02. 2013年5月21日 06:39:58
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「製造強化」に回帰する米国と英国。お寒い日本の実情 このままではクールではなく、コールドな日本 2013年5月20日(月) 瀬川 明秀 米国、英国で製造業を強化すべく、官民一体型の製造技術の研究センターを立ち上げる動きが出てきた。「国の競争力の源泉はやはり製造業にある」と考え、分散している基礎技術を集め、現場でのものづくりに至るまでの科学的な体系化に取り組み始めたのだ。 一方、日本はどうか。学術的に世界最高水準に達していたのは過去の話。職人の技を国宝のように保護するだけの「ものづくり」は重視されているが、製造技術に関する成長戦略はほとんどないという。「このままでは国の力が弱体化する」。研究者たちは危機感を募らせている。日本学術会議の機械工学委員会生産科学分科会委員長である木村文彦・法政大学教授に、「日本的ものづくりの病(やまい)」について聞いた。 米国と英国では、国策として「製造業回帰」の動きが出てきた。 木村文彦(きむら ふみひこ) 1974年東京大学大学院航空学専門課程博士課程修了。工学博士。同年電子技術総合研究所パターン情報部入所。1979年より東京大学工学部精密機械工学科助教授。1987年より同教授。1995年より大学院工学系研究科精密機械工学専攻教授。2009年より法政大学理工学部機械工学科教授。東京大学名誉教授。生産システム工学、CAD/CAM、インバース・マニュファクチャリング、形状モデリングなどの研究に従事。日本学術会議会員。ISO TC184日本代表。CIRP、日本機械学会、精密工学会フェロー。 木村:オバマ政権は「製造業のイノベーション」を掲げています。
例えば、官民パートナーシップ事業「米国製造イノベーションネットワーク(National Network for Manufacturing Innovation:NNMI)プログラム」を提言。このプログラムは米国内での先進的製造を促進する製造研究基盤を構築することを目指しています。 具体的には、連邦予算10億ドルを充てて米国国内で、15の製造イノベーション研究所(Institutes of Manufacturing Innovation:IMIs)が立ち上がる予定です。 なにゆえか。軍事的な理由も? 木村:研究所の選考にあたっては、国防省、エネルギー省(DOE)、商務省の国立標準技術研究所(NIST)、国立科学財団(NSF)らから成る先進製造国家プログラム局(Advanced Manufacturing National Program Office:AMNPO)が管理するといいます。 国防、エネルギー・・・。国の競争力として、ものを作る技術を国内にもつ重要性を感じているのは確かでしょう。 米国と英国が国策として「製造技術の強化」に 英国はどうか。 木村:英国は米国より進んでいます。今年の2月、総額4500万ポンドの「製造技術研究投資」の一環として、新センターへの助成内容を発表した。エレクトロニクス、生産プロセスへのレーザ技術利用、医療機器、食品生産の4分野の製造技術開発を行う新研究センターに総額2100万ポンドを投資するそうです。 英国全土から15大学と産業界から60社が参加するらしい。すでに、英国では、製造業関連の12センターを設けているので合計16センターですね。大臣は「グローバル競争でのリードを維持する投資」と明言しています。 特定の分野の基礎研究だけでは不十分 では日本はどうか? 木村:ご存じの通り、アベノミクスの第3の矢として特定分野に対する研究強化に取り組もうとしてます。が、実際にものを作るための製造技術の研究に関してはバブル崩壊以降、国策的な議論はほとんどされてきませんでした。 日本国内を見ると、東京大学人工物工学研究センターが比較的近い存在として頑張ってきたのですが、米国らが今取り組もうとするスケールからすれば、もう桁が全然違う。日本としては「製造を競争力に据えよう」との発想に乏しいのではないか。 もちろん、特定の成長分野の研究は絶対必要ですよ。ただ、製造基盤がないといつまでも「夢」で終わるのです。例えば、炭素繊維素材。夢の素材として30年以上も前から素材研究を続けてきました。進化がある内容なので、そして論文も書けるので、学者としては楽しい。が、いくら基礎を研究しても実用化しません。炭素繊維とほかの素材の接合技術やコストを下げるための製造技術が追いついたからこそ、実現するわけです。 