13. 2013年3月12日 00:58:37
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新興国を苛立たせる欧州の苦境 2013年03月12日(Tue) Financial Times (2013年3月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 欧州や米国、日本に住んでいる人はそう感じないかもしれないが、世界経済はこの10年間に、それまでの30年間より速いペースで拡大する可能性が十分ある。 ゴールドマン・サックスは、世界全体の国内総生産(GDP)が2011年から2020年にかけて、平均して年間4.1%ずつ拡大すると予想している。2010年までの30年間は平均成長率が3.5%を超えたことはなかった。 12.5週間ごとにギリシャ一国を生み出す中国 猛スピードで変化しているのは、その成長の源泉だ。世界最大級の新興大国の多くはついに勃興し、今や世界経済を拡大させる原動力となっている。ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国(最初のBRICs諸国)は2011年に、GDPで見てイタリア一国に相当する経済を新たに生み出した。 BRICs諸国は2009年から、首脳会議を開催している〔AFPBB News〕
BRICsという頭文字の生みの親であるゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニール氏は言う。 「大方の人はまだ、中国の規模と中国が動く速さを理解していない。中国のGDPは現在、約8兆2000億ドルで、米国の半分の規模になっている。年間8%のペースで成長する中国は、年間4%成長する米国に等しい」 「中国は12.5週間でギリシャ一国を生み出している。2010年以降、中国はインド一国を生んだに等しい」――。アンブロセッティ主催の金融フォーラムでのインタビューで、オニール氏はこう述べた。 世界的な重要性が低下する欧州 この経済的な変化の速さは、金融危機の罠からまだ抜け出せずにいる多くのヨーロッパ人にとって畏敬の念を抱かせるものだ。 ある出席者の言葉を借りるなら、イタリア北部のコモ湖畔で開催されたアンブロセッティ・フォーラムは概して、「欧州連合(EU)の政治を称える大ミサが行われる」場所だった。 ところが今、欧州の指導者たちの間では、イタリアなどでの経済停滞と政治の混乱が急速に欧州の生活スタイルと世界における欧州の重要性を損ねているという不快な認識が広がっている。 欧州以外の地域からフォーラムに参加した人の多くにとって、欧州は、欧州自身がよく自賛するような模倣に値するモデルというよりは、むしろ苛立ちを招く原因のように見える。 世界経済の不確実性が再び高まる恐れ アジア開発銀行のチーフエコノミスト、李昌縺iイ・チャンヨン)氏は、ユーロ圏数カ国で続く景気後退と、イタリアでの政治不安、英国のEU脱退説などから、多くのアジア諸国は欧州が再び世界経済の不確実性を招くことを懸念していると話す。 欧州中央銀行(ECB)の「アウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)」プログラムなどは金融市場を安定させてきたが・・・〔AFPBB News〕
李氏は、欧州が金融危機への対応で大きな前進を遂げ、銀行同盟および財政同盟の創設に向かっていることを称賛する。 また、恒久的な救済基金の創設と、ユーロ圏諸国の国債利回りの抑制を目的とした欧州中央銀行(ECB)の「アウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)」プログラムの設置も、金融市場を安定させたと言う。 しかし李氏は、ユーロ圏は自らの利益のみならず世界経済のためにも、着手した改革を最後までやり遂げなければならないと指摘する。 「制度作りはまだ不完全だ」と李氏。