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コラム:黒田氏の大胆緩和、物価上昇との経路に不透明要素  ロイター
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/364.html
投稿者 ダイナモ 日時 2013 年 3 月 05 日 23:02:14: mY9T/8MdR98ug
 

田巻 一彦

[東京 4日 ロイター] 次期日銀総裁候補に指名された黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁が4日に示した所信と質疑応答では、2%の物価目標達成への強い決意と、その手段としての大胆な国債購入増の方針が示された。

長期金利は一段と低下すると予想されるが、それが物価上昇につながる経路は、不透明な要素が多い。日銀がアクセルを強く踏み込んでも、「空ぶかし」になって自動車が前に進んでいないという現象に直面しないよう政府・日銀の緊密な連携が、これまで以上に求められている。

<緩和のメーンストリーム、国債の大規模購入か>

この日の所信表明と質疑応答の中で、黒田氏は大胆な金融緩和の実施方針を表明するとともに、具体的な手段としては、国債購入の大幅な増加の可能性に言及した。まず、2%の物価目標は2年がよいと思うが、できるだけ早期に達成したいと強い意欲を示し、具体的な達成手段として「一番自然な金融緩和は国債購入拡大」であると指摘。より長期のものを大量に買うのが自然であるとの見解を示した。

さらに資産買入等基金は「2014年以降111兆円で推移するという程度の緩和では不十分」、「1─3年に限らずもっと長い物買うことを検討していい」と述べ、黒田氏が日銀総裁に就任した直後にも、資産買入等基金の大幅な増額や、増額を実施するための買い入れ国債の長期化の可能性を強くにじませた。

市場には、株やその他のリスク性資産を日銀が大量に買い入れる緩和手法に踏み出すのではないかとの"期待感"が存在しているが、最も流動性が潤沢である日本国債の購入増が、黒田日銀における緩和手法のメーンストリームになる可能性が高まっているように見える。

<長期金利低下が示す物価目標2%の高いハードル>

こうした黒田氏の発言を受け、4日の円債市場では、長期金利(10年最長期国債利回り)が0.620%まで低下した。より長めの国債を大量に購入する可能性が高まった以上、マーケットの反応は順当と言えるだろう。

だが、この反応は円債市場が「簡単には2%の物価目標が達成できない」と予測していることにほかならない。円債市場は、黒田氏のリーダーシップでかなり劇的に日銀が量的緩和を強化することは予想している。その結果、国債需給がタイト化して長期金利は低下するものの、その先にあるべき国内需給ギャップの縮小と物価上昇までは予測できていないようだ。

<具体化しない物価上昇の芽>

東京市場でも、期待インフレ率の1つの指標とみられているブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)がプラス1%程度まで上がってきたが、データ算出のキーになる物価連動国債の流動性が極めて低く、これだけで期待インフレ率が上がってきたとみるのは早計だと考える。実際、円安で仕入れ価格が上昇しているはずの輸入食料品の小売価格ですら、円安分を価格に転化する動きは目立っていない。

バークレーズ証券の試算によると、電力5社が電気料金を10%引き上げると、全国コア消費者物価指数(CPI)を0.11%押し上げ、4月から平均13.5%引き上げれる自動車保険料(自賠責)によって、同0.05%の押し上げになるという。だが、こうした要因だけでは、物価全体を力強く押し上げるには、力不足の感が否めない。

<アベノミクスに円安キャップの制約>

アベノミクスの成果と言われている円安と株高は、確かに足元で実現している。これは実物経済の変化を先取りした期待先行の動きと言える。この期待が実物経済に波及するには、円安や株高などを契機として、企業の設備投資が増加し、個人消費が強さを顕在化させ、需要と供給のマイナスのギャップが縮小するという経路を通過する必要がある。

ところが、足元の金融・資本市場や世界経済では、アベノミクスの進展を妨害するような「横風」も吹き始めている。1つは先の日米欧7カ国(G7)為替声明や20カ国(G20)財務相・中銀総裁会議を経て、金融緩和期待が円安に直結する力が衰えたことだ。円安が天井知らずで進む地合いから、95円─100円の壁が厚くなってきた地合いへと市場は変化。株高の推進力だった円安の進展が今までのように望めなくなった。

<欧米でうごめくリスクオフ要因>

2つ目は、欧州情勢がリスクオン一辺倒のムードから、イタリア総選挙後にリスクオフ心理が交錯する地合いに変わり、ここでも円安を後押しする力が削がれた点だ。3月下旬の米暫定予算切れに大きな混乱が発生すれば、それもリスクオフ心理を刺激することになるだろう。

こうした中で、金融緩和の強化─長期金利の低下が、物価上昇に結びつくステップが明確には見えなくなっている。日銀が大量に資産を購入し、長期金利が低下しても、そのことが国内需要の増大へとつながらなければ、金融緩和の効果と実体経済の動向が遮断されたままとなり、黒田氏の決断で、「確かにアグレッシブな金融緩和は実行されたものの、物価上昇率は今年後半になっても、0%前半で推移している」ということになりかねない。

<成長力引き上げなしの物価上昇、副作用も>

この日の質疑では、この点に対する黒田氏のコメントはなかったが、金融政策が物価上昇につながる経路に関し、明確な説明がいずれ求められることになると予想する。「デフレファイター」黒田氏の真価は、とりあえず半年後の物価状況と説明内容で試されるのではないか。私は、日銀の努力だけで2%の物価目標を達成するのはかなりの困難を伴うと考える。潜在成長率が0.5%程度に落ち込んだ日本経済の実力回復なしに、物価だけを意図的に引き上げる政策は、副作用が強くなり、国民の不満が高まりかねない。

政府と日銀が緊密に連絡し合い、財政再建への取り組みや成長力の強化に向け、政府が援護射撃してこそ、金融緩和の効果が出てくると予想する。その過程で「黒田総裁」の指導力が発揮される展開を強く望みたい。


http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE92304A20130304?sp=true
 

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コメント
 
01. 2013年3月06日 21:18:04 : N5Q7P3dtvI

村上尚己「エコノミックレポート」

チーフ・エコノミスト 村上尚己が、ファンダメンタルズ分析を中心に内外経済・金融市場に鋭く切込みます。(@Murakami_Naoki )

[ プロフィール ]

2013年3月6日

円安が止まるリスク要因〜脱デフレを邪魔する抵抗勢力〜

ドル円相場は、先週イタリア総選挙を巡る思惑で91円台まで円高に振れたが、それも一時的で先週末(3月1日)に米国株の上昇などをうけて再び93円台に戻った。 2月26日レポートでも指摘したが、欧州発の円高は一時的で、今週になって93円前半のレンジで推移している(グラフ参照)。

今週の国内の重要イベントは、3月4、5日に行われた日銀総裁・副総裁に指名された方々の所信表明である。アベノミクスを成功させる金融緩和策が、日本銀行の新体制で実現するかを、判断する材料になるからである。このイベントに対して、ドル円相場がこの水準で安定しているのは、アベノミクス発動による脱デフレの期待が裏切られないと市場参加者が認識しているからだろう。

既にメディアで報じられているとおり、安倍首相がリーダーシップを発揮して任命しただけあって、脱デフレにつながる金融緩和策の実現を期待させる、黒田氏、岩田氏、中曽氏からの発言が目立った。ポイントは、(1)白川体制の日銀の金融緩和が不十分、(2)2%の物価目標実現は中央銀行の責任で実現するべき、(3)目標達成のために金融緩和強化を目指す、と3氏が認識していることである。

特に、黒田氏、岩田氏が、これらの点を国会の場で明言した意味は大きい。また白川体制を支えていた中曽氏は、これまで公の場で発言していなかったが、「(これまでの金融政策には)なお工夫の余地があった」「消費者物価の上昇率が引き続きゼロ%近傍で推移している。重く受け止める必要」「物価目標は大変重い約束。金融政策が果たすべき役割を責任を持って遂行したい。早期実現に向け全力を尽くす」と発言した。

中曽氏の発言は、2%の物価目標実現に向けて副総裁として協力する姿勢を示した点で、一定の評価はできる。そして、日本銀行プロパーの頂点である中曽氏の考えと行動は、今後の日本銀行全体に大きな影響を及ぼす。

ただ、2%の物価目標を実現する責任や強い意思が、中曽氏に十分備わっているかは疑問が残る。というのも、以下のように発言しているからである。「(物価目標は2年で達成できるかとの質問に対して)世界経済など様々な要因に左右される以上、必ず2年でとは言い難い」。もちろん、この発言に理解できる部分もあるが、「2年で目標実現しなくても、日本銀行の責任ではない」という意味である。

これまで脱デフレを目指すと言い続けながら、15年以上もデフレという経済状況を演出してきた日本銀行の言い分ということである。一方、これと全く異なる発言を行ったのが、同じ副総裁候補である岩田規久男氏である。

「(2%の物価安定目標の達成期限に対して)遅くとも2年で達成できる」「(達成できない場合の責任のとり方に対して)就任してからの2年だ。最高の責任のとり方は辞職だ」と発言した。つまり、岩田氏は、「2年の期限内に、目標を達成できなければ辞職する格好で責任をとる」ことを明言されたのである。つまり、同じ副総裁候補である、岩田氏、中曽氏の間では、目標が実現できるという確信度合い、その責任についての考え方に、かなりの違いがあるということである。

こうした中で、政治の世界では、とうてい理解できない動きがみられている。報道によれば、今回の日銀総裁・副総裁の人事について、参議院における野党の賛成が必要になるが、岩田副総裁の就任について民主党が反対すると報じられている。もちろん、民主党が反対しても、みんなの党などが岩田副総裁就任に賛成するため、岩田副総裁が誕生する見通しである。

ただ、責任と覚悟を持って脱デフレを真剣に考える経済学者である岩田氏を不適格であると、民主党が判断する理由は、筆者には到底理解できない。これまでのレポートでも紹介したが、支離滅裂な理屈を繰りだして、脱デフレを邪魔する抵抗勢力のしぶとさには驚きを禁じえない。円安トレンドはまだ続くだろうが、これが反転する要因がまだ残っていることを、我々はしっかり認識する必要がある。


02. 2013年3月06日 21:28:58 : N5Q7P3dtvI
金融政策は持久戦が求められる局面に

熊野英生・第一生命経済研究所首席エコノミストに聞く

2013年3月6日(水)  渡辺 康仁

日銀の新しい総裁に黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁が就任する方向になった。「大胆な金融緩和」にはひとまず海外のお墨付きも得られた形だが、熊野英生・第一生命経済研究所首席エコノミストは金融政策に求められるのは地道に課題を解決する持久戦だと主張する。
(聞き手は渡辺康仁)
2月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では円安誘導という批判は免れました。アベノミクスは国際的に信任を得られたのでしょうか。


熊野英生(くまの・ひでお)氏
第一生命経済研究所首席エコノミスト。1967年山口県生まれ。1990年横浜国立大学経済学部卒業、日本銀行に入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。2000年8月に第一生命経済研究所へ入社。2011年4月より現職。(撮影:清水盟貴)
熊野:アベノミクスも海外の視線を気にしなければいけない領域に入ったということは言えます。まだグレーな部分もありますが、少なくとも何が反則であるかが分かったのでしょう。それは日銀による外債購入や為替介入です。

 政府が日銀の金融政策に圧力をかけ、日銀が屈服する形で円安がどんどん進んできました。これは違反ではありませんが掟破りです。掟破りがG20でどう評価されるかが問われたのです。為替操作ではなく金融政策であると線引きされたことは非常に重要です。つまり、金融政策である限りはOKだけど、そこから先はNOであると。日銀総裁の候補でもあった人が主張していた外債購入はアウトになったんですね。

 政権としても、為替に影響が及ぶことは相手がある話だと改めて自覚したのではないでしょうか。日本国内で「3本の矢」と言ってみても、それが海外に影響が及ぶようなら対外的な調整をしなければならなくなります。いわば外交の世界に入ったんでしょうね。他国の利害を脅かさずに行けるところまでは一応行ったということです。アベノミクスはこれから機動性を失っていくと見ています。

 株価上昇や円安はこれまで勢いがついていましたが、今後は一時的に期待外れのことが起こったり、市場も一つひとつの材料をもっと中長期的に考えたりしていくでしょう。株高・円安という麻酔が効いている間に、様々な業界や利害関係者に苦言を呈することもしなければなりません。TPP(環太平洋経済連携協定)への参加や医療費や年金問題などへの取り組みが求められる段階に入ってきました。

