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http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE93B04S20130412
2013年 04月 12日 18:52 JST ロイター
By Charles Wallace
ほぼ10年前のことになる。当時、米連邦準備理事会(FRB)の理事の1人としてベン・バーナンキ氏が東京を訪れた際、日本側に衝撃的なアドバイスを行った。それは、デフレ脱却には日銀が明確なインフレ目標を掲げ、国債の大量購入に乗り出すべきだというものだった。
しかし、この時のアドバイスが聞き入れられるには、あまりにも長い時間がかかった。日銀の黒田東彦新総裁は先週、2年間で2%の物価上昇率を目指す新たな金融緩和策を発表した。
これを達成するために、日銀は「質的・量的金融緩和」の概念を導入し、マネタリーベースと長期国債・上場投資信託(ETF)の保有額を2年間で2倍に拡大する。マネタリーベースの残高は2012年末実績の138兆円から、14年末には270兆円に増加する見通しだ。
要するに、FRBが5年かけて量的緩和策の下で行ってきたことを、日本は2年でやろうというのだ。これは、慎重な日本人にしては、驚くべき過去との決別と言える。これまでは、インフレ率を押し上げることは、日銀の破綻につながりかねないとの懸念にとらわれていた。金利が上がれば、日銀が抱える大量の国債の価格下落につながるからだ。
日銀の大胆な緩和策は、おおむね海外から評価されている。しかしその一方で、「日本病」を根治するのに十分かどうかは議論の余地があるだろう。
米国と日本の状況は異なるため、米国で効果的だったことが日本にも当てはまるとは限らない。例えば、マネタリーベースを増やしたからといって、銀行の貸出が増え、消費が喚起されるという保証はない。
加えて、日本への処方箋が効くかどうかは、輸出業の回復にもかかっている。金融緩和策による急激な円安でソニーやトヨタといった日本を代表するグローバル企業の業績改善が期待されているが、それも高失業率にあえぐ欧州や米国の経済に左右されるだろう。
バーナンキ氏やピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長ら海外の専門家が、日本には金融・財政刺激策が必要だと何年も主張してきたが、安倍首相が試みていることは驚くべきことに、1930年代に当時の高橋是清蔵相が実施した政策と類似している。
高橋蔵相は円を切り下げ、赤字国債を大量に発行し、マネタリーベースを拡大した。こうした型破りな政策のおかげで、日本は世界大恐慌の直撃を受けなかった数少ない国の1つとなった。ただし、「日本のケインズ」としばしば評される高橋は、国防費の削減を打ち出して軍部の銃弾に倒れ、非業の最期を遂げることになる。
安倍首相と黒田総裁が掲げた政策が、エコノミストや為替トレーダーの予想をはるかに上回る大規模かつ抜本的なものであることは議論の余地がない。円相場は、安倍政権誕生前の昨年11月は1ドル79円台で取り引きされていたが、今週には100円に迫ろうとしている。輸出促進を狙った円安は、すでに日本の貿易相手国にも影響。韓国ウォンは足元、対ドルで約8カ月ぶりの安値まで下落している。
日本が気にかかるのは恐らく中国からの批判だろう。中国投資有限責任公司(CIC)の高西慶社長は、日本は意図的に円の下落を誘導し近隣諸国を「ごみ箱」扱いしていると批判した。 中国も輸出促進に自国通貨を操作していると批判されるが、日本の行動が、輸出大国同士の通貨戦争を引き起こすかどうかはまだ不透明だ。
国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は7日、日銀の新たな金融緩和策には世界経済の成長を支援する点で歓迎されるとの認識を示した。ただ同時に、緩和的な金融政策だけで景気の大幅な回復を見込む政策当局者の考えに対しては警告を発した。
こうした批判を日本は真摯に受け止めるべきだ。マネタリーベースの拡大やインフレ目標の設定と、「ミセス・ワタナベ」に貯金を使わせるのは全くの別物だ。元IMFのピーター・ステラ氏は最近、ガソリンを満タンにすれば運転距離が延びるといったように、準備預金を増やしたところで自動的に貸出が増えるというわけではないと指摘している。
日本はいわゆる「流動性のわな」に陥っている。国民は物価が下がると見込み、現金を貯め込んでいるのだ。では、20年間にわたり預金の上にあぐらをかいてきた国民にどうしたら消費を促すことができるだろう。
1つの方法は、安倍首相も要請しているように、企業が賃上げすることだ。そうすれば平均的サラリーマンの可処分所得は増加し、増えた分は貯蓄より消費に向かうだろう。残念ながら、多くの日本企業はこうした考えに抵抗を示してきた。2月のロイター企業調査では、非製造業の約85%が賃上げに前向きになれないと回答している。
効果が期待できるもう1つの方法は、女性の雇用を促進することだ。日本の女性雇用は過去10年で改善しているが、それでも大半の先進国には遅れをとっている。世界経済フォーラムの世界男女格差年次報告書(2012年)によると、日本は「男女平等指数」で135カ国中101位。ちなみに、米国は22位、フランスは57位だった。
安倍首相が自国経済に処方した「劇薬」は、魔法のような解決策になるかもしれない。しかし、欧米経済がいまだ苦しみ、中国経済も減速する中、輸出業の復活に賭けるという古い考え方に過度に依存していては、期待した成果は得られないだろう。
日本は自国製品をより多く消費し、生産的な仕事で多くの労働者、特に女性を雇用する必要がある。それまでは、安倍首相の処方箋は重症患者に対する応急措置に過ぎないのかもしれない。
(11日 ロイター)
*筆者はロサンゼルス・タイムズ紙の元アジア特派員。外国為替、経済、国際金融に関連する問題など、広範囲にわたり執筆活動を行っている。1999年に「ビジネス・ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー・アワード」を受賞。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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