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世界有数の資源大国、ニッポン 中国など発展途上国の経済成長で重要性高まる
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/385.html
投稿者 eco 日時 2013 年 3 月 16 日 08:29:01: .WIEmPirTezGQ
 

JBpress>日本再生>今週のJBpress [今週のJBpress]

世界有数の資源大国、ニッポン 中国など発展途上国の経済成長で重要性高まる
2013年03月16日(Sat) 川嶋 諭
 春の嵐が日本列島を襲っている。先週末は山形県の金山町に行った。今年は記録的な大雪でまだ2メートル以上の積雪がある秋田県との県境にある町である。ここでとれる杉材はその質の高さが日本一(世界一)とも言われている。

樹齢80年以上の木しか伐採しない

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 東京から山形新幹線に乗って終点の新庄まで行き、そこからはクルマ。福島までは順調だった新幹線も、強風のため福島と新庄間は往きが25分、帰りは35分も遅れた。東京から4時間以上かかった。

 金山町では自慢の林業を育成するために開かれている金山杉サミットに参加した。サミット後には町が運営する森林交流館「木もれび館」で和かんじきの製作を体験。

 自分で作ったかんじきを履いて積雪2メートル以上の山道を吹雪の中約1キロほど歩き樹齢92年の金山杉伐採作業を見学に行った。

 金山杉は間伐を除いて樹齢80年以上の木しか切らないそうだ。良い材木を供給しつつ山をきちんと守り続けるためだという。

 非常に寒く雪深い中でも、伐採作業は行われていた。チェーンソーで切り倒す杉の木に受け口を切り、その後反対側に追い口を切り、さらに横にも切り込みを入れて倒れる方向を安定させるために楔を打ち込み、最後に追い口側から最後のチェーンソーを入れて切り倒す。

 切り倒された杉の木の断面は樹皮に近い部分は白みかかっているが、中心部はきれいなオレンジ色をしている。このオレンジ色が金山杉の特徴なのだという。

 建材にしたときに、柔らかく温もりのある手触りが得られる一方で、構造材として強度が極めて高く、ひび割れが生じにくい。またシロアリなどの防虫性も高いそうだ。

 金山町森林組合の方の説明によると、夏は高温多湿、冬は雪深くとにかく寒い、その厳しい自然が素晴らしい杉の木を育てるという。人間が住むにも大変な環境だが、世の中はよくできたもので、悪いことばかりではない。

 しかし、その厳しい環境の中でも生きる知恵を考え出し、産業を興していく人間の力もまた素晴らしい。そしてそうした環境の中で育まれた知恵はちょっとやそっとのことでは押し流されることがない。

 金山町の林業は、自分たちに恵みを与えてくれる山を守るという伝統を江戸時代から連綿と続けてきた。しっかりと間伐を行って樹の発育を促し、樹齢80年以下の木は切らない。森の中には樹齢250年を超える杉の林もあるそうだ。

カナダ、ロシアに並ぶ資源大国

 21世紀に入って、BRICsと呼ばれる人口の多い国々が高い成長率を遂げ、地球規模で経済は大きくなった。それに合わせて住宅用の木材需要も急速に伸びている。しかし、熱帯地域ではこれまでの乱獲によって森が痛み、世界的な需要に応えられなくなっている。

 世界で豊富な森林資源を持つ国として、日本はカナダ、ロシアと並んで極めて重要な国となっている。世界経済の観点からも日本の林業はいま注目産業なのである。こうした時代に金山町のこれまでの取り組みは花開こうとしている。

 そこにあるのは古い伝統を守るだけではない。新しい技術と結びついて、極めて快適で省エネ効果の高い住宅を提供しようという試みが始まっている。

 例えば、最近開発された金山杉を使った木のサッシ。ガラスは3重にしてあり、私たちに馴染みの深いアルミの窓枠の代わりに美しい金山杉が使われている。柔らかいこの素材は爪で引っかくとすぐ傷がつくが、水でひと拭きすると爪でつけた痕は消えてしまう。

 アルミに比べて熱によって伸び縮みしないので、密閉度はアルミサッシよりはるかに高くなる。熱伝導率も金属よりはるかに低いので、冬に結露したり凍結する恐れもない。

 また自動車や歩行者に優しい素材として米国などでは当たり前になっているが、間伐材を使ったガードレールが日本でも始まろうとしている。

 金山杉を使ったこうした新しいビジネスはこれから紹介していきたいと思う。一方、この金山町の経営も面白い。昭和や平成の大合併を避けて独立独歩の経営を貫いてきた金山町だが、このところ急速に公債比率を下げて財政を健全化に向かっている。

 自分たちのアイデンティティーに誇りを持ち、中央政府にできるだけ頼らずにすむ自立した経営を目指す。この点については近々に金山町長のインタビューも交えてご紹介するつもりだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37377  

