07. 2013年3月22日 01:59:21
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2013年3月21日 ザイ・オンライン編集部 米国発「シェールガス革命」がいよいよ世界に波及!輸出が解禁されると、世界全体の物価が下がり、GDPが押し上げられる!? シェールガスレポート+関連銘柄 第2弾! 「“燃える水”と呼ばれるメタンハイドレートからの天然ガス抽出に世界で初めて日本が成功」。こんなニュースが大きく報じられているが、あくまでもまだ調査段階で生産コストも高く、実用化のめどは立っていない。それに比べて、より早く日本に大きなメリットをもたらすと見られているのが、2012年8月に、本連載「ザイスポ!」でも取り上げた米国発「シェールガス革命」だ。数年後にいよいよ対日輸出が始まる見通しだが、輸出解禁は日本や世界にどのような激変をもたらすのか。その後の動向を追ってみた。参考記事:米国発の「シェールガス革命」は日本の関連銘柄にもビッグチャンスだ!(シェールガス採掘方法の概念図付き) 輸入開始は早ければ2015年、遅くとも2017年との見方が有力 米国テキサス州ダラスの「バーネットシェール掘削現場」 出所:石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC) そもそも米国のシェールガスが世界中で注目されているのは、天然ガス価格が突出して安いからだ。原油はグローバルに一物一価がほぼ成り立つが、天然ガスは図表(天然ガス価格の比較)のように3市場によって価格が大きく異なっている。
2012年12月時点で、日本向けLNG(液化した天然ガス)価格は約15ドル(100万BTUあたり)なのに対し、米国価格は約3ドル(同)と、おおよそ5倍も開きがある。このため、米国から天然ガスが安く輸入できるようになれば、日本経済にとって大きなメリットになると見られているのだ。電力各社にとっては「シェールガスの輸入で3割くらいのコスト削減メリットがある」とも言われている。(※「BTU=British Thermal Unit:英国熱量単位) 今のところ、米国はシェールガスの輸出を原則としてFTA(自由貿易協定の締結国)に限っている。日本をはじめとした非FTA国への輸出には米国エネルギー省の許可が必要だが、まだ下りていない(3月14日現在)。 前回の取材時(2012年8月)に、SMBC日興証券金融経済調査部エコノミスト、宮前耕也さんは「輸出による天然ガスの価格上昇を懸念する消費者団体、国内回帰企業などへの配慮から、許可が下りるのは大統領選後」と予想していたが、その通りに動いているようだ。 聞くところによると、米国政府は3月中にも日本向けシェールガス輸出の許可を出すらしい。LNGを輸出入する施設をつくる必要があるため、輸入開始は早ければ2015年、遅くとも2017年との見方が有力だ。 シェールガスの輸出は米国経済の利益に適う ここにきて許可の方向に向かっているのは、米エネルギー省の第三者機関が「シェールガスの輸出は米国経済の利益に適う」とする報告書をまとめたことが追い風になっているという。天然ガスの輸出は、国内価格の上昇をある程度招くとしても、雇用創出や貿易収支の改善、経済活性化などプラス面のほうが大きいという判断がなされたようだ。 「オバマ政権はもともと輸出推進派。最初の大統領選を戦ったときも、輸出振興とグリーン・ニューディール政策(自然エネルギーや地球温暖化対策に公共投資し、経済成長を促す政策)を打ち出していました。ですが、もし2012年11月の大統領選で共和党のロムニー氏が政権をとっていたら、エネルギー安全保障を強く打ち出し、かつ米国内の価格上昇を嫌うので、許可が下りなかった可能性もあったでしょう」(宮前さん)。 突出して安い米国内価格で輸入できるわけではない では実際、輸入が始まると日本にどのようなメリットがもたらされるのか。 まず、輸入価格については、突出して安い米国内価格(約3ドル・100万BTUあたり)で輸入できるわけではない。少なくとも、LNGにして船舶で輸送するため、液化・輸送コストに5ドル(100万BTUあたり)程度はかかると見られている。 さらに、輸出が始まると国内需給が逼迫し、米国内のガス価格自体が上がる可能性もある。そうなれば、契約形態にもよるが、日本への輸出価格に転嫁されることになるだろう。また今後、採掘条件が悪い場所を掘っていくことが増えると思われることも価格上昇の要因だ。 シェールガスを採掘すると、同時に生産されるシェールオイルに期待する声もあるが、現状、原油価格や天然ガス価格に影響を与えるほどのインパクトはない。シェールオイルの採算ラインは1バレル=70〜80ドル。国際価格の水準がそれ以上であれば、採算が取れるが、仮に60〜50ドルに下がると生産するメリットはなくなるからだ。 こうしたことを踏まえ、宮前さんは「米国からの天然ガス輸入価格は、楽観的に見て8ドル(100万BTUあたり)程度、実際には10ドル(同)台となる可能性が高い」と予想している。 次のページ>> 日本のエネルギー政策、世界経済への影響は? 価格メリットは原発の稼働状況次第 さらに、宮前さんは価格メリットについて「日本に限ってだが、原発の稼働状況次第」という。 前述したように、現在の日本向け価格は約15ドル(100万BTUあたり)だが、これは欧州向け等の価格に対し5ドルくらいプレミアムがついた水準。東日本大震災以降、原発による電力供給が減り、化石燃料の需要が増えるという予測から、価格の高止まり状態が続いているからだ。 上の図表(原油価格とLNG価格の比較)は、原油価格(ドバイ、現物価格)と日本向けLNG価格(インドネシア産)を比較したもの。震災前までは、LNG価格は原油相場にほぼ連動していたが、震災以降、LNG価格は原油連動部分を大きく超えて上昇していることが見てとれる。
