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4月4日に上梓した拙著『「日本バブル」の正体〜なぜ世界のマネーは日本に向かうのか』
中国は「金融立国化」、米国は「製造業立国化」へ・・なぜか? その理由は、中国がこれから「金融立国」していくというところにある。正確に言うならば国民経済の中心を「製造業から金融業へ」と、加速度的にシフトしていくのである。そしてこの裏側で、事もあろうに米国が真逆の方向、すなわち「金融業から製造業へ」とシフトしていくのだ。
「そんなまさか。中国と言えば製造業だ。安い労働力で大量にモノを造る。そしてこれを安い値段で日米欧に対して売りつけ、薄利多売で大量のマネーを獲得する。これが中国企業によるビジネスの定石だというのに、製造業を止めるなどということが本当にあり得るのか。にわかには信じがたい」・・だが、残念ながらそうした根拠なき確信は間もなく生じる現実によって裏切られることになる。それにはいくつもの根拠がある。
前々回のコラムで私は「米欧は“高貴なウソ”をついて国際社会をリードして来ている」と書いた。また前回のコラムで私は北朝鮮を例に取り上げながら「今起きているのはタックス・ヘイヴンからの資本の逃避(キャピタル・フライト)」であるとも書いた。
銀行で蓄財していくマネーに関する個人情報の絶対的な非開示というルールを西側諸国にあるタックス・ヘイヴンではもはや守りきれなくなっている今、マネーは北朝鮮に向かっているという私の分析に、驚きを禁じ得なかった読者もたくさんいるのではないかと思う。だが現実にマネーは北朝鮮を含む「共産圏」に向かっているのである。なぜならば共産圏であれば、当然のことながらそうした個人情報は非開示とすることが“政治体制上の理由”を口実に可能だからだ。
■人民元国際化の「真の意味」
ここに来て中国は躍起になって「人民元の国際化」を進めて来ている。これも実は西側からの蓄財マネーに対する呼び込みにほかならないのである。その一方で、米欧は「中国はBRICS諸国の中でも経済成長率が抜群だ。その勢いに乗るには人民元建ての預金を持つべきだ」と大宣伝してきた。無論、最終的には中国を含む「共産圏」にマネーを収斂させるという「隠されたアジェンダ」(hidden agenda)があることを私たち日本人には教えずに、である。
これを「高貴なウソ」と言わずに何と言おうか。今や、中国経済の成長率が明らかに陰りを見せる中、そのことは誰の目にも明らかなのである。
私がこの「高貴なウソ」に気付き始めたのは、2008年のことだった。この年、英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)と中国工商学院(ビジネス・スクール)が上海で2日間にわたるセミナーを実施した。その時、英国側がばら撒いていた分析ペーパーがある。ロンドン・シティにとっての挑戦と機会」 「アジアにおける金融センターの将来という報告書だ。我が国ではほとんど話題にされることのないペーパーであるが、現場で斜め読みをした私はそこに書かれている「結論」に目を奪われた。
なぜならば、世界屈指の金融拠点ロンドン・シティはそこで「アジアの金融拠点は北京・上海となる」と断言していたからである。無論、それらしい理由付けがいくつも書かれてはいる。しかしすでにタックス・ヘイヴンとしての地位を確立している香港とシンガポール、さらには東京ですら追い越して北京・上海が「アジアの金融拠点」になるなどとは、少なくとも私には信じられなかったのである。
その後、状況は明らかに劇的な形で変わりつつある。思いつくままに挙げてみるとこうなる:
◎昨年になると中国当局自身が「上海は2015年までに人民元の国際的な調達拠点となる」と断言し始めた。新たにビジネスを始めるならばまずは人財の確保ということで、金融メルトダウンで打ちひしがれた米欧の金融機関から続々と離脱した優秀な人財が上海に新天地を求め始めるようになって久しい。
◎一方、これから「金融拠点」としての地位を失っていくであろう地域のうち、まずはシンガポールが先手を打つ形で「アジアにおける人財教育センター」というコンセプトを打ち出し始めた。
◎香港は今のところ「落日」を感じさせない。逆にいえばその分だけなりふり構わなくなっているといっても過言ではない。特に毎年1月に行っている「アジア金融フォーラム」では人民元の国際化を大々的にアピールし、「人民元といえば香港」と懸命に宣伝し始めている。
