22. 2013年3月27日 17:01:01
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通貨及び金融の調節に関する報告書 衆議院財務金融委員会における概要説明 日本銀行総裁 黒田 東彦 2013年3月26日全文 [PDF 253KB]http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130326a.pdf 目次 はじめに わが国の経済金融情勢 金融政策運営 はじめに 日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。平成24年度上期 の報告書につきましては、昨年12月7日に提出いたしました。今回、わが国経済の動向と日本銀行の金融政策運営に ついて詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。 わが国の経済金融情勢 最初に、わが国の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。 わが国の景気は、海外経済の減速などを背景に、昨年夏場以降、弱めの動きとなっていましたが、このところ明る い兆しもみられるようになっています。日本銀行は、景気の現状について「下げ止まっている」と判断しています 。こうした変化の背景にある要因としては、3点指摘することができます。 第1に、米国・中国などを中心に、海外経済が減速した状態から脱する兆しをみせ始めています。地域毎にみますと 、米国経済は、バランスシート問題の重石が徐々に和らぐ中で、底堅さを増しつつ、緩やかな回復基調を続けてい ます。雇用環境が改善傾向を辿るもとで、個人消費は緩やかな増加を続け、住宅投資も持ち直しの動きが明確にな っています。これまで抑制されていた設備投資にも持ち直しの兆しが窺われます。中国経済は、輸出が一進一退の 動きを続ける中、個人消費が堅調に推移し、インフラ投資が増加するなど、堅調な内需に支えられて減速局面を脱 しつつあります。この間、欧州経済は、企業や家計のマインドの一段の悪化には歯止めがかかりつつあるものの、 緊縮財政や金融面の引き締まりの影響もあって、設備投資や個人消費が減少するなど、緩やかな景気後退が続いて います。 第2に、最近の円安・株高などを背景に、企業や家計のマインドが改善しています。国際金融資本市場についても、 昨年夏場以降、欧州債務問題を巡る政策対応に一定の進展がみられたことや、本年初の米国の「財政の崖」が回避 されたこともあって、投資家のリスク回避姿勢は後退した状態にあります。もっとも、キプロス支援交渉の状況や 総選挙後のイタリア情勢に注目が集まるなど、欧州債務問題の今後の展開などに引き続き注意していく必要がある と考えています。 第3に、エコカー補助金終了の反動や日中関係の影響など、景気の下押し圧力となっていた要因が剥落・減衰してい ます。 こうしたもとで、わが国の輸出は下げ止まりつつあります。設備投資は、非製造業に底堅さがみられるものの、全 体として弱めとなっています。一方、公共投資は増加を続けており、住宅投資も持ち直し傾向にあります。個人消 費は、高齢者需要などにも下支えされて、底堅く推移しています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は下げ 止まっています。 先行きについては、各種の経済対策が実行に移されることもあって国内需要が堅調に推移し、また、海外経済も減 速した状態から次第に脱していくことなどを背景に、年央頃には、国内景気の持ち直しの動きははっきりしてくる とみています。 わが国の金融環境をみますと、緩和した状態にあります。金利面では、コールレートがきわめて低い水準で推移す る中、企業の資金調達コストは低水準で推移しています。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、 改善傾向が続いています。CP・社債市場でも、総じてみれば、良好な発行環境が続いています。資金需要面をみま すと、運転資金や企業買収関連を中心に、増加の動きがみられています。こうした中、企業の資金繰りをみますと 、総じてみれば、改善した状態にあります。 物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、概ねゼロ%となっています。目先数か月は、前年のエネルギ ー関連や耐久消費財の動きの反動からマイナスとなるとみられますが、その後は、わが国経済が緩やかな回復経路 を辿るもとで、マクロ的な需給バランスは緩やかな改善基調を続け、消費者物価は緩やかな上昇傾向に転じていく と考えられます。 もとより、欧州債務問題の今後の展開や米国経済の回復力、新興国・資源国経済の持続的成長経路への円滑な移行 の可能性、日中関係の影響など、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きい情勢です。最近の金融市場の動きは、 世界経済が減速した状態を脱し、持ち直していくことを織り込んでいく動きとみられますが、今後、世界景気を取 り巻く幾つかの不透明要因が順調に払拭されていくかどうか、引き続き注意深く点検して参ります。 金融政策運営 次に、日本銀行の金融政策運営について、ご説明申し上げます。 日本経済は、15年近くも、デフレに苦しんできました。これは世界的に見ても異例なことです。物価が下落する中 で、賃金・収益が圧縮され、投資・消費が減少することで、更なる物価下落に陥るという悪循環は、日本経済を劣 化させています。デフレからの早期脱却は、日本経済が抱えている最大の課題です。 物価安定は中央銀行の責務であり、デフレ脱却における日本銀行の役割は極めて重要です。日本銀行は、これまで ゼロ金利政策や量的緩和政策を行ったほか、最近では、包括的な金融緩和政策を通じた金融緩和の推進、金融市場 の安定確保、成長基盤強化の支援といった様々な取り組みを行ってきましたが、デフレ脱却には至りませんでした 。