だが、原発が順次、再稼働に向かえば、ジャパンプレミアムは徐々に縮小していくはず。再稼働は早くても一部が2013年9月、本格的な稼働は来年以降になると予想される。仮に、シェールガスの輸入開始見通しの数年後に原発が通常化していれば、ジャパンプレミアムはなくなり、天然ガスの日本向け価格は10ドル程度(同)に戻ることになる。つまり、輸入予想価格(10ドル台)と変わらないため、価格面では米国からシェールガスを輸入するメリットがなくなる可能性があるというわけだ。 価格交渉力がつくことと、地政学リスクの軽減が日本のメリット とはいえ、日本にとって次に述べる二つのメリットがあるのは確か。その一つは、米国からの輸出実績ができるため、日本に価格交渉力がつくことだ。 現在、日本向けのLNG価格は、日本向け原油平均価格にリンクする価格フォーミュラ(価格決定方式)に基づいて決められている。この長期契約は日本にとって不利になりがちだが、次の契約更新時には市場価格で取引が行われる米国からの輸入実績を材料に交渉できるようになるというわけだ。 もう一つのメリットは、エネルギーの調達地域が分散され、地政学リスク(地域の紛争やテロの発生などに伴う経済上のリスク)を軽減できること。 「原油や天然ガスなどエネルギーの調達先に米国が加わるのは、安定供給にとって心強いことです。たとえば、ある国の天然ガス価格が安いからといってそこ一辺倒でいいかというと、そうではない。いつ何時、その国で供給不安が起きるか分かりません。ですから、平均的な調達コストは高くなるかもしれませんが、エネルギーの調達先や種類をほどよく増やして分散するベストミックスはとても重要なのです」(宮前さん) 米国発シェールガス革命は世界経済成長への原動力になる 一方、米国シェールガスの輸出は、世界にはどのような影響を与えるのか。 米国が海外への輸出に踏み切ることによって、分断されている天然ガス市場が統合に向かう可能性がある。そうなると、割安な米国内の天然ガス価格に上昇圧力がかかる一方、割高な欧州・アジア価格に下落圧力がかかることになる。 仮にそうなると、世界の多くの国に天然ガス価格の低下という恩恵がもたらされる。 「世界全体で見ると、エネルギーコストの低下は、世界全体の物価を下げ、同時にGDPを押し上げる効果をもたらします。つまり、米国発シェールガス革命は世界経済を成長させる原動力になるわけです。物価下落というと、デフレ下の不況をイメージする人も多いかもしれませんが、物価下落には良い場合と悪い場合があって、エネルギーコストの低下によるものは良い物価下落です」(宮前さん) 蒸気機関の登場によって飛躍的な生産力を生んだ産業革命は、エネルギー革命とも呼ばれている。米国発シェールガス革命も、同じように世界に激変をもたらすエネルギー革命になるかもしれない。 次のページ>> シェールガス関連銘柄22本! 幅広いカテゴリーから関連銘柄20社をピックアップ! さて、今回も投資情報会社フィスコ・情報配信部アナリストの田代昌之さんに、米国発シェールガス革命の最新動向を踏まえた、注目の関連銘柄を聞いてみた。 シェールガスというと誰もが真っ先に思い浮かべる、三菱商事(8051)や三井物産(8031)、石油資源開発(1662)などの権益関連銘柄は前回紹介したので、今回は波及範囲を広げ、掘削に関する技術やプラント設備、輸送に使用するコンテナ、輸送船を扱う銘柄など幅広いカテゴリーから20社をピックアップしてもらった。 選定にあたっては、次のように短期的な影響と長期的な影響の二つのタームをイメージしたという。 「短期的なタームは、すでに恩恵を受けており、今後も追い風の環境が考えられる銘柄。たとえば、プラントや掘削に関する技術力を持っているIHI(7013)、新東工業(6339)、新日鉄住金(5401)などが該当します。一方、長期的なタームは、これからポジティブなインパクトが発生する可能性がある銘柄。日立造船(7004)、栗田工業(6370)、三菱ケミカルHD(4188)などです」(田代さん) なかでも、三菱ケミカルHDやクラレ(3405)、信越化学(4063)など化学大手は、今までよりも圧倒的に安いエネルギーでエチレンなど化合物を生産できる可能性が高まっていることから多いに注目されるという。この流れは化学関連にとどまらず、こうした化合物を使用する製品を手掛ける多様な業種にとって大きな追い風となりそうだ。 環境対策の関連銘柄が注目される可能性もある
一方、シェールガス・オイルの採掘に関しては、水質汚染や大気汚染など環境問題も指摘されている。こうした環境問題への懸念から、環境対策が強く求められるようになる可能性もあるという。 「そうなると、水処理に関して高い技術を持っている栗田工業やオルガノ(6368)といった関連銘柄が注目されそうです。また、地質調査に関しては応用地質(9755)や鉱研工業(6297)などを連想するのはさほど突飛なことではないでしょう。 この2銘柄に関しては、メタンハイドレード関連で材料視される傾向が強いでしょうが、そもそも株は思惑先行で動くもの。連想を広げるのも上がる銘柄を先取りする方法の一つです」(田代さん) 米国発シェール革命はまだ始まったばかり。短期投資から中長期投資まで、タームに合わせてベスト銘柄を選んでみよう! これからでも大きな恩恵を得られる可能性は十分にありそうだ。 (取材・構成・文/河合起季) 参考記事:米国発の「シェールガス革命」は日本の関連銘柄にもビッグチャンスだ!(シェールガス採掘方法の概念図付き) http://diamond.jp/articles/-/33456 |