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人口86万人ほどのキプロス(の銀行)救済策が大きな関心を集めてきたが一定の結論に達したようである。
しかし、合意されたはずの救済方式について、ドイツ、イタリアと並ぶ主要ユーロ加盟国であるフランスのオランド大統領とスペインのラホイ首相が、26日のパリでの会談後、高額預金者のみであっても預金者に負担を求めることには反対と表明するなど収まりの悪さを見せている。
ユーロ圏に残ると宣言したキプロスのアナスタシアディス大統領も、昨日(29日)、EUの支援で状況を食い止め国家の破綻が防げたことを認めつつ、「預金者への負担を強制し、キプロスを一種のテストケースにしている」とトロイカ(ECB・IMF・EU支配層)を批判した。
キプロス銀行救済の当初案が今月16日に明らかになった時点でデタラメな救済案の批判投稿をしようと思ったが、あまりに悪質で許し難い内容であるにもかかわらず、それに対する国際主要メディアの批判がない状況に愕然とし、投稿意欲が大きく減退し、事態の推移を眺めるだけにした。
「キプロス処分」に関する当初案などへの批判は後ろにまわし、最終合意と最新情報について先に触れていきたい。
■ 「キプロス銀行救済」最終合意の概要
合意に達したとされる救済策は、ECBが100億ユーロを融資する条件としてキプロス政府に求めていた58億ユーロの確保を、「預金課税」方式ではなく、高額預金者の預金一部カットと株式化で実現するというものである。
キプロス政府が58億ユーロを徴収し銀行の資本増強に投入するのではなく、58億ユーロを投入しなくても済むよう、高額預金者の預金カットで銀行債務を減らし、預金をカットされる高額預金者には株式で補償する方法を選んだわけだ。
このような合意に至った結果、当然のことだが、10万ユーロまでの預金は保護される。(ただし、それが預金保険基金により賄われるかどうかは不明)
※ ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のオランダ財務相ダイセルブルーム議長は、キプロスの銀行救済で、高額預金者の他、債務履行の優先度が高いシニア債保有者をはじめとする債権者や株主も損失を負担すると述べているが、彼は、今回のキプロス方式が今後の銀行救済の先例となると語ってきたように、「衝撃と畏怖作戦」の先鋒という役回りを演じていると思われるので、実際にどうなのかは終わってみなければわからない。
高額預金者に対する強制的な「債務と株式の交換」とともに、首位のキプロス銀行を縮小して存続させ、第二位のライキ銀行を清算・閉鎖し、その優良資産と残った預金債務をキプロス銀行に譲渡するかたちの再編も行われる。
これにより、観光と並んでプロスの主要な経済基盤である銀行業は著しく縮小し、資金(預金や債券販売)もだが、従業員の多くが職を失うことになるだろう。なお、再編後も存続するキプロス銀行は、今後は大きく薄まるが、ロシア・オルガルヒの一人であるドミトリー・リボロフレフ氏が株式の10%を所有しているとされる。
いずれにせよ、キプロスの銀行は、ロシア資金の“避寒地”というポジションを失うことになる。そして、これまでキプロスの銀行が占めていたポジションを狙って、欧州の銀行がしのぎを削ることになるだろう。
最終合意により、10万ユーロ以内の預金に対し6.75%、10万ユーロ超の預金に対し9.9%という当初の衝撃的な「預金課税」案は消え、高額預金者の負担(預金の株式化率)が、清算の内容次第で、20〜50%になると予測されている。
10万ユーロ超の預金総額が少なければ、高額預金者に強いられる負担率はより大きくなる。
結局のところ、高額預金者にとって、当初案の10万ユーロ以上9.9%の課徴金のほうが、回収できる預金額がずっと大きかったという散々たる結末になったわけである。
将来のいつか、強制的に交換させられた株式が売却できたり配当を貰ったりできるようになる可能性もあるが、今のところ、そうなる見通しはまったくないと言われている。
※ 第二位のライキ銀行の高額預金者が42億ユーロ程度を負担するという話も出ている。それがほんとなら、奇妙な話だが、首位のキプロス銀行の大口預金者は16億ユーロほどしか負担しないで済むことになる。このように、大枠の話は見えているが、具体的実施内容はまるで藪の中である。
