15. 2013年3月26日 03:55:23
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【第269回】 2013年3月26日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長] 話題を呼ぶ米「ミシュキン論文」 白川前総裁も強調した財政従属 「フィスカル・ドミナンス」(財政による支配)と超金融緩和策の関係に関する議論が海外のエコノミストの間で活発になっている。白川方明・前日銀総裁も退任前の講演などで何度も言及していた。3月19日の退任記者会見でも、財政規律と通貨の信認の重要性について白川氏は語っていた。 2月22日にニューヨークで開かれた「US金融政策フォーラム」で発表されたF・S・ミシュキン(コロンビア大学、元FRB理事)、J・D・ハミルトン(カリフォルニア大学サンディエゴ校)らによる論文は大きな話題を呼んだ。過去の20の先進国の政府債務状況を分析した結果、政府・議会が財政健全化に向かって適切に対処しているときは、金融緩和策はその動きに貢献する。しかし、逆の場合は、金融政策は財政政策に支配されてしまう。 特に、政府債務がGDP比で80%を上回り、かつ経常赤字の国は、その危険性が高い。彼らは議会が機能していない米国の場合、今後、財政の悪化を制御できない事態が訪れる恐れがあると心配している。財政赤字の維持可能性が市場から疑われ始めたときに、FRBの資産が膨張していると問題はより深刻である。 FRBは市場からいわゆる“QE”(量的緩和策)で購入した巨額の長期証券を持っている。ただでさえそれは景気回復局面で大きな損失を発生させ得るのに、財政懸念から米国債のリスクプレミアムが跳ね上がって価格が急落したら、FRBのバランスシートに凄まじい損失が生じる。「FRBは大丈夫か?」という話が市場で広まると、米国債のリスクプレミアムはさらに大きくなり、恐ろしい悪循環が起きることになる。 また、超金融緩和策の弊害・リスクを警告し続けている元BIS(国際決済銀行)のW・ホワイトは、中央銀行の国債購入の危険性を指摘している。政治サイドが中銀の国債買いオペによる長期金利低下に甘えて経済・財政の改革を遅らせると、かえって事態は深刻化する恐れがある。日米でそれは既にある程度起きてきた。 黒田東彦総裁が率いる日銀新体制は、長期の国債を大規模に購入していく模様だ。白川体制下でも日銀は政府の年間の新規国債発行額に匹敵する額の国債を市場から購入していた。それをさらに上回る勢いで日銀が国債を購入し続け、かつ「日銀券ルール」(日銀が保有する国債は日銀券発行額以内とすると定めた“内規”)が完全に捨て去られる場合、将来の日本で「フィスカル・ドミナンス」が顕在化することはないか注意して見ていく必要がある。 (東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出) http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130313/244948/?ST=print 社長だって仕事に行きたくない最終回 自分へのご褒美があれば頑張れる 2013年3月26日(火) 小山 昇 カリスマ社長、小山昇氏が新入・若手社員にアドバイスをする連載も今回が最終回。第1回は「失敗することの重要性」を、第2回では「数字にこだわることの大切さ」を説いた。 およそ仕事とは、おおむねつらくてしんどいものです。 趣味に没頭しているうちに、それが仕事になった人をニュース記事などで見ることがありますね。あなたはそれを「好きなことをやって生活できるなんてうらやましい」と思うでしょう。 「明日仕事に行きたくないと思うこともある」という小山昇氏(写真:陶山勉) しかし、マスコミが伝えているのはあくまでも一側面に過ぎません。実際に本人に会って話を聞いてごらんなさい。いくら趣味の延長線上で仕事をしているといっても、必ず何らかの悩みや苦しみを抱えていますから。