「欧州がここで改革をやめると、世界的に深刻な影響をもたらすことになる」 英国のEU脱退を不安視するアジア このため、英国の一部の政治家がEUからの脱退の可能性について話していることが一層厄介な問題になるという。 「多くの人は、英国がEU残留について懸念している理由を理解している。しかし、我々が心配しているのは、英国が脱退したら、それが欧州でドミノ効果を引き起こすのではないか、ということだ。不安なのは、EUが瓦解してしまう事態だ」 「これはアジアの観点に立った身勝手な見方かもしれないが、1つの国の決断は世界経済全体に影響を及ぼすのだ」 今のところ、欧州はまだ多くの新興国にとって極めて重要な存在だと南アフリカ準備銀行(中央銀行)のギル・マーカス総裁は言う。マーカス総裁によれば、南アは欧州と歴史的に関係が深いだけでなく、南アの製品輸出の38%が欧州向けだという。 多角化を急ぐ新興国 「けれども我々は欧州で起きていることを深刻に懸念している」と総裁は言う。「状況がこれ以上悪化しないと仮定しても、欧州はやはり、回復するまでかなり長い時間がかかる。そうなると、新興国としては多角化がいよいよ必須になる」 時代を象徴するかのように、南アは2週間後にダーバンで次のBRICs首脳会議を主催し、世界のダイナミックな経済国との関係強化を図る予定だ。 By John Thornhill in Cernobbio, Italy 本能を抑え、変わらなければならないイタリア 政治家の世代交代こそが唯一最善の道 2013年03月12日(Tue) Financial Times (2013年3月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) これはエスタブリッシュメントが示す昔ながらの反応だ。先月の総選挙でどの会派も決定的な勝利を収められなかったことから、イタリアのメディアや社会で影響力を持つ人々はこのところ――初めてではないが――「実務者」内閣の設置を求めている。 この種の政権に課せられる仕事はシンプルなものになる。政治システム全体を改革し、新しい選挙制度を導入せよ、そして余った時間で経済改革をすべて実行し、債務をすべて返済せよ、といった具合だ。 もしイタリアがその方向に進めば、深刻な事故に遭遇する確率が高い。そのような政権は政治的な正統性がないままに行動することになるからだ。 選挙結果が示す世代交代と「5つ星運動」の躍進 筆者なら、これとは違うアプローチを支持する。まず、イタリアは今回の選挙結果を乗り越えようとするのではなく、そのまま受け止めるべきだ。この選挙結果で最も重要なのは、手詰まりになったことではなく、そこに示されている世代交代である。 投票前のイタリア議会の平均年齢は欧州連合(EU)では最も高いグループに属しており、下院議員の平均年齢は54歳だった。ところが、今回誕生した下院議員の平均年齢は45歳で、EUで最も若い議会になっている。 イタリアの若者の半数近くがベッペ・グリッロ氏の会派に投票した〔AFPBB News〕
この選挙ではベッペ・グリッロ氏の「5つ星運動」が獲得した票の絶対数が話題になっているが、それ以上にショッキングなのが投票者の年齢構成だ。 イタリアの若者の約45%がグリッロ氏の会派に投票しており、それよりも年長の世代は従来型の政党を支持しているのだ。 これではまるで、イタリアが以前経験した2つの革命――1970年代初めの世代交代と1990年代初めの政治の激変――を1つにまとめ、どういう結果になるかはまだ不透明だが、潜在的に大がかりな体制変革を進めているかのようだ。 もし従来型の政党がこの国を統治したいのであれば、そうした変革の一翼を担う道を見つけなければならない。 期待の若手政治家はフィレンツェ市長 最も良いのは、新しい世代の指導者たちに権力を委譲することだ。その場合、首相の最有力候補は現在38歳のフィレンツェ市長、マッテオ・レンツィ氏になるだろう。 中道左派の民主党の有力政治家であるレンツィ氏は、イタリア政治の文脈に照らせば、変化を嫌がる英国労働党を改革した1990年代初めのトニー・ブレア氏よりも急進的だ。