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コメント
 
01. 2013年3月16日 09:49:33 : xEBOc6ttRg
http://www.iti.or.jp/kikan91/91tejima.pdf
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●101
論 文
現代の収穫逓増産業の国際競争:
イノベーションと国際ネットワーク
手島 茂樹 Shigeki Tejima
(一財) 国際貿易投資研究所 客員研究員
二松学舎大学 教授
要約
現代の多国籍企業の多くは収穫逓増産業(費用逓減産業)に属しており、
各々、オープンネットワークやクローズドネットワークを用いて国際競争
をしているが、これらの国際競争は、その特性から、概ね三つの類型に分
類することができる。各々の特性は、各々の競争力を支える「革新的イノ
ベーション」および「破壊的イノベーション」に基づくものであり、日本
企業の「漸進的、ボトムアップ型の革新的イノベーション」と関連企業間
のクローズドネットワークに基づく国際競争力には、欧米・アジア企業に
はみられない固有の強みと課題がある。しかし、製品ライフサイクルの短
期化が加速化し、急速な汎用品化が進むという現代特有の世界の潮流の中
で日本企業が競争力を持ち続けるためには、多面的な「革新的イノベーシ
ョン」によって、高付加価値な新製品の大規模市場を開拓し続ける必要が
あり、そのためには、海外人材を活用した海外研究開発拠点の増強等によ
って、研究開発能力と市場開拓能力とを一層、結びつける必要がある。
はじめに
日本企業が直面している現代の国
際競争の実態は、「革新的イノベーシ
ョン」と「破壊的イノベーション」
に基づいた、現代的な三種類の独占
的競争であると考えられる。そのう
http://www.iti.or.jp/102●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
ちのひとつについては、日本企業は
依然として競争力を持つが、他の二
つについては夫々、米国企業やアジ
ア企業が競争力を持ち、日本企業は、
十分な競争力を持つとはいえない。
本稿 1.では、アジア企業が競争力
を持つ「独占的競争 I 型」について、
2.では、米国企業が競争力を持つ「独
占的競争 II 型」について論じ、3.
では、日本企業が競争力をもつ「独
占的競争 III 型」について論ずる。4.
では、急速な汎用品化が、「独占的競
争 III 型」に与える影響について論ず
る。「終わりに」は本稿の結論であり、
製品ライフサイクルの短期化が加速
し、新製品の急速な汎用品化が進む
という現代世界の潮流の中で日本企
業が競争力を持ち続けるためには、
どうすべきかを論ずる。
1.急激な費用逓減と破壊的イノ
ベーション
IT エレクトロニクス・家電産業は、
製品ライフサイクルの短期化が加速
し、新製品の「需要・供給両面から
の急速な汎用品化」が進む i
、という
現代世界特有の潮流が最も顕著な産
業であり、連続的な技術革新(「破壊
的イノベーション ii」)による製品の
標準化の結果、「製品」(同産業に属
する部品・素材メーカーの場合、当
該企業にとっての「製品」である部
品・素材を含む、以下同じ)は一定
水準の品質を維持しつつも、その生
産にあたっては、コストおよび価格
の引下げ競争が、激烈になる。製品
および生産方法の標準化が急速に進
むため、取引費用は劇的に減少し、
しかも、リスクの高い大規模設備投
資等を連続的に必要とする。こうし
た産業は、筆者がこれまで論じた産
業競争のマトリックス表の(D1)-
(D3)産業に相当し iii
、「独占的競争
I 型」は、この産業分野で典型的に
見られる。
このように連続的に大規模な設備
投資や研究開発投資が必要な産業で
は、「各企業が規模の経済の達成をは
かる過程で収穫逓増(費用逓減)を
実現しうるために、競争破壊的な価
格引き下げ競争に陥るおそれがある
(村上 1992)iv」といわれる。しか
し、この競争の本質を知るためには、
そこで生ずる事情をより詳細に見る
必要がある。
http://www.iti.or.jp/現代の収穫逓増産業の国際競争:イノベーションと国際ネットワーク
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●103
「独占的競争 I 型」では、図 1 に
示されるプロセスを辿って、収穫逓
増(費用逓減)が実現されると考え
られる。IT エレクトロニクス・家電
産業において、ひとたび製品のコン
セプトが確立されてしまえば、連続
的に、「破壊的イノベーション」に基
づく標準化・コスト削減を推進する
ことによって、費用・価格の逓減が
図られる。この点を図 1 によってみ
ると、最初の破壊的イノベーション
(これを「破壊的イノベーション A」
とする、以下同じ)に基づく大規模
設備投資を実現して、(かなり標準化
された)「差別化製品」(含む素材・
部品、以下同じ)を生産し、一時的
に独占的地位を享受できる当該企業
は、図 1 の A 点で、右下がりの需要
曲線 D1D1 に直面し、しかも、常に
競合先からの競争圧力を受けている
ために、短期平均費用曲線 1 は需要
曲線 D1D1 に接している。言い換え
れば、顕在的・潜在的な競争圧力を
受けつつも、技術革新と大規模設備
投資によって、一時的には、差別化
商品としての自社製品の地位を享受
し、一種の独占的競争を行っている。
議論の簡単化のために、(複数の)競
合企業も同様の破壊的イノベーショ
ンに基づく設備投資を行い、同様の
ポジションにあると考える。
D1   長期平均費用曲線(LAC)
A
D2
      短期平均費用曲線1(SAC1)
B  短期平均費用曲線2(SAC2)
D3
 短期平均費用曲線3(SAC3)
長期平均費用曲線(LAC)
C
      LAC
D1 D2 D3
生産・販売量
価格・費用
図1 独占的競争 I 型(筆者作成)
http://www.iti.or.jp/104●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
注目すべきは、潜在的・顕在的な
競合先からの競争圧力の下で、当該
企業は一層の標準化・コスト削減の
ための「破壊的イノベーション B」
によって、一層の費用・価格の逓減
と量産化が可能であり、もう一段の
規模の経済が達成可能であることで
ある。図 1 において、「破壊的イノベ
ーション B」が新たな設備投資によ
って実現されれば、短期平均費用曲
線 2 が実現され、当該企業は A 点か
ら B 点にシフトし、A 点より低い平
均費用を、B 点において実現できる。
しかし、このシフトには大きなリ
スクを伴う経営判断を要する。なぜ
なら図 1 において元の需要曲線
D1D1 を前提とすれば、当該企業は、
平均費用を下回る販売価格を甘受し
なければならないからである。
現実には、競合する複数の企業のう
ち、「破壊的イノベーション B」とそ
れに伴う設備投資を断行するという
大きなリスクを伴う経営判断の出来
ないものは、競争から排除される。そ
の一方、新たに、「破壊的イノベーシ
ョンB」に基づく設備投資を行って新
規参入する企業もありうる。このよう
な新規参入は、2.に論ずるように、
例えば、高いリスクテイクを選好する
(当該企業とは別の)アジア等の新興
国企業(EMS企業等)が、「破壊的イ
ノベーションB」あるいはそれに類似
の技術ノウハウを、日本企業や米国企
業等から獲得する際に起こりうる。
以上の事情の結果、当初 A 点にあ
った当該企業がB点にシフトする際
には、需要曲線は D1D1 から D2D2
にシフトすると考えられる。
さらに、同様のパターンで、「破壊
的イノベーション C」が新たな大規
模設備投資によって実現され、C 点
が当該企業によって達成されるとき
には、別の競合先企業が退出を余儀
なくされる一方、新たな新規企業の
参入もあり、当該企業にとっての需
要曲線は D3D3 となる。このパター
ンが繰り返し起これば、結果的に、
連続的な破壊的イノベーションとそ
れに基づく連続的な設備投資の結果、
図 1 の長期平均費用曲線に沿って、
長期平均費用(これは、長期限界費
用よりも大きい)は減少し続ける一
方、当該企業の直面する需要曲線の
傾きは、D1D1 から、D2D2 へ、さら
に、D3D3 へとますます緩やかにな
る。
http://www.iti.or.jp/現代の収穫逓増産業の国際競争:イノベーションと国際ネットワーク
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●105
以上のプロセスは、技術革新を伴
って収穫逓増(費用逓減)を実現す
る一連の過程そのものであり、当該
産業は「連続的な破壊的イノベーシ
ョンを踏まえた、規模の経済の達成
過程にある」収穫逓増(費用逓減)
産業であるという特性を持つ(図 1)。
これを、「供給面からの汎用品化」と、
捉えることができる。
図1のA点からC点へのシフトは、
「国際貿易と投資」87 号 v
で筆者が
論じたように、品質(縦軸)と価格
(横軸)で市場の特性と技術的な生
産面の特性を表した図 2 において、
矢印Bで表される、技術体系 T2T2
に沿ったB点からC点へのシフトに
他ならない。すなわち、図 2 の F2F2
曲線から SS 曲線へのシフトで表さ
(汎用品化以前)
「革新的イノベーション」
に基づく特殊性の高い   Cを起点としD点に到達する、新しい
中枢部品等および最終製品の   「革新的イノベーション」と新しい
F2 ファースト・ベスト市場   ファーストベスト市場の創出
高品質
T1
T2 F3
D
 B' B
  T3
      A     B
F1     @    C F3
S
    A
C (汎用品化以降)
T2 汎用品化された部品
Qmin および最終製品の
セカンド・ベスト市場
低品質 T1
F1 F2 S
高価格 低価格
図2 革新的イノベーション、破壊的イノベーション、ファーストベスト
市場、セカンドベスト市場(筆者作成)
http://www.iti.or.jp/106●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
れる「需要サイドの汎用品化」に対
応して、連続的な破壊的イノベーシ
ョンとそれを実現する設備投資によ
って、「供給サイドの汎用品化」を達
成するものである。なお、「需要サイ
ドの汎用品化」は、新興国を中心と
した「セカンドベスト市場(一定品
質が充足されていれば、より低価格
を志向する市場)」の急速な拡大によ
るものである vi