もとより、わが国の物価の低下圧力を与える要因としては、海外からの安値輸入品の増加、規制緩和などに伴う 流通の効率化、それらと相まって生じた企業の低価格戦略や家計の低価格指向の拡がりなど、国内外に多々ありま す。しかし、そうした影響に対抗して物価の安定を実現するのが中央銀行としての日本銀行の責務です。実際、世 界中で、これほど長期間にわたってデフレが続いている国はほかにありません。政府が「大胆な金融緩和」、「機 動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」から成る「3本の矢」でデフレ脱却と経済再生を実現する方針 を明らかにし、緊急経済対策などの対応を迅速にとったことが好感され、景気回復の期待を先取りするかたちで株 価も回復し始めています。 なかでも、本年1月の「共同声明」は、政府・日本銀行が、それぞれの課題を明確に設定し、責任を持ってそれを実 現することを宣言したものであり、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向けた大きな一歩です。日本銀行は、 消費者物価の前年比上昇率で2%という「物価安定の目標」を導入し、この目標のもと、金融緩和を推進し、これを できるだけ早期に実現することを目指すことを決定しました。日本銀行としては、この「物価安定の目標」を一日 も早く実現することが、何よりも重要な使命であると考えています。 これまで、日本銀行は、デフレ脱却に向け、国債だけでなく、社債、CP、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産 投資信託(REIT)など様々な資産を買い入れてきました。これは中央銀行の伝統的な手法を踏み越えたものですが 、その規模や具体的な買入対象等については、「できるだけ早期に2%の物価上昇を実現する」という強いコミット メントを実現するために十分なものとは言えません。量的にも、質的にも大胆な金融緩和を推進していく必要があ ると考えています。 また、金利引下げ余地が乏しい現状では、金融政策運営において、市場の期待に働きかけることが不可欠です。市 場とのコミュニケーションを通じて、デフレ脱却に向け「やれることは何でもやる」という姿勢を明確に打ち出し ていきたいと考えています。 さらに、政府との連携確保も重要です。金融政策は、政府の経済政策と整合性をもって運営することで、より高い 効果を発揮できるものです。政府と日本銀行の「共同声明」では、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持 続的な経済成長の実現に向け、政府および日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことを明記してい ます。また、政府は、機動的な財政政策、成長力・競争力強化、中長期的な財政健全化に取り組むこととされてい ます。もとより、日本銀行は、自らの責任において、「物価安定の目標」の早期実現を目指して金融緩和を推進す るものです。ただ、金融緩和と並行して、政府が「実需」を作り出し、消費・投資の拡大を通じて賃金・雇用を改 善することができれば、そこから更なる物価上昇につながる好循環も期待できます。その際、財政運営への信認低 下による金利上昇を避けるため、中長期的な財政健全化に取り組むことも重要です。「共同声明」に沿った政府の 取り組みを期待したいと思います。 今後の具体的な金融政策運営については、政策委員会・金融政策決定会合において、経済・物価情勢の点検を通じ て市場への影響なども見極めつつ、日本銀行が持つ全ての機能を最大限に活用し、何が最も効果的であるかを検討 して参ります。 http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/ko130326a.htm/ デフレ脱却の条件
研究主幹 渡辺 努 [研究分野] マクロ経済 我が国では1990年代後半以降、緩やかなデフレーションが続いている。現政権はデフレ脱却を最優先課題のひと つと位置づけ、政府と日銀が一体となった取り組みが行われている。現政権でのデフレ脱却に向けた取り組みはこ れまでのところ総需要の喚起策が中心となっている。しかし、ミクロの商品の価格が需要と供給で決まるのと同様 に、マクロの物価も総需要と総供給で決まる。したがってデフレ脱却には、総需要だけでなく総供給に働きかける こと、つまり、メーカーや流通業者の慎重な価格づけ行動を変えさせることが重要である。本稿の試算によれば、 物価上昇率と産出量ギャップの過去の関係を前提とすると、日銀が物価目標として掲げている消費者物価上昇率2% を達成するには約50兆円の需要増が必要である。この結果は、力ずくの需要喚起だけで物価目標を達成するのが困 難であることを示している。メーカーや流通業者がライバル企業の行動を過度に気にすることなく、需要増に見合 った価格引き上げを行える環境を整備する必要がある。 全文を見る デフレ脱却の条件PDF:489.2 KB http://www.canon-igs.org/research_papers/130326_watanabe.pdf http://www.canon-igs.org/research_papers/macroeconomics/20130326_1816.html 経済マンスリー 2013年3月(全体版)〜日本、米国、西欧、アジア、中国、豪州、原油 http://www.bk.mufg.jp/report/ecomon2013/monthly_all20130326.pdf
ゆうちょ資産研レポート(2013年3月号)〜アベノミクスと日本経済 / 債券市場からの逆メッセージ / BIS規制の 債権の動向... http://www.yu-cho-f.jp/publication/monthly_report/index.html 金融部門と非金融部門で共に進む海外シフト http://www.itochu.co.jp/ja/business/economic_monitor/pdf/2013/20130326_2013-061_J_FOF-2012Q4.pdf 民間金融機関の貸出は増加基調も、国内非金融法人向けは減少。貸出拡大の主役は海外向けであ り、金融機関は海外投資も拡大。また、非金融法人も海外資産を拡大しており、金融・非金融を問わ ず、海外重視姿勢の強まりが明確。