レンツィ氏は正真正銘の政党に所属して市長という正真正銘の政治職に就いていながら、本質的に腐敗している政治システムをグリッロ氏に劣らない勢いで批判しているのだ。 レンツィ氏は、経済改革と財政緊縮が政治的なトレードオフの関係にあることは認識しているように思われる。両方を一度に追求することは(少なくとも、大きくて複雑な国では)できないこと、そして今優先しなければならないのは改革の方であって財政再建ではないことも分かっているようだ。 連立政権の樹立を目指すピエル・ルイジ・ベルサニ氏だが、安定政権はとても望めない〔AFPBB News〕
多額の福祉予算を組んでいる大都市の市長として、同氏は財政緊縮による壊滅的な打撃の影響を直接受けてもいる。 レンツィ氏の問題は、民主党の予備選挙でピエル・ルイジ・ベルサニ書記長に敗れているため、組閣を行う政治的な権限を付託されていないことだ。 今のところベルサニ氏は、民主党が過半数を獲得していない上院で奇抜な連立を目指すことにより、自らを首班とする少数与党内閣をつくる決意のようだ。 再選挙になれば大混乱、イタリアの景気後退は恐慌に発展 この構想は技術的にはうまくいくかもしれない。だが仮にうまくいっても、恐らく新政権は長続きしないだろう。もしベルサニ氏が政権を発足させられなけば、実務者内閣がいわば不戦勝で誕生する可能性がある。しかし、その内閣に何ができるかは読みづらい。 もし再選挙になれば、グリッロ氏の会派が絶対多数を獲得する可能性がある。その場合、イタリアのユーロ参加は当然のこととは見なせなくなる。同氏はユーロ圏にとどまるか否かを問う国民投票の実施を公約に掲げているからだ。 もしそんな公約が果たされたら、その投票日まで、イタリアは悪化する一方の不況に陥るだろう。そんな不確実性にさらされている国には誰も投資しないからだ。 ユーロ圏経済の5分の1近くを占めるイタリア経済は、現在も縮小し続けている。イタリアの人々は家計のやりくりに苦労しており、貯金を取り崩している。蓄えを使い果たしてしまった人も少なくない。企業向けの貸付金利は再び上昇している。2月の総選挙は景気後退の最中に実施されたが、再選挙になれば、今度は恐慌の最中に行われることになる。 若い政権で緊縮を終わらせ、重要改革の断行を 景気後退が長引き、緊縮財政への不満が高まっている(写真は緊縮に反対する抗議デモ)〔AFPBB News〕
ベルサニ氏とシルビオ・ベルルスコーニ氏が新しい世代の指導者たちにバトンを渡すことが、最良の結末だ。これこそがグリッロ氏の台頭を阻止する最良の方法になるだろう。 そのようにしてできる若い政権が真っ先に取り組まねばならないのは、緊縮財政をすぐに終わらせると同時に、えり抜きの重要な改革に着手することだろう。 国有資産の民営化、公的セクターの抜本的な見直し、政党、銀行および国家機関という3者の分離、財・サービス市場の自由化を目指した改革などがその主なところだ。 新政権は恐らく、雇用・解雇関連の規制のさらなる緩和で政治的資本を浪費すべきではない。何しろこれは欧州の人々の感情を揺さぶる政治問題であり、経済的な利益は不確実だが、政治的なコストは確実かつ莫大だ。 また、選挙制度の改革が、求められている結果をもたらすかどうかも筆者にはよく分からない。イタリアでは過去にも様々な選挙制度が取り入れられたが、完璧なものは1つもなかった。 最悪の結末は「モンティ抜きのモンティ内閣」 筆者には、これ以外の良い結果がなかなか思いつかない。逆に、起こり得る最悪の結果は、エスタブリッシュメントたちの昔からの本能が幅を利かせることであり、イタリアが実務者内閣という方策に再度逃げ込むことだ。 筆者と話をしたある人物は近く退任する現首相の名前を出し、これを「モンティ抜きのモンティ(内閣)」と評してみせた。テクノクラートの支配がどんな結末を迎えたかは、既に見られた通りだ。 By Wolfgang Münchau 歳出の強制削減:次の危機へ向かう米国 2013年03月12日(Tue) The Economist (英エコノミスト誌 2013年3月9日号)