政治の変化に対応できなかった白川日銀

白川方明・日銀総裁も金融政策に関しては様々なチャレンジをしてきました。安倍政権からの圧力はやむを得なかったのでしょうか。

熊野:白川体制は不幸なことに、政治的な環境ががらりと変わる中でうまく適応できなかったのでしょう。政権が変わり、ある程度、新政権の期待に応えながら対話していかなければならなかったと思いますが、安倍政権はあまりにも日銀に厳しかった。日銀は環境変化にうまく対応できなかったのは間違いありません。その課題はまだ残っています。

 日銀は1月に2%のインフレターゲットと無制限の金融緩和を約束しましたが、いろんな論理矛盾が起こっています。最大のものは何かと言うと、2%は自分たちで決めたから圧力に屈していないということです。これは裸の大様に等しくて、世の中の99%の人が日銀は政府の圧力に屈したと思っています。

 金融政策には限界があるけれど、政府の要請に応じて受け入れましたと言うべきだったのです。政府の要請を受け入れるからには、政府にもしっかりやってもらわないといけないと。日銀は2%の目標を実現するために政府の成長戦略に期待したいと言っています。2%は政府がやってくれるから我々は受け入れるというのはおかしなスタンスです。

 日銀は自分の能力やツールの限界をあらかじめ知り、できないことはできないと言うべきです。できるようにするにはどうすべきかを提案しながら、金融政策の領域以外もどんどん発言していかないと孤立無援になってしまいます。

 政府・日銀が一体と言っていますが、政府の命令を受けて日銀が動くのは一体とは言えません。本当に一体化するには、日銀が金融政策の庭先だけをきれいにするのではなく、経済財政諮問会議などでデフレ解消のためにオールラウンドで議論を展開していくことが必要になります。2010年から包括緩和をやっていましたが、実は政府・与野党の協力は得られていなかった。それで今回、レジームチェンジというか、ちゃぶ台返しをされたということなんでしょうね。

日銀を巡る一連の騒動は将来に禍根を残すことになりませんか。

熊野:日銀がなぜ2%のインフレ目標という、決定的とも言える方向転換を決めたのか。それは日銀法を改正されたくないからというのが本音でしょう。しかしよく考えると、日銀法の精神は、金融秩序がおかしくなったり、通貨価値が将来不安定になったりすることを犯してはいけないということです。法の精神は守られているのかを問い直すと、特に金融市場では不安視する声が強いように思えます。

近視眼的な政策運営に陥る恐れも

 政治の影響力が金融政策にあまりに強く及んでしまうと、近視眼的な政策運営になりかねません。その時々に変わる政権の意向を受けつつ、ある時はアクセルを噴かしたり、あるときはブレーキを踏んでみたり、ということをやると、長期的に考えるべき金融政策がころころ変わってしまう。だからこそ中央銀行は独立しているのです。

 日銀法は政府の経済政策の基本方針と整合的であることを求めていますが、それは金融政策が独善に陥ってはいけないので、政府ときちんとすり合わせをするという意味です。一方的に政府の言うことを聞くことが独立した中央銀行の意義ではありません。

 政府は常にインフレを起こすバイアスを持っているので、政府自身が自分でカギをかけるような形で中央銀行を独立させる必要があるのです。中央銀行の独立性は政府の自己抑制を司るという意味でもあるのです。

黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁が次期日銀総裁の候補になりました。黒田体制で日銀は大きく変わりそうです。

熊野:短期的には前任者の否定から入るでしょうね。就任後初となる4月の金融政策決定会合で白川体制を仕切り直すことになります。総裁、副総裁以外の6人の審議委員は大きな方針転換について、イエスかノーかで大きく揺れるかもしれません。

 安倍政権はレジームチェンジと言っていますが、金融政策に関してはたくさんのタマがあるわけではありません。「大胆な」とか「次元の違う」などと言ってみたところで、3回くらい大胆なことをやると方向感がわからなくなる恐れもあります。

 ただ、日銀当局者とリフレ派の距離が縮まる可能性もあり、それは興味深いですね。リフレ派の人が現場に入ると、しがらみにも直面するでしょう。リフレ派の理論と実際の政策運営の折り合いをどうつけるのかが試されることになります。

 安倍政権は日銀に期待するからこそ、圧力をかけつつ体質転換を望んできたのでしょう。新しい総裁を代理人として日銀に送り込む形なのでしょうが、実際にやらなければいけないのは快進撃ではなく、持久戦をいかにうまく戦っていくかということです。急速展開のフォーメーションから、地道に課題解決していくような持久戦型の金融政策へ転換しないといけない。いつまでも市場の過大な株高・円安への期待と要求に応えるだけで、市場とのうまい対話ができるわけではありません。

円の適正水準は1ドル=96〜112円

円相場は1ドル=90円台です。大きな方向としてはまだ円安が進みますか。

熊野:リーマンショック以降、なぜ日本経済が海外より停滞し、デフレに足を絡め取られているのでしょうか。金融市場が痛んでいなくても、円高で実体経済がダメージを受けたのが大きかったのです。リーマンショック後に続いたリスク回避的な円高が解消される水準が適正だと言えます。

 2%のインフレ目標は高すぎると思いますが、1%以上を実現するために政策を総動員する。今の円安は陽炎のようなところがあるので、中長期的な安定的な動きとして適正水準を念頭に置きながらやっていく必要があります。適性水準というのは目標としての円安ではなく、結果としてそのくらいになるのが適正というメドのようなものです。

適正水準はどの辺りでしょうか。

熊野:1ドル=96円から112円くらいでしょうか。日本経済を強くすることがリスク回避の円高から円安方向に行くことにつながります。期待成長率が上がり、予想物価上昇率もマイナスからプラスのほうに行く。消費税が上がる2014年には実体経済の強さと整合的な為替水準になってほしいと思います。

 円安でエネルギーや食料品の価格が高くなるから好ましくないと言っている人もいますが、円安より円高のほうが良かったのでしょうか。本来は円安にすることで企業収益は増えますが、勤労者にはなかなか回っていかない。企業は設備投資も研究開発も必要です。もしかしたら配当も引き上げなくてはならなくなります。円安になった場合の波及効果を高める政策へと、政策当局者は頭を切り替えて色々なアイデアを出していかないといけません。

 輸入物価が上昇するから減税しなければいけないという発想ではなく、雇用者所得を上げるべく設備投資を加速させることが重要になります。設備投資が加速すると労働需要が強まり、賃金上昇をバックアップする形になります。中長期的にもっと効くような規制緩和や、研究開発や設備投資に前向きになるような税制にするなどの政策を打つべきでしょう。

企業はアベノミクスとどう付き合っていけばいいのでしょうか。

熊野:多くの企業はまだ縁遠いと思っているのではないでしょうか。円安・株高で少し良くなってきましたが、自分たちのところにどういう影響があるのか、まだ実感は乏しいのでしょう。その意味で、選挙のタイミングとは関係なく、政府は果断に取り組むべきです。医療・介護を成長分野にするにはどうしたらいいか。過剰な参入規制は撤廃し、混合診療もやっていかないといけません。農業も体質転換を果たせるように政策を打っていかなければなりません。

 金融政策が効いて、財政政策をやって、3番目の成長戦略で構造改革をやると言っていますが、構造改革の出番をもう少し前倒しにすることもできます。3本の矢が時間差を置いて出てくるのではなく、すべての薬を飲み合わせると効果があるという形にすることが重要です。

理想主義者から実務家へのスイッチ

構造改革でやるべきことは長年言われ続けています。


熊野:問題なのは高齢者にかかる社会保障費が多すぎるということです。このままだと年金の保険料引き上げがどんどん進んでしまいます。やるべきことは誰でもわかっていますが、なかなかメスを入れにくいんだと思いますね。社会保障国民会議で抜本的に取り組まなければいけませんが、経済財政諮問会議よりも開催の頻度も少ない。国民会議こそ重要なはずです。優先順位が後のものを前に持ってくると貴重な時間が空費されてしまいます。

 物事のプロセスは常に決まっています。政権が始まったときは理想主義者が熱弁をふるいますが、だんだん実務家にスイッチしていく。官僚主導という形で誹謗中傷する人もいますが、それは仕方のない話です。学者の中にも実務に精通して利害調整が得意な人がいるので、そういう人が手腕を発揮していく。金融政策も同じです。最初はリフレ派のレッテルを張られた人が登場しても、実務能力がないと高いパフォーマンスは得られません。重要なのは理論と実務の使い分けができる人です。


渡辺 康仁(わたなべ・やすひと)

日経ビジネス副編集長


キーパーソンに聞く




中国刺激する憲法改正論は市場の信頼損なう

ビル・エモット・英エコノミスト誌元編集長に聞く

2013年3月6日(水)  大竹 剛

 経済重視の政策運営を続ける安倍晋三政権。今年夏の参院選で勝利を収めれば、保守色を強めるとの見方も広がる。知日派として知られるビル・エモット・英エコノミスト誌元編集長は憲法改正論議の行方に懸念を示す。
アベノミクスの「3本の矢」をどのように評価していますか。

エモット:「3本の矢」の中で、まず1つ目の金融緩和は正しい方向性でしょう。これまで日本の経済政策に対する最も一般的な批判は、金融緩和が不十分だということでした。1つ目の矢は、10年以上も前からエコノミストたちが求めてきた政策を実施していると言えます。


ビル・エモット(Bill Emmott)氏。
英エコノミスト誌の元編集長。東京支局長などを歴任した知日派。近著「なぜ国家は壊れるのか」(PHP研究所)ではユーロ危機に揺れるイタリアと日本の類似性などを分析(写真:永川智子、以下同)
 また、財政出動による景気刺激策も、一時的に企業の投資判断にプラスに作用し、短期的には効果があるでしょう。特に、「フクシマ」の復興関連は重要です。財政状況の悪化を懸念する意見もありますが、私はそれほど心配していません。

 財政赤字がGDP(国内総生産)比で9%もあり、純負債比率も135%を超える状況で、毎年のように刺激策を打ち続けることは無理だからです。そのため、財政出動は一時的なものになるはずで、それが即座に財政状況を悪化させるとは思いません。

 ところが、日本にとって最も重要なのは3つ目の矢、つまり、成長戦略なのですが、その中身が何もない。

中身がない「成長戦略」。円安効果を誇張してはいけない

具体的に言うと、どのような点が問題なのでしょうか。

エモット:日本経済の問題は、国内需要が弱いことです。家計の支出は収入が増えるまで伸びません。つまり、雇用が増えて給与が上昇するまで、内需は伸びないのです。大切なのはビジネスをどうやって活性化させるかでしょう。2%のインフレを達成しても、賃金が上昇しなければ国民の生活は今以上に悪くなってしまいます。

 金融緩和だけでは、この問題に対処するには不十分です。金融緩和の最初のインパクトは円安で、これは輸出に頼る製造業にとっては追い風となります。しかし、決してその効果を誇張しすぎてはいけません。なぜなら、日本経済に占める輸出の割合はほんの小さな一部に過ぎないからです。

とはいえ、日経平均株価は安倍晋三政権誕生から上昇を続けてきました。投資家はアベノミクスに期待しすぎなのでしょうか。

エモット:日本の株価はこれまで長い間、低迷してきました。過小評価されすぎていたのです。株価が選挙後に上昇しているのは、通常の状況に戻り始めているに過ぎません。投資家の興奮が行き過ぎたものだとは思いません。

 注意しなければならないことは、株価が上昇したからといって、企業の投資が増え始めていると結論付けてはいけないということです。なぜ企業は投資をせずに現金をため込んでいるのでしょうか。それは、借入コストが問題だからではありません。日本に成長の道筋が見えないからです。

正社員、非正社員を分断する悪しき労働法を改めよ

成長戦略では、特に何を重視すべきでしょうか。

エモット:これまで、日銀の白川方明総裁は構造改革の必要性を主張し続けてきました。成長戦略がなければ、金融緩和の効果は望ましい結果にならないという指摘です。

 成長戦略で重要なのは、サービス部門を中心とした規制緩和と労働市場改革です。特に、労働市場改革については、問題は明らかです。

 日本の労働市場は、失業率が低い一方で、労働参加率が低く、賃金も減少しています。なぜでしょうか。それは、労働法が労働力を2つのグループに分断しているからです。法的に手厚く保護された正社員と、そうではない非正社員です。