民間金融貸出が増勢だが… 日本銀行が公表した 2012 年 10〜12 月期の資金循環勘定では、民間金融機関貸出が前年差 11.8 兆円(7 〜9 月期 8.5 兆円)と 6 四半期連続で増加した。月次の貸出統計により示されていた貸出残高増加の動き を再確認するものと言える。 民間企業向け貸出は寧ろ減少 しかし、民間金融機関貸出の内訳を見ると、民間非金融法人(いわゆる民間企業)向けの貸出は、10〜 12 月期に前年差▲3.8 兆円(7〜9 月期▲0.7 兆円)と2四半期連続で減少している。民間企業向け貸出 は、原発停止等に伴う電力会社の資金需要の高まりや借入シフト等により 2011 年 10〜12 月期から 2012年4〜6月期まで 3四半期連続で増加した。しかし、電力債発行環境の好転などもあり、電力会社 の借り入れ需要が幾分鎮静化し、押し上げ寄与が縮小したのに伴い、民間金融機関貸出全体は再び減少 基調へ回帰してしまっている 1 。 金融機関の海外重視 民間非金融法人向けと異なり、民間金融機関貸出において一貫して増勢が明確なのは、一般政府向けと 海外部門向けである。特に 2011 年以降は、海外部門向けの増加が顕著であり、金融機関が海外向け貸 出へシフトしていることが読み取れる。金融機関は、貸出以外でも、海外金融資産への投資や海外金融機 関への資本参加などによって海外シフトを積極的に進めており、対外証券投資と対外直接投資、その 他対外債権・債務の合計が金融資産全体に対する比率は 2012 年 10〜12 月期に 10.1%と初めて 1 割を 超えた(金融機関全体から中央銀行を除いたベース)。 非金融企業の海外投資拡大 もちろん、海外シフトを進めているのは、金融機関だけではない。国内設備投資抑制もあり、民間非金融法 人の金融資産は拡大傾向が続き、いわゆるカネ余りの状況にある。カネ余りは、上述のように借入(金融機 関の貸出)が減少する下で、現預金残高も増加していることから確認できる。 ただ、足元で、金融資産増加の相当部分は、対外直接投資と対外証券投資の拡大によるものである。企業は 資金余剰のかなりの部分を海外への投資に振り向けており、それは海外企業のバランスシートを経由して 設備投資として結実している部分もある。そのため、金融資産全体の積み上がりが、必ずしも、海外分を含 めた設備投資に対する、企業の消極姿勢を意味するものではない。 なお、アベノミクスの影響もあって昨年 10〜12 月期に進んだ円安による円貨換算額の拡大も、民間企業 の対外資産残高を押し上げている(グラフの調整勘定 2に含まれる)。但し、円安の影響を控除しても、海 外への資金フローがコンスタントにプラスとなっており、海外投資拡大(海外部門への資金流入)の流れは変わら ない 3 。 今後も海外投資は拡大傾向 為替相場の修正に対する確信が強まれば、製造業については国内生産を拡大するために、国内での投資等 を増やす余地が生じる。但し、将来的な為替リスク回避や現地ニーズに応えるための需要地生産拡大の大 きな流れを反転させるには至らない可能性が高い。一方、非製造業についても、金融と非金融を問わず、 従来に比べ、海外需要の重要性が明確に高まりつつある。もちろん、製造業の回復が、国内需要の押し上 げを通じて、非製造業にもたらす好影響はあるとしても、それによって海外重視の姿勢が変わるわけでは ない。従って、企業部門全体として、今後は海外投資の重要性が一層高まると考えられる。 FRBの出口戦略と長期金利の行方:経済レビュー http://www.bk.mufg.jp/report/ecorevi2013/review_0120130326.pdf
日本食品に対する海外消費者アンケート調査(香港) http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07001280/hkshohisha.pdf 好きな外国料理:1位は日本料理。タイ料理などアジア料理を広く受け入れる姿勢 ・好きな日本料理 : 「寿司」、「刺身」が人気。「ラーメン」は米国と並び人気が特徴的 ・好きな寿司ネタ : 「サケ」、「エビ」が人気。「ホタテ貝」は特に香港での人気商品 日本料理店に行く理由:求める要素は味、調理法、おしゃれ ・購入時の重視点 : 「味の良さ」が1位、次いで「経済性」、「安全性」を追求 ・情報源 : ネットへの不信感から、「口コミ」や「つながり」を重要視 日本産清酒: 8割が高評価しつつも、「非常に高く評価」は1割以下 ・購入時の重視点 : 「味の良さ」を最重要視。「産地・原産国重視」の割合が多いという特徴的結果に ・消費場所 : 「日本/日本料理店」での消費割合が多い ・非購入理由 : 過半数が「興味がない」と回答。価格への抵抗は若年世代と女性に 日本産緑茶:9割超が日本産緑茶について高評価 ・日本産緑茶の用途 : 8割が「家庭用・自分用」に購入。40代では9割 ・購入重視点 : 清酒同様、「味」と「産地・原産国」を重要視 ・消費場所 : 「日本/日本料理店」での消費割合最大、高年齢層ほど顕著 好きな日本産品:人気は「チョコレート」、「ホタテ貝」、回答商品名の点数多く ・日本産品の用途 : 「家庭用・自分用」が8割超。国内消費の傾向強く ・消費場所 : 「日本/日本料理店」での消費割合が最大、世代間での違い如実に ・食べてみたい日本産品 : トップは「牛肉」。「いちご」、「メロン」、「桃」への人気も高く http://www.jetro.go.jp/world/asia/reports/07001280 http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2013/0327/1064.html 内閣府ホーム > 今週の指標 > 今週の指標 No.1064 今週の指標 No.1064 景気ウォッチャー調査にみられた高額品コメントの動き