楽な仕事、苦労せずにできる仕事なんてものは、この世には存在しません。「ユートピア」という言葉は「理想郷」という意味のほかに、「どこにも存在しない場所」というニュアンスを強く含んでいると聞きます。あなたがストレスのない職場を望んでいるとすれば、まさにそれこそユートピア幻想です。 社長だって仕事に行きたくない 第一、私だって65歳になってもなお、寝床に就く前には「明日は仕事をしたくないな」と思います。朝起きても「今日はかったるい」と思います。皆さんと同じ年の頃は、午前と午後で1回は仕事をしたくないと思いました。時には、1日に5回に及ぶこともありました。 年間ざっと300日は働いており、しかもそれをかれこれ10年余り続けた。実に1万5000回以上も「仕事に行きたくない」と思っている計算になります。と、前回述べた「数字で考える」を身をもって示してみたわけですが、こうしてみると改めてびっくりしますね。自分で言うのもなんですが、その後、考え方を変えたので、昔と比べれば仕事をしたくないという気持ちは減りました。 でも社長の私ですらそんな具合なのだから、社会に出て日が浅いあなたが、仕事がつらい、もう嫌だと思うのは当然のことではあります。あるのですが、しかし私とあなたとでは、決定的に違う点が1つあります。 私は「仕事とは基本的にしんどいものだ」という事実を、全面的に受け入れている。だからつらいと感じても「自分で決めたこと」だと思って、毎日仕事に向かうことができる。あなたは逆に、その事実を受け入れていない(あるいは部分的にしか受け入れていない)。だから嫌だの辞めたいだのとネガティブな感情にとらわれるのです。 同期や友人と飲んでうっぷんを晴らせ ここで私があなたに示せる処方箋は2つあります。 1つは、同期の友人と酒でも飲むことです。あなたの会社でも、「同期会」とか称して定期的な飲み会をやっているでしょう。そういう場で「お前のとこは最近どうよ?」と聞いてごらんなさい。もしかしたら、彼はあなたよりもしんどい環境で苦労しているかもしれませんよ。 そうであれば、あなたは居ずまいを正さねばなりません。あるいは彼は、あなたより多少は恵まれた状況で働いているかもしれません。それなら、どうしたら彼のようなポジションが獲得できるのか考えてみてください。 仕事に不平不満を持つのは、多くの場合で視野狭窄(きょうさく)に陥っているからです。自分だけが苦しんでいると錯覚したり、ほかの部署やほかの会社に幻想を抱いたりするのは、そのためです。 それを解消するには、同じような立場にある人の声を聞くのが一番です。別に会社の同期でなくてもかまいません。学生時代の友人と飲み、語るでも大いに結構。うっぷんは、それを人に話すだけでもずいぶん軽くなるものです。 自分へのご褒美を設定しよう もう1つの、そしてより有効な処方箋は、常に短期的な目標(あるいは自分へのご褒美)を設定することです。 例えば「次のボーナスは新車の頭金につぎこもう」とか、「給料が出たら恋人とちょっと豪華なディナーにでも行こう」とか。もちろん「来年はチーフくらいにはなりたいな」でもかまいませんよ。嫌だと思っている仕事でも、出世して相応の待遇と権限が与えられるようになれば、それなりにやりがいも持てるようになってくるものですからね。 あなたが受験生だったころのことを思い出してください。第一志望は○○大学だ。模試の結果は合格率50%、B判定。やや危ういと見るべき状態です。あなたはそれで諦めてしまいましたか? 諦めませんでしたよね。なんとか入試当日まで少しでも学力を高めておこうと一所懸命に勉強したはずです。 それは「○○大学に入りたい」という具体的で明確な目標があったからです。だから努力できた。もしかしたら健闘及ばず、滑り止めの大学に入ることになったかもしれません。しかし、それでも第一志望の大学に合格したいと思って努力したことは、あなたにとって大きな財産になっているはずですし、そのつもりでがんばったからこそ、滑り止めの大学にはきちんと合格できたのです。 そういえば以前、こんな話を聞いたことがあります。場所はどこかの独裁国家の思想矯正所。そこに収監されている政治犯に100本の杭を示し、「これを全部地面に打ちつけろ」と命令する。それが終わると「では杭を全部抜け」。そしてまた別のところに打ちつけろという。 これを繰り返すと、どんなに体を痛めつけられても屈しなかった百戦錬磨のパルチザンも、ついには発狂してしまうのだとか。人間は、自分の行為に目標や目的(あるいは「意味」といってもいいでしょう)がないと耐えられない生き物なのだというエピソードです。 仕事もそれと同じです。あなたが仕事はつまらない、楽しくないと感じるのは、具体的な目標を持っていないからです。目標といっても大したものでなくてもかまいません。前述したように意中の人をデートに誘うとか、趣味に散財するといったことでいい。そういう短期的な目標を常に持つことです。そうすれば、仕事にも少しずつ意義や意味が見出せるようになってきます。 先ほど「およそ仕事はどのようなものであっても、おおむねつらくてしんどいもの」だと言いました。大きく言えば確かにそうですが、心掛け次第では、そんな仕事の中にも楽しさややりがいをいくつも見出すことができます。あなたはまだそれを見つけていないだけなのです。 