■なぜ米国はここへきてTPPやTAPに前のめりになったのか
こうしたアジアの金融拠点を巡る争奪戦が進む一方で、2008年から国際社会で生じている一連の展開の中で、気になって仕方がないことが一つある。それは米国が環太平洋経済連携協定(TPP)に、ここに来て急に前のめりとなったということだ。
米国がTPPの議論をめぐって中国を念頭に置いていることは明らかだ。だが、その一方で欧州との間でもTAP(環大西洋経済連携協定)を結ぶべく交渉を大車輪で始めてもいるのであって、何か様子が変なのである。アジアと欧州で米国は一体何をしようとしているのか。
これらの通商協定のネットワークによって米国が戦略的に追求しようとしているのは、「知的財産権死守による中国封じ込め」なのである(この点について知りたい方は渡辺惣樹知財戦争の始まり』 『TPPをご覧頂きたい)。
■米国が「年次改革報告書」を突きつけなくなった裏側
悪名高き「年次改革報告書」を我が国に突きつけなくなった段階から米国のターゲットは中国に移ったと考えるべきなのである。
そのことをまず大前提にしないと、全くもって世界の現実についていけない。確かに「米国企業を差別的に取り扱ったらば地方公共団体でも英文訴状で訴えられる」というISD条項は懸念材料だ。だが、「地産地消」を謳って地元の農家がつくる野菜を我が国公共団体が学校給食に採用しているからといって、米系食糧コングロマリットが訴えてくることなどあり得ない。要は全てがビジネス・ベースで考えるべきなのであって、今、米国がもっともご執心なのが「中国との関係で知的財産権を守ること」なのだという現実を踏まえて、巧みに動きまわればそれで良いのである。
そして米国がなぜ知的財産権保護にかくもこだわるのかといえば、考えられる理由はただ一つ。これまでのような錬金術まがいの「金融資本主義」の世界ではなく、モノづくりの世界で世界を席巻することを彼らは画策しているのである。そのことはオバマ政権が第一期目の早々に「輸出倍増計画」を打ち出していることから明らかだ。
「シェール・ガスを大量に掘り出して売るからではないか」と思うかもしれないが、シェール革命の全盛期は早くても2017年頃から始まる見込みなのである。一方、オバマ大統領の任期は2016年までだ。これだけでは全くもって輸出倍増には間に合わない。そうである以上、これまで隠してあった、とっておきの革新的な技術(常温核融合、元素転換など)を用いた製品をいきなり打ち出し、これを世界中で売り出すのではないかと考えた方が、はるかに合点が行くのだ。
ところがここで違法コピー大国・中国が登場し、片っぱしからコピーをしては安価に製造をし始め、お決まりのコモディティー化をしてもらっては困るのである。「だから今こそTPP」ということになってくる。これが米国の必勝法である。
■中国の「逆襲」はあるのか
中国はこのことを熟知している。真正面からぶつかるのも手だが、中国もまた商人の国なのである。むやみやたらに喧嘩を売るよりも「実利」がとれればそれで良い。そう考えた時、もっとも賢い戦略はこれまで米国が占めていたものの、これから米国が抜け出るポジションに入り込むことである。
米国は自国製品の中国への売り込みのため、以前から「人民元の切り上げ=ドル安転換」を求めて来ている。ギリギリまでこれに抵抗してきたが、逆にあえて自ら「人民元の切り上げ」を行うことにより、世界中のマネーが中国へと流れ込むようにしたらどうなるのか。
■日本は米中パワーゲームの中で「狭き道」を進むしかない
哀れなのは「円高少子高齢化」を理由に、今や恐ろしいほど内陸部にまで中国での拠点を構築してしまった我が国モノづくり系企業である。これらの企業の多くは低廉な労働力を利用して安く製品を造り、これを我が国国内へ送る、いわゆる「アウト・イン」というビジネス・モデルに依っている。しかし恐らくは2015年を目途に「金融中心への大転換」の名目の下、人民元の為替レートが完全に自由化し急騰すれば、人民元高・円安となり、もはやこのモデルは成り立たないどころか、巨額の損失すら招いてしまうのである。
だが、この大流から逃れることは我が国政府や大企業であっても、もはや不可能なのである。2015年に向けて進む米中の大戦略の中で食うか、それとも食われるか。「進むべき道はない。だが進まなければならない」という状況の中で今、私たち日本人全員のサバイバル・ゲームが始まっている(抜粋)
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