ポイント 2013年3月27日 昨年11月以降、円安・株価上昇がみられ、景気ウォッチャー調査の現状判断DIも4か月連続で上昇している。こ うした中、景気ウォッチャー調査のコメントには、宝飾品や高級時計、ブランドバッグ等高額品が売れているとす るなど、以前と比較して高額品に関するコメントが多くみられるようになっている。そこで、今回「景気ウォッチ ャー調査」の現状判断についてのコメントの中から、『高額』または『ブランド』に関するコメント(以下、高額 品コメント)について集計を行った。 高額品コメント数は、2012年10月は全体で19だったが、12月は26に増え、2013年2月は48と10月の約2.5倍に増加し た(図1)。景況判断ごとの内訳をみると、10月、11月までは「不変」「やや悪い」「悪い」が多くを占めていた が、12月以降は「やや良い」が急激に増加した。これは、12月以降、高額品コメントの増加が景気ウォッチャーの 景況判断を改善させた一因となっていることを示唆している。 次に、高額品消費の増加について、地域と業種の広がりを見てみる。図2は、家計動向部門において、高額品コメ ントがあった地域数と業種数を表している(注1)。全国11地域、家計動向部門15業種(百貨店、スーパー、家電 量販店、飲食関連、住宅関連など)のうち、高額品コメントがあったのは12月に4地域、4業種だったが、2月に は7地域、8業種にまで増加した。このように、高額品消費は地域、業種共に広がってきた。業種を詳しく見てみ ると、12月の商店街・一般小売、百貨店等から、1月以降は高額な海外旅行や住宅販売等にまで波及してきた。 高額品コメントのあった地域が広がっているが、地域ごとのコメント数にはばらつきがある。地域の比較ができる ように、高額品コメント数を家計動向部門でのコメントの総数で割った比率を見てみると、大都市圏である近畿、 南関東ではコメント比率が高い(図3)。その背景として所得との相関を見てみると(注2)、所得1,000万円以上 の高所得者比率が高い地域ほど高額品コメント比率も高くなっている(図4)。なお、近畿や九州では、高所得者 比率と比較して高額品コメント比率が高いが、これは百貨店や大型小売店で新規出店や増床が多く行われているこ とが理由の一つに考えられる。 以上のように、12月以降、高額品消費が景況判断を改善させた一因となっているが、高額品消費が増加している地 域には広がりがみられ、その背景としては、株価上昇等から、比較的所得の低い地域についても高所得者の高額消 費が拡大していることが考えられる。 (注1) 高額品コメントのうち、ポジティブなコメントに限定するため、全体の景況感が「良い」「やや 良い」の判断に限定。以下同じ。 (注2) 高所得者が多い地域は、高額品を扱う店舗が多いことからコメントが多いことが考えられる。さ らに、最近は株価の上昇を背景に、高所得者の多い地域でコメントが多いことが考えられる。 本格化する新政権の経済政策〜金融緩和、財政出動、成長戦略 http://www.bk.mufg.jp/report/ecomon2013/monthly_jp20130326.pdf http://www.research-soken.or.jp/reports/economic/pdf/number48.pdf
2013/3/26 高まる家計の投資意欲に盲点はないか− 「短期化」する家計の金融行動 日本リサーチ総合研究所 調査研究部 主任研究員 藤原 裕之 03-5216-7314 hiroyuki.fujiwara@research-soken.or.jp 金融経済レポート No.48 (社)日本リサーチ総合研究所 市況回復を受けた個人の投資意欲の高まりは、個人金融資産が成長マネーとして循環する「貯蓄から投資へ」のき
っかけとなるのかどうか、家計の金融行動のあり方に関わる重要な問題を提起している。 リーマンショック以降の家計の金融行動を振り返ると、リーマンショック直後は、@「ろうばい売り」、A「他商 品への乗換えと更なる損失拡大」であり、市況が回復に転じた昨年後半は、B「やれやれ売り」、C「投資マイン ド回復による新規購入の動き」の4局面に分けられる。日本の家計の金融行動は、市況や保有資産の動きに敏感に 反応する「短期化」が進行しており、「待てば回路の日和あり」という長期保有によるメリットは殆ど享受できて いないのが実情である。 個人金融資産を源泉とする成長マネーの供給が経済成長を促進させ、延いては安定的な資産形成につながる「貯蓄 から投資へ」の実現には、個人の金融リテラシーの向上が不可欠である。具体的には、@「売り時・買い時」意識 をなくす、Aポートフォリオ思考を習得する、B許容できるリスクを見極める、といった点がポイントとなるだろ う。 家計の金融行動に変化の兆し – 高まる個人の投資意欲
円安と株高で投資環境が改善する中、冷え込んでいた家計の金融行動にも変化がみられるようになった。 証券会社が主催する個人投資家向けのセミナーは前年を大きく上回る個人投資家が訪れている。2月の株式 投信への資金流出入は 4 ヵ月ぶりに流入に転じており、個人の投資意欲の高まりを反映している。 当局もまた日本版ISA(少額投資非課税制度)の拡充や投信の商品性改善等を通じ、個人金融資産の成 長マネー化を推進する姿勢をみせている。金融機関や個人投資家の運用方針の転換を促すことにより、安倍 政権が目指すデフレ脱却の金融面からの支援と捉えられる。 (個人マネーを起点とした経済成長の実現性) 経済成長を促進する金融資本市場のあり方を巡り、成長マネーの源泉となる個人金融資産の活用が叫ばれ て久しい。足元の株高と個人の投資意欲の高まりは、個人金融資産が成長マネーとして循環する「貯蓄から 投資へ」の流れを生み出すきっかけとなるのか、あるいは目先の市況に振り回されているだけなのか、家計 の金融行動のあり方に関わる重要な問題を提起している。 