歳出の自動削減が3月1日に発動された。今後、さらなるドラマが待ち受けている。 米大統領官邸や庭園などを見ることができるホワイトハウスの一般見学ツアーも、歳出の強制削減に伴い中止された〔AFPBB News〕
その集まりは緊急幹部会議と称されていたが、ボルチモア市庁舎のごった返した会議室の雰囲気は、パニックというよりは混乱だった。 市長は連邦政府の歳出の「強制削減」措置が市に与える影響を議論するために補佐官たちを招集した。3月1日に発動された措置により、連邦政府の支出の大部分で、向こう7カ月間で850億ドルの歳出が削減されることになる。 市長が到着するまで、市の職員たちは右往左往し、どれだけ予算が削減されるのか話し合っていた。ある職員が「高速道路信託基金には影響ないだろうね?」と尋ねると、もう1人は「大丈夫だと思うよ」と答えた。 ステファニー・ローリングス・ブレイク市長の話では、ボルチモア市が強制削減の影響を受けることは疑問の余地がない。 強制削減に翻弄される市当局 市長いわく、市の歳入のおよそ12%は連邦政府から直接配分される予算だ。メリーランド州の予算から今年受け取る予定の8100万ドルの一部も、本をたどれば連邦政府のお金だが、正確な金額については誰も知らないようだ。 市の予算が1〜2%減ったところで深刻な事態とは思えないかもしれない。しかしボルチモア市は既に今後10年間で7億5000万ドルの赤字となることが見込まれている。市長はこれまでにも、市の職員数を今後8年間で1割減らし、年金や医療費を削減することを提案していた。 それ以上の予算削減となると、市としては行政サービスをさらに縮小するしかない。また、広報担当官によれば、貧困層を援助するプログラムが最も深刻な打撃を受けるという。学校に通う児童の85%が食事の補助を受けるほど貧しいボルチモア市においては特に懸念される事態だ。 財政局長のハリー・ブラック氏によれば、ボルチモア市はまだ正式な通知を受けていないため、全部局に対して、年内いっぱいは連邦政府から得られる予算が9%減ることを想定するよう指示したという。強制削減により、いわゆる「国防費以外の裁量支出」の全項目で全面的な予算削減が義務付けられているからだ。 これを受けて各部局のトップは、反故にできる契約はどれか、職員を解雇、または一時帰休(furlough、強制的な無給休暇を差す財政用語)扱いにするまでどれくらいの通知期間が必要なのか、また州や連邦政府の予算から補助を受けている公共サービスの縮小に法的制約があるかどうかを検討している。 ボルチモア市の交通局は、路面電車の新路線計画の予算は確実に消えると見ている。住宅局は830世帯への家賃補助を中止しなければならないと考えている。恐らく脱薬物依存プログラムからは600人程度が追い出されることになる。地元の学校は、新学期が始まるまではレイオフを実施せずに済むと考えている。 警察、失業者向けの職業訓練プログラム、高齢者、貧困者、身体的弱者に対する食事補助、補助金が支給される子供向けの保育サービス、ホームレスのための避難所、無料のエイズ検査――。これらすべてのプログラムについて少しずつ予算が削られる見込みだが、実際の削減幅や時期についてはまだ何も分かっていない。 ボルチモア市の職業訓練所の所長を務めるカレン・シトニク氏は、もっと多くの情報を集めるために「インターネット上を探し回っている」と話している。 大学の研究予算にも大きな影響 ジョンズ・ホプキンス大学のキャンパス(写真はWikipediaより) ボルチモア市最大の民間雇用主で、科学研究に対して連邦政府予算から多額の補助金を受けているジョンズ・ホプキンス大学でも、見通しはやはり混沌としている。
