01. 2013年5月20日 11:05:49
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量的緩和がもたらすまやかしの平穏 2013年05月20日(Mon) Financial Times (2013年5月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 欧米市場でも株価は高騰している〔AFPBB News〕
市場は気が変になっているのだろうか? これは、多くの投資家がこの数週間問いかけていたかもしれない疑問だ。英国やユーロ圏、米国で、債券利回りが低下したにもかかわらず、株価が急騰したからだ。 だが、市場の様相が今いかに奇妙に見えるかを示す別の兆候を見つけたければ、シティグループのアナリスト、マット・キング氏が最近まとめたリポート*1に目を通してみるといいだろう。 長年続いたパターンが崩壊 キング氏いわく、現在の市場動向について最も特筆すべきものは、こうした目もくらむほどの株式や債券の価格だけではない。本当に注目すべき問題は、実に多くの長期の統計パターンが崩壊していることだという。 失業率と株式市場との関係を見てみよう。1997年から2011年にかけて、ユーロ圏の失業率の水準は常にSTOXX株価指数と逆相関関係にあった。だが、2011年以降は、STOXX指数が10%上昇する一方で、ユーロ圏の失業率が10%から12%に跳ね上がった。 企業業績はもう1つの好例だ。ここ数十年間、米国の業績修正は株式市場の変動を追いかけてきた。だが、2012年初めからは、ネットで業績が下方修正される一方、米国株は高騰してきた。 信用スプレッドとレバレッジ比率についても同様だ。過去20年間、企業の債務水準が上昇すると、投資適格企業のスプレッドは常に拡大してきた。だが、2011年以降は、ユーロ圏の企業のレバレッジ比率は1.4倍から1.7倍に上昇したが、スプレッドは約210ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)から120bpに縮小している。同様にパターンは米国でも見られる。 景気動向調査から得られる、景気の不透明感を示す市場の指標についても同じことが言える。不透明性感を示す指標は、かつては信用スプレッドの跡を追いかけていた。だが、2011年以降は不透明感が(当然のことながら)高まったままだが、スプレッドは縮小している。 言い換えれば、多くのデータで見て、金融市場と株式市場の動向がファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)と反対方向に動きてきたわけだ。 *1=Mind the gap; investing in repressed markets, Citigroup その原因を特定するのは簡単だ。過去数年間、指標がおかしくなる傍らで、西側の中央銀行は推定7兆ドル規模の量的緩和(QE)を行ってきた。これが国債金利を低下させ、投資家は別のところに利回りを求めざるを得なくなった。だが、このような逼迫感を激化させたのは、中央銀行が国債を吸収する一方で、資産の供給が減少したことだ。 例えば、シティの試算では、米国の債券市場の純発行額は2007年の2兆ドルから2010年に1兆5000億ドルに、そして2012年にはわずか2500億ドルまで減少したという。となれば、スプレッドが縮小し、投資家が株式に投資しようとしているのも無理はない。マクロマーケットの観点から見れば、これはとてつもなく大きな二重の圧迫に等しいのだ。 奇妙な状況はいつまで続くか? だが、現時点で重要な問題は、このような奇妙な状況がどれくらい長く持続できるか、ということだ。今のところ、筆者が最近ロンドンとニューヨークで話をした多くのアナリストの間の中心的な見方は、このような歪んだ状況が、多くの人が予想するよりはるかに長く続くというものだ。 市場もどうやら同意しているようだ。ボラティリティーの指標は今、非常に低い水準にあり、平穏な状態が続くことを示唆している。 だが、特に各国中央銀行が近いうちにQEを放棄する可能性が低いように見えることを考えると、平穏状態が続くという見方は恐らく正しいだろうが、重大な注意事項がある。 キング氏は2007年に、「ボウル(お椀)の中のボール」というイメージを使って、信用バブルの時に市場がどのように動くかを説明していた。2001年から2007年にかけて、金融システムには非常に巨額の流動性があったため、市場は小さめの衝撃を吸収できるように見えた。 