高杉晋作だって同じことを言っている 私は断言しておきますが、これからあなたが社会人として成長していく過程においては、これまで出会ったつらいことなど目じゃないというほど不条理な目に遭います。お客様には無理難題を吹っかけられ、嫌な上司や先輩には無茶振りをされ、手柄は持っていかれ、逆に責任は押しつけられ…。それはもう踏んだり蹴ったりの、文字通りのサンドバッグ状態になることもあるでしょう。 私はそういう世の中が正しいとは必ずしも思いませんが、現実として確かにそういうことは起きる。そこで腐ってダメになるか、「これも成長のための試練だ」と自分を奮い立たせ、ファイティングポーズを保ち続けるのか。それによって、あなたの将来は大きく違ってきます。 幕末に長州藩の志士・高杉晋作は「おもしろきこともなき世をおもしろく」と辞世の句を詠みました。有名な句ですから、あなたもどこかで目にしたことがあるかもしれません。この句には(本人が詠んだかどうか分かりませんが)続きがあり、「住みなすものは心なりけり」と結ばれています。 面白くない会社を面白く、楽しくもない仕事を楽しくするのは、ひとえにあなた自身の心掛けにかかっているということです。 (この記事は日経BP社刊『会社脳の鍛え方』を基に再構成しました。構成担当:吉岡陽) 新人・若手とその指導者、必読! ! 『会社脳の鍛え方』 できる社員になるために、20代で身につけておくべき仕事の作法を武蔵野の小山昇社長が語り尽くす。『会社脳の鍛え方』を発売しました。
「こんなはずじゃ・・・」「もう辞めたい・・・」と悩む若手社員にこそ聞いてほしい、仕事を面白くし、人生にもやりがいが持てるようになるためのヒントをお届けします。 また、日経BP社ではこの書籍の発行を記念し、新入・若手社員向けのセミナーを開催いたします。詳しくはこちらをご覧ください。 小山 昇(こやま・のぼる) 株式会社武蔵野・社長 1948年山梨県生まれ。89年にダスキンの加盟店業務を手掛ける武蔵野の社長に就任。経営改革のノウハウを生かし、現在500社余りに経営を指導。その多くが過去最高益を達成しており、倒産はゼロ。現実に即し、人間の本性をとらえた組織作りの手法が高く評価されている。経営者向け月刊誌「日経トップリーダー」にて、「小山 昇のこれができなきゃ社長失格!」を好評連載中。 小山昇の 「20代で身に付けるべき“仕事の超基本”」
新人・若手の社員は、仕事とどう向き合ったらよいのか。あまりにも基本的で、だからこそ上司も先輩も教えてくれない。そんな「仕事の超基本」を、多くの企業の経営を指導し建て直してきたカリスマ経営者、武蔵野の小山昇社長が語ります。「会社って何だろう?」「仕事をするってどういうこと?」そんな素朴な疑問に、真面目に、面白おかしく答え、ちょっと元気をもらえるコラムです。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130314/245052/?ST=print 【前編】 2013年3月26日 藤野英人,山田真哉 「スリッパの法則」と「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」にみる、潰れない会社の見分け方 160万部を突破した『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』など多くの著書がある公認会計士の山田真哉氏と、抜群の成績を誇る「ひふみ投信」ファンドマネジャーで、伸びる会社とダメな会社の見分け方を指南したベストセラー『スリッパの法則』で知られる藤野英人氏。独自の視点を持つ2人が、日本人の「お金」観を語る! ※今回の記事はジセダイ(星海社)のページでも読むことができます。 スリッパの人!と 呼ばれたことも(藤野) 藤野 今日は「さおだけvs.スリッパ対談」、どうぞよろしくお願いします(笑)。会計の本をたくさん出していらっしゃいますが、山田さんといえばやはり『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』ですよね。「さおだけの人」なんて言われたりしませんか?僕は昔『スリッパの法則』という本を書いたら、以来「スリッパの人」と言われることがあるんですよ。 藤野英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)1966年、富山県生まれ。1990年、早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、23年で延べ5000社、5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立し、現会社を創業、成長する日本株を組み入れる「ひふみ投信」を運用し、ファンドマネジャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。