図 1 では、品質については、明示
的ではないが、図 2 においては、B
点から C 点へのシフトの過程で、当
該製品は、一層標準化され、品質は
低下するものの、品質の低下割合は
逓減し、しかも市場のニーズを十分
充足するものであることが明らかで
ある。
IT エレクトロニクス・家電産業で
は、製品ライフサイクルの短期化に
基づく汎用品化の下で、世界的に価
格志向が強まっているため、連続的
な「破壊的イノベーション」をとも
なう「独占的競争 I 型」に打ち勝ち、
「供給サイドの汎用品化」を推進す
ることの意義は大きい。
しかしながら、この競争は、積極
的な大規模設備投資と破壊的イノベ
ーションのための研究開発投資を継
続的に必要とする一方で、上記の通
り、「過当競争」ともいえる激烈な価
格引き下げ競争を伴う。このため、
この競争戦略を断行し、成功するた
めには、リスクを恐れぬ、積極的か
つ速やかな経営判断と実行能力を伴
う企業経営が必要である。
想起すれば、1980 年代の日米半導
体競争等においては、日本企業は、
まさにこうした競争において勝者で
あったが、現在、薄型 TV 等で、価
格引き下げ競争で打ち勝っているの
は、サムソン等のアジアのいくつか
の IT エレクトロニクス・家電企業で
ある。
この「独占的競争 I 型」において
ライバル企業の大半を排除する一方、
新規参入企業があまりなければ、当
該企業は、結果的に独占利潤に近い
大きな利益を上げることができる。
逆に「破壊的イノベーション」が広
汎に伝播すれば、価格競争は激化し、
汎用品化への道は一層加速し、最終
的に誰が勝者になるかは判じがたく
なる。
http://www.iti.or.jp/現代の収穫逓増産業の国際競争:イノベーションと国際ネットワーク
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●107
2.新製品の創出、急進的な革新
的イノベーションとオープ
ンネットワーク
第二に、米企業アップルのような
「新製品の創出企業」が、これまで
世界に存在しなかった新製品の開発
を速やかに、「トップダウンによる、
急進的な革新的ノベーション」によ
って行うことに成功すれば、当該分
野における勝者になりうる vii。例え
ば、かつてのメインフレームに対す
るパソコンの発明およびその OS(オ
ペレーテイングシステム)や MPU
のような主要機器の創出、さらに、
最近のアイポッド、アイフォーン、
アイパッド等の創出がこれに相当す
る。市場創出能力のある新製品の開
発を連続して行っていくことが出来
れば、IT エレクトロニクス・家電分
野でのプロダクトライフサイクルの
短縮化が加速し、汎用品化がすすん
でも、「新製品の創出企業」は十分に
対応し、競争力を維持できる。これ
が「独占的競争 II 型」である。しか
も、「供給面からの汎用品化」の潮流
を踏まえて、ハードウエアとしての
新製品は「破壊的イノベーション」
によって、最初から標準化をはかり、
これら新製品の製造は契約ベースで
100%、アジアのサプライヤーに契約
ベースで外注を行う「オープンネッ
トワークによる国際分業」の確立に
成功すれば、1.で論じた「独占的競
争 I 型」に邁進するアジア企業を制
御することもできる。アップルと台
湾企業ホンハイ(鴻海)の関係のよ
うに、ハードウエアとしての新製品
の価格競争力はパートナーのアジア
企業が保持する一方、新製品のブラ
ンド支配力そのものは、米国等の新
製品創出企業が確保することが可能
である。この産業分野は、筆者が論
じた産業競争のマトリックス表の
(B2)産業に相当する viii

このメカニズムを図 2 で確認すれ
ば、上記の「急進的な革新的イノベ
ーション」を行う米国企業は、B 点
において、新製品の新市場を産み出
す。新製品は、急速に汎用品化する
ことを当初より見込んだ上で、積極
的に「破壊的イノベーション」を自
ら推進し、アジア企業等に、供給サ
イドの汎用品化を推進させれば、上
記 1.の「現代の独占的競争 I 型」
で論じたプロセスをとり、アジア企
http://www.iti.or.jp/108●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
業は図2のC点で競争力を確立する。
しかし、「急進的な革新的イノベーシ
ョン」および「破壊的イノベーショ
ン」で主導権を握る米国企業は、図
2のB点およびC点で表されるオー
プンネットワーク(すなわち、契約
ベースの国際分業)の主導権も握る
ことができる。アップル等の米国企
業は、新製品の創発に関する自己の
競争力の根幹部分(「トップダウンに
よる、急進的な革新的イノベーショ
ン」)は安全に保持した上で、「意図
して」破壊的イノベーションを推進
し、技術移転を行って、ホンハイ等
の EMS 企業に生産を担当させるこ
とができる。1.で論じたように、高
いリスクテイクを選好するアジア等
の新興国企業が、「破壊的イノベーシ
ョン A, B, C」等に関する技術ノウハ
ウを、米国企業等の新製品の創出企
業から供与される際に、「現代の独占
的競争 I 型」は激化する可能性があ
る。
このような状況の下で、新製品創
出企業は新製品が完全に汎用品化す
る前に、新しい「急進的な、革新的
イノベーション」の推進に注力し、
次の世代の新しい新製品を創出する
ことに成功すれば、この競争で勝利
し続けることができる。これが「独
占的競争 II 型」の典型的なパターン
である。
但し、「独占的競争 I 型」を行うア
ジア企業等が競争力を強めて、自ら
新製品の開発を行うブランド力のあ
る企業を目指そうとすれば、必然的
に、「独占的競争 II 型」を行う米国
等の新製品創出企業との間で新しい
競争が生ずる。最近のアップルとサ
ムソンの法廷闘争はこうしたせめぎ
あいの一つのパターンと考えられる。
この帰趨は、アジア企業等が、「革新
的イノベーション」を達成しうるか
否かにかかっている。
3.事後的な新製品創出、漸進的
な革新的イノベーションと
クローズドネットワーク
独占的競争の第三の類型である
「独占的競争 III 型」は、自動車産
業に見られるように、製品および部
品の汎用品化が容易に進まないとい
う需要特性を持つ世界市場で生ずる。
この場合、供給サイドでは、主要
企業が、最新の技術を用いて、各々
http://www.iti.or.jp/現代の収穫逓増産業の国際競争:イノベーションと国際ネットワーク
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●109
の基盤とする母国を中心に形成した
(当初の)「最適規模の経済」に基づ
く生産システムはそれぞれ安定的で
あり、日米欧の主要先進国ライバル
企業の間でほぼ同水準の最新技術に
基づき、ほぼ同額の「長期平均総費
用=長期限界総費用」が共通に成立
していると考えられる。簡単化のた
めに日米欧の主要先進国ライバル企
業は、当初、図 3 の直線 MRTF であ
らわされる同一水準の「長期平均総
費用=長期限界総費用」を実現して
いると考える。そうした意味で第 3
の類型の独占的競争を行う産業は、
製品および部品の汎用品化が容易に
進まないという需要特性に対して、
技術的に安定した生産システムのも
とで、主要企業が基本的に規模の経
済を達成した「成熟産業」である。
但し、総費用は生産費用と取引費用
の和であり、生産費用は生産・販売
量の関数であるが、取引費用は、対
象とする財・サービスの特殊度(資
産の特殊性)および内製率(内部開
発率)の関数である ix。汎用品化が
容易に進まないこと、言い換えれば、
「特殊品」のウエイトが非常に大き
いことは、総費用に占める取引費用
のウエイトが大きいことを意味する。
この産業分野は、筆者が論じた産業
競争のマトリックス表の(A)産業
に相当する x

