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自由化がすべて「善」なわけじゃないんだね。
水道も自由化したらどうなるか・・・
wedgeから
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風力とシェールガスが電力危機の引き金を引くテキサスのアイロニー
2013年03月27日(Wed) 西村 陽 (神戸大学経営学部非常勤講師)
電力市場の規模が全米トップで、かつ天然ガスや風力発電・太陽光発電といったエネルギー資源にも極めて恵まれたテキサス州で、深刻な電力危機が近づいていることはあまり知られていない。輪番停電を経験するほど電力需給が逼迫しているのに、一方で戸建住宅向けに「ナイトフリー(夜間無料)」というメニューが存在するという不思議な事態に陥っている。
独特の電気事業制度を持つテキサス
米国の各州を電力使用量別のトップ10で見ると、テキサス、カリフォルニア、フロリダ、ペンシルバニア、イリノイ、ニューヨーク、ジョージア、オハイオ、アラバマと続く。このうちいわゆる電力自由化州はテキサス、ペンシルバニア、イリノイ、オハイオのみで、電力自由化に失敗したカリフォルニア、マンハッタン以外のニューヨークはじめ過半は総括原価主義による小売独占地域となっている。広い米国の中でもテキサスとペンシルバニアがよく二大電力自由化モデルと言われ、日本でも紹介される由縁である。
テキサスは、米国の中でもまわりの州とあまり連系線を持たず、電気的な独立性が強い上、2000年代当初の制度改革でガス出身の攻撃的プレーヤーであったエンロンが強くかかわったことで、独特の電気事業制度を持っている。
州のすべての電力系統運用は独立系統運用であるERCOT(テキサス電力信頼度協会)が行っており、各電力会社は発電・送配電・小売会社に分社化している。ここまでは米国では珍しくないが、それに加えて全米でテキサスだけが、新規参入者が電源を入手しやすいように電力会社の電源の強制売却や発電能力の入札による新規参入者への引き渡しを行うなど、強力な競争政策を推進した(その結果、後に述べるように電力安定供給の担い手がいなくなってしまった)。
さらに特徴的なのは、電力自由化した他の各州が安定供給の担い手がいなくなってしまうのを防ごうと、新規発電投資に強い補助効果を与える容量メカニズム、例えば発電設備の保有そのものに対する小売事業者からの支払いを制度化しているのに対して、テキサスがこのような制度を持たないことだ。「発電所が足らなくなれば電力スポット価格が高騰して建設インセンティブが働くはずだ」という市場原理主義を信じているのである。
こうした制度改革の結果、安定供給義務を持つ者は制度的にも実質的にもいなくなり、テキサスの供給予備力(ピーク需要に対する発電設備の余裕)は40%強くあったものがあっという間に一桁になった。これは原子力発電所がほとんど停止している今のわが国に近いレベルであり、テキサスは2011年冬、自由化前にはありえなかった輪番停電を経験するに至った。
ガスタービンなくして風力は存在できない
こうした困難に輪をかけているのが、米国最大と適地と言われている風力発電所の急増の問題である。風力発電を系統に優先的に接続した場合、その分他の発電所が電源の組み合わせから弾き出され、運転できなくなる。テキサスの場合、ベース電源から順番に原子力、石炭、ガスタービンという順に積み上げられているので、風力の増加分はガスタービンが運転できなくなることになる。
一方で、風力のような不安定な電源は、電気の安定供給に絶対に必要な周波数調整に慢性的に悪影響を与えている。それをカバーして停電しないように周波数を維持するためには、風力の変動に追いつけるスピートで出力制御できる電源が風力の分だけ必要になる。ハイスピードの制御が可能な揚水発電を多く持つわが国と違い、テキサスの場合ガスタービンが周波数調整電源になる。風力はガスタービンの居場所をなくすが、ガスタービンなくして風力は存在できないという皮肉な現実がここにある。
テキサスの時間帯別電力需給と夜間の周波数調整困難化回避(イメージ)
http://wedge.ismedia.jp/mwimgs/e/c/250/img_ec0464ca58cc040bacc3350c889cbd8d74769.jpg
事態が深刻になるのは夜間の時間帯である。テキサスの風力発電は海と陸の温度の関係で夜間最も出力が大きくなるが、電力需要は通常24時間運転する石炭・原子力に風力を加えてほぼバランスするので、周波数調整に不可欠なガスタービンを運転すれば供給過多になり停電してしまう(図参照)。これがドイツのように他の地域と太く連系している地域であれば、風力の不安定な電気もろとも他国に輸出してしまうという裏技もあるが、系統の独立性が高いテキサスでは使えない。
これに対してERCOTが考えた策は、エネルギー効率から考えると常識外のものである。まず風力は補助金を吐き出させて夜間はリアルタイム市場にマイナス価格で入札させる。すると電気のスポット価格がマイナスになるので、電力会社に深夜電力をタダにするメニューを作らせ、エネルギー効率が悪く、電気を多めに使うヒーター式電気温水器等で深夜負荷を引き上げる。そうすれば夜間負荷が大きくなってガスタービンの運転余地が生まれるのである。実際テキサスの電力会社にメニューをウェブで見ると、戸建住宅限定で「ナイトフリー(夜間は無料)」のメニューを確認することができる。ここまで来ると「何のために風力を入れているのか」という話になる。
電力自由化した州に与える
シェールガスの影響
テキサスでは、この供給予備力に低下と周波数調整予備力の低下という明らかな問題があるにもかかわらず、なかなか市場原理主義的思想から抜けることができずにいる。さらに米国エネルギー価格に大きな下落インパクトを与えるシェールガスも、電力が総括原価・小売独占で営まれている地域では地域の産業競争力を引き上げる強力な武器となるが、電力スポット価格の下落予測によってガスタービンへの新規投資への期待収益を大きく下げるので、電力自由化してしまった州にとってはさらなる供給予備力、周波数調整予備力の不足につながりかねない。
再生可能エネルギーの伸び悩みと巨額なエネルギー輸入に苦しむわが国にとっては羨ましいテキサスの風力とシェールガスだが、一つ組み合わせを間違え、市場システムが悪い方向に作用するとこんな深刻なアイロニーもあるのであり、今後のわが国のエネルギー基盤や市場の使い方を考える際にはこうしたこともしっかり学んでいかなければならないのである。
<参考リンク>
視点・論点「電力自由化のリスク」(NHK)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/128330.html
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