軽く揺すられた時には、ボールが転がってお椀の中心に戻って来るのと全く同じように、金融システムは2005年のゼネラル・モーターズ(GM)の格下げのような衝撃から急速に立ち直った。 だが、この平穏状態は脆いものだった。水面下では深刻な矛盾や緊張が潜んでいたからだ。そのため、2007年に大きな衝撃に見舞われると、市場は転換点に達し、崩壊した。激しく揺すられると、ボールがお椀の中に戻らず、飛び出てしまうのと全く同じだ。 キング氏は、この比喩が今の市場を適切に描写していると思っている。筆者も同感だ。というのも、中央銀行による流動性の洪水は、金融システムが小さな衝撃を吸収するのを可能にしているが、それはまた、衝撃に見舞われた場合に表面化する可能性がある多くの内部矛盾や脆弱性を覆い隠しているからだ。 水面下で高まるテールリスク つまり、ナシム・タレブ氏がしばしば指摘した点を繰り返すと、中央銀行が何とかして安定性を追求しようとしているからこそ、将来の激しい不安定性の可能性がどんどん高まっているわけだ。統計学者が言うように、「テールリスク」が拡大しているのだ。 だからと言って、衝撃が近いうちに必ず起きるというわけではない。このようなまやかしの平穏状態は、何年もとは言わないまでも、何カ月も続くかもしれない。だが、各国の株式市場が上昇する中、投資家は統計数値の狂いについてじっくり考えた方がいいだろう。 悦に入っている余裕のある人は誰もいない。ましてや、欧米諸国の財務省――あるいは中央銀行――で役職に就いている人はなおさらだ。 By Gillian Tett ウォール街を追い上げる欧州株 2013年05月20日(Mon) Financial Times (2013年5月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米国のS&P500株価指数が連日のように最高値を更新する中、ウォール街が一身に注目を集めているかもしれない。それと比べて目立たないのは、欧州がそれほど引けを取っていないことだ。 欧州の最大手クラスの企業の株価は、世界的なリスク資産高騰と、ユーロを救うために「必要なことはすべてやる」という欧州中央銀行(ECB)の言質を支えに、危機以前の高値まで戻している。ドイツ株は史上最高値を更新した。 企業収益の改善や景気回復の裏づけがない「流動性相場」 米国株ほど目立たないが、欧州株も上昇している(写真はフランクフルト証券取引所)〔AFPBB News〕
米国と欧州の上昇相場の大きな違いは、ウォール街の株高が利益成長の改善と景気回復の兆候に裏打ちされていることだ。対照的に欧州では、悲惨な決算発表シーズンから、通年の業績が期待外れになることがはっきりした。 実際、5月半ばに発表された公式統計では、今年1〜3月期のユーロ圏の経済成長が6四半期連続でマイナスになったことが明らかになった。 投資家の念頭にある疑問は、欧州が近く危機を脱し、株価上昇を持続可能なものにするかどうか、だ。 ABNアムロ・プライベート・バンキングの幹部、ディディエ・ドュレ氏は「欧州では、記録に残っている限り、企業収益と市場のズレが過去最大になっている。だから、景気回復を信じていないといけない」と言う。 このズレが一番はっきり見えるのが消費財セクターだ。ディアジオ、ユニリーバ、ペルノ・リカール、ネスレなどの企業は、第1四半期の決算が事前予想を下回ったにもかかわらず、史上最高値に近い水準で取引されている。株高を引き起こしているのは、たった1つの要因で、収益を求める投資家が欧州に焦点を移したのだ。 日銀の緩和策の連想で株高に拍車 シティグループの株式ストラテジスト、ジョナサン・スタッブス氏は「これまでに起きた最も重要なことは、株式が再評価されたことではなく、社債利回りが暴落したことだ」と指摘する。米国、日本、欧州の中央銀行が市場に流動性を供給する対策を受け、社債や国債の利回りが史上最低水準まで低下。投資家は、株式など、より利回りが高く、リスクの大きい資産に向かうようになった。 ECBが今月の利下げに続き、もう一段の金融緩和に踏み切るとの期待は、日銀の政策行動との比較を想起させ、欧州の株高に拍車をかけた。 「日銀が経済に再びインフレをもたらすことにはっきりコミットしたため、日本株は大幅高を演じてきた。年初来の上昇率は42%に上っている」。クレディ・スイス・プライベート・バンキングのチーフ・インベストメント・ストラテジスト、バーバラ・ラインハート氏はこう話す。「ECBもやはり非常に大きなコミットメントをしたが、欧州のデレバレッジ(負債圧縮)プロセスはまだ初期段階にある」 欧州株に強気になる根拠は、2010年にユーロ圏の債務危機が勃発してから概ね敬遠されてきたために、株価が過去の長期平均と比べてまだ割安だということだ。 