A 当該企業にとっての限界収入曲線
当該企業にとっての需要曲線
     D
     H
     L    E
当初の長期平均総費用=当初の
     M       R  T      F    長期限界総費用
     K       S  U    G イノベーション達成後の
長期平均総費用=
   同長期限界総費用
     O     P  Q C B
生産・販売量
価格・費用
図3 独占的競争 III 型(筆者作成)
http://www.iti.or.jp/110●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
こうした成熟産業では、主要企業
(およびそのグループ)が、それぞ
れ世界市場のかなり大きな部分を安
定的に占めており、世界市場は多国
籍企業による国際的寡占市場と考え
ることが出来る。
ただし、自動車産業等の世界市場
は、近年までは先進国を中心に、現
在は新興国・発展途上国を中心に、
持続的に成長している。こうした成
長する世界市場においては、主要企
業は、製品コンセプトそのものを直
ちに大きく変えることはなくても xi

競争圧力によって、新製品の開発・
供給、コスト削減・生産性向上を不
断に行うことを迫られる。その意味
で現代の成熟産業は収穫逓増産業に
転じている。
こうした「独占的競争 III 型」の際
立った特徴は以下のとおりである。
その主要企業は、既に達成した規模
の経済と既に獲得した差別化商品市
場における一時的な独占的地位の故
に、図 3 にみるように、企業の販売
価格が長期平均費用(=長期限界費
用)を超える、D 点で生産・販売を
行い(R 点で限界収入=限界総費用
となる)、超過利潤である四角形
HDRM を獲得している。新たな技術
革新とそれに伴う設備投資を行うに
あたって、「独占的競争 III 型」では、
この超過利潤を経営資源として利用
することが出来るため、ハイリスク
な設備投資に当たり、深刻な経営判
断を迫られる「独占的競争 I 型」と
は異なる状況にある。
また、先に論じたように、総費用
は生産費用と取引費用の和であり、
簡単化のために、生産費用が日米欧
企業に共通であったとしても、この
取引費用のウエイトが大きくなるた
め、取引費用の削減が、企業のコス
ト・価格競争力の重要な淵源となる。
その意味でも、全面的に汎用品化・
標準化が進み、「破壊的イノベーショ
ン」が繰り返し行われるために、取
引費用が無視されるほど小さくなっ
てゆく「独占的競争 I 型」とは大き
く異なる。
こうした事情から、「独占的競争
III 型」では、日本企業は、主導的な
地位を占めることができる。筆者が
これまで論じたように、(A)産業に
おいて、製品生産および新製品の開
発にあたり、それらの製品が「複合
財としての特殊品」(市場取引に馴染
http://www.iti.or.jp/現代の収穫逓増産業の国際競争:イノベーションと国際ネットワーク
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●111
まない非常に特殊度の高い製品や部
品が、同様に非常に特殊度の高い部
品から構成される)
xii という特性を
持ち、組立企業および部品企業が共
に「日本型選好」(当面の取引におけ
る機会主義的利益の獲得よりは、長
期的な取引継続の利益を選好)
xiii に
基づいて行動すれば、「複合財として
の特殊品」調達にかかる取引費用を
最小化できる。「日本型選好」に基づ
く「複合財としての特殊品」調達に
おける取引最小化のプロセスとパラ
ダイムについては、季刊「国際貿易と
投資」No.87 の筆者論文等でこれまで
論じてきた xiv。本稿でも、この知見
に基づき論ずる。
組立企業および部品企業のモラル
の高さによって、各生産工程が完全
に同期化され、高品質の特殊品部品
に基づき高品質の製品をつくりだせ
れば、完璧な受注生産を行うことが
出来る xv。この過程は、「非日本型選
好」(長期的な取引継続の利益よりは、
当面の取引における機会主義的利益
の獲得を選好)に基づく日本企業の
ライバル企業には実現できず、「日本
型選好」による対応によってのみ実
現できる、取引費用最小化の過程に
他ならない。
しかも、関係当事者相互の機会主
義的行動を恐れることなく、改善等
を伴いつつ、付加価値を高めて差別
化を推進することにより、ライバル
企業にない高品質を実現できる。
また、ハイブリッド自動車のよう
な「複合財としての特殊品」である
新製品開発のために、研究開発投資
や設備投資を行えば、必然的に著し
い不確実性と取引費用を生ずる。し
かし、筆者が季刊「国際貿易と投資」
No.87 で論じたように、「日本型選
択」のもとでは組立て企業と部品企
業の密接な共同開発作業により、取
引費用を最小化できるxvi
。すなわち、
「漸進的、ボトムアップ型の、事後
的な革新的イノベーション」の実現
による新たな「ファーストベスト市
場」(高品質・高機能であれば、高価
格でも許容する市場)の獲得が可能
である xvii。これは、図 2 で、A 点か
ら出発して B 点を達成し、北米等の
大規模市場において、ハイブリッド
自動車等によって、新しいファース
トベスト市場 F2F2 を獲得したこと
を意味する。米国等海外での事業展
開を行うときには、「日本型選好」と
http://www.iti.or.jp/112●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
「特殊品としての複合財」の競争優
位を十分に生かすために、関連企業
間のクローズドネットワークを、可
能な限り、海外でも展開することと
が必要となる。
このように需要および供給両面の
「汎用品化」が簡単には進まないと
いう特性を持つ自動車産業等(A)
産業においては、「日本型選好」に基
づき、「取引費用最小化」による、不
断の品質改良・生産性向上と「漸進
的、ボトムアップ型の革新的イノベ
ーション」による新製品開発とを、
日本企業は、達成可能である。こう
した品質・価格面の競争力およびハ
イブリッド自動車等の新製品の競争
力は、競合先企業に重大な衝撃を与
える。図 3 において、日本企業は、
生産費用の削減および取引費用の最
小化を達成して、図 3 の直線 MRTF
をKSUGに引き下げることができる
(これは、図 2 における A から Bへ
の、矢印@に沿った動きに対応する)。
この結果、図 3 において、生産・販
売点は、D から E にシフトする(U
点で新たに限界収入=限界(総)費
用となる)。すなわち、日本企業は、
「漸進的、ボトムアップ型の革新的
イノベーション」により不断にコス
ト削減を実現することで成熟産業を
収穫逓増(費用逓減)産業に転換す
ることができる。
米欧等の競合先企業は、競合先で
ある日本企業からのインパクトに応
じて新しい最適規模の達成と製品開
発とをターゲットとする必要がある。
日本企業が図 3 において、E 点を達
成したのに、D 点に留まることは明
らかに不利である。このとき欧米企
業は、従来型の持続的イノベーショ
ン(図 2 の A 点から B’点への矢印A
に沿った動き)では全く日本企業に
対抗できない。そのため、製品のブ
ランド価値は保持したまま、主要部
品等に関する「急進的な革新的イノ
ベーション」を行い、加えて、「破壊
的イノベーション」によって部品の
標準化・汎用品化を一層推進し、部
品サプライヤーの範囲を世界規模で
拡大して、新たな「最適規模の経済」
を達成しようとする。これも、成熟
産業を収穫逓増(費用逓減)産業に
転換しようとする一つの方法であり、
上記の現代の「独占的競争 II 型およ
び I 型」に近い形で日本企業に対抗
しようとするものである。しかし、
http://www.iti.or.jp/現代の収穫逓増産業の国際競争:イノベーションと国際ネットワーク
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●113
「製品および部品の汎用品化が容易
に進まない」という世界市場の需要
特性が余り変化せず、また、新しい
コンセプトの製品(電気自動車等)
がにわかに市場を席捲しない限りは、
日本企業の「漸進的、ボトムアップ
型の革新的イノベーション」は有効
である。但し、4.で論ずる懸念があ
る。
4.標準化・汎用品化と日本企業
の国際競争力
最も懸念されるのは、「最終製品は
急速に汎用品化する中で、部品レベ
ルでは、差別化商品としての競争力
を保持している」日本の部品企業の
場合である。これらの企業は、筆者
が論じた産業競争のマトリックス表
の(B1)産業に属する xviii