 雇用主はフルタイムの正社員を雇うよりも、簡単に採用し、解雇もできるパートタイムの非正社員を好んで雇います。その結果、若者や女性を含む労働人口の約3割が非正社員になっています。彼らの収入は減り続け、今や非常に低い。

 こうした仕組みは、産業界が人件費削減のために導入したものです。柔軟性のある労働市場を作るというのは掛け声に過ぎず、実際には“安い”労働力が欲しかったというのが本音でしょう。

雇用の“柔軟性”と“安全”の両立を

 非正社員の賃金が安いために、消費は伸びません。そして、収入が伸びる期待も貯金が増える見込みもないために、女性や若者たちはますます働きに出ようとしなくなる。

 私は先ほど、日本の問題は国内需要が弱いことだと指摘しました。政府レベルで唯一できる解決策は、労働法改正だと思います。その方法は様々でしょうが、正社員・非正社員と分けるのではなく、経営者がより柔軟に雇用できるようにすると同時に、労働者にはより大きな保護を与える仕組みを作り、賃金上昇を促すものでなければなりません。

 日本は、北欧諸国が実施している、フレキシビリティ(柔軟性)とセキュリティ(雇用の安全)を両立する“フレキシキュリティ(Flexicurity)”の考えを見習うべきでしょう。

小泉元首相よりも改革を成し遂げる可能性も

安倍首相を、改革を目指した小泉純一郎元首相と並べ評する声も聞かれます。安倍首相の個性をどのように評価していますか。

エモット:まず、安倍首相が前回の失敗を克服してもう一度挑戦しようという決意を示したことは、素晴らしいことだと思います。それは、個人として意志の強さを示しています。


 次に、日本の首相として国を自らリードしようとすることは、非常に良いことだと思います。過去20年間を振り返ると、合意形成型の首相はあまり成功してきませんでした。もし、自民党内や官僚組織からの支持を得られるのであれば、小泉元首相や中曽根康弘元首相のスタイルに近づくことが、日本にとって望ましいのではないでしょうか。

 小泉元首相は、自らの政策を推し進めるにあたり、官僚組織や最終的には党内を説得できなかったことが弱点となりました。だから、彼の成果は限定的なものになりました。安倍首相は、もっと上手く立ち回るかもしれません。彼は、小泉元首相ほど人気はありませんし、国民に上手くアピールできていません。しかし、政策はより上手く実行するかもしれない。

 いずれにしても、判断は時期尚早です。7月の参院選までは、具体的な構造改革の中身は表に出てこないでしょうから。アベノミクスの真価は、参院選後、どのような構造改革を断行できるかで問われることになります。その際に官僚組織と対立せず、いかに説得できるかがカギとなるはずです。

憲法改正論議を始めるべきではない

安倍政権は、参院選挙まで市場からの支持を維持できるでしょうか。

エモット:それは、憲法改正論議の行方に左右されるのではないでしょうか。もし、安倍首相が憲法改正論議を前面に打ち出してきたら、党や国民からの支持を失うリスクが高まるでしょう。政権が弱体化すれば、アベノミクスを遂行する能力に対する懸念が、金融市場にも芽生えることになります。

 極めて微妙な状況にある中国との関係も、細心の注意を払うべきです。尖閣諸島における日本の主権を認めた、サンフランシスコ講和条約の現状を守る安倍首相の主張は正しいと思います。

 しかし、憲法9条や自衛隊の問題に踏み込んだ途端、日本は国際的な評判を落としかねません。尖閣に対する主権については日本の立場は強いですが、憲法改正問題に踏み込むと、従軍慰安婦問題など中国側の議論がより説得力を持つ領域に世界の注目が移りかねません。

 日本は今、世界から支持される強く明確な立場を維持すべきです。安倍政権は、政策の優先順位を間違えずに、経済改革と震災で被害を受けた東北地方の復興に力を集中すべきです。


大竹 剛(おおたけ つよし)

1998年、デジタルカメラやDVDなどの黎明期に月刊誌「日経マルチメディア」の記者となる。同誌はインターネット・ブームを追い風に「日経ネットビジネス」へと雑誌名を変更し、ネット関連企業の取材に重点をシフトするも、ITバブル崩壊であえなく“休刊”。その後は「日経ビジネス」の記者として、主に家電業界を担当しながら企業経営を中心に取材。2008年9月から、ロンドン支局特派員として欧州・アフリカ・中東・ロシアを活動範囲に業種・業界を問わず取材中。日経ビジネスオンラインでコラム「ロンドン万華鏡」を執筆している。


徹底検証 アベノミクス

 日本経済の閉塞感を円安・株高が一変させた。世界の投資家や政府も久方ぶりに日本に熱い視線を注ぐ。安倍晋三首相の経済政策は日本をデフレから救い出す究極の秘策か、それとも期待を振りまくだけに終わるのか。識者へのインタビューなどから、アベノミクスの行方を探る。


03. 2013年3月06日 22:05:18 : N5Q7P3dtvI

【第91回】 2013年3月6日 森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]
前回の「量的緩和」と今回の「包括緩和」の違い
〜超過準備の保有者構成から〜
――森田京平・バークレイズ証券チーフエコノミスト
固まった日銀総裁・副総裁候補

 安倍首相は日銀総裁候補として、黒田東彦氏(アジア開発銀行総裁、元財務官)、副総裁候補として岩田規久男氏(学習院大学教授)と中曽宏氏(日銀理事)を国会に提示した。国会採決は3月15日までに行われる見通しである。

 現職の白川日銀総裁が議長を務める金融政策決定会合(以下、決定会合)は3月6〜7日が最後となる。それまでに大きな市場環境の変化(円高、株安など)がない限り、追加緩和の可能性は限られよう。

5つの緩和オプション

 新総裁の最大の課題は、いつ、どの程度の追加緩和を行うかにある。この点で、新総裁が議長を務める最初の決定会合(4月3〜4日)に向けて、市場の関心は高まるであろう。

 現時点で筆者が想定する緩和オプションは、以下の5つ。

 @残存年限を1〜10年に延長した上で2013年の基金の長期国債買入枠拡大(2013年末44兆円→60兆円)。なおこの場合、同オペを現行の輪番オペに吸収し輪番オペを増額するという形態もあり得る。

 A社債やETFなどリスク資産(外債は除く)の買入枠を5〜10兆円拡大。

 B2014年に導入されるオープンエンド型の国債買入額の前倒しと引き上げ(ただし、@で触れたように基金の国債買入れを輪番オペに吸収することになれば、この選択肢は不要となる)。

 C超過準備に対する付利水準の引き下げ(現行0.1%→0.05%。ただし撤廃は想定していない。当座預金の積み上げが難しくなることが理由)。

 D何らかの経済指標(CPIが有力)が特定水準(CPIであれば前年比2%)に安定的に達するまで緩和策を続けるというフォワード・ガイダンスの導入。

 一方、外債買入オペについては、2月のG7声明(財政・金融政策は為替レートを目標にはしない)やG20声明(通貨の競争的な切り下げを回避、競争力のために為替レートを目的とはしない)、今月4日の黒田総裁候補に対する所信聴取などを踏まえると、新総裁が誰であっても可能性は低い。

遅くとも4月26日までに
追加緩和の可能性

 こうした追加緩和策は、遅くとも次の「展望レポート」が発表される4月26日の決定会合(新総裁が議長を務める2回目の決定会合)までに採択される必要がある。同レポートの焦点は、白川総裁の下で示された2014年度コアCPI+0.9%(消費増税の影響除く)という見通しをどこまで引き上げられるかにある。

 上述した国会での所信聴取で、黒田氏は2%の物価上昇(「物価安定の目標」)の実現について「2年以内が適切な目途」と発言した。こうした政策姿勢に説得力を持たせるには、次の展望レポートで2014年度のコアCPIが少なくとも1%を上回るレベルまで引き上げられる必要があろう。

 そうでなければ、新総裁は早々に政治の批判に晒される可能性がある。そのためには、遅くとも同レポートが発表される4月26日までに追加緩和に打って出ることが求められる。

ただし「キング総裁型」の
リスクを無視できない

 課題は、新総裁が今月20日の就任後1ヵ月ほどで、9名の政策委員(総裁1名、副総裁2名、審議委員6名)の間で自らの政策に共鳴する多数派を形成できるかだ。まさに新総裁の説得力、ひいては組織運営力が問われる。

 日銀同様、多数決で金融政策を決めるイングランド銀行の金融政策委員会(MPC)では、議長であるキング総裁が少数派に回ることが時折ある。日銀の新総裁が同様の経験をしないとも限らない。この点を踏まえると、麻生財務大臣が事前に挙げていた新総裁の3条件(組織運営の経験、語学に堪能、健康であること)のうち、組織運営の経験はかなり本質的な資質と言えよう。

日本のベースマネー:
年後半にはGDP比30%超えへ

 中央銀行が供給する通貨であるベースマネー(=銀行券発行高+貨幣流通高+中央銀行預け金)(注1)の残高をGDP比で見ると、日本の水準の高さと増勢の維持を見て取れる(図表1参照)。


 実際、FRBの場合、2011年7〜9月期の17.5%をピークとして昨年10〜12月期には16.7%まで漸減している。ECBも20%程度でやや頭打ち感がある。こうした中、日銀は増勢を維持しながら足下では27%に達している。現行の「資産買入等の基金」(以下、基金)の運営方針を前提とすれば、今年後半には30%を超えるであろう。

(注1)厳密には貨幣は日銀ではなく政府が発行している。

超過準備の保有者:
前回の「量的緩和」と
現行の「包括緩和」の違い

 ベースマネーの増減に強く影響するのが、市中金融機関が日銀に預ける超過準備預金(日銀当座預金の1項目)だ。実はこの超過準備には、前回の「量的緩和」(2001年3月〜2006年3月)と、基金などに基づく現行の「包括的な金融緩和」(2010年10月〜)の間で顕著な違いを見出すことができる。

 それは同準備の保有者構成だ。量的緩和期に当たる2005年12月末を振り返ると、超過準備残高28.6兆円のうち最大の保有者は都市銀行(13.5兆円)であった(図表2参照)。


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 これに対して、包括的緩和策が採られている2012年12月末の超過準備残高38.7兆円のうち、最大の保有者は「その他準備預金制度適用先」(15.0兆円)となっている。この「その他準備預金制度適用先」は、主にゆうちょ銀行、農林中金、信用金庫からなる。

 さらに2013年1月には、外国銀行の超過準備残高(8.1兆円)がついに都市銀行(6.4兆円)を抜かした。つまり、前回の量的緩和期に最大の超過準備預金を保有した都市銀行は、足下で「その他準備預金制度適用先」と外国銀行に次ぐ三番手となっている。

金融緩和の波及経路(チャンネル):
超過準備の保有者構成は欠かせない論点

 こうした超過準備の保有者構成は、金融緩和がどのような経路(チャンネル)で効果を発するかを考える上で重要なポイントとなる。なぜならば、同じ金融機関でも業態間で資産構成が大きく異なるからだ。とりわけ新総裁の下、超過準備の付利(現行0.1%)の引き下げという議論が出てくる可能性を踏まえると、超過準備保有主体の資産構成は欠かせない論点とはるはずだ。

 前回の量的緩和期に最大の超過準備を保有した都市銀行の資産構成を見ると、貸出金が39%(2012年中の四半期末値の平均)と大きな位置を占めている(図表3参照)。


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 しかも、これは有価証券の34%を上回る。したがって、当時の量的緩和が金融機関にポートフォリオ・リバランスを促したとすれば、貸出金という経路を期待できたかもしれない(注2)。

(注2)ここでの議論は不良債権問題や金融システム不安がない状態を仮定している。

ゆうちょ銀行と農林中金:
「有価証券」が圧倒的に大きい

 一方、足下で超過準備の最大保有者となっている「その他準備預金制度適用先」では、有価証券の位置付けがかなり大きい。たとえば、このカテゴリーで最大の資産規模を持つゆうちょ銀行を見ると、実に資産の87%が国債などの有価証券となっている。同様に農林中金においても、有価証券が62%と過半を占める。

 なおこのカテゴリーに属する信用金庫では、確かに貸出金が47%と大きいが、残高自体は2009年末以降、前年比マイナスが続いている。むしろ22%に及ぶ現金預け金の存在が目立つ。

外国銀行:
「本支店勘定」を通じた
事実上の円キャリートレード

「その他準備預金制度適用先」に次ぐ超過準備保有者である外国銀行(在日支店)については、かなり異色の資産構成を見て取ることができる。最も特徴的なのが本支店勘定だ。

 同勘定は、外国銀行在日支店の資産側、負債側の両方に存在する。資産側の同勘定は在日支店が海外にある本店に対して保有する資産、負債側の同勘定は在日支店が海外本店に対して保有する負債を表す。