ドイツ銀行の株式ストラテジスト、ギャレス・エバンズ氏は「誰もが欧州の上昇相場は完全に流動性頼みだと思っているが、注目すべきファンダメンタルズの基準もいくつかある」と言う。 欧州主要企業で構成する株価指数STOXX欧州600は、2013年の予想利益に基づく株価収益率(PER)が13.4倍の水準で取引されており、長期平均に沿っている。エバンズ氏によると、工業部門の銘柄は特に魅力的だという。 APモラー・マースク、シーメンス、アグレコ、アトラスコプコは過去3年間で、市場および自社の長期バリュエーションに対して安くなった。危機の大部分を通して嫌われてきた銀行株も、株式の強気筋のお気に入りだ。金融機関が自己資本を増強しているため、銀行株は魅力的に見えるという。 ファンダメンタルズの改善がカギ だが、今のところ、欧州の株高は債券に似た特徴を持つディフェンシブ銘柄の大幅上昇に支えられてきた。多くの投資家は慎重な姿勢を崩していない。シュローダー・プライベート・バンクの最高投資責任者(CIO)、ロバート・ファラゴ氏は、欧州の経済成長は大胆に株式に転換するほど改善していないと警鐘を鳴らす。 「我々も多少、債券に似た銘柄から景気敏感株に乗り換えたが、それ以上踏み込むことはないだろう」とファラゴ氏。「経済の下振れリスクが低下したため、景気敏感株にはある程度の価値があるが、我々はまだ低成長環境にいる」 ピクテ・アセット・マネジメントの投資チームは今も株式に中立で、欧州の株高があとどれくらい続くか疑問視している。ピクテのチーフストラテジスト、ルカ・パオリーニ氏は「市場が調整局面を迎えなかったら驚きだ。調整が起きた後に中国で成長が見えたら、買い場が訪れる」と述べ、「我々はファンダメンタルズが弱い時にパーティーに参加することには慎重だ」と話している。 By Alexandra Stevenson 日本:安倍首相のマスタープラン 2013年05月20日(Mon) The Economist (英エコノミスト誌 2013年5月18日号)
安倍晋三首相は、豊かで愛国主義的な日本を思い描いている。だが、ナショナリズムよりも経済に集中する方がよさそうだ。 2007年9月、首相就任からわずか1年で辞任した安倍晋三氏は、有権者に嘲笑され、慢性疾患に健康を害され、近年、あまりに多くの日本の指導者たちを悩ました失言問題につきまとわれていた。 ところが今、2度目の首相就任から5カ月足らずで、安倍氏は全く別の人間になったかのようだ。 別人のような安倍首相 再登板した安倍首相は上々の滑り出しとなっている〔AFPBB News〕
まず、「アベノミクス」を導入した。リフレーション、政府支出、成長戦略の組み合わせにより、20年以上にわたって続いてきた仮死状態から日本経済を引き戻すための政策だ。 また、かつては恐れられていた官僚組織に目一杯エネルギーを注入し、政府の活力を取り戻した。そして、自身の健康回復に合わせるように、地政学的な日本ブランドの再生と憲法の改正という構想を描いている。 その意図するところは、日本を世界の大国として、安倍氏の考える本来あるべき立場に戻すことだ。 安倍氏は、政治家への信頼を失っていた国民に活気を与えている。首相就任以来、株価は55%上昇した。個人消費の拡大により、今年1〜3月期の成長率は年率換算で3.5%に押し上げられた。安倍氏の支持率は70%を超える(1期目の終わりには30%前後だった)。 安倍氏の率いる自民党は、7月の参議院選で勝利を収めようとしている。衆参両院で過半数を獲得すれば、安倍氏は法案を自由に通過させられるようになるはずだ。 日本を停滞から引き戻すのは大仕事だ。失われた20年を経た日本の名目国内総生産(GDP)は1991年と同じ水準にあり、日経平均株価は、このところ急上昇したとはいえ、それでも史上最高値のようやく3分の1程度だ。 減少する労働力人口に、増え続ける高齢者人口のコストが重くのしかかる。日本社会は内向きになり、日本企業は革新を推し進める力を失っている。 日本の再生を約束した政治家は、安倍氏が初めてではない。日出づる国は、期待だけに終わった偽の夜明けを十分すぎるほど目にしてきた。そして、生まれ変わった新たな安倍氏は、まだ何も証明していない。 とはいえ、現在掲げている計画を半分成功させるだけでも、安倍氏は間違いなく、偉大な首相の1人に数えられることになるだろう。 安倍氏の目論見 今までとは違うかもしれないと考える理由は、中国にある。中国は2010年、日本を押しのけて世界第2位の経済大国になった。この時、日本経済の衰退が新たな現実味を帯びた。 中国は自信を得るにつれて沿岸海域で影響力を振るい始め、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題では日本と正面から対立している。この5月には、中国共産党の機関紙「人民日報」が、沖縄に対する日本の領有権にさえも疑問を呈した。 安倍首相は経済面でも安全保障の面でも「強い日本」を目指している〔AFPBB News〕