リーマンショック以降の家計の金融行動を振り返る – リーマンショック後の「ろうばい売り」 現在、市況回復を受けて資産運用に前向きな動きをみせている個人であるが、08 年のリーマンショック が家計資産に与えたダメージは大きかった。 投資信託の解約状況をみると、リーマンショック後は、円高進行や欧州危機の深刻化等を受けて外債投信 を中心に投信の基準価額は軒並み下落、これに伴って解約が急増した(図表 1)。相場下落を不安視した状態 での解約は、損切りを伴う「ろうばい売り(解約)」が多かったと思われる。07年度から 08年度にかけて家 計が失った金融資産の損失は 144 兆円(株式 50 兆円、投資信託 20 兆円)である。これは 90 年のバブル崩 壊後(89 年度-92年度)に受けた損失 114 兆円(株式 101兆円、投資信託 8兆円)を上回る大きさである(図 表 2)。 売却・解約資金の多くは「通貨選択型」と呼ばれるリスクの高い投信等への乗り換えに向かった。しかし 円高が進行した 11 年は新興国通貨の急落で当該商品の基準価額は大幅に下落した。為替で懲りたはずの個 人が「高い分配金」に惹きつけられて再び為替で損失を蒙る皮肉な結果となった。 – 昨年後半以降の「やれやれ売り」 昨年後半以降は欧州危機の沈静化や安倍政権に対する期待などから円安・株高となり、家計が保有する金 融資産の価格は回復傾向にある。昨日日銀より発表された資金循環統計によると、昨年第 4四半期の家計資 産の時価評価は 18 兆円の評価益まで回復している。年初以降の市況回復を考慮すると、2012 年度の家計資 産の時価評価3年ぶりの評価益となる公算が高い。 市況回復に伴って保有商品の解約も進んでおり、投資信託への資金流出入は昨年 11 月から 3 ヵ月連続で 流出超となっている。現在の解約は塩漬け状態にあった金融商品の価格が戻り始めたことによる「やれやれ 売り(解約)」と言える。リーマンショックという過去に経験したことのないような相場変動の後とあって は、僅かであっても利益が出ていれば確定させたいのが投資家心理である。 こうした「やれやれ売り」の動きは今年1月でほぼ一巡したとみられ、2月からは設定額が解約・償還額 を上回る流入超となっており、個人の金融行動が積極運用に転換したことを示している。 – 短期化が進んだ家計の金融行動 上記のように、リーマンショック以降の家計の金融行動は、@市況悪化に伴う「ろうばい売り」、A損失 回収を目的とした他商品への乗り換えと失敗、B市況回復に伴う「やれやれ売り」、C投資マインド回復に よる新規購入、の順で進んでいると言える。この結果、家計の金融行動は、市況や保有資産の動きに敏感に 反応する「短期化」が進行している(図表 1)。リーマンショック直後の「ろうばい売り」の局面では「損 切り」となった商品も多かったはずである。日本の家計の多くは「待てば回路の日和あり」という長期保有 のメリットを殆ど享受できていないのが実情である。 「貯蓄から投資へ」の実現に向けて – 金融行動の見直しが必要 現在、個人は再び新規投資に向かおうとしているが、金融行動の短期化を見直さなければ「いつか来た道」 を繰り返すことになりかねない。個人金融資産を源泉とする成長マネーの供給が経済成長を促進させ、延い ては安定的な資産形成につながる「貯蓄から投資へ」の実現には、個人の金融リテラシーの向上が不可欠で ある。具体的には、@「売り時・買い時」意識をなくす、Aポートフォリオ思考を習得する、B許容できる リスクを見極める、といった点がポイントとなるだろう。 @「売り時・買い時」意識をなくす 先行きの相場を悲観した「ろうばい売り」も相場回復に伴う「やれやれ売り」も家計の金融行動として決 して好ましい姿とは言えない。中には巧みに売買タイミングを当てて勝ち続けられるデイトレーダーのよう な個人もいるかもしれないが、家計の殆どはプロの投資家ではない。特に投資信託のような金融商品は手数 料などコスト面から考えて短期売買には不向きな商品である。金融機関の販売担当者も、顧客が投資信託の ような商品で「売り時」「買い時」を過度に意識し過ぎないよう注意喚起する必要があるだろう。 Aポートフォリオ思考の習得 〜資産配分(リバランス)を意識する 2つめのポイントは、個々の金融商品の変化に目を奪われず、保有資産全体の安定性を意識することにあ る。家計の資産運用の基本原則はあくまで「資産保持」にあり「儲けること」ではない。保有商品の中には 含み損状態にあるものもあるだろうが、長期でみれば他の保有商品の下落の影響を抑える役割を果たしてい ることが多い。 販売担当者も顧客に対して長期保有と分散投資の重要性を改めて理解してもらう必要がある。投資信託の 場合、短期売買で利益を上げようとしても、多くの銘柄に分散投資する投資信託の基準価額は個別株の価格 より緩やかである。加えて、販売手数料や信託報酬などコスト面からみても短期的な値上がりを捉える売買 には向いていない。時間を味方につけてじっくり育てる姿勢が必要である。 具体的には運用資産の「配分比率」を決めることからはじめることが重要である。既に資産配分比率が決 まっている場合は、最初に決めた資産配分と比較してズレがある場合に購入・売却を通じて比率を元に戻す 「リバランス」を行う。個別ファンドの購入・売却は、あくまで決まった資産配分比率にするための1プロ セスと捉えることが大切である Bリスクの許容範囲を決める 〜ライフサイクルを意識する 3つめのポイントはリスクの許容範囲を決めることである。どれだけリスク性資産に振り向けられるか は、所得の状況や支出目的、ライフサイクル等によって異なる。具体的な支出目的はなく余裕資金の範囲で あればリスクが高く流動性の低い商品を購入してもいいだろう。「教育資金」や「住宅資金」など支出目的 と時期が明確なものは、流動性・安全性を重視した商品に充てるべきである。 年齢もリスク許容の重要なバロメータである。資産形成層となる30−40歳代であれば、リスク性商品 の比率を高めにしていいだろう。一時的な調整があっても長期保有が可能なため、途中で不本意な解約をせ ずに済む。反対にリタイヤ前後の年齢層の場合、老後資金の準備期間が終了する時期になることから、リス クを減らして流動性の高い安全資産の比率を多くすべきである。