 たとえば、外国銀行在日支店が金利の低い円資金を調達し、それを海外にある本店に送り、海外本店はそれを外貨で貸し付けたり運用に充てるケースを想定しよう。この場合、在日支店は本店に対して債権を持つことになり、資産側の同勘定が増えることになる。

 まさにこれは、円キャリートレードの一形態と言える。実際、円キャリートレードが市場で話題となった2006〜07年頃は、資産側の本支店勘定が負債側の同勘定を上回るという珍事が起きた(図表4参照)。

この外国銀行が超過準備保有者として、いまや都市銀行を超える二番手に上がってきた。


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ベースマネーの保有者構成:
金融政策の波及経路を
「実務的」に考える際の重要な論点

 このような超過準備の保有者構成を踏まえると、新総裁の下、超過準備の付利引き下げが採択された場合、ポートフォリア・リバランス効果としては、@国債などへの投資、A超過準備としての滞留(つまりリバランスは起きない)、B本支店勘定を通じた円キャリートレード、などが想定される。

 一方、貸出すなわち国内信用創造を直接刺激する経路は、都市銀行が最大の超過準備保有者であった前回の量的緩和期よりも細そうだ。

 超過準備あるいはベースマネーに関わる議論は、得てして量に関心が向かいがちだ。しかし、金融政策を「実務的」に考える場合、ベースマネーの保有者構成は量と同程度に重要な論点だ。ベースマネーの保有者構成に配慮することなく、超過準備の付利引き下げ、ひいては金融緩和の効果を語ることはできない。




【第106回】 2013年3月6日 週刊ダイヤモンド編集部
高まる期待と立ちはだかる難題
日銀新総裁“脱デフレ”への挑戦
日本銀行の総裁・副総裁人事が固まった。新体制は、デフレ脱却という悲願に向け、大きな責任を負うことになる。市場の期待は、既に大きく膨らんでいる。だが、実際に事を進めるのは、そう簡単ではない。大幅金融緩和の副作用への対処、日銀内の組織統制、政府や省庁との調整など、新総裁を待ち受けるハードルは高い。

 結果的には、安倍晋三首相の“作戦勝ち”といえるだろう。

 日本銀行の総裁・副総裁の人事案。総裁にアジア開発銀行の黒田東彦総裁、副総裁に学習院大学の岩田規久男教授、同じく副総裁に日銀の中曽宏理事で、2月28日に国会に提示された。10日間ほどの所信聴取などを経て採決されるが、各方面に配慮したこの人事案が同意される可能性は高い。


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 人事案の権限を一手に握る安倍首相は、2月半ばごろから「財務省出身などにはこだわらない」「金融マフィアとつながりのある人」と発言し始めた。黒田氏を想定したものだったと思われる。もともと岩田一政・日本経済研究センター理事長を最有力候補に考えていたが、「組織運営能力の面で、日銀副総裁時代の評判があまりよくない」(政府関係者)との感触を得て素早く切り替えたようだ。

 一方、財務省は「総裁ポストの奪還しか考えていなかった」(財務省関係者)。第一希望は、元財務事務次官・元日銀副総裁の武藤敏郎・大和総研理事長。だが、2月15日、候補に挙がっていた中で最も金融緩和に消極的とされる武藤氏が有力と一部で報じられると、日経平均株価は一時200円超下落。“市場の不同意”判定で、断念せざるを得なかった。


安倍晋三首相が唱える、金融政策の「レジームチェンジ」(体制変更)が実現できるかは、日銀新総裁の姿勢と資質にかかる。左上は日銀新総裁候補の黒田東彦・アジア開発銀行総裁。
Photo:Bloomberg via Getty Images
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 そこで急浮上したのが黒田氏だった。リスク資産の買い入れなど一段の金融緩和によるデフレ脱却を主張するリフレ派であり、従来の日銀の政策を厳しく批判してきた。財務省出身ということにこだわらなければ安倍首相とは考え方が近く、また財務事務次官OBよりは財務官OBのほうが財務省色は強くない。財務省にとっては、第一希望の人選ではなくとも15年ぶりの“総裁奪還”には違いない。

 また黒田氏は、世界の金融界、安倍総裁の言うところの“金融マフィア”に広い人脈を持つ。「従来の日銀で足りないと指摘されてきた市場とのコミュニケーション能力や、国際会議での発言力強化が期待される」(岩下真理・SMBC日興証券金融経済調査部長)。これは市場に日銀の金融政策の“変化”をアピールし、国際的な理解を求める上で重要だ。

 サプライズとして用意したのが、岩田氏の登用だった。強力なリフレ論者であり、日銀政策批判の急先鋒だけに、総裁ポストではなくても、みんなの党をはじめとする政治家や市場のリフレ派に期待を持たせることができる。

 当初はポストなしの可能性もあった日銀も、プロパーの中曽氏登用で溜飲を下げることができるだろう。黒田氏と岩田氏が中央銀行での実務経験がないことから、組織運営での役割は重要である。また中曽氏は、黒田氏が弱いとされる各国の中銀関係者とのパイプを持ち、リーマンショック後の対応は高く評価されている。

 バランスの取れた布陣といえるが、各勢力の間を取った妥協案という感はぬぐえない。

試金石は
4月に開く初回の決定会合

 今後の焦点は、具体的な政策の中身に移る。市場では、さらなる金融緩和への期待の高まりを反映して、人事案が報道された日に日経平均株価は300円余り上げた。

 だが、これはあくまでも期待感だけによるものだ。試金石となるのが、新体制発足後、4月3〜4日に開かれる最初の金融政策決定会合だ。

 政策メニューとしては、(1)2014年から開始する毎月13兆円の無期限の国債購入のペース拡大と前倒し、(2)買い入れ国債の年限を現在の3年以下から拡大、(3)ETFやREITなど株式関連、不動産関連のリスク資産買い入れの拡大、(4)外国債券の購入、(5)当座預金超過準備の付利撤廃、が考えられる。

 現実的には、すぐにも可能な(1)と、(2)で年限を5年以下等にする方策が有力である。これらは、民間金融機関が保有する国債を減らして貨幣と入れ替える形で、マネタリーベースを拡大、つまりは日銀が市中への資金供給量を増やすことになる。それにより期待インフレ率が上がり、株価が上昇、消費や企業の設備投資が活発化して、景気回復につながるという循環を狙う。

 ただし、現在のゼロ金利下においてこのプロセスが働き、賃金の上昇を伴う真のデフレ脱却となって、景気回復につながるかは不透明だ。その成否こそが、リフレ政策をめぐる最大の論争点である。

強力な緩和策を取れば
リスクとコストに直面

 仮に(1)、(2)でも効かないとなれば、従来の金融政策の枠組みを踏み越える必要がある。それが(3)以下であるが、事はそう単純ではない。大きな副作用を伴うからだ。

 例えば、(4)は円安実現に多大な効果がありそうだが、G20(主要20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)でくぎを刺されただけに、国際的な非難を浴びることになる。

 (5)はどうか。民間銀行に日銀への預け入れが義務付けられている必要準備額を超えて、預金されている分への金利(0.1%)を撤廃し、企業や家計に資金を回そうというものだが、これも、銀行は超過準備を持つ動機がなくなり、日銀の資金供給に今よりも応じなくなってしまうなどで「優先順位は低い印象」(岩下部長)だ。

 残るは、(2)で年限を10年以下などさらに延長することと、(3)のリスク資産買い入れの大幅な拡大だ。

 前者の問題点は、財政政策の色彩を帯びてくることだ。仮に年限10年で買い入れの対象にすれば、新発債の引き受けに等しい。財政ファイナンスと市場に受け取られれば、金利が急上昇しかねない。また、リスク資産の買い入れで万一損失が拡大すれば、日銀納付金の減少=財政補填の減額になる。

 そうである以上、少なくとも、政府の財政規律を維持する歯止め策が不可欠。日銀の側から政府に、構造改革などの政策実行を突き付けることも必要だ。

 日銀の新トップは早晩、こうした難題に直面する。緩和策が強力になればなるほどリスクとコストが増大することも実感するだろう。

「出だしのところでは積極的でも、徐々にリスクが認識される」(加藤出・東短リサーチ取締役)結果、市場の期待は、“過大”に終わる可能性も否めない。従来の枠を踏み越えるならば、「冷徹な計算と十分な勝算なしでは“大胆”ではなく“無謀”な金融緩和」(池尾和人・慶應義塾大学教授)になる。乗り越えるべきハードルは高い。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、河野拓郎)


04. 2013年3月06日 22:14:59 : N5Q7P3dtvI
現代の欧州はムッソリーニなど相手にしない
ユーロ危機が生んでいるのはファシストではなくコメディアンだ
2013年03月06日(Wed) Financial Times
(2013年3月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


ベッペ・グリッロ氏が率いる「5つ星運動」は先のイタリア総選挙で大躍進した〔AFPBB News〕

 何カ月か前、筆者は地位の高い米国の外交官とユーロ危機について議論していた。「1930年代に逆戻りしたようだね」。相手は半ば悲観し、半ば面白がるような様子でこう言った。「過激派が勢いを増している」

 イタリアの総選挙の後、こうした破滅論的な予想が急増している。英国の雑誌スペクテーター誌はベッペ・グリッロ氏を「イタリアの新たなムッソリーニ」と呼んだ。イタリアのコメンテーターの間でさえ、同じように2人を比較する向きがある。

 こうした見方は先の選挙で25%の得票率を得た「5つ星運動」を率いるグリッロ氏に対してフェアでないばかりか、不況下で欧州の政治が今後見せそうな展開を読み誤ってもいる。1930年代の恐慌がファシストと共産主義者の台頭をもたらしたことから、現在の経済危機も同じように極右と極左への逃避を引き起こすと言いたくなるのだろう。

1930年代との類似点

 確かに当時と今の欧州には、いくつかの類似点がある。1930年代と同様に、金融危機とそれに続く緊縮政策が高い失業率を招いた。そして今再び、支配階級に罵声を浴びせる新たな政治運動が出現している。

 だが、少し掘り下げると、この比較は偽りに見える。大恐慌が欧州に到達した時、欧州大陸は第1次世界大戦の恐怖に苦しんでから、まだ12年しか経っていなかった。1914年に19〜21歳だったフランス人、ドイツ人男性の約4割が、その後の4年間で命を落としている。

 イタリアも恐ろしいほどの犠牲者を出した。全体では、1000万人以上の兵士が欧州で命を落とし、さらに数百万人が障害を抱えることになった。

 アドルフ・ヒトラーとベニート・ムッソリーニはともに退役軍人で、彼らの率いた政治運動はその経歴に大きく形作られていた。ムッソリーニは大恐慌が欧州を襲う前の1920年代に権力を掌握した。大恐慌が始まった時、欧州は準備ができていなかった。社会福祉制度が衰えていたため、失業は概して極貧と飢えを意味した。

 それと比べると、現代の欧州ははるかに豊かで、心の痛手が和らいだ大陸になっている。もちろん、賃金と年金が減額されたポルトガルのような国々では、生活は厳しい。ユーロ圏全域で失業率が高くなっており、多くの人が将来への不安を抱いている。しかし、今は1930年代ではない。

ギリシャはあくまで例外

 1930年代流の政治を一番生み出しそうに見える国は、国内総生産(GDP)が25%も縮小し、欧州で最も深刻な経済収縮に苦しんでいるギリシャだ。深刻な不況を受け、超国家主義や反ユダヤ主義などのファシズムのテーマに手を出す極右政党「黄金の夜明け」が台頭した。


ギリシャでは極右政党「黄金の夜明け」が10%程度の支持率を得ている〔AFPBB News〕

 黄金の夜明けは現在、世論調査で10%程度の支持率を得ており、急進左翼連合(SYRIZA)は前回の選挙で僅差の2位につけた。だが今のところ、不人気な中道政権が権力の座を維持している。

 さらに、ギリシャに関して特に際立つのは、同国が依然、現代の欧州で例外的なことだ。欧州大陸のその他諸国を見ると、極右、極左勢力はまだ劇的な前進を遂げていない。ポルトガルやイタリア、スペインなど、ひどい不況に苦しむ国々でさえそうだ。