これらの企業は、最終製品のブラ
ンド力を支配する力を持たない点で
2.で論じた、米国企業とは大きく異
なる。言い換えれば、最終製品は汎
用品化したために、3.で論じた日本
企業の国際競争力を生かせないが、
部品レベルでは、「日本型選好」と「特
殊品としての複合財」の条件によっ
て「取引費用最小化」の競争優位を
保持できる産業である。(B1)産業
では、「独占的競争 I 型」で成功した
企業による「破壊的イノベーション」
に基づく「汎用品化」戦略が、最終
製品だけでなく、第一次部品、第二
次部品等にも適用されることにより、
以下で論ずるように、順次、その国
際競争力が掘り崩されていくおそれ
がある。
まず、世界規模で最終製品の汎用
品化が進めば、もともと差別化商品
であった当該日本企業の最終製品も
「汎用品化」し、価格競争を迫られ
る。但し部品レベルでは依然として
差別化商品としての国際競争力を保
持している。すなわち、(A)産業か
ら(B1)産業へのシフトが生ずる。
当該企業は最終製品の価格競争力を
強化するために海外直接投資を行な
い、東アジア諸国等に生産・販売・
輸出拠点を構築する。これによって
当面、当該最終製品は競争力を維持
し、海外現地法人は、最終製品を「汎
用品化」することによって、当面の
売上を確保することが出来る。しか
し、ひとたび汎用品化されてしまえ
ば、1.で論じた「独占的競争 I 型」
http://www.iti.or.jp/114●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
に巻き込まれ、いずれは、アジアの
ライバル企業の後塵を拝することに
なる。
一方、最終製品は汎用品化しても
当該最終製品」の中核をなす「特殊
品である第一次部品」は、当該企業
またはその関連企業のみが供給して、
依然として国際競争力がある。海外
現地法人の立地国等ではこの部品は
生産されていない。このため、当該
海外現地法人向け、あるいは、他の
顧客向けに「特殊品である第一次部
品」を輸出・納入することは当該企
業にとり、大きなビジネスである。
しかし、こうした「第一次部品」
についても、いずれ、汎用品化の波
は押し寄せ、より低価格の類似品が
出回るようになる。海外で汎用品と
しての完成品を作る、当該企業の日
系現地法人自身も、価格競争力強化
のために、より低価格の、標準化さ
れた部品の調達を望むようになる。
これを受けて日本企業本社が、当該
現地法人に供給する「特殊品として
の第一次部品」を標準化し、価格低
下を図るために「破壊的イノベーシ
ョン」を行えば、当社の海外法人の
業績は向上し、当社にとっても、当
面の「汎用品化された第一次部品」
の市場を拡大し、販売量を増やすこ
とが出来る。しかし、ひとたび汎用
品化されてしまえば、最終製品同様
に、1.で論じた「独占的競争 I 型」
に巻き込まれ、いずれは、アジアの
ライバル企業の後塵を拝することに
なる。
この場合、「汎用品化された第一次
部品」を作るのに必要な「特殊品と
しての第二次部品」については、依
然として当該企業が競争力を持つ可
能性はある。しかし、やがて、「第一
次部品」と同じロジックで、次には、
「特殊品としての第二次部品」の標
準化をしなければ、販売量を確保で
きなくなる。こうして「第一次部品」
で生じたのと同じプロセスが「第二
次部品」、さらには、「第三次部品」
以下についても継続する。このため、
特殊度の高い各階層の部品について
競争力を保持する日本の部品産業は
より低い階層の部品に向かって、果
てしない後退を余儀なくされること
となる。これは、2.で論じた、全く
新しい製品のコンセプトを創出し、
かつ、製品全体のブランド価値をコ
ントロールする(B2)産業の米国企
http://www.iti.or.jp/現代の収穫逓増産業の国際競争:イノベーションと国際ネットワーク
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●115
業とは正反対の状況であり、現在の
日本の IT エレクトロニクス企業の
窮状とアップル等の欧米アジア企業
との際立った国際競争力の相違の根
源となっているものである。
終わりに:結論と展望
製品のライフサイクルが益々短期
化し、需要および供給、両面からの
汎用品化が急速に進む世界で、先進
国多国籍企業が生き残る道は、発展
途上国・新興国市場の急成長も踏ま
えた、「革新的イノベーション」によ
る新規市場の開拓である。
世界規模での汎用品化の潮流その
ものは、発展途上国・新興国の急速
な発展と先進国多国籍企業によるこ
れら諸国への、資本・技術の大規模
移転が、既に、一体不可分の循環を
形成しているために、容易には変わ
らない xix。先進国多国籍企業はセカ
ンド・ベスト市場開拓のためにこれ
ら諸国に大規模直接投資を行い、こ
のことが、一層こうした市場の成長
を加速しているためである。
本稿で論じたように、日本企業は、
「漸進的な、ボトムアップ型の革新
的イノベーション」に優位性を持ち、
「独占的競争 III 型」においては、自
動車産業に見られるように、欧米等
の競合先企業をリードする十分な競
争力を保持する。ここでは、需要・
供給面からの汎用品化の動きは、小
さく、図 2 における B 点から C点へ
の移行は、今のところ、比較的僅か
である。しかし、先に述べたように
世界市場の成長の中心が、先進国か
ら発展途上国・新興国に移行してい
ることから、C 点を基点として、新
たな「ファーストベスト市場」(D 点)
を開拓するマーケテイング戦略は、
「独占的競争 III 型」においても格段
に重要となる。このため、市場開拓
能力と研究開発能力の連結を強化す
るような組織改革は、絶対的に必要
となる。たとえ、「漸進的な、ボトム
アップ型の革新的イノベーション」
に優位性を持っていたとしても、適
格なマーケテイング戦略に基づき、
最終製品についてのブランド競争力
を強化することは 3.および 4.で論
じたように、必要不可欠であり、そ
のために海外人材を活用した海外研
究開発拠点の増強は必要不可欠であ
る。
http://www.iti.or.jp/116●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
「独占的競争 II 型」については、
「急進的な、トップダウンの革新的
イノベーション」を生み出す組織と
は、不確実性を克服し、新たな利潤
を生み出すような事業機会を求めて、
新製品を発明・開発し、その市場化
を試みる強力なモチベーションを持
つ個人によって組織され、リードさ
れる組織であることが多い。こうし
たイノベーションを生み出す組織は、
限られた資源で創造性を発揮しよう
と常に必死になる。このような企業
組織の成長を図ることは、現代の日
本においては容易ではないかもしれ
ないが、製品のライフサイクルの短
期化が劇的である IT エレクトロニ
クス・家電産業において、日本企業
のような先進国企業が競争力を持つ
ためには、必要な要件である。筆者
は、以前、「TCM/SMD 並存型組織」
および「TCM/SMD 融合型組織」を
提唱した xx
。こうした組織変革は「独
占的競争 II 型」において競争力を持
つために、喫緊のものとなっている。
最後に、「現代の独占的競争 I 型」
については、アジア企業が、かつて
の日本企業同様に積極的な設備投
資・研究開発投資を、ハイリスクに
もかかわらず手がけて成功し、さら
に、高付加価値な上流の研究開発分
野にも進出しようとしている。製造
業を基盤にマーケテイングおよび研
究開発に進出することで競争力を涵
養したアジア企業が、「現代の独占的
競争 II 型」において、今後、米国企
業等に対して、競争力を持ちうると
すれば、日本企業にも多くの示唆が
あるはずである。
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季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●119
展開が日本企業の国際競争力に及ぼす
影響及び今後の課題:新しいイノベー
ションの視点」『季刊国際貿易と投資』
No.83 2011年春号 pp64-78
31. 手島茂樹[2011]「日本企業の海外事業
展開を通じた日本の産業競争力再生は
可能か」『国際政経』第 17号、pp21-46
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37. 藤本隆宏[2011]「設計比較優位説のプ
ロセス的基礎」『生産性とイノベーショ
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38. 村上泰亮[1992]「反古典の政治経済学
―進歩史観の黄昏」中央公論社
39. 和田一夫(2009)「ものづくりの寓話」
名古屋大学出版会