この「ひふみ投信」はR&Iが選定するファンド大賞2012の「最優秀ファンド賞」を受賞した。著書に『日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金よりも大切にしていること』(星海社新書)ほか多数。明治大学講師、東証アカデミーフェローも務める。 ひふみ投信:http://www.rheos.jp/ Twitterアカウント:twitter@fu4 山田 『さおだけ屋〜』は、日常の身近な疑問から会計の考え方を楽しく学んでもらおうと考えて書いた本だったんです。
どんな商売でも「『売り上げ』から『費用』を引いたものが『利益』」「『利益』は企業が継続していくためには必要不可欠」という会計の原則があります。さおだけ屋が潰れない理由には「さおだけ屋は、実は売り上げが高い」「さおだけ屋は、実は仕入れの費用が低い」という2つの仮説が立てられます。この仮説を検証していくと……といったように、謎解きをしながら会計の本質をつかんでもらおうというわけです。 実は、「さおだけ屋」は身近な事例の一つでしかないのですが、確かに「さおだけの人!」というイメージは強いみたいです(笑)。藤野さんの「スリッパの人」もかなりインパクトがありますね。 藤野 『スリッパの法則』は04年に書いた本なのですが、「社内でスリッパに履き替える会社に投資しても、儲からない」という法則を紹介したら、それが朝日新聞の「天声人語」で取り上げられたんです。もちろんスリッパに履き替える会社は絶対ダメだということではなくて、問題はスリッパに履き替えることに表れる「会社と家を同じようなものと考える悪しき家族主義」。 私が伝えたかったのは「閉鎖的な会社になっていないかどうか注意する必要がある」ということだったのですが、「ウチの会社はスリッパを履いているが、ダメなのか」といった反発の声も寄せられるなど、予想外に大きな反響がありました。 山田 新刊『儲かる会社、つぶれる会社の法則』にも「スリッパの法則」が出ていましたね。 藤野 この本はいわば“スリッパの法則の最新版”です。時代の変化に対応して古びた法則は大きく見直していますが、スリッパの法則は変わっていません。 時価総額上位10社で役員の写真を 載せているのはたった1社! 山田 会計の世界では企業は継続することが大前提にあって、会社が継続するためには何が何でも「利益」が必要です。会計で考える「潰れない会社」は「利益」が出ている会社と言うこともできるんですが、藤野さんが考える「潰れない会社」とはいったいどんな会社ですか? 藤野 ちゃんと儲かる会社を見極めるための法則は、たくさんあるんです。会社に行かなくても判断できる例を一つ挙げると、時価総額上位200社の企業のウェブサイトで「社長と役員の写真が出ているところ」と「社長しか写真が載っていないところ」を比べると株価の差がすごいんですよ。役員の写真まで載せている会社のほうが過去10年間で株価が上がっていて、その差は劇的です。 楽天、ヤフー、日揮、それから三菱商事や三井物産、伊藤忠などの総合商社もこの法則にあてはまります。業績を見るより、簡単に儲かる会社を見抜けるんじゃないかと思うほどですよ。ちなみに、時価総額上位10社で役員の写真をウェブサイトに載せているのは1社だけで、あとはNTTもNTTドコモもキヤノンも三菱UFJも、みんな社長だけしか載ってないんです。載せているたった1社はどこかというと、ソフトバンク。 山田 ソフトバンクですか、なるほど!しかし、この「役員の写真の有無」は何を示しているんでしょう? 藤野 おそらく、企業の「覚悟」や「勇気」、「透明性」が表れるポイントではないかと思います。写真を表に出すことは多少なりともリスクがありますよね。事なかれ主義の会社なら「社長くらいはしかたがないけれど、役員を出すのはやめておこう」となるでしょう。あるいは、役員の位置づけの違いかもしれません。役員が会社の経営に責任を負っているのか、それともただの“お飾り”なのか……。 山田 私は会計士として監査する立場で会社の中に入ることが多いのですが、確かに、役員と社長が侃々諤々の議論をしている会社もあれば、社長が役員をコマのように扱っている会社もあります。役員を大事なメンバーと考え、チームで経営しているんだと思っていれば、おのずと「役員の写真もウェブサイトに出そう」ということになるのかもしれませんね。 藤野 会社の良し悪しは素人の目線である程度判断できるものですし、その「素人目線」がものすごく大事なんです。