 今や若年失業率が50%を上回るスペインでは、新たに生じた重大な政治的展開は、カタルーニャ民族主義の台頭だ。これは国家の一体性を脅かす深刻な現象だ。だが、この流れを1930年代の無政府主義運動やフランコ主義の復活と混同してはならない。

 イタリアの地域政党で分離独立派の北部同盟は、経済危機よりずっと前に誕生したが、直近の選挙ではお粗末な成績に終わった。イタリアの政治における新勢力はグリッロ氏と同氏の率いる運動で、その政治スタイルはイタリアのファシストのそれとは大きく異なる。

 ムッソリーニは、軍国主義的で大言壮語の政治家だった。これに対してグリッロ氏は、ユーモアと形式張らないことをトレードマークにしている。グリッロ氏がイタリアの議会と政界を笑いものにしているのは事実だが、制度としての民主主義を拒んだことは1度もない。

真実を語る道化の台頭

 実際、現代のヨーロッパ人は不況に対して、ファシストよりはむしろコメディアンに投票するように見受けられる。

 グリッロ氏は例外ではない。金融危機で経済が壊滅的な打撃を受けたアイスランドでは、有権者は首都レイキャビクの市長にコメディアンのジョン・ナール氏を選出した。ナール氏の政治公約の1つは、10年以内に議会から麻薬を追放することだった。

 見通しが暗い時には、怒りとユーモアを組み合わせるコメディアンの能力は政治的に奏功する。コメディアンは、旧態依然とした政治のうぬぼれをひっくり返す型破りな提案もできる。グリッロ氏は、政治家の報酬を削減し、インターネットの通信速度を速め、自転車用車線を増やすことを約束した。

 真実を語る道化師として躍進を遂げる政治家にとって難しいのは、実際に権力を振るうことになった時に、明らかに面白くない選択肢を迫られることだ。これはグリッロ氏が現在、連立樹立の申し入れをことごとく拒んでいる理由の1つかもしれない。

 5つ星運動は、地方レベルで権力を握ったところでは実際的な統治を行っている。パルマでは、グリッロ氏の支持者らは、大変な赤字を出している市の運営を任されたことに気づかされた。

 彼らはこれに対し、債務を借り換え、歳出削減を押し通すことで対応した。同じように、レイキャビクでは、コメディアン出身の市長が人員を削減し、税率を引き上げざるを得なかった。

イタリアで最後に笑うのは・・・

 対照的に、イタリアの国家的経済危機に対するグリッロ氏の提案は、それよりはるかに急進的な政策を匂わせている。同氏は莫大なイタリア国債の元利払い停止について語り、イタリアがユーロを離脱する考えも口にしている。

 主流派の政治家の大半は、こうした考えを悪い冗談だと思っている。だが、こうした政治家が、緊縮策がさらに5年間続く見通しより魅力的に思える道筋を見つけることができなければ、グリッロ氏と彼を真似る人たちがイタリアで最後に笑うことになるかもしれない。

By Gideon Rachman


05. 2013年3月06日 22:22:50 : N5Q7P3dtvI

FTSEユーロファースト300指数が4年半ぶり高値=欧州市場
2013年 03月 6日 18:02 JST
[パリ 6日 ロイター] 6日の欧州株式市場で、FTSEユーロファースト300種指数.FTEU3が4年半ぶり高値をつけた。通信部門での合併観測などが支援要因となっている。

0823GMT(日本時間午後5時23分)時点で、同指数は0.25%高の1192.01。2008年9月以来の高値となっている。

前日の米株市場では、ダウ平均.DJIが過去最高値を更新した。

ダウ最高値更新:識者はこうみる
2013年 03月 6日 02:55 JST
[ニューヨーク 5日 ロイター] 5日序盤の米国株式市場で、ダウ工業株30種平均.DJIが2007年10月11日につけた日中取引時間の最高値である1万4198.10ドルを突破した。指数はその後も上値を伸ばしている。

市場関係者の見方は次の通り。

●行き過ぎ、歳出削減や増税未消化

<リッジワース・インベストメンツのシニア投資ストラテジスト、アラン・ゲイル氏>

株式相場は、世界的な金融刺激策の波に乗っているのだろう。相場は過去の高値を試したがるが、行き過ぎだ。果実の最後の一片を求めて危ない橋を渡っている。こうした姿勢は幾分ぜい弱だ。

すでに始まった一部歳出削減や増税を市場はまだ消化しなければならない。

●潮目変わった可能性

<シェーファー・インベストメント・リサーチのシニア・テクニカル・ストラテジスト、ライアン・デトリック氏>

一般の投資家には、「財政の崖」などマイナス材料が多いなかでも潮目が変わったことを意味している可能性がある。株価を6―9カ月先の先行指標とみるなら、年内の米経済はさらに強さを増すと考えられる。株式を手放していた向きはこの好機を逃し、保有していた向きは気分が良くなっただろう。

特に好ましいのは、輸送株が過去最高値を更新したことだ。同セクターが上げをけん引している。全てのマイナス材料を受け流しているようだ。

年金基金の株式投資は非常に少ない状態だ。われわれのS&P総合500種の今年の目標は1650ポイントだ。かなり妥当な線だろう。

サービス部門は世界的に好調だ。インフレも依然見られない。こういったことは株式には好ましい。

ただ債券もまだ大きく売られていない。短期的に欧州情勢や米財政問題をめぐる不透明感は強い。

●株価なお割安、債券でなく現金から資金シフト

<プルデンシャル・フィックスト・インカムの首席投資ストラテジスト、ロバート・ティップ氏>

懸念材料をよそに値を上げる典型的な強気相場だ。株式市場のバリュエーションは素晴らしい。一方で、投資家のセグメントに目を向けると、手元資金の潤沢さにかかわらず、個人投資家のポジション形成は低水準だ。

株価は1970年代半ば同様、債券に比べ極めて割安だ。企業利益の伸びに裏付けられるように、ファンダメンタルズの改善を受けて株価は上昇しているが、なお非常に良好な水準にある。

「資金シフト」が起こっている。だが予想しているような債券から株式への資金シフトではなく、キャッシュからのシフトだ。

債券市場へも資金流入が継続するだろう。

●欧米中リスク後退で株のウエート拡大

<JPモルガン・アセット・マネジメント(JPMアセット)のマネジングディレクター兼首席市場ストラテジスト、デービッド・ケリー氏>

欧州の崩壊や米「財政の崖」、中国のハードランディングなど深刻な状況を招きかねないリスクが存在していたことで株式と債券、キャッシュの間に極端な不均衡が生じていた。株価は適正水準に近いものの、債券相場やキャッシュに比べれば非常に割安だ。中央銀行による低金利維持を踏まえれば株価は上昇して当然だったが、前述のリスクの存在が株高を妨げていた。これらのリスクが和らぐにつれ、他に行き場のない資金が株式に流入し、ダウが最高値を更新した。

依然としてリスクは多いが、これまでより小さく、投資家も比較的小さいと感じている。欧州では欧州中央銀行(ECB)が銀行システム、そしてソブリン債市場の安定化に動いた。景気見通しはなお弱いが、金融危機のリスクはおおむね後退した。中国では成長が7%に鈍化。米国は財政の「崖」から「丘」にシフトし、リセッション(景気後退)のリスクは回避した。

世界経済や米経済が好調というわけではないが、悲惨な事態に陥るリスクは低下した。実際に低下しただけでなく、市場もそう感じている。

2008年以降、誰もが次の混乱を不安視していたが、このところそうした懸念は薄れ、債券やキャッシュから株に資金がシフトしている。

中銀の措置によって投資家は債券で高い利益を上げることができなくなっているため、株式をオーバーウエートとする方向に向かっており、相場を押し上げている。



コラム:米財務省が一蹴した日銀外債購入案=上野泰也氏
2013年 03月 6日 19:23 JST
上野泰也 みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト(2013年3月6日)

「安倍円安相場」に対する米財務省の本音が、ようやく明らかとなった。ブレイナード米財務次官(国際問題担当)は5日、2月の日米欧7カ国(G7)声明に言及し、「G7加盟国は外国資産の購入を通じてマクロ経済の緩和を目指すことを明確に排除している」と強調した。

ワシントンで行った講演の後に日本の金融・財政政策を背景に円安が進んでいることについて問われた際にも、「外債購入はG7声明で想定されていないことが明白になっている」と同財務次官は繰り返したと報じられた。

G7メンバー国で議論されている個別政策の選択肢について、匿名ではない米政府高官からここまではっきりと封じ込めを意図した発言が出てきたことは、筆者の記憶にない。以前から一部メディアは、12月の衆院選勝利後に、安倍晋三自民党政権の閣僚や政府顧問がドル円相場の具体的な水準に直接・間接に言及することで「円のトークダウン」を図ってきたことに対し、米政府は反発し水面下で日本に警告を発してきたと報じていたが、どうやら本当だったのだろう。

筆者が想像するに、多くの日本のマスコミがこの問題を報じることをあえて避けていたように見えるのは、あまり騒げば政府からの日銀人事関連の情報入手に差し障りが生じると配慮したからなのかもしれない。

それでも、麻生太郎副総理兼財務相は5日午後の衆院本会議で、「現段階では慎重に考えるべき問題だ」としつつも、日銀外債購入という選択肢があることについては安倍首相との間に不一致はないと発言した。また、岩田規久男日銀副総裁候補も同日、衆院議院運営委員会で行われた所信聴取の中で、外債購入がなくても物価上昇率2%は達成できるが、手段としてはとっておくべきと述べた。こうした発言を受けて苛立ちを強めた米国は、より明確な形で日本にクギを刺しておく必要があると判断したのではないか。

これより前、ブレイナード米財務次官は先月11日には、「米国は成長を取り戻しデフレからの脱却を目指す日本の努力を支持する」としつつも、「為替相場は市場で決まるというのがG7の長年の約束事だ」と強調したと報じられていた。市場はその直後、最初のコメントを円安容認と受け止めて円売りで反応した。だが、これは明らかに誤りだった。米財務省の真のメッセージは2番目のコメントにあったというのが筆者の考えである。

<円はいったん為替相場の主役の座を降りた>

では、ここでG7の「長年の約束事」を改めて確認しておこう。2月12日に公表されたG7財務大臣・中央銀行総裁の声明(日本の財務省の仮訳)には、こう書かれてある。

「我々、G7の財務大臣・中央銀行総裁は、我々が長年にわたりコミットしている、為替レートは市場において決定されるべきこと、そして為替市場における行動に関して緊密に協議すべきことを再確認する。我々は、我々の財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は為替レートを目標にはしないことを再確認する(以下省略)」。ちなみに、この声明がまとめられた頃、G7メンバーの通貨で相場が大きく動いていたのは日本円だけである。つまり、これらの文章が日本政府に向けられたことは明白だった。

振り返れば、安倍首相や麻生財務相が為替相場への言及を神経質に回避し始めたのは、このG7前後からである。そのことで、市場に円売り材料が提供される機会は激減した。さらに、国内投資家はだいぶ以前より実現の可能性はほとんどないと見ていたものの、なぜか海外投資家が気にし続けていた日銀外債購入という円売り材料も、米財務省によって今回、明確に「排除」された。

むろん、「リスクオフ」から「リスクオン」への世界的な市場の基調転換に沿う形で自然に発生し、これからも続いていく緩やかな円安ドル高の流れについては、米政府は容認する姿勢だろう。また、中国に対峙している東アジアの重要な同盟国である日本の経済が立ち直ることは米国にもメリットがあるため、アベノミクスについてオバマ政権は基本的に賛成の立場である。

しかし、口先介入的な言動による円安促進、つまり人為的かつ「スピード違反」的な円安の加速は、G7の「ルール違反」であるとして、米国はこれを決して許容しないだろう。

そうした構図のもと、安倍政権が為替相場に関する具体的な発言を封印し、日銀総裁候補にも外債購入を前面に出していない人物を選んだことで、円は為替市場の主役の座からいったん降りた感が強い。実際、5日にニューヨークダウ工業株30種平均が史上最高値を更新した際にも、「リスクオン」の方向でドル円やクロス円取引で円売りが勢いづくことにはならなかった。ドル円相場は2月25日に一時94.77円までつけたものの、95円には届かないまま、調整局面入りしている。

中長期では110円前後までの円安ドル高も視野に入れるべきだとしても、当面は88―95円程度のレンジ内の推移が続くだろうと筆者は予想している。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

コラム:イタリアと日本に共通する海外投資家の楽観=佐々木融氏
2013年 03月 5日 19:51 JST
佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長(2013年3月5日)