今までは、こうした実用化のプロセスは民間の技術者たちが担ってきた。 木村:確かに、自動車、家電などは世界最高水準の製造技術がありました。が、それで安心して放置されてきたのが現実です。学問的にみると弱体化している、と見えます。 家電、自動車でも「地産地消」化が進み、製品を売る国で、開発から製造まで手掛けるようになってきました。海外移転論が盛んだった頃、日本で設計開発をし「製造分野」だけを海外に移すといった議論もありました。が、それは現実に即してなかった。結局、開発も製造技術もどんどん海外に移しています。もちろん、「次世代のタネ」があればいいのですが、タネをつくり続けるには結局、製造をしてないとできないんですね。 我々が危惧しているのは、人材、知識でも「日本の競争力」を維持するだけのタネが途切れることです。 リアルな場が欲しい理由 米国、英国が、研究センターというアリルな「場づくり」に取り組んでいるのは何故でしょうか? 木村:製造に必要な基礎技術は多岐に渡ります。ものになりそうな基礎研究やヒトを、1カ所に集めて、顔を付き合わせながら研究をする必要があるのです。科学と現場での工夫をつなぐ役割があるだけに試作ラインなども必要になります。 「製造工学」「設計工学」といわれてきた分野ですね。 木村:そう。現代は「総合工学」とも言っています。機械工学分野には四力学というのがあります。熱力学、機械力学、流体力学、材料力学。この四力学は実に綺麗に体系化されているし、本当に良くできている。誰が教えても誰が勉強しても、同じ結果を導き出せるからです。 ところが、「製造工学」「設計工学」は、何十年も前から言われてきたんですが、先生によって、教科書によって、内容が違う(笑)。企業でも、企業内だけで体系化されたものはあるのですが、企業を越えて議論がかみ合わない。それがために底上げされてこないのです。 確かに、日本のものづくりは製造現場に追うところが大きい。例えば、機械以上の精度を調整する人とかいますよね。その技を伝承・継承しようと、国も取り組んではきたが、伝統芸能を守るアプローチだけでは、流石に競争力は維持できません。 本来ならば、それだけの精度を引き出す「匠の技」を超える機械を作るにはどうすればいいのかをメーンのテーマに据えるべきなのでしょう。全く新しい機械をつくるためには、どんな基礎技術が必要になるのか、ゼロから現場の製造ラインにまでつなげるにはどうすればいいか、総合的に見渡す力こそが必要なんです。米国、英国も問題意識はここにあります。 「日本的ものづくり」の病 ところで、日本のメーカーは過剰品質、市場無視の製品を作ってきたとの批判があります。日本的ものづくりの病(やまい)とまで言われています。なぜこのようなことになったのでしょう。 木村:日本メーカーの経営陣が反省して「オーバースペックに注意せよ」「機能を絞れ」と技術陣にリクエストを出したりしていますよね。でも、これに関してはちょっと違った見方をしています。 技術に関しては常に過剰でいいんです。常に先端を狙うべきです。機能の量も増やせばいいんです。質も量も過剰なまでの進化を狙わないと日本の競争力は維持できないと考えてます。トップを狙ってこそ、日本人技術者、科学者たちも燃えるんです。 例えば炊飯器。安いモノだと数千円で作られているものがある一方で、数万円の炊飯器がありますよね。この数万円もする炊飯器は、本当に美味しいご飯を食べることができると人気です。これ、操作としては安いモノでも同じだけど、この高級な炊飯器の背後にある技術レベルはとても高いんです。ハード面でのものづくり、ソフト制御の工夫も、最先端の技術がこれでもかという具合に盛り込まれている。だからこそ美味しいし、皆がいいと言って買うんです。これが日本企業の競争力です。スペックダウンは得意な分野ではありません。結局、日本が生き残る道ではないと思います。 もっとも、市場無視の製品を作るのはナンセンスです。過剰品質も「誰も使わない機能」を盛り込んでいるのはダメです。意識せずとも結果的にあらゆる高機能を使いこなしているのが、本来の多機能化であり、それが設計の思想的基礎なのです。その意味では技術全体を見渡せる人がいなくなってきるのでしょう。これは技術の問題でありコミュニケーションの問題です。 いま必要なのは基礎技術を組み合わせ、新しいコトを作り上げる科学的に理にかなった体制づくりです。そして同時に、顧客の潜在的にニーズをくみ上げていく技術も必要です。消費者にはいま無いものは想像できません。いかに潜在的なニーズを読み解いていくのか、こうした研究は米国でも盛んですが、総合工学ではこの分野も対象になります。 |