研究担当の副学長を務めるスコット・ジーガー氏によると、医学研究に補助金を支給する米国国立衛生研究所(NIH)は新規の助成金を1割減額し始めた。 既に進行中の研究に対する支払いも削減されるかどうかは、ジーガー氏にも分からないという。 ジョンズ・ホプキンス大学の応用物理研究所では、予算削減の計算はもっと複雑だ。というのも同研究所は、年間の財政支援が約5%カットされる民間機関と、8%削減される軍事機関の双方と契約しているからだ。 当の連邦政府も混乱 ボルチモア市やジョンズ・ホプキンス大学は連邦政府からの連絡を待っているが、当局側も同じく混乱しているように見える。米教育長官のアーン・ダンカン氏は先月末、強制削減を受けて、一部の教員が「今、解雇通知を受け取っている」と述べたが、後に発言を撤回することになった。 国土安全保障長官のジャネット・ナポリターノ氏は先日、税関職員の超過勤務が見合わせられたことにより、一部の空港で大きな遅延が生じていると警告したが、挙げた空港名が間違っていた(いずれにせよ、遅延は一時的なものだったことが判明した)。 大統領や閣僚も事実を取り違えるほど混乱しているように見える〔AFPBB News〕
バラク・オバマ大統領自身も、思いやりに欠ける連邦議会議員が立ち去った後に清掃するホワイトハウスの用務員の給与も削減されるだろうと話したが、これも後に事実と異なることが分かった。 共和党はある程度正当に、こうしたミスは、強制削減が米国経済に深刻な痛手を与え、何百万人もの人に苦痛をもたらすという民主党の主張の綻びを示すものだと訴えている。 共和党いわく、大統領とその側近らは、計画されている強制削減に代わって増税すべきだと訴えるために誇張している。財政赤字(昨年は国内総生産=GDP=の約7%に当たる1兆ドルに達した)を削減するためには歳出削減が必要であり、オバマ大統領やその部下に支出削減についての裁量権を与えれば、最悪の苦痛を和らげられるという。 米下院で過半数を占める共和党は、先日まさにそうした裁量を認める法案を可決したが、国防費や国境警備、その他安全保障に関わる支出のみが対象だった。 そんなに悲惨ではないと言うが・・・ オバマ大統領は引き続き、共和党は米国の一般市民を支援する政府のプログラムよりも、金持ちやコネがある人のための税制の抜け穴を大事にしていると非難している。だが、強制削減が招く惨事に関する厳しい統計の数々は、ここ数日でいくらか後退した。 ホワイトハウスは共和党の法案に拒否権を発動すると脅すのではなく、「議会と協力して、法案に磨きをかけることを楽しみにしている」と述べた。上院を支配する民主党は、増税はおろか全体的な支出のレベルを変えることもなく、非軍事予算の削減に関する行政裁量の拡大を狙っている。 両党とも、3月27日までにすべてに決着をつける合意を望んでいる姿勢を示唆している。 議会はこの日までに今年度の残りの時期の暫定予算を可決させねばならず、それができなければ、最も差し迫った機能を除き、政府がシャットダウンされることになる。 まだ続くせめぎ合い こうした事情は、少なくとも今後数カ月間は、共和党が我意を通せる可能性が高いことを意味している。
オバマ大統領もこの1月に共和党から一部の増税容認を引き出したとはいえ、この2年間というもの、共和党は何度も大統領の支出の野望を潰してきた(図参照)。 だが、オバマ大統領はまだあきらめてはいない。むしろ、財政に関していくつかの期限が差し迫る中、いずれかの段階まで自身の主張を訴えるのを待つことにしたようだ。 今夏には、議会は政府債務の上限を引き上げなければならない。10月までには、新年度の予算を通さねばならない。どちらも歳出と税制を巡る新たなせめぎ合いの機会となる。その頃までには、人的な意味でも政治的な意味でも、強制削減の影響がもっとはっきりしているはずだ。
アルゼンチンで高まる国民の不満 フェルナンデス大統領は気を逸らすのに躍起 2013年03月12日(Tue) Financial Times (2013年3月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