i 「汎用品」と「特殊品」についての筆
者の議論については、参考文献9 およ
び 21-35参照。
ii 参考文献16 による。「市場に適合した
品質で、より低コスト・低価格の製品
を作り出すイノベーション」
iii 参考文献22における11ページの図1。
同じく参考文献26 の 5 ページの図 1。
iv 村上泰亮[1992]「反古典の政治経済
学―進歩史観の黄昏」(参考文献 38)
の第7章、3-85 ページ。「費用逓減の
経済学」
v 手島茂樹[2012]「海外事業展開を通
じた日本企業の国際競争力再建」『季
刊国際貿易と投資』No.87 2012 年春
号 pp52-69(参考文献 32)における
56 ページの図1。同じく参考文献
33-35。
vi 参考文献26 および 32。
vii 「トップダウンによる、急進的な革新
http://www.iti.or.jp/120●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
的ノベーション」については、参考文
献 25-35を参照。
viii 参考文献22における11ページの図1。
同じく参考文献26 の 5 ページの図 1。
ix 「特殊品」の特殊度(資産の特殊性)
の高さ、内製率(内部開発率)等につ
いての筆者の議論については、参考文
献 9 および 21-35 参照。
x 参考文献22における11ページの図1。
同じく参考文献26 の 5 ページの図 1。
xi 現状では、電気自動車は概ね開発段階
にあり、少なくも企業間競争の主力品
目にはなっていない。
xii 「取引費用最小化」のための条件とし
ての「複合財としての特殊品」の議論
については、参考文献 32 における 58
−61ページ参照。
xiii 参考文献5−9および 19-35 参照。
xiv 参考文献32 pp58-61
xv 参考文献39 に基づく。
xvi 参考文献32 pp58-61
xvii 「漸進的、ボトムアップ型の、事後的
な革新的イノベーション」については、
参考文献25−35を参照。
xviii 参考文献22における11ページの図1。
同じく参考文献 26 の 5 ページの図 1。
xix 参考文献35
xx 手島茂樹[2009]「新興国ファースト
ベスト市場創出のための日本企業の
変革」『季刊国際貿易と投資』No.80
2010 年夏号 pp3-18(参考文献 26)
の 16 ページ、図2。なお、状況設定は
異なるが、ゴビンダラジャンは参考文
献 18 の中で、先進国多国籍企業は、
リバース・イノベーションのために、
既存の組織の中に、まず、特別な組織
単位(LGT)をおくことが必要と論じ
ている。
http://www.iti.or.jp/

02. 2013年3月16日 12:13:19 : pj0KXIvxBk
世界経済の観点からも日本の林業はいま注目産業なのである。

群馬の林野事業者を知ってるが、
この手の価値観はさんざん聞かされるが、山野の実体をみない
都会人の思い込みだと憤っていた。

僅かばかりの高級材とその価値では、育成林の伐採・植樹・
手入れのサイクルにはつながらない。
樹を切り出すには山道が必要だし、間伐や倒木の始末など
手入れが必要であり、その必要性は育成林の需要量に
かかっている。

マクロで日本の林業の競争力が問われているのに、ミクロの価値観を拡大しても
仕方が無い。工業材として産業のサイクルに林野が組み込まれて
いなければ、意味がないのだ。高級材よりも、木炭にして
体積・重量を減らして、製鉄や食品の添加剤に用いるなど、
市場での消費量を拡大しなければ、日本の広大な育成林を
事業として保全することはできない。

以上


03. 2013年3月16日 13:06:09 : pj0KXIvxBk
日本品質への過大な期待は「亀山ブランド」で日本品質を看板にしていた
シャープの液晶テレビ事業の失敗で自明。

生産者の価値観(日本製品なら安全・安心・高品質)が思い込みであっては
ならないことを学ぶべき。

TPPでの国内農産物を第二第三の「亀山ブランド」に仕立てる政治の無責任さ。

その先には、やっぱり消費者の求めるものは違いましたと、政府は言い、
農林水産業のみなさん。これも自己責任ですか?と責任を押し付けるつもり
なのか?