なぜかというと、会社の価値を決めるのは素人だから。お客様って、別にプロじゃないんですよね。その意味で、企業の収益や株価ってわりと人間くさいところで決まっているものだと思います。投資やお金のことについて考える時は、数字だけを見るのではなく、株価やお金に対して人間的な部分を感じられるかどうかが投資家としてのレベルを左右するんです。 お金を語ることは 人生の哲学を語ること 山田 藤野さんは新書の『投資家が「お金」よりも大切にしていること』で、お金について真面目に考えることが必要だと書かれていますよね。日本人はお金について考えることを避けがちだけれど、お金を語ることは人生の哲学を語ることだ、と。 山田真哉(やまだ・しんや) 一般財団法人芸能文化会計財団理事長・公認会計士・税理士。1976年神戸市生まれ、大阪大学文学部卒。著書に160万部突破の『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)、シリーズ100万部でテレビドラマ化もされた『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫ほか)、『世界一やさしい会計の本です』(日本実業出版社)など。年間25回ほどの講演会を8年間続け、延べ4万人を動員している。 Twitterアカウント:twitter@kaikeishi1 確かにこの本を読むと、日本人はお金とちゃんと向き合えていないと感じます。この本で僕が「そうだったのか」と思ったのは、日本人が一時すごい勢いでブラジル株に投資していたのに、最近はみんないっせいに引き上げてしまっているという話。
日本人は外国企業が日本企業を買収すると「ハゲタカだ」と言いますが、藤野さんの「日本人のブラジルへの投資は、ブラジル人にとってなんの役にも立たなかったばかりか、ブラジルの通貨や経済を混乱させてしまった。日本人こそがハゲタカだ」という指摘にはなるほどと思いました。僕は株や投資信託、外貨MMFなどで運用をしていて、ちょっと前までブラジル関連の投信の宣伝をよく目にしていたのですが、確かに最近あまり見かけないんですよね。 藤野 ブラジルの話は一例で、日本人は世界で最も投資の回転率が高いと言われているんです。投資信託についていえば、海外では10年、20年単位で保有するのが一般的ですが、日本人の投信の平均保有期間はたった2.3年にすぎません。とにかくソンするのが嫌で、少しでも危険なにおいがすればすぐに売ってしまうので、一つの投信を買っても1年以内に乗り換える人が多いんです。 山田 もともと投信って長期で資産形成するためのツールですよね。長期保有している人が少ないというのは、なぜなんでしょうか。 資産形成のためのはずの投資信託は 「義理人情」で販売されている 藤野 それは、日本では投信が義理人情で売られているからでしょう。たとえば、定年退職して銀行口座にぽんと数千万円の退職金が入ると、取引銀行の支店長と入社1〜2年目の若手が一緒に訪ねてくるんです。菓子折りを持って「おつかれさまでした、今後はゆっくりセカンドライフをお過ごしください」なんて言われると、それだけで舞い上がってしまう。その後、担当になった若手行員が何をするかというと、お客さんの家に行って昔の武勇伝を聞き出すんですよ。 山田 じっくり話を聞いてあげるわけですね。 藤野 そうするようにマニュアルに書いてあるんです。2〜3回も訪問されればすっかり心を許すようになって、“自分から”「君は退職金運用の提案のために来ているんだよね、そろそろ考えないといけないよなぁ」と言い出します。 そこですかさず若手行員が投信を勧めると、「あなたを信用して買いましょう」となる。半年、1年経ったら、今度は「お客様のポートフォリオを見直しましょう」と言って投信を入れ替えさせる。そうやって投信を回転させて、販売手数料を何回も得るんですよ。 山田 販売手数料が3%とすると、退職金3000万円を投信購入に充ててもらえば、銀行は一度に90万円の手数料収入が入る。それなら、話を聞きに行くくらい、いくらでもやるでしょうね。結局、日本人の投信の保有期間が短いのは、金融機関が回転売買を勧めるからということなんでしょうか? 藤野 金融機関側の問題は大きいですね。投信販売が、お客さんの資産形成のためではなく、一定期間で利益を上げるための手段になってしまっているわけですから。しかし私は、買う側にリテラシーがないのも問題だと思っています。定年退職まで勤め上げてきた人は、ある意味でこれまで“レールに乗っていることが正解”という人生を送ってきて、お金について考える時間がなく、考える必要性も感じなかったでしょう。それこそ、お金に向き合うことがなかったのだと思うんです。