アルゼンチンで経済的なプレッシャーが高まる中、クリスティーナ・フェルナンデス大統領は、フォークランド諸島が10日、11日の両日に主権を確定する住民投票を実施するのを喜んだはずだ。 ブエノスアイレスでは、フォークランド諸島が正当にアルゼンチン領であることに議論の余地はない。そのため住民投票は――英国支持の結論が目に見えているにもかかわらず――、アルゼンチンが昨年、1996年以来初めて基礎的財政収支の赤字に転落したという事実など、手っ取り早い解決策のない差し迫った国内問題から注意を逸らす材料を提供してくれる。 支持率低下に苦しむ大統領 亡き夫の後を継ぎ、大統領を務めるクリスティーナ・フェルナンデス大統領〔AFPBB News〕
軍事政権による1982年のフォークランド諸島の侵攻自体も、国内の経済難から注意を逸らすための試みだった。 そして2011年に2度目の選挙に勝利を収めた後、フェルナンデス大統領の支持率は推定で35〜40%に低下している。 フェルナンデス政権は、アルゼンチンが10年余りの間で2度目のデフォルト(債務不履行)に陥るシナリオを米国の控訴裁判所が帳消しにする可能性がある見込みを喜んでいる。 控訴裁判所は3月初め、アルゼンチンが債務再編を拒否する債権者と繰り広げた12年間の争いで、同国の提案を検討する用意があるように見えた。 フェルナンデス大統領が先日行った通常議会開会式の演説は、政府の他の施策にスポットライトを当てた。1994年にブエノスアイレスのユダヤ人施設が爆破され、85人が死亡した事件の捜査に向けたイランとの合意と、治安判事評議会の直接選挙を通じた司法制度の「民主化」計画の2つだ。 だが、国民の関心を逸らすこうした施策によっても隠すことができない非常に重要な問題がある。 国民の最大の関心は「犯罪とインフレ」 「フォークランド諸島、イランとの合意、司法制度についてクリスティーナが言っていることはどれも、国民の最大の関心事としてあらゆる世論調査の最上位に登場する2つの問題とは全く関係がない。犯罪とインフレがそれだ」。反政府系新聞ラ・ナシオンでコラムを書いているホアキン・モラレス・ソラ氏はこう言う。 政府は、スーパーマーケットで売っている品物や多くの耐久消費財の価格を4月1日まで凍結しており、賃上げ率も20%程度に維持しようとしている。インフレ率は26%に達し、かつ上昇していると考えられているにもかかわらず、だ。政府が公式統計を操作している疑惑のせいで、アルゼンチンは国際通貨基金(IMF)に非難された。 コンサルティング会社IHSグローバルインサイトのローレンス・アラン氏は、次のように話す。 「クリスティーナがこれらの問題について語るのを避けるためにできる限りの手を尽くしているのは一目瞭然だが、価格の凍結や賃金交渉は、政府が彼らなりのやり方で問題を正すために手を打とうとしていることを示している」 闇市場のドル相場が高騰、国家財政も一段と悪化 一方、18カ月近く実施されている外国為替管理のせいで、国民は事実上、ドルを手に入れられなくなっており、闇市場のレートは公定レートを50%上回る水準に急騰している。すでに急増している政府支出が10月の中間選挙に向けて加速するため、国家財政はさらに悪化する可能性が高い。 今年の中間選挙は、3期目の任期を可能にすべく憲法を改正するというフェルナンデス大統領の計画にとって極めて重要だ。 国民の不満は高まっている。フェルナンデス大統領も副大統領も最近、別々のイベントでブーイングを受けた。反政府系の労働組合の指導者たちは3月14日にストを計画しており、高いインフレ率、高い輸出関税、過大評価されたドルの公定レートにうんざりしている農家は、深刻な被害を与える恐れのある穀物販売の停止を検討している。 だが、フェルナンデス大統領が債務再編を拒否する債権者やフォークランド諸島で自らの意志を押し付けようとしたように、近い将来、為替管理の緩和や、インフレに対する是正措置の実施、政府支出の抑制を予想する人は誰もいない。 代わりに、大統領は先日、ベネズエラのウゴ・チャベス氏の足跡を称賛し、野党をさらに分裂させられるような問題に注意を集中させていた。それらの問題が有権者の最優先事項ではないにもかかわらず、だ。 「大統領はそうせざるを得ない。クリスティーナや彼女を支持する政治グループ『勝利のための戦線』が中間選挙で好結果を収めなければ、こうした問題はどれも意味を持たなくなる」と政治アナリストで世論調査専門家のグラシエラ・ロメール氏は話している。 By Jude Webber