キプロスの銀行救済をめぐる最終合意が実施に移されると、リーマン・ショックを契機として08年から続いているユーロ圏金融危機のなかで、ギリシャ系の二つの国家のみが、管理された国債デフォルト処理や預金者に負担を強いる銀行破綻処理という国民に過酷な生活を強いることになる二つの激越な処分が適用されたことになる。
銀行救済は、今回のキプロスが初めてではなく、ギリシャ・アイルランド・ポルトガル・スペインで実施されており、政府が財政緊縮を強いられているが、預金者が負担を強いられる事態にはなっていない。ギリシャとキプロスは、極めて差別的で不当な扱いを受けたのである。
ギリシャ国民があれほどの仕打ちを受けても、ユーロからの離脱を選択しなかったのだから、ギリシャの一部とも目されているキプロスが、今回のような処分を受けることは避けられなかったのかもしれない。
マスメディアの報道を見聞きした人々のなかには、ギリシャ系国家に降りかかった悲劇を、ギリシャは債務状況を偽ってユーロに加盟した罪、キプロスはロシア富豪に“金融避寒地”与えた罪のせいと考えている人もいるようである。
しかし、「ギリシャ危機」をもたらした元凶たちが今どのような地位にいるのか、そして、預金が封鎖されていると思われてきたこの間においてさえキプロスの銀行から膨大な預金が流出した事実を考えたとき、キプロス国民は、その歴史性を背景として、人口86万人、EUに占めるGDP0.2%という数的劣位のせいで、国際金融家の「衝撃と畏怖作戦」の生け贄に捧げられたと言ったほうが的確であろう。
自らの罪は一顧だにせず、恥という言葉なぞ辞書にはないとばかりに利益極大化に走る国際金融家とその代弁者であるユーロ圏支配層は、ギリシャとキプロスを使って、金融危機の状況においては、経済構造や国民生活を根底から揺さぶる苛烈な対応策もあることを加盟諸国の政府と国民に示したのである。
(むろん、「キプロス処分」の渦中でも、結末がわかっている彼らは、様々な取引を駆使して膨大な利益を上げたはずである)
■ 「預金封鎖」もなんのその、キプロスの銀行から逃げおおせた“大物”の資金
これから徐々に明らかになっていくとは思うが、ロシアのオルガルヒを含む“大物”の預金は、口座が封鎖ないし管理されていた騒動のなかで、うまく逃げ出したようである。
なぜなら、キプロスのアナスタシアディス大統領が救済方式の最終合意について語るなかで出てきた高額預金者の20から50%という負担率や、各国主要メディアが報じた30〜40%という高額預金者の負担率はひどく“過大”と思われるからである。
※ 今朝(30日)NHKBS1で放送された英国「BBCニュース」は、確認は取れていないがと断りを入れながら、高額預金者の預金カット率が37.5%になると報じていた。
当初案が報じられた16日時点から、どの層の負担が大きいのかといった計算をしていて、当初案ベースの預金総額で高額預金者のみに負担を求めるのなら、20%程度の負担になると予測していた。
当初案は、総額700億ユーロとされる預金に対し、6.75%(10万ユーロ以内)と9.9%(10万ユーロ超)の課税を行って、58億ユーロを手に入れるというものである。
700億ユーロに8.3%を乗じたら、だいたい58億ユーロになる。
預金の構成が10万ユーロ超と10万ユーロ以内で半々のそれぞれが350億ユーロと想定すると、350×9.9%+350×6.75%=58億ユーロとなる。
最終合意案も、10万ユーロ超の預金に対してのみ負担を求めて58億ユーロを手に入れるというものだから、総額が350億ユーロであれば、負担率は16.6%になるはずである。
ところが、報じられている毀損(負担)率は30〜40%である。それらの乗率で58億ユーロになるというのなら、10万ユーロ超の預金総額は、145億ユーロ〜167億ユーロしかないことになる。「BBCニュース」が報じた37.5%なら、155億ユーロほどとなる。
このことから、16日時点の預金総額が700億ユーロだったとすると、16日から26日のあいだに、“封鎖”されているはずのキプロスの銀行口座から、200億ユーロを超える預金が流出した可能性を指摘できる。
