01. 2013年4月19日 17:42:54
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>今回の乱高下を単なる日銀のオペレーション技術のまずさではなく、黒田体制に対する日銀守旧派によるクーデター、ないし意図的なサボタージュ >今回の人事は黒田総裁による「自爆テロ封殺作戦」 長期金利が緩和で不安定化するのは前からわかっていたこと
しかし、人事異動や、下の公開が今日なのも、やけにタイムリーで、興味深い http://www.boj.or.jp/mopo/outline/index.htm/ 伝統的・非伝統的金融政策ショックの識別―潜在閾値モデルを用いた実証分析―
2013年4月19日木村武*中島上智** 本稿は、構造VARモデルにおいて、伝統的政策と非伝統的政策のレジーム変化を考慮した、金融政策ショックの新たな識別方法を提案する。具体的には、パラメータが時期によってゼロにスイッチする潜在閾値モデルを可変VARモデルに導入し、リカーシブ識別制約が政策レジームに依存して変化する構造を表現するとともに、ゼロ金利制約に直面した場合の過剰識別についても検証可能な枠組みを構築する。このモデルを(2012年までの)日本経済に応用した結果、非伝統的金融政策は長期金利の低下を促し、インフレ率やGDPギャップに対してプラスの影響を与えるように作用するが、その効果にはかなりの不確実性を伴うことが確認された。 1.はじめに 量的緩和政策は2001 年に日本で最初に導入され、その後、世界的な金融危機 を経て、主要先進国が非伝統的政策を導入するに至った。その政策効果を巡っ て、さまざまな研究が報告されているが1、金融危機後の未曽有の経済環境にお いて、経済を動かす多くの要因の中から純粋な金融政策ショックを識別するこ とは難しい。また、非伝統的政策の歴史が浅く、データの蓄積が少ないことも、 政策効果の精確な推計を困難にしている側面がある。本稿は、伝統的政策と非 伝統的政策のレジーム変化を考慮した、金融政策ショックの新たな識別方法を 提案し、政策効果の波及に関する実証分析を行う。以下では、本稿の分析手法 の位置付けを明らかにするために、まず、既往研究について簡単にレビューす る。非伝統的政策のマクロ的効果を分析した研究は、その推計方法の違いから、 大きく3 つに分けられる。 第一の方法は、非伝統的政策が金融資産価格に与える影響について実証した 分析から政策ショックを割り出し、これを標準的なマクロモデルに与えて実体 経済への効果を評価するという、「プラグイン(差し込み)」アプローチである。 金融資産価格に与える影響について分析した研究例としては、Fed の政策に関し てはGagnon et al. (2011) や Wright (2012)、BOE の政策に関してはJoyce et al. (2011)、日本銀行の政策に関してはKimura and Small (2006) や Ueda (2012) などが ある。政策効果の程度は分析手法や対象国によって異なるが、非伝統的政策が 中長期金利やタームプレミアムに与える影響について、概ね統計的に有意な結 果が得られている。Chung et al. (2012) や Fuhrer and Olivei (2011) は、これらの分 析結果から割り出した政策ショックを、FRB のマクロモデル(FRB/US)に与え てシミュレーションを行い、非伝統的政策がインフレ率やGDP ギャップに与え る影響を推計している。もっとも、こうしたプラグイン・アプローチは、政策 ショックを計測した分析にバイアスがあると、非伝統的政策の実体経済に対す 1 例えば、Joyce et al. (2012) が詳しい。 る波及効果のシミュレーション結果にもバイアスが生じることになる2。また、 FRB/US も含め標準的なマクロモデルでは、長期金利の低下が経済に及ぼす影響 に関して、タームプレミアムの低下に起因する場合でも、予想短期金利の低下 に起因する場合でも、実体経済に与える効果は同じと仮定されている。しかし、 Stein (2012)、Kiley (2012)、Chen et al. (2012) が指摘しているように、実際の景気 刺激効果は長期金利の低下の原因によって異なる可能性がある。非伝統的政策 がポートフォリオ・リバランス効果を経由してタームプレミアムの低下をもた らしているのか、それとも、シグナリング効果を経由して予想短期金利の低下 を促しているかによって、実体経済に与える影響は異なり得るが、標準的なマ クロモデルを用いたプラグイン・アプローチではこの点が勘案されていないこ とになる。つまり、このアプローチの問題は、政策ショックの識別と政策効果 の計測を、同一モデルを用いて同時に行っていないことに起因している。 