グルジア政治危機に見る「正統性」と「民主主義」 激しい攻防が続く大統領派と首相派 2013年03月12日(Tue) 前田 弘毅 昨年秋、平和裏の政権交代を成し遂げたはずのグルジアで再び政治的緊張が高まっている。ビジナ・イヴァニシュヴィリ新首相率いる「グルジアの夢」政権によるミハイル・サーカシビリ大統領派のパージについては前回も若干触れたが、すでに「詰んだ」として全面降伏を迫る新政権に対して、大統領派「国民運動」も一定の権力と保障を求めて抵抗を続けている。
サーカシビリがトビリシに架けたイタリア製「平和橋」。美しいフォルムとLED照明で新たな観光名所となる一方、無駄遣いと批判の声も少なくない 半年に及ぶ両者の激しい攻防は今月末から来月初めにかけて一定の決着がつく見通しだが、その過程で一層の社会混乱を招く可能性も皆無ではない。
グルジア現代政治のダイナミズムを見ていくと、最近政権交代を経験した日本や他の国と比べても、権力闘争の生々しさを格段強く感じさせる。 また、ヨーロッパ志向や民族主義、民族紛争の問題など、ロシア・旧ソ連情勢を考えるうえでも参考になることは多い。 もう少し広く考えれば、米国の予算に関する大統領と議会の攻防に似ていないわけではないが、以下で見るように政治的な「死活」問題も絡んでいる。ここでは、これまでの流れと争点について簡単に紹介したい。 「すでに勝負はついた」大統領を追い詰める首相 ビジナ・イヴァニシュヴィリ首相〔AFPBB News〕
2月26日、ビジナ・イヴァニシュヴィリ首相はミハイル・サーカシビリ大統領宛公開書簡の冒頭で次のように述べている。 「グルジアにおける権力問題の決着はすでについている。したがって、何か議論を必要とする政治的対立相手としてあなたに呼びかけるものではない」 さらに、書簡の終わりの方では後述する焦眉の憲法改正問題について「この改正に賛成する者は国家に対する奉仕を続けることができる。過ちの訂正が認められ、より良い政治的未来のチャンスを手にする」とした。 しかし、もし反対すればどうなるのか? 続けて「この改正に反対する者は9年間、あなた(=サーカシビリ)のグループの誰であれ行った行為の完全なる政治的責任を引き受け、これを一生背負い続けることになる」ときつい警告を発している。 ここで、問題となっているグルジア国憲法改正の焦点とは、首相の任免を自由にできる現憲法における大統領権限についてである。現在、大統領は首相を罷免し、議会が3度大統領の推す候補を認めない場合は、議会を解散することができる。 しかし、グルジアは今年(2013年)秋に新大統領を選出した後、首相に強力な権限を与える議会制共和国への変更を2010年に決定している。 さらに、これが重要なことなのだが、大統領の任意の議会解散を縛るのが、新議会を(議会選挙日から)半年の間解散することができないとする現憲法の条項(3章51条)である。 すなわち、昨年議会選挙が行われた10月1日から半年を経る今年4月1日までに、首相側は大統領が自由に首相を罷免する権利を憲法上も否定するために改正を急いでいるのである。 多数派工作、大統領側の必死の抵抗と提案 現憲法において、改正には議会の3分の2の賛成、すなわち原則100人以上の賛成票が必要になる(グルジア議会は150議席―比例77議席、小選挙区73議席)。昨年の議会選の結果は勝利した首相派の「グルジアの夢」が85議席を獲得し、大統領派「国民運動」が65議席だった。したがって、首相派にとって憲法改正のハードルは高いはずだった。 2012年、受刑囚の虐待がきっかけで始まった政府に対する抗議デモ〔AFPBB News〕
