09. 2013年3月20日 01:03:43
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大前研一の「産業突然死」時代の人生論 シャープが「小さな資本提携」に終始するのはなぜか2013年03月19日 シャープは韓国サムスン電子の出資を受け入れることを発表したが、これはアナウンス効果を狙ったその場しのぎでしかない。 経営再建をするには、思い切った経営刷新か、覚悟を決めて外資を本格的に受け入れるしかないのではないか。 株価の急落で鴻海との協業シナリオが崩れる 経営再建中のシャープは3月6日、サムスン電子と資本提携すると発表した。サムスンの日本法人を引受先とする第三者割当増資を実施し、103億円の出資を受け入れるというものだ。 台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との協業で危機を脱するというシナリオに崩れが生じ、サムスンとの提携に活路を見いだす考えなのだろう。 これまでシャープには、資本提携の話が四つも浮上している。一つは2012年3月にスタートした鴻海との提携で、シャープが実施する670億円の第三者割当増資を引き受け、議決権ベースで9.99%を持つ筆頭株主となるはずだった。 ところが、実際には株価の急落によって増資は進まず、両者の交渉は暗礁に乗り上げた。 経営まで含めた資本提携ではなく、代金の先払いのようなもの その一方で、鴻海による液晶パネルの引き取りは進んでいる。大阪府堺市にあるシャープの液晶パネル工場で生産販売子会社シャープディスプレイプロダクト(SDP)が生産する液晶パネルおよびモジュールについて、その50%を鴻海が最終的に引き取るというものだった。鴻海の出資はないが、鴻海の創業会長である郭台銘氏が個人でSDPに出資し、堺ディスプレイプロダクトと社名を変更している。
その後、鴻海の態度が煮え切らないということで、2012年11月に米半導体大手インテル、米通信技術大手クアルコムとの資本提携話が持ち上がった。クアルコムとの間では、12月に資本提携が成立しているが、実際には100億円の半分しか振り込まれていないし、インテルとの交渉も難航していると伝えられている。 そして今度はサムスンと、シャープは資本提携先を探してかけずり回ってきたのである。 ただ、いずれの提携も出資額は100億円程度、時価総額の3%程度にとどまっている。これはどういうことかと言えば、経営まで含めた資本提携ではなく、代金の先払いのようなものということだ。 つまり、サムスンの場合には、液晶パネルなど将来シャープから買う分の一部を資本金という形で先払いしているに等しい。実態としては誰もまだシャープに本格的な資本を入れていないと考えて良い。 アナウンス効果で株価は持ち直したが…… 言ってみれば、「この人もウチに資本を入れてくれます」というアナウンス効果を演出することによって、シャープの株価は下げ止まっているのだ。実際、サムスンが100億円出資するという話が出ると、株価は持ち直した。 下の「シャープの現金・預金と株価の推移」を見ていただきたい。 [画像のクリックで拡大表示] クアルコムやサムスンとの資本提携が発表されると、シャープの株価は上昇し、3月8日時点で時価総額は3628億円にまで回復した。とはいうものの、この時価総額ではまだまだ安いというのが現実だ。
サムスンや鴻海がシャープを買収しない二つの理由 サムスンや鴻海からすれば、シャープの時価総額3628億円すべてを買うことも朝飯前である。では、どうして彼らはシャープに本格的に手を出さないのか。それには二つの理由が存在する。 一つは、シャープ経営陣への不信感である。シャープ経営陣は資本提携先に経営に干渉してほしくないと考えており、信頼関係が築けていない。シャープ側がちゃんと経営できてないから業績が悪化しているのに、経営への干渉は許さないという態度を貫いている。 さらにいえば、シャープ経営陣の間に不和が存在しているため、資本提携の交渉する側もあきれて経営に手を出す気にならない、ということもあるだろう。いずれせよ、シャープ経営陣への不信感が、大きな重しとなっているのだ。 もう一つの理由は、日本の産業政策にある。「シャープが外資の手に落ちる」ということを経済産業省が嫌う、と見ているのだ。 経営再建中の半導体大手ルネサスエレクトロニクスがそうだったように、経産省は自国資本を守ろうとする。米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)のような外国の会社がルネサスを買おうとしているのに、経産省は「日の丸ファンド」を作ってルネサスを救済しようとした。外資の手に落ちるくらいなら税金を使ってでも日本勢が救済するという政策が横行している。 このままでは“本当の投資家”は現れない 外資はそうした日本の産業政策をよく見ている。だからこそ、シャープ救済に手を挙げたところで、経産省がやって来て最後は持って行ってしまうだろうと考えているのだ。これでは、シャープへの出資に躊躇するのも無理はない。 このように、シャープ経営陣の内紛と「わが子かわいさ」の経産省が“本当の投資家”の登場を阻んでいるのである。 シャープは良い技術を持っていると言われているが、それほど突出した技術があるわけではない。現にスマホやタブレットはシャープ以外の会社の液晶で立派に売れている。 基本的には、現在の経営力が改善されない限り、外資を中心に他の会社に工場や技術の多くを譲らなければ再建が果たされることはないだろう。 シャープを抜本的に立て直したいなら、経営陣と経産省は認識を改める必要がある。 TeamH2Oが2011年10月に提出した福島第一原発事故に関する報告書をベースにまとめた単行本『原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書』(小学館)が2012年7月25日に発売されました。 報告書「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」 米MITで原子力工学博士号を取得し、日立製作所で高速増殖炉の炉心設計を行っていた大前研一氏を総括責任者とするプロジェクト・チーム(TeamH2O)は、「民間の中立的な立場からのセカンド・オピニオン」としての報告書「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」をまとめ、細野豪志環境相兼原発事故担当相に10月28日に提出しました。 報告書のPDF資料および映像へのリンクは、こちらです。最終報告、補足資料はこちらをご覧ください。 ■コラム中の図表は作成元であるBBT総合研究所(BBT総研)の許諾を得て掲載しております ■図表、文章等の無断転載を禁じます ■コラム中の図表及び記載されている各種データは、BBT総研が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、BBT総研がそれらのデータの正確性、完全性を保証するものではありません ■コラム中に掲載された見解、予測等は資料作成時点の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります ■【図表・データに関する問合せ】 BBT総合研究所 https://www.bbt757.com/inquiry/mailform.asp?id=11 大前研一の「「産業突然死」時代の人生論」は、09年4月7日まで「SAFETY JAPAN」サイトにて公開してきました。そのバックナンバーはこちらをご覧ください。
『大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉』 (大前研一著、日経BP社) ◎目次 序――私の思考回路に焼きつけた言葉/答えのない時代に必要なこと/基本的態度/禁句/考える/対話する/結論を出す/戦略を立てる/統率する/構想を描く/突破する/時代を読む/新大陸を歩く/日本人へ ◎書籍の購入は下記から 日経BP書店|Amazon|楽天ブックス|セブンネットショッピング ◆「大前研一の著書に学ぶ『洞察力の磨き方』」はこちらをご覧ください。 大前 研一(おおまえ・けんいち) 1943年、福岡県に生まれる。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。以来ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。 2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラム(ビジネスブレークスルー大学院大学)が開講、学長に就任。経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権の国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。 著作に『さらばアメリカ』(小学館)、『新版「知の衰退」からいかに脱出するか?』(光文社知恵の森文庫)、『ロシア・ショック』(講談社)など多数がある。 大前研一のホームページ:http://www.kohmae.com ビジネスブレークスルー:http://www.bbt757.com |