日本人には、「お金について無垢であるほうがよく、お金のことを考えるのは汚い」という思想がありますから。 山田 みんな、「Mr.Children」や「innocent world」といった“少年”や“無垢”が大好きですよね。 藤野 日本人は誰もが「清貧の思想」に共感を覚えますよね。でも本来、「清貧」でいう貧しさとは、「理念に生きるためにあえて豊かな生活を拒否する」という考え方だったんです。ところが、これが曲解されて「豊かになるためには理念を捨てて汚れなければいけない」という考え方に変わってしまったんです。ここから「豊かになることは汚れることだ」「お金持ちは何か悪いことをしたからお金を稼げたんだ」「お金=悪」といった価値観が生まれているんでしょう。でも、貧しいことは正義でも何でもない。目指すべきは「豊かで清らか」になることなんです。 儲かっているという理由で 叩かれるのはおかしい!(山田) 山田 お金を儲けている人を批判するのはおかしい、という指摘も面白かったです。 藤野 日本人には「清豊(せいほう)の思想」がないので、「汚れてもいいのでお金持ちを目指す」か「貧しくてもいいので清らかさを目指す」の2択しかないと誤解しているんです。だから、金儲けに大成功している企業やその経営者は汚くて、ベンチャー企業やNPO、NGOを立ち上げる人は清らかだと思っている。 山田 NPOやNGOが日本で評価されるのは、儲かっていないから信頼されているという面は多分にあると思います。利益を出したらすごく叩かれるでしょう。私のクライアントに公益社団法人があるんですが、儲かると内閣府がうるさい。公益社団法人とはいえ、「何を社会に提供できているか」で評価されるべきで、お客さんがたくさんいて儲かっているのはいいことのはずなんです。 私自身には「儲かっているという理由で否定されるのはおかしい」という思いがありますが、どうも「儲かっているのはお金をもらいすぎているからでしょう?」という発想があるみたいなんですよね。 藤野 その点、アメリカにはお金持ちが尊敬される文化があるんです。たとえば、マイクロソフトのビル・ゲイツにしても、アップルの亡きスティーブ・ジョブズにしても、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグにしても、多くの人から尊敬されています。それは、彼らが社会のため、世の中のために貢献していると考えられているから。 ある国際機関がビジネスマンを対象に行った調査によると、「あなたの社会では、新しい事業や会社を始めることは、立派なこととして認められていますか?」という質問に対して、アメリカでは91%の人が「イエス」と答えたそうです。ところが、同じ質問でイエスと答えた人は、日本ではたった8%。この結果も、「清貧の思想」からきているのではないかと思います。 (後編は4月29日更新予定です。) 取材・文/千葉はるか ◆ダイヤモンド社書籍編集局からのお知らせ 【5700人の社長と会ったカリスマファンドマネジャーが明かす 儲かる会社、つぶれる会社の法則】 5500社、5700人の社長と会って投資判断をし、23年間勝ち続けてきたファンドマネジャーが明かす「会社の法則」。投資先、就職・転職先、潰れない取引先を見つけるのに役立つ、儲かる会社に共通していること、そしてダメな会社に当てはまること。受付嬢がムダに美人、顧問や相談役がいる会社は儲からない!?
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人生でいちばん大切なカネの話をしよう 本書は、私が投資家として20年以上かけて考えてきた「お金の本質とは何か」の結論を一冊に凝縮したものです。お金について考えることは、自らの「働き方」や「生き方」を真剣に考えることと同義です。若いうちにお金の見方が変われば、自分の人生や社会に対する見方も大きく、良い方向へと変わっていくでしょう。お金の本質を全く考えずに良い人生を歩んでいくのは、現実的に不可能なのです。カネの話は汚い、金儲け=悪だと思っている人は、世の中について何も知らないことを、自らさらけ出しているのかもしれませんよ。 ご購入はこちらから! [Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb] [楽天ブックス] 【問題です。2000円の弁当を3秒で「安い!」と思わせなさい】 160万部突破の『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を始め、数々の会計や数字にまつわる著書で「一大会計ブーム」を巻き起こした山田真哉氏が、5年ぶりの新境地を開く!