安倍氏は、中国の挑戦に立ち向かうことは、あまりにも長い間日本を縛ってきた無気力と受け身な姿勢を振り払うことを意味すると考えている。安倍氏の抱く純然たる野心を説明する際に引き合いに出されるのが、明治時代のスローガン「富国強兵」だ。 日本が富んで、初めて自衛ができる。自衛ができて、初めて中国に立ち向かえる。同時に、主たる同盟国である米国への隷属を避けることができる、というわけだ。 財政的刺激策と金融緩和策を掲げるアベノミクスは、経済政策のように見える。だが実のところ、経済と同程度かそれ以上に、国家安全保障に重きを置いているのだ。 安倍氏が切迫感をもって政策を進める理由も、恐らくそこにある。安倍氏は、就任後わずか数週間で、緊急経済対策費10兆3000億円を盛り込んだ補正予算案を発表した。また、日銀の新総裁に、金融システムにこれまで以上のカネを注入すると明言する人物を指名した。 こうした政策が円安につながっている限り、輸出は押し上げられる。それでデフレの見通しを払拭できれば、消費も促進されるかもしれない。 紙幣の増刷による景気浮揚には、限界がある〔AFPBB News〕
だが、紙幣の増刷でできることには限りがある。GDP比240%という公的債務残高を抱える現状では、政府支出を増やすにも限度がある。 そのため、経済の長期的な潜在能力を改善したいのなら、安倍氏の計画のうち、第3の構造的な部分を実行しなければならない。 安倍氏はこれまでに、供給サイドの抜本改革の推進を担う5つの委員会を設置した。2月には、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加を表明し、支持者をも驚かせた。協定に加われば、農業などの保護産業の自由化を強いられることになる。 中国との反目 日本が豊かになり、世界的な需要の源になることに異論を唱えることは、誰にもできないだろう。愛国主義的な日本が、「自衛隊」を、他国が保有するような正規軍に変えれば、北東アジアの安全保障は強化されるだろう。 だが、安倍氏の惨憺たる1期目を記憶している者は、2つの懸念を振り払えずにいる。 経済面での危険性は、安倍氏が前回のように、及び腰になってしまうことだ。今年4〜6月期の成長が思わしくなければ、安倍氏は景気回復の勢いを削ぐことを恐れ、2014年から15年に予定されている2段階の消費税増税の第1段階を延期するだろうとの憶測が既に流れている。 だが、消費税増税を延期すれば、日本は債務削減の中期的計画を失う。安倍氏は困難な選択を避けたがる、という信号を発信することにもなる。心配なのは、安倍氏が改革に抵抗する勢力に屈することだ。農業、製薬、電力をはじめ、競争を導入する必要のある業界は多い。 安倍氏はそうした業界との対決をためらってはならない。たとえ、自身の党の一部と対決することになるとしてもだ。 外交面では、安倍氏が、国の誇りと、有害で後ろ向きなナショナリズムとを混同し、過度に強硬な姿勢を取ることが懸念される。安倍氏は、米国の指導の下に置かれた日本の戦後を屈辱と見なす少数派に属している。 支持者の主張によれば、戦時中の日本の罪を矮小化することが容認されないことは、安倍氏にも分かっているという。 にもかかわらず、安倍氏は既に、大日本帝国(安倍氏の祖父は、帝国の役人として占領した満州の統治に携わった)は本当に侵略者だったのかと疑問を呈し、戦没者とともにA級戦犯が祀られている靖国神社への閣僚の参拝を許すことで、中国と韓国の反感をかきたてている。 不要な戦争ではなく、経済再生を しかも安倍氏は、現在の日本が必要とし、保持してしかるべき正規軍以上のものを欲しているように見える。1947年に米国の主導で施行されて以来、一度も修正されたことのない日本国憲法のリベラルな部分の見直しを検討しているのだ。 安倍氏はこのような動きで、東アジア地域の対立を激化させるリスクを冒している。対立が深まれば、貿易が脅かされ、経済成長も鈍化するだろう。 日本の覚醒を望むという点では、安倍氏は正しい。参院選後、安倍氏はそれを実現する絶好の機会を手にすることになるだろう。日本を復活させる道は、中国との不要な戦いへ向かうことではなく、経済の再活性化に集中することにある。 http://jbpress.ismedia.jp/ |