ここから権力を握った首相派の猛烈なパージとリクルートが始まる。特に首相派の力を見せつけたのは、昨年末の議会における攻防だった。焦点は「政治犯」の恩赦問題である。 大統領派はそもそも政治犯の存在を認めておらず、首相派が議会で過半数の賛成で可決した恩赦法に大統領は拒否権を発動した。 拒否権を覆すのは議会の5分の3が必要だった。恩赦法に対する大統領の修正要求がまず83対33で否決されたが、大統領派は櫛の歯が抜けるように離脱が相次ぎ、表だって大統領提案に賛成したのはこの時点でわずか33人だった。 さらに間髪を入れず、大統領拒否権を覆すための採決が行われ、91対24で5分の3を超えて可決。1月に国会議長のサインで恩赦法が成立し、認定政治犯190人が釈放され、2月には恩赦で7000人以上が刑務所から解放され、グルジアの服役囚の数は半減した。 この恩赦法を巡る攻防で首相派は完全に優位に立ち、憲法改正が可能な3分の2の確保も視野に入れた。そして、「最後の決着」をつけるべく、3月末の憲法改正に向けて突き進んでいる。 当然、大統領側はこれに対抗しているが、2月8日には議会で認められなかった演説を大統領が議会図書館で行おうとしたところ、大統領辞任を求める市民デモが暴徒化し、逮捕者が出る騒動に発展した。 大統領側の「免罪要求」 ミハイル・サーカシビリ大統領派は、大統領権限を制限する憲法改正(首相の自由な任免を認めない)への賛成への条件として、憲法への親西欧政策の明記と新たな憲法改正へのハードルを3分の2から4分の3へ引き上げること、議会の首都トビリシへの再移転と大統領間接選挙を行わないことを要求していた。 2月の半ばまで断続的に交渉が行われたが、結局交渉は決裂した。 上記の点については一定の妥協が成立したというが、さらに続けて「具体的な要求」が「国民運動」側からなされたという。それは「政治的恩赦」に関するものだった。 下級官吏以外にも、およそ1500人の政府高官について大統領派は完全な免罪を求め、首相側は「部分的免罪」、すなわち罪を公に認めた上での5年間の官職追放の受け入れを迫ったが、大統領側はこれを受け入れなかったとされる。 交渉決裂後、2月末にはミハイル・サーカシビリ大統領腹心で首都トビリシの市長であるギギ・ウグラヴァが尋問のうえ、テレビ局購入や公金不正使用の疑いで告訴された。 現在まで、旧政権幹部は一部元閣僚を除いて身柄を実際には拘束されてはいないが、3月中には極めて激しい政治的駆け引きが繰り広げられる可能性が強い。それが、前述の賛成か、反対かという首相の厳しい言葉に表れている。 複雑な「正統性」を巡る戦い ミハイル・サーカシビリ大統領〔AFPBB News〕
極めて情勢を複雑にしているのは、議会選挙後、半年は議会を解散できないという憲法の縛りだけではなく、もう1つの「半年条項」、すなわち大統領選挙の半年前にも議会を解散することはできないという別の制限にもある(同じく3章51条)。 大統領選挙は2013年10月に予定されているが、選挙日はこれまで大統領令で定められてきた。このまま憲法が改正されなければ、4月1日からしばらくの間、大統領派はいつでも首相を罷免できる状況が続くことになる。 しかし、大統領派も現状で選挙に踏み切るのは至難の業であり、首相派が憲法改正を強行することを防ぎつつ、どこまで「妥協」できるか両者で条件闘争が続けられる可能性が強い。 このように、政局の大勢はすでに決し、秋に向けて大統領の円満な退陣と大統領派要人の免罪に焦点は移っているようにも見える。 しかし、イヴァニシュヴィリ首相は10月の選挙勝利直後には最初の外遊先として米国の名前を挙げていたにもかかわらず、訪米の目処は立っていない。新政権が国内外の全面的な信頼を得るには相応の時間がかかるだろう。本稿執筆現在(3月4日)には大統領と首相が直接会談を行ったが、具体的な成果は得られなかったようである。 大きな混乱なく、政治的な闘争がこれまでのように市民生活に被害を及ぼすことなく、まさしく「国のかたち」を守ることができるか、今年のグルジア政治は試されている。 なお、レジティマシー(正統性)の問題も含めて「ユーラシア研究」次号でもグルジア情勢を論じる予定である。
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