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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130501-00013850-toyo-bus_all
東洋経済オンライン 5月1日(水)8時0分配信
黒田体制になって2度目の政策決定会合で、日銀は、「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を取りまとめ、終了後、それを発表した。黒田東彦総裁の「2年で2%」という物価上昇率を達成するという目標に整合的な数字を盛り込み、そのために、初めて3年後までの物価上昇率を加えたものとなっている。
かつて、小泉政権のときに、昔の経済企画庁(今の内閣府)の発表する経済白書が、「官庁エコノミストによる渾身の日本経済分析レポートから、政治的なプロパガンダに変貌した」という批判を受けたのと同様に、日銀レポートは、客観的な価値のある分析書から、政策的なパンフレットになったという批判を受けている。
■ 金融政策で物価を上昇させることはできない
これは、大変に残念なことだが、ここでは、その政策的なレポートが主張する政策的目標、「2年で2%の物価上昇率を達成すること」が極めて難しい理由を説明しよう。本稿では、いつも以上に、冷静で客観的な分析を提供することを心掛けたい。
第一に、金融政策で物価を上昇させることはできない。まず、この根本を確認する必要がある。金融政策は、直接的には、実体経済に働きかけるのではなく、資産市場、あるいは、その資産を活発に取引する金融市場に働きかける政策である。実体経済と金融市場は別である。つながってはいるが、別物である。そのつながりとは、2つあり、金融市場で資金調達をして実物の投資を、実体経済の中で行うか、もうひとつは、金融市場の変化により、経済主体の、つまり、企業や家計の資産に変化が生じ、資産効果により、実体経済の投資や消費が変化するということである。
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これは、ゼロ金利に陥っていない場合には、さらに別のルートがある。銀行である。銀行は、市場ではなく、機関として、この役割を果たす。すなわち、金融市場ではなく、金融機関が、調達金利の低下を背景に、貸し出しの金利を下げることにより、企業や家計が借り入れを増やし、投資や消費を拡大するということだ。
しかし、いわゆるゼロ金利となった今、中央銀行が直接コントロールできる金利、短期金利がゼロとなり、直接に金利を下げることはできなくなり、代わりに長期国債を買い入れるなどして、長期の金利を下げることを狙い、その結果、銀行の実際の貸出金利や、企業が直接、資本市場で調達する金利が下がることを期待している。
この実体経済の投資や消費が金利に反応するか、という問題は、すぐ後で議論することとして、ここでは、金融政策は、直接には物価を動かすルートはない、ということを再確認することが重要だ。
金融政策が物価に働きかけるのは、あくまで、金融市場、資産市場を通じてである。したがって、物価がどうなるかは、資産市場が金融政策にどう反応し、その資産市場の変化が、実体経済にどう影響するか、という2つのステップを経る必要があり、そして、後者は、金融政策が直接コントロールできるものではないのだ。
■ 現在の金融緩和とは、資産価格を上昇させること
さて、次に、その金融市場が実体経済にどう影響するか、という問題である。短期金利がコントロールできたときは、金融政策はより単純であった。投資と消費が金利の低下にどう反応するか、ということを考えればよかった。企業が設備投資をする場合に、銀行借り入れ金利が下がれば、どれだけ増やすのか。家計が住宅を買うのに、あるいは建て直すのに、住宅ローンなどの金利低下はどれだけ効果を持つのか。需要の金利感応度を見てやればよい。
ただし、これらももちろん、現状では大きく低下している。ゼロ金利政策が長く続いたから、低金利は長期にわたって継続した結果、低金利に反応する需要はほとんど出尽くしてしまっている。住宅ローンは若干余地があるかもしれないが、それも、変動金利でローンを組まずに、長期固定金利で組む人の割合が高まるぐらいの意味しかない。企業の設備投資は、金利よりも、需要に反応するから、今後、日本の国内需要よりもアジアの新興国の需要が伸びると思えば、新興国における投資を増やすので、国内需要拡大効果は限定的だ。
しかし、ここで、より重要なのは、金利ルートではなく、資産効果ルートを考えなければいけないと言うことだ。現在の金融緩和は、いわゆる量的緩和だ。しかも、日銀が2001年から2006年に行った、マネーの量を目標とする文字どおりの量的緩和ではなく、金融資産を中央銀行がひたすら買い入れるという意味での、量的緩和だ。
これにより、長期金利やリスクプレミアムを低下させ、貸出金利の低下、投資意欲の高揚を図るということらしいが、要は資産価格を上昇させるということである。株を買えば、株価が上昇し、不動産を買えば不動産が上昇する。しかし、これが実体経済にどのように影響を与えるのか。ひとつは、いわゆる資産効果である。持っている資産の時価が上がれば、増加した資産額の一部を消費に回すかもしれない。これが需要として景気を刺激する。
もちろん、これはあるだろう。しかし、一般に思われているよりも効果は小さい。2003年から2007年の景気回復局面でも、円安、株高が進んだが、株高による消費増大効果は極めて限定的であったというのが、研究上の多数派の結果である。
資産市場を刺激することによる効果は、もちろん、資産市場そのものにおいて大きくなる。資産の買い手、つまり、株式と不動産の買い手が増えるのであるから、これらの資産価格の上昇が見込まれる。それならば、これらの資産を先回りして買っておこうとする投資家が増える。その動きを狙って、多くの投資家がこれらの資産を買う。