本書は、ビジネスパーソンに求められる「平社員会計学」の知識や、経営的なセンスを磨くために必要な「社長会計学」などの教養を、身近なエピソードを交えながら講義方式でわかりやすく解説。迫り来る「消費増税」後のビジネスや資産運用に役立つ知恵や情報が満載です! 5時間目 自殺と資本主義オルターナティブ 2013年3月26日(火) 小川 仁志 <ゼミのメンバー> 小川先生:42歳、市民との対話をこよなく愛する哲学者。 兼賀大治:56歳、おカネが一番大事だと思っている投資が趣味のサラリーマン。 大飯奈弥美:30歳、消費と貯蓄の間で揺れる独身のキャリアウーマン。 新実三郎:35歳、知的で現実主義的なビジネスマン。 小川仁志氏 小川:日本の自殺者数は悪名高いですね。昨年ようやく年間の自殺者数が3万人を割りましたが、それまでは14年もの間3万人を超えていたのですから。 新実:3万人という数も大きいですが、人口比で見た場合の自殺率も非常に高いんですよね。たしか世界でも10番以内に入るとか。 大飯:世界第3位の経済大国なのに変ですよね。 兼賀:まじめすぎるのかなぁ。 新実:というよりも、社会問題としてとらえるべきだと思いますよ。経済大国ゆえの問題としてね。 小川:つまり、経済大国だからこそ格差があり、そこで苦しむ人が自殺をしているという意味ですか? 新実:そうです。だってこの14年といえば、「失われた20年」といわれる格差社会と重なるでしょ? 反貧困運動なんかが起こったように、生活費が高い国だからこそ生活苦を感じる人は増えたはずです。 自殺の犯人は資本主義? 小川:確かに日本の自殺者は、男性の方が圧倒的に多く、年齢も家庭を支える50代が1位、しかも無職の状態の人が多いといいますね。さらに、自殺理由も健康上の問題に続いてやはり経済・生活問題が挙がります。 兼賀:ちょっと待ってくださいよ。それじゃまるで資本主義が自殺の犯人みたいじゃないですか。 大飯:もっというとおカネを儲けるために働くのが、実は死への道になっているってことでしょ。 新実:いくら働いても生活苦じゃ、そりゃ絶望するって。 小川:キルケゴールの『死に至る病』じゃないですけど、絶望感が自殺に至るということですね。 大飯:もしそうなら、資本主義は必ず「負け組」を生むわけですから、それをやめるしかないですね。 兼賀:そんなばかな、マルクスじゃあるまいし。今さらそんなことできるわけないじゃないか! 小川:まぁ落ち着いてください。ただ、その可能性を探ってみることは意義があるのではないでしょうか。まずはそのマルクスの『資本論』を振り返ってみましょう。 カール・マルクス(1818-1883)。ドイツの経済学者・思想家。マルクス主義と呼ばれる社会主義思想を確立。『資本論』は1867〜94年刊。 小川:『資本論』はご存じのようにマルクスの主著で、資本主義の矛盾に対して、社会主義に基づく平等な社会を提案したものです。
兼賀:先生が矛盾といわれるのは、先ほどの文脈でいうと、働いても金持ちになるどころか、貧しくなってしまうってことですね? 小川:そういっていいでしょう。 大飯:そこがわからないんですよ。どうしてそうなっちゃうのか。 小川:たとえばマルクスの説明によると、工場では資本家が生産手段を提供し、労働者はそれを使って商品を生み出す代わりに、賃金を受け取ります。このとき同じ分量のものを生産するために必要な労働力は、設備投資などによる生産性の向上によってどんどん減少していく傾向にあります。そうすると労働者の数も減らされますし、同じ量の製品を作る時間が短くなるわけですから、賃金が減らされてしまうのです。 新実:ところが資本家は、余分に生産された分については自分の利益にしてしまうって「日経マネー」2013年4月号の連載に書かれてましたね。 小川:ええ。その余分に生産された分の利益を「剰余価値」といいます。その意味で労働者は余分にただ働きさせられていることになるのです。いわば労働力を「搾取」されているのです。 大飯:それじゃやる気もなくなりますね。人間は機械じゃないですから。 労働からの疎外 小川:労働からの疎外ですね。疎外というのは遠ざけられるという意味ですが、まさに労働者は、単に資本家の命令のもとで分業させられるだけですから、労働から遠ざけられてしまうわけです。 大飯:それは革命を起こしたくもなりますよ。 小川:そうですね。だからマルクスは、そんな疎外状況を克服して新たな社会を築くために、まずは生産手段を労働者みんなの共有にする必要があると主張するのです。そして、生産したものはみんなで分けるという経済システムを導入しなければならないというわけです。 兼賀:それはわかるけど、現に失敗してるじゃないですか。旧ソ連はどうなるんですか。マルクスは社会主義に向かうのが歴史の必然みたいにいってましたけど。 小川:唯物史観ですね。