欧州の投資家は、イタリア総選挙の結果をどう見ているのか。筆者は先週、渦中のイタリアを含む欧州各国に出張し、その見解を聞くことができた。

非常に興味深かったのは、イタリア人とその他の国の人で選挙結果の受け止め方が違ったことである。まずアムステルダムやフランクフルトで訪問した投資家は、中道左派連合の票が伸びず、コメディアンのグリッロ氏率いる「五つ星運動」が予想外の躍進を見せた今回の選挙結果に対して楽観的だった。

「欧州中央銀行(ECB)も欧州連合(EU)も9月に予定されているドイツ総選挙を前に混乱を望んでいないはず。市場がこれ以上混乱したら早急に対応に乗り出すだろう」という声もあれば、「ドイツやフランスの当局者がすでにイタリアの当局者と接触しているらしい。イタリアも市場を混乱に陥れるようなことはしない」「ちょうどこのミーティングの前にユーロ/ドルとイタリア国債をロング(買い持ち)にしてきたところだ」と話す投資家もいた。

一方、ミラノで訪問したイタリア人投資家からは、選挙結果に対しネガティブなコメントが多く聞かれた。印象的だったポイントを要約すると、次の3点となる。

<反緊縮ではなく反旧体制>

まず、モンティ首相の緊縮財政というよりも中道左派に対する失望の声が多く聞かれた。

昨年11月と12月の予備選挙で、61歳のベルサニ氏が37歳のレンズィ氏に勝利し中道左派の首相候補となったが、その結果もあってか、中道左派連合の候補者が全体的に高齢で古い体制にどっぷり浸かった人ばかりになってしまった。このことに対する不満の声が多かったのだ。

「五つ星運動」が大幅に議席を伸ばした背景に、イタリアの旧態依然とした政治体制、汚職、腐敗に対する不満があったことは想像に難しくない。実際、今回の結果は過去から続く体制に対する反対票なのだと指摘する人は多かった。つまり、単に緊縮財政が嫌でコメディアンに投票したわけではないということである。

ちなみに、あるシニア・ファンドマネージャーは、旧体制の恩恵を受けているはずの大企業幹部でも「五つ星運動」に投票した人が多かったようだと話していた。本人も「五つ星運動」に投票したという。

また、ミラノのレストランでイタリア人の顧客、同僚と食事をしていた際、身なりから察するに企業重役風の初老紳士と婦人2人が隣の席で大激論を始めた。筆者はイタリア語が分からないので、苦笑する顧客と同僚に「どうしたのか」と聞いたら、小声で「隣の初老紳士も五つ星運動に投票したらしく、婦人2人から責められている」と教えてくれた。

<政治が変化するしかない両国>

二番目に多かったネガティブな意見は、イタリア国債利回りが一段と上昇しない限り、連立は困難というものだ。

前述したように、今回の選挙結果は単純な「反緊縮財政」だけが理由ではなく、問題の根は深い。したがって、大連立が成立するためには、イタリア国債利回りが一段と上昇し、株価が下落したり、イタリア国債がさらに格下げされるなどして、政治家が市場の動きを懸念し妥協せざるを得ないような状況に追い込まれる必要があるとの見方が多かった。

また、ミラノの投資家は一様に、イタリア国債が今後売られていった場合でも、ECBによる新たな国債購入プログラム(OMT)が発動される可能性は低いと見ていた。

OMTの発動には厳格な条件が課されているが、イタリアで今後成立する政権は不安定であり、かつ緊縮財政策に対して消極的な姿勢をとることが予想される。現時点で市場は安定していても、今後ゆっくりイタリア国債が売られ、OMTが発動しないとの思惑が強まった時に、本格的に今回の選挙結果の意味を市場が織り込み始めるかもしれないとの見方が多かった。

もっとも、同様の見方をしながらも、9月のドイツ総選挙前に市場が混乱することはドイツが望まないであろうから、結局ECBがルールを変更してOMTを発動する可能性もゼロではないと期待する声も一部に聞かれた。

このように今回の選挙結果に対する非イタリア人とイタリア人の見方の違いは、アベノミクスに対する海外投資家と日本国内投資家の反応の違いに似ている気もした。アベノミクスに反応して円を売ったり日本株を買っていたのは主に海外勢で、国内投資家の間ではいまだ懐疑的な見方が多い。

ちなみに、日本で過去30年間において3年以上首相の座にあった人は2人(中曽根康弘氏と小泉純一郎氏)しかいないが、イタリアも同じく首相が頻繁に交代する国で、やはり同様に過去30年間で3年以上首相の座にあった人は2人しかいない。

今、その日本とイタリアで政治が大きく動く兆しを見せ始めている。細かく見れば違いは多いが、金融政策と財政政策が手詰まりになってくると、やはり政治が変化するしかないということなのかもしれない。両国が政治主導で難局を乗り越え、国内投資家も先行きに自信を持ってリスクをとれるような状態に一刻も早くなることを期待したい。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。


06. 2013年3月06日 22:27:32 : N5Q7P3dtvI
「黒田日銀」は現実の壁に直面へ、残された手段多くない−水野元委員

  3月6日(ブルームバーグ):元日本銀行審議委員の水野温氏クレディ・スイス証券取締役副会長は、今月20日に誕生する日銀の新体制について「残された政策手段はそれほど多くない」とした上で、次期総裁候補の黒田東彦アジア開発銀行(ADB)総裁が「やれることは何でもやる」と表明したことについて、「今は決意表明の段階だが、実践の段階に入れば、いずれ現実の壁に直面するだろう」との見方を示した。
水野氏は6日のインタビューで、白川方明総裁の金融政策について「政治の混乱に振り回された5年間だった。民主党政権下の混乱、そしてポピュリズム(大衆迎合主義)色の強い安倍政権の誕生で、すべての責任を押し付けられてしまった」と語る。しかし、白川日銀は「リーマンショック後の金融システムの安定という点で、非常に大きな成果を出しており、その実績はすべて否定されるべきものではない」と述べた。
一方、黒田氏と岩田規久男氏の正副総裁候補について「いろいろな資産を買うべきだとか、長い国債を買うべきだという主張だが、すべての政策にはコストが伴う。コストを無視して政策を行うことに対し、政策委員会の合意形成ができるかどうか」と疑問を呈した。
黒田氏は4日の衆院での所信聴取で、白川総裁の下での金融政策について「既に決めた金融緩和では明らかに不十分」と断言するとともに、「大胆な金融緩和をすることが第一義的に必要だ」と述べ、出口政策を云々するのは時期尚早という見方を示した。
白川体制の延長線でしかない
水野氏は「黒田新体制は白川体制を否定することから始めると思うが、残された政策手段は、白川総裁が総裁になった5年前よりずっと少なく、今後やれることも、白川体制の延長線でしかないことに気づくだろう」と言明。「どんな政策にもコストとベネフィットがある。それを理解してやらないと、出口を考えずに前に進んでいくというのは、市場参加者としては心配だ」と語る。
さらに、「黒田、岩田両氏に不安を覚えるのは、理論と実践のギャップが大きいことだ。日銀は資産買い入れ等基金の残高を今年末までに101兆円、来年末までに111兆円に拡大するが、これすら、当座預金残高が90兆−100兆円に達する中で金融機関が本当に当座預金に資金を積んでくれるのか、という問題がある」と指摘。また、日銀のオペに必要な「適格担保が不足する金融機関が増えてくる可能性がある」という。
黒田氏は「日銀は既に社債や指数連動型上場投資信託(ETF)を買っているが、そうしたものを幅広く検討していく必要がある。量的にも質的にもさらなる緩和が必要だ」と語った。岩田氏は5日の所信聴取で、日銀券と日銀当座預金などの合計であるマネタリーベースを大量に増やすとともに、資産買い入れ等基金で残存3年以内に限定している長期国債について「5年以上を買っていく」と表明した。
量的拡大には限界がある
水野氏は「リスク資産をたくさん購入すれば、日銀のバランスシートをき損する可能性もある。そうなると財政資金で穴埋めしなければならないが、財務省は消極的だ。安倍首相が唱える大胆な金融政策、異次元の金融緩和をやろうとすれば、結果的にそれは財政政策に近づいていくことを意味しており、その部分の議論が欠けている」と指摘する。
さらに、「日銀がどんどん長期国債を買っていけば、流通市場から買ったとしても、事実上のマネタイゼーションと批判される可能性がある。金融政策の財政政策化がさらに進行すると、財政政策の規律が緩み、日本国債の信用力が低下し、格付けも下がってくる。バランスシート拡大政策には、自ずと量的な制約がある」と語る。
水野氏は「債券市場では日銀の存在感が大きくなり過ぎ、財政規律の弛緩に警告を発する市場機能が落ちている。バランスシート政策をギリギリまで追求していくと、最後は金融システムがおかしくなる」と指摘。最終的に行きつく先は、債券市場のバブルとその崩壊だとした上で、「出口の議論をせず、さらに踏み込んでいくのは、『行きはよいよい、帰りは怖い』という世界だ」と警告する。  
市場との対話でバーナンキに軍配
水野氏は一方で、白川日銀について「リーマンショック後の対応は海外からも高く評価されている。日本は金融システムの安定を維持でき、世界的な金融危機から日本をうまく隔離できた」と指摘。2010年10月に導入した包括的な金融緩和策についても「信用緩和政策と量的緩和政策のハイブリッドで、非常に強い枠組みだった」と評価する。
しかし、市場との対話の面で、「金融政策でできることは限られており、時間を買う政策に過ぎない」という白川総裁の哲学が前面に出過ぎて、「できることは何でもやる」という姿勢を打ち出したバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長に、結果的に軍配が上がったと指摘。「もう少しうまいやり方があったのではないかと思うが、哲学に反することはしたくないという葛藤があったのではないか」としている。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net;東京 藤岡 徹 tfujioka1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2013/03/06 16:02 JST


07. 健奘 2013年3月06日 23:09:03 : xbDm84QDmOFmc : 23OT6R6dvI
簡単に言えば良いのに。。。

ユニクロ、ニトリ、ダイソー、マクドナルド、吉野家、・・・、アマゾン、・・・が、頑張れば頑張るほど、そして、
皆が、安く、速く、そこそこの品質を良しとする限り、目標は達成できないと。


08. 2013年3月08日 23:45:28 : sDksu9jb2U
【第61回】 2013年3月7日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
目標達成のコミットメントで評価する
日総裁、副総裁候補3人の評点
 経営のトップなら、仕事に失敗したら辞めるというのは、よほどの覚悟であることに同意するだろう。雇われ日本人サラリーマンなら、絶対に考えられないので現実的でないと思うかもしれないが。

 4、5日に行われた衆院議院運営委員会での日銀人事の所信聴取において、黒田東彦総裁候補、岩田規久男副総裁候補、中曽宏副総裁候補がそれぞれ所信を述べ質疑が行われた。

ポイントは物価目標
へのコミットメント

 ポイントはインフレ目標2%の目標の達成期限と、目標を達成できない場合の責任の取り方だ。インフレ目標では、コミットメントという言い方がしばしばなされる。このコミットメントの如何によって政策効果が異なるという意見まである。

 コミットメントはなかなか日本語に訳しにくい。責任を伴う約束というところだ。日本語で責任や約束では不十分なので、そのままカタカナにしている場合が多い。約束で期限を決めて、それが達成できない場合にはどのように責任を果たすかというのが、曖昧性を好む日本人気質の中で、理解しにくいのかもしれない。しかし、海外でインフレ目標という場合、コミットメントは自然である。

 3人の所信聴取で、コミットメントについては、三者三様だった。一言で単純化して言えば、黒田氏は達成時期2年と区切ったが、達成できないときの責任に言及せず、岩田氏は、達成時期2年で達成できないときには辞任、中曽氏は、達成時期あいまいで達成できないときの責任への言及もなし。

 まず、目標を達成できない時の責任の取り方では、岩田氏は歯切れがいいが、黒田氏と中曽氏は官僚の側面が出てしまった。官僚は、組織で当職や再就職ポストを用意してくれるために、自らの都合・勝手で辞めることが許されない。そのため、辞めるかと官僚に聞くと、必ず曖昧な返事になるのだ。