第二の方法は、「動学的確率一般均衡モデル(DSGE model)」を用いた非伝統 的政策のシミュレーションである。Kiley (2012) や Chen et al. (2012) は、国債市 場の分断を取り込んだ構造モデルを用いて、長期金利が同じ幅だけ低下しても、 その原因がタームプレミアムの引き下げによる方が、短期金利の引き下げによ る場合よりも、景気刺激効果は小さいと指摘している。これらの分析は、構造 モデルを用いているので、短期金利を操作目標とする伝統的政策から、ゼロ金 利制約下で資産買入れを行う非伝統的政策にレジームが変化しても、政策効果 を正しく評価することが原理上可能である。非伝統的政策の効果を適切に評価 するためには、市場分断をどのようにモデル化するかが重要なポイントになる が、先行研究の中で見方が分かれている。Kiley (2012) は、長期資金と短期資金 の両方について取引できる主体と、短期資金だけしか取引できない主体が存在 することを前提にモデルを構築している。一方、Chen et al. (2012) は、長期資金 と短期資金の両方について取引できる主体と、長期資金だけしか取引できない 2 例えば、Chung et al. (2012) が政策ショックとして利用した Gagnon et al. (2011) の計測につ いては、タームプレミアムの低下幅が過大推計されているという批判がある (Hamilton and Wu 2012、Bauer and Rudebusch 2011)。 主体が存在することを前提にしている。市場分断に関して、それぞれの構造モ デルが現実の経済を適切に描写しているか慎重に検証されなければならないが、 残念ながら、いずれのモデルがより適切であるかを判断できるだけの十分な知 識を我々はまだ持ち合わせていない。 最後に第三の方法は、「構造VAR モデル」に基づいて政策ショックを識別し、 インパルス応答関数の計測から、政策効果を評価するというものである (Baumeister and Benati 2010、Iwata 2010、Kapetanios et al. 2012 など)。例えば、 Baumeister and Benati (2010) は、可変(time-varying parameter)VAR モデルを用い て、ゼロ金利制約が無いもとでの政策金利変更によるショックと、ゼロ金利制 約があるもとでの資産買入れによる政策ショックの識別を試みている。このう ち、後者の非伝統的政策ショックを、彼らは「純粋スプレッドショック」と定 義し、長短スプレッドの低下ショックは短期金利に全く影響を与えないが、イ ンフレ率と実質GDP 成長率の双方を同時点(四半期内)に上昇させる、という 符号制約を課している3。しかし、金融政策ショックが発生した当期のうちから 実体経済に影響が出始めるという識別制約が現実的であるかどうかはコンセン サスが得られていない。 このように、非伝統的金融政策のマクロ的効果を分析するには幾つかの方法 があるが、政策の効果波及構造について仮定を必要とする、標準的なマクロモ デルやDSGE モデルを用いた分析では必ずしも適切な実証結果を得られない可 能性がある。その点では、政策波及経路や経済構造について決め打ちをせずに、 実際のデータ変動に合わせた柔軟な表現が可能な可変VAR モデルは優れている。 しかし、既述のように、可変VAR モデルを用いたこれまでの研究では、非伝統 的政策ショックが適切に識別されていない可能性がある。そこで、本稿では、 可変VAR モデルを発展拡張する形で、伝統的・非伝統的政策ショックの新たな 3 長短スプレッドの縮小は、資産買入れの効果だけでなく、先行きの景気悪化が予想された 場合にも発生する。(後者の要因を排除し)前者の要因のみを政策ショックとして識別する ために、Baumeister and Benati (2010) は、政策を発動した当期のうちにインフレ率やGDP 成 長率が上昇するように符号制約を設定している。 識別方法を構築する。具体的には、Nakajima and West (2013) が提案した「潜在閾 値モデル」(Latent threshold model)を応用することで、ゼロ金利制約と伝統的・ 非伝統的政策のレジーム変化をモデルに組み込む。潜在閾値モデルは、パラメ ータがある特定期間では有意にゼロと異なるが、別の期間ではゼロに近く有意 でない状況を想定し、後者においてそのパラメータを完全にゼロにスイッチさ せる方法である。(可変VAR モデルのように)モデル内に可変パラメータが多 くある場合、説明力の乏しい変数を各時点で選り分けて説明変数のセットから 外すことにより、推計の不確実性を減らし、予測精度を高めることができる(詳 しくはNakajima and West 2013 を参照)。