こうした考えはライフサイクル理論として 資産運用の世界では広く知られるものだが、現実には若年層より高齢層のほうがリスク性資産の比率が高く なっている(図表 3)。若年層は長期のリスクを取れる世代であるため、株式などリスク性資産の比率をも っと高めるべきであり、反対にシニア層は流動性・安定性を重視した資産構成にすべきである。 空気の変化に期待 〜リーマンショックは最高の教材 最近の個人投資家向けセミナーなどでは、リーマンショック以降の金融行動を反省する声も聞かれるよう になったと聞く。投資は実体験を通じて学ぶのが一番であり、その意味でリーマンショックは最高の教材で あることに間違いない。リスク許容量や小口分散の必要性を認識した上で新規の投資に踏み切る個人が増え てくれば「貯蓄から投資へ」の道が拓けてくると期待したい。 図表 1 家計金融資産の時価評価の推移 (出所)日本銀行「資金循環統計」 図表 2 株式投信の解約額と平均保有年数の推移 (出所)投資信託協会 http://www.boj.or.jp/announcements/release_2013/rel130326a.htm/ バーゼル銀行監督委員会による市中協議文書「信用保証取引のコスト認識」の公表について 2013年3月26日 日本銀行 バーゼル銀行監督委員会(以下「バーゼル委」)は、3月22日、「信用保証取引のコスト認識」(原題: Recognising the cost of credit protection purchased)と題する市中協議文書を公表しました。 詳細につきましては、以下をご覧ください。 プレス・リリース(原文<国際決済銀行ウェブサイトにリンク>)(仮訳 [PDF 126KB]) 1 (仮 訳) プレス・リリース 2013 年3 月22 日 バーゼル銀行監督委員会 バーゼル銀行監督委員会が「信用保証取引のコスト認識」(Recognising the cost of credit protection purchased)に関する市中協議文書を公表 バーゼル銀行監督委員会(以下「バーゼル委」)は、本日、銀行が一定の高コスト信 用保証取引を行う場合の資本賦課を強化する提案を公表した。 バーゼル委は、かねて、一定の信用保証取引に伴う潜在的な規制裁定取引への懸 念を表明していた。その際、当該取引の動向への監視を継続し、必要であれば、国 際的に調和のとれた「第1 の柱」(最低資本基準)による対応を検討することを言及し ていた。更なる検討を経て、バーゼル委は、より包括的な第1 の柱による対応に関す る提案を推し進めることを決定した。 バーゼル委は、信用保証の購入が効果的なリスク管理ツールとなりうることを認識し ている一方で、提案されている変更には、信用保証の便益だけでなく、コストについて も規制資本の中で適切に認識されることを確保する狙いがある。これは、銀行に対し て、一定の状況において、信用保証のプレミアムの現在価値を計算のうえ銀行のエク スポージャーとして認識し、1250%リスクウェイトを適用することを求めるものである。 この提案に対するコメントは2013 年6 月21 日(金)までに、電子メールにより baselcommittee@bis.org 宛に提出するか、もしくは、「Secretariat of the Basel Committee on Banking Supervision, Bank for International Settlements, CH-4002 Basel, Switzerland」宛に郵送してもらいたい。全てのコメントは、コメント提出者が明 示的に機密扱いを要求しない限り、国際決済銀行のウェブサイトに公表される。 WEBRONZA【アベノミクスを聞く】第6回 一橋大学教授・小林慶一郎氏 財政有事に備えた危機管理を
WEBRONZA に掲載(2013年2月21日付) 研究主幹 小林 慶一郎 [研究分野] マクロ経済 シリーズ「アベノミクスを聞く」第6回目に登場する有識者は、日本の財政危機を憂える一橋大学経済研究所教授の
小林慶一郎氏だ。世間はアベノミクスに浮かれすぎてはいませんか、危機のマグマはたまっているのですよ――温 和な語り口で、そう諭す「警世の士」である。(インタビューは2月8日:大鹿靖明氏) ――アベノミクスのご評価はいかがですか? 安倍総理が打ち出した「3本の矢」のうちの最初の一つである金融政策は滑り出しがよさそうで、心理的な効果 も含めてよかったかなと受け止めています。3本目の矢の「成長戦略」は、医療介護の規制緩和や株式市場・労働市 場の改革のような「大物」のネタに手をつけないと、ちょっと期待薄ですね。いままで、いろんな成長戦略をつく ってきましたがうまくいっていない。今回も公的ファンドなどで競争力を失った企業を助けるようであれば、成長 しない人たちを助けるだけではないか。それは成長戦略ではないのではないか、と思います。私が特に憂えている のは、2本目の矢の「財政の機動的出動」についてです。政治的には参院選まで「バラマキ」を展開するというのは やむを得ないことかもしれませんが、中長期的に財政を立て直すという方向を示さないと大変なことになると思う のです。しかし、今の安倍政権がはたして財政を立て直していくようなリーダーシップがあるのかどうかは疑わし い。ひょっとしたら矢は的を外れてしまうかもしれない。 ――どういうことですか? 早くも「景気が上向いたら消費税を増税しないでいい」という声があがっていますが、いったい、どういう根 拠でそういう見方が出てくるのだろうと思いますね。米国UCLAのゲイリー・ハンセン教授と南カリフォルニア大の セラハティン・イムロホログル教授は、日本のインフレ率が1%で、現状の社会保障制度をおおむね維持するとした 場合、消費税率を33%ほどに引き上げないと、日本の公的債務が無限大に膨張するのを止めることができない、と 試算しています。今の時点でも、公的債務の対GDP比率が無限大に向かって発散していく途中ですが、それを有限の ところで止めるには、消費税率を30%以上にしないと止まらない、というのです。