現在起きている株価上昇の理由のひとつはこれだ。しかし、物価には何の影響もない。したがって、インフレを金融政策で起こすのは直接的には不可能なのである。
しかし、今回の量的緩和で日銀が大量に買うのは、株や不動産よりも、国債である。国債を大量に買い入れ、今後、政府が発行する国債の7割以上を買い占めることになるのが、異次元量的緩和のポイントだ。国債は、株や不動産と何が違うか。
違わない点と、違う点、両方に注意する必要がある。違う点は、もちろん、国債は長期金利を直接に決定する、というか、国債価格とは長期金利そのものであるから、国債を大量に買って、価格を上昇させれば、金利は自動的に低下する。短期金利がゼロである以上、長期金利を下げるしかないが、国債の買い入れはそういう意味で、もっとも直接的に金融緩和による景気刺激を狙う政策となる。
しかし、今のところ、これに失敗している。4月4日の異次元緩和以降、現在は徐々に落ち着いてきたとはいえ、5日以降の1週間は、国債市場が大混乱、国債価格、長期金利は乱高下した。その後も、大量の国債買い入れ政策が打ち出されたにもかかわらず、その発表以前よりも金利水準はやや上昇したままである。
それでは、黒田日銀は何を狙っているのか。ポートフォリオリバランス効果ということらしい。これは、国債を7割買い占めることにより、これまでの国債の投資主体が国債を買えなくなり、やむをえず、ほかの資産へ資金を移すことを狙っているということだ。国債への投資は最もリスクが低いと見なされているから、ほかへの投資ということは、リスクテイクを増やすということになる。
これは、中小の金融機関には望ましくないうえに、ひずみが広がり、また、金利上昇、国債暴落リスクがあり、たいへん危険で、メリットもない政策なのであるが、その是非はともかく、これでは、物価上昇効果はない。国債が値上がりし、国債から追い出されても、結局、それは実需には向かわずに、別の資産を買うことにより、資産市場を膨らませるだけのことだからだ。株価の上昇は、企業の資金調達を助けるわけではない。資金ニーズによるし、しかも低金利の今、増資をする企業は限られている。そして、IPO企業はバブルに沸く可能性はあるが、それは上場で創業者が利益を得るだけで、実需にはつながらない。
■ 期待インフレ率の上昇は、将来の物価上昇につながらず
物価には影響しなくても、期待インフレ率には影響するのではないか。そういう議論はあるだろう。期待インフレ率の上昇とは、名目金利の上昇を即時にもたらすから、景気にはマイナス、財政には大幅マイナスなのであるが、そこは日銀がさらに国債を買い増しして、名目金利を上げさせない、ということなのだろう。
これが、なぜ意味を持つかというと、期待インフレ率が上がり、名目金利が固定なら、実質金利が低下するから、ということなのだ。しかし、これも意味がない。ゼロ金利の制約の下、実質金利を下げるにはこれしかない、と言うが、それは誤りで、前述したように、短期金利はゼロであっても、長期金利はゼロではなく、リスクプレミアムもゼロではないから、この両者を低下させることは可能なのだ。したがって、期待インフレ率に働きかけるのは、物価に働きかけるよりも、洗練された手法で優れているかのような主張がなされているが、それは間違いで、名目金利を完全に押さえ込める保証もなく、そのための金融コストも大きいことから、むしろ、期待インフレ率を上げずに、国債買い入れの直接的な効果、国債の価格上昇を狙ったほうが、その意味ではましなのだ。
さらに、本稿での文脈で言えば、期待インフレ率の上昇は、将来の物価上昇をもたらすと言うが、それは誤りだ。物価上昇を起こせない以上、期待インフレ率の上昇はありえない。なぜなら、期待が合理的に形成されるのであれば、すべては物価上昇が実際に起こるかどうかがすべてであるからだ。
■ 賃金が上昇しないのだから需要超過インフレは起きない
合理的期待形成理論の流れをくむ、期待に働きかける政策は、因果関係の方向が重要であるが、期待インフレを上げることによって、投資行動が変わり、それが実際にインフレをもたらす、というルートを、日銀が期待しているとすれば、それは理論的にはありうるが、日本では起こりえない。期待インフレ率ではなく、期待名目金利は上昇するが、インフレ率自体は動かないからだ。
それは、物価の構造から来ている。
国内物価の決め手は賃金である。なぜなら、サービスセクターが過半を占めるからだ。輸入コスト上昇によるインフレは、コストプッシュインフレで、黒田氏の会見などのコメントからは、彼は、需要が潜在生産力を上回ることによる物価上昇を起こそうとしているということなので、こちらのインフレは百害あって一利なしだからだ。
しかし、需要超過によるインフレは起きない。なぜなら、賃金が上昇しないからだ。日本の賃金は、トヨタやローソンの社員の給料が上がっても上がらない。なぜなら、物価とはマクロ経済の指数であり、賃金支払い総額は必ず減っていくからだ。
日本の賃金が低下し続けた原因は、デモグラフィックな要因だ。それは人口が減るということよりも、高年齢層が退職し、若年層が加わってきているという、労働者層の変化によるからだ。つまり、単価の高い労働者が退出し、単価の低い労働者が参入してくることが必然だからだ。正規を非正規に置き換えるだけでなく、年齢層の問題から、必ず平均の賃金は下がる。これは企業にとってはいい話だ。低コストになり、利益が出る。しかし、賃金は下がるのだから、物価は上がらない。
したがって、需要増大に成功しても、賃金はマクロで見ればあまり上がらない。
ゆえに、2年で2%の物価上昇は達成不可能であり、さらに言えば、達成する意味のない目標なのだ。
小幡 績
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