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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37537?page=3
■TPP交渉の底流を読み解く
人口扶養能力が高いコメを作ってきたために、アジアの農村部は人口密度が高い。そのアジアで経済発展が始まると、農村と都市との間に急速に経済格差が広がる。
この現象は世界中で観察されるが、農村人口が多いアジアでは大きな問題になる。中国農村の貧困も、タイのタクシン元首相を巡る政争(注:タクシン元首相は2006年の軍事クーデターで政権の座を追われ国外に亡命した)も、農工間格差問題として捉えることができる。
■農工間格差を効果的に是正してきた自民党
日本は農工間格差を最も効果的に是正することに成功した国である。自民党というシステムがそれを可能にしたと言える。多くの自民党議員の地盤は農村にあるが、彼らの使命は地元へ公共事業や補助金を持ってくることである。その見返りに票をもらう。
マスコミや識者はこのような利益誘導政治を攻撃してきたが、利益誘導政治が有効に機能したおかげで、日本は中国のように都市と農村の間に大きな格差がある社会にならずにすんだ。また、タイのように経済が発展した段階でクーデター騒ぎを起こすこともなかった。
日本の都市で経済活動を行っている人々(経団連など)は、自分たちの稼いだ富の一部が公共事業や補助金として地方に流れることを容認する代わりに、左翼運動が活発だった昭和において、農民票によって自民党という親米保守政権を維持することに成功した。そして、政治の安定を得て、世界第2位の経済大国を作り上げた。
しかし、平成に入るとそのシステムの変革を迫られた。バブルが崩壊したために都市部の経済が低迷して、富を農村部に回す余裕がなくなってしまったのだ。そしてソ連が崩壊すると、都市に住む人々にとっても、社会主義を掲げる政党は魅力あるものではなくなった。「社会党」は「社民党」へと党名の変更を余儀なくされた。
★農村へ富を回すことによって親米保守政権を維持する必要はなくなった。それが、小泉純一郎政権による政治改革へとつながった。
極めてザックリとした記述であるが、昭和から平成にかけての自民党と農村の関係は以上のように要約できる。
■自民党の心は農民から離れ始めている
現在のTPPを巡る論議の底流を理解するには、自民党が昭和の時代ほど農村保護に熱心でなくなったという事実に注目する必要があろう。より端的に言えば、もはや自民党は農工間の格差是正に強い関心を有する政党ではなくなっている。
現行の日本の選挙制度には欠陥があり、農村の1票が重い。そのために、農村を押さえることは、多数を得る上で極めて有利に働く。参議院選挙では、地方の1人区の勝敗が選挙結果に大きく影響する。
だから、自民党も農民の支持獲得に懸命であり、TPPへの参加表明する際にも、安倍晋三首相が訪米してオバマ大統領から「聖域を認める」との言質を取るなど、細心の注意を払っている。TPPに反対する自民党議員も200名を超えており、党の中で大きな勢力を有している。
だが、表面上、昭和の時代となにも変わらないように見えても、本音の部分で、自民党の心は農業団体から離れ始めている。
党内外の情勢は大きく変化している。まず、農民の数が激減している。1985(昭和60)年に1560万人もいた農民は、2010(平成22)年には650万人に減った。そして、現在、その多くが兼業化しており、専業農家は数えるほどでしかない。兼業農家の本音は都市のサラリーマンと同様と考えてよい。もはや、地方の票の主体は農民ではなくなっている。
また、貿易と経済に関する利害も変わった。日本の工業製品を米国に売り込む代わりに、米国から農産物を買う。これが、昭和の貿易交渉であった。しかし、平成になった現在、TPPに参加しても、日本が米国に売る工業製品がそれほど増えるわけではない。米国の国内政治を考えれば、日本製自動車をこれ以上輸出することは難しいだろう。
■TPP参加で日本が得るものとは
それではTPPに参加することによって、日本は何を得ようとしているのであろうか。
その第1は、日本の金融施策に対する米国の支持だろう。TPPはオバマ政権が米国内の雇用を増やす手段として強調している。
★日本政府は、TPPに参加して、オバマ政権に恩を売ることによって、大幅な円安を米国に黙認してもらいたいのだ。
第2には、尖閣列島を巡り中国と対立を深める中で、なにかのときに米国に後ろ盾になってもらいたい。安保条約があると言っても、米国の機嫌を損ねれば、日中間に重大な問題が起こった時、米国が親身になって援護してくれない事態も想定される。
★日本がTPPに参加して得ようとしているものは、貿易上の利益というよりも、金融政策や政治上の利益になっている。
そして、米国が日本の農民に向ける眼差しも大きく変化した。昭和の時代には、日本に社会主義政権が出現することを防ぐために、米国が日本の農村に対して、それほど強硬な態度を取ることはなかった。しかし、日本が社会主義化する危険がなくなった現在、米国は保守の牙城としての日本農村に対して融和的な態度に出る必要がなくなっている。
しかしながら、農業団体はこのように昭和の時代と比べて大きく変化した情勢を理解していないように見える。そのような状況の中で、自民党は農業団体を持て余し気味になっている。ただ、昭和からの関係もあるから無碍にはできない。そして、弱くなったとはいえども、いまだに選挙ではあなどれない力を持っている。
■農産物の関税は小さな国益に過ぎない
ただ、現在、安倍政権が政策を遂行する上で、米国との協調関係は絶対に必要である。米国の機嫌を損ねれば、円安政策も中国に対して強硬な姿勢を取ることも難しい。農業団体も少しは日本全体の国益を考えてほしいというのが、自民党、特に安倍政権の本音であろう。
1993年にコメの関税化を図った際には、政府は6兆円もの補助金を支払って、農業団体をなだめた。今度もそれと同様のことが繰り返されることになると思うが、あまり財政規律をゆがめると、今回は長期金利が高騰しかねない。前回ほどの無責任な大盤振る舞いは難しいのだ。安倍政権は、農業団体にこのような事情を分かってほしいと思っている。
自民党が農業団体を見つめる目は、かつてないほどに厳しいものになっている。それは自民党だけではない。多くの国民は、国益を無視して自己の利害のみを主張する農業団体を疎ましく思うようになった。
現在、TPPに真っ向から反対を表明している政党は「社民党」「共産党」、それに小沢一郎氏が率いる「国民の生活が第一」だけである。この事実は、農業団体が置かれた立場を端的に物語っていよう。
アベノミクスや黒田サプライズは、米国の了解なしには実行できない。安倍政権はその成功を大きな国益と思っているから、農産物の関税という小さな国益は、どこかで切り捨てなければならないと考えている。
TPPに関する議論は、昭和の時代から続いてきた自民党と農業団体の蜜月関係が変わる分岐点になってしまったようだ。
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