この考え方を応用して、本稿では構造 VAR モデルの同時点構造が政策レジームに応じてスイッチするように、可変パ ラメータに制約をおくことで政策ショックを識別する。また、ゼロ金利制約下 では、短期金利が他の変数に対して反応しない――伝統的政策時にはインフレ 率やGDP ギャップのショックに対して、非伝統的政策時には中銀リザーブのシ ョックに対して短期金利が反応しない――可能性を考慮して、同時点構造に過 剰識別制約を課すことが妥当かどうか検証する。潜在閾値モデルは過剰識別制 約を各時点で統計的に検証することが可能であり、従来の方法のように過剰識 別を検証するためにサンプル期間を分割して推計する必要がなく、全体として より精確な推計値を得ることができる。本稿は、こうした新たな分析枠組みを 日本経済に適用し、伝統的金融政策と非伝統的金融政策の効果について検証す る。
2.分析の枠組み 2.1.伝統的・非伝統的政策レジーム 最初に、伝統的金融政策と非伝統的金融政策のそれぞれにおける政策ショッ クの識別方法について、基本的なモデルを用いて説明する(表1 )。伝統的政策 の場合、中央銀行はインフレ率やGDP ギャップからなる実体経済変数のショッ ク()に応じて、短期金利()を操作することを基本ルールとしつつ、同ルール から乖離して金利を変更する場合、これを政策ショック()とみなす( 〜 〜 5.おわりに 本稿は、可変VAR モデルと潜在閾値モデルを組合せ、伝統的政策と非伝統的 政策のレジーム変化を考慮した、金融政策ショックに関する新たな識別方法を 提案した。具体的には、リカーシブ識別制約が政策レジームに依存して変化す る構造を表現可能にしたほか、ゼロ金利制約に直面した場合の過剰識別につい ても検証可能な枠組みを構築した。日本のマクロ時系列データを用いた実証分 析では、提案した識別方法の枠組みが有用であり、現実の経済構造を的確に描 写できることがわかった。分析結果によると、非伝統的政策は長期金利を低下 させ、インフレ率やGDP ギャップに対してプラスの影響を与えるように作用す るが、その効果にはかなりの不確実性を伴うことが確認された。長期金利の下 げ余地も徐々に小さくなる中で、インフレ率やGDP ギャップのボラティリティ が金融危機前後で大きく高まったことで、金融市場から実体経済への波及経路 の精確な推計が難しくなっていると考えられる。 本稿で提示した分析の枠組みは、伝統的・非伝統的政策の両時期に適用でき るという点で有用である。日本は他の先進国に先駆けて量的緩和政策を実施し ており、現時点において数年分の非伝統的政策レジームのデータが蓄積したこ とが本稿の分析を可能にしている。世界的な金融危機後、FRB やBOE など他の 中央銀行も非伝統的金融政策を実施しており、データの蓄積が進めば、それら の政策効果についても、本稿のモデルを用いて評価可能となろう。 最後に、本稿で提案した分析枠組みの限界について指摘しておく。先行研究 でも挙げられているように、非伝統的政策が金融資本市場に影響する波及経路 は主に3 つある16。すなわち、@シグナリング効果(中央銀行の金融緩和に対す る姿勢から、将来の予想短期金利の経路が変化する効果)、Aポートフォリオ・ リバランス効果(マネタリーベースと買入れ資産が不完全代替である場合、リ スク・プレミアムの変化を経由して資産価格が上昇する効果)、B流動性プレミ アム効果(市場機能の低下から流動性プレミアムが拡大した時に、資産買入れ によって市場機能を改善させプレミアムを低下させる効果)、の3 つの経路であ る。それぞれの波及経路によって、金融市場への影響度は異なると思われるが、 本稿の分析では波及経路を区別することはできない。また、将来の短期金利予 想に直接働きかける情報発信(いわゆるフォワードガイダンス)は、ゼロ金利 制約下において有効な緩和手段であると考えられるが、本稿でのモデルでは、 長期金利ショックにフォワードガイダンスの影響が含まれており、これを政策 ショックとして分離抽出することはできない17。波及経路やフォワードガイダン スのショックを識別するためには、本稿のモデルにイールドカーブの情報を加 えて分析することも考えられるが、興味深いモデルの拡張として今後の課題と したい。
16 例えば、Joyce et al. (2012) を参照のこと。 17 長期金利ショックには、中銀の資産買入れに伴うポートフォリオ・リバランス効果以外 の要因(例えば政府の国債管理政策の影響など)によるタームプレミアムの変化も含まれ ている。
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