※ 報じられてきたロシア富豪のキプロスでの預金規模(350億ユーロ)は、数年前のデータで、銀行救済案が出た時点では既に大きく減少していた可能性が高いと思っている。ソ連時代からの欧州人の“ロシア嫌い”をベースに、ロシア富豪が絡んでいるのなら、キプロスへの苛烈な処分も仕方がないと思わせるために利用されたのかもしれない。
このようなことを書きためていたら、26日朝NHKBS1で放送されたドイツ「ZDFニュース」が、キプロス問題を扱ったコーナーのなかでごく短く、キプロス国外でキプロスの銀行口座から預金が流出した可能性があり、アナスタシアディス大統領が調査すると語ったことを伝えた。
また、28日朝にNHKBS1で放送されたロシア「RTRニュース」は、「ZDFニュース」と同じネタ(キプロスの新聞記事)を使って、キプロスの銀行のギリシャ・ロシア・東欧諸国の支店から預金封鎖中に数十億ユーロが引き出されたと具体的な流出額まで報じた。
さらに、30日朝放送されたロシア「RTRニュース」は、キプロスの銀行が役人・実業家・俳優など一部の債務を免除していたことがわかり国民から非難の声が上がっていることを伝えるとともに、ラトビアの銀行ABLVの副頭取にインタビューし、ABLVが、キプロス騒動の渦中で逃避してくる資金を受け容れるため、夜間も休日も動いたという話を引き出していた。
※ ラトビアの銀行がキプロスにあったロシア資金の避難先になっていることについて、通信社は、それに不快感を示したECBが、「ラトビアの友人たちには、ユーロ圏に加わりたいのなら、キプロスから流出するロシアの資金に逃げ出す場を与えてはならないと明確に伝えている」と語ったという。そして、ラトビアの首相は、そのような見方に憤慨し、ドイツの新聞「DIE WELT」紙のインタビューに答え、「我が国がキプロスに代わるロシア資金の受け入れ先になることはない」と語ったという。
キプロス騒動前の時点で、ラトビアの銀行の預金は、その半分30億ユーロが非居住者で、多くがロシア人のものだという。
ラトビアの金融アナリストは、「ロシアの資金がラトビアの銀行に流れ込んでいるなどという噂は、ラトビアと競合するライバルが流しているか、政治的な意図や悪意でつくり出されたものと語った。RTRの記者は、最後に、「事実、ロンドンも、スイスも、ルクセンブルクもロシア資金の獲得をめざしている。キプロスは、ロシア資金の逃避を防ごうとやっきになっている。ロシア資金の獲得は、欧州の銀行もめざすところのものであり、資金の獲得競争は激しさを増している」と締めくくっていた。
キプロス騒動のあいだロシア「RTRニュース」を見てきたが、トーンの変化に引っかかりを感じていた。
当初は強い口調で「キプロス救済」案を非難していたロシアのメディアやプーチン−メドベージェフ政権が、キプロス財務相やバローゾEU委員長との会談以降、非難のトーンを穏やかなものに変えたからである。
内実はともかく、キプロス騒動の渦中にキプロスの銀行から預金が逃げ出すことが起きる可能性は、16日の時点から見えていた。
というのは、財務状況を悪化させた銀行の経営が問題になっているのに、預金課税(カット)の対象は、キプロス国内で開設された口座に限定され、ロンドンなどキプロスの外にある支店では、“通常通り”預金の引き出しができていることをBBCが報じていたからである。
ロシアの富裕層などが、キプロスの銀行をタックスヘイブンやマネーロンダリングで利用してきたとしても、口座をキプロス外の支店で開いていたり、複数の口座を使って資金を移動させたりしている可能性もある。
キプロス国内で開設した口座からは海外での支店で引き出しはできない制限が行われていたとしても、海外で開設した口座であれば、その制限に抵触しない。
同じキプロスの銀行でも、海外の支店でつくられた口座にある預金は“お構いなし”で、キプロス国内でつくられた口座の預金のみが封鎖や負担の対象という扱いは、公平や正義に反するのみでなく、トロイカが、誰かのためにわざわざ“逃げ道”を用意したようなものである。
※ EU主要国は、自国民に犠牲を強いることはできないからと言い訳をするかもしれないが、そのような言い訳は、キプロス国民をないがしろにしていると宣言するようなものである。
キプロスの銀行にはかつて欧州の法人や個人の口座も数多くあったが、金融危機が顕在化した10年頃から預金の引き揚げが始まり、現在はほとんど残っていないという。