これは何も奇矯な意見ではあり ません。データをもとに長期的に予測をすれば、自然に出てくる結論なので、日本の多くの経済学者や市場エコノ ミストなども、みな、消費税率を30%以上にしないともたない、とうすうすは分かっています。だからこういう試 算結果を話しても、経済の専門家は驚かない。しかし、消費税率30%という数字を言うと、普通の人は驚いてしま いますね(笑)。いまのは1%インフレのケースですが、これが2%インフレとすると、たとえば年金の支出額は若 干減ります(マクロスライド方式によってインフレ率に見合う増額をしないで、むしろインフレ率よりも抑えぎみ にする仕組みが埋め込まれているからです)。それで財政の負担を少し抑えることができますが、それでも消費税 率を28%ぐらいにしないとなりません。インフレ2%で財政が楽となるといっても、たかだか消費税率4、5%分ぐら いの節約にしかならず、28%もの消費税が必要になってくるのです。つまり、たとえ金融緩和をやってインフレに したとしても、大幅な増税か社会保障費を削減するか、どっちかをやらないとならない。この点は、なにも変わら ないのです。 ――そうなんですか! そういうことをもっと新聞で書いてほしいですよね。あるいは小林さんを含めて学者の 方々も、もっと発信すべきではないのですか。 言っているのですが、しゃべっても記事では小さく扱われて(苦笑)。突拍子もない意見だと思われているの でしょう。でも、いま申し上げた米国の学者たちは向こうの学界の重鎮なのですよ。アメリカの専門家が、素直に 日本の公表された数字をもとにして淡々とシミュレーションしてみたら消費税率30%以上が必要という結論になっ たということです。 ――じゃあ、マスコミのアベミクス礼賛は浮かれすぎでミスリーディングになってしまうかもしれませんね。 金融緩和ですべてが解決するという幻想を振りまくべきではないと思いますよ。多少、円安・株高で輸出産業 が儲かるようになるということではあるでしょうが、一方で東電の燃料調達費はかさむし、景気押し上げ効果がど れほど大きいか疑問ですよ。そもそも金融緩和によっても、財政問題はほとんど解決しない。それどころか、イン フレになって金利が上がると財政破綻が、あっという間に近づいてくる。だから財政再建をきちんと進めながら金 融緩和をしないと。単純に金融緩和だけをやると、カタストロフが近づいて来ます。 ――そうですか? 金利が上がってきたら日銀が引き締めたら済むことでは? でも、日銀が引き締めるということは、さらに金利を引き上げるということなので、ますます高金利で倒産と 失業が大量に増えます。経済がガタっと落ちて、またデフレに戻るのではないのですか。それはストップ&ゴーで すよ。 ――しかし、日本の金融機関は運用先が他にないので、最終的に国債を買うしかなく、需給面がタイトであり続 け、つまり国債は市場で消化され続け、暴落しないで済むのではないでしょうか。 いやいや、円安になってインフレになると、日本国債よりも海外資産が魅力的になります。ですから海外にお 金が流れていくのです。いまはデフレで円高なので、海外に投資しても損をするので、円で持っていたほうが魅力 的です。ですからデフレで円高のうちは国債が買われているのです。もしリフレ政策が成功してインフレになった ら、いままでの「海外資産を買うよりも、日本国債を買ったほうが得」という投資環境が、逆の動きになってしま うのです。日本の銀行だって、海外投資のほうが得するとなれば、海外債券を買うようになるでしょう。そうする と日本国債への需要がガタっとなくなって、ますます国債が売られ、そうなると円安になって、ますます海外資産 を買いたくなる......。いったん、そういうスパイラルになると、国債を持っているのは、銀行や信金、信組など の金融機関ですので、国債が暴落すれば銀行のバランスシートが傷むことになり、1998年ごろにあったような「貸 し剥がし」が横行するようになるかもしれません。地域経済は大きな打撃を蒙るでしょう。同時に株安、円安に債 券安も重なるトリプル安になりえます。そう想定することは決して不合理ではないと思います。ですから、安倍政 権は「これから財政の立て直しもやるんだ」ということをマーケットに信用してもらうような政権運営をしないと いけない、そう考えますね。 ――なるほど。バブルがいつ崩壊するのか予見することは難しいですよね。私も証券市場を担当しているころに ITバブルが崩壊するのを目の当たりにしましたが、「危ういな」と思ってはいても「行け、行け、どんどん」とい う声にかき消されがちでした。リーマンショックも、投資銀行やファンドの中には異様なカネ余りに危機感を抱く 人はいたのですが、ゲームを途中で抜け出すことができませんでした。極端にふれたことは、ある日、予想しえな いような形で崩壊するものですね。投機筋が仕掛けてくるかもしれません。 いまのところデフレが続いているので、日本国債の暴落を仕掛けてきた海外のファンドなどは負けていますが 、アベノミスで一息ついて「どうやら日本は財政再建の意欲がなさそうだ」と思われるようになると、話が変わっ てきます。本当に名目金利が上がり始めると、日本の財政破綻シナリオがありうることと受け止められるようにな ります。そうなると制御できなくなって国債が暴落するということはありえますね。 ――そのときの危機管理シナリオというのを政府は考えないといけないのではないですかね。 実は財務省や経産省、日銀OBら何人かで財政破綻のシナリオを何度か議論をしてみたのですが、ほとんど何も 準備がなされていないというのが実情なのです。たとえば生命保険会社をどうするかという問題があります。生保 も国債を大量に持っているのですが、銀行ではないので日銀の取引相手ではない。いざとなると流動性危機に陥り ます。日銀が生保に流動性を供給するには、生保のメーンバンクを通じて供給するしかない。はたして、そういう ことが危機の時にスムーズにできるのか。そもそも日本政府の資金繰りが今の法律では年度をまたげないという問 題もあります。年度内ならば日銀からいくらでも借りられるので日銀から借りられますが、3月31日を超えて資金繰 りを続けるというのは今の制度上では想定されていない。