04. 先天性予知男 2013年3月17日 18:10:36 : dr15t0hguDuvU : qLDJAJXyzE
世界有数の資源?? 仮に木材だけとって考えてもロシアの森林面積と日本のそれを比べて遜色ないとでも言う気なんでしょうか? そのロシアにしても木材を発電の燃料とか況してや液化して石油やガスの代わりに使ったりはしませんよ。そんな事をしたらたちまち木材資源は枯渇してしまいます。もしそれでも「世界有数」と言い張るのなら原発のみでなくそれ以外の電力も全て木材を燃やして発電し、木炭ガスか何かを科学的に処理して液体なり気体の炭化水素にして“石油系”の代替が十分出来ると言う事ですよね… 木材を燃やす方が放射能が出ないのでそれの方が安心ですがとても現在のエネルギー消費には間に合わないので間違っても「世界有数」などとは言わない方がいいですよ。それとも木材をエネルギー源とするのは想定外??

05. 2013年3月28日 00:44:12 : GnRfb4ci8o
日本には木が多すぎる

『森林飽和』の著者、太田猛彦・東大名誉教授に聞く

2013年3月28日(木)  田中 太郎

 豊かな生態系を守っている里山。しかし、かつて日本の里山は、立派な木などない「はげ山」ばかりだった。それが戦後、木材が使われなくなり、今や「森林飽和」とも言える状況になっている。そして森林の「量」が回復したことが、新たな環境被害につながっている可能性があるという。『森林飽和』の著者、太田猛彦・東大名誉教授に聞いた。
(聞き手は田中太郎)
太田さんの著作『森林飽和』を読ませていただきました。「飽和」というほど、日本には森林があふれているのでしょうか。

太田:はい。幹の体積の総和を森林の蓄積といいますが、日本は過去50年間ぐらい増え続け、3倍ぐらいになっています。人工林は4〜5倍に増えていて、自然林もどんどん成長しています。『森林・林業白書』に毎年、グラフとともに出ているのに、誰も触れてこなかった。不思議です。

 経済成長で森林以外の土地利用はどんどん変化しています。都市に住んでいると、宅地や工場が増え、緑がどんどん減っている。一方、山に行っても、木は徐々に大きくなっていくから、あまり増えているとは思わない。それで、森林は減っている、だから植えなければいけないという先入観が出来てしまっているのでしょう。

 しかし、実は山の斜面で木はどんどん増えている。日本の森林というのは非常に豊かです。それで「森林飽和」というタイトルをつけて、「違いますよ」ということを訴えたわけです。

日本はかつて「はげ山」ばかりだった

しかし、森林が増えたのは近年のことだそうですね。本の巻頭にある口絵は衝撃的でした。歌川広重の「東海道五十三次」に描かれている江戸時代の風景には木がまばらにしか生えていない。明治時代の写真(下)にも、ほとんど木はない。かつての日本は、「森林飽和」とはほど遠いイメージです。


明治末の集落と里山。場所は現在の山梨県甲府市塩山。写真左上、マツの木が1本ぽつんと残された山に注目してほしい(写真提供:東京都水道局水源管理事務所)

太田猛彦(おおた・たけひこ)氏
東京大学名誉教授。FSCジャパン議長。1941年東京生まれ。東京大学大学院農学研究科博士課程修了後、東京農工大学助教授を経て東京大学教授、東京農工大学教授を歴任。砂防学会会長、日本森林学会会長、林政審議会委員、日本学術会議会員などを務めた。専門は森林水文学、砂防工学、森林環境学。主な著書に『森林飽和』(NHKブックス)、『水と土をはぐくむ森』(文研出版)など。(撮影:鈴木愛子、以下も)
太田:森林が飽和しているというイメージが実感できないのは、かつて森が非常に貧弱だった、劣化していたことを忘れてしまっているからだと思います。だから森林飽和と言われて、「えっ」とびっくりしているわけですよね。実は、昔の森は現在の途上国のような森だったんです。

 現在の森林を正しく理解するための最も基本的な知識の1つは、昔どういう森があって、それがどう変化したかを知ることだろうと思います。そのためにはビジュアルは非常に有効だろうと思って紹介しました。私も、最初は歌川広重の舞台をそんなふうには見ていなかった。あるときふっと見たら、「ないじゃないか」ということに気づきました。

 では、どうしてそんなにはげたのかと言えば、本にも書きましたが、簡単に言ってしまうと当時のエネルギー源は木しかなかった。だから、木がなくなるのは当たり前なんです。

木の成長を何十年も待っていられなかった

 江戸時代の人口が3000万人で頭打ちになったのは水田を開発する場所がなかった、または水が得られなかったからという説がありますが、私は森林資源がそこまでしかなかったからではないかと考えています。

 森林資源というのは、ともかく切ってしまったら次に大きくなるまで20年、30年待たなければならない。待ちきれなくてどんどん切れば絵や写真のような姿になってしまう。しかも、遠くからは持ってこられない。だから、それが制約になって3000万人で止まったのではないかと。逆に言うと、森林資源があったから日本は3000万人養えたと言えるかもしれないですね。

なるほど。そういう見方ができるかもしれません。

太田:農業生産が止まったのは水のせいだけではなく、肥料がなくて止まったのかもしれません。当時、肥料はすべて里山の木で堆肥でつくり、それだけでは間に合わないので、青い葉っぱまで使って緑肥にして、ぎりぎりで回していたんです。だから私は、日本人は「稲作農耕民族」ではなくて「稲作農耕森林民族」だろうと言っているわけです。

明治時代に森林資源が最も収奪され、森林が荒廃した時期だそうですね。

太田:江戸時代からぎりぎりのレベルで保ってきたけれど、明治になると農業だけではなく、製糸産業などいろいろ産業が始まるわけです。ところが、まだ石炭を大々的に使うようになっておらず、主な燃料は依然として木だった。それから、開発が進んで家もたくさん建てるし、工場も建てる。しかも、鉄道なども普及し始めて、より遠くから木材を集めやすくなってくる。一番ひどかったのは、明治30(1897)年ぐらいではないかと推定しています。