官僚が天下りを受け入れるとは
なにを意味するのか

 筆者はこの点に関して、思い出がある。筆者は第一次安倍政権で官邸に勤務した。官邸が官庁内公募とはいえ、総理秘書官級の10ポストを用意し、それに応じた。実のところ、総理秘書官を官邸に送っていない省庁から、官邸に人を送りたいという要望があったので、小泉政権でも行われていた総理秘書官級の5ポストを倍増して10ポストにするように、総理になる前の安倍さんに進言していたのだが、まさか自分で行くとは思っていなかった。

 筆者は小泉政権で辞めて、大学で教鞭を執る予定であったが、その確定の2、3日前に安倍さんから第一次安倍政権でも官邸で働かないかと連絡があった。各省から送られた人に交じって面接を受けたが、その際、安倍政権と命運をともするか、つまり安倍政権後には役人を辞めるかという質問があった。筆者は、もともと小泉政権で辞めるつもりだったので、安倍政権と心中すると答えた。後で聞いた話だが、他の人も「骨を埋めるつもり」と答えた。実際に辞めたのは筆者一人で、他の人は出身省庁に戻り幹部になっている。

 筆者がどうしてそのような返答ができたかといえば、小泉政権で辞める決意をした時に、財務省からの天下り(再就職あっせん)を受けないと財務省に伝えていたからだ。財務省は最後の最後まで天下りを受けたほうがいいといってくれたが、その誘いに乗っていたら、自らの進退について財務省と相談なしでは決められなかっただろう。

 要するに、天下りを受ければ、何も心配なしで再就職できる。逆にいえば、現役をやめても役所の人事が及ぶということである。そのために、たとえ現役でなくても軽々しく辞めるといえなくなる。

 このように、天下りは役所を辞めても役所の人事の影響下に入るということである。このため、役所とつながりがあるかどうかは、すぐ自分の判断で辞められるかどうかを質問すればよくわかる。筆者は、仕事柄、官僚OBとも仕事をするが、このチェックポイントはよく利用している。

マネーストックは2年後の
インフレ率に影響

 インフレ目標2%の目標の達成期限と目標を達成できない場合の責任の取り方は、その人物の覚悟のほどを見るにも良いが、日銀の過去の政策をどのように見ているかもわかる。

 達成期限を2年と区切る黒田氏と岩田氏、曖昧な中曽氏と分かれたが、これは過去の政策について、前者は否定的、後者は肯定的であることを意味している。

 2010年11月11日と12月2日の本コラムで、マネタリーベースを増加させると、インフレ予想は高まり、その後にタイムラグがあって、需要増加になることを示した(「ようやく世界標準の政策を採った日本銀行量的緩和は物価・景気にこうやって効く」 と「シニョレッジ(通貨発行益)を見落としている量的緩和「懐疑論」の誤り 」)。

 それとほぼ同じことだが、マネーストックは2年後のインフレ率に影響があることを示そう。1969年度から2011年度を見ると、相関係数0.89となって、以下の図になる。つまり、両者の相関関係は高い。

 両者の関係式を書けば、
 インフレ率=−2.1+0.62×2年前のマネーストック増加率


 これでわかるように、インフレ目標を2年と区切ることは経済学的に合理的なことだ。いろいろとマネーの他にも要因を言いたいところだが、2年前のマネーでインフレ率の9割方が決まるのであるから、他の話をくだくだというのは単なる言い訳だろう。

 まして、年数を区切れないのは、保身でかつ経済メカニズムがわかっていないとしかいいようがない。

バブル退治の金融引き締めも
間違いだった

 日銀は、この単純な関係を認めたくない。これは、バブル退治の金融引き締めが間違っていたということと同じだからだ。

 1980年代後半のバブル景気の前に、1970年前半の狂乱物価があった。1974年のインフレ率は20%くらいだった。この原因は、1973年10月に勃発した第四次中東戦争に端を発した第一次オイルショックによるとよく説明されるが、正しくない。実は変動相場制移行に伴う国内への過剰流動性の供給によるマネーの増加が原因である。そのため、マネーの増加を平常時ペースに落とす金融引き締めをしたら、狂乱物価は収まった。

 バブル時代は、一般の財・サービスの価格の上昇率、つまりインフレ率は高くなかった。その一方、当時のバブルは株式・土地の資産市場だけで価格が上昇した。カネが資産市場だけに流れ込んだので、資金規制で潰すべきで、金融政策での対応は必要なかったわけだ。当時、筆者は大蔵省証券局にいて資産市場に目を光らせる担当者であったが、株・土地への取引規制を行い、その結果バブルは終息している。

 ところが、日銀はバブル景気と1970年代の狂乱物価を混同して、金融引き締めを行ったが、大失敗だ。さらに、日銀官僚の無謬性があるので、バブルつぶしの金融引き締めは正しい政策だということが、その後の20年間にも及ぶ金融引き締めを正当化する根拠になってしまっている。世界との比較をすれば、20年間の金融引き締めは間違っていたことが明らかである。

 バブル時代の金融引き締めが間違いだったのは、その当時インフレ目標2%を導入していたら、という仮想質問でも明らかになる。

 インフレ目標2%といっても、2%の上下1%程度は許容範囲だ。4、5%になれば引き締め、▲1、0%であれば緩和、1〜3%なら何もしないというものだ。バブル期のインフレ率は1〜3%だったので、それであれば、金融引き締めは必要なく、金融引き締めは誤った政策だ。

 インフレ目標2%、達成期限2年は、日銀にとってバブル期の金融引き締めの間違いを認めるような、受け入れたくない政策なのだ。

黒田、岩田、中曽の
3候補を採点すると

 官僚の無謬性はおそろしいものだ。政策が正しければいいが、一度間違うとその後は引き続き間違う。そうしたときには、人事でリシャッフルすべきだ。

 今回の3人の候補について、インフレ目標2%の目標の達成期限と目標を達成できない場合の責任の取り方を採点すれば、黒田氏0点、岩田氏2点、中曽氏▲2点となる。

 政策決定会合は、総裁、副総裁を含む9人の合議制だ。過半数をとらなければ、金融政策のレジームチェンジはできない。今回の3人ではたしてレジームチェンジはできるのかどうか、もう少し様子を見なければならない。とくに中曽氏はレジームチェンジできそうもない。良くも悪くも官僚的な継続性を重視するタイプだ。

 実は、黒田氏が新総裁になっても、その任期は白川現総裁の残りで4月までだ(日銀法24条)。また国会の同意人事が必要になる。今回は仮免ということで、仮免を取ってもらってすぐに臨時の政策決定会合を開いて、その結果で4月の再任を決めるという手もある。


●編集部からのお知らせ

高橋洋一さんが監修の『ニッポンの変え方おしえます』 (政策工房著、春秋社)が出版されました。ニッポンが変わらない原因は、立法過程にある。政策を実行するための根幹にある立法が官僚任せになっているがゆえに、挫折し続けてきた「政治主導」。霞が関の表も裏も知りつくした高橋さんが、「本当の政治主導」を目指すための立法のあり方を伝授します。


09. 2013年3月09日 11:30:27 : NxInFSfh3g

コラム:白から黒の時代へ、日銀異次元緩和の壁=熊野英生氏
2013年 03月 8日 11:55 JST
熊野英生 第一生命経済研究所 首席エコノミスト(2013年3月8日)

日銀総裁の国会同意人事は、野党の反対が増えることなく、白川方明氏が黒田東彦氏へと交代する公算が高まっている。そうなると、リフレ拒否からリフレ推進へと、あたかも「白」が「黒」へと変わることになる。

むろん、正確に言えば、日銀は2013年1月の金融政策決定会合で、それまで拒否してきたインフレ目標、無制限の金融緩和を受け入れた。その時点で、白川体制は「白いものを黒だ」というような政策転換を決めてリフレ推進に舵を切ったとも言える。

では、黒田氏の下での金融政策はどのような仕切り直しが行われるのだろうか。金融市場で言われているのは、4月3―4日の初回定例会合で、日銀当座預金の付利撤廃(0.1%を0%に)、資産買入基金の国債購入年限の長期化(3年以内から5年超へ)、14年初からのオープンエンドの買い入れ開始を前倒し、といった内容である。

<黒田氏=バランスシート緩和か>

ただ、筆者の予想では、それだけではおさまらないとみる。前述の三項目を実行したとしても、それで「次元の違う金融緩和」とは胸を張って言えないだろう。

「次元を変える」というニュアンスをくみとると、白川総裁の推進した「包括緩和政策」は止めることになるだろう。歴代総裁は、速水氏=ゼロ金利政策、福井氏=量的緩和政策、白川氏=包括緩和政策、という政策パッケージを導入した。黒田氏もまた、独自の「○○緩和政策」なるものを導入するだろう。

その「○○緩和政策」の中身を大胆予想すると、「バランスシート緩和」という枠組みになるのではないか。もしも日銀がマネタリーベースを積極的に拡大していこうとすれば、出島のように、銀行券ルールを適用外にするために創設した資産買入基金を操作するのではなく、バランスシート全体を使って資金供給をしていくだろう。「バランスシート緩和」の方がすっきりするという考え方もできる。

もっとも、日銀のバランスシート全体で緩和を推進するのならば、(1)輪番オペの月1.8兆円の買い入れと資産買入基金の取引の統合、(2)対政府取引として年1回決めている国債借り換え・償還の扱い、(3)銀行券ルールに替わる財政ファイナンスの歯止め、を明確にしなくてはならない。これらは複雑な仕切り直しになる。

<「やれることは何でもやる」の真意は>

新体制が推進していくと予想されるのは、国債の買い入れである。すでに13年は買入基金で長期国債20兆円の残高増、短期国債は15兆円の残高増を決めている。このほか、輪番オペで長期国債を13年中に21.6兆円買い増すことになる。

この金額をさらに上積みするのが新体制の金融緩和になるだろうと多くの人が予想している(筆者もそう予想する)。ただし問題は、青天井の国債購入はできないということだ。そもそも普通国債発行残高は有限だから、日銀の国債買い取りは無限とはいかないのだ。

日銀のバランスシートにおける国債保有残高は122兆円である(13年2月末)。12年末の普通国債残高691兆円に対して、17.6%のシェアを占める。仮に無制限の金融緩和の方針の下、13年の早い時期から残高を年間100兆円ずつ増やす政策を行ったとすれば、14年末に40%前後、15年末には発行残高の50%前後に達することになる。もちろん、政府の財政規律がルーズになって国債発行が激増すれば、このシェアは低下するが、財政ファイナンスを野放図に進めるというシナリオは現実的な姿ではない。

買い入れ対象に関して、黒田氏は、国会での所信表明で「国債であればより長期のもの、すでに社債やETF(指数連動型上場投資信託)を買っているが、そうしたものを幅広く検討していく」と述べている。国債以外の資産買い取りは、外債、事業債、貸出債権、株式などが考えられる。社債と株式などに投資対象を広げていく可能性は十分にある。

ただし、外債は選択肢から外れたとみるべきだろう。2月にモスクワで開かれた20カ国・地域(G20)会合にみられるように、各国から直接的な為替介入だとして指弾されかねないからだ。特に財務官を経験した黒田氏であれば、そのリスクは重々承知しているだろう。黒田氏は「やれることは何でもやる」と述べているが、これはやれないことはやらないことの裏返しでもある。

そうなると、買い入れ対象は、事業債が約50兆円、国内銀行貸出が約400兆円、株式時価総額300―350兆円の範囲内である。

<無制限買い入れは2―3年以内に限界に直面か>

問題は、こうしたリスク資産の購入に日銀が動いたとき、引当金の積み増しが必要になることだ。政府への納付金の範囲(数千億円)を上回るときは、欠損金の補填について予算措置を講じることになろう。もしも政府から財政資金のバックアップがあれば、黒田氏がいう通り、かなり広範囲のリスク資産を日銀が購入できることになる。

まとめると、今後、金融政策が「黒の時代」になれば、いずれ国債買い入れ規模が膨らみ、国債発行残高に占める日銀の存在感が大きくなりすぎることが問題視されるだろう。また、リスク資産を購入して資産価格に影響を及ぼそうとすると、財政資金のバックアップが必要になる。この点も、どこかの時点で政府が節度を要請するに違いない。

極端なかたちでの資産買い入れを新体制が実施するにしても、2―3年以内にはその手法は限界に達すると予想する。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。


 

 

 
コラム:G20の「最も危険な断層」は日中関係
2013年 03月 8日 17:01 JST
国際政治学者イアン・ブレマー

G20は、いわば仲の悪い家族だ。主要国首脳会議(G8)の参加国、欧州連合(EU)、新興経済国11カ国からなる同グループは、金融危機の切迫感が後退する中、メンバー間の協力関係も薄れてしまっている。

