株は上がったり下がったりするもの」(麻生財務相)、「うろたえる必要はない」(甘利経済再生相)と不安解消にシャカリキだったが、暴落の真相はまったく違う。黒田バズーカ砲で進んだ円安・株高こそが異常だったわけで、市場は逃げる機会をうかがっていたのである。
アベクロバブルの異常な膨張に、投資家たちの不安は頂点だった。彼らはプロだから、自分だけは逃げようと必死でタイミングを探っている。だからちょっとしたきっかけで、株価は一瞬で大暴落してしまう。もともとパンパンのバブルがはじけたのである。
◆根拠なき熱狂ほど恐ろしいものはない
実際、どう考えても、ここまで株価は上がりすぎだった。衆院解散を明言した昨年11月から、わずか半年で7割上昇。1万円を超えてもその勢いは衰えず、5月は一気に2000円もの大幅高で、あれよあれよと1万5000円を突破した。しかし、この間、実体経済が変わったわけではないのである。株価を上げてきたのは漠としたアベノミクスに対する期待感だけ。こんな相場がいつまでも続くわけがないのだ。
「金融政策で人為的に資産価格を押し上げてきた黒田バブルは、投資家たちにユーフォリア(根拠のない過度の幸福感)を生み出した。市場の期待が膨らみ、それをコントロールすることが難しくなっていたのです」(東短リサーチのチーフエコノミスト・加藤出氏)
根拠なき期待、熱狂ほど恐ろしいものはない。日銀にさらなる緩和をせっつけば、国債暴落懸念が高まる。株式市場も共倒れだが、そうした危うさと隣り合わせのバブルがどんどん膨らんでしまったのである。
「ここ数年、確かにデフレでしたが、長期金利も上がらなかった。おかげで企業は助かってきた。黒田バズーカは、こうしたゼロインフレ下の経済的均衡をブチ壊してしまったのです。マーケットの参加者は、アベノミクス相場がこれからどうなっていくのか、これで終わりなのか、それとも途中経過なのか、“落としどころ”が分からず右往左往している状況です」(東海東京証券チーフエコノミスト・斎藤満氏)
マーケットの期待と不安はコントロール不能に陥っている。それが、この2日間の乱高下を招いた。日本経済は未曽有の大混乱に突入したと言っていい。
◆マーケットは黒田政策にNOを突きつけた
株式市場はこれからどうなるのか。この暴落は閣僚らの言う通り一時的な調整局面で再び上昇するのか。それとも乱高下が続き、さらに下落していくのか。
アベノミクスの危うさを説いてきたマトモな経済学者は、それ見たことか、と冷ややかだ。「日本国債暴落のシナリオ」の著者で、ビジネス・ブレークスルー大学教授の田代秀敏氏はこう言う。
「黒田日銀が行っている異次元緩和は、国債暴落のときに最後に使うべきオペレーションです。瀕死の患者に打つべきモルヒネを平時に打っているようなもので、そんなことを続けていたら元の体に戻れなくなる。債券市場が混乱し、メガバンクや外国人投資家がさっさと日本国債を売ったのはそのためです。しかし、黒田日銀総裁は22日の会見でも積極的なメッセージを出せなかったばかりか国債市場の混乱はマーケットとの対話不足が原因という認識を示した。アベノミクスで膨らんだ株式市場ではヘッジファンドを筆頭にみんなが売り時を狙っていましたから、黒田会見がトリガーとなったのでしょう」
恐らく、日本株をつり上げていた外国投機資本はきれいにみーんな逃げ出した。ジョージ・ソロスのヘッジファンドは日本株の上場投信(ETF)30万口をすべて売却したし、大手ヘッジファンド、ムーア・キャピタルもETF400万口を売った。日銀OBの大阪商大教授の佐和良作氏もこう言う。
「売っているといえば、メガバンクも国債をあらかた売っています。黒田日銀は金融緩和をして金利を下げ、企業が設備投資に資金を回し、景気を良くするシナリオを描いてきましたが、そのそばから国債価格は下落し、金利が上がっているのだから世話はない。マーケットが完全に黒田政策にNOを突きつけていたところに、ついにきのうの暴落が起きたのです。そもそも金融緩和でデフレを脱却できるなんて学術的な根拠は皆無に等しい。黒田総裁や岩田副総裁は、金融政策を頭の中だけで考えているので、金利や株価の乱高下を予想できなかったのでしょう」
◆国債と株式のどちらを犠牲にするのか
つまりは、アベノミクスは完全破綻ということだ。イリュージョンを続けている間に実体経済を引き上げるハズが、その前にはじけた。たとえ、株価が持ち直したとしても、それは実体のないバブルである以上、大暴落リスクはこれからも続く。黒田日銀がもっとシャカリキになって異次元緩和を継続し、株価がまた上がったとしても、その分、バブルの泡は膨らんでいく。それがいつ破裂するのか。危険が増すだけなのである。
しかも、きのうの相場で分かったように、暴落のカギを握っているのは日本の株式市場の7割を牛耳る外国人投資家や米国経済の動向、FRBの思惑、中国経済といった外的要因だ。日本人にはなす術(すべ)がないところが恐ろしい。
「今後の市場は読みにくいが、悪い条件ばかりが重なっているのは確かです。これまでは国債が下落したことで投資マネーが株式市場に流れて、株高になった。国債下落で含み損を抱え込んでいた金融機関などは、株を売って、利益を確定した。いわば、国債を犠牲にして、株高を演出したのです。しかし、国債価格の下落が激しいと、今度は株式を犠牲にするしかなくなる。さあ、安倍政権はどうするのでしょうか」(田代秀敏氏=前出)
ニッチもサッチも行かなくなれば、将来的にはトリプル安で恐ろしい“日本売り”になる。慶大大学院准教授の小幡績氏は近著「ハイブリッド・バブル」でこう書いている。
〈もし(2%の)目標物価が達成されるように政策がうまくいけば、名目金利は上がって国債は暴落するし、金融緩和がうまくいかなければ、さらなる財政出動などにより財政破綻リスクが高まる。その中で、日銀がこのように大規模な国債買い入れをしていれば、いわゆる財政ファイナンスに該当するという認識が広まり、国債は暴落する。円安と債券安のダブル安が始まりかねず、それが株安にまで波及して、トリプル安になれば、日本経済は窮地に陥る〉
こんな危険なシナリオと隣り合わせにいるのが、いまの日本経済なのである。安倍首相や黒田総裁を信じて、景気回復や賃金上昇を期待したらバカを見る。トリプル安で1500兆円ともいわれる個人金融資産はパーになる。庶民は身ぐるみ剥がされることになりかねない。
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