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2013年03月28日 東洋経済オンライン 原田 武夫:原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)代表取締役
「アベノミクス」で日本は復活する。少々のリスクが顕在化しても、金融緩和で乗り切れる――。いまの日本のマーケットには、そんな漠然とした楽観論が横溢している。原田武夫氏(元外務省出身、原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)代表取締役)は、そうした楽観にクギを差し、「複合リスク」の同時炸裂を警戒せよ、と説く。これは何を意味するのか。今回から3回にわたり、原田氏のコラムを掲載する。企業経営者も、相場関係者も、ぜひともお読みいただきたい。
先日、マーケットの最前線で活躍する盟友と酒を酌み交わす機会があった。いわゆるアセットマネジメントの世界では、わが国において知らぬ者はいない人物である。しかし決してメディアという意味での「表の世界」に出て来ることはない。そうした人物たちのことを、私はマーケットの猛者と呼んでいる。その猛者の典型のような人物がこの盟友なのである。
■マーケットの猛者も「日本の独り勝ち」というが…
マーケットの猛者と一般人をくっきりと分けることはただひとつ。前者はたぐいまれなリスク感覚を持っているということである。普通ならば思いもつかない「世界の裏の裏」まで考え抜いたうえで、ポジションをつくり上げている姿を見るたびに、目が覚めるような思いがする。
彼は、実に用心深い。ありとあらゆる可能性・リスクを織り込んだうえで、「今この瞬間」における最善の抜け道を考え出す。言葉を交わすたびに、教えられることしきりなのである。
ところが今回だけは違った。「円安・日本株高」をもたらしたアベノミクスに対する見方があまりにも緩かったのである。むろんリスク分析をしていなかったわけではない。だが彼いわく、あらゆるリスクを踏まえたうえであっても、「日本独り勝ち」は間違いないのだという。
■単独のリスクが順番に炸裂するとは限らない
「1ドル=120円くらいまではまったく問題なく、円安になるのではないか」とまで聞いた。
いつになく緩い見通しを語るこのマーケットの猛者である盟友の言葉を聞いて、私は正直、背筋が寒くなった。「このレヴェル」のリスク感覚を持った人たちであっても、あまりにも無防備であることが明らかになったからだ。彼が言うとおり、確かに個別のリスクについてはそれが何とか収束するような可能性を考えることは十分可能だ。それでもなお私は「しかし・・・」と食い下がってこう言ったのである。
「単独のリスクが順番に炸裂するだけなら、出遅れた量的緩和・金融緩和の影響で円安へと誘導され、日本株は高騰し続けるでしょう。ただ、リスクが単独・個別にではなく、何らかの理由で一斉かつ連鎖的に炸裂したらどうでしょうか」
これを聞いたマーケットの猛者である盟友は大きくうなずいた。「なるほど、それは確かに別の話だ。ありとあらゆるリスクが同時に炸裂するようなことがあれば、今やコンピューターのアルゴリズムによって取引されている金融マーケットは大混乱に陥るはず。なぜならばそうした取引システムの上で多くのリスクは個別に観念・管理されているからだ。これに対して、同時にリスク炸裂となるのはまさに想定外なのであって、コンピュータそのものが判断停止となる危険性が高いと思う」
たとえば2月24、25日に実施されたイタリアの国政選挙。この選挙において、それまで強烈な緊縮財政策を推し進めてきたモンティ前首相を支持する勢力は惨敗した。その結果、「イタリアは再び放漫財政路線に回帰するのでは」との憶測が乱れ飛び、ユーロの対円レートは急落。そのあおりを受けて1ドル=94円台だった為替は、一瞬「90円台」をマークするまでの急激な円高となったのである。これを受けて日本株も崩落したものの、まなく上昇基調に回帰し、円ドルレートも1ドル=96円台に程なくして戻ったのである。
確かにこうした直近の事例を見る限り、しばしば大声で語られる「マーケットのリスク要因」なるものの影響力は、それほどでもないような気がしてきてしまうのである。そして一つひとつのそうしたリスクがやがて炸裂するにしても、総じて言えるのは「わが国が遅ればせながら始めることとした量的緩和による円安誘導と株高進行は続くはず」という楽観論が横行してしまっているのだ。
■複合リスクの同時炸裂を警戒せよ
だが果たしてそのように油断し、弛緩したままでよいのであろうか。この問いに対する私の答えは断じて「否」だ。その理由はただ一つ。今、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢の中で注目されている複数のリスクが明らかに互いに結びついているからである。
そしてその密接なつながりを前提とすれば、これら複数のリスクは個別に炸裂すると考えるべきではないのであって、むしろ複合的かつ同時多発的に炸裂すると考えるべきなのである。そう、「複合リスクの同時炸裂」こそ、いま最も警戒すべきことなのだ。
