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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130517-00013997-toyo-bus_all
東洋経済オンライン 5月17日(金)8時0分配信
「How to make money with Junk Bond」(ジャンクボンドでの儲け方)。数日前まで米国に出張していたのだが、ニューヨークでたまたま隣に居合わせた人が読んでいた本のタイトルがそれだった。今、米国では市場のあちこちでバブル的な過熱が現れている。
ジャンクボンド(ハイ・イールド社債)市場や、MBS(住宅ローン担保証券)を購入してレバレッジを効かせる「エージェンシーREIT」市場には空前の資金流入が起きている。5月7日のウォールストリート・ジャーナル紙は、ハイ・イールド社債の利回りが最近異様な低下を見せていることを取り上げ、「ジャンクはハイ・イールド(高利回り)と言ったのは誰だっけ? 」と市場の過熱に警戒を促す記事を掲載していた。
■ 金融機関や投資家にリスクをとれと促す中央銀行
FRB(米国連邦準備制度理事会)の緩和策によって安全資産の利回りが低下したため、少しでも利回りが高い金融商品には投資家がわっと群がる構図になっている。政策は多くの人々に過剰なリスクを取らせているので、ひとたび市場の流れが逆転したら、傷つく投資家が多数現れる恐れがある。
FRBを含む世界の中央銀行は、奇妙な矛盾を発生させている。先進国の金融規制当局は、金融機関にリスクを減らせ、と規制を強化している(米国のドット・フランク法、新バーゼル規制など)。しかし、FRBも日銀も、銀行や投資家に対してもっとリスクをとって資産価格を押し上げろ、と促している。全体をコーディネイトしている人が誰もいないという怖さがある。
米国では大都市部の優良物件を中心に住宅価格が急騰している。3月末のサンフランシスコの住宅価格は前年比33%上昇していた。シリコンバレーの高額所得のITエンジニアが好むような物件が売りに出ると、奪い合いのような状態になっている。信用スコアが高い人に対しては金融機関は積極的に融資を伸ばそうとしていることも高額物件への需要を押し上げている。
こうした状況を聞いていると、FRBはそろそろQE3(月850億ドルの証券購入)の縮小に入るべきではないかとの印象を受ける。しかしながら、全米規模で見渡すと、中低所得層の賃金・雇用機会の改善はまだまだ遅れている。FRBの緩和策は資産・所得格差を大きくしているが、それゆえ金融緩和策を転換するタイミングの見極めには困難が伴う。住宅ローン金利が上昇してしまうような政策転換を今FRBが行ったら、中低所得層は生活が圧迫される恐れがあるためだ。
■ 「バズーカ砲」緩和で安全度が低下した国債市場
日本では4月前半に続き、5月前半にも国債市場が再び混乱を見せた。
「異次元」の量的質的金融緩和策が4月4日に決定されてから、改めて確認されたのは、日本の国債市場はボラティリティに対して構造的に非常に脆弱だということである。裏返して言うと、日本政府のこれまでの安定的な国債大量発行は、市場の変動が小さいことが前提で可能となっていた。しかし、「バズーカ砲」緩和策によってその前提が崩れ、国債の最大の購入者である国内機関投資家にとって日本国債の安全度は低下してしまった。
日銀が4月26日に開催した市場関係者向け説明会でも明らかに示唆されていたが、近年の日本ではフィリップス曲線が極端に寝ているので、その上方シフトが突然起きるような国民のマインド転換がなければ、2年後からの継続的なインフレ率2%は実現できない。
そのために日銀は量的質的緩和策によって、日本経済が「緩やかなデフレ均衡」からジャンプするように仕向けた。ジャンプが大きくなるように「バズーカ砲」的な緩和規模によって市場にサプライズを発生させた。サプライズは外為市場には有効だが、国債市場では金利を暴れさせた。金利の市場にとっては予測可能性が大事だからである。