ロシア・オルガルヒの主要構成者はユダヤ系ロシア人である。そういう彼らが、自分の膨大な資金を、とられてしまう可能性もある瀬戸際まで、のほほんとキプロスの銀行に置いたままにしていたということ自体が信じられない話なのだが、彼らと国際金融家との関係を考えれば、土壇場でも何とか逃げおおせるはずである。
15日のEU財務相会議の前に、ECBで素案ができていたはずだから、ECB幹部とつながりがあるロシア富豪なら、預金の封鎖が行われる前に、ネット操作によってでも、別の安全な銀行の口座に預金を移すことができたはずだ。
阿修羅の経済板にも転載されたロイターのコラムニストは、「キプロスの預金課税が正しい理由」なる論考を寄せ、その理由として、オルガルヒを中心としたロシアとキプロスの金融的つながりやキプロスのタックスヘイブンを指摘している。
※ 参考記事
「コラム:キプロスの預金課税が正しい理由----(ロイター)(転載者注:それはタックスヘイブンを巡る争いか?)」
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/399.html
西側世界の“ロシア嫌い”が、トロイカ(EU・ECB・IMF)の不埒極まる救済策をもっともらしく感じさせている面もあるが、ソ連崩壊後のロシアで経済的権益を握っているのは、ユダヤ系のオルガルヒであり、国際金融家グループとは密接なつながりをもっている。
ロシアという国とそこで経済的権益を握っている人々は一体ではない。
キプロス騒動で影が薄くなったが、先週22日、ロスネチフがBP系ロシア石油大手TNK―BPを買収した。TNK―BPは、ロシアとウクライナで広範囲に原油と天然ガスの採掘権を保有している。買収の一部は株式でも賄われているので、BPは、ロスネチフの株式のおよそ20%保有する大株主になった。
キプロス騒動でも話題になったが、キプロスの排他的経済水域の海底には膨大な量の原油と天然ガスが眠っているとされる。キプロスは、1960年まで英国が支配していた。ロシアとキプロスの濃密な関係は、今回の騒動でも話題の中心になった。
キプロスが経済的苦境から脱する道の一つが、海底資源の開発であることは間違いないだろう。
[参考]
■ キプロスのポジショニング
地中海東部に浮かぶ小さなキプロス島の南側を実効支配する国家で、我々世代にとっては、ギリシャ系住民と島の北側を支配するトルコ系住民が統治権を争っている「キプロス紛争」に馴染みがある。
この「キプロス紛争」自体が、ギリシャ本土を含む東地中海地域の複雑な歴史過程に由来する。
オスマントルコは、15世紀後半、ギリシャの地にあった東ローマ帝国を滅ぼし、16世紀後半にはキプロスも支配下に置いた。その後、英国が、19世紀後半の露土戦争後にオスマントルコからキプロスの統治権を獲得し、オスマントルコが滅亡する契機となった第一次世界大戦後に正式に併合した。
第二次世界大戦後、ギリシャ併合派とトルコ併合派による反英運動が高まり、1960年に独立を果たした。ギリシャ系住民が8割近くを占め圧倒的多数派である。
独立後すぐ64年にギリシャ併合派とトルコ併合派の争いが激しくなり、1974年、ギリシャ併合派によるクーデターをきっかけとしてトルコ軍が軍事介入し、北キプロスを占領した。それに伴い、トルコ占領地域にトルコ系住民の大半が、非占領地域にギリシャ系住民の大半が流入するかたちで民族的分離が起きた。
少数派のトルコ系領域は、キプロス共和国との連邦制による再統合を望んでいるが、キプロス共和国は、EU加盟時に、トルコ系住民の意向をより汲んだUNの調停案を拒否した。
また、英国は、キプロスの独立を認める引き換えに、キプロスにあった軍事基地を英国領として切り離す協定を締結し、現在なお、100km2の土地を領有している。
このため、今回の銀行危機騒動でも、英国政府は、3000人とされる駐留軍兵士のお金を融通するため100万ユーロの現金を輸送した。(軍事基地ということもあり、キプロスの英国領ではポンドではなくユーロが通貨となっている)
キプロスは、04年にEUに加盟し通貨ユーロも導入したが、その背景には、東方拡張を狙うEU主流派とキプロスをEUに加盟させたいギリシャの駆け引きがあり、ギリシャがキプロス加盟を認めなければ東欧諸国の新規加盟を拒否する姿勢を見せるという事態があった。
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