例えばイタリア・ローマの街中にあるヴァチカン。そこで君臨するローマ法王にアルゼンチン生まれのフランチェスコ1世が選ばれたことは記憶に新しい。そのフランチェスコ1世の下を3月18日にキルチュネル・アルゼンチン大統領が訪問。祝辞を述べるだけかと思いきや、イギリスとの間でにわかに緊張が高まっているフォークランド(マルヴィナス)諸島の領有権をめぐる紛争に対して「神聖なる介入(holy intervention)」をお願いしたいと述べたのである。これに対してイギリスは敏感に反応した。「ヴァチカンに頼むのはお門違いも甚だしい」との声明を発表したのである。
そのイギリスでは実質賃金の減少に歯止めがかからない一方で、消費者物価指数は上昇し続けている。キャメロン政権は「経済失政」という謗りを受けて、明らかに右往左往し始めている。一方、「国内景気が悪くなり、失政批判が出始めた時、対外戦争を突如起こして軍需を増やし、批判をそらそうとする」のが欧米における近現代史の常である。このまま事態が悪化するならば、キャメロン政権がまさかの「第2次フォークランド紛争」を始めないとも限らないのである。
対するアルゼンチンも状況は同じである。2002年にデフォルト(債務不履行)となった同国債の償還額をめぐり、ヘッジファンドが提訴したニューヨークでの訴訟の行方いかんでは、キルチュネル政権は巨額の債務の一括返済を求められ、破産せざるを得なくなる危険性が高い。
■強烈な円の反転上昇リスクの可能性を認識せよ
そうなった場合、このリスク炸裂は一方においてイタリアへ、他方ではアメリカへと飛び火していくことになる。なぜならば前述の「デフォルト」となったアルゼンチン国債の多くを依然として抱えているのはイタリアであると考えられるからであり、同時にアルゼンチンに大量の直接投資をしてきたのはアメリカだからだ。
米欧の結節点とでもいうべきアルゼンチンの抱えるリスクが炸裂することにより、イタリアとアメリカからの資本の逃避が始まることとなる。ユーロ米ドルは共に暴落し、強烈な円高が到来する。
ここで仮に中東における地政学リスクが相前後して崩落したらどうなるか。たとえばシリアのアサド政権が保有していたはずの大量の化学兵器は、レバノンに展開するイスラム系武装組織「ヒズボラ」の手にわたっていることを、5日に行われた国防相会談でアメリカはイスラエルに伝達したとされる。化学兵器の使用を恐れるイスラエルが先制攻撃に出た場合、「ヒズボラ」を支持するイラン・シリアとの間で全面対決となるはずだ。やがてそれは中東全域を巻き込む戦いへと発展し、「中東大戦争」の中、原油価格は急騰するのである。
「ユーロ崩落・ドル暴落のダブルショックによる円急騰」と「原油価格の急騰」で日本株マーケットは間違いなく大暴落となる。その一方で「核兵器」をめぐるアメリカとの交渉を有利に進めたい北朝鮮が「核弾頭を搭載した長距離弾道ミサイルの発射」を同時にちらつかせ始めるならば、こうした暴落に一層の拍車がかかっていくことになる。シリアと北朝鮮は無二の友好国だ。北朝鮮はこの意味で「最も都合の良いタイミング」を選んで動くはずなのである。
ほかにも、同時連鎖して炸裂する危険性の高いリスクは多々あるが、このへんで止めておく。だが大事なことは、仮にそう遠くない将来にこうした複合的かつ同時多発的なリスク炸裂となった場合、安倍晋三政権は間違いなくさらなる量的緩和・金融緩和へと踏み出すということなのである。世界中のリスク炸裂を受けて、むろん「円急伸・日本株暴落」となる。だが、その後どうなるのかといえば程なくして日本マーケットは復活し、むしろ「日本バブル」として、その後に名を残すほどの歴史的な高騰局面が見られるはずなのである。複合的かつ同時多発的なリスクの炸裂という、コンピュータ上のアルゴリズムにとっては想定外の事態に見舞われ、巨額の損失を被ったマーケットの猛者たちは、今度は一転して再起動となるこの第二の平成バブルを、よってたかって押し上げていくことになる―――。
その意味で、いまもっとも警戒すべきなのは、一見すると互いに無関係のように見えるリスクとリスクの網の目を見出し、その同時炸裂に備えることなのである。むろんこれにはアメリカ航空宇宙局(NASA)がかねてより警告してきた今年5月ごろに想定される「太陽嵐」の発生といった天変地異の到来も含まれて来る。
いやもっと正確に言えば、そうした人智を超えた事態が発生するからこそ、それまで保たれてきた微妙なバランスが崩され、それまで貯まってきたマグマが同時多発的に噴出し始める可能性があるのだ。まさにその意味で「想定外を想定すること」。これこそが、私たち全員にとっていま最も重要なことなのであって、事態はもはや、やれ株高だ、円安だと騒いでいるどころの場合ではないのである。リフレ派たちが叫ぶ陽気で無邪気な「アベノミクス」論に迎合している暇など、まったくもってないのだ。
もっとも「複合リスク」やその「同時炸裂」といわれても、一体どこから手をつけたら良いのかわからないという読者も多いのではないかと思う。それもそのはず、学校教育では言うに及ばず、企業内教育でもこうした連なりを考えるための訓練を、私たち日本人が学ぶことはないからだ。
そこで4月4日に上梓する拙著『「日本バブル」の正体〜なぜ世界のマネーは日本に向かうのか』(東洋経済新報社)ではこのことに焦点を当て、マーケットを中心とした我が国と世界の“今”と“これから”について活写してみた。これをお読みいただければこれまで知らなかったことも含め、「点」と「点」の情報が「線=シナリオ」となり、しかもそれが相互に複雑な形で絡み合っていることを容易に理解できるのではないかと思う。是非ご一読いただきたい。
(撮影:尾形 文繁)
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