マルクスによると、生産性の向上によって生産力が現行の経済の仕組みにそぐわなくなったとき、その矛盾を原動力として歴史は次の段階へと進展するといいます。原始共産制に始まり、奴隷制、封建制、資本主義を経て、社会主義、共産主義に至るというふうに。 兼賀:現実には冷戦で勝ったのは資本主義ですよ。もともと社会主義には無理があるんです。人間はやはり自由を求めるんですから。 小川:フランシス・フクヤマが『歴史の終わり』でそう主張して話題になりましたね。資本主義の勝利で歴史は終わるんだと。 新実:ところが終わってないのが問題だってことですね。 小川:そういうことです。だって3万人の自殺者を出しながら、勝利といえるのかどうか。 兼賀:いや、私だって今の状態がいいとはいってませんよ。ただ、代替するシステムがあるのかということをいってるんです。 小川:コモンウェルスという考え方があります。イタリアの政治哲学者アントニオ・ネグリとその弟子マイケル・ハートが提唱している概念です。 新しい〈帝国〉とマルチチュード 新実:確か『〈帝国〉』で話題になった人たちですよね。 大飯:帝国主義の帝国ですか。 小川:いや、そうではないのです。〈帝国〉というのは、グローバル時代の全く新しい権力の概念なのです。支配的な国民国家に加え、IMFや世界銀行、それにNGOや巨大メディアなど、さまざまな権力がネットワーク状に結びついて協同している様子を表現したものです。そしてこれに対抗する形で「マルチチュード」という多数多様な集団が政治的主体として想定されています。 大飯:なんだか壮大ですけど、グローバル社会をうまくとらえているような気もしますね。 小川:そうですね。そしてここからが面白いところなのですが、彼らは著書『コモンウェルス』の中で、さらにその新たな世界秩序の中で創出される領域として、〈共〉(コモン)という提案をしているのです。 兼賀:それと社会主義とどう関係してくるんですか。 小川:そこなんですよ。つまり、今の世の中は、なんでも私的なものか公的なものかという排他的な二者択一になっていて、それが資本主義か社会主義かという単純な二項対立の発想につながっているとするわけです。でも、物ごとは〈共〉なものととらえることだってできるわけです。 大飯:たとえば? 小川:知識や情報といった知的所有権の中でも、とりわけインターネットに絡むものは比較的オープンになっていますよね。あのようなイメージです。 〈共〉的な富を求め始める 大飯:みんなのものだってことですね。 小川:ええ。いわばオープン・アクセスの共有と、それを担保するための民主的かつ集団的な自主管理運営をいうわけです。 新実:なるほど。私的管理でも公的管理でもない民主的かつ集団的な自主管理が、資本主義や社会主義の代替システムになり得るのですね。 兼賀:そんなこといったって、企業も国家も簡単に財を手放したりはしませんよ。知的財産権なんてドル箱ですから。 小川:ネグリは本来マルクス主義者です。ですからマルクスの革命という発想は受け継いでいるのです。 兼賀:革命なんてぶっそうなことできないでしょ? 小川:彼らのいう革命はもう少し民主的なものです。現在、実際に世界規模で生じている民衆の蜂起を思い浮かべてもらえばいいと思います。アラブの春、ウォール街占拠、日本の反原発デモのような。 大飯:その意味では、マルクスの見た夢が形を変えて実現しつつあるのかもしれませんね。 新実:確かに、これで人々が疎外状態を克服できるならね。 小川:そしてみんながおカネじゃなくてコモンウェルス、つまり〈共〉的な富を求め始めたとき、ようやく自殺者も激減するのかもしれません。 小川 仁志(おがわ・ひとし) 徳山工業高等専門学校准教授。 1970年生まれ。京都大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。台湾の民主化運動に啓発され伊藤忠商事を退社、アルバイト生活をしながら司法試験を目指す。その後、名古屋市役所に勤務、哲学を目指すため社会人大学院に通い、博士号を取得。2007年4月から現職、現在に至る。主な著書に『市役所の小川さん、哲学者になる』『人生が変わる哲学の教室』『人生が変わる 愛と性の哲学』など 元フリーターの哲学者 小川仁志の「お金の哲学」熱血ゼミ編
デフレ、減収、年金危機、貿易赤字、財政赤字…、とパッとしない話題が続く日本。これらを解決するために金融緩和、財政出動、消費税増税、年金給付の繰り上げが実施され始めていますが、いっこうに変わる気配が見られない。はたして有効な対策とは、どのうようなものか。 それを考えるにはおカネの本質を理解することが欠かせない。おカネを哲学的に考察するのが本コラム。筆者は伊藤忠商事のサラリーマンからフリーターになり、そして市役所勤務を経て哲学者になった異色の経験を持つ小川仁志さん。本コラムは『日経マネー』の熱血教室「お金の哲学」と連動しています。 |