 明治30年代に日露戦争がありました。実際に日露戦争が終わった明治44年になって、本格的な治水事業が始まった。土砂崩れや洪水の氾濫を防ぐために、山腹の斜面に木を植えて、はげ山を緑化していったのです。そこで日本の森林は下げ止まりました。

近代まで森林資源が使い尽くされていたとすると、私たちが抱いている「豊かな里山」というイメージも幻想に過ぎないのですか。

太田:もちろん、豊かな側面は持っていますよ。里山を共同で使う「入会地」にして、みんなができるだけ肥料を採れるように、たきぎが採れるように工夫しながら、豊かさを維持した面もあります。少ない資源を何とか持続させていくために知恵を絞ったという点では、里山は素晴らしい文化だと思います。

 しかし、50年、70年たって大きくなるような木を植えても待っていられないから、20年で使えるクヌギやコナラを植えたわけです。コナラやクヌギは落葉広葉樹たから、冬は葉っぱがない。そこで、カタクリやニリンソウといった春植物が残った。ぎりぎりの状態で使ってきた結果として、草地があったり、潅木があったりする豊かな生態系が維持されたわけで、生物多様性を高めるために暮らしていたわけではありません。

「役立つ森林づくり」が必要

例えば里山と言うと、日本の人たちは「トトロの森」を思い浮かべますよね。宅地に近いところに森林を増やしていきたいと考えている人が多いのではないでしょうか。

太田:里山を「地域の山」と定義すると、それをいかに有効に使えるかを考えましょうということです。かつての里山は農用林であり、生活林です。そのような使い方が今、多くの地域でできるでしょうか。

できないでしょうね。

太田:だから現代の営みに合うような、セラピーの森だとか、教育の森だとか、あるいは公園だとか、都市部ではそういうものが中心にくるのではないでしょうか。私は、里山は伝統的な文化の保存公園だと言っています。残す里山を決めて、例えばそこにボランティアの人が入り、昔の農耕社会時代の生活スタイルを保存して、子供たちに見せるといった場です。


文化事業ですね。

太田:地域によっては炭を使い、まきを使い、腐葉土を作って、シイタケのほだ木を生産するといった昔ながらの里山のなりわいをしているところもあります。しかし、それ以外の都市部では環境林、教育林にする。でも、それでも残る里山は、木材を生産すべきだと思っているんですよ、本来は。今、木材を使わないだけで何を使っているのかといえば、石油や石炭の地下資源です。しかし、地下から採取した資源を地上に振りまいて、それが地球を汚染している。大気汚染の一番大きいのは温暖化ですが、土壌汚染だって何だってそもそもは地下資源の使用から出てきているではないですか。

私たちは「手つかずの自然」がよいものと考えてしまいがちですが、過度の「天然林志向」もよくないと指摘されていますね。

太田:手つかずの自然を残すのも生物多様性保全には大切です。「守る森」と「使う森」を分けて考えたほうがよいのです。日本人の使命として、地下資源に頼らない社会、循環型社会、低炭素社会を実現するには、昔の森に戻すことが最も有効とは言えません。やはり生物多様性保全にかかわりのない森は、もう少し使っていいだろうと思います。(国が提唱している)「美しい森林づくり」ではなくて、「役に立つ森づくり」が必要です。

「森は海の恋人」とは限らない

森林の「量」が回復したために、別の問題が起こっているそうですね。「森は海の恋人」という言葉が頭にあるので、森林の量の回復が海岸の浸食の一因になっているとは驚きました。

太田:森が緑に戻ったら、すべてのバランスがうまくいくのかというと、そうではありません。例えば川は、山から土砂があまり出てこなければ徐々に川底が下がっていきます。海に土砂が出ていかなければ、海は常に波に浸食されているから、浸食の方が多くなってしまいます。海岸の浸食は深刻です。すべての海岸をコンクリートで固めて、防潮堤を作ったら海岸線は守れるかもしれませんが、それで海ガメが上がってこなくなっていいのかということです。山が木でいっぱいになり、山崩れも以前よりは少なくなっているのですから、治山工事や砂防工事はもう少し減らしていいと私は思ってます。海岸を専門にしている人たちにも、この点はぜひ確認してほしいです。

森林の「質」の回復を実現するには、適度に利用することが不可欠だと多くの人が指摘しています。なかなかそうならないのはなぜでしょうか。

公益的機能・環境保全機能の付加価値を認めるべき

太田:林業がうまくいかない原因はいくつかあります。まず根底にあるのは、森林の機能は、木材生産だけではなく、(水源を涵養したり、災害を防いだりする)公益的機能や環境保全機能といったものを担わされています。ところが、それらの機能(にかかる負担)は内部経済化されていません。背負っている負担が重すぎるから、助成が必要な面があります。

 2番目に、林業生産、あるいは農業生産と工業生産との違いがあります。工業生産は、資源もエネルギーも地下から取り出すから、技術革新が進めば、どんどん生産性は高まります。しかし、光合成を利用する農業や林業はそうはいかない。農業はそれでも、化学肥料を使ったり、機械化したりできるけど、林業は機械化するといっても植えるときと切るときぐらいです。水も、肥料もやらず、まったく自然なのだから生産性は相対的に低くなるに決まっています。工業の100分の1とか、1000分の1かもしれない。だけど、生産性が異なる産業に従事しているからといって、100分の1の生活費で暮らせるわけではありません。でも、考えてほしいのは、地下資源を使わず、森林が汚染されていないから、そこからきれいな水が出てくる。それを都市の人は有効に使っているではないですか。環境にかかわっているところについては、その対価を支払うべきです。

都市がフリーライダーになっているということですね。

太田:そうです。その上で林業の中身の問題はどうかというと、外材との戦いに負けているわけです。外材が自由化されたのは50年前です。どうして外材に負けるのかというと、外材の方が平らなところで生産しているとか、機械化しているとか、流通ルートが作られるとか、大量に伐採ができるとか、いろいろな理由があります。それからスギやヒノキを日本の材というけれど、スギやヒノキの純林はほんの少ししかありません。地元のものではない木を育てているから、枝打ちしたり、下刈りしたりしなければならず、手入れの費用ががかかるのです。

 では、対抗できるのはどこかというと、外材は運搬距離が長くて、環境負荷も高いはずです。それをウッドマイレージと言いますが、「ウッドマイレージが小さいものを買わなければならない」と言っても、市場は重視しません。輸送に使う石油エネルギーが安いから。化石燃料を使うことが本当に地球にとって悪いことなんだと、みんな切実に思っていないから結局、ウッドマイレージは使われない。地球が地下に蓄積してきた資源を使うことは、地球の進化に逆行していることをもっと主張しなくてはいけません。

 もちろん、林業の中にも問題はあります。江戸時代から300年間、日本は木が足りなかったので、木を植えて、大きくしさえすればいくらでも売れた時代が続きました。今も、生産者が消費者のニーズに合うものを生産していないという面があると思います。ただ、たとえ生産者が努力しても越えられない、もっと大きな問題もあるだろうと私は思います。


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