そうなると、政府がその月に決まった現金を支払えなく なりますから、年金の支払いや公務員給与が払えない。支払いの時期をそうとう繰り延べるとかしないといけない 。そのときの資金繰りをどうするか。それと地方の信金、信組が破綻して地域経済がメタメタになる。それをどう するか。 ――少しは政府で考えている人はいないんですか? 個人的に心配している人はたくさんいますが、茶飲み話でいうくらいで、業務として考えている人はいないん です。日本の軍隊と同じで、「負ける」という前提のシミュレーションを考えることはやらないのです。なぜやら ないのか、という理屈がいかにも官僚組織の病理を象徴しています。彼らの理屈はこうです: 「財政再建を成功させる(財政破綻をさせない)」ことが政府の任務なので、「財政破綻が起きたらどうする か」というシミュレーションをすること自体が、政府の自己否定になる。だから、財政破綻が起きることを前提に した事後対策を考えることを、政府がやってはならないのだ......。 財務省の人もそれ以外の人も政府の役人に財政破綻が起きた場合の対策を考えないのかという話をすると、口 をそろえて、「政府の公式な業務としてはやれない」と言いますね。結局、官僚組織のロジックを乗り越えるには 、政治家からの強力な命令がなければなりません。政治家から命令されれば、官僚は「財政破綻後のシミュレーシ ョン」を堂々とやれるわけです。しかし、政治家は政治家で、財政破綻なんて起きないだろうとタカをくくってい る人が多い。だから、政府に入った与党の政治家は、「財政破綻後のシミュレーションをやれ」、と官僚に言わな い。こうして官僚も言い出せず、政治家も言い出さず、国民世論も言い出せない、という三すくみのような状態で 、「財政破綻が起きた場合の対策」という重要な政策課題が、手つかずのまますっぽり抜け落ちているのです。 ――非公式には? 週刊誌が、国債暴落を検討したシミュレーションが財務省にある、と報じていましたよ。 週刊誌が書いたのは、国債マーケット対策について財務省が検討したものですね。そういう個別対策はやって いるかもしれませんが、危機の全体シナリオはできていない。年金を支払いできないときにどうするかとか、かな りの増税策を打ち出さないとパニックを止められないけれど、それをどうするのかとか、破綻寸前の金融機関の対 策も必要だけれど、どうするのかとか。とにかく財政にかかわるあらゆる分野を動員して考えなければならないの ですが、それをやっていない。 ――じゃあすべては想定外なわけですね。原発事故とまったく同じですね。 原発事故が起きる前は、原子炉のことは細かく想定していても、大規模な住民避難は考えていなかった。それ と近いことが財政分野でも起きています。公的年金の支払いや公的医療サービスが滞るようなことがあれば、生命 の危機にさらされる人も出てくるでしょう。 ――過去に財政破綻した国からケーススタディを学んで対策を研究することはできないのですか。中南米諸国と かギリシャとか、終戦時の日本とか。 アルゼンチンは物価が百何十倍にもなって、自国通貨の信認が失われてドルに逃避して、公的医療も崩壊して 普通なら助かる人が死亡したといいます。貧困層の方は相当間接的な影響を受けて亡くなっているはずです。 ――そういう指摘が「トンデモ学者」、あるいは「オオカミ少年」とみられることはないですか? 私はすぐ明日にもそうなるとはいっていません。財政危機のマグマがたまっているということを言っているの です。なぜいま国債が暴落しないのかというと、円高傾向が続いているため、金利がゼロであっても国債を買った ほうが海外投資よりも儲かるため、買われているのです。日本の国債の95%は国内の投資家が持っています。経常 収支黒字(貿易収支も震災までは黒字)でしたので、海外で儲けたお金を国債に投資するようになっています。こ の状態が続けば十数年は財政破綻まで余裕があると思っていましたが、インフレになるとひょっとしたら数年後く らいに危機の到来が近づくかもしれません。 ――小林家はそれに対する「我が家の防衛策」はありますか? ですから、こうやって情報発信して「改革をやってください」というのが最大の防衛策です。私は、こうした 現状を踏まえて高齢者の方々が「自分たちの年金や医療を削減してください」と言い出すようになってほしいと思 っています。「給付は少なくていい」と高齢者に言ってもらいたい。若者から吸い上げて高齢者に回しているので すからね。今後、高齢者医療費の財政負担が年金以上に国にとって重荷になってきます。早く納税者番号制度を導 入して、豊かな高齢者とそうではないお年寄りとを区分できるようにし、高齢者の中でも本当に気の毒な人だけに 公的支援を手厚くする仕組みにしないと社会保障制度が持ちません。若者や現役世代だけではなく、豊かな高齢者 にも応分の負担をしてもらって、気の毒な高齢者に回すような同世代の相互扶助の制度を作るべきです。 小林 慶一郎 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート 2013.03.26 WEBRONZA【アベノミクスを聞く】第6回 一橋大学教授・小林慶一郎氏 財政有事に備えた危機管理を 2013.02.22 財政再建も成長戦略 2012.11.22 「約束の限界」認識を 2012.07.27 技術変化は格差を縮める 2012.03.28 「危機後は不況長期化」なぜ 小林 慶一郎 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート 2013.03.26 WEBRONZA【アベノミクスを聞く】第6回 一橋大学教授・小林慶一郎氏 財政有事に備えた危機管理を 2013.03.22 海外の地域包括ケアと非営利事業体から学ぶ −第4回日本− 2013.03.22 海外の地域包括ケアと非営利事業体から学ぶ −第3回カナダ− 2013.03.21 TPP交渉参加表明・今後の見通しは? 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