「異次元」緩和策決定前日の4月3日の5年国債は0.135%、10年国債は0.55%だったが、4月15日の引け値はそれぞれ0.42%と0.87%だった。景気回復観測、インフレ予想の上昇に裏付けられた自然な国債利回りの上昇ならば、通常は経済は受け止めることができる。しかし、実体経済の改善が顕在化する前に金利上昇がより激しくなると、景気回復の勢いが殺がれる恐れがある。「名目金利が上昇しても、実質金利は低下しているから問題ではない」と言い切れるほどの状況にはまだなっていない。
日本国債の場合、政府債務が膨大で低格付けの割に国債の利回りが低いため、海外からの参加者は少ない。他方、米国債市場には世界中から多様な投資家が参加している。金融危機のような時を除けば、仮にあるグループの投資家がリスクを取れない状態に陥って米国債の購入を控えても、それによって歪んだ価格形成を利益のチャンスととらえて誰かが市場に参戦してくることが多い。だが日本では市場参加者の大半は銀行を含む国内の機関投資家であり、多様性に欠ける。
■ 売りが売りを呼ぶスパイラルに
基本的にプレーヤーの多くは日本の金融規制当局の監視の下、同じリスク管理手法を採用しており、その結果、売買の判断も同じ方向に傾きやすい。4月4日以降、日銀は財務省が市場で発行する国債の4分の3を購入しており、市場の流動性は大幅に低下した。市場の売買注文が薄い状態にあるだけに、その中で、円安、株高、FRBのQE3の縮小観測などの材料が台頭して金利先高感が強まると、金利上昇ペースは速くなる。
シャープレシオなどのリスク計測手法を導入しているので、ボラティリティが増大すると、国債保有のリスクを減らさざるを得ない金融機関が現れる。そうした金融機関が国債をまとまった額で売却すると、それを受け止めて買い支えるプレーヤーが少ないために、金利上昇は加速する。それが更にリスク管理の観点からの売りを誘発する、といった危険なスパイラルにつながる恐れが潜在している。
日銀は5月15日に1年物共通担保資金供給を2兆円実施した。このオペレーションで金融機関が0.1%で資金を1年間借り入れば、保有国債のリスクをある程度低下させることができる。4月にも日銀はこの手段を多用して国債市場を落ち着かせた。今回も日銀は市場の様子を見ながらこのオペを使うだろう。
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5月16日現在ではやや落ち着きが出始めたが、もし市場が鎮静化しない場合は、5月21〜22日の金融政策決定会合で日銀が国債市場安定化策を発表する可能性が出て来る。
■ 国債の購入を増額すれば、日銀は出られなくなる
例えば、日銀は今年、保有長期国債を51兆円増加させる予定だが、その範囲内で購入を前倒しして、一時的に増額させて、市場の国債売り圧力を吸収しようとするかもしれない。ただし、そういった政策が円安を招くことがあると、国債に新たな売り圧力が発生する恐れがあるだけに、実施の見極めは難しい。共通担保資金供給オペの最長期間を2年に延ばして、市場に安心感を与えるという手も考えられる。
とはいえ、そのような対策で国債市場の動揺がいったんは落ち着いても、国債市場の流動性が低い環境は継続する。何かの材料で金利上昇圧力が現れると、それがきっかけで国債の金利が再び暴れ始める可能性は今後もある。
その度に日銀が市場鎮静化のために国債買入れオペを増額していったら、市場はどこかの段階で「日銀の国債購入はどこまで膨張するのか? これはマネタイゼーション(財政赤字の貨幣化)ではないか? 」と疑心暗鬼になるだろう。そうすると長期金利の上昇はさらに激しくなる恐れが出てくる。
ひとたび、そうした観測が台頭したら、日銀はさらに国債購入を増額して金利上昇を抑え込みに行かねばならなくなり、この一連の政策は「ホテルカリフォルニア」化してしまう(つまり、一度入ったら出られなくなる)。そういった事態を避けるためにも、政府は中長期的な財政再建方針をしっかりと打ち出さなければならないのだ。
今回の国債市場の動揺のきっかけのひとつは米国の雇用統計、小売販売統計の改善による「QE3減額の前倒し観測」が台頭したことだ。先行き、実際にバーナンキFRB議長がその開始を示唆したら、日本国債市場の混乱はより激しくなる恐れがあるだけに注意が必要である。
加藤 出
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