同じような考え方を共有するG7とは違い、G20は本当の意味で国際的な力の均衡と、各国の緊張関係を示す場所だ。では、G20の「最も危険な断層」はどこにあるのか。

以下に記すのは、G20の中で問題が悪化している二国関係のワースト10ランキングだ。うちロシアは4つ、中国は3つに入っている。また、米国、日本、英国、EUも2つにランクインしている。

1.中国─日本

歴史的な問題も抱えているが、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題が過熱する中、両国は過去数十年で最も激しい議論の応酬を繰り広げており、新たな地政学的な緊張や衝突の危険性にもつながっている。世界第2位と3位の経済大国による対立は、世界にも大きな影響を及ぼす。

2.ロシア─米国

米国とロシアの関係は「不信」に特徴付けられる。最近ではシリアの内戦や欧州のミサイル防衛などのように、常に外交問題で衝突を繰り返している。また、米国が人権侵害に関与したロシア人に制裁を科す法律を成立させたのに対し、ロシアが米国人による養子縁組を禁じたように、国内問題をめぐっても対立している。

3.アルゼンチン─英国

アルゼンチン政府はこのところ、英領フォークランド(アルゼンチン名・マルビナス)諸島の領有権をめぐり、愛国心をあおろうと論調を強めている。一方、英国側は自国の領土であると主張し続けている。緊張関係は、近く行われるフォークランドの帰属を問う住民投票まで続くだろう。

4.中国─インド

長きにわたる領土紛争を抱える両国は、互いがアジアで経済的・戦略的な影響力を拡大することを警戒している。両国の大きさと成長軌道が衝突につながる可能性もある。例えば、中国とインドの人口は世界全体の37%を占めるが、淡水は世界の10.8%しか持たない。ムンバイと北京・上海間にはいまだに直行便が就航していない。

5.中国─米国

進行中の経済摩擦に加え、中国の新指導部は、米国に強硬な姿勢を強めるよう求める内圧に直面するだろう。一方、米国が打ち出したアジア重視の政策転換は、その意図をめぐり中国側の疑念を増幅させている。最近明らかになった中国による米企業へのサイバー攻撃は、両国関係をさらに冷え込ませた。

6.EU─ロシア

EUとロシアは、双方がそれぞれに正統な影響力があると考える対東欧政策で緊張関係にあるほか、このところはロシアからEUに送られる天然ガスの価格や安全な供給体制、またロシアの人権政策をめぐりEUが採択した非難決議でも対立が見られる。

7.日本─韓国

日本と韓国はともに米国の強力な同盟国だが、両国間には竹島(韓国名・独島)の領有権をめぐる問題など、歴史的な不満が根強く残っている。

8.ロシア─サウジアラビア

この2つの国家は、シリア内戦への対処をめぐり対立している。また、数カ月以内に原油価格をめぐって衝突する可能性もある。ただ、同じように難しい関係にある他の国同士に比べ、外交的にうまく立ち回る傾向にある。

9.ロシア─英国

ロシアと英国はこの数年、さまざまな外交問題を抱えている。ロシア政府は英国で起きた殺人事件に関与したとされるロシア人の引き渡しを拒否しており、英議会はロシアの人権侵害にたびたび懸念を示している。また、シリアの内戦に国際社会がどう対処すべきかという問題でも意見が対立している。

10.EU─トルコ

トルコは公にはEUへの加盟手続きを継続しているが、経済的・政治的な関係を求めてアジアに目を向けているとの見方がEU内には高まっている。EU内の多くの政治家がトルコのEU加盟に反対し、トルコ政府はそれをEUのダブルスタンダードだと不満を募らせている。

(7日 ロイター)

*ランキングは、米コンサルティング会社ユーラシアグループのアナリストに調査して作成。基本的には(1)敵対と紛争のレベル、(2)二国関係の国際的な重要性の2項目を評価した。

*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。


 


 


 


コラム:家計は「ドル100円」を許容できるか=村田雅志氏
2013年 03月 7日 14:58

ドルが一時96円台後半、予想上回る米雇用統計受け
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村田雅志 ブラウン・ブラザーズ・ハリマン シニア通貨ストラテジスト(2013年3月7日)

安倍晋三自民党政権の支持率が右肩上がりで上昇している。各種報道機関の調査によると、政権発足直後6割弱だった支持率は、3月に入り7割近くに達した。いわゆるアベノミクスで円安・株高が進展したことが評価されたとの見方が多く、7月に参院選を控える自民党としては現在の高い支持率をこのまま維持したいところだろう。

しかし、最近では一部メディアが円安による家計の負担増を指摘し始めている。この傾向がさらに強まるようだと、せっかく高まった支持率が低下する恐れがある。政府・与党関係者としては、そろそろ円安の進展に歯止めをかけようと考えても不思議ではなく、筆者はこうした思惑がドル円の上値をより重くする材料になるだろうと考えている。

自民党の石破茂幹事長は1月16日、経団連幹部との会談の席上で農業では燃料・肥料・餌代などが高騰するため産業によっては円安が好ましくないところもあるとの考えを示した。石破氏は昨年末に適度な為替水準として「1ドル=85―90円くらい」と述べている。いわゆる「石破レンジ」と呼ばれる目安だ。すでにドル円はこのレンジの上限を突破しているため、考えが変わっていなければ、同氏はさらなる円安を容認しないと考えることも可能となる。

<賃上げの連鎖は期待薄>

実際、参院選を控えた安倍政権にとって、これ以上の円安は得策ではないかもしれない。以前から言われていることだが、円安進展は短期的には確かに一般家庭の生活を苦しめることになる。日本は穀物やエネルギー源といった一般生活に不可欠な物資の多くを輸入に頼るため、輸入物価の上昇は家計の負担増大に直結する。一方、輸出物価の上昇は輸出企業に恩恵を施すものの、家計の所得をすぐさま押し上げるわけではない。

農林水産省は、製粉業者に対する輸入小麦の政府売り渡し価格を4月1日から平均9.7%引き上げると発表した。引き上げは昨年10月の3%に続き2回連続となる。また資源エネルギー庁は、2月25日時点のレギュラーガソリンの店頭価格(全国平均)が1リットル当たり156.2円と12週連続で値上がりしたと発表した。12週前の昨年11月26日に記録した145.5円からみると値上がり率は7.4%となる。各種報道は価格上昇の背景として円安の進展を紹介している。

円は野田佳彦前首相が衆議院の解散を表明した昨年11月14日から今年2月末までに対ドルで13%も下落。1月の円建ての輸入物価は前年比プラス10.8%と前月の同プラス3.5%から急加速しているが、2月の輸入物価はさらに加速する可能性もある。小麦やガソリンに限らず輸入品価格は円安によって押し上げられている。

古典的な経済学を拠り所にすれば、自国通貨安は輸出企業の採算性も向上させるはずだ。中長期的には輸出企業の利益拡大につながるため、国全体でみれば中立、場合によっては国富の拡大を期待する見方もあるのかもしれない。しかし、1月の輸出物価は前年比プラス9.1%と輸入物価の上昇ペースに追いついていない。日本の場合、輸入における円建て取引の比率は23%であるのに対し、輸出の円建て比率は38%であるため、輸入物価の方が輸出物価よりも円安によって上昇しやすい。このため、輸入品から国産品への代替シフトが生じない限り、家計の負担増を輸出企業の利益増で埋め合わせることはできない。いわゆる交易条件の悪化による国富の喪失である。

円安による輸出採算性の上昇で輸出企業が賃金を引き上げるとの声もあるようだが、大きな期待は持ちにくい。輸出企業に限らず日本企業の多くは競争力確保を目的に賃金の引き上げに消極的な姿勢を続けたままだ。たとえば、ドル円が100円台から120円に上昇した2005年から07年の2年間において日本の雇用者報酬は1.7%しか増加していない。

安倍首相は経団連の米倉弘昌会長ら経済3団体のトップに、労働者の賃金引き上げへの協力を求めた。また甘利明経済再生担当相は、コンビニエンスストア大手2社が賃上げを表明したことを受け、売上高3位の企業名を具体的に述べ、賃上げの動きが続くことを期待する考えを示した。両者の発言は、持続的な景気拡大を願っただけでなく、円安メリットが家計に波及しないことを懸念した表れと考えることもできる。

<ビッグマック指数では円はすでに20%割安>

もちろん、円安は家計にとって悪いことばかりではない。11月以降の円安の進展を受けて日本株は上昇。過去3カ月半の日経平均株価の上昇率は35%を超える。この株高を背景に消費者マインドも急改善。内閣府が発表する消費者態度指数は昨年12月の39.2から翌月の1月には43.3と07年9月以来の高水準に上昇している。

内閣官房参与の浜田宏一エール大学名誉教授はドル円が95―100円なら問題ないとする「浜田シーリング」を示したほか、甘利経済再生担当相はドル円が3ケタ(100円)を過ぎると輸入価格の上昇が国民生活にのしかかってくるとした「甘利フロアー」を示している。両者の目安によれば、日本の家計は「1ドル100円」程度までなら円安を許容するといえる。

英エコノミスト誌が発表した最新のビッグマック指数によると、中心値となる米国のビッグマックの価格が4.37ドルなのに対し日本は3.51ドル。本指数は、世界企業のマクドナルドが販売するビッグマックは、本来はどこでも同じ値段になるという考え方(購買力平価)に基づいており、円はドルに対し約20%(=3.51÷4.37)も割安とされている。07年にビッグマック指数よりも30%ほど円安が進展(現在のドル円では104.6円程度まで上昇)したこともあるが、当時は今以上に円安による家計の負担増が話題となった。選挙を控えた政府・与党関係者が、円安による負担感をここまで高めてまで円安を望むことはないだろう。

なお、ドル円が100円の場合、ビッグマック指数でみた円は27%程度の割安となる。一方でユーロは約12%の割高、ブラジルレアルに至っては約29%も割高の結果となった。諸外国からの圧力も考えると、日本政府・与党関係者が現在の水準からさらに円安追求姿勢を見せることは対外的にも難しいといえる。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニア通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。

 


10. 2013年3月09日 13:02:05 : NxInFSfh3g
コラム:英政府の経済政策は現実離れ
2013年 03月 8日 12:26 JST
By Edward Hadas

[ロンドン 7日 ロイター BREAKINGVIEWS] 言行が一致しない時には大抵、野心的過ぎる約束に問題があるものだ。英国の経済政策論議は齟齬(そご)を来している。政府による財政・金融政策の説明が現実離れしているのだ。

キャメロン首相は頻繁に財政緊縮策への決意を口にする。最近では弱い国内総生産(GDP)統計が出て、政権内の批判派からもっと景気刺激的な政策を求める声が挙がった際に口にした。対GDP比率で見た英国の2012年の財政赤字は、欧州連合(EU)内で4番目の大きさだ。欧州委員会の予想によると、スペイン、アイルランド、ギリシャの各政府が緊縮計画を守る一方、3カ国と比較して緊縮度の低い英国で財政赤字が予想通り拡大すれば、英国は今年、EU内で最悪に躍り出る。

オズボーン財務相が20日に公表する予算は、金融危機前の英政府の基準など、幾つかの基準に照らせば緊縮的かもしれない。しかし財政収支の均衡を理論上約束している国としては、予想される財政赤字額は著しく大きい。

金融政策に目を転じると、オズボーン財務相はより積極的な緩和を全面的に支持している。カナダ中央銀行のカーニー総裁をイングランド銀行(英中央銀行、BOE)の次期総裁に選んだのは、カーニー氏がよりインフレ許容的な新たな目標の採用など大胆な政策に前向きだからだ、との憶測を打ち消そうともしない。しかし金融政策においても英国は、量的緩和策の規模で既に世界の最前列を走っている。

イングランド銀が既に大規模な資金を供給していることに照らせば、オズボーン財務相とカーニー氏が支持しそうな政策案は画期的というより微増に映る。生産や失業への影響は限られるだろう。

政府の非現実的な物言いが政策論議を混乱させている。偽りの財政緊縮策と見せかけの革新的金融政策を約束することは、現実の課題から目をそむけることだ。重苦しい債務負担を減らし、数多くの構造的弱点に対処することこそが真の課題だ。大半のエコノミストは債務負担の軽減には数年を、構造問題への対処には数十年を要するとみている。しかし政府が現実を受け入れるならば、将来に向けてより良い計画を見出せる可能性は高まるだろう。


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