05. 2013年4月03日 01:26:01
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【第3回】 2013年4月3日 佐藤茂 [米系ヘッジファンド オプショントレーダー]イギリス最古の銀行を潰した 「ならず者」のトレーダー 米ヘッジファンド所属の現役オプショントレーダーが、「オプションとは」に始まる基礎理論から、プロトレーダーの視点、そしてVIX先物までを解説する『実務家のためのオプション取引入門』。この連載では本書に収められている14のコラムから5つを紹介する。連載3回目の今日のテーマは、「ならず者のオプション取引」だ。 大きなリスクを未承認で取るローグトレーダー 皆さんはローグトレーダー(Rogue Trader)という言葉をきいたことがあるでしょうか。 直訳すると「ならず者トレーダー」となります。通常、投資銀行やヘッジファンドのトレーダーは、とっているポジションを日々リスクマネジメント部門に報告することが義務づけられています。会社全体の取っているリスクが許容量を超えないように監視するためです。 ところが中には、損失が増え始めると、短期間にそれを取り戻そうとして、会社に未承認で大きなリスクをとるトレーダーがいます。このようなトレーダーを総称してローグトレーダーと言います。 最近では、2008年に発覚したソシエテジェネラルのジェローム・ケルビエル(Jerome Kerviel)や2011年のUBSのクウェク・アドボリ(Kweku Adoboli)が有名です。 ベアリングバンクが倒産 その中でも、最初のローグトレーダー(Original Rogue Trader)と呼ばれるのがニック・リーソン(Nick Leeson)です。 彼は、未承認取引によって14億ドルもの莫大な損失を出し、イギリス最古の銀行であるベアリングバンクを倒産に追いやることになるのですが、当時彼の行っていたトレードの一つが、日経のショートストラドルでした。 ショートストラドルについては7章で詳しく説明しますが、原資産が動かないときに利益を上げる戦略です。 リーソンは当初日経先物を取引していたのですが、含み損を解消しようとして会社に未承認で大きなポジションを取るようになります。 彼は、大阪証券取引所とシンガポールエクスチェンジ(SGX、当時のSimex)の日経先物の価格差を利用して裁定取引を行っていると偽って会社から資金を集めていたのですが、実は大阪でもシンガポールでも大量に日経先物をロングしており、極めて投機的なポジションをとっていました。 先物は、ポジションのリスクに応じた一定額の証拠金を口座に維持することで取引が可能となります。日経が下がり始め、ポジションの含み損が増えていくと、ポジションを維持するためにキャッシュが必要となります。資金繰りに逼迫していた彼は、すぐにキャッシュを得るため、オプションを大量に売ることにします。そこで彼が行ったのがアトザマネーのコールとプットを売るショートストラドルでした。 しかし、1995年1月17日早朝、リーソンそしてベアリングバンクの破綻を決定づける出来事が起こります。 阪神淡路大震災です。日経平均は次の1週間で約8%も下げることになります。先物のロング、ストラドルのショートは言わば最悪のポジションでした。 その1カ月後、彼は「I'm sorry」という置手紙を残して逃走し、フランクフルトで逮捕されることになります。 当時彼は一人で、ノーショナル(想定元本)で約3,500億円分の日経に相当するコール、約3,000億円分に相当するプットをショートしていました。 ノーショナル(Notional)とは、オプションがどの程度の額の原資産に及ぶのかを表したものです。 日経オプションの場合、マルティプライアが1,000ですから、日経平均が10,000円の時、1つのオプションのノーショナルは 10,000×1,000=10,000,000円 となります。 そしてオプションに加えて約7,000億円分の日経先物をロングしていました。また他にも、日本国債先物やユーロ円先物を大量にショートしていたことが分かっています。 当時の状況は、リーソン本人が記した著作や映画『Rogue Trader』に記されています。 劇中に、リーソンが友人たちと女性に向かってお尻を見せたことで警察に逮捕されるシーンがあるのですが、まさにその場にいたリーソンの親友と会って話をしたことがあります。 彼も当時Simexで働いていたのですが、彼によると、リーソンは自身の大量のショートストラドルによって、3カ月物の日経のインプライドボラティリティを14%から8%にまで押し下げたそうです。 日経のオプションをトレードしたことのある方なら、これがどれほど異常な値かお分かりになると思います。 (次回は、4月5日に掲載します) <書籍のご案内> 『実務家のためのオプション取引入門』 〜基本理論と戦略〜
今まで日本になかったオプションの基礎から実践までを網羅した画期的な一冊。個人から金融関係者まで、本格的に学びたい人のために、論理的に明快にオプション取引に必須な知識を紹介します。米系ヘッジファンドの現役トレーダーが、実際に毎日使っている知識や手法を公開。 ご購入はこちらから![Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb][楽天ブックス] ◆目次 1章 オプションとは 2章 プットコールパリティ 3章 オプション価格はどう決まるか 4章 オプション価格計算モデル 5章 ボラティリティとは 6章 ボラティリティサーフィス 7章 スプレッドとは 8章 グリーク 9章 グリークの視点からのスプレッド 10章 コールとプットの等価性 11章 オプションアービトラージ 12章 アメリカン型オプションの早期行使 13章 トレーダーの視点 14章 VIXとは 用語集 正規分布表 索引 http://diamond.jp/articles/print/33600 |