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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130415-00013623-toyo-bus_all
東洋経済オンライン 4月15日(月)8時0分配信
電機関連企業の3月末の株価は、昨年9月末に比べ、4割程度高い。では、業績はどうか?
まず、各社の2013年3月期の営業利益予想を見よう。シャープは赤字を続け、その赤字額は12年3月期の4倍強になる。ソニーは、前年の赤字から回復するものの、11年3月期比で34.9%の減だ。パナソニックの営業利益は1219億円で前年比約3倍となるが、11年3月期の3052億円に比べ、半分以下だ。しかも、最終損益は7650億円の赤字になる。1950年以来の無配転落で、ボーナスも大幅に見直す。
12年3月期は、シャープやソニーの営業利益がマイナスになった年で、電機メーカーの業績悪化が大きなニュースとなった。これと比較すれば、13年3月期の予想は若干の改善だ。しかし、本格回復にはほど遠い。シャープのホンハイとの交渉は決裂し、同社の再建は厳しい状態だ。それなのに株価は約4割上昇している。赤字脱却の確実な保証がない企業の株価がこれほど上昇するのは、異常としか思えない。ソニーは黒字に転換したが、11年3月期には及ばない。それなのに、株価は約8割も上昇している。日立と東芝は、赤字転落は免れているが、営業利益は3年間ほぼ横ばいだ。実際の株価上昇を正当化できるような状況ではない。
以上は個別企業の状況だが、法人企業統計で電気機械器具製造業と情報通信機械器具製造業の利益の合計を見ると、次の通りだ。10年(暦年)は2兆0821億円だったが、11年には1兆1903億円とほぼ半減した。さらに12年には4068億円に減少した。情報通信機械器具製造業の営業利益が、12年4〜6月期には赤字になったのが印象的だ。これは、地デジ特需の終焉(11年7月でアナログを停波)、エコポイントの終了などによるものだ。ここ数年の電機業界は、エコポイントや地デジ移行によって翻弄されてきた。補助金がないと収益が上がらない構造になっているのが実情だ。
■ 円安が続いても利益が増える保証なし
では、円安によって将来の利益が増えるのだろうか? 原理的には、いくつかのルートが考えられる。
第一は、円安によって輸入品が割高になって国産品が有利になり、国内販売が増加するルートだ。例えば、サムスン電子がウォン建て価格を変えなければ、円建て価格は上がる。それを日本国内の販売価格に転嫁すれば、日本市場で競争力が落ちて、販売量が減る。
では、輸入価格は上昇しているか? 貿易統計において、数量が分かる項目(電算機類、IC、映像記録・再生機器など)について、単位数量あたりの輸入価格の推移を見ると、過去1年間程度の期間で、変動はあるものの、傾向的な動きは見られない。したがって、円安で国産品の価格競争力が高まるという現象は、起きていないわけだ。実際には、例えばサムスンがウォン建て価格を引き下げ、円建て価格を一定に保っているのだと考えられる。
テレビやPCなどの輸入品は、荷揚げの段階で価格が上昇しておらず、末端価格も動いていない。実際、韓国製テレビや台湾製PCの価格が上昇しているという話は聞かない。そうであれば、日本国内で外国製品のシェアが落ちることはない。
第二のルートは、輸出を通じるものだ。例えば、日本メーカーが円建て価格を一定に保てば、アメリカの市場でドル建て価格が下がる。そうすれば、サムスンなどに対する競争力が増して、販売量が増える。
しかし、末端価格を変えるには時間がかかるし、「円安による輸出ドライブ」と批判されるおそれもある。また、需要の価格弾力性が低ければ、ドル建ての販売額は減る。だから、末端でのドル建て価格は一定に保たれていると考えられる。
つまり、自動車や電機製品のように価格競争が激しい商品では、為替レートが変わっても、末端価格は変わらない可能性が高い。したがって、円安が今後も続くとしても、それによって外国製品の輸入量が減ったり、日本製品の輸出量が増えたりすることはないと考えられる。
為替レートの変化は、メーカーや流通業者の利益の増減で調整されてしまう。ただし、円安による利益が日本メーカーの手に落ちるのか、それとも流通業者の手に落ちるのかは定かではない。結局、円安で日本の電機メーカーの利益が増大するか否かには、大きな不確実性があると言わざるを得ない。以上を考えると、現在の株取引は、収益が目的でなく、短期的な売買益確保を目的としたものが中心だと考えられる。
■ 基本的なビジネスモデルの再構築が必要
日本電機工業会(JEMA)の大坪文雄会長が3月15日に発表した見通しによると、13年度の国内電気機器生産は、前年度比1.7%減になる。内訳を見ると、重電機器が1.2%減、家電機器(エアコン、冷蔵庫など)が2.8%減だ。
「円高是正・株価上昇が進んでおりますが、未だ実体経済の回復までには至っておらず」「未だ成長は見通せない状況」としている。「景気刺激策による民間設備投資回復への期待もある」としながら、全体ではマイナス成長を予測せざるを得ないのだ。「円高是正」という言葉が前文と結語に2カ所出てくるが、見通しの説明中に為替レートへの言及はない。つまり、円安が需要に影響するとは見ていないようだ。この報告の静かな口調と、株式市場の熱気との間に、大きな隔たりを感じる。
ところで、「電気機器」には、テレビ、PCなどの「電子機器」は含まれていない。そこで電子情報技術産業協会(JEITA)が提供する13年1月の数字を見ると、国内生産のうち輸出される比率は、電子工業計で74%、民生用電子機器で73%だ。したがって、輸出がかなり増加しないと、国内生産は増加しない。
ところが、「電子工業計」の数字を見ると、輸出は3.2%増だが、生産は前年比14.6%減だ。民生用電子機器(テレビなど)の生産は、前年比で実に47.7%減であり、輸出は21.3%減である。こうした数字から考えると、円安が進んだとしても、テレビなどの輸出や生産が回復するとはとても考えられない。
電機産業は、高度成長を実現する上で重要な役割を果たした。これに変化をもたらしたのは、90年代から顕著になった新興国の工業化だ。
電気機械器具製造業(情報通信機械器具製造業を含む)の11年度の売上高は、90年頃と同じだ。このように売り上げが伸びないことに加え、売上高営業利益率が低下した。60年代までは10%程度の水準だったのに、70年代から低下し、86年度からは3%台を超えることがなくなった。11年度は2.5%だ。この結果、営業利益も急減している。11年度の7400億円は、72年度より少なく、90年度の4分の1でしかない。
本来は、こうした大きな変化に対応して、ビジネスモデルを再構築する必要があった。しかし、05年頃からの円安で利益が復活し、国内工場の建設も進んだ。経済危機で需要が激減したあと、それが重荷になっている。ここ数年の利益の減少で、ビジネスモデルの再構築の機運が生まれていた。株価高騰がそれを阻害しないかと、懸念される。
(週